――『覇世川左虎』
その可能性を欠片も考えていなかったと言えば、嘘になる。
一騎当千の武勇を実現し、如何なる苦難が降り掛かろうと折れぬ精神の強者とて。
絶対的な安全は保障されず、何一つ為せずに朽ち果てる末路も珍しくない。
異界より集めた数多の猛者が繰り広げる、殺戮遊戯とはそういったものだと。
水晶のように透き通った、純真無垢な幼子の情緒だった頃はともかく。
今のシェフィなら、無慈悲な現実にも十分理解は追い付いた。
一騎当千の武勇を実現し、如何なる苦難が降り掛かろうと折れぬ精神の強者とて。
絶対的な安全は保障されず、何一つ為せずに朽ち果てる末路も珍しくない。
異界より集めた数多の猛者が繰り広げる、殺戮遊戯とはそういったものだと。
水晶のように透き通った、純真無垢な幼子の情緒だった頃はともかく。
今のシェフィなら、無慈悲な現実にも十分理解は追い付いた。
では仕方ない事であると、簡単に割り切れるかと言えば勿論違う。
「左虎さん……」
同じ恩師の下で切磋琢磨し、先輩後輩の枠組みを超えた親交を結んだ。
疑いもなく信じた記憶が偽りに過ぎず、実際にはたかだか数時間程度の付き合いでしかない。
だけど、激怒戦騎の猛威に晒された自分達を助けてくれたのは。
生死の境を彷徨う青き魔法少女を、救ってくれたのは紛れもない真実。
編集(エディット)の影響下にあろうと、助けを求める声の元へ迷わず馳せ参じる。
それが覇世川左虎という男であり、彼が繋いだ命が確かに存在することは誰にも否定出来ない。
疑いもなく信じた記憶が偽りに過ぎず、実際にはたかだか数時間程度の付き合いでしかない。
だけど、激怒戦騎の猛威に晒された自分達を助けてくれたのは。
生死の境を彷徨う青き魔法少女を、救ってくれたのは紛れもない真実。
編集(エディット)の影響下にあろうと、助けを求める声の元へ迷わず馳せ参じる。
それが覇世川左虎という男であり、彼が繋いだ命が確かに存在することは誰にも否定出来ない。
なれど、再会の機会は永遠に失われた。
自分達が離れた後に、何が起きたかは知らない。
恩師と慕う女の傍らで、贋物の使命に心血を注ぎ力尽きたのか。
或いは本来の己を取り戻し、戦い抜いた果ての結末なのか。
終焉へ至るまでに辿った道は分からず、しかし誰に命を奪われたかだけは把握可能。
自分達が離れた後に、何が起きたかは知らない。
恩師と慕う女の傍らで、贋物の使命に心血を注ぎ力尽きたのか。
或いは本来の己を取り戻し、戦い抜いた果ての結末なのか。
終焉へ至るまでに辿った道は分からず、しかし誰に命を奪われたかだけは把握可能。
「……っ、グリオン……!」
尤も、知ったからといって救いになる訳ではない。
憤怒を籠めて吐き捨てたのは、絶望の未来を創造(ケミストリー)した闇の錬金術師。
己が目で猛威を振るう様を見た、夜島学郎の死にも深く関わる悪しき王。
グリオンの力を知ったが故に、画面上に表示された冥黒ディアッカが何を意味するかも察しが付く。
宇蟲王から自分達を逃がす為に命を懸けた、ディアッカ・エルスマンを傀儡へ変えた。
彼の生きた証と尊厳を貶める人形に、再錬成したのだろう。
己が目で猛威を振るう様を見た、夜島学郎の死にも深く関わる悪しき王。
グリオンの力を知ったが故に、画面上に表示された冥黒ディアッカが何を意味するかも察しが付く。
宇蟲王から自分達を逃がす為に命を懸けた、ディアッカ・エルスマンを傀儡へ変えた。
彼の生きた証と尊厳を貶める人形に、再錬成したのだろう。
(最っ低の光景ね……)
自分を助けた忍者が、同じく自分を助けた男と同じ顔の殺戮者に殺される。
ジョークにしたって笑えない、そして残念ながら悪ふざけでは済まない現実だ。
加えて言うなら脱落者にグリオンが含まれない以上、やみのせんしの一撃は届かなかったらしい。
正確には“レジスターの破壊”自体は成功しているが、知る由もない。
ジョークにしたって笑えない、そして残念ながら悪ふざけでは済まない現実だ。
加えて言うなら脱落者にグリオンが含まれない以上、やみのせんしの一撃は届かなかったらしい。
正確には“レジスターの破壊”自体は成功しているが、知る由もない。
本音を言えば、今すぐにでもグリオンを倒したい。
恩人の姿で暴れ回る冥黒のデスマスクだって、急ぎ止めたい。
一応こちらの勝利とはいえ、脅威の度合いが引き上げられた“死告邪眼”とて放置は出来ない。
放送を聞くに五道化からも欠落が出たらしいが、まさか雄英を去った直後にザラサリキエルが死んだのではあるまい。
倒さねばならない敵は多く、憤怒と焦燥が思考を戦闘へ駆り立てる。
人々を苦しめる悪(ヴィラン)を倒す、ヒーローが為すべきことの一つと言うなら間違ってはいない。
恩人の姿で暴れ回る冥黒のデスマスクだって、急ぎ止めたい。
一応こちらの勝利とはいえ、脅威の度合いが引き上げられた“死告邪眼”とて放置は出来ない。
放送を聞くに五道化からも欠落が出たらしいが、まさか雄英を去った直後にザラサリキエルが死んだのではあるまい。
倒さねばならない敵は多く、憤怒と焦燥が思考を戦闘へ駆り立てる。
人々を苦しめる悪(ヴィラン)を倒す、ヒーローが為すべきことの一つと言うなら間違ってはいない。
「でも……それがヒーローの全部じゃないでしょ」
戦う為の力を、とある世界では個性と呼ばれる異能を持ちながら。
ヒーローとヴィランで決定的に異なる点は、如何に華麗に敵を倒せるかどうかじゃない。
座り込んで泣いている子供がいた時、手を差し出せるか否か。
助けを求める声なき声を切り捨てず、「私が来た」と駆け付けられる者を人々はヒーローと呼ぶ。
シェフィ自身がそれを知った、自分の目で見続けた。
ヒーローとヴィランで決定的に異なる点は、如何に華麗に敵を倒せるかどうかじゃない。
座り込んで泣いている子供がいた時、手を差し出せるか否か。
助けを求める声なき声を切り捨てず、「私が来た」と駆け付けられる者を人々はヒーローと呼ぶ。
シェフィ自身がそれを知った、自分の目で見続けた。
頬をパチンと叩き、逸り掛けた自身を戒める。
自分で決めた道を見失うな、他ならぬ自分を裏切るな。
今は亡き赤き覇王に誓ってみせた己は、ちゃんとここにいる。
胸にそっと手を当て、目を閉じること十数秒。
仲間を奪った男への怒りは健在、なれど思考を狭める真似には出ない。
自分で決めた道を見失うな、他ならぬ自分を裏切るな。
今は亡き赤き覇王に誓ってみせた己は、ちゃんとここにいる。
胸にそっと手を当て、目を閉じること十数秒。
仲間を奪った男への怒りは健在、なれど思考を狭める真似には出ない。
(デクと別れてからもう3時間以上は確実に経ってる、でも未だにここへ来ていない……)
道草を繰り返し、合流が疎かになったのではないだろう。
となると向こうも向こうで、予期せぬトラブルに見舞われ到着が困難になった。
それに死亡が確定となった学郎はともかく、薫が一向に現れないのも気に掛かる。
意識を失い雄英の敷地内で動けずにいる、若しくは戦闘の影響で雄英を離れる羽目に陥ったのか。
となると向こうも向こうで、予期せぬトラブルに見舞われ到着が困難になった。
それに死亡が確定となった学郎はともかく、薫が一向に現れないのも気に掛かる。
