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C3 -Cube×Cursed×Curious-

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C3 -Cube×Cursed×Curious- ◆JvezCBil8U


しんしんと降りはじめた雪が、僕の肩に積もる。
細やかな白い粒子は服に小さく張り付くと、あっという間もなく融けて染みと消えた。
吐く息は煙のごとく宙に軌跡を残し、体は寒さに震え始める。

でも今は――身に刻まれるその感覚こそが、頼もしい。
僕はちゃんとここにいる。
生きて、ここにいるのだ。
確たる意志を持って。

玉砂利を踏みしめながら僕は一歩一歩を確実に踏み、がらりと引き戸を開けて木造の建物へと入り込む。
人の気配はなく、痛いほどの静寂が耳を満たす。

もう、デウスの声は聞こえない。

……覚えなどあるはずのないあの記憶。
それがどういう意味を持つのか、現状では答えを出すには情報が、パズルのピースが圧倒的に足りない。
言えるのは、まず間違いなく僕の記憶が弄られている――という事だ。
そしてそれはつまり、ひょうという人物の推測通りならば、この僕が人工的な存在である可能性が極めて高い、という事でもある。

……ショックでは、ある。
だが絶望で思考停止するのはあまりに早計だ。
デカルトを持ち出すまでもなく、考える事で僕は、己を実証する事が出来るのだから。

まず第一に、僕がデウスの声を思い出せたという事自体の意味を推し量る必要がある。
果たして“神”ほどの存在が、そんな手抜かりをするとでもいうのか?

……現在のところ思い描ける可能性は、2つ。
僕がデウスの声(そしておそらく、姿も)を忘れていたのが“神”の計画の一端であるのか。
それとも、“神”にここに連れて来られる前から、僕はデウスの声を忘れていたのか。

つまり、僕の記憶を弄ったのが“神”であるのか、“デウス”であるのか。
そこが疑問についての焦点となる。

前者なら、今僕がここでデウスの声を知っていた事に気付いたのも全て予定調和でしかないのだろう。
だが、もし後者なら――僕がデウスの声について思い出した事が、神の計画外の因子である可能性がある。

“神”の力の少なくとも一端は、間違いなくデウスと同種のものだ。
だから、デウスの遺産として“神”にも干渉不可能な因子が存在するならば、そこに抜け道があるかもしれない。

……皮肉なことではあるけれど。
僕がもし人工的に作られた存在であるなら、そこから希望が見い出せるかもしれないのだ。
デウスの遺産、という観点からの――希望が。
雪輝君たち日記所有者にも、デウスの遺産が残されている可能性は低くない。

それに、だ。
あくまで僕に限定して人工的な生命である可能性が高いというだけで、雪輝君たちまでもがそうであると決まった訳ではない。
そして――、たとえ今ここにいる雪輝君が模造品であるのだとしても、僕の気持ちや指針が揺るぐ訳でもない。

作り物だから、どうしたというのだ。
贋作だから、何かいけないとでも言うのか。
だったら探偵として、“今ここにいる”僕らの価値を証明してみせるまで。

そう。
そもそもが、僕らに何か価値のあるからこそ、“神”はこんな催しを行っている。
“神”は、僕らにどんな価値を認め、どんな目的を持ってこの殺し合いを遂行しているのか。

初め僕は、この殺し合いが劇場型犯罪――、完全なる愉快犯ではないかと考えた。
だが、時間を経るほどにその可能性は薄くなってきている、
まず、愉快犯であるにしては、人員が多すぎる事。
ムルムル、シンコウヒョウ、放送の女性と少年。
少なくとも4人がいるのは分かっているが、女性があっさり始末された事を考慮すると代替要員がそれなりにいると考えられる。
また技術官的な人員なども必要とされるだろう。
つまり、主催組織の規模は少なく見積もっても二桁近くはいるはず。
それもシンコウヒョウのような、強力な異能を持つ存在を含めてで、だ。

