カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U
*****
「
「うわぁぁぁ―――――――――ッ!?」
叫び声とともに、一人の男ががばりと身体を起こす。
男の髪の色は、黒。
鴉の様な、宵闇の様な黒の束の中に、金の流星が幾筋も光を放っている。
男の髪の色は、黒。
鴉の様な、宵闇の様な黒の束の中に、金の流星が幾筋も光を放っている。
残滓とも呼べる黄金の髪の煌きは、人工の真白い光源に照らされて確かにその存在を主張していた。
「はぁッ、はぁ、はぁ、はぁッ、はぁ、はぁッ……」
話を始めよう。
一人の男(ガンマン)の話を。
そして思い出せ、その男の名を。その男の伝説を。
一人の男(ガンマン)の話を。
そして思い出せ、その男の名を。その男の伝説を。
「はぁ~~~~~~……っ」
ヴァッシュ。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード!
ヴァッシュ・ザ・スタンピード!
「な、なな、なんちゅう夢を見てるんだ僕は……」
――その首にかかった賞金額は『元』600億$$!
人類初の極地災害指定を受けて賞金こそ取り消されたものの、関わった事件は200を越え被害総額は20兆$$オーバー!
しかし、その正体を知る者はごく少ない。
人類初の極地災害指定を受けて賞金こそ取り消されたものの、関わった事件は200を越え被害総額は20兆$$オーバー!
しかし、その正体を知る者はごく少ない。
彼は、彼こそは歴史の生き証人。
150年にも渡る長きにおいて、ただひたすらに愛と平和を謳い続けたヒトならざるヒト!
150年にも渡る長きにおいて、ただひたすらに愛と平和を謳い続けたヒトならざるヒト!
「……で、」
彼の人生は波乱に満ちている。
だが彼は決して信じる事を止めたりなどはしないのだ!
たった一人の兄と道を分かち、友を失い、それでもなお不殺を貫く柔らかな笑顔の青年は――――、」
だが彼は決して信じる事を止めたりなどはしないのだ!
たった一人の兄と道を分かち、友を失い、それでもなお不殺を貫く柔らかな笑顔の青年は――――、」
「サッキカラドウシテ横デ人ノ事ペラペラ喋リマクッテルンデスカ、ソコノ人?」
「ハァーッ、ハハハハハハッ! ようやく目覚めたようだねヴァッシュくん!」
……ヴァッシュ・ザ・スタンピードは確信する。
倒れている自分のすぐ横で、こんな調子でずっと喚かれていたからこそあんな酷い夢見だったのだと。
よくよく見てみれば、自分の叫び声のすぐ直前からつい今しがたまでカギカッコで閉じられているではないか。
ラー、ラー、ラーと何処からともなく聞こえてくる豪華な音楽が嫌でも耳に入り込んでくるのは、もはや洗脳と言っても過言ではあるまい。
倒れている自分のすぐ横で、こんな調子でずっと喚かれていたからこそあんな酷い夢見だったのだと。
よくよく見てみれば、自分の叫び声のすぐ直前からつい今しがたまでカギカッコで閉じられているではないか。
ラー、ラー、ラーと何処からともなく聞こえてくる豪華な音楽が嫌でも耳に入り込んでくるのは、もはや洗脳と言っても過言ではあるまい。
かつての自分の様な金の髪を持つ青年は、くどい顔を尚更くどく微笑ませて名乗りを上げる。
「僕の名は趙公明。麗しい名だろう? さあ、楽しく華やかに一時を過ごそうじゃあないかっ!」
*****
――デパート2階、地上を臨むカッフェー。
ヴァッシュと趙公明はコーヒーを啜りながら、それぞれの現状を確認していく。
……いや、していきたいとヴァッシュが思っているだけという方が正しい。
ヴァッシュと趙公明はコーヒーを啜りながら、それぞれの現状を確認していく。
……いや、していきたいとヴァッシュが思っているだけという方が正しい。
「……で、趙公明。君はどうして僕の名前を知っていたのかな?」
「ノンノンノン、急ぐのは良くないな、ヴァッシュくん!
