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追憶のノクターン

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追憶のノクターン ◆JvezCBil8U



*

ジャック・クリスピン曰く。

やったら、逃げろ。


*

「くそ。やられっぱなしで……たまるかっての」

痛む背中を抑えながら、高町亮子は様子を伺いつつ静かに起き上がる。
――酷い有様だ。
すえた血の鉄臭い臭いが鼻につく。
脳ミソが無造作に散乱している光景は、全く以って教育によくない。

「う……、見るんじゃ、」

なかった、という言葉を続けず、静かに飲み込んだ。
人が死んだ、その結果が目の前にあるのだ。
人を殺すというのはこういう事なのだ。
目を背けてはならない。
蓋をしてはならない。
それは、呪いに負けた自分が起こす光景でもあるのだから。

現状を確認する。
蒼月潮とエドは、それぞれ種類は違うものの結界とやらに捕縛され、動けない。
蝉も、見知らぬ女の子も死んでいる。少なくともそう見えており、全く動くことはない。
聞仲はサンドバックとしてご活躍中だ。

「……あたしだけ、か」

ごく、と唾を飲み込む。
絶望的な状況だ。自分ではここから逆転する目が思い浮かばない。

「このまま、順番に殺されるのを待つだけしかできない?」

……違う。

違う!

まだ、何か出来ることがあるはずだ。
まだ、繋げることが出来るはずだ。

どんな絶望を与えられても、何一つ持たずとも、たった一人暗闇の中で前を向く少年の姿が脳裏に浮かぶ。

「は、はは……」

脚が、がくがくと震える。
今から自分がやろうとしていることは、ある意味酷い裏切りだ。
今この場にいる全員を見捨てる、という事でもあるのだから。



……だが。
それが出来るのは、自分しかいない。
ここで無闇に特攻して死ぬよりも、遥かに後に残せるものは大きいはずだ。
これから後、たとえどれ程、自責の念に駆られるとしても。

「……ッ。あ、ぁぁぁああああぁぁぁあぁぁあああ……!」

陸上部の脚を以って、駈けた。

走る、走る、走る。

そして掴み、今まで以上の速度でひたすらに加速を続けた。
その手に握り締めるのは、流の手から宙に舞った禁鞭。

「こんなモン、これ以上あいつの手に持たせとけないって……!」

後ろを振り向くことはしない。
今こうして、前を向いて走っている間ですら後悔が洪水となって押し寄せてくるのだ。
一度でも止まったら、多分もう戻らずにはいられない。

そんな風に他の人間を心配している余裕など、すぐに消え失せる。

「……な、」

がく、と、一気に体の力が抜けた。

「なん……、これ、ちょ、冗談……ッ!」

信じられなかった。
持っているだけで意識が遠くなる。
自分という存在そのものすべてが、この禁鞭とやらに吸い取られそうな気さえする。

こんなモノをあの男は九秒も振り回し、その上であれだけの立ち回りを見せたというのか?
聞仲の言が、ようやく真実味を帯びてくる。

「〜〜〜〜! ……負け、るかぁっ!」

だったら、だからこそ。
禁鞭を再度流の手に渡すことだけは避けなくてはならない。
今後どれだけの犠牲者がでるか、想像するだに恐ろしい。

トびそうになる意識を理性と根性でねじ伏せて、裂帛の気合で力を体の下部へ。
腰を捻る運動エネルギーを、大腿から膝、脛、アキレス腱、踝、踵、そして爪先へと浸透。

走るだけの機械となるために、全身全霊を費やす。
死んでもいい、できる限りあの男の目の届かぬ所まで、この兇器を持ち去るために。

だから、

「頑張るじゃねーか嬢ちゃん。このオレだって、持ってるだけでもちぃとばかりツレえんだぜ?」

すぐ背後からそんな軽薄な声が届いてきた時、高町亮子は彼女らしくなく泣きだしそうになってしまった。
感動したからでは、もちろんない。



*

「高町亮子は正しい選択をした。
私達を見捨てたのではなく、この島にいる他のすべての人間を守るためだったのは、充分に分かる。
……だが、だからこそ助かったのは私達の方だというのは、皮肉でしかない、な……」