……全能であるはずの“神”が、どうしてわざわざ彼らのような人材を手足に使うのか、理由は分からない。
彼らを従えられるほどの力があるなら、それを誇示して直接僕たちに殺し合いを強制した方が確実なのだ。
にもかかわらず、反逆の可能性も見越した上で“神”は表に出たがらない節がある。

……そう、理由は分からない。
だけどそれとは無関係に、“神”が表に出たがらない意図をそこに見出す事は出来る。
単純な愉快犯ではない、目的を果たそうとする意図を。

そこで僕は確信したのだ。
“神”の目的は劇場型犯罪――己の悦楽だけのためなどではない、と。

そも劇場型犯罪と言うのは、一般人などの反応を見て喜ぶものだ。
だが、今のこの殺し合いの舞台はまるでお伽噺のごった煮だ。
たとえば『秋瀬或が本来暮らしている世界』に大々的に中継しても、間違いなく趣味の悪い創作としか捉えられないだろう。
それで愉快犯の心が満たされるかと言えば、否。
……劇場型犯罪として考えるなら、規模の割に見返りが少な過ぎる。
奇妙に整った構図は似通うものがあるが、むしろ儀式のそれに近い。

……思えば。

『悪いが1st、お前一人に長々と説明する時間は無いんじゃ。
 最後まで生き残った時に改めて説明してやるから頑張ってみせよ』

『だが儂はその件に関して説明する気はさらさら無い。御主等には関係ない話なので時間の無駄じゃ』

ムルムルの言質を考えてみても、この殺し合いには明確な目標があるとその裏から読み取れる。
そこに、必ず付け入る隙はある。

あるはずだ。

そして、僕たちの掴むべき命綱はそこしかない。
“神”に明確な目標があるというならば、そこに絞って交渉を行うのだ。

手段はどんなでもいい。
目的の妨害を宣言し、脅迫するのでもいい。
目的への協力を訴え、懇願するのでもいい。

とにかく言えるのは、目的があるならば――交渉の余地がある。
これが雪輝君を生かす事の出来る、最善手だと僕は信じる。

だからその為に、同じ卓に“神”を付かせ、言葉と言葉で殴り合う為に。
僕はここで、何かの手がかりを得ねばならないのだ。

取引を行う為には、相手の眼に適う品が必要なのだから。


拳を握り締めると、この寒さにもかかわらずべっとりと汗の感触が粘りついた。
滾る闘志が、僕の中で熾火のように燃え始めているのを感じる。

さあ――、出陣だ。

「さて、それじゃあ僕はこの辺りを調査してくるよ。
 パック君、出来れば君には彼女を見ていてもらいたいところなんだけど――、」

そう言って、この社務所に寝かした胡喜媚という少女に目を移した途端。
小さな妖精は怯えたようにブンブンと首を振る。

……仕方がない、か。
彼はこの幼い少女の手による虐殺を直に目にしている。
俄かには信じられないことだけれども、ミッドバレイ氏の言質とも一致している以上真実だと思うべきだ。
近くにいたくないという感情は、至極当然だろう。

かといって、彼女を背負ったまま神社の調査を進めるのも効率が悪い。
この悪天候では尚更だ。ついでに、目に付くところに置いておいたとしても、寒空の下だと彼女の体に障るかもしれない。
せめて屋根の下においておくべきだとここまで運んだ訳だけど、それにしても直接目の届かない所に置いておくのも不安が残る。

……パック君が見張りを拒否している以上、僕がこまめに様子を見に戻るしかないか。

「オ、オレはあんたと一緒にここを探索するって!
 どーする? 手分けして色々見てみる?」

……正直、あまり探索そのものの戦力になりそうにはないな。
この性格からすると細かい作業は不向きだろうね。
だとすると、むしろ彼に任せるべきは――、

「……いや、探索そのものは僕に任せてくれ。
 それよりも君にはその機動力を用いて、見張りをして欲しいかな。
 万一ではあるけど、調査中は集中のあまりに周囲に気を配る余裕がなくなるかもしれない。
 だから不審人物などが近付いてきた場合、それをすぐに僕やあの子に伝えられるように、鳥居の付近で待機していてくれ」