もっとエレガントに、優美に話を進めていこうじゃないか」
「ノンノンノン、急ぐのは良くないな、ヴァッシュくん!
もっとエレガントに、優美に話を進めていこうじゃないか」
こんな調子でかわされてばかりで、ずっと話が軌道に乗らないのだ。
はぐらかされているのだな、とヴァッシュは思うも敢えて口にはしない。
向こうから接触してきた以上何らかの目的があるはずだ。
少なくとも寝ている間に攻撃されなかったのは確かであり、敵意は無い、と信じたい。
警戒して相手のペースに呑まれない様にすることは怠らなかったが。
はぐらかされているのだな、とヴァッシュは思うも敢えて口にはしない。
向こうから接触してきた以上何らかの目的があるはずだ。
少なくとも寝ている間に攻撃されなかったのは確かであり、敵意は無い、と信じたい。
警戒して相手のペースに呑まれない様にすることは怠らなかったが。
食えない男だ、とヴァッシュはひしひしと感じる。
今まで出会ったどんな人間とも異質な存在だ。
自身の兄やその狂信者レガート・ブルーサマーズと手足たるGUNG-HO-GUNS。
……命を散らしていった掛け替えのない戦友や、彼の遺した新たな仲間。
メリル・ストライフやミリィ・トンプソン、ブラドといったノーマンズランドのタフな住人達。
形こそ様々だが、彼らに感じていた何か――、敢えて近い言葉を捜すなら、必死さの様なものを何一つ感じない。
今まで出会ったどんな人間とも異質な存在だ。
自身の兄やその狂信者レガート・ブルーサマーズと手足たるGUNG-HO-GUNS。
……命を散らしていった掛け替えのない戦友や、彼の遺した新たな仲間。
メリル・ストライフやミリィ・トンプソン、ブラドといったノーマンズランドのタフな住人達。
形こそ様々だが、彼らに感じていた何か――、敢えて近い言葉を捜すなら、必死さの様なものを何一つ感じない。
だからこそ、恐ろしい。
たくさんの出会いを思い出すに当たって、ヴァッシュの身体がほんの少しだけ震える。
本当なら今ここでこんな事をしている場合ではないのだ。
方舟――、いや、かつて方舟と呼ばれていたモノすら飲み込んだ、ミリオンズ・ナイブズがもうすぐ砂漠の星に残された最後の街にやってくるのだ。
自分の兄であり、自立種プラントであるナイブズが。
地球からの救いの船を人の目の前で滅ぼし、全てのプラントを吸い上げ去っていく為に。
本当なら今ここでこんな事をしている場合ではないのだ。
方舟――、いや、かつて方舟と呼ばれていたモノすら飲み込んだ、ミリオンズ・ナイブズがもうすぐ砂漠の星に残された最後の街にやってくるのだ。
自分の兄であり、自立種プラントであるナイブズが。
地球からの救いの船を人の目の前で滅ぼし、全てのプラントを吸い上げ去っていく為に。
止める、と、そう誓った。
だがその一方で、譲れない決意がある。
だがその一方で、譲れない決意がある。
――今そこで人が死のうとしてる。僕にはその方が重い。
あの砂漠の星も、この殺し合いに巻き込まれた人々も。
そのどちらをも見捨てる事なんて出来はしない。
それが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードなのだ。
そのどちらをも見捨てる事なんて出来はしない。
それが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードなのだ。
だからこそ、彼はこの無惨な殺し合いを止めようと心に刻む。
刻み、その為に真剣という言葉すら陳腐に思わせる瞳で趙公明をじぃ、と見つめた。
刻み、その為に真剣という言葉すら陳腐に思わせる瞳で趙公明をじぃ、と見つめた。
「僕は――、」
「OK、OKヴァッシュくん! 皆まで言わずとも君のハートフルな想いはよぅく伝わってくるよ!
