「どう? 仁さん」
とある建物のとある一室。華凛はパソコンを横から覗きながら言った。パソコンを操作している青年は眼鏡を直しながら呟く。
「思った通り、改造神姫ですね。それも、重度の」
青年はそれだけ言って、再びキーボードを打ち始める。
私は、クレイドルで眠る神姫を見た。武装は全て外され、静かに眼を瞑っている。その安らかな寝顔を見ていると、さっきまでこちらに銃口を向けてきたとは思えない。
私は、クレイドルで眠る神姫を見た。武装は全て外され、静かに眼を瞑っている。その安らかな寝顔を見ていると、さっきまでこちらに銃口を向けてきたとは思えない。
「店長、こっちの武器も違法改造が施されてます」
そう言って改造神姫の武器の入ったダンボールを抱えて現れたのは、別の神姫だった。たしか、アーンヴァルMk.2型。
「そうですか。ご苦労様です、エリーゼ」
「いえ、そこまでのことは……」
「いえいえ、いつも助かってます」
「もう、店長ってば大袈裟ですよ~」
「いえ、そこまでのことは……」
「いえいえ、いつも助かってます」
「もう、店長ってば大袈裟ですよ~」
エリーゼと呼ばれた神姫と青年は、仲良さげに会話している。とても微笑ましい。
することのない私は、椅子に座ってここに来た経緯を思い出した。
することのない私は、椅子に座ってここに来た経緯を思い出した。
「止まった? 壊れた? どっちでもいいけど」
「エネルギー不足だって」
「エネルギー不足だって」
神姫が止まってしばらく経ち、私達は神姫を調べた。虚ろに開かれた瞳は、何も映さない。口は半開きで、まったく動かない。刑事ドラマで出てくる死体と似たような感じだ。
頬を伝う涙が、妙になまなましい。
頬を伝う涙が、妙になまなましい。
「って、華凛。何してるの?」
見れば華凛は携帯を取りだし、どこかへ電話しようとしていた。
「う~ん、ちょっと待ってて」
携帯を耳に当てる華凛。まさか、警察にでも連絡しているのだろうか?
「あ、仁さん? あたしよ。うん、ちょっと興味深い物を見つけてね?」
違うようだ。警察相手にこんなにフレンドリーに会話出来る人はいないだろう。いや、いるかもしれないが、それは華凛ではないはずだ。
「ううん、こっちから行くからいいわ。うん、それじゃ」
ピッと通話を切った華凛は、神姫を手に取る。
「樹羽、もう少し付き合ってもらえる?」
「どうするの?」
「どうするの?」
華凛は神姫をちらつかせるように振る。
「調べるのよ。この神姫を」
そして来たのが、このホビーショップな訳だ。華凛が話していた、知り合いが経営している店とはここの事らしい。
店長である柏木仁(かしわぎじん)さんは、若いながらも相当なエンジニアであるらしく、今もあの神姫を全力で調べてくれている。
その助手でもある神姫、アーンヴァルMk,2型のエリーゼは、オーナーである柏木さんのことをとてもよく慕っている。
店長である柏木仁(かしわぎじん)さんは、若いながらも相当なエンジニアであるらしく、今もあの神姫を全力で調べてくれている。
その助手でもある神姫、アーンヴァルMk,2型のエリーゼは、オーナーである柏木さんのことをとてもよく慕っている。
(神姫は小さな人、か……)
まったくもってその通りだと思う。人と同じように笑う神姫。人と一緒に笑う神姫。しかし、あのエウクランテ型の神姫は、はたしてそうだったのだろうか?
昔は、あのエリーゼのように笑っていたのだろうか?
最後に見せた涙は、彼女の本当の意識なのだろうか?
さっき柏木さんに聞いたが、あの神姫は重度の改造で暴走してしまっていたらしい。誰がそんなことをしたのか、まではわからなかったが。
昔は、あのエリーゼのように笑っていたのだろうか?
最後に見せた涙は、彼女の本当の意識なのだろうか?
