第七話 「あなたの街を宣伝!」
五月二十八日、午前十一時五十八分。
そろそろその時がやって来る。
俺もおやっさんも神姫達も、そして店の常連達も緊張した面持ちでテレビ画面を見守っている。
ただ、健五とクレアだけが状況を飲み込めていないようだった。
「あの、輝さん、どうしたの?」
「しっ。静かにしてろ」
「?」
しばらくして、時計の針が十一時五十九分を指す。
同時に画面が、CMから別の物へ変わった。
そろそろその時がやって来る。
俺もおやっさんも神姫達も、そして店の常連達も緊張した面持ちでテレビ画面を見守っている。
ただ、健五とクレアだけが状況を飲み込めていないようだった。
「あの、輝さん、どうしたの?」
「しっ。静かにしてろ」
「?」
しばらくして、時計の針が十一時五十九分を指す。
同時に画面が、CMから別の物へ変わった。
『この後はmotto!サーチング!』
『今週のグルメコーナーは下町特集! おしゃれなバーから、なんと神姫がいる食堂まで!?』
「「おおーっ!」」
店の中が沸き返る。
「って、ええ!? 今、このお店映ったよね!?」
健五が驚いてこちらを見る。無理も無いだろう。
「どうして!?」
「いや、前に取材されたんだよ。三ヶ月くらい前に」
「ええーっ!?なんで!?」
「いいから見てろって。ほら」
テレビ画面の中では、司会のお姉さんがしゃべり出した。
店の中が沸き返る。
「って、ええ!? 今、このお店映ったよね!?」
健五が驚いてこちらを見る。無理も無いだろう。
「どうして!?」
「いや、前に取材されたんだよ。三ヶ月くらい前に」
「ええーっ!?なんで!?」
「いいから見てろって。ほら」
テレビ画面の中では、司会のお姉さんがしゃべり出した。
『こんにちは~。Mottto!サーチング!の時間ですよ。今週のゲストは、Fun-C’sのお二人で~す!』
『いえーい! キャンディです☆』
『カシスで~っす! ヨロシクじゃん!』
『お二人とも今週月曜に新曲をリリースしたということで・・・』
『いえーい! キャンディです☆』
『カシスで~っす! ヨロシクじゃん!』
『お二人とも今週月曜に新曲をリリースしたということで・・・』
「お、あの二人って前に来たな」
「輝さん、取材って!? ねえねえ」
「んだよしつけーな。前にウチを取材したいってオファーがあったんだよ。いいから静かに見てろ。みんな楽しみにしてたんだ」
興奮する健五をなんとかなだめた。手の掛かるヤツだ。クレアは目ぇキラキラさせてじっと見てるってのに。
まあでも、前の水野さんの話を聞く限り、仕方の無い事かとも思う。
そういえば、取材の話が来たときはまだこいつに会ってなかったんだよな。
「輝さん、取材って!? ねえねえ」
「んだよしつけーな。前にウチを取材したいってオファーがあったんだよ。いいから静かに見てろ。みんな楽しみにしてたんだ」
興奮する健五をなんとかなだめた。手の掛かるヤツだ。クレアは目ぇキラキラさせてじっと見てるってのに。
まあでも、前の水野さんの話を聞く限り、仕方の無い事かとも思う。
そういえば、取材の話が来たときはまだこいつに会ってなかったんだよな。
※※※
収録が始まる直前、雅は緊張しきっていた。
「……おい雅、硬いよお前」
「う、うっさいわね。仕方ないでしょ、初めてなんだから」
「まったく雅さんは心配性ですねえ。そんな思考じゃそのうちお肌ががびがびになりますよ」
「いつまでも胸が成長しないのに偉そうに言わないでくれる」
「やる気ですか? 赤だるま」
「かかって来なさいよ、貧乳」
「元気じゃねーか、お前」
っていうかお前ら神姫だろ。成長も老化もしねーよ。
なんて考えていると、カメラさんと今回のリポーターのお姉さん方が来た。
「お待たせしました。そろそろ撮影の方に入りたいと思いますので」
「あ、そうっすか。じゃあよろしくお願いします」
さて、撮影だ。上手くいってくれよ。
なんて考えていたのだが。
「……おい雅、硬いよお前」
「う、うっさいわね。仕方ないでしょ、初めてなんだから」
「まったく雅さんは心配性ですねえ。そんな思考じゃそのうちお肌ががびがびになりますよ」