役割分担するならば、こうするべきだろう。
安全確保の為の布石を打たずに野外調査など、あまりに不用心が過ぎる。

「えー……?」

露骨に不満そうな顔をするパック君。顔がまるで栗のようで、僕は少し笑ってしまう。
まあ、好奇心旺盛そうな彼には少しばかり退屈かもしれないとは分かっていた。

「なに笑ってんだよぉ! ……体のいい厄介払いな気がすんだけど?」

……鋭い。でも、僕はそれを顔に出さず、いたって爽やかな顔をして見せる。


  秋瀬或の説得テク『無言と笑顔で押し通す』※但しイケメンに限る


しばらくそのままでいると、パック君は急に黙り込む。
それを確認すると屈んで目と目を合わせ、僕はちゃんとした理由を頬を染めたパック君に伝えていく。

「ごめんごめん、誤解させてしまったね。今、哨戒役がいて欲しいのは紛れもない事実だよ。
 さっきの上空の方からの爆発音を覚えているかな?
 ……ここが危険である可能性は結構大きいんだ。空から様子を見るのは君にしかできない仕事だよ」


  秋瀬或の説得テク『ペースを掴んだらしっかりフォロー』※但しイケメンに限る


「……わ、分かった……ぜ。ったく、ガッツだってもーちょっとは……、いや、別の意味でヒドいか」

ゴニョゴニョと呟くパック君。
ふむ、ちゃんと分かってくれたみたいだね。
これで心置きなく探索が出来るというものだ。

小さく頷き、永久指針を受け取ると、僕は神社の奥へと歩き始める。
ここからが本番だからこそ、後顧の憂いを断ち割りながら。


「頼りにしているよ、パック君!」


  秋瀬或の説得テク『とどめとばかりに十全の信頼をアピール!』※但しイケメンに限る


背後で鳥居の方へと向かう小さな気配がした。
……実際問題、彼の仕事は大いに重要なものだ。
だから僕は、本当に彼に――、


*****


後になって、秋瀬或は後悔する事になる。

この時、無理にでもパックに胡喜媚を見張らせておくべきだったのだ、と。


*****

「あ~~、退屈だ~~~~……」

何故かニヤニヤとほっぺ緩ませてこっち来た自分がバカみてーだ。

くっそー、あの探偵ってやつの口車に乗ったさっきまでの自分を殴りたい。
や、殴るのは痛いからつねるくらいにしとこう、うん。

「しっかし、良く降るなあ……」

空を見上げると、一面灰色の雲だ。
そっから白い小さな固まりが延々と降り続けて、地面には早くも白く積もり始めてる。

「さむー……」

ぶるりと震えて、空から地面へ。
と、そんな時だった。

「ん? なんだ、ありゃ」

ちらりと森のすぐ向こうに見えたのは……女の子!?
おいおい、何やってんの。姿隠してるつもりでもバレバレだぞ?

何度も何度もこっちを見ては、こそこそと木の影に隠れるを繰り返す。

チラチラ、ビクリ。

チラチラ、ビクリ。

チラチラ、ビクリ。

……あー、じれったいっ!


「……うーん」

まさかオレ見てビビってる?
それともあのキビって子みたいにこっちを狙ってるとか?