さっき柏木さんに聞いたが、あの神姫は重度の改造で暴走してしまっていたらしい。誰がそんなことをしたのか、まではわからなかったが。
「こんなこと、絶対おかしいよ」
「ぎりぎりセーフね、今のセリフ」
「ぎりぎりセーフね、今のセリフ」
パソコンを見るのに飽きたのか、華凛はこっちに近付いてきた。
「別に飽きた訳じゃないわ。樹羽が暇そうにしてるから来たの」
「そう……」
「そう……」
華凛は私と反対側の椅子に座る。
「樹羽、大丈夫? 肩とか」
「肩?」
「肩?」
ああ、そういえば被弾していたんだっけ? 肩口を見てみる。軽く痣が出来ているが、重傷じゃない。
「大丈夫、痛くない」
「そう、ならいいの。それじゃあ、あとはあの神姫のことね」
「そう、ならいいの。それじゃあ、あとはあの神姫のことね」
華凛がクレイドルに眼を向ける。そこには相変わらず神姫が眠っていた。
「ホント、さっきまであれに撃たれそうになったなんて思えないわ」
私は被弾しているが。
「ねぇ、樹羽。実はね……」
華凛が何か言おうとした時、柏木さんが大声をあげた。
「よし! プロテクト解除成功です!」
「……ごめん、樹羽。また後で」
「……ごめん、樹羽。また後で」
華凛は柏木さんの元へ戻っていく。私も同行した。
「なんのプロテクトですか?」
「この子の記憶ファイルのだよ。悪いとは思ったんだが、犯人特定のために仕方なくね」
「記憶ファイル……」
「この子の記憶ファイルのだよ。悪いとは思ったんだが、犯人特定のために仕方なくね」
「記憶ファイル……」
パソコンの画面を見ると、いくつかファイルがあった。それぞれ日付がふってある。
「ん?」
よく見てみると、昨日と一昨日の分がない。それどころか、3日前のファイル以外、全て×印がついている。どうやら破損しているようだ。
「とりあえず、この3日前のファイルを開いてみよう」
柏木さんがマウスを動かし、ファイルをクリックする。神姫にもよるが、数日の記憶ぐらいなら、映像で保管されているという。
ファイルが開かれ、ムービーが再生される。
暗い部屋の中だ。デスクの上のパソコンのディスプレイしか光源のない小さな部屋。神姫の前には、男の姿があった。顔は写っていない。
ファイルが開かれ、ムービーが再生される。
暗い部屋の中だ。デスクの上のパソコンのディスプレイしか光源のない小さな部屋。神姫の前には、男の姿があった。顔は写っていない。
『駄目ですよ! そんなこと!』
『うるさいっ! マスターに指図するな!』
『うるさいっ! マスターに指図するな!』
突然の怒鳴り声。さらに、視界が目まぐるしく回転し、衝撃とともに止まる。多分、デスクの上から落とされたのだろう。
『もう俺には後がないんだ! もうこれしか方法がないんだよ!!』
『だ、だからって、改造は違法行為です! そんなの、間違ってます! 目を醒まして下さいマスター!』
『黙れぇっ!!』
『だ、だからって、改造は違法行為です! そんなの、間違ってます! 目を醒まして下さいマスター!』
『黙れぇっ!!』
何かを蹴る音とともに、視界が暗転する。
『もういい、お前は徹底的に改造してやる! そしてもう二度と俺に指図出来なくさせてやる!』
声が近付いてくる。うっすらと開かれる視界。大きな人の足が写る。視界は急に浮上し、天井が写る。多分、今は移動中。
『絶対に見返してやるんだ……あいつらを……俺は……』
マスターらしき男の呟きを最後に、神姫の意識が途絶えた。
「…………」
ムービーもそこまでで終った。辺りには重たい空気が流れる。
「酷い……」
思わず呟いた。会話からして多分、神姫バトルで一向に勝てないさっきの男が、最終手段で改造に走った。
そして改造した結果、神姫は暴走。逃げ出されたのだろう。
そして改造した結果、神姫は暴走。逃げ出されたのだろう。
「……この記憶は、消してしまった方がいいのかもしれません。この子のためにも」
柏木さんがパソコンを操作する。
「待って、仁さん」
華凛がそれを制止する。あたかもその行動を予測していたかのような速さだ。
「ちょっとそれは待って。それより、それ以外の箇所クリーニングできる? 改造された部分と、マスター登録も含めて」
華凛が質問する。その表情は、いつになく真剣だ。仁さんは怪訝そうな顔をしたが、一応頷く。
「人格が破損している場合、厳しいですが……多分、なんとかなると思いますよ」
「そう、よかった」
「そう、よかった」
華凛は私の方に向き直る。いつもと違う雰囲気に、私は少し戸惑った。
「樹羽、さっき言いかけたこと、言うね?」
「う、うん」
「う、うん」
華凛は目を瞑り、しばらくしてから、開けた。
「この子の、新しいマスターになってくれないかな?」
「えっ?」
「えっ?」
それは、頭の片隅で予想していた質問だった。願ってもない質問。しかし、私は気が動転していた。
「べ、別に私じゃなくてもいいはず。華凛がマスターになればいいし、それに私、引きこもりだよ」
それに、何故記憶を消さないのかが気になる。
「あ~、それは重要だけど、あたしからは言えないわ」
「……?」
「……?」
ますますわからなくなった。記憶を消すなと言っておいて、理由は言えない?私が考えている間に華凛は私の肩に手を置く。
その目には、強い覚悟が見て取れた。
その目には、強い覚悟が見て取れた。
「ねぇ樹羽、今の状態がいつまでも続くとは思ってないでしょ?」
「…………」
「…………」
今の状態――。
高校にも通わず、ただ家にいるだけの日々。引きこもりとしての人生。
徐々に言葉のピースが埋まっていく。
つまり、そういうことか。
この神姫には、新しいマスターが必要で。
私は華凛以外の繋がりが必要で。
二人の条件が重なる。
高校にも通わず、ただ家にいるだけの日々。引きこもりとしての人生。
徐々に言葉のピースが埋まっていく。
つまり、そういうことか。
この神姫には、新しいマスターが必要で。
私は華凛以外の繋がりが必要で。
二人の条件が重なる。
「樹羽」
そう。私だって、今の状態をよしとしている訳じゃない。どこかで変えなければと思っていた。
ただ、取っ掛かりが見えなかっただけで。きっかけがなかっただけで――。
ただ、取っ掛かりが見えなかっただけで。きっかけがなかっただけで――。
「……わかった」
変わるタイミングは、今しかない。
「私、マスターになる」
こうして私、奏萩樹羽(かなはぎみきは)は、神姫のマスターとなった。