意識を失い雄英の敷地内で動けずにいる、若しくは戦闘の影響で雄英を離れる羽目に陥ったのか。
いずれにせよ、ある程度体力を回復させたら雄英高校を発ち合流に動くべきか。
脱落者のペースを考えるに、悠長に事を構えてられる段階はとっくに過ぎた。
喪失の恐怖――『虚しさ』を大事な仲間達から引き離す為には、兎にも角にも行動あるのみ。
対峙したばかりの五道化に同意するのも、何となく癪だが。
まずは少しでも息を整えておこうと、原形を保つ校舎へ足を運び、
脱落者のペースを考えるに、悠長に事を構えてられる段階はとっくに過ぎた。
喪失の恐怖――『虚しさ』を大事な仲間達から引き離す為には、兎にも角にも行動あるのみ。
対峙したばかりの五道化に同意するのも、何となく癪だが。
まずは少しでも息を整えておこうと、原形を保つ校舎へ足を運び、
「――っ!こんな時に……!」
大地を踏み鳴らし、散乱した瓦礫を砕いて現れる複数の巨体。
歯車仕掛けの巨人は、宇蟲王が招いた蟲の軍勢とは明らかに異なる。
戦闘音を聞き付け今更になってやって来たか、だとすれば全く空気が読めていない。
話す言葉を持たぬNPCへ、愚痴をぶつけたって無意味。
向こうが意思を伝える手段は、振り被った拳以外に持っていなかった。
歯車仕掛けの巨人は、宇蟲王が招いた蟲の軍勢とは明らかに異なる。
戦闘音を聞き付け今更になってやって来たか、だとすれば全く空気が読めていない。
話す言葉を持たぬNPCへ、愚痴をぶつけたって無意味。
向こうが意思を伝える手段は、振り被った拳以外に持っていなかった。
「秀吉さんに比べたら、玩具みたいなパンチね……!」
生き様を焼き付けた婆娑羅者の爪先にも及ばぬ、意思無き拳ではあるも。
直撃を許せば危険な事に、変わりはない。
まして今のシェフィは先の戦闘で、軽くない負傷を抱えた状態。
正規プレイヤーではない、有象無象のNPCに殺される末路も無いとは言えなかった。
当然、そのような最期は御免被る。
幼児退行していた時でさえ断片的に扱えた氷擬呪法は、今なら巨人をスクラップに変える程の氷塊を――
直撃を許せば危険な事に、変わりはない。
まして今のシェフィは先の戦闘で、軽くない負傷を抱えた状態。
正規プレイヤーではない、有象無象のNPCに殺される末路も無いとは言えなかった。
当然、そのような最期は御免被る。
幼児退行していた時でさえ断片的に扱えた氷擬呪法は、今なら巨人をスクラップに変える程の氷塊を――
「……え?で、出ない!?」
生み出せなかった。
ソードスキルは問題無く機能している、なのに発動出来ない。
予期せぬ不調への動揺は、迫りくる鋼鉄の巨腕で瞬時に追い払う。
ドラゴン族としての高い身体能力もあってか、咄嗟に飛び退き回避。
運良く原形を保ってあった校舎の一部が、破壊される光景へ何か思うのを待たずに二撃目が襲来。
氷の生成を改めて試みるがやはり失敗に終わり、訳も分からず駆け出す。
ソードスキルは問題無く機能している、なのに発動出来ない。
予期せぬ不調への動揺は、迫りくる鋼鉄の巨腕で瞬時に追い払う。
ドラゴン族としての高い身体能力もあってか、咄嗟に飛び退き回避。
運良く原形を保ってあった校舎の一部が、破壊される光景へ何か思うのを待たずに二撃目が襲来。
氷の生成を改めて試みるがやはり失敗に終わり、訳も分からず駆け出す。
もしこの場に遊城十代がいたら、即座に絡繰りに気付けたのは間違いない。
シェフィを襲ったNPCの正体は、古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)。
デュエル・アカデミア所属の教諭、クロノス・ディメチのエースモンスターが持つ効果の一つ。
戦闘を行う際、相手はダメージステップ終了まで魔法・罠・モンスター効果を封じられる。
今回の場合、氷擬呪法がモンスター効果の一種と解釈されたのだろう。
そうとは知らないシェフィは突然の事態に困惑を隠せず、古代の機械巨人から距離を取る。
正規プレイヤーに決闘者が二人しかいない現状で、デュエルモンスターズの詳細を察しろというのも酷だが。
シェフィを襲ったNPCの正体は、古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)。
デュエル・アカデミア所属の教諭、クロノス・ディメチのエースモンスターが持つ効果の一つ。
戦闘を行う際、相手はダメージステップ終了まで魔法・罠・モンスター効果を封じられる。
今回の場合、氷擬呪法がモンスター効果の一種と解釈されたのだろう。
そうとは知らないシェフィは突然の事態に困惑を隠せず、古代の機械巨人から距離を取る。
正規プレイヤーに決闘者が二人しかいない現状で、デュエルモンスターズの詳細を察しろというのも酷だが。
ついでに言うと、シェフィの不運はまだ続く。
「待ちなお嬢ちゃん!素通りしようったってそうはいかねぇぜ!」
「っ!?こ、今度はなに!?」
「っ!?こ、今度はなに!?」
古代の機械巨人とは別方向より姿を見せる、複数人の男達。
筋骨隆々の肉体を惜しげもなく晒す、非常にむさ苦しい絵面が展開。
ボディビルダーの集いか何かかと思われるだろうが、胸に巻いた弾倉ベルトがありきたりな予想を否定。
全員の手に握られた黒光りする得物、一般的にマシンガンと呼ばれるソレらが一斉に少女を睨む。
筋骨隆々の肉体を惜しげもなく晒す、非常にむさ苦しい絵面が展開。
ボディビルダーの集いか何かかと思われるだろうが、胸に巻いた弾倉ベルトがありきたりな予想を否定。
全員の手に握られた黒光りする得物、一般的にマシンガンと呼ばれるソレらが一斉に少女を睨む。
「見ろテメェら!この青っこいお嬢ちゃんの手に、マシンガンは握られてるか!?」
「いいや!マシンガンどころか銃の一丁も見当たらねぇな!」
「白くて細いおててじゃあ、俺らの魂は握れないかもだけどよぉ!」
「よ、よく見りゃ可愛い顔してっけど……マシンガン愛がないなら生かす理由もねぇってもんよ!」
「生まれ変わったら俺とマシンガンで愛し合おうぜ!」
「いいや!マシンガンどころか銃の一丁も見当たらねぇな!」
「白くて細いおててじゃあ、俺らの魂は握れないかもだけどよぉ!」
「よ、よく見りゃ可愛い顔してっけど……マシンガン愛がないなら生かす理由もねぇってもんよ!」
「生まれ変わったら俺とマシンガンで愛し合おうぜ!」
口々に好き勝手言う男達に、シェフィの理解はまるで追い付かない。
ただ一つ、嫌でも分かってしまうのは。
自分にとって微塵も嬉しくない事態が起きようとしてる、それは間違いなさそうだ。
後門の古代の機械巨人、前門のよく分からないけどイカレた連中。
己の置かれた現状を再認識し、支給品袋に手を突っ込み取り出したマシンへ飛び乗る。
睨み付ける銃口が火を吹いたのは、ほぼ同じタイミングだった。
ただ一つ、嫌でも分かってしまうのは。
自分にとって微塵も嬉しくない事態が起きようとしてる、それは間違いなさそうだ。
後門の古代の機械巨人、前門のよく分からないけどイカレた連中。
己の置かれた現状を再認識し、支給品袋に手を突っ込み取り出したマシンへ飛び乗る。