ガクガクブルブル。

んー、でもなあ。
あからさまにヤバかったあの子ならともかく、あんな迷子みたいな顔してる子を見捨てるのは畜生に劣ると思うのですよ。

うん、決めた。
ほっとけねーよな。


「こりゃこりゃそこのおぜうさん。
 ワタクシメに何か御用ですかね?」

一気に距離を詰めて、さっきの探偵並みのキラキラスマイルで(筆者注・ぶっちゃけ気色悪い)話しかけてみる。

「わひゃぁぁっ!」

ちょうど逃げ出そうとでもしてたのか、こっちに向けた背筋がビクリと震えて飛び上がった。
恐る恐るこっちを向くお嬢ちゃんは、しばらく下を俯いてたけどどうにかこうにか声を絞り出す。

「ひ、ぁ、こな……、こなぃ、で、くだ……」

……そんな、鬼でも見るよーな目ェされると傷つきますよワタクシ。
うわああちょっとちょっとちょっとマジ泣きですか?
なんにもしてないのにすっごい罪悪感。

慌てて両手を広げて無害をアピールアピール!

ぶんぶん周りを飛び回って3周半くらいした時に、女の子の目がようやくオレを捉える。
びくりと震えて、おそるおそるながらもジッとこっちを見つめるお嬢ちゃん。
……こころなしか、首輪の辺りを眺められてるよーな。

驚き半分、怯え半分の、おっかなびっくりに出てきた声は、

「あの……、あ、あなたも、参加者さん、ですか?」

……こんな絞り出すような声でなきゃ、とても癒される声だった。

「おうともよ! しかしおぜうさん、ご安心召されい。
 ワタクシメは危害を加えるつもりはァございません!」

落ち着かずに目の泳ぐお嬢ちゃんを安心させてやりたくて、
全く意味はないけどふんぞり返って自分のムネを強く叩く。

「ぇげほっ、ごほごほッ! つ、強くたたき過ぎたァ!」

ぐぇ、苦しい……。
その場にうずくまって胸を抑えると、くす……とホントに小さく漏れる笑いが届く。
上を向くと、少しだけ崩れた女の子の表情を、ようやく見る事が出来た。


*****


オレは、ゆのと名乗った女の子から、色々な話を聞いた。
それがもう、聞くも涙、話すも涙の連続で、オレはボロボロ泣いちまったい。

突然ここに連れて来られた時の事、友達が死んだ時の事、
通り魔に腕をバッサリとやられた時の事、救われたのがあくどい男だった事、
ロクデナシの外道どもに脅された事――、

中には、アイツの探し人――グリフィスと出会った、なんてのもあった。

もうちょっとその辺りに突っ込んで聞きたかったけど、こんなひっでー状態の女の子にそれを強制するわけにはいかんよな。

ごしごしと目頭をこすって、両手を握ってポーズを作る。

「ようし決めた! おいちゃんがお嬢ちゃんの友達になってあげよう!」

「……友、達?」

「そう友達。一人でさ、色々抱え込んでるとツラいだろ?
 だったらせめて、オレなんかで良ければ聞いてやるって!
 これから先、ゆのちゃんとオレは一心同体! 放っとくのも心配だし、どこまでもついてくぜ。
 って、言わせんなよこのこのぉ。こっ恥ずかしいだろっ!」

……誰か忘れてる気もするけど、まあいいや。
それよりこのコの傷心を癒してやらなきゃ、オトコとしての沽券に関わるってもんだ!

「そっか……、友達か。呉越同舟、ってやつかな」

なんか間違った使い方な気もするけど、smallなコトはno thank you!
ネガな思考を引き摺り上げるんなら、テンション高く行ってみよう!

「おうともよ! ゆのちゃんの友達として、ナイトとして!
 向かってくる奴はこのエルフ次元流で叩っ潰してやるぅあ!!」

ビシリと決めると、またゆのちゃんが小さく笑ってくれた。
うん、この子はこういう顔がよく似合うなー。

「んじゃ、友情の証として、だ。
 握手しようぜ?」

「え?」

「握手だよ、あーくーしゅー。
 サイズは全然違うけど、手と手を合わせるくらいはできるだろ?
 手ェ出して、手!」

ほら、これさえすれば万国共通でフレンドさ、HAHAHA!