「いつまでも胸が成長しないのに偉そうに言わないでくれる」
「やる気ですか? 赤だるま」
「かかって来なさいよ、貧乳」
「元気じゃねーか、お前」
っていうかお前ら神姫だろ。成長も老化もしねーよ。
なんて考えていると、カメラさんと今回のリポーターのお姉さん方が来た。
「お待たせしました。そろそろ撮影の方に入りたいと思いますので」
「あ、そうっすか。じゃあよろしくお願いします」
さて、撮影だ。上手くいってくれよ。
なんて考えていたのだが。
「はい、続いて紹介するのはこちら、東京は桐皮町にあります明石食堂です」
リポーターのお姉さんがそう言ったあと、カメラさんが二人の神姫にズームする。
「こちらのお店はなんと神姫がいらっしゃるということなんですよ~。楽しみだね、二人とも」
「はーい! 楽しみですっ☆」
「わくわくするじゃん!」
聞くところによると、あのシュメッターリングとベイビーラズは二人一組のアイドルユニットなんだとか。今は神姫もアイドルをやる時代らしい。
「じゃあ早速、お店の中を紹介していきましょう」
お姉さんが神姫二人組を引き連れてのれんをくぐる。
すると、入ってきたお姉さん達とカメラさんに向かって、メリーと雅が挨拶をする、という算段だったのだが。
リポーターのお姉さんがそう言ったあと、カメラさんが二人の神姫にズームする。
「こちらのお店はなんと神姫がいらっしゃるということなんですよ~。楽しみだね、二人とも」
「はーい! 楽しみですっ☆」
「わくわくするじゃん!」
聞くところによると、あのシュメッターリングとベイビーラズは二人一組のアイドルユニットなんだとか。今は神姫もアイドルをやる時代らしい。
「じゃあ早速、お店の中を紹介していきましょう」
お姉さんが神姫二人組を引き連れてのれんをくぐる。
すると、入ってきたお姉さん達とカメラさんに向かって、メリーと雅が挨拶をする、という算段だったのだが。
「いっ、いらっしゃいませっ!」
「い、いらあっしゃいませええ!」
「い、いらあっしゃいませええ!」
俺はまたずっこけてしまった。お姉さん達とカメラさんが苦笑する。
「雅! お前これで三度目だぞ! 何だその変顔は!」
「だって~! カメラなんて慣れてないわよ~!」
さっきから二人が緊張しっぱなしで、まともに撮影が進まないのだ。
「ま、まったく雅さんは、本当に心配性です、ね、あはははは」
「そういうメリーも! なんでガチガチなんだよ! いつも接客やってるだろ!」
「だ、だってその、いつも来るのが知ってる方ばっかりで、テレビなんて初めてですから、その」
あっちゃあ。普段常連ばっかなのが裏目に出た。
「頼むよお前ら。テレビで放映したらこんなもんじゃないぞ。知らないトコからも人が来んだからな」
っていうかこういうサービス業はコミュニケーションとれなきゃやってけないんじゃなかろうか。
「じゃあ、ちょっと落ち着いてから再開しましょうか」
スタッフさん達のありがたい言葉に甘えて、少し休憩することにした。
「すみません、撮影止めちゃって」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
話をしていると、おやっさんが茶を淹れてくれた。
「はい、どうぞ」
「あら、ありがとうございます」
「二人とも、うまくやってるかい?」
「いや、それが全然ダメで。どうすりゃいいんですかね」
「ふむ。……二人とも」
雅とメリーが顔を上げる。
「何ですか? おじさま」
「ごめんなさい京介さん」
「いやいや、謝らないで。それより、外を見てご覧よ」
「……?」
二人とスタッフさん達を連れて外に出てみる。
すると。
「雅! お前これで三度目だぞ! 何だその変顔は!」
「だって~! カメラなんて慣れてないわよ~!」
さっきから二人が緊張しっぱなしで、まともに撮影が進まないのだ。
「ま、まったく雅さんは、本当に心配性です、ね、あはははは」
「そういうメリーも! なんでガチガチなんだよ! いつも接客やってるだろ!」
「だ、だってその、いつも来るのが知ってる方ばっかりで、テレビなんて初めてですから、その」
あっちゃあ。普段常連ばっかなのが裏目に出た。