睨み付ける銃口が火を吹いたのは、ほぼ同じタイミングだった。
「撃ちまくったるぜぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!!」
「なんっなのよこの人達はぁあああああああっ!!!??!」
「なんっなのよこの人達はぁあああああああっ!!!??!」
貴重な移動手段であるも、元々支給されたのが秀吉なせいか。
体格の問題で死蔵されていた真紅のホバーバイクが疾走、馬車とは違う乗り心地への感想も抱けず。
危うい手付きでハンドルを操作、一目散に疾走。
簡単に逃がしはしないと、足音を轟かせ巨人が拳を叩き付ける。
何とか躱せば飛来する銃弾が頭部を掠め、ハラリと舞う数本の髪の毛に顔が青褪めた。
体格の問題で死蔵されていた真紅のホバーバイクが疾走、馬車とは違う乗り心地への感想も抱けず。
危うい手付きでハンドルを操作、一目散に疾走。
簡単に逃がしはしないと、足音を轟かせ巨人が拳を叩き付ける。
何とか躱せば飛来する銃弾が頭部を掠め、ハラリと舞う数本の髪の毛に顔が青褪めた。
「速射連射掃射高射乱射!」
「弾ある限り撃ちまくる!」
「それが我ら全日本マシンガンラバーズの生きざまよ!!!」
「弾ある限り撃ちまくる!」
「それが我ら全日本マシンガンラバーズの生きざまよ!!!」
『ヒャッハー!!!!!』
「びぇぇぇぇん!!!だじゅけておにーたん!あじゅーる!!デク~~~~~~~!!!」
余りにも意味が分からなさ過ぎるせいで、治った筈の幼児退行を起こしつつ。
得物へ群がる鮫の如く殺到する銃弾を躱しながら、無我夢中でマシンを走らせる。
因縁の集結と決着、新たなステージの幕開けを飾った雄英高校の闘争(ドラマ)は。
今宵のはちゃめちゃな騒動で以て、終わりを告げた。
得物へ群がる鮫の如く殺到する銃弾を躱しながら、無我夢中でマシンを走らせる。
因縁の集結と決着、新たなステージの幕開けを飾った雄英高校の闘争(ドラマ)は。
今宵のはちゃめちゃな騒動で以て、終わりを告げた。
◆◆◆
「ご愁傷様、ってやつだなこりゃ」
誰に向けるでもなく呟き、スクラップと化した二台のバイクを見やる。
手塩に掛けカスタムを施し、安くないだろう金をつぎ込んだとは分かるも。
パーツが惨たらしくひしゃげ、無事な箇所を探す方が困難とくれば。
顔も名前も知らない持ち主達へ、多少なりとも憐憫を抱く。
仮に本人に言ったところで、何の慰めにもならないだろうが。
手塩に掛けカスタムを施し、安くないだろう金をつぎ込んだとは分かるも。
パーツが惨たらしくひしゃげ、無事な箇所を探す方が困難とくれば。
顔も名前も知らない持ち主達へ、多少なりとも憐憫を抱く。
仮に本人に言ったところで、何の慰めにもならないだろうが。
黄金の悪魔、現代の欲望が生み出したメダルの怪物。
何より彼らに操られたホワイトルームの傑作相手に、死闘を繰り広げたのが今さっき。
遥か天を突き上げん程の巨体と、鋼鉄の恐竜の激突を受けH-7内は壊滅状態。
まさか日に二度も、エリア一つが更地と化す規模の戦闘に巻き込まれるとは思ってなかった。
というよりは、思いたくないのがリュージの偽らざる本音だ。
何より彼らに操られたホワイトルームの傑作相手に、死闘を繰り広げたのが今さっき。
遥か天を突き上げん程の巨体と、鋼鉄の恐竜の激突を受けH-7内は壊滅状態。
まさか日に二度も、エリア一つが更地と化す規模の戦闘に巻き込まれるとは思ってなかった。
というよりは、思いたくないのがリュージの偽らざる本音だ。
犠牲はあれど決着は付き、意識を手放した仲間がいるにも関わらず未だ戦場跡に留まる理由は。
蛮野が虐殺を経て手に入れて来た支給品の、迅速な回収。
龍園と姫和は気絶中、小夜も二人程ではないがコンディションが良いとは言えない。
最も消耗の軽い甚爾は龍園達の傍を離れずに、襲撃へ警戒。
となれば後始末は必然的にリュージに回り、本人も異論は無い。
使い物になる道具をリュックサックへ放るも、生憎全部が全部とは限らなかった。
蛮野が虐殺を経て手に入れて来た支給品の、迅速な回収。
龍園と姫和は気絶中、小夜も二人程ではないがコンディションが良いとは言えない。
最も消耗の軽い甚爾は龍園達の傍を離れずに、襲撃へ警戒。
となれば後始末は必然的にリュージに回り、本人も異論は無い。
使い物になる道具をリュックサックへ放るも、生憎全部が全部とは限らなかった。
「前のお家も廃墟に変わって、これでアイツとお別れか」
へし折れた刀身が直撃し、砕けた画面がそこら中に散乱。
蛮野を幽閉していたタブレットもまた、完全にお役目御免の有様。
アッシュフォード学園を訪れた時、問答無用で弾を撃ち込んでいたら。
サビルバラ達も死なずに済んだのか、そう考えた所で過去をやり直せるでもなく。
墓標のように突き刺さった神器がまるで、蛮野に殺された生命繊維の総意の代行者の。
死して尚の恨みと無念を表すようだと思い浮かべはせず、背を向け残りの支給品を探す。
近くに落ちてあった軽機関銃の持ち主が、蛮野の末路を知ればどうなるか。
なんて、それこそ意味の無い妄想だ。
蛮野を幽閉していたタブレットもまた、完全にお役目御免の有様。
アッシュフォード学園を訪れた時、問答無用で弾を撃ち込んでいたら。
サビルバラ達も死なずに済んだのか、そう考えた所で過去をやり直せるでもなく。
墓標のように突き刺さった神器がまるで、蛮野に殺された生命繊維の総意の代行者の。
死して尚の恨みと無念を表すようだと思い浮かべはせず、背を向け残りの支給品を探す。
近くに落ちてあった軽機関銃の持ち主が、蛮野の末路を知ればどうなるか。
なんて、それこそ意味の無い妄想だ。
運が良いのか知らないが、アンクが持っていたリュックサックは無事。
ブイレックス達の激突から離れた場所にあり、こちらは問題無く回収。
残念ながら蛮野が持っていたカードらしき支給品は、消し炭となり使用不可能。
風に飛ばされるのを最後まで見送らずに、甚爾達の元へ戻った。
ブイレックス達の激突から離れた場所にあり、こちらは問題無く回収。
残念ながら蛮野が持っていたカードらしき支給品は、消し炭となり使用不可能。
風に飛ばされるのを最後まで見送らずに、甚爾達の元へ戻った。
「悪い、待たせちまったか?」
「いえ大丈夫です。すみません、前坂さんにだけ押し付けてしまって……」
「ただの後片付けだ、別に気に病むことじゃねぇよ」
「いえ大丈夫です。すみません、前坂さんにだけ押し付けてしまって……」
「ただの後片付けだ、別に気に病むことじゃねぇよ」
ド派手なオープンカーの助手席で、申し訳なさそうに小夜は縮こまる。
手伝いを名乗り出たが、休んで良いと返されこうして待機中。
傷も疲労も軽くは見れず、大人しく体力回復に努めるのは間違ってない。
ただそれを言ったら、リュージとて相応に消耗はあるだろうに。
本当に良かったのかと思うも、相手は別段苛立った様子も無し。
わざわざ疲労困憊の少女を引っ張り出す程の大仕事ではあるまいと、今しがた口に出した通りだ。
手伝いを名乗り出たが、休んで良いと返されこうして待機中。
傷も疲労も軽くは見れず、大人しく体力回復に努めるのは間違ってない。
ただそれを言ったら、リュージとて相応に消耗はあるだろうに。
