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セイギニッキ

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セイギニッキ ◆lDtTkFh3nc



―――――躯体損傷率32%、戦闘行動ニ支障ナシ タダシ、スペックノ低下ヲ確認――――
―――――現在地及ビ環境ノ再確認…ヤハリ不可能 不明ナデータガ多スギル―――――
―――――メモリー内ニ発生シタ原因不明ノ ノイズハ未ダ変化ナシ―――――

―――――――死トハ、ナンダ?イノチ……トハ……?


左腕を欠損した状態で青年が歩いている。
ボロボロの学ランにその腕では、誰がどう見ても重傷人である。
しかし彼は何も感じていない。それは彼が機械の体の持ち主、マシン番長だからに他ならない。

「先程ノ戦闘ニオイテDBニ障害ノ可能性ヲ確認。念ノタメ代用品ニバックアップヲ残ス」

そう彼が呟いているのは、右手に持ったボイスレコーダー。
彼の鞄に支給されていたもので、それなりに最新式なのであろう。
しかし彼にとっては故障の可能性がある自身の記録装置の代用品に過ぎない。
淡々と、現在の状況やこの数時間に起こった出来事を言葉にし、記録してある。
マシン番長は欠損した左腕の修理の為、研究所へと移動している最中だった。

「先程排除シタ2名以降、参加者トノ接触ハナシ。参加者ノ人数ハ100名以下ノ可能性ガ高イ」

支給品の確認やボイスレコーダーのチェック、それに戦闘に「多少」の時間を費やしたとはいえ、かれこれ30分は移動している。
その間誰とも会わなかった事とこの島の面積を考えると、参加者はその位だろう。
自分が参加していた同種の戦い「23区計画」など、東京の半分ほどを舞台に23人の参加者なのだから、特に注目すべき数字でもない。
現在の自分は損傷を抱えている身である。未知の強敵が居る可能性を踏まえれば、むしろありがたい話だった。
ところが…

「前方ニ人影ヲ確認。照合ノ為接近スル……データ照合……完了。
 該当件数1件。元港区……剛力番長―――確認」

闇の中で、自身の敵である少女を確認したマシン番長は地を蹴り、跳ぶ。

    ◇     ◇     ◇

少女は天を見上げ、立ち尽くしていた。
上半身を包むものは何も無く、細やかな白い肌が露出している。
一応羞恥心はあるのか、つつましいその両胸を腕で隠していた。
ざんね…いや、一安心である。

彼女は今、そんな事に必要以上に気を配っている場合ではない。

「私は先程テロリストと戦って……卑劣な爆弾攻撃を受けて……」

一言ずつ確かめるように呟きながら、現状を確認する。

「……ひどい、傷を負いました。それからあの女性が私に何かを……」

一つ一つ思い出すように語るその姿はひどく儚げで、苦しそうだった。

「目が覚めたら、傷が治っていた……間違いない、ですわ……」

確認を終え、視線を地面へと移す。自分の周辺の荒れ具合が、考察の正しさを証明していた。

「私、私は……」

その時

ゴッッッ!!!

強烈な衝撃が彼女の胴体を襲う。
咄嗟にガードし、受身を取るも勢いは殺しきれず、ごろごろと転がり近くの木に衝突した。

「ぐっ!」
「剛力番長―――確認。生態レベルデノ誤差、25%。奇妙デハアルガ、戦闘ハ続行スル」

右手に持った何かに話しかけながら、その襲撃者は接近してきた。
すぐさま立ち上がる剛力番長。追撃を仕掛けんとしてくる男に対して問いかける。

「あなた…一体何者です?どうしてこんな…」
「ソノ質問ハ理解デキナイ。俺トオマエハ既ニ接触シテイル」

一切表情を変えることなく男は呟く。疑問を抱きつつも、剛力番長は更に問いを続けた。

「……あなた先程、私の事を『剛力番長』とお呼びになりましたね?」
「……ソウダ。俺ノデータベースデオマエノ生態情報ト合致スルノハ、剛力番長シカイナイ」

男の返答を受け、少女が顔を俯かせる。
表情は見えないが、何かを呟いているようだった。

「……? トニカク、番長抹殺プログラムニヨリ、オマエヲ処理スル」

言うなりその右足を剛力番長の顔面に向けて振り上げる。
俯いていた少女は蹴り上げられ、小さな体を宙に浮かせた。
そこへ追撃のハイキックを放つマシン番長だが、今度は受け止められてしまう。
そのまま足を振りぬき引き離そうとするも、彼の足を鉄棒代わりにくるんと体を回転させ、少女が飛び上がる。
さらに空中で回転し体を捻ると……