よろりと膝を崩し、その場に座り込むは聞仲。
力が殆ど入らず、既に去っていった彼らを追うのは不可能だろう。
その全身に拳を浴びていない場所はなく、顔はアンパンマン状態だ。

秋葉流は、自分達に止めをさすよりも禁鞭を回収することを選択した。
ある意味当然だろう。
僅か9秒、されど9秒。
それだけの時間行使できるのなら、禁鞭以上に強力な武装はまず存在しまい。
少なくともこの島で有数の武器であるのは間違いないはずだ、手放す選択肢は存在しない。

とはいえ、禁鞭の行使ですらあの秋葉流にとっては数ある戦術の一つでしかないのだ。

全く以って――、腑抜けている。
自分はそんな事にすら気が回らなかったのかと自嘲して止まない。

「ぐ……、」

頬の肉を僅かに動かしただけで痛みが走った。
いくら仙人として最上級の頑丈さを誇るとはいえ、禁鞭の直撃に加えて拳の連打は流石に響く。

こうなったのは宝貝のみに意識を奪われ、流がそれ以外の術理に精通している可能性に思い当たらなかったからだ。

「随分と仙道である事に浸っていたようだな、私は」

かつて、殷の祖である朱氏とともに、そしてある時期より先は一人で積んだ研鑽と鍛錬の日々。
あの頃は自分は普通の人間であり、天然道士ですらなかった。

想いを侍らせ、苦笑する。

今の秋葉流を打倒するには、二段階、あるいはそれ以上のステップを経なければならなかったのだ。
まず第一段階として禁鞭を9秒耐えるか、あるいは流の手から弾き飛ばすか。
彼の成長次第では使用限界時間はより長くなる事だろう。

それを経て、はじめて流本来の戦闘スタイルと相対できるのだ。
おそらくは術と策を駆使したその上で、純粋な暴力を叩きつけるというスタイルと。
どれほど奥の手を残しているのか、推定する事は出来ない。

また、宝貝と術を同時に使用する可能性もある。
とはいえ流石に禁鞭の制御中はそれだけで手一杯だろう。
余程追い詰めない限りは使うまい。

いずれにせよ、しばし体を休めねば。
流の法力の影響が抜けるまでは、満足に戦う事は出来はしないのだから。
その一方で流が戻ってくる可能性を考えるとここに長くいる事も望ましくない。
とりあえずは移動をせねば、と、半壊した花狐貂を回収する。
そして周囲の惨憺たる有様に目を向け、生きているものには退避を促す事にした。

まずは近くにいるものからと、流の結界に囚われた少年を助け出す。
少年は泣き疲れ、それでも悔しそうに手を震わせている。

「ちくしょう、どうしてなんだよ、流兄ちゃん……」

次にエドワード、そして見知らぬ少女を助けようと体を翻した、その時。


「手前らッ! 俺の部下達に何しやがった――――」


闖入者が助けようとした二人の前で、凄まじい形相で睨みつけてくるのを確認。

拙いな、と、聞仲は直感。
本当に拙い事態になった、と。



*

まず、これ、いしき、きえる

くるし、めのまえ、まっしろ、こーすけ 

「……なあ、どうしてそんなにまでして頑張るよ?」

あきらめたくない、から
まけたく、ない、から

「負けたくねェなら、そんなモン持って走る必要はなかったろうが。
あのでけえ十字架で後ろからオレを撃ちゃあ、勝てる可能性は0じゃなかったんだぜ?
ま、その前にツブすけどなァ」

あたし、だれも、ころさない
のろいで、みんな、あたしら、さつじんきになる、おもってる、けど、
そいつらに、ちがう、みとめさせて、やる

おんなじなかまに、あたしのことを、ささえてくれる、やつ、いるんだ
あと、どんなぜつぼうでも、ひとりになっても、わらってみせるやつが、いるんだ
のろいにまけず、あたしだって、まっすぐにいきて、みせてやりたいから