本当に良かったのかと思うも、相手は別段苛立った様子も無し。
わざわざ疲労困憊の少女を引っ張り出す程の大仕事ではあるまいと、今しがた口に出した通りだ。
「伏黒」
ボンネットに腰を下ろしている男が振り向くや、集めた道具を投げる。
軽い調子でキャッチし、譲渡された物へ視線を落とす。
龍園が使っていたのとは別の、MSを装着する起動鍵。
幻夢コーポレーションによって開発されたゲームタイトルを名に冠する、ライダーガシャット。
上記二つを何の意味もなくプレゼント、という訳ではない。
軽い調子でキャッチし、譲渡された物へ視線を落とす。
龍園が使っていたのとは別の、MSを装着する起動鍵。
幻夢コーポレーションによって開発されたゲームタイトルを名に冠する、ライダーガシャット。
上記二つを何の意味もなくプレゼント、という訳ではない。
「気前良いのは結構だが、男に貢がれる趣味なんざ持ってねぇぞ?」
「俺だってねぇよ、んな気色悪いもん。龍園に代わって報酬を上乗せしとく、契約更新になるか?」
「ま、こいつらのスヤスヤ中に手を切りはしねぇさ」
「俺だってねぇよ、んな気色悪いもん。龍園に代わって報酬を上乗せしとく、契約更新になるか?」
「ま、こいつらのスヤスヤ中に手を切りはしねぇさ」
殺し合い開始当初から行動を共にし、先の戦闘でも蛮野相手に戦ったが。
間違っても龍園と永続的な契約を交わしたのではなく、『金の切れ目が縁の切れ目』は常に付いて回る。
甚爾自身に最初からその気が無かったとはいえだ、もし蛮野の提案を受けていたら。
こちらが全滅に追いやられた可能性は、決して低くない。
間違っても龍園と永続的な契約を交わしたのではなく、『金の切れ目が縁の切れ目』は常に付いて回る。
甚爾自身に最初からその気が無かったとはいえだ、もし蛮野の提案を受けていたら。
こちらが全滅に追いやられた可能性は、決して低くない。
別にリュージとて、殺し合いでも傭兵稼業を行うスタンスに文句は言わない。
自分だって宝探しゲームの際、王への復讐目的にカナメ達と即席クランを組んだのだ。
個人的事情が絡んだ方針にケチは付けない、しかし甚爾がいつ手を切るか分からないと改めて思い知った以上。
継続的に報酬を上乗せし、寝返りを防いで損はあるまい。
甚爾としても契約金を寄越されたなら、引き続き龍園達の下で仕事をこなすまで。
起動鍵もガシャットも、裏に流れる銃火器とは比べ物にならない兵器。
持ち帰って売り飛ばせば、さぞや財布も厚くなるだろう。
自分だって宝探しゲームの際、王への復讐目的にカナメ達と即席クランを組んだのだ。
個人的事情が絡んだ方針にケチは付けない、しかし甚爾がいつ手を切るか分からないと改めて思い知った以上。
継続的に報酬を上乗せし、寝返りを防いで損はあるまい。
甚爾としても契約金を寄越されたなら、引き続き龍園達の下で仕事をこなすまで。
起動鍵もガシャットも、裏に流れる銃火器とは比べ物にならない兵器。
持ち帰って売り飛ばせば、さぞや財布も厚くなるだろう。
「…………」
「どうしたよお嬢ちゃん。ナンパ待ちで熱い視線を寄越すってんなら、悪い事は言わねぇから他を当たりな」
「えっ?い、いえ!違います!」
「どうしたよお嬢ちゃん。ナンパ待ちで熱い視線を寄越すってんなら、悪い事は言わねぇから他を当たりな」
「えっ?い、いえ!違います!」
何とも言えない表情で見つめるも、揶揄われ慌てて否定。
甚爾が口にした内容は理由に当て嵌まらず、見惚れてた訳でもない。
事前に聞いていたが、本当に金で動くらしく小夜も幾分の困惑があった。
自分達を助けに来た左虎に始まり、これまで会って来た殺し合いに乗っていない男性達と異なり。
龍園達の間には仲間意識とはまた別の、ビジネスライクとも言うべき関係が構築されている。
拒絶するつもりはないが、キリトやチェイス達と異なる空気に多少の戸惑いが無いとも言えない。
甚爾が口にした内容は理由に当て嵌まらず、見惚れてた訳でもない。
事前に聞いていたが、本当に金で動くらしく小夜も幾分の困惑があった。
自分達を助けに来た左虎に始まり、これまで会って来た殺し合いに乗っていない男性達と異なり。
龍園達の間には仲間意識とはまた別の、ビジネスライクとも言うべき関係が構築されている。
拒絶するつもりはないが、キリトやチェイス達と異なる空気に多少の戸惑いが無いとも言えない。
(でも、悪い人達じゃないのは確かよね……)
情報を聞き出す目的込みでも、行き倒れていた自分を助けたことだけじゃない。
蛮野相手に一歩も退かなかった姿や、アンクと別れの言葉を交わす時の様子。
己の目で見た幾つもの事実が、上辺だけで彼らを判断させない。
他ならぬ小夜自身、言葉無き悲鳴を拾い上げられ救われたが故に。
“亡失鎮魂”と名付けられたキヴォトスの残骸である少女が、仮面の裏で流す涙に気付けたのだから。
表面上の事実だけで、決めつける真似はしなかった。
蛮野相手に一歩も退かなかった姿や、アンクと別れの言葉を交わす時の様子。
己の目で見た幾つもの事実が、上辺だけで彼らを判断させない。
他ならぬ小夜自身、言葉無き悲鳴を拾い上げられ救われたが故に。
“亡失鎮魂”と名付けられたキヴォトスの残骸である少女が、仮面の裏で流す涙に気付けたのだから。
表面上の事実だけで、決めつける真似はしなかった。
(あの人も…………)
思い浮かべるは、自分の記憶に蓋をした一人の女。
病院地下での騒動以降、再会の機会は未だ訪れていない。
彼女の行いを善か悪かで断じるなら、百人中百人が後者と答えるだろう。
かくいう小夜も、記憶を弄られた怒りがないとは口が裂けても言えないが。
しかし、倒せば良いだけの相手と言い切るのは――
病院地下での騒動以降、再会の機会は未だ訪れていない。
彼女の行いを善か悪かで断じるなら、百人中百人が後者と答えるだろう。
かくいう小夜も、記憶を弄られた怒りがないとは口が裂けても言えないが。
しかし、倒せば良いだけの相手と言い切るのは――
「そろそろ行くか。瓦礫もマトモに残ってねぇとこに、長居する理由もないしな」
「え、あ、そう……ですね」
「え、あ、そう……ですね」
思考が沈む前に、エンジン音が意識を引き戻した。
考えるにしろ休むにしろ、自分達がいるエリアはまるで適していない。
やるべき事が済んだ以上は、留まる理由も皆無。
運転はリュージに任せ、小夜もシートに座り直す。
後部座席では気絶中の二人が乗せられ、出発への反対は飛ばない。
考えるにしろ休むにしろ、自分達がいるエリアはまるで適していない。
やるべき事が済んだ以上は、留まる理由も皆無。
運転はリュージに任せ、小夜もシートに座り直す。
後部座席では気絶中の二人が乗せられ、出発への反対は飛ばない。
「アシがあるのは良いけどよ、このデザインはどうにかならないのかね。ロボコンのお友達かなんかか?」
オープンカーに並び、甚爾もバイクゲーマのエンジンを吹かす。
黄色いカラーリングに加え、ゲーム機のコントローラーのボタンを模した意匠。
ヘッドライト部分は顔のようになっており、子供番組に出て来そうなデザインだ。
バイカー集団に見られでもしたら、一生笑い物は確定。