非常に心残りだけど、二人きりのお茶会はここまでにして本題に入ろうか」
「OK、OKヴァッシュくん! 皆まで言わずとも君のハートフルな想いはよぅく伝わってくるよ!
非常に心残りだけど、二人きりのお茶会はここまでにして本題に入ろうか」
告げると、趙公明は懐に手を伸ばし、一つのものを取り出す。
鈍く光る黒金の塊、それは――、
「……ッ、俺の、銃……ッ!」
鈍く光る黒金の塊、それは――、
「……ッ、俺の、銃……ッ!」
「フフ……、君と出会う前に話した男から譲り受けたのさ」
手に慣れた銃とその弾丸が、趙公明の手の上で踊っている。
「……交換条件か? 何が望みなんだ」
ごくり、とヴァッシュは唾を飲み込む。
あれがあるなら、確かに非常に心強い。
……だが、果たしてそれを聞いていいものか。
真意も何も読めない男の言動に迷わされはしないのか。
どうする、の四文字が何度も何度も浮かんでは消え――――、
あれがあるなら、確かに非常に心強い。
……だが、果たしてそれを聞いていいものか。
真意も何も読めない男の言動に迷わされはしないのか。
どうする、の四文字が何度も何度も浮かんでは消え――――、
「はーッはははは! 心配はご無用さ、ヴァッシュくん!」
「……はい?」
「……はい?」
ずっこけた。
何と、あろうことかあまりにも無造作に趙公明は銃と弾丸を机の上に放り出したのだ。
何と、あろうことかあまりにも無造作に趙公明は銃と弾丸を机の上に放り出したのだ。
「……えーと」
引きつった顔でヴァッシュは趙孔明を見るも、胡散臭い笑いとともに彼は自分の方を見るのみだ。
「何か仕掛けてあるんじゃないかという顔だねヴァッシュくん!
よろしい、煮るなり焼くなり好きにいじって確認してみたまえ!」
「は、はぁ……」
よろしい、煮るなり焼くなり好きにいじって確認してみたまえ!」
「は、はぁ……」
訳の分からない展開に頭がついていけないまま、それでもこそこそと店の奥にブツを運んで色々と確かめてみる。
――まったく問題ない、愛用の銃そのままだ。
腔発しかねない危険性も感じられない。
――まったく問題ない、愛用の銃そのままだ。
腔発しかねない危険性も感じられない。
うん、と頷き、距離を保ったまま改めてヴァッシュは趙公明を見定める。
「……あらためて言おうか。何が目的だ」
確認の間のわずかな時間。
ほんのそれだけで、趙公明の身を包む空気が一変している。
ヴァッシュの直感が告げている。
今からここは、戦場となる。
ほんのそれだけで、趙公明の身を包む空気が一変している。
ヴァッシュの直感が告げている。
今からここは、戦場となる。
「……フフ」
笑う。陰惨さも卑近さも何もなく、ただ華麗に壮麗に、変わらぬ口調で。
それ故に――、何より傲慢に。
それ故に――、何より傲慢に。
「フフ、ハハハハ、ハハハハッ! ハァーッハハハハハハハハッ!」
趙公明は高笑う。
それが、彼なのだから。
それが、彼なのだから。
「トレビアーン……、素晴らしいよヴァッシュくん!
カノンくんの時と同じ様式美で君を彩ろうと思ったのに、それすらさせてもらえないなんてね!
いいだろう、最初からクライマックスでお相手しよう!
君相手に手加減は――――、」
カノンくんの時と同じ様式美で君を彩ろうと思ったのに、それすらさせてもらえないなんてね!
いいだろう、最初からクライマックスでお相手しよう!