だから、はしる

「誰かの為にどんな絶望でも諦めないってか。あいつに似てやがるな、そいつらもお前も」

まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない

「……嬢ちゃんはよくやったよ。もう楽になれや。安心しろ、痛くはしねぇよ」

いたいの、こわくない、こわいけど、こわくない
あきらめるのと、うしなうののが、もっとこわい

「そーか」



*

グリードは、怒り心頭になりながら苦虫を噛み潰した顔をする。

「くそ……、逃げたか。畜生ッ」

額に目のある男と、槍を持った子供の二人組。
顔はしっかり記憶した。
だが、今はそれどころではない。ここを離れる訳にはいかない。
連中がこの事態を引き起こした可能性は非常に高いが、もっと優先しなければならない事がある。

「どうして、こうなりやがった……! ふざけるなッ、ふざけるなァッ!」

愛沢咲夜。エドワード・エルリック。
彼の部下が二人、意識を失って倒れ伏している。
この二人をどうにか生かさねばならない。
特に愛沢咲夜の容態は、ひどい。

片腕はもう完全に千切れている。
胸のナイフは背の側まで貫通しており、しかもまだ引き抜かれてすらいない。いや、抜くと余計に血が溢れてくるのか。
背骨が折れて胴が捻じ曲がり、腰から下の後ろ前が逆になっていた。
あちらこちらに色々なモノの破片が突き刺さり、激しい戦闘に巻き込まれた事を物語っている。

生きているのが不思議なくらいだ。
ついさっきまで、これ程に助かる可能性が絶望的と思わせる傷は負っていなかったのに。

だがそれでも、グリードは足掻く。諦めない。

「もう二度と、俺の部下は失わせはしねえよ……!」

グリードの脳裏に、前世――タブリスの街の合成獣たちが浮かび上がる。
かつて、部下だったものたち。
今は昔、この世にいないものたち。

もうあの時のように失う事は、御免なのだ。

何か、何かないかと辺りを見渡し、一つのアイデアが浮かぶ。
目線の先に止まるのはエドワード、そして自身の体を順繰りに。

錬金術。
それを用いた、治療の可能性。

ホムンクルスに拉致されるまで、ドクター・マルコーは賢者の石を医学に役立てていたという。
ならば自分の中の賢者の石も、どうにかして治療に使えるのではないか。
エドワードならば可能性はある。