「頼むよお前ら。テレビで放映したらこんなもんじゃないぞ。知らないトコからも人が来んだからな」
っていうかこういうサービス業はコミュニケーションとれなきゃやってけないんじゃなかろうか。
「じゃあ、ちょっと落ち着いてから再開しましょうか」
スタッフさん達のありがたい言葉に甘えて、少し休憩することにした。
「すみません、撮影止めちゃって」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
話をしていると、おやっさんが茶を淹れてくれた。
「はい、どうぞ」
「あら、ありがとうございます」
「二人とも、うまくやってるかい?」
「いや、それが全然ダメで。どうすりゃいいんですかね」
「ふむ。……二人とも」
雅とメリーが顔を上げる。
「何ですか? おじさま」
「ごめんなさい京介さん」
「いやいや、謝らないで。それより、外を見てご覧よ」
「……?」
二人とスタッフさん達を連れて外に出てみる。
すると。
「おお、雅ちゃん! メリーちゃんも! 頑張れよう二人とも!」
「緊張しなくていいんだよ!」
「あたしらがついてるからね!」
「緊張しなくていいんだよ!」
「あたしらがついてるからね!」
「あ……」
外には、商店街の人々が駆けつけていた。
「皆さん……」
メリーも雅もたまげた様子だった。
「どうして?」
「どうしてって、決まってるさね」
そう言ったのは、豆腐屋の千絵おばさんだった。
「あんたらはうちの商店街の仲間なんだ。その仲間が頑張ってるなら、応援するのが筋ってもんだろ?」
外には、商店街の人々が駆けつけていた。
「皆さん……」
メリーも雅もたまげた様子だった。
「どうして?」
「どうしてって、決まってるさね」
そう言ったのは、豆腐屋の千絵おばさんだった。
「あんたらはうちの商店街の仲間なんだ。その仲間が頑張ってるなら、応援するのが筋ってもんだろ?」
「だってよ。こりゃあ頑張らねえといけねえなあ、おめーら?」
俺は自然に笑みがこぼれた。
「……はい」
「……っく、……ふん、恥ずかしいことしてくれちゃって」
二人は手の甲で目尻をぬぐいながら、それでも笑顔を見せる。
「おーっ! 輝ちゃん、女の子泣かせたなぁ!?」
「罪な男だねえ、輝ちゃん!」
「う、うっせーっすよ! ってかめぐみさんも後ろで笑ってないで下さいよ!」
そんなやりとりを交わしながら、俺は思う。
ここは本当に温かい所だと。
心なしか、スタッフさん達も笑顔になったようだった。
「……そうだわ。ディレクターさん、ちょっと……」
俺は自然に笑みがこぼれた。
「……はい」
「……っく、……ふん、恥ずかしいことしてくれちゃって」
二人は手の甲で目尻をぬぐいながら、それでも笑顔を見せる。
「おーっ! 輝ちゃん、女の子泣かせたなぁ!?」
「罪な男だねえ、輝ちゃん!」
「う、うっせーっすよ! ってかめぐみさんも後ろで笑ってないで下さいよ!」
そんなやりとりを交わしながら、俺は思う。
ここは本当に温かい所だと。
心なしか、スタッフさん達も笑顔になったようだった。
「……そうだわ。ディレクターさん、ちょっと……」
※※※
『……はい、続いての紹介はこちら、東京は桐皮町にあります明石食堂です』
『下町の面影を残すこの町の特徴は、ずばり温かさ。町を歩いていると、あちこちで元気な声がします』
リポーターのお姉さんとナレーターが交互に説明した後、のれんをくぐったお姉さん方に雅達がお辞儀する。大分緊張は消えているな。
「おっ、来ました来ました!」
「それに、さっきの源治さんの店じゃないか!?」
「あ、ホントっすね。おい健五、さっき映った店ってお前と最初に会ったトコだぞ」
「ああ、そういえば」
「思えばえらいこっちゃだったよなあ。まさか中学生でひった……」
「わーっ! わーっ! 言わないでよ!」
「分かった分かった。言わねえから騒ぐな」
さっき流れた町の映像は、お姉さんがスタッフさんに言って撮ってもらったらしい。無茶な事をすると思ったが、町の人々の思いが伝わったのだろうか。
「おっ、来ました来ました!」
「それに、さっきの源治さんの店じゃないか!?」
「あ、ホントっすね。おい健五、さっき映った店ってお前と最初に会ったトコだぞ」