「うん……、分かった」

おずおずと“右手”をゆっくりと差し出してくるゆのちゃん。
小さなオレの手と、大きなゆのちゃんの手が互いに近づいていく。

そして、手と手が触れようとしたところで――、

どうしてかびくりとゆのちゃんの動きが止まった。
キョロキョロと何かに脅えるように辺りを見渡すと、表情が一瞬硬くなる。

「ん? ゆのちゃん、どした?」

……なにか、嫌な空気だった。

じくじく心の痛むようなそんな雰囲気が嫌で、わざとアホっぽく呼びかけてみたんだけど。
……そこにあるのは、笑顔だった。
さっきと同じ笑顔なんかじゃない、とてもとても――今すぐにでもくしゃくしゃに歪んでしまいそうな、そんな顔。

それを振り払いたくて、オレは精一杯手を突き出す。

俯いたゆのちゃんの手がその手に触れかけて――、


「ごめんね」


そのまま、通り過ぎた。


「  」


オレは口を開く。
何か、言おうとしたんだと思う。
自分でも何を言いたかったのか、分からない。

でもどうしようもなく、口を開く時間など残されていなくって。


そのままゆのちゃんの右手が、オレの首にあてがわれた。


世界が軋む音がする。
オレが軋む音がする。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

世界がヒビ割れていく。
オレがヒビ割れていく。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

まるで霧の迷路に迷い込んだように、すべてがしろくそまっていく。
まるで火箸を突き刺されたように、からだがまっかにあつくなっていく。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぽたり、と、オレの体に何かが落ちた。
ゆのちゃんが、ぼろぼろ涙をこぼす。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

何がそんなに悲しいんだろう。
何がそんなに辛いんだろう。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

枯れ木を踏んだ時の音がして、胸から下が動かなくなった。
魚の皮を食べた時の味がして、口から赤いものが溢れだした。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

おいおい……、泣くなよぉ。
さっきまでの柔らかい笑いの方が、ずっと似合ってるってば。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

残念……だな。
こんな女の子ひとりをさ、えがおにさせてやるこ××××××

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

×のしか×たぞ
じゃ……がっつ

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

 …… ……      ……  ……
……    ……  ……

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎ


*****


何もかもなかった事にできたなら、どれだけよかっただろう。

吐いた。
思いきり、吐いた。

何度も何度も、吐いた。
出るものが無くなっても、吐いた。

服が、顔が、手が、ずっと握ったままのパックさんが、すっぱいにおいのするモノだらけになっても、止まらなかった。

どれだけ吐いても、全然足りない。
私の中にある黒いものは、どれだけ吐いても出て行ってくれてない。

「う、ぐぇ、げぇ……っ! ひっく、ひぐぅっ、ぐぇぅぅぅうううぅわぁぁぁあぁぁ、
 ひぁぁあああぁぁぁ、ひゃううぅぅあわぁあああぁぁぁあああっ!」

殺した。
殺した。殺した。殺した。

この、右手で――殺した。

手を差し伸べてくれた、あったかくて小さな友達を。
死にたくないからってだけで――殺した。

殺した、殺した、殺したんだ。

「ひぃぃあああぁぁああぁぁあぁ、やぁ、いぃゃぁぁあああぁあぁ、
 うぐ、うぉるるるるろぉぉぉぉぉげぇえええぇえぇえ、がはっ、ぅぐぉるるろろろろろぇええぇっ!!」

また、臭い汁をいっぱい出した。
あちこちがべとべとする。

ああ、私の中にはこんなキタナいモノが詰まってたんだなぁ。

悲しかった。
だから、泣いた。

そんな資格がないって分かってて、だからこそその資格がなくなったんだって思い知らされて。
自分が嫌で嫌で苦しくて自分が自分なのが嫌で、また泣いて。
涙を出しては泣いてる自分があまりに自分勝手なことに、更に泣く。