医学は専門ではないとはいえ、エドワードには人体練成の経験があり、役に立たないはずはない。
駄目で元々、賭ける価値はあるはずだ。

ならば一刻も早く、咲夜が死神に連れて行かれる前にエドワードを覚醒させねば。
そう思い立った所で呻き声が耳に入る。

「う……」

「咲夜!? おい動くな、そこでじっとしてやがれ!」

すぐに近寄り、体を抑えて安定させる。
顔を覗き込むと、死人の顔のままゆっくりと、咲夜が目を開けるところだった。

「ぅ、ぃーぉ……?」

ぱくぱくと金魚の様に開く口からは、聞き取れぬほどにあまりにも幽かで力のない確認の声。
グリード? と、そう動かしたように見えた。

「ああ、俺はグリード様だぜ。すまねぇ、遅れ、」


さくり。


「た」

つい今しがたまで咲夜の胸に突き刺さっていたナイフの柄が、今度はグリードの脳天から生えていた。



*

「      」


わずか数文字の言葉を、秋葉流は静かに呟いた。


――いつしか、川縁にたどり着いていた。
戦闘をこなしてここまで走り続けてきたことで、流石の彼も息が上がってきていた。

目の前の川には、学生服を着た茶髪の少女が背を向けてぷかぷかと浮かんでいる。

しばらく見ている間に学生服はどんどん流され、視界から遠ざかっていく。
と、不意にその影が沈み込み、ぽちゃんと水の中へと消えていった。

後に残るのは、男の影が一つのみ。
こぽこぽ、ちょろちょろと、水音だけが静かに染み渡る。



明けの光が射してきて、眩しいくらいに水面で反射した。
本当に綺麗な光景だった。

*

どうして――、と薄れゆく意識の中で自問するも、グリードに答えが出る事はない。
どうして、の答えたる過程ではなく、何故、の答えたる原因が提示されるだけだからだ。

「は、はは、は、ウチ……を、裏切った、罰やぁ……。あは、あは。
 タダじゃ……、死なんよぉ。死ねんよぉ。はははは、は。
 あは、は、ウチな、何一つ、残さないなんて、耐えられへん。
 だから、道連れに、したる。は、あは、あはは、あはははははは。
 悔しいやろ、悔しい……やろ、こんな、騙したつもりの、小娘に、タマぁ取られる、なんてぇ、な」

ただ、これだけは分かる。
またも部下を守りきれず、一人にしてこんな目に遭わせてしまった自分が招いた結果がこれなのだ、と。

「あっはははははははははははははは、あはははははははははははははははは!」

咲夜の虚ろな笑い声が、とても寒々しくやるせなく感じられた。

どうにかナイフを引き抜いたけれども、体の制御が利かない。
制限された状況下ではホムンクルスの回復力でも致命傷には追いつかない。
思考能力が低下して、もう、まともにモノを考える事が出来なくなってきている。

……しゃあねえか。惜しいけど、返すぜ。
感謝しろよ? この強欲のグリード様が自分のモノを手放すなんて、滅多にねえ事なんだからよ。

「なあ、咲夜。すまなかったな、守れねぇでよ。
 ……その分は黄泉路で清算してやる。だから、今度こそ俺について来い。
 あっちにいった他の部下連中ともども、閻魔相手に地獄の国盗りしよう、じゃ、ねぇ、か……」


ぷつ、と、スイッチが切れた。
まっくらになる。

父親に還る事無く、本当の意味での死を迎えたのはこれが最初で最後だった。



【グリード@鋼の錬金術師 死亡】

*

ぎゅう、と抱きしめられ、守れなくてすまないと耳元でささやかれた。

「ぁ、あ、あぁ……」

それだけで、咲夜は裏切られてなどいなかった事を悟った。悟ってしまった。
だから、自分が何をしでかしてしまったのかは、聡明な咲夜には明々白々だ。


「あぁぁぁああああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁ
 ぁああああぁぁあああぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁ
 あああああああぁぁぁああぁああぁぁぁあああぁぁあああぁああぁあ
 ああぁぁぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああぁぁあああああぁぁ
 ぁぁぁああぁぁああぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁああぁ
 ああああぁぁぁああぁぁぁぁああああぁぁああぁぁああああぁぁっ!」


咲夜に最後に残った感情は、この上ない自分への嫌悪と絶望の2つ。

そして、しばらく。
ぷつりとある一時を以って絶叫が途絶える。

後はただ、静かな森が広がるばかり。
グリードの抜け殻と少女の残骸が、転がっているだけだった。



【愛沢咲夜@ハヤテのごとく! 死亡】




*

今もこの手に、人を殺した感触が残っている。


「やっちまった……なァ」

朝の陽光が木漏れ日として射す、木の葉の擦れる音と水音以外は何もない森の傍。
枝や葉っぱ、何かの木の実といった雑多なものが時折渓流を流れ落ちていくその様を、秋葉流は畔の岩に座り込んでただ眺めている。