君相手に手加減は――――、」
趙公明の周囲に、無数の黒球が浮かび上がる。
「失礼というものだ!」
ボコリボコリと泡立つような音を立てて、粘つくように黒球が互いに繋がりあっては離れていく。
「……それは!」
――ヴァッシュはその道具に覚えがある。何を隠そう、それがヴァッシュをしばらく眠らせた原因なのだ。
ヴァッシュが倒れていたのは此処に連れてこられた時の事が原因ではない。
支給されたこの黒い球に触れていたら、いつの間にか意識がトんでいたのが実情だった。
この道具の名前は、そう。
ヴァッシュが倒れていたのは此処に連れてこられた時の事が原因ではない。
支給されたこの黒い球に触れていたら、いつの間にか意識がトんでいたのが実情だった。
この道具の名前は、そう。
「――――盤古幡。僕の宿敵、元始天尊くんの持つスーパー宝貝さ!」
ビリビリと空間そのものが震える印象すら受ける。
掛け値無しに、ヤバいとヴァッシュは直感した。せざるを得ないほどに、危険な代物なのだ。
掛け値無しに、ヤバいとヴァッシュは直感した。せざるを得ないほどに、危険な代物なのだ。
「ひ、卑怯だぞ……! 俺が眠ってる間に勝手に持ち出すなんて、それこそ優美とは程遠いんじゃないか!?」
虚勢を張り、言葉で相手の弱い所を突こうとするも、趙公明にそれは通じない。
最初から話を聞くつもりなどないといった方が正確だろう。
最初から話を聞くつもりなどないといった方が正確だろう。
「フフフ、残念だったね! 僕は実は悪の貴公子、ブラック趙公明だったのさ!」
「な、なんだって――!」
「な、なんだって――!」
バサリ、とマントを翻し、その一瞬で趙公明が黒に染まる。染まっただけではあるのだが。
いかんいかんと相手にペースを握られている事を自覚したヴァッシュは敢えてそれ以上ツッコまない。
少しだけ寂しそうな趙孔明を無視し、事態を見据える為に、ぎゅう、と愛銃を握る手に力を込める。
対する趙公明もまた、即座に笑みを取り戻し講釈を垂れ流す。
いかんいかんと相手にペースを握られている事を自覚したヴァッシュは敢えてそれ以上ツッコまない。
少しだけ寂しそうな趙孔明を無視し、事態を見据える為に、ぎゅう、と愛銃を握る手に力を込める。
対する趙公明もまた、即座に笑みを取り戻し講釈を垂れ流す。
「本来僕は宝貝を持たない相手に宝貝を使う信条を持ち合わせてはいないのだけどね。
今回みたいな催しにおいてはまた事情が別さ!
……何故ならヴァッシュくん、君のような、宝貝を使わずとも宝貝以上のチカラを持ち合わせる存在が闊歩しているのだから!
そうした優れた存在に僕は敬意を払う! 敬意を払って、僕の全力をお見せしてあげよう。それが今の僕の役割でもある。
もちろん特殊なチカラを持っていない存在に対しては話が別だけどね」
「……やだなあ、僕は普通の人間だよ?」
「嘘はいけないよ、ヴァッシュくん。さあ、美しい闘争をしようじゃないか!」
今回みたいな催しにおいてはまた事情が別さ!
……何故ならヴァッシュくん、君のような、宝貝を使わずとも宝貝以上のチカラを持ち合わせる存在が闊歩しているのだから!