「ハァッ!!」

組み合わせた両拳をマシン番長の脳天に叩き込んだ。
よろめくマシン番長を横目に着地し、ス…と右手を後ろに引く。
掛け声と共に、その手を相手の腹目掛けて一気に突き出した。

「ムッ!」
「ディバイン・ハンドーーー!!!」

強烈な張り手の一撃を受けて、マシン番長の体が吹っ飛ぶ。
近くにあった岩に激突すると、彼の体は地面に落ちた。
それなりのダメージを与えたはずなのに、あっという間に反撃をしてきたことをいぶかしむ。

「……驚きましたわ。私と同じで、変わった体をしていますのね」
「……躯体損傷率47% 戦闘行動ニ支障。更ニ剛力番長ノデータト能力ニ齟齬ヲ確認。
 コノ状態デノ勝率…72%。戦闘続行」

マシン番長が生身でないことに気づいた剛力番長の質問には答えず、自身の状況を分析する。
少し不機嫌そうな顔を浮かべ、剛力番長も身構えた。

「……答えて下さらないならそれで構いませんわ。ここからは、ただの独り言です」
「ライトニング・フィスト」

マシン番長の右拳が撃ち出される。
弾丸の如きスピードで迫る拳を剛力番長は鮮やかにかわすと、力強く地を蹴り前に跳んだ。

「!?」

データ上の剛力番長なら見切れるはずのない速度で撃ち出したにもかかわらずかわされる。
それが一瞬マシン番長のコンピュータの思考を混乱させた。

「やっ!」

そこに叩き込まれるドロップキック。
マシン番長の体が、背後に残っていた岩にめり込む。

「正直言いますと私、あなたに感謝していますの。目が覚めて最初に会ったのがあなたでよかったですわ」
「……k体損傷率……54%。コn能力ハデータニナイ……」

ミシミシと体を軋ませながら、マシン番長も立ち上がってくる。

「…なんだか夢を見た後のような気分です。私の記憶はしっかりと残ってるのに、それがまるで……
 そう、ずっと昔の、忘れた事の書かれた日記を見たような…そんな、不安がありましたの」

少しだけ距離をとると、ぶんぶんと両腕を振り回しだす剛力番長。

「でも、あなたは私を剛力番長と呼びました!生憎私はあなたのことを存じませんけど…
 でもそれは私以外から見ても、私は私ということで……えっと……なんだかややこしくなってきましたわ」

首を傾げ、少し困った顔を浮かべる。

つまりは、こういうことであった。
重傷を負った剛力番長に注ぎ込まれた『賢者の石』。
本来なら宿主の自我を飲み込み、肉体を破壊しかねない危険な石。
しかし多くの参加者や支給品がそうであるように、この石の力もまた、『細工』の対象であった。
石は自我や記憶を奪う事は無く、その衝撃に耐え抜いた肉体に力を与えるのみだったのである。

元々頑強だった体にはホムンクルノの『再生能力強化』がなされ、『憤怒』の石が持つ『最強の眼』も彼女の物となった。
だが、見た目に変化はほとんどない。最初に会った相手だって、自分の姿を見てその名を呼んだ。
姿も記憶も自分の物となれば、その存在に疑う余地があるだろうか。

「生体データ再確認……誤差ハアルガ、間違イナク剛力番長。タダシ、能力及ビ言動ニ不可解ナ点ガ見ラレル」

マシン番長の考察は、間違っているが正しい。彼の感じる不可解さは別の要因によるものが大きいが、
何の支障も無かった訳ではない。『賢者の石』とはそこまで甘いものでもなかった。