思い描くのは、つい今しがたまで追いかけていた少女のその表情。
それがどうにも、自分を慕う蒼月潮に重なってしょうがなかった。

「男って、一生のうちに何人の女の子の涙をとめてやれるんだろ、か……」

盾にしてしまった少女と、追ってきた少女の二人を脳に留め、刻む。
身勝手な自分が巻き込み、死に臨ませた事を何があろうと忘れないように。

「おめえならきっと、望んだ数だけで……」

くく、とここではないどこか遠くを見て――寂しげな笑いを洩らす。

「オレならきっと、誰一人だって無理なんだろうさ」


そうだ、自分は蒼月潮ではなくて、蒼月潮になる事も出来ない。
あれだけ痛めつけても、あれだけ裏切っても。
それでもなお、

「どうして……、まだ、あんな目でオレを見れるんだよ」

最後に見たうしおの表情は、自分を信じたくても信じきれない、というもの。
馬鹿だなァ、と思う。
それはつまり、まだ、『流兄ちゃん』を諦めていない、のだろうから。

「……もう少しだけ、夢を見させてやってもよかったかね」

蝉という男に邪魔されなければ、もう少しだけ優しい流兄ちゃんの演技をしてやっても良かった。
そうすればその分だけ、うしおを絶望させられたかもしれない。

もっと痛めつけるには、どうすればいいだろう?
ふと、一つの妙案を思いつく。

いくら自分でも流石に少し、疲れた。
自分に与えられたもう一つの支給品で多少の回復を図ったとはいえ、焼け石に水だ。
だから、作戦を少しばかり切り替える。

しばらくは戦闘を温存して、うしおの悪評を広めるのはどうだろうか?
蒼月潮とその仲間はペテン師だと、殺し合いに乗っていない振りをして皆殺しを企む凶悪な連中だと。
どこか人の良さそうなグループを取り込んでそんな噂を流してもらうのも悪くない。
うしおはこれから自分が守るべき善良な人々から拒絶され、疑われ、怨まれるのだ。


そうしてうしおを追い詰める算段をする一方で、心のどこかが悲鳴を挙げている。

……演技だったのだろうか?
中村麻子が死んだ事への気遣いも、ニセモノだったのか?

流は、自分の心を確かめる事をそれ以上やめた。

もしかしたらほんとうに、うしおの涙を受け止めてやるつもりだったのかもしれない。
たとえそのあとに裏切る事を決めてても、せめて泣き止むその時までは。

だけどそれを認める訳にはいかない。
それは自分が今までしてきた事すべて、ひいては自分が殺した人間の生き様までも否定する事なのだから。

はじめて殺した相手、蝉という男は何と言っていたか。

「自分を信じて、対決しろ……、か」

いいなあ、と、その言葉を羨んだ。
そんな真っ直ぐな生き方をしてみたかったなあ、と。

流は願う。

自分を信じて対決する。
こんな自分でもそんなことの出来る相手が、現れてくれないかと。

つい今しがた邂逅した聞仲という男は、どこか自分と同じ匂いがした。
もしかしたらどこか切望していた相手かもしれないと、あの男が本気を出す事を心から望んだ。
けれど今のあの男はあまりにも腑抜けすぎていて、自分の期待には適わなかった。

結局互いに本気でぶつかり合える相手として思い浮かぶのは、たった一人、いや、一匹のバケモノだ。

「とらぁ……、今、どこで何してやがる」

風は止まない。
風は吹き抜けていく。

「てめえをぶち殺さなきゃ、うしおだってオレを見限ってくれねぇだろうがよ……」


木の葉を散らせて川面に細波をよせながら、風は、どこか遠くへと。


【E-04/森に面した川辺/1日目 早朝・放送直前】

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(中)、法力消費(中)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 0:興奮と虚しさが同居。
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
 3:高坂王子、リヴィオを警戒。
 4:聞仲に強い共感。
 5:体力が回復するまではどこかの集団に紛れ込むのもいいかもしれない。
 6:とらと戦いたい。
[備考]
 ※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。

【仙桃エキス@封神演義】
体力回復効果のある錠剤。一日3回2錠ずつ服用する事で、体力を約5割回復できる。
つまり1回服用するごとに回復するのは2割弱程度。
連続して服用しても効果は出ず、数時間置きに摂取するのがよい。
また、休息と併用すれば効果はより高まる。
注意点は怪我の治療はできないこと。
あくまで効果は体力や魔力、霊力、法力といったエネルギーの補給のみ。


