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ダモクレスの剣

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ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc



俯き歩いた暗い暗い闇の底で、ふと聴き取った希望のメロディ。
思わず空を見上げてみれば、垂れ下がっていたのは……


か細い蜘蛛の糸に吊るされた

強靭な一本の剣だった。



☆   ☆   ☆   ☆   ☆



ミッドバレイがフカフカとしたソファに腰掛けたのは、I-5にある民家の一室。
放送後、彼は道中にあった学校で車を調達した。
数台の窓ガラスを破壊して中を確認。一台だけキーのついた物があり、それを拝借したというわけだ。
4WDをそれなりに操り、市街地へとたどり着いたのはまだ天気の崩れていない頃だった。

放送前に得た情報では、これからここには「雪」が降るらしい。
「雪」という存在について、彼の知識は多くない。
「氷」のようなものが空から降り注ぐという漠然としたイメージしか出来ていなかった。
しかし聞いた限りでも、それが降るということは気温が下がるということだと理解できた。
彼が暮らす砂漠の惑星も夜になれば信じがたい寒さとなるが、流石に氷が降った話は聞かない。
そんな未知の天気に、野道で遭遇はしたくなかった。

やっとの思いでたどり着いた民家で彼は周囲を警戒しながらも、休養をとる。
愛用のサックスの整備に手をつけ、次は自分の体の整備だ。
たっぷりのお湯でシャワーを浴び、乾いた喉を絶え間なく湧き出る冷水で潤す。
普段暮らす星からすれば天国のような環境だが…生憎、楽しむ気にはまるでなれなかった。

スーツの換えは見当たらず、ひとまずそれまでのものを続けて着る。
正直言って、油断しすぎだと彼自身が思っていた。殺されても仕方のないくつろぎ方だ。
だが、それがどうした。


どの道あと少しすれば死ぬ身だろう、そう思っていた。
酒でも飲みたい気分だったが、残念ながらこの家には酒はない。
まぁいいさと、ミッドバレイはソファにさらに深く腰掛け一息吐こうとして…

その身を強ばらせた。


爆音


彼の発達した聴覚に飛び込んできたのは爆発音。
いや、それだけではない。その前後に、確かに聞こえた。

獣の咆哮

獣…ならばいい。しかし、しかし…果たして本当にただの獣だろうか。


化物…ではないのか?


そんな恐怖にかられ、リラックスムードは一転して緊張感あふれるものとなる。
口では何を言おうと、彼は死が怖かった。
苦々しい顔つきで立ち上がると、ミッドバレイは周囲の音に更に意識を集中させる。
ひとまず傍に驚異がいないことを確認すると、パソコンを立ち上げた。
使い方は人づてに聞いた程度で仕組みは全く分からないが、何ができるかは知った。
そこから「みんなのしたら場」というサイトにアクセスし、情報を集め始める。
彼が以前確認した時よりさらに情報は増加していた。

しかし、どれもこれも信用ならない。

大体、顔も見えない情報源の何を信じろというのだろうか。
こんな状況では誰かに誰かが成り代わるのもあっさり出来るだろう。
結局、ミッドバレイにはその全てが嘘に思えた。

今の所信用出来る情報源なんて、放送くらいのものだが、
その放送も、主催者の手の者が行っている以上あてにはできない。


それに…


レガート・ブルーサマーズが、死んだ。
放送で告げられた事実。


おそらくあの直後であろう。
ミッドバレイと接触した後、あの男は死んだのだ。

殺しても死にそうにないあの男が。
彼にとってまさしく『恐怖』の塊であったあの男が。


殺したのは、誰か。




違う。ヤツの名も呼ばれた以上、よくて相討ちだが…彼ではあの男は倒せない。
確かに魔人に相応しい戦闘力の持ち主であり、それはミッドバレイも認める。
だが、レガートはそういうレベルではない。強さ云々で倒せる存在ではないのだ。
短い付き合いだったが、彼はあくまで「人間」だとミッドバレイは感じていた。