自我を守り、肉体の形も守った。記憶だって、奪われたわけではない。
しかし、混ざりこんだ『賢者の石』が彼女の『記憶』のみ微かに……曖昧にする。
それは本来より小さな歪み。気にしなければ気にならない、その程度のものに過ぎない。
だがもし、己の存在を、過去を疑いだせば……堤防に穿たれた小さな穴のように、機を見て不安を噴出させるだろう。
一度噴出したそれはおいそれとは止まらない。
ただでさえ不安定だった彼女の心は、仮初の堤防を破壊され全てをその濁流に飲み込まれる。
そうすればこの石本来の宿主のように……
己の魂に、自己統一性に疑問を抱き、人としての自分を肯定できなくなるかもしれない。

だから、そんな小さな穴を生まぬよう無意識に彼女の心は縋りつく。
常に心に刻んで生きてきたはずの、『正義』という二文字に……

「私は剛力番長!正義の名の許に戦い、キンブリーさんを優勝させて、全てを蘇らせるのが使命ですわ!」

自分に言い聞かせるように宣言する、歪んで固まった正義。
それが彼女にとって都合の悪い記憶を『改善』していく。

「例え悪までも蘇らせてしまうとしても、その悪は私が責任を持って叩きのめします!
 あのテロリストを従わせた女性のように!」

気合を乗せた叫び声と共に両腕を突き上げる。

雨流みねねとの戦いの際、超至近距離で起きた爆発の為彼女の耳は一時的に聞こえなくなっていた。
倒れた状態ではっきりとその光景を認識することも出来なかった彼女は、辛うじて見えた二人の女性のやり取りをこう判断した。

『あの女性はテロリストをなんらかの方法で屈服させ、協力させた。
 私を治す為に劇薬を使い、悶える私の姿が忍びなくて先に姿を消した』と…

都合の良い解釈にも程がある。
だが、元々思い込みの激しい性格である上、人生ではじめて感じる過度のストレスが彼女にそう思わせたのかもしれない。
それに、力を貸してくれる存在がいるということが、自分が正義であることを証明する要素の1つとなる。

迷走と思考放棄の果てに、彼女は無意識にある種『正当』な理由を見つけてしまった。
自分が自分である為に、正義の実行者でいること。

『我は正義、故に我あり』

矛盾にも程がある主張。
逆に言えば、それしか縋るところのない現状。

「私は先程一度死にました……迷い、敗れ、正義を失いました」
「……イノチ、死……生態反応ノ停止……」
「いいえ、死とは己の信念を曲げてしまう事!曲げられてしまう事!
 今度こそ私は自分の正義を信じぬき、勝利します!
 だからあなたも……ここで倒れてください!正義の為にっ!!」

全力で地面を蹴り、頭からマシン番長に突っ込む。

「ヤァァァァァ!!!!」

グシャリッ!

激しい衝撃に見舞われ、背後の岩全体に亀裂がはしる。
胸部にダメージを負ったマシン番長は無表情のまま、一言も発することなく、機能を停止させた。


    ◇     ◇     ◇


「うーん、やっぱりこのままというのはマズイですわね。お洋服は……ありませんか。
 デパートに戻るか、学校あたりで調達する必要があります」

自分の武器を回収した後、襲撃者のデイバッグの中身をチェックする。
戦いも終わりやっと一息ついたので、自分の格好を何とかしたかったのである。
自分のバッグはどうやら爆発の衝撃でどこかにいってしまったらしい。
生憎と服の類は見つからなかったが、有用なものは入っていた。

「……これは、ちょうどいいですわ。亡くなった方から物を頂戴するのは気が引けますが……
 有効に活用しますから勘弁してくださいね」

そういって彼女が取り出したのはボイスレコーダーだった。
マシン番長が万が一の為の記録用に利用していた道具を拝借し、なにやら吹き込み始める。

「私の名前は白雪宮拳。剛力番長ですわ!これからこのレコーダーに、日記をつけることにしましたの」

嬉しそうな顔で、言葉を続ける。

「これから私は、正義の実行に参ります。キンブリーさんを優勝させて、皆を蘇らせて貰う為です。
 険しい道のりでしょうが、協力者も居ます。だから挫けることの無いよう、ここにその歩みを残そうと思うのです」

これも結局、建前だった。
彼女は不安定な自分の記憶の埋め合わせが欲しかった。
自分の行動を記録し、残しておく事で、何か安心する。それだけの理由。
それをまたも正義のオブラートに包むことで納得しているだけ。
なんと不毛な行為だろうか。なんと不安定な心だろうか。