そうした優れた存在に僕は敬意を払う! 敬意を払って、僕の全力をお見せしてあげよう。それが今の僕の役割でもある。
もちろん特殊なチカラを持っていない存在に対しては話が別だけどね」
「……やだなあ、僕は普通の人間だよ?」
「嘘はいけないよ、ヴァッシュくん。さあ、美しい闘争をしようじゃないか!」
……やはり、と言うべきか。
この趙孔明は、『何故か』こちらの事についてよく知っている。知りすぎている。
もしや……、と何か嫌な予感が頭を掠めたが、今はそれどころではない。
この趙孔明は、『何故か』こちらの事についてよく知っている。知りすぎている。
もしや……、と何か嫌な予感が頭を掠めたが、今はそれどころではない。
趙公明は既に動き出している。
あまりにも重過ぎる絶望が振り被られた。
あまりにも重過ぎる絶望が振り被られた。
「出し惜しみ無しで行こう! 重力百倍、アン・ドゥー・トロワ!」
趙公明の覇の声が、周囲に響き渡る。
だが、それだけだ。
張り詰めに張り詰めた威圧が、その瞬間消滅した。
沈黙が満ち満ちる。
何一つ、何一つとして変化はない。
沈黙が満ち満ちる。
何一つ、何一つとして変化はない。
「……何だって?」
――否。
たった一つ、たった一人だけ、動きを終えた者がいた。
真紅のコートに金と黒の髪。
たった一つ、たった一人だけ、動きを終えた者がいた。
真紅のコートに金と黒の髪。
いつの間にかヴァッシュ・ザ・スタンピードが銃を抜いていた。
趙公明にすらその瞬間が理解できない、神速を更に超えた速度。
銃口から既に立ち昇っている煙が示すのは知覚外の抜き撃ち。
趙公明にすらその瞬間が理解できない、神速を更に超えた速度。
銃口から既に立ち昇っている煙が示すのは知覚外の抜き撃ち。
ようやく、銃声が趙公明の耳に届く。
成程、数多の仙人、十天君さえ下す金鰲最強の一角であろうとも出し抜く銃の腕は認めよう。
慣れない武器の扱いに手間取った事も確かだ。
慣れない武器の扱いに手間取った事も確かだ。
……だが。
ただの銃の一発で、スーパー宝貝が何故無力化される?
ただの銃の一発で、スーパー宝貝が何故無力化される?
「……ハハ、ヴァッシュくん。一体……、キミは何をしたのかな?」
焦りとともにある問いに対し、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは不敵に笑う。
チッチッチ、と指を振り、銃口の煙に息を吹きかける。
チッチッチ、と指を振り、銃口の煙に息を吹きかける。
「ひみつ。暴れるのやめたら教えてやるよ」
ゆらりと落ち着いた佇まいで、くるくると銃を廻しホルスターに収めた。
いつでもそれを抜ける体勢のまま、趙公明を睨みつける。
いつでもそれを抜ける体勢のまま、趙公明を睨みつける。
対する趙公明は苦笑を隠す事無く、それ以上の表情で顔を塗り潰した。
即ち――、歓喜。
即ち――、歓喜。
「ハ、ハハッ! ハハハハハハハハッ!
アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
両腕を天に掲げ、静かに窓際へと歩いていく。
身体に盤古幡を纏わせたまま遠ざかる趙公明に、ヴァッシュは最早警戒を隠さない。
身体に盤古幡を纏わせたまま遠ざかる趙公明に、ヴァッシュは最早警戒を隠さない。
「……何をしたのかはわからないけど、どうやら僕が不利そうだってのは何となく分かる。
だからとりあえず一旦撤退させてもらうとしよう!」
「……逃げられると思ってるのかい?」
だからとりあえず一旦撤退させてもらうとしよう!」
「……逃げられると思ってるのかい?」
じり、とヴァッシュは摺り足で間合いを詰める。
頭の中に警報が鳴っているのだ、この男を取り逃がしてはいけないと。
殺しはしないが、縄で縛るなり何なりしておかねば甚大な被害が出る、確実に。
それを許す事など出来はしない。
聞いているのかいないのか。
趙公明は芝居がかった動きで頭を押さえ、もう片方の手でヴァッシュに向けて五指を突き出す。
頭の中に警報が鳴っているのだ、この男を取り逃がしてはいけないと。
殺しはしないが、縄で縛るなり何なりしておかねば甚大な被害が出る、確実に。
それを許す事など出来はしない。
聞いているのかいないのか。
趙公明は芝居がかった動きで頭を押さえ、もう片方の手でヴァッシュに向けて五指を突き出す。
「ストーップ、勘違いはよしてくれたまえヴァッシュくん。
僕は逃げる訳じゃあないさ、キミの様な素晴らしき好敵手と巡り合えたのにそんな事をする筈がないだろう?