違う。ヴァッシュは絶対に殺すという選択肢を選ばない。それはミッドバレイにも確信出来た。
確かに彼はヴァッシュをあの場に導きはしたが、レガートとダブルファングの戦闘に間に合ったか怪しいものだ。
抑止力にならなっているかもしれないが…あの男の死を生み出したのは、アレじゃない。

となるとやはり「あの少女」だろう。

ガサイ・ユノ

探偵はそう言っていた。アレならレガートを仕留めていても納得がいく。
それは戦闘能力うんぬんではない。

あの少女は「一応」ただの人間らしい。
だが彼にはとてもそうは思えなかった。

あれは、いやあれ「も」化物だ。

レガートと同じ『心』の化物。
狂った精神に追いつくように、肉体が変異しているのではと疑いたくなる存在。
とても『人間』と呼べる存在ではない。だから、アレこそがレガートを倒しうる存在だと思った。

それは彼の望んだ「救い」とは程遠かったが。

あの場に居た少年の一人。
そう、馬鹿げた戦闘力も特殊な能力も何も持たずに化物供と対峙したあの少年。
あんな少年にこそ、「希望」というヤツは見いだせる、ハズだ。
もっとも、闇の底を歩きすぎたミッドバレイには結局そんな物は見えやしなかったが。
ひとまず生きているらしい少年の悪運に素直に関心はしておく。


いろいろと考え事をしながら掲示板を眺めていると、やたらと長い書き込みが目についた。
文章を読み、ミッドバレイは盛大なため息をつく。

なんだ、これは。

馬鹿げた内容だった。くだらん自己紹介と、狂った呼びかけ。
長ったらしい文章だったが、この二言で表せた。
途中に用意されていた妙な映像も見たが、彼のため息が増えるだけ。
…どうにもこの書き込みの主とはセンスが合わないと、ミッドバレイは首を振った。

だが、狂った呼びかけには少し興味が湧く。
どうやらこの男、主催者の手の者らしく、その情報を餌に武道大会とやらをやろうとしている。
それも、出来る限り強い存在を集めるつもりのようだった。

「狂っているな」

思わず声に出して呟いていた。いわゆる「戦闘狂」というヤツだ。
彼が所属していたGUNG-HO-GUNSにもこういった連中はいた。
雷泥・ザ・ブレード。あるいはマイン・ザ・EGマインあたりもそうかもしれない。
戦うこと、それ自体に喜びを、いやもはや快楽を覚える存在達。
この書き込みの主はあんな連中の延長線上、そんなイメージだった。
ならば逆に、絶対に近づくべきではない。

ここでそんな強者供を相手にしても彼にはなんのメリットもない。
強者は強者同士で潰し合えばいいだろうと思っていた。
そういう意味では彼にとってこの呼び掛けは都合がよい。
これを鵜呑みにするおめでたい連中が存在するのなら、だが。


……そう、彼はまだ殺し合いをやめたわけではなかった。
先程は気まぐれに探偵に協力してやったが、別に常にそうあろうという訳ではない。

演じ慣れたパートでも、休みなしで奏で続けては楽器が傷む。
かといって違うパートは演じられないのだから…あとは休んで調整でもするしか無い。
結局の所…闇の底ではやれることなど限られているのだ。

ギィ、と座っていた椅子の背もたれに体を預ける。
先程の獣の声が聞こえた方角はわからない。そこまで近くはないが…安心は出来ない。
うっかり出歩けば遭遇しないとは言いきれなかった。
掲示板の情報が本物ならここから東のデパートは壊滅状態らしい。
遠目で見ても惨状は理解出来た。何が潜んでいるかわかったものではない。

結局どこかへ向かうメリットが無くなっている。
今までなんとなく海沿いに島を半周程してきた訳だが、それにこだわりなどない。
これから天気が崩れる以上、うかつに歩きまわれば誰にも遭遇しないで体力を失う。
むしろどこかでひとりでに野垂れ死にするかもしれない。
それはそれで幸せかもしれんなと、ミッドバレイは少し本気でそう思った。
すぐに思い直したが。