「ああ、そういえば」
「思えばえらいこっちゃだったよなあ。まさか中学生でひった……」
「わーっ! わーっ! 言わないでよ!」
「分かった分かった。言わねえから騒ぐな」
さっき流れた町の映像は、お姉さんがスタッフさんに言って撮ってもらったらしい。無茶な事をすると思ったが、町の人々の思いが伝わったのだろうか。
『こちらのお店はなんと神姫がいらっしゃるということなんですよ~。楽しみだね、二人とも』
『うんうん☆どんな所か楽しみ☆だよね!』
『それじゃ早速突撃じゃ~ん!』
『うんうん☆どんな所か楽しみ☆だよね!』
『それじゃ早速突撃じゃ~ん!』
『いらっしゃいませ!』
『い、いらっしゃいませ!』
『このお店の特徴は、神姫がお料理をしたり、ウェイトレスをしているというところなんですね~』
『い、いらっしゃいませ!』
『このお店の特徴は、神姫がお料理をしたり、ウェイトレスをしているというところなんですね~』
テレビ画面の中で二人がお辞儀をした。
「おおっ、来ました来ました!」
「きゃー! きゃー! あたしなんて顔してんの~!」
「ははは……」
「おおっ、来ました来ました!」
「きゃー! きゃー! あたしなんて顔してんの~!」
「ははは……」
『……なるほど~、テーブルにはこのように階段が設けてあるんですね』
『はい、こうすれば神姫も楽に登れますんで』
「やべ、俺もけっこう緊張してんな……」
『じゃあそろそろ、お料理の紹介に移るよ☆!』
『はい、こうすれば神姫も楽に登れますんで』
「やべ、俺もけっこう緊張してんな……」
『じゃあそろそろ、お料理の紹介に移るよ☆!』
『お待たせしました。カツカレーです』
『こちらの名物は、ご主人自ら選んだ有機野菜が溶け込んだカツカレーです』
『おいしそうじゃーん!』
「マスターが出たぞ!」
「はは、やっぱり少し恥ずかしいですね」
『こちらの名物は、ご主人自ら選んだ有機野菜が溶け込んだカツカレーです』
『おいしそうじゃーん!』
「マスターが出たぞ!」
「はは、やっぱり少し恥ずかしいですね」
一緒に笑い合ってくれる人たちがいる。
それはとてもありがたいことなんだと、俺は思う。
『こちら明石食堂はJR中央線桐皮町駅から徒歩八分!』
「いやあ、嬉しいねえ!これでこの商店街も有名になるってもんだ」
「まったく、マスター達は町の希望だよ」
「ちょいとあんたら、儲けのことばかり考えてんじゃないよ!」
「うへえ、止めてくれ千絵さん」
「わははは……」
それはとてもありがたいことなんだと、俺は思う。
『こちら明石食堂はJR中央線桐皮町駅から徒歩八分!』
「いやあ、嬉しいねえ!これでこの商店街も有名になるってもんだ」
「まったく、マスター達は町の希望だよ」
「ちょいとあんたら、儲けのことばかり考えてんじゃないよ!」
「うへえ、止めてくれ千絵さん」
「わははは……」
「なあ健五」
何ともなしに、俺は聞いていた。
「何?」
「なんか困った事があったら、遠慮しねーで来いよ。ここは……まあ、なんだ、お前の居場所でもあるからな」
「うん? ……うん」
何を言っているのか自分でも分からないが、健五はもっと理解していないようだった。
まあでも、この町が、この食堂が、こいつの悩みを和らげることが出来たら、それでいい。
密かに、俺はそう思った。
何ともなしに、俺は聞いていた。
「何?」
「なんか困った事があったら、遠慮しねーで来いよ。ここは……まあ、なんだ、お前の居場所でもあるからな」
「うん? ……うん」
何を言っているのか自分でも分からないが、健五はもっと理解していないようだった。
まあでも、この町が、この食堂が、こいつの悩みを和らげることが出来たら、それでいい。
密かに、俺はそう思った。
※※※
所変わって、ある洋食店の店内。
「……フム……明石食堂……デスか。フフ」
その男は、不敵に微笑む。
「一度、訪れてみる必要がありそうデスね」
「……フム……明石食堂……デスか。フフ」
その男は、不敵に微笑む。
「一度、訪れてみる必要がありそうデスね」
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