……キミは、期待を超えすぎていたんだよ。
やはりメインディッシュは最後にとっておくべきだ!
今ここでキミを殺してしまっては、せっかくの殺し合いなのに今後満足を得られなくなってしまうに違いない!
キミと殺り合うのは――、そう! エクセレントなシチュエーション、物語のフィナーレこそが相応しい……!」
僕は逃げる訳じゃあないさ、キミの様な素晴らしき好敵手と巡り合えたのにそんな事をする筈がないだろう?
……キミは、期待を超えすぎていたんだよ。
やはりメインディッシュは最後にとっておくべきだ!
今ここでキミを殺してしまっては、せっかくの殺し合いなのに今後満足を得られなくなってしまうに違いない!
キミと殺り合うのは――、そう! エクセレントなシチュエーション、物語のフィナーレこそが相応しい……!」
ああ、とヴァッシュは嘆息する。
話し合いの余地は、どうやら全く無さそうだ。
話し合いの余地は、どうやら全く無さそうだ。
「オー・ルヴォワール、ヴァッシュくん! それでは僕は麗しく脱出させてもらおう!」
言葉と同時。
デパートの階下から爆発音が轟いた。
地面が揺れ、ほんの一瞬だけヴァッシュの姿勢が崩れる。
デパートの階下から爆発音が轟いた。
地面が揺れ、ほんの一瞬だけヴァッシュの姿勢が崩れる。
「!?」
焦げ臭さを認識すると同時、ヴァッシュはすぐに新たに趙公明のいた場所に注意を傾ける。
だが、それは既に意味がない。
一瞬、ほんの一瞬で十分だったのだ。
だが、それは既に意味がない。
一瞬、ほんの一瞬で十分だったのだ。
「ハーッ、ハハハハハハッ!」
何処からともなく、高笑いが響き渡る。
趙公明の姿は最早何処にもない。
趙公明の姿は最早何処にもない。
ただ、漫画のように人の形に穴の開けた硝子窓がその痕跡を語るのみだ。
「…………」
ふう、と一息をつき、ヴァッシュはその場に座り込む。
「参ったな」
――どうにか、助かった。
もちろん趙公明を逃したくなどなかったが、何の準備もしていない状況ではどうにか一発を凌いでハッタリに頼るのが精一杯だった。
もしかしたら趙公明もそれを分かっていて、だからこそ今は退却したのかもしれない。
生粋の戦闘狂であるなら十分あり得る選択肢だ。
もちろん趙公明を逃したくなどなかったが、何の準備もしていない状況ではどうにか一発を凌いでハッタリに頼るのが精一杯だった。
もしかしたら趙公明もそれを分かっていて、だからこそ今は退却したのかもしれない。
生粋の戦闘狂であるなら十分あり得る選択肢だ。
「本当に、参ったな」
趙公明に渡された己の銃を確認するその時間。
その時に1発だけ、銃弾にエンジェル・アームの力を込めておかなければどうなっていた事か。
重力場の発生する出掛かりに対し、その領域が拡大する前にプラントの力で相殺する。
本来は対ナイブズの為に考えていた戦法だが、ぶっつけ本番で成功したのは何よりだ。
その時に1発だけ、銃弾にエンジェル・アームの力を込めておかなければどうなっていた事か。
重力場の発生する出掛かりに対し、その領域が拡大する前にプラントの力で相殺する。
本来は対ナイブズの為に考えていた戦法だが、ぶっつけ本番で成功したのは何よりだ。
今すぐにでも趙公明を追いたい所だが、無闇に追っても何処に行ったか検討もつかない。
あの口調からして、後々自分を狙ってくるというのが分かっているのだけでも行幸だろう。
あの口調からして、後々自分を狙ってくるというのが分かっているのだけでも行幸だろう。
「……どうか、誰も死なないでくれよ……!」
――――応える声は、何処にもない。
【I-07/デパート2Fバルコニー/1日目 黎明】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(5/6うちAA弾0/5(予備弾24うちAA弾0/24))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
1:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
2:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
3:先刻のデパート階下の爆発音が気になる。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。
[状態]:健康、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(5/6うちAA弾0/5(予備弾24うちAA弾0/24))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
1:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
2:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
3:先刻のデパート階下の爆発音が気になる。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。
*****
デパートからは東に当たる街道上。
丁度、地図上ではIの07~08の境目に当たるその場所で。
丁度、地図上ではIの07~08の境目に当たるその場所で。
趙公明は、ワクワクしていた。
ワクワクしながら夜空を見つめ、悦に浸っていた。
ワクワクしながら夜空を見つめ、悦に浸っていた。
この歓びを誰かと分かち合いたい――その感情のままにゆっくりと振り向き、虚空の如き暗闇に向かって呼びかける。
「コングラチュレイション――、ヴァッシュくんは実にコングラチュレイションだ。
そう思わないかな? キンブリーくん!」
そう思わないかな? キンブリーくん!」
その声に応え、まるで黒い水が染み出るようにゆらりと漆黒が形を持った。
……紅蓮の錬金術師、キンブリー。
……紅蓮の錬金術師、キンブリー。
「やれやれ、全く以って度し難い酔漢ですねぇ、貴方も」
まあ、私も人の事は言えませんがね、と続けてキンブリーは趙公明に並ぶ。
この男の趣味に付き合って、華麗な脱出とやらを演出してやったのだから。
この男の趣味に付き合って、華麗な脱出とやらを演出してやったのだから。
「……彼、私の存在に気付いてましたね。いやあ、素晴らしい人材(じっけんざいりょう)です。
そして貴方のその道具を完全に相殺した謎の力――、あのまま殺さなくてよかったですよ。
何より素晴らしいのが、決して人を殺そうとしないあの態度。
この戦場の中、どんな風に動いてくれるのか実に楽しみです」
そして貴方のその道具を完全に相殺した謎の力――、あのまま殺さなくてよかったですよ。
何より素晴らしいのが、決して人を殺そうとしないあの態度。
この戦場の中、どんな風に動いてくれるのか実に楽しみです」
――盤古幡を手にして気を失ったヴァッシュ。
それを最初に見つけたのは、他でもないこのキンブリーだった。
デパートの探索を始めてまもなく、満ちに倒れ伏しているヴァッシュを発見したのだ。
どう扱うか逡巡する間にこの趙公明が声をかけてきたため、ひとまず彼にヴァッシュの処遇を一任する事にしたのだが。
……いずれにせよ拾った銃一つを失っただけの取引としては非常に上々だったろう。
何せ――、
それを最初に見つけたのは、他でもないこのキンブリーだった。
デパートの探索を始めてまもなく、満ちに倒れ伏しているヴァッシュを発見したのだ。
どう扱うか逡巡する間にこの趙公明が声をかけてきたため、ひとまず彼にヴァッシュの処遇を一任する事にしたのだが。
……いずれにせよ拾った銃一つを失っただけの取引としては非常に上々だったろう。
何せ――、
「さて。これから貴方はどう動くおつもりですか?