どうしたものか、と思いを巡らす。
そもそもこの書き込みが真実という確証はなく、実は何か罠が張り巡らされていました、
では笑い話にしても低俗なものだろう。



その時だ。
彼の耳は聞きたくもない『音』をまたしても捉える。
先ほどと同じ獣の咆哮。そしてそれに続く様々な轟音。

わかる。
人間が出す『音』じゃない。
彼の中の天使と悪魔が耳元で囁いていた。



『見るな見るな。見ればまた絶望が増えるだけだ。どうしようもないって知っているだろう?』



『目を背けるなよ、リアリスト。見ておかねば少しの対策も練れないぞ。
 死にたくないのなら、わずかでも生きながらえる為の努力をしろよ』



どちらが天使でどちらが悪魔か、ミッドバレイにはさっぱりわからなかった。
だが結局、臆病な彼は『無知』の恐怖に耐えかねてしまう。
音源が遠いことを確かめると、ゆっくりと窓へ近づき外を見回した。

結局、どちらの言い分も正しかったというところだろう。
彼の目に映ったのは果てしない絶望だった。

巨大な化物が、さらに巨大な化物と殺しあっている風景。
距離が離れていながらそれを『視認』できるのだ。
それだけでもう十分な脅威であると確信出来た。

一方は巨体で知られた同僚グレイ・ザ・ナインライヴズをも上回るであろう肉体を持った化物。
太い腕、角、翼、牙…どれもこれも人の身を超越した力の象徴。
彼の命を一瞬で奪いうる、恐怖の塊。

もう一方は……ミッドバレイには表現ができなかった。
それがどういった存在か、言葉に出来ない。
ただ言えたのは…自分では絶対に敵わぬ、圧倒的な力を備えた化物であるということ。

そんなベクトルの違う化物の戦いを目の当たりにして、彼の絶望は色を濃くしていく。

戦いはほんの数十秒で決着した。
化物供はその姿を消したが、倒れた訳ではない。
勝者と敗者に別れはしたものの…どちらも死んではいない様子だった。

クククッ…と笑い声が薄暗い室内に響く。
堪えきれずハッハッハと大声で笑いながら、ミッドバレイは床に転がった。


なんだというのだ、どうしろというのだ、なにがしたいのだ


キレイだがどうにも機械的な印象の民家の床で、ミッドバレイは笑い転げる。

闇の底なんて見慣れた光景だと思っていた。
だが、その底に蓋がついていて、開けたら更に深い闇があった気分だった。

あれを見てなお『あの言葉』を口に出来るのか。

ミッドバレイはありったけの泥を全身に浴びせられたように思った。
その身にまとわりついて剥がれない嫌な感覚に蝕まれるように、結局彼は押し黙る。

もう二度と、『希望』なんて言葉は言えない気がした。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆


結局じっとしていられず民家を出発し、ミッドバレイは街中をさまよう。
あいかわらず俯き気味に、耳だけはしっかりとすまして。
行くアテなどもちろんないが、思えばそれはいつものことだった。
往くも死、退くも死、それでどこへ行けというのだろうか。


ムルムルと呼ばれた娘、雷を操ったシンコウヒョウ、人間台風、変化する大男。
狂信者、それを倒したであろうガサイ・ユノ、そして巨大な化物二匹。

それに…


彼にとって、この島はあまりにも絶望が多すぎた。
聞き慣れた音でも、それが幾つも折り重なればそれは新たな音楽となる。
様々な絶望がもたらすハーモニーは見事に調和が取れていて…
より大きな絶望として、聞いたこともない音を放っていた。
やっとその耳が捉えた、『あの』メロディも掻き消しかねないほど。

指揮者がいるなら見事な腕だな、とミッドバレイは呟く。

だが禁止エリアには絶対に近づかない。
こんな音楽に晒されてなお、自ら死を選べない自分が恨めしかった。
まだ足掻こうというのだろうか、自分は。


そして再び、彼の耳は『音』を捉える。
二人組の足音。もう少し近づけば聞きわけられるだろう会話『音』。
無視してもいい。しかし現実主義者は結局自暴自棄にもなれず…
今できることを、とりあえずしてみることにした。