*

ふらふらとした力ない足取り。
座り込み眠る聞仲を背後に、蒼月潮は一人どこかへ向かおうとしていた。
ぎゅう、と槍を握り締め、歯を噛み締めて食い縛る。


「……どこへ行く、少年」

眠った、と思ったのは錯覚だったのだろうか。
あるいは眠っていてもほんの僅かな違和感で覚醒できるのかもしれない。

「止めなきゃ、流兄ちゃんを。……おじさん、引き止めないでくれよ」

「今更行っても、無駄だ。私達の現状の戦力で彼に向かっても皆殺しにされるだけだ。
 近づくのは只でさえ愚策なのだし、向かうにしても体勢を整えてから行くべきだろう」

そうだ。
少なくとも、うしお一人で立ち向かって勝てる相手ではない。
だからこそ逃走の一手を打ったのだ。

「それじゃあ、あそこにいた人たちが助からねぇじゃんか!
 どうしてそう簡単に諦めちまうんだよ! もう、人が死ぬのは嫌なんだよぅ……」

「ならば尚更だ。向かえば少年自身が死ぬ。それこそ命の無駄遣いだぞ」

諦めた訳ではない。生かせる命を生かしたら、この少年しか残らなかっただけの話だ。
殷の大師として様々な局面で、たくさんの命を切り捨てる選択を聞仲は何度も行ってきた。
そしてまた、自分の手で数々の命を殺めてきた。
だからこそうしおを眩しく思う。
青く、真っ直ぐだな、と。

この少年は生きねばならないと、そう感じさせられる。

なのに、うしおはこう告げるのだ。

「蝉兄ちゃんが、最後に言ったんだ。自分を信じて対決していけ……って」

遺言だから、一人煉獄に身を投げ出すと。

「だったら、止めるしかないだろ!?
 ああそうだよ、オレはちっぽけで、獣の槍やとらや、みんなの力をオレ一人の力って思い込んでたよ!
 ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお!
 麻子も、蝉兄ちゃんも、あの女の子も、みんな助けられなかったんだよ!
 だったら、だけど、このちっぽけな力だけでできることをするしかねぇじゃねえか!
 何もできてねえ自分が、許せねえんだよォ……ッ!」

彼の責任などどこにもないのに、ただひたすらにうしおは自責している。
小さな体が闇に押し潰れそうで、なのにそれでも立って歩くうしおの背中に、思わず聞仲は声を大きくしていた。

「あの青年の言っていたのはそういう事ではないだろう!」

「でも、我慢できねぇんだよ!
 誰かが殺されるのも、流兄ちゃんが誰かを殺すのも!
 オレが死ぬって分かってても、救えるんだったら惜しくねえよ!」

――そうか、と納得する。
あの流という男が歪んだ理由を、今自分は目にしているのだ。
こんな少年を自分と見比べてしまったら。
こんな風に生きてみたいと思ってしまったら。
そして、そう生きるのにあまりに自分は道を進みすぎてしまっていた事に気付いたなら。

似ている。
あの男は、自分とよく似ている。

これまでの生き方を全て否定されているように感じられて、自分が自分である事に固執して。
だから狂ってしまったのだ。
自分のアイデンティティたる殷が滅びに向かうが故に、新しい風を否定した自分と同じ様に。