『この殺し合いを開いた“神”の手の一人』としては」
『この殺し合いを開いた“神”の手の一人』としては」
趙公明はただ朗らかに微笑を返す。
「ノンノンノン、もっと洒落た呼び名で呼んで欲しいのだけどね。
そうだな。カードの鬼札にちなんで、ジョーカー、なんてどうだろう!」
そうだな。カードの鬼札にちなんで、ジョーカー、なんてどうだろう!」
このゲームを開いた者たちが、殺し合いを促進する為に仕込んだ触媒。
艶やかに咲き誇る食虫花こそがこの催しにおける趙公明の役割。
艶やかに咲き誇る食虫花こそがこの催しにおける趙公明の役割。
彼はそれを隠すつもりもなく、出会って早々にキンブリーはこの男に協力する事を心に決めた。
「やる事はシンプルさ、僕が楽しみながらこの殺し合いを掻き回す。
いや、掻き回しながら僕が楽しむ、の方が正しいかな?
別に僕は彼らの走狗になったつもりはないのだからね!」
いや、掻き回しながら僕が楽しむ、の方が正しいかな?
別に僕は彼らの走狗になったつもりはないのだからね!」
――情報を聞き出そうとしたものの、趙公明はそれについては答えはしない。
何でも今話したら殺し合いが面白くなくなる、との事で、キンブリーもそれには同意せざるを得なかった。
まあ特に急ぐ事もないので今追及するのは止めておこう。
キンブリーは確信している。
この男は、必要になれば自ずからベラベラと“神”の陣営について話し出す事だろう。
その『必要』が趙公明の価値観に則ってのものであるのが多少厄介だが、この男は性質上自己顕示せざるを得ないに違いないのだから。
そう、情報を得るならただ待ってさえいればいいのだ。
何でも今話したら殺し合いが面白くなくなる、との事で、キンブリーもそれには同意せざるを得なかった。
まあ特に急ぐ事もないので今追及するのは止めておこう。
キンブリーは確信している。
この男は、必要になれば自ずからベラベラと“神”の陣営について話し出す事だろう。
その『必要』が趙公明の価値観に則ってのものであるのが多少厄介だが、この男は性質上自己顕示せざるを得ないに違いないのだから。
そう、情報を得るならただ待ってさえいればいいのだ。
「ハハハハハハッ、ハァーッハハハハハ!」
――おそらくはこの男のそんな悪癖を知っていて、それでも敢えて自らの手駒として使う。
姿も見えぬ『神』に僅かに身体を震わせて、それでもキンブリーの表情に陰りはない。
さて、色々楽しくなりそうだ。
姿も見えぬ『神』に僅かに身体を震わせて、それでもキンブリーの表情に陰りはない。
さて、色々楽しくなりそうだ。
ニィィ……、と、紅蓮の錬金術師の片頬が静かに歪む。
趙公明とは似ても似つかない笑みの形。
両者に共通するのは、月の光に禍々しく映える事だけ――――。
趙公明とは似ても似つかない笑みの形。
両者に共通するのは、月の光に禍々しく映える事だけ――――。
【I-07~08境目/街道/1日目 黎明】
【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。
【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0~2
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0~2
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
【盤古幡@封神演技】
元始天尊、竜吉公主、燃橙道人と次々に持ち主を変えたスーパー宝貝の一つ。
重力を操る機能を持ち、(封神台も起動させた状態の)元始天尊で1000倍、燃橙道人で1万倍まで重力を操作可能。
最大出力ならばブラックホールまで作り出すことを可能とするが、本ロワではその機能がどの程度まで制限されているかは不明。
元始天尊、竜吉公主、燃橙道人と次々に持ち主を変えたスーパー宝貝の一つ。
重力を操る機能を持ち、(封神台も起動させた状態の)元始天尊で1000倍、燃橙道人で1万倍まで重力を操作可能。
最大出力ならばブラックホールまで作り出すことを可能とするが、本ロワではその機能がどの程度まで制限されているかは不明。
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GAME START | ヴァッシュ・ザ・スタンピード | 049:バトロワは人生の縮図である |
012:犠牲になったような、悲しい顔はやめてよ | ゾルフ・J・キンブリー | 049:バトロワは人生の縮図である |
028:真夜中のティータイム | 趙公明 | 049:バトロワは人生の縮図である |