結局それも光をもたらすことはない。光をもたらすのはいつだって、
叶わぬ夢を夢として愛し、理不尽な世界と対決することが出来る者達だけだ。
それが出来て初めて、光が降り注ぐ。


彼のいる闇の底には未だ光が届かない。
わずかに煌めくのは、彼を戦々恐々とさせる一本の剣の輝きだけ。

……それを手にとり、闇に立ち向かえたらどんなにいいだろう。

見えた。
その前から声は聞いていたが、女のほうが一方的に喋るばかりだったので気づかなかった。
だから街中である程度接近し、その人並みの『目』で見て気づく。
そこにいるのが、まぎれもなくかつての主、ミリオンズ・ナイブズであることに。

後ずさる。
先程の化物を見た時とはまるで違う感覚。
距離が近いというのもある。しかしそれに加えて見知った…いや、聴き知った恐怖であるからこそ。
先程よりは少し落ち着いて、しかしさきほど以上に深く、彼は絶望する。

睨みつける。
愛用のサックスに触れる。マウスピースを咥え、構える。
たったひと吹き、息を吹き込めばそれで終わりだ。
秒速340mの彼の『牙』は『アレ』に届く。
敵うなんてもう思っていない。無駄なことは百も承知だった。
ただ、この哀れな男の人生の最後に、少しでも抵抗の跡を残したかったのか。
同行者くらい仕留められるかもしれない。それでもよかった。
少しくらい驚く顔を見られればそれで十分ではないか。





決意を胸に、男は最後の抵抗を試みる。











だが無理だった。



歌口から口を離し、ガチガチと震える体を壁にもたれかける。
ただ恐ろしかった。どうしようもない小物だと自分で思うほど。
この戦法でどれだけの人間の生命を奪ってきたか。
それはこの島でも変わらなかったというのに。

遂に皮肉な笑みすら浮かべることもできず…ミッドバレイはその場を去ることを決める。
自分の『牙』には一体何ができるのだろうと、誰かに尋ねたいくらいだった。

ゆっくりと立ち上がり彼らに背を向けると、真逆の方向に歩き出す。

もう二度と関わるまい、そう決めていた。
どうせあと少しの生命なら、最後くらいもう少し穏やかでいたものだと。
そう考えながら歩きだした直後に、彼の耳はその言葉を捉えた。


幻聴か、はたまた音界の覇者たる力ゆえか。















答えはすぐに分かった。




ごっ!と派手な音を立ててミッドバレイはうつ伏せで地面に叩きつけられる。
首筋には背後からたくましい腕が押し付けられ、まるで身動きがとれなかった。

先程の言葉は幻聴でもなく、彼の発達した聴力ゆえに聞こえた遠くの声でもない。
彼が振り返った一瞬でその距離を詰めてきた、ナイブズの声だった。

ミッドバレイは言葉も出なかった。
相手の身体能力に対してではない。彼への警戒度が薄かった自分に対してだ。
以前見逃された経験があったゆえに、逃げられる気がしていた。
一瞬とは言えあからさまな自分の敵意に、相手が気づかぬわけもないのに。

「仕掛けてきていれば貴様の命はなかった。どうやら『のって』いるらしいな」

当たり前の事をわざわざ言わなくていい、そう叫び返してやりたかった。
しかし彼の口から出たのは、従順な『ナイフ』の言葉。

「ナイブズ……様、お久しぶりですな」
「……死んだと聞いた気がするが……まぁいい」

あぁ死んださ。

これは小さくだが口にだした。
何を言われても、何をしても、自分には選択肢がないことを彼は理解していた。
今死ぬか、情報を奪われて後で死ぬか。せいぜいそのくらいの選択しかできないはずだと。