はあはあって、息を荒げながら、右手を見た。
パックさんを絞め殺した、右手を。

最後まで笑いかけてくれたパックさんのその表情が、頭にこびり付いている。
いっそ理不尽な仕打ちに怒ってくれたらまだ気が楽になったのに。
……そんな事を考えてパックさんを恨みそうになる私が、心の底から惨めだった。

生暖かい温もりがが消えてくれない。
張りがありながらも柔らかい手触りが、
ゴリゴリと骨が折れていく感触が、
血管がビクビクって跳ねる勢いが、
蚊みたいな呼吸と一緒に膨れ上がる圧力が、
記憶からこぼれ落ちて欲しいのに。

パックさんの息遣いが今も耳の傍で聞こえてる。
この右手の感覚がある限り――。


そこでようやく、気付いた。

なんでだろう、どうしてだろう。
どうしてこんなに、世界は残酷なんだろう。

いつの間にか、右手の感覚が戻ってた。

パックさんの鱗粉まみれになった、その腕。
生まれてからずっと私にくっついてた右手。

でも、今はその右手が――、理由もなく治ってしまった右手が――、
醜くおぞましくて、気持ち悪かった。

「あ、あ……」

がくがくと体が震える。

得体の知れない汚物にしか、見えなかった。
お父さんとお母さんのくれた右手なのに、憎いとさえ感じた。

腕を治してもらうって理由と命を助けてもらう約束があったから、私殺したんだよ。
でも理由が半分、無くなっちゃった。

そうだ。
感覚を失った右手なら、機械のように殺す事が出来ると思ったのに。
2人も殺してしまったんだから、3人目も同じにできると思ったのに。

それさえもかみさまは、ゆるしてくれなかった。
それだからこそかみさまは、ゆるしてくれなかった。

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

肉を握りしめる音が、耳から離れない。

いつまでも。

いつまでも。

いつまでも――。


「う、ぁぁ、あぁあああぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁっ!!」


がりがりって頭を掻いた。
感覚が戻ったばかりの右手で、臭いものがいっぱいこびり付いた左手で。
ぎりぎり、を消す為に、がりがり、を。
髪の毛が吐いたものだらけになるのも気にせずに。

髪留めが落っこちて、どっかに転がっていった。

何度も。
何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり

爪の間に肉の塊がごっそりと詰まっていく。
ぬるぬるした感覚が、頭全体に広がってく。
生温かいのに寒気がするって、変な感覚が体に満ちる。
目の中に赤いものが流れ込んでくる。
痛みが心地良さにさえ変わっていく。
そんなオカシナコトが快感になるくらいに、狂っちゃいそう。

……そっか。
狂っちゃえば、いいんだ。

ぼんやりとしたあたまで、パックさんの荷物を引き摺りだす。
私の荷物には、大したものなんてない。
でも、友達って言ってくれたパックさんの荷物になら――望みを叶えてくれそうなものがある気がした。

そして、こんな時だけ願い事は叶っちゃった。

パックさんの荷物の中に――、注射器が一つ、あった。

毒かな、麻薬かな。
こんな殺し合いに支給されるくらいなんだから、きっとひどい薬なんだろう。
それこそ私の頭を馬鹿にしてくれるくらいに。

宮ちゃんたちに色々ツッコまれたりしてる……してたけど、そんな時の私の頭よりもずっと馬鹿に。

宮ちゃんもヒロさんももういない。
そして、沙英さんに会ったら、きっと人殺しって目で見られる。

やだ。そんなの、やだよ。
戻れないんなら、壊れちゃいたいよ。

その場に座り込んで、べとべとする右の袖をまくった。
この注射をしたら、この右腕が腐ってくれないかな、なんて、そんな事さえ思う。

そしてゆっくりと針の先を近づけて――、


「うぁああぁああああぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁ、ひ、ぁ……。
 ううぇぇええええぇぇぇぇぇえええぇん、び、ええええぇええええぇぇえぇえええぇん……」