ああ、だからこそ。
理解できるからこそ。

「そのやり方では、誰一人救えない!」

「だったらどうしろって言うんだよぉぉぉぉっ!」

今もまだ信じたがっているからこそ、この少年にはあの男を止める事はきっとできないだろうから。


「――私が、力を貸す。少年」

自分こそが秋葉流を止めねばなるまい。あの青年はかつての自分なのだから。
そしてこの鮮烈な息吹を守りたいと、そう思う。


「だ、駄目だよ。おじさんまでオレに巻き込めねえよ。
 オレ一人だから、構わねぇんだよォ……」

誰よりも優しく、意地っ張りな少年を。

「少年。あの様な理不尽を許せないのが、少年だけだと思うのか?」

――この少年の行き先を、見てみたいのだ。

「え……?」

「お前には人を惹きつける才がある。
 先ほど皆の力は自分一人の力ではないと言ったな?
 なるほど、確かにそうだろう。
 ……だが」

彼ならば、何かを成し遂げられそうな気がしている。
かつての自分は認めたがらなかった、太公望に感じたものと同じ強さだ。

「皆の力を少年のところへ集わせることはできるだろう」

殷を育て上げてきたのは何のためだったか。
自分が失ってしまった何かを感じ、それでもまだできる事があるのではないか、そう思わされた。

「少年の力が小さなものであっても、正しき矛先を信じ抜くならば、それは叶う。
 ……あの青年も、それを言いたかったのではないか?
 それが、少年の力の用い方ではないか?」

蒼月潮を見ていて感じるのは、自分もまた何かを為したいという願いだ。

――何が変わったわけでもない。
殷は確かに滅びに向かい、黄飛虎ももういない。
かつての夢幻は取り戻せず、それでいてまだ諦めたくないのに結末に理解も納得もしてしまっている。
自分自身が何をすればいいのか、何故ここにいるのかも分からないままだ。

だが、ただ迷って下を向いているのだけは、もう嫌だった。
前を向いてみたいと、秋葉流と、蒼月潮の二人にそう思わされた。

自分を信じて、対決する。

覚悟の行き場を失った自分でも、それができるだろうか。


「……おじさん」

おずおずと、うしおが歩み寄ってくる。

「……できるかな、オレに」

「自分を信じて、対決するのだろう?」

不安げな声にそう告げれば、うしおははっとして顔を上げる。
それからゴツンと額を叩き、彼は思い切り雄叫びを上げた。

「お、おおぉぉおおぉ、おおおおおおぉおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおお……!」

――それを見て頷き、うしおに近づく聞仲の足に、何かがこつんと当たる。
うしおが持ってきていた蝉のデイパックだ、口が開いて中身が零れ出ている。

何があるのか、と、何気なしに下を見てみて、驚愕。

「――禁鞭?」

馬鹿な、と続けてそれを手にとってみる。流が持っていた筈の物が何故ここにあるのか、と。

そしてすぐに納得した。
模造品なのだ、本物に比べて負担はさほどなく、また出力もだいぶ低そうである。
制限のない禁鞭本来の威力に比べれば、1/10くらいか。
それでも充分すぎる破壊力はあり、制限下のこの状況では本物との差は縮まっているだろう。

巡り会わせなのかどうなのか。
ただ、ニセモノであれ禁鞭が今ここにある事実を、何も言わず聞仲は受け止めた。
自分の力は、今確かにここにある。
自分を信じて対決しろと告げた男から、確かに受け取っている。

「おおおぉおぉおおおおおおぉおおおおおおぉおおおおぉおおおおぉおおおぉおぉおぉおぉ……!」


――二つの咆哮が、唱和した。

二人は思う。
もう立ち止まっているのは終わりにしよう、と。
何が出来るかは分からない。だが、何かを成し遂げていこう、と。



長い夜は、明けたのだ。

【C-03/森/1日目 早朝・放送直前】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康、精神的疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[道具]:支給品一式x2 不明支給品×1
[思考]
基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
1:病院に向かい、ブラックジャックと会う。
2:病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
3:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
[備考]
※ 参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
  とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
※ 悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。
※ 黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。


【聞仲@封神演義】
[状態]:疲労(中)、右肋骨2本骨折、全身に打撲痕、不動金剛力で力がしばらく入らない
[服装]:
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:うしおを手助けしていく
1:流を自分が倒す。
2:エドの術に興味。
3:何をしたいか目標はないが、何かを成せるようになりたい。
4:流に強い共感。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。