だが次の言葉は少しだけ予想外のものだった。
そして、それゆえに恐ろしいと、彼は思った。

「俺は今、よく聞こえる『耳』を探している。その意味がわかるな」


その耳は、あまたの枷。




☆   ☆   ☆   ☆   ☆



道路を凄まじいスピードで疾走する車が一台。
その中には三人の参加者が乗っていた。
運転席に座ってアクセルを踏み込みながら、ミッドバレイはちらりと横を見る。

助手席にはミリオンズ・ナイブズ。
運転を彼に任せて座ってはいるが、その目は見開いて前を見据えている。
よほど速く先に進みたいようだ。

後部座席には西沢歩。ジャージの上下にマントという、なんとも奇妙な格好の少女。
俯いて、何かを考えているらしい。
表情は暗く、悲しみにあふれ…儚げだった。

あの後、ミッドバレイは大体の事情を知ることとなる。
ナイブズはやはりヴァッシュ・ザ・スタンピードを探しており、その位置はある程度わかるらしい。
連中も例の化物共の戦いには気がついたらしく、時間の掛かりそうな面倒を避け南下したようだった。
そこで、歩が天気と効率を考え車での移動を提案していたところに彼が遭遇したというわけである。
都合よく車を所持していたミッドバレイと遭遇したのは、ナイブズ達にとって僥倖だったろう。
そう、思わず誰かの関与を疑ってしまいたくなるくらいに。

しかしミッドバレイは運転手として確保された訳ではない。

『ある程度の距離と方角はわかるが…慌ただしいヤツの事だ、じっとしてはいまい。
 細かい場所の特定の為に貴様のその力は便利だ』

このナイブズの言葉こそ、ミッドバレイがこうしている理由だった。
またしてもいいように利用されるのかと、情けない思いはある。
だがそれであっさり立ち向かえるようなら、初めからナイブズの元で戦ってなどいなかっただろう。
付け加えられた言葉がそれをよく示している。

『あの時も貴様だけが賢い判断をしたな』

かつてナイブズのスカウトを受けた時…
ミッドバレイの仲間が二人、ナイブズの手で殺されている。
殺し屋だった仲間たちは『手口』を見られた事で不都合を感じ、ナイブズに攻撃を仕掛けたのだ。
ナイブズのヤバさに真っ先に気がつきそれを止めようとした彼以外…全てが切り刻まれた。
確かにその場で一番賢い判断をしたのは彼だったかもしれない。

同じように今回もまた、彼は立ち向かう事をしなかった。
こんなだから希望の光が見えないのだと、またしても皮肉な笑みを浮かべて。

結局彼が持つ情報はほぼ全て彼らに渡ってしまった。
移動しながらの尋問で慌ただしかったが、ヴァッシュとの遭遇等も全て伝える。
彼を戦いの場に導いたことを知った時、ナイブズの表情は一瞬歪んだ。
しかし、すぐに何かを思い直したように元に戻った。それはそうだろう。
あの男は、誰が何かをしなくてもどうせ危険に首を突っ込む。
彼はその行動に指針を与えたに過ぎない。利用というより手助けに近かった。

ただ一つ、探偵の情報は話さなかった。
別に彼を庇ったわけではなく…どうせ不要な情報だと思ったからだ。
ナイブズが欲しがる情報でもあるまいと。

「……『あの男』を倒した、か……」

特にナイブズの気を引いたのはヴァッシュの情報と、レガートの情報だった。
奴がやはりナイブズへの忠誠の為に戦っていたらしいということ。
そしてそれを殺したと思われるガサイ・ユノのことを。
それらを伝えた時のナイブズの表情は、見えなかった。
しかし背中に冷や汗が流れるのがミッドバレイにはわかる。

意外なことに、少しは何か感じるものがあるらしい。
アレ程の忠誠を見せつけられても今まで何も示さなかったこの男が…
何かがおかしいと、思わずにはいられなかった。

ミッドバレイには不思議だった。このナイブズに感じる違和感はなんだろうかと。
レガートの件だけではない。

後部座席にいる女…西沢歩がナイブズと行動を共にしているのがそもそもおかしい。
なぜただの人間、足手まといにしかならぬ人間とナイブズが行動しているのか。
ナイブズにとって人間とは等しく粛清すべき『敵』であるはずなのに。