と言っても機体スペックは非常に高性能、ノーヘルでかっ飛ばしても取り締まる警官は不在。
戦場跡を背に発進、後に残るは物言わぬ破壊の痕跡のみ。
黄色いカラーリングに加え、ゲーム機のコントローラーのボタンを模した意匠。
ヘッドライト部分は顔のようになっており、子供番組に出て来そうなデザインだ。
バイカー集団に見られでもしたら、一生笑い物は確定。
と言っても機体スペックは非常に高性能、ノーヘルでかっ飛ばしても取り締まる警官は不在。
戦場跡を背に発進、後に残るは物言わぬ破壊の痕跡のみ。
並走する二台は東へ直進、道中参加者との接触はなく。
時折現れるNPCは、甚爾が轢き殺しあっさり撃退。
しつこくオープンカーにしがみつくモンスターもいたが、ハンドル片手にリュージが銃弾数発を撃ち込み即座にお別れだ。
ドロップアイテム入手も起きず、スピードを落とさないままどれくらいの時間が経ったか。
隣接する別エリアに到着し、目に留まったのは小綺麗な診療所。
ランドマーク以外でも、傷の手当てが可能な救済措置のつもりで置いたかはさておき。
休むには持って来いの場所だ、車を降りるとリュージが院内をざっと見て回る。
アサルトライフルの銃口が睨み付ける先は、どこもかしこも無人。
一先ず問題無しと正面玄関に戻り、改めて全員で足を踏み入れた。
時折現れるNPCは、甚爾が轢き殺しあっさり撃退。
しつこくオープンカーにしがみつくモンスターもいたが、ハンドル片手にリュージが銃弾数発を撃ち込み即座にお別れだ。
ドロップアイテム入手も起きず、スピードを落とさないままどれくらいの時間が経ったか。
隣接する別エリアに到着し、目に留まったのは小綺麗な診療所。
ランドマーク以外でも、傷の手当てが可能な救済措置のつもりで置いたかはさておき。
休むには持って来いの場所だ、車を降りるとリュージが院内をざっと見て回る。
アサルトライフルの銃口が睨み付ける先は、どこもかしこも無人。
一先ず問題無しと正面玄関に戻り、改めて全員で足を踏み入れた。
「俺は傷の処置に使えるもんを探して来る。水神、十条を任せても良いか?」
「分かりました、龍園さんの方は前坂さんにお願いしますね」
「分かりました、龍園さんの方は前坂さんにお願いしますね」
Dゲームにおいて、毎回無傷で生き残れるプレイヤーは限られる。
上位ランカーであっても、時には軽くない傷を負う世界だ。
ダンジョウ拳闘倶楽部の治療を毎回受けられる訳でなく、当然のようにリュージも応急処置の技術は身に付いた。
適当なベッドに龍園達を寝かせ、包帯や消毒液等を保管棚から拝借。
円鹿を呼び出せば手っ取り早いが、召喚出来る当の姫和は眠ったまま。
小夜と手分けして、意識が戻らない二人に処置を施す。
故障したお医者さんカバンを直す当てでも見付かれば、言うことなしだがそう都合良くはいかない。
上位ランカーであっても、時には軽くない傷を負う世界だ。
ダンジョウ拳闘倶楽部の治療を毎回受けられる訳でなく、当然のようにリュージも応急処置の技術は身に付いた。
適当なベッドに龍園達を寝かせ、包帯や消毒液等を保管棚から拝借。
円鹿を呼び出せば手っ取り早いが、召喚出来る当の姫和は眠ったまま。
小夜と手分けして、意識が戻らない二人に処置を施す。
故障したお医者さんカバンを直す当てでも見付かれば、言うことなしだがそう都合良くはいかない。
「おっと?またお客さんが来ちまったか?」
一方ロビーの長椅子に腰掛けた甚爾は、診療所外部の気配を察知。
風を切り裂く音、空気の細かな振動、生物が放つ気配。
視界に頼らずとも、接近を知る術は幾らでもある。
まして甚爾の感覚を欺くのは容易に非ず、微かにでも殺意を飛ばせば即座に首を刎ねられる末路へ一直線。
近付く気配から察するに、黒い神の如き存在感は無し。
四凶最後の一人にして要警戒対象、メラの可能性は非常に低い。
かといって気を緩めず、ノコノコやって来た何者かの顔を拝みに外へ出た。
風を切り裂く音、空気の細かな振動、生物が放つ気配。
視界に頼らずとも、接近を知る術は幾らでもある。
まして甚爾の感覚を欺くのは容易に非ず、微かにでも殺意を飛ばせば即座に首を刎ねられる末路へ一直線。
近付く気配から察するに、黒い神の如き存在感は無し。
四凶最後の一人にして要警戒対象、メラの可能性は非常に低い。
かといって気を緩めず、ノコノコやって来た何者かの顔を拝みに外へ出た。
「そんなに慌ててどうした?生憎、医者もナースも全員出払っちまってんぞ?」
「――っ」
「――っ」
街灯に照らされた道路を駆ける、真紅のホバーバイクが接近。
向こうも甚爾へ気付いたのだろう、停車し一定の距離を保ち視線が交差。
表情には警戒が浮かんでおり、万一の場合は急発進し逃げる気なのだろう。
ハンドルを握る力を緩めていないのは、間違っていない。
急発進の暇もなく、マシン諸共乗り手を『壊せる』男が相手でなかったらだが。
向こうも甚爾へ気付いたのだろう、停車し一定の距離を保ち視線が交差。
表情には警戒が浮かんでおり、万一の場合は急発進し逃げる気なのだろう。
ハンドルを握る力を緩めていないのは、間違っていない。
急発進の暇もなく、マシン諸共乗り手を『壊せる』男が相手でなかったらだが。
「しっかしまあ、ここには普通の見た目のアシが無いのかね。デザイン応募でも掛けたのか?」
「元は別の人の乗り物だし、私に言われても困るのだけれど……」
「元は別の人の乗り物だし、私に言われても困るのだけれど……」
ホバーバイクの操縦者は、姫和達と同年代に見える少女。
軽口へ戸惑いつつも応じるが、声色に緊張が宿るのは気のせいじゃない。
初対面の参加者と会った事だけじゃなく、向かい合ってるだけで相手の力をひしひしと感じるが故だ。
外壁に寄り掛かるだらけた体勢に思えて、その実隙が全くと言っていい程見当たらない。
迂闊な真似に出れば最後、顔面を蹴り砕かれジ・エンド。
浮かんだ光景はただの妄想じゃあない、現実になると本能的な部分で察しが付いた。
軽口へ戸惑いつつも応じるが、声色に緊張が宿るのは気のせいじゃない。
初対面の参加者と会った事だけじゃなく、向かい合ってるだけで相手の力をひしひしと感じるが故だ。
外壁に寄り掛かるだらけた体勢に思えて、その実隙が全くと言っていい程見当たらない。
迂闊な真似に出れば最後、顔面を蹴り砕かれジ・エンド。
浮かんだ光景はただの妄想じゃあない、現実になると本能的な部分で察しが付いた。
(強い、わね……)
宇蟲王と青い戦士のような、世界に悲鳴を上げさせる類ではないが。
赤き覇王は勿論、五道化にも引けを取らぬ強者であると。
自らの意志で戦場に立ち、死闘を生き延び研ぎ澄ました感覚がハッキリ告げる。
対応を間違えれば即座にゲームオーバー、だが問答無用で襲って来ないなら上等だ。
相手の警戒を少しでも緩めるべく口を開き掛け、
赤き覇王は勿論、五道化にも引けを取らぬ強者であると。
自らの意志で戦場に立ち、死闘を生き延び研ぎ澄ました感覚がハッキリ告げる。
対応を間違えれば即座にゲームオーバー、だが問答無用で襲って来ないなら上等だ。
相手の警戒を少しでも緩めるべく口を開き掛け、
「シェフィちゃん……!?」