ぽとり、と、注射器が落ちた。

私には――無理だった。
狂う事なんて、“まだ”私には出来なかった。
私は生きたいだけで、狂いたい、なんて思ってなかったから。

だから、この注射器の出番は多分もっと後なんだろう。
たとえば私が大切なひとたちの事を強く思いだしてしまって、狂ってしまってもいいと思ったその時に。

「……生きなきゃ」

もう、後戻りはできないよ、ゆの。

パックさんを殺しちゃったんだから、その分まで生きないと。


私は泣きながら笑っていた。
ずっとずっと、終わらない幻聴を聞きながら。


ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり

ぎりぎりぎりぎり



【パック@ベルセルク 死亡】

【F-05/神社(鳥居)/1日目/午後】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:貧血、吐き気、全身吐瀉物まみれ、頭部に爪による切り傷(出血量:中)、後頭部に小さなたんこぶ、疲労(中)、幻聴
[服装]:吐瀉物まみれの白いワンピース、髪留め紛失
[装備]:混元珠@封神演義、イエニカエリタクナール@未来日記、パックの死体
[道具]:支給品一式×2(一食分と水を少々消費)、制服と下着(濡れ)
[思考]
基本:死にたくない。
1:人を殺してでも生き延びる。
2:壊れてもいいと思ったら、注射を……。
[備考]
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりました。パックの鱗粉により感覚も治癒しています。
※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。
※イエニカエリタクナールを麻薬か劇薬の類だと思っています。


【イエニカエリタクナール@未来日記】
未来日記パラドックスにて、ムルムルがみねねに打ち込もうとした薬剤+注射器。
これを投与されたものは急に家に帰りたくなる。
効果はそれだけで、麻薬のような精神高揚や思考力低下作用などはないと思われる。
もし、潜在的なホームシックを無理矢理抑え込んでいる者に投与したとしたら……?


*****


ざくりざくりと雪を踏みしめ、足跡を残し、探偵は進み行く。

彼があとほんの数分だけ留まっていれば防げた悲劇を、気付きさえすることなく。

顧みさえ、する事はなく。


【F-05/神社(参道)/1日目/午後】

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕
[服装]:
[装備]:コピー日記@未来日記、クリマ・タクト@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝我妻由乃の思い出の写真、
    ニューナンブM60(5/5)@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、
    警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、
    A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、
    A3サイズのレガートモンタージュポスター×10
    永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE
[思考]
基本:雪輝の生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
0:神社付近及び永久指針(エターナルポース)の示す先を調べる。
1:『神』の謎を解く。直接交渉し、生存の保証を確保したい。
2:偽装した自身の死を利用して、歩や由乃に感づかれないよう表に出ずに立ち回る。
3:コピー日記により雪輝たちの動向を把握、我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記の更新は諦めるが、コメントのチェックなどは欠かさない。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:リヴィオへの感謝と追悼。
10:出来ればひょうに直接会ってみたい。
11:何故、僕はデウスの声を知っている?
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
 詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
 みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※パックからひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※胡喜媚から彼女の能力などについて若干の情報を得ています。

※永久指針は神社周辺の何処かを指しています。


【F-05/神社(社務所)/1日目/午後】

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(大)、睡眠、全身に打撲と火傷、ひょうへの恐怖?
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、エタノールの入った一斗缶×2
[思考]
基本方針:???
0:スープーちゃん……。
1:スープ―ちゃんを取り返しっ☆
2:妲己姉様、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
3:復活の玉を探して理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化は可能ですが、時間制限などが加えられている可能性があります。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです。
※第二回放送をろくに聞いていません。
 妲己の名が呼ばれたのは認識していますが、その意味は理解してないようです。
※雉鶏精としての能力により、時間移動が可能です。ただし大量の体力を消費します。
 時間移動はできても、空間移動はできません。


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