……部下であった自分達も含めて。

よく見れば少し、本当に少しだけ以前のナイブズとは印象が違う気もした。
何がと聞かれても分からない。
昔は恐ろしくて彼を観察することなどできなかったのだから。

それでもその全身から発せられる威圧感は凄まじいものである。
むしろ以前よりそれを増したようにも思える程だ。
結局自分たちとは違う存在。それと相容れることなど不可能なのだろう。

……実はその考えこそが誰よりもかつてのナイブズに近いということに、彼は気づかない。


(それにしても…)

そこでミッドバレイは背中に感じる視線に意識を向けた。
バックミラー越しにそこにいる少女を見る。
先程まで俯いていた西沢歩が、顔を挙げ正面を…自分の背を見つめていた。

「……妙な気を起こすなよ。ここで何かすれば貴様もタダではすまんぞ」

振り返ることはせず忠告する。
それは先程の情報提供の中でわかったある事実が彼女の態度の原因だろうからだ。

彼女の名前に少し聞き覚えがあるような気がしていた。
その理由は程なく判明する。彼女は『綾崎ハヤテ』の知り合いらしい。
彼がこの島で最初に殺した、明るい少年だった。

本人の口から多くは語られなかったが…その態度でなんとなく察しはついた。
おそらく、想い人だったのではないかと。

ミッドバレイが綾崎ハヤテを殺したことを聞いた時の、彼女の表情は非道いものだった。
怒りもあったろう、悲しみもあったろう、憎しみもあったろう。

結局なにもせず車に乗り込んだが…それで済まなくて当然かもしれない。
もっとも、いくら彼でもこんな少女におとなしく殺されるつもりなどなかったが。

「……私、おかしくなっちゃったのかな……」

ようやくか細い声で何かを話しだす。
その呟きはミッドバレイに向けられたものではなかった。

「私……この人がすごく憎い。憎くって仕方ない」

おそらくは隣に座るナイブズに向けられた言葉なのだろう。
愚かだな、とミッドバレイは思った。
こんな人間の戯言にこの方が付き合うハズが無いと。

「でも……なんでかな……殺したいって、思えないんだ」

消え入りそうな、すぐわかる涙声だった。

「こんなに憎いのに!ハヤテ君をこ、殺したなんて……絶対、絶対許せないのに!!!
 なのに…どうしてだろ……あ、あははは……う、うぅ……」

急に声を荒げたかと思えば、泣き出す。
それはある意味でなんとも人間らしい反応だった。

「私……おかしくなっちゃったんだ……」


それが普通なのさ。


ミッドバレイは思ったが、口には出さなかった。
人が人を殺す理由なんていくらでもある。殺し屋であった彼はそれをよく知っている。
だが、怨恨はその中でも特殊な部類に入るものだ。

どんなに憎くて憎くて仕方がなくても…人は、人を殺すのに躊躇する。
逆に自分たちのように仕事や、快楽の為の殺人には躊躇いが無い。
それは人の欲望に直結しているからだろう。

GUNG-HO-GUNSにホッパード・ザ・ガントレットという男がいた。
異能と引換えに人が人である為の『何か』をごっそりと失くした魔人集団の中で、
彼は最も人間らしい感情の持ち主だった。
彼にはわずかなりとも優しさがあった。情があった。
それは共に戦ったミッドバレイが一番よく知っている。

そんな彼があの異能集団に加わったのは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの復讐の為。
確かに憎しみは人に殺意を抱かせる感情だ。

しかし、人を『おかしく』するほどの憎しみというのはそうはない。
ガントレットがその身を省みぬ戦いに身を投じる程の憎しみですら……
彼から決して人間性を奪わなかったのだから。


この少女がこれまでどんな人生を過ごしてきたか彼にはわからない。
ただ、人並みに幸せな人生だったのだろうと思った。
だから憎しみに全てを委ねて殺人衝動に駆られることがないのだろうと。