診療所から飛び出た人物に、驚きで言うべき内容が引っ込んだ。
エメラルドのように鮮やかな色の長髪を靡かせ、駆け寄る少女を知っている。
凄惨極まるこの地で最初に出会い、予期せぬ襲撃で別行動を余儀なくされた仲間の一人。
まさかここで再会するとは思っておらず、固まる自分へお構いなしで抱き付いた。
エメラルドのように鮮やかな色の長髪を靡かせ、駆け寄る少女を知っている。
凄惨極まるこの地で最初に出会い、予期せぬ襲撃で別行動を余儀なくされた仲間の一人。
まさかここで再会するとは思っておらず、固まる自分へお構いなしで抱き付いた。
「わ、わ!あじゅ――小夜さん……?」
「良かった……!シェフィちゃんが無事で……!」
「良かった……!シェフィちゃんが無事で……!」
腕の中に閉じ込めた感触と、直に伝わる体温が生きてる事を知らせる。
喪いたくない仲間であり、護るべき存在であり、自分を救ってくれたヒーロー。
放送で名前を呼ばれなかったからといって、五体満足でいる保障はゼロ。
逝ってしまった仲間達の中に、彼女まで加わったらと思うと気が気でなかった。
浮かんでは消えずに根を張る最悪の可能性も、こうして本人が現れ安堵に早変わり。
喪いたくない仲間であり、護るべき存在であり、自分を救ってくれたヒーロー。
放送で名前を呼ばれなかったからといって、五体満足でいる保障はゼロ。
逝ってしまった仲間達の中に、彼女まで加わったらと思うと気が気でなかった。
浮かんでは消えずに根を張る最悪の可能性も、こうして本人が現れ安堵に早変わり。
(心配、させちゃったんだ……)
目尻に涙を浮かべる小夜へ、胸の奥がズキリと痛む。
思えば初めて会った時から、余裕のない表情の方が彼女は多かった気がする。
左虎や、自分の知らない者達の喪失が数時間で傷口を広げたのだろうか。
何にせよ、泣いてる小夜を前に自分のやるべきことは一つしかない。
思えば初めて会った時から、余裕のない表情の方が彼女は多かった気がする。
左虎や、自分の知らない者達の喪失が数時間で傷口を広げたのだろうか。
何にせよ、泣いてる小夜を前に自分のやるべきことは一つしかない。
「大丈夫よ、私はちゃんとここにいるから。小夜さん……あじゅーるを一人になんてさせないから、ね?」
幼い子供の用に泣きじゃくり謝り続けた彼女へ、そうした時と同じく。
ハンドルから離した手を、小夜の背に置き撫でる。
自分がここにいて、どこにも行ったりしないと伝わるように。
彼女を苛む不安と恐怖を、少しでも取り除く為に。
ハンドルから離した手を、小夜の背に置き撫でる。
自分がここにいて、どこにも行ったりしないと伝わるように。
彼女を苛む不安と恐怖を、少しでも取り除く為に。
よく見れば発電所で分断された時よりも、傷が増えている。
自分と離れ離れになってる間もずっと、誰かを助ける為に奔走していたのだろうか。
魔法少女のマジアアズールとして、戦い続けていたのか。
喪失の激痛に打ちのめされ、折れ掛ける度に「それでも」と奮い立たせ駆け抜けて来たのなら。
この瞬間だけでも、傷付いた翼(こころ)を癒せるように頬をそっと摺り合わせる。
自分と離れ離れになってる間もずっと、誰かを助ける為に奔走していたのだろうか。
魔法少女のマジアアズールとして、戦い続けていたのか。
喪失の激痛に打ちのめされ、折れ掛ける度に「それでも」と奮い立たせ駆け抜けて来たのなら。
この瞬間だけでも、傷付いた翼(こころ)を癒せるように頬をそっと摺り合わせる。
「……で、こいつは一体どういう状況だ?」
「見ての通り、感動の再会の真っ最中ってとこだろ。下手に水差せば、馬に蹴られて首をへし折られるかもな?」
「見ての通り、感動の再会の真っ最中ってとこだろ。下手に水差せば、馬に蹴られて首をへし折られるかもな?」
答えになってるようで、微妙に返答になっていない。
龍園達の手当てを済ませ、ロビーに戻ると甚爾の姿は見当たらず。
もしや参加者がやって来たのかと赴けば、顔色を変えて小夜が飛び出して行った。
会話の内容から察するに、別行動中の仲間と偶然にも再会を果たせたのだろう。
口を挟まず暫しの様子見に徹していると、シェフィと呼ばれた少女もリュージ達の視線に気付いた。
龍園達の手当てを済ませ、ロビーに戻ると甚爾の姿は見当たらず。
もしや参加者がやって来たのかと赴けば、顔色を変えて小夜が飛び出して行った。
会話の内容から察するに、別行動中の仲間と偶然にも再会を果たせたのだろう。
口を挟まず暫しの様子見に徹していると、シェフィと呼ばれた少女もリュージ達の視線に気付いた。
「あの、小夜さん?向こうにいる人達は……」
「前坂さん達ならだいじょ――そういえばシェフィちゃん、何だか喋り方が……」
「前坂さん達ならだいじょ――そういえばシェフィちゃん、何だか喋り方が……」
無事に会えた喜びが大きく勝り、意識を回せていなかったが。
舌足らずな幼子の口調が一変、見た目相応の少女に戻ってるではないか。
雄英高校での顛末を知らない為、疑問に思うのは当然だ。
さてどこから話すべきかを悩んでいると、頃合いを察したのか助け船が出される。
舌足らずな幼子の口調が一変、見た目相応の少女に戻ってるではないか。
雄英高校での顛末を知らない為、疑問に思うのは当然だ。
さてどこから話すべきかを悩んでいると、頃合いを察したのか助け船が出される。
「取り敢えず、話があるなら中で座ってからにしようぜ。クソ運営の言い成りになって殺し合いに乗ってる、ってんじゃねぇだろ?」
「ええ、それは勿論」
「ええ、それは勿論」
嘘発見器(トゥルーオアライ)の結果は、予想通り真実。
であれば銃を下ろし、親指で診療所内を示せば向こうも承諾。
自動ドアを潜り抜けて、ここからは言葉を交わし情報の穴埋め作業の始まりだ。
であれば銃を下ろし、親指で診療所内を示せば向こうも承諾。
自動ドアを潜り抜けて、ここからは言葉を交わし情報の穴埋め作業の始まりだ。
○
重い瞼を開けると、一番に見えたのは自室と異なる天井。
シーツの敷かれたベッドに横たわり、頭の下には程よい硬さの枕。
常時首に縄を掛けられてるに等しいデスゲームの舞台で、寝心地の良さを覚えるとは思わなかった。
毛布をどかして上体を起こすと、体中が油の切れた機械染みた悲鳴を上げる。
顰めた顔で再度仰向けに寝そべり、龍園の視線は傍らのサイドテーブルに向かう。
シーツの敷かれたベッドに横たわり、頭の下には程よい硬さの枕。
常時首に縄を掛けられてるに等しいデスゲームの舞台で、寝心地の良さを覚えるとは思わなかった。
毛布をどかして上体を起こすと、体中が油の切れた機械染みた悲鳴を上げる。
顰めた顔で再度仰向けに寝そべり、龍園の視線は傍らのサイドテーブルに向かう。
(寝てる間にとっ捕まった、って訳じゃねぇか……)
装備一式とリュックサックが置かれ、しかも体のあちこちに処置が施されてある。
気を失ってる間、何らかのトラブルが起きた。
といった事態にはなっておらず、リュージ達がここまで運んで手当てしたのだろう。
戦闘中は気力で己を動かしていたが、決着が付くと同時に限界が訪れた。
仮に自分一人ならどうなったやらと考えるも、単独で生き残れる程温い環境でないのを思い出し苦笑いを零す。