【ニセ禁鞭@封神演義】
楊ゼンに指南を与える際、元始天尊が太乙真人に作らせた禁鞭のコピー。
再現度は高く、威力が1/10程度な以外はほとんど本物と見分けがつかない。
その威力にしても充分実用に耐えるので、なかなかに強力な宝貝だろう。


*

朝の日差しに、森の中も赤に染まる。
きれいな朝焼けが二つの影を浮かび上がらせた。
周りの影は木が風にそよぐ度に遷ろうのに、その二つだけは髪の毛以外揺れ動く事はない。

片方は立ったまま、沈黙を続けるもう片方の傍らで立ち尽くす。

「エド。グリードが、死んダ」

答えが返ることはない。
エドはいまだ、気を失ったままだ。

「……不思議な奴、だったナ。もう話す事もないと思うと寂しくなル」

どうして最後に己が消滅してまで賢者の石の力を搾り取ったのか。
その理由は、今自分がここに生きているという事実が物語っている。

「目覚めたら話を聞かせてくレ。
 ここで何があったのか、アイツの部下はどうして死んだのカ。
 俺も俺なりにアイツに借りがあっタ。仇くらいは、とってやるつもりダ」

赤の光が次第に真昼の白へと移り変わっていく。
その美しさをぶち壊すかのように、放送が鳴り響き始めた。

「なあエド……、これから、どうすル?」


眠るエドワード・エルリックは答えない。



【D-03/森/1日目 早朝・放送直前】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
 [状態]:健康
 [服装]:
 [装備]:降魔杵@封神演義、バロンのナイフ@うえきの法則
 [道具]:なし
 [思考] 
  基本:自分の仲間を守る為、この殺し合いを潰す。
  1:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
  2:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
  3:病院に向かいたい。
 [備考]
  ※原作22巻以降からの参戦です。
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※異世界の存在を認識しました。
  ※グリードの意識が消滅しました。ホムンクルスとしての能力もなくなっています。
  ※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(特大)、全身にダメージ、気絶
[服装]:
[装備]:機械鎧
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:この殺し合いを止める。誰も殺させはしない
1:…………。
2:首輪を外すためにも工具が欲しい
3:白コートの男(=レガート)はなんとかしないと……。
4:秋葉流もヤバい。どいつもこいつもバケモンばかりかよ。
5:亮子と聞仲は大丈夫だろうか。
[備考]
※遅くとも第67話以降からの参戦です
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。


※リンたちのすぐ近くに、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマムと
 亮子のデイパック(支給品一式、拡声器、各種医療品 機関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1)が落ちています。


*

ざぁぁぁああぁぁぁ、と、辰砂を転がすような水の音が心地よい。

ここはどこだろうと疑問に思うも、目を開けるのが億劫だ。
今はただ、この気持ちよさにまどろんでいたい。

そうしていると、すぐにまた眠気が訪れた。
意識が流されるままに任せて再度の眠りに身を浸す。

夢の世界への切符を買う直前、ひとつだけ気がかりな事を思い出した。


どうしてあの男は自分に「生き延びろよ」などと言ったのか、と。
殺す素振りも見せず、ただ武器を取り返しただけで川に放り込んだのだろうかと。



【B-04/河口岸/1日目 早朝・放送直前】

【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(特大)、打撲、背中に打ち身、ずぶ濡れ、気絶
[服装]:月臣学園女子制服(ずぶ濡れ)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす。
0:…………。
1:とにかく仲間を集める。
2:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
3:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
4:あのおさげの娘(結崎ひよの)なら、パソコンから情報を引き出せるかも。
5:そういや、傷が治ってる……?
6:勝手に身体が動いた?
7:エドの力に興味。
8:エドや流、うしお、知らない女の子(咲夜)は助かったのだろうか。
9:流の行動に疑問。
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
 また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
※秋瀬 或の残したメモを見つけました。4thとは秋瀬とその関係者にしか分からない暗号と推測しています。
※聞仲とエドの世界や人間関係の情報を得ました。半信半疑ですが、どちらかと言えば信じる方向性です。


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