事実、西沢歩の人生は平凡ながらも幸せな部類に入るものだった。
彼女には愛する人を失ってしまったとしても、大切な家族が、理解し合える親友がいる。
あるいはこの場で出会った不思議な同行者が。
それら全てを投げ出してでも、同族の人間を殺したいと思うのは難しい。

人が人を殺すというのはそれだけ大変なことなのだ。


おかしいのは自分達のようにどこかネジのとんだ、簡単に人を殺せる人間の方だとミッドバレイは思っていた。


例えば、全てを捧げた己が半身を、目の前で殺されでもしない限り。
例えば、大切な存在のほとんど全てを、根こそぎ奪われでもしない限り。

……あるいは憎むべき対象が、別の種族の何かでもない限り。


憎しみの為に殺すという選択肢を簡単には選べない。


だから彼女の発言はミッドバレイにしてみればそれほど意外ではなかった。
無論そんな話を聞かせてやるような立場でも心持ちでもなかったが。


むしろ彼を驚愕させたのは、その後の出来事だった。


「おかしくなどない」

彼の耳がおかしくなったのでなければ、それは彼の隣の男が呟いた言葉だった。
ミリオンズ・ナイブズが、口を開く。

「俺はそんな考えを百年以上も捨てずに歩き続けた男を知っている。
 憎くて仕方がないはずの存在を愛し続け……わかり合おうとした生き方を」

ヴァッシュ・ザ・スタンピード

詳しくはわからないが、なんとなくミッドバレイはそう思った。

「何よりも大切な存在を奪った男すら……最後の一瞬まで見捨てない奴だ。
 俺には最後まで理解し難いものだったがな」

そこで少し空を見上げて、ナイブズは言葉を紡ぐ。

「それでも、美しいとは思った」

キッ!!!

思わずハンドルを切りそこね、車が大きく揺れる。
ギロリ、と睨まれ、ミッドバレイは慌てて体勢を整え直した。

「……貴様などには荷が勝ちすぎる生き方だ。
 だが愛し共に歩めずとも……憎まぬくらいなら出来るかもしれんな」

そう言って彼方を見つめるその表情は、ミッドバレイの見たことの無いものだった。

「……少なくとも、その生き方を愚かと評すのは俺が許さん」

キキーーーーーーーー!!!!!

今度は完全に急ブレーキを踏んでしまう。
衝撃で前のめりになったあと、ミッドバレイは驚愕に満ちた顔で横を見た。
ナイブズの表情は、元の冷たいものに戻っていた。

「……何がしたい。殺されたいのか」
「す、すみません……」

慌てて車を発進させると、彼は深呼吸した。もう恐ろしくてナイブズの方は見られない。
かわりに背後の少女をちらりとみやった。
相変わらず淋しげな表情ではあった。

「……あ、ありがとう……ナイブズさん。ゆ、ゆっくり考えてみよう、かな」

しかし少なくとも自分のような顔ではないだろうなと、ミッドバレイは思うしかなかった。

訳のわからぬまま、車をひたすら走らせる。
彼の、彼女の態度が何を意味し、何を起こすのか。
これから行く先で何が待つのか。

ただ戦々恐々とし続けた状況に、何か変化が起こっていることだけを少しずつ認識していく。


少し遠くの銃声を、その『耳』が捉えた。



【I-03/道路/1日目/午後】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
    ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
    イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
    ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
    月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
    No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:ナイブズの態度に激しい戸惑い。
2:ひとまずナイブズに従う。
3:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
4:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
5:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
6:ゲームを早く終わらせたい。
7:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
 ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
 殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
ガッツ胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×2、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
    ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル ~推理の絆~、


          木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
          トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
          不明支給品×2(一つは武器ではない)
          旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
          カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
          アルフォンスの残骸×3、工具数種)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの気配を追い、ミッドバレイの力で彼を見つける。
2:ナギの支給品を確認。用途を考える。
3:ヴァッシュの足跡が一向に掴めないならば競技場に向かい、待つ。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
10:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
11:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
12:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
 また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
 しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。

【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ジャージ上下、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ミッドバレイへの憎しみと、殺意が湧かない自分への戸惑い。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※ミッドバレイから情報を得ました。


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