気を失ってる間、何らかのトラブルが起きた。
といった事態にはなっておらず、リュージ達がここまで運んで手当てしたのだろう。
戦闘中は気力で己を動かしていたが、決着が付くと同時に限界が訪れた。
仮に自分一人ならどうなったやらと考えるも、単独で生き残れる程温い環境でないのを思い出し苦笑いを零す。
「……っ、ん……」
か細い声に隣を見やれば、もう一つのベッドを占有する少女がいた。
色付いた唇が動く度に、苦し気な吐息が漏れ出る。
長いまつ毛を震わせ、数秒掛けて瞼が開かれた。
天井に始まり、ベッド脇に立てかけた刀に視線が移動。
ゆっくり体を起こすも、痛みに呻きあえなく中断。
再び背をシーツの上に倒すまでの流れが自分と被っており、つい呆れ笑いが口を突いて出た。
色付いた唇が動く度に、苦し気な吐息が漏れ出る。
長いまつ毛を震わせ、数秒掛けて瞼が開かれた。
天井に始まり、ベッド脇に立てかけた刀に視線が移動。
ゆっくり体を起こすも、痛みに呻きあえなく中断。
再び背をシーツの上に倒すまでの流れが自分と被っており、つい呆れ笑いが口を突いて出た。
「龍園……?」
「おう、お目覚めかよ寝坊助。ま、俺も似たようなもんだがな」
「おう、お目覚めかよ寝坊助。ま、俺も似たようなもんだがな」
横になったままで飛び出す軽口へ、意識も徐々に現実へ引き戻される。
見知らぬ部屋で目覚める前に、何が起きたか。
戦った相手と喪った者達を鮮明に思い出し、姫和の手は枕元へ伸びる。
語る術を持たない欠けたメダルが、見える位置にあった。
自分とは似ても似つかぬ粗野な言葉も、アイスを要求する声も聞こえない。
喪失は既に受け入れている、都合良く生き返る妄想に逃げる気は皆無。
それでも、あの赤い鳥が戦い抜いた証が失われていないことは。
姫和の中に安堵を抱かせ、少しだけ頬を緩める。
見知らぬ部屋で目覚める前に、何が起きたか。
戦った相手と喪った者達を鮮明に思い出し、姫和の手は枕元へ伸びる。
語る術を持たない欠けたメダルが、見える位置にあった。
自分とは似ても似つかぬ粗野な言葉も、アイスを要求する声も聞こえない。
喪失は既に受け入れている、都合良く生き返る妄想に逃げる気は皆無。
それでも、あの赤い鳥が戦い抜いた証が失われていないことは。
姫和の中に安堵を抱かせ、少しだけ頬を緩める。
「ここには伏黒達が……?」
「多分、な。生憎こっちも、起きたばっかりでよ」
「多分、な。生憎こっちも、起きたばっかりでよ」
互いにベッドの上から動かず、視線だけを向け合う。
二人共、自分達が意識を手放す瞬間を最後に記憶は途切れたまま。
病院らしき場所まで運び、一通りの手当てを行った人物が誰かは不明だが。
順当に考えれば、同行者達がやったのだろう。
彼らだって消耗してるだろうに、手間を掛けさせてしまった。
起きたら礼を言おうと思う姫和を尻目に、龍園は自身の装備を手元に手繰り寄せる。
紅いブレスレットは、炎の戦士への変身を可能にするだけじゃあない。
鋼鉄の恐竜へ命令を飛ばし、立ち塞がる障害を薙ぎ払う。
敵の生死を問わずに、だ。
二人共、自分達が意識を手放す瞬間を最後に記憶は途切れたまま。
病院らしき場所まで運び、一通りの手当てを行った人物が誰かは不明だが。
順当に考えれば、同行者達がやったのだろう。
彼らだって消耗してるだろうに、手間を掛けさせてしまった。
起きたら礼を言おうと思う姫和を尻目に、龍園は自身の装備を手元に手繰り寄せる。
紅いブレスレットは、炎の戦士への変身を可能にするだけじゃあない。
鋼鉄の恐竜へ命令を飛ばし、立ち塞がる障害を薙ぎ払う。
敵の生死を問わずに、だ。
(とうとう一線を越えちまった、か……)
今更になって、選択を後悔してる訳じゃない。
進んで殺しに手を染めたいとは思わずとも、他に方法がないなら。
選ばなければならない状況へ、追いやられた時は。
躊躇を振り切るだけの覚悟はしており、事実そうなった。
進んで殺しに手を染めたいとは思わずとも、他に方法がないなら。
選ばなければならない状況へ、追いやられた時は。
躊躇を振り切るだけの覚悟はしており、事実そうなった。
「龍園……あの時は、ああする以外になかったと私は……」
「止せよ、別に落ち込んじゃいねぇ。あれは俺が自分で決めたことだ」
「止せよ、別に落ち込んじゃいねぇ。あれは俺が自分で決めたことだ」
仕方のない状況だったとか、ブレスレット越しに指示を飛ばしただけとか。
言い訳を重ねる気はなく、己の意志でやった事だと受け入れる。
綾小路の生に幕を引いたのは、紛れもない龍園自身の選択の結果だ。
殺すことになると理解した上で、ブイレックスにトドメを命じた。
どんな形であれ殺しに変わりはなく、覆せない事実を背負うと覚悟し一線を越えたのだから。
言い訳を重ねる気はなく、己の意志でやった事だと受け入れる。
綾小路の生に幕を引いたのは、紛れもない龍園自身の選択の結果だ。
殺すことになると理解した上で、ブイレックスにトドメを命じた。
どんな形であれ殺しに変わりはなく、覆せない事実を背負うと覚悟し一線を越えたのだから。
「けどよ、お前が忠告した意味も今なら良く分かるぜ」
協力を持ちかけた時、姫和が口にした内容はハッキリ覚えている。
復讐に身を焦がし、憎悪を乗せた剣を振るって来た過去を持つが故の。
ともすれば龍園以上に、人の死を身近に置く世界を生きた刀使の言葉は建前なんかじゃなく。
説得力に満ちた重みがあると、初対面時から思っていたが。
いざ自分が本当に殺しの引き金を引き、分かった事がある。
復讐に身を焦がし、憎悪を乗せた剣を振るって来た過去を持つが故の。
ともすれば龍園以上に、人の死を身近に置く世界を生きた刀使の言葉は建前なんかじゃなく。
説得力に満ちた重みがあると、初対面時から思っていたが。
いざ自分が本当に殺しの引き金を引き、分かった事がある。
「一度越えちまったら、自分の中で躊躇も薄れていきやがる。殺さずに済む相手にぶち当たっても、この先は殺しの選択が付き纏うんだろうな」
手を汚すか否か、初めは強く迷いを抱こうとも。
たった一度でも引き金を引けば、殺しという手段が己の中で自然なものになっていく。
殺さずに事を治めるのが不可能ではない、だが殺した方が手っ取り早い。
なんて考えが当然のように思考を蝕み、二度目三度目と繰り返せば。
その時の自分は果たして、Cクラスのリーダーの龍園翔でいられるのだろうか。
らしくない考えがよぎり、自身への嘲りが低く漏れる。
たった一度でも引き金を引けば、殺しという手段が己の中で自然なものになっていく。
殺さずに事を治めるのが不可能ではない、だが殺した方が手っ取り早い。
なんて考えが当然のように思考を蝕み、二度目三度目と繰り返せば。
その時の自分は果たして、Cクラスのリーダーの龍園翔でいられるのだろうか。
らしくない考えがよぎり、自身への嘲りが低く漏れる。
「そうはさせない為に、私がいるのを忘れたか?」
「ああそうだったな、監視役の十条さんよ」
「ああそうだったな、監視役の十条さんよ」
自嘲を悟られない為にか、あえて揶揄いを口に出せば向こうはたちまち顰めた顔に。
己や甚爾と違って、姫和は間違いなく善寄りの人間だ。