だが彼女はそうは思わない、思えない。
思ってしまえば、その心は二度と立ち上がることが出来ない不安を抱えているから。

喜怒哀楽を過剰なほどに織り交ぜて……彼女はこの島に来てからの過去を吹き込む。
自分が殺してしまった少女への懺悔、不思議な力を持った男との出会い。
自分を惑わせた少年の言葉、にっくきテロリストとの戦い……不思議な女性の施し。

彼女の日記は未来を示さない。
歪んだ過去を補完し、その形のまま固めてしまうだけである。
運命から目を逸らした、悲しき『過去日記』……

「そう!私はこれを、『正義日記』と呼ぼうと思いますわ!」


【H-5南東/森の中/1日目 早朝】

白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:健康 ホムンクルス 『最強の眼』
[服装]:上半身裸
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6  ボイスレコーダー@現実
[思考・備考]
0:全員を救うため、キンブリーを優勝させる、という正義を実行する
1:ひとまずデパートや学校等の施設に向かい、服を確保
2:キンブリー以外は殺す。
3:強者を優先して殺す。
4:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
5:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す
6:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がみねねの敵だと信じています(妲己の名前は知りません)。
 二人の会話も聞こえておらず、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。



    ◇     ◇     ◇


剛力番長が去って少しして…両膝をついて停止していたマシン番長の内部から機械音が鳴り出す。

(一時的ナ機能ノ停止ヲ終了。躯体及ビメモリーノ確認ヲ開始…
 躯体損傷率71%。コノ状態デノ戦闘ハ望マシクナイ。
 メモリー内ノノイズハ継続中。他の記録ニ不備ハ無イトミラレル)


剛力番長の頭突きを受け、死亡したと思われていたマシン番長。
しかし、彼は自ら一時的に機能を停止させていたに過ぎなかった。
いわゆる死んだフリ、である。
理由は単純明快、あのままでは勝率がやや低かったからだ。
左腕の欠損や事前データの不備などから、激しい損傷を与えられた。
この時点で勝率は50%を下回っており、戦うべきではないと判断した。
目的達成の為にはここで倒されるわけにはいかない。
研究所で整備を行い、再収集したデータを用いて再戦を行うのが合理的である。
故に彼女が何やら語っている間も、変化した彼女のデータをできるだけ収集していた。

彼がただの強者であれば、そのプライドがこんな行動を許さなかったかもしれない。
だが彼は目的遂行を最優先する戦闘機械。そんなものは持ち合わせていない。
勝利の為なら無様な行為も、卑怯な行為も厭わないだろう。
ただ単に、今までそれをする必要がなかっただけである。

ともあれマシン番長は立ち上がった。

(第一目的ニ変更ハナシ。研究所ニ向カイ、整備及ビ情報収集ヲ行ウ。
 剛力番長ノ変化ニツイテノ考察ヲ行イ、対策ヲ練ル必要ガアル)

相変わらずの無表情で歩き出すマシン番長。

「信念……イノチニ代ワル新タナ概念……ヤハリ理解デキナイ」

だが青年の悩みは、ますます大きくなるばかり……





【H-5南西/山道/1日目 早朝】

【マシン番長@金剛番長】
 [状態]:左腕損失 胸部を中心とした全身にダメージ メモリー内にノイズ
 [装備]:
 [道具]:不明支給品1 基本支給品一式
 [思考]
  基本  :殺し合いに勝ち残り脱出。Dr.鍵宮の指令を遂行する
  第一目的:研究所へと向かい、整備と情報収集
  第二目的:番長や他の参加者等は処分する。ただし、現状で倒せる相手限定
  懸念事項:メモリー内のノイズ、剛力番長の変化
  ノイズ :イノチ…死とは何か。魂、心、信念などに対する興味。詳細はまだ不明
 [備考]
※参戦時期は四番長(居合、卑怯、剛力、念仏)殺害後、Dr.鍵宮の指示で月美の部屋に行くまでの途中。
※剛力番長の肉体の変化に気がつきました



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050:鬼巫女 白雪宮拳(剛力番長) 085:夜明けだョ!全員集合(前編)
036:イノチ/タマシイ/ココロ マシン番長 067:電気羊の夢

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