仮に暴走でも起こせば、躊躇なく剣で以て阻止へ動くだろう。
そういう意味では、ある意味今の龍園に必要な存在と言えるのかもしれなかった。
シビトと化した可奈美を前に、現実逃避へ走るではなく。
自分がやるべき事だと覚悟を固め、刀を抜く様を見れば分からない筈はない。
己や甚爾と違って、姫和は間違いなく善寄りの人間だ。
仮に暴走でも起こせば、躊躇なく剣で以て阻止へ動くだろう。
そういう意味では、ある意味今の龍園に必要な存在と言えるのかもしれなかった。
シビトと化した可奈美を前に、現実逃避へ走るではなく。
自分がやるべき事だと覚悟を固め、刀を抜く様を見れば分からない筈はない。
「だが……お前は自分自身を裏切るような奴ではないと、私は思う」
顔を真横に向けて、協力者の男を見据え紡いだその言葉は。
下手な慰めでも、その場凌ぎのおべっかなんかでもない。
協力の提案に頷き、半日以上を共にし死線を乗り越え。
最も近くで龍園を見て来たのが、他ならぬ姫和だ。
頭の回転が速く、時には手段を選ばず目的達成に近付く危険性を孕み。
なれど己を曲げて恐怖に屈することは、自分を見失う真似にだけは絶対に出なかった。
下手な慰めでも、その場凌ぎのおべっかなんかでもない。
協力の提案に頷き、半日以上を共にし死線を乗り越え。
最も近くで龍園を見て来たのが、他ならぬ姫和だ。
頭の回転が速く、時には手段を選ばず目的達成に近付く危険性を孕み。
なれど己を曲げて恐怖に屈することは、自分を見失う真似にだけは絶対に出なかった。
「尤も、外道に堕ちた時には容赦してやらんがな」
「…………そいつは、有難いこって」
「…………そいつは、有難いこって」
返答までに暫しの沈黙を挟んだのは、それだけ予想だにしない内容だったからか。
信頼というより、己が目で見た龍園翔という男の在り方を受け止めたが故の言葉。
だとしても、よもや姫和がそういったものを投げ掛けるとは予想外。
今回ばかりは珍しく、自分の方が不意を突かれたらしい。
信頼というより、己が目で見た龍園翔という男の在り方を受け止めたが故の言葉。
だとしても、よもや姫和がそういったものを投げ掛けるとは予想外。
今回ばかりは珍しく、自分の方が不意を突かれたらしい。
「いつまでも寝てる訳にはいかないというのに……」
起き上がろうと試みるも、全身へ重しを付けたように動きが鈍い。
グラファイトとの遭遇に始まり、黒い神から決死の撤退。
可奈美と望まぬ再会を経てテレビ局跡地での騒動、そして蛮野相手に死闘を繰り広げ今に至る。
蓄積された心身の疲労が、いい加減休めと激しく訴えるのが自分でも分かった。
目を覚ましたなら次に向けて動かねばと逸る心も、襲い来る睡魔に劣勢を強いられるばかり。
グラファイトとの遭遇に始まり、黒い神から決死の撤退。
可奈美と望まぬ再会を経てテレビ局跡地での騒動、そして蛮野相手に死闘を繰り広げ今に至る。
蓄積された心身の疲労が、いい加減休めと激しく訴えるのが自分でも分かった。
目を覚ましたなら次に向けて動かねばと逸る心も、襲い来る睡魔に劣勢を強いられるばかり。
「そんなグロッキーで動き回っても、すぐにバテんのがオチだろ。心細けりゃ、こっちのベッドで一緒に寝るか?」
「なます切りにされたいなら、もっとハッキリそう言え……」
「なます切りにされたいなら、もっとハッキリそう言え……」
辛辣な返答も、眠気に押されてか弱々しい。
抵抗虚しく瞳は閉じられ、小さく寝息が聞こえるまで時間は掛からない。
異性からの軽口には慣れてないのか、頬がほんのり赤いのは見なかった事にしてやる。
かくいう龍園もまた、夢の世界への誘惑を受ける真っ最中。
肉体的にも精神的にも、ここまで駆け抜けた分の消耗が重く圧し掛かった。
呑気に構える段階でないと理解しているが、姫和に向けた言葉が自分にも返って来る。
抵抗虚しく瞳は閉じられ、小さく寝息が聞こえるまで時間は掛からない。
異性からの軽口には慣れてないのか、頬がほんのり赤いのは見なかった事にしてやる。
かくいう龍園もまた、夢の世界への誘惑を受ける真っ最中。
肉体的にも精神的にも、ここまで駆け抜けた分の消耗が重く圧し掛かった。
呑気に構える段階でないと理解しているが、姫和に向けた言葉が自分にも返って来る。
(帰っても目的は果たせなくなったな……)
ぼんやりし始める頭で考えたのは、永遠に失われた再戦(リベンジ)の機会。
高育校でのトップ争いに、強い拘りはない。
ただ、綾小路とは自分達の戦場で決着を付けたかった。
お互いが全く望まない形で勝敗が付き、喜べなどしない。
ストレートに言ってしまえば、生還を目指す理由が一つ欠けたことになる。
高育校でのトップ争いに、強い拘りはない。
ただ、綾小路とは自分達の戦場で決着を付けたかった。
お互いが全く望まない形で勝敗が付き、喜べなどしない。
ストレートに言ってしまえば、生還を目指す理由が一つ欠けたことになる。
そも、本当だったら自分は既にクラスのリーダーを降ろされ退学を待つだけの身。
擁護しようのない、敗北者の末路を受け入れた筈。
納得出来ない勝利を手にし、おめおめと帰って意味は――
擁護しようのない、敗北者の末路を受け入れた筈。
納得出来ない勝利を手にし、おめおめと帰って意味は――
「ハッ、誰が折れるかよ」
毒のように広まる後ろ向きな声は、不敵な笑みで一蹴される。
生還への意志は揺らがない、羂索達の駒に成り下がる選択は欠片も存在しない。
生還への意志は揺らがない、羂索達の駒に成り下がる選択は欠片も存在しない。
高育校を去るしかない己を救う為に、手を尽くした奴らがいた。
感謝を抱いてるとかじゃないし、助けてくれと頼んだ覚えだってあるものか。
感謝を抱いてるとかじゃないし、助けてくれと頼んだ覚えだってあるものか。
だけど、自分達を叩きのめした男に頭を下げてまで退学回避へ働きかけたことを。
回収したポイントを懐に入れず、全額手放す選択を取ったことを。
己の退学を阻止するべく駆け回った事実を、軽んじる気にはなれないから。
回収したポイントを懐に入れず、全額手放す選択を取ったことを。
己の退学を阻止するべく駆け回った事実を、軽んじる気にはなれないから。
――『楽しかった?』
「……さぁな」
ポイント回収に訪れた女に、投げ掛けられた問い。
当時の自分は、答えを持たなかった。
今も明確に返せる言葉なんざ、思い付きはしないが。
帰ったらその内、答えてやっても良いのかもしれないと。
ちっぽけなソレを生還の理由の一つに組み込み、目を閉じた。
当時の自分は、答えを持たなかった。
今も明確に返せる言葉なんざ、思い付きはしないが。
帰ったらその内、答えてやっても良いのかもしれないと。
ちっぽけなソレを生還の理由の一つに組み込み、目を閉じた。
| 185:遊戯-第Ⅲ形態:朝比奈まふゆ:リスタート/桐ヶ谷和人:リスタート | 投下順 | 186:瞬間センチメンタル(後編) |
| 182:炎の叫びと欲望の果てと未来の約束(後編) | 時系列順 | |
| 前坂隆二 | ||
| 十条姫和 | ||
| 龍園翔 | ||
| 伏黒甚爾 | ||
| 水神小夜 | ||
| 164:雄英事変:ピリオド | シェフィ |