この世に生きる喜び -Pleasure with me to live in this world- ◆xR8DbSLW.w
○滞想/ヤスリナナミ・ハチクジマヨイ・×××××・クマガワミソギ○
悲鳴が聞こえた。
彼と会話をしている最中に唐突と。
聞き間違いようもないほど、真宵ちゃんのもので、
危機に間違いないと思える、真宵ちゃんのそれで。
故にぼくは今走っていた。
理由なんか問われる隙もなく。
考察なんか整えてる暇もなく。
階段を大急ぎで、降りる。
一段飛ばしで、コケないようにと気をつけながら。
後ろでついてくるであろう彼を見る暇もなく。
「…………はあ、はあ」
息が切れる。
少し寝てばかりいたからかそれとも翼ちゃんの疲れが癒えきっていないのか。
疲れが溜まるのが少し早かった。
けれど、ぼくはそれすらも反応しない。
くそっ。
なんでぼくはあんなところでのんびりとミスドなんてちっぽけなもの探してたんだ!
さっさと出て、せめて玄関にいるのが礼儀―――――分かりやすいだろうに。
真宵ちゃんが……。真宵ちゃんが――!
守るって決めたのに。
救うって決めたのに。
姫ちゃんの代わりとしても。――――ぼくの友達としても。
彼女が死ぬのは嫌だ。
はっきりといえる。
ぼくは彼女を失いたくはない。死なせたくはない。
だから――――早く、速く!
そして、薄暗い廃墟から―――――視界が開けた。
見えた人影は、三つ。
@
一つは真宵ちゃん。
腰が抜けているのか、立ちあがろうとしない。
一つは大きな男の人。
体格は、ぼくなんかより全然いい。
一つは――――石の塊を持ち上げている少女。
その矛先は、まごうことなく―――――真宵ちゃんに向いていた。
なんだ――――こいつ?
殺そうとしているのか、真宵ちゃんを。
どうして?
真宵ちゃんがなにかしたのか?
何で。
何で何で。
ナンデナンデナンデ。
こいつは……真宵ちゃんを――――コロソウト?
「―――――――――やめろっ!」
気付いた時には、ぼくは言い放っていた。
石を振りかざす少女に向けて。
精一杯の、怒号をぶつける。
正直ぼくでも驚くぐらいの大きな声が響きわたり。
当然、ぼくの眼前にいた彼女らは、一人を除いて、こちらを振り向いた。
「…………ざ、戯言さん……」
無論一人は、真宵ちゃん。
ぼくの姿を捕らえた途端、涙をあふれさせて、力が抜けてしまっていた。
ぼくは右手をあげて返しておく。
すると同時に、催眠術にかかったかのように、力がふぬけていき、無神経にも、眠っていく。
緊張の糸が、切れてしまったみたいだ。緊迫の意図が途切れてしまったみたいだ。
「…………誰ですか、あなたは」
一方の着物服姿の女の子は、不機嫌そうだ。
気だるそうに、こちらに向かって歩んでいる。
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るもんだよ」
だが、臆する訳にも行かない。
いつも通りのポーカーフェイスを崩したら、守れない。
冷静に、冷淡に。
「そうですね、ではわたしは鑢家の家長……なのかは不明ですが、鑢七実と申します。ではあなたは?
「こりゃ親切にどーも。ぼくは、《
戯言遣い》、《戯言さん》、《いーくん》、《いっくん》、《いーさん》、《いーたん》、《いの字》、
《いっきー》、《師匠》、《いー兄》、《いーの》、《いのすけ》、《詐欺師》……とか呼ばれているけれど別に呼び方は何でも構わないよ」
ビンビンと感じる、敵意。
感じ間違えることすらも許さない圧倒的な殺意。
――――を、先ほどまでは、感じた。
けれど、今。正確にはぼくの名前で《戯言遣い》の名が出た辺りから、
徐々に、ゆっくりとだが敵意を解いていた。
理由は分からないけれど、好都合だ。
「それは愛くるしい名前をいっぱい持っていて羨ましいですね。―――ならばわたしは《欠陥製品》……とでも呼べばいいのかしら」
「………呼びたけりゃあお好きにどうぞ」
わーお。
その名前を知られていたか。
ぼくとしては出来る限り忘れた記憶の一部なのだが。
―――さて、戯言は置いておいて。
「………いえ、人識さんの真似をさせていただいただけですので……。
わたしはあなたのことをいっきーとでも呼んでおきましょう。とても可愛らしいと思います」
人識。
――――ここでは、言うまでもなくあの殺人鬼のことなんだろう。
ぼくが人間失格と呼ぶあいつ。
ぼくを欠陥製品と呼ぶあいつ。
ぼくの裏側。鏡の向こうの存在。
―――あいつと、出遭ったと言うのか。
その上で、ぼくと出遭っている彼女は何者なんだろう。
因果の中、《物語》においてどういう役割なのだろう。
狐面風に言うのであれば、関係を持ってしまった彼女は――――何者なんだろう。
戯言中の戯言。
傑作中の傑作。
考えても仕方が無いね。
閑話を、休題させるとしよう。
あとよりによってそれかよ。と一応言っておく。
「――――それであなたは………」
七実ちゃんが再び口を開こうとした頃。
彼が、帰ってきた。
『………まったくひどいなあ。僕をおいてとっといくなんて』
球磨川禊と名乗った彼が、学習塾から戻ってきた。
………なんだ、歩いてきたのか。
「あら、禊さん。七花はいましたか?」
一方の七実ちゃんと言えば、そんな彼を敵意を放つこともなく向かい入れる。
『ううん、居たのは彼だけだよ』
「ありがとうございます………。成程、わたしは合っていまたみたいですね」
『…………ああ、……うん、そうだね』
彼はのんびりと歩きながら七実ちゃんの方へ戻る。
この口ぶりからすると、この二人は元々二人でここに向かっていたみたい。
「……………」
じゃあ、あの人は?
先ほどから一向として動かないでかい人。
まるで生気を感じない。普段ぼくに言われるそれとは違い、言葉のままの意味として。
石の塊を持っている七実ちゃん。
泣きじゃくり腰が抜けてる真宵ちゃん。
動かない血塗れの男の人。
…………成程な。考えるまでもない。
要するに、七実ちゃんがあの男を殺し、位置的に見て真宵ちゃんは守られていたんだろう。
けれども、守っていた人は殺されて悲しくて泣いてしまっている―――と。
で、その後鬱陶しいとかくだらない理由で真宵ちゃんを邪魔だとして殺そうとしていたところをぼくが乱入した、って感じかな。
剣呑剣呑。
ぼくはギリギリセーフのところでやってきたんだな。
………よかった。本当によかった。
ぼくは真宵ちゃんに向かって歩き出す。
その際に、彼と七実ちゃんからはなんら妨害をうけることはなかった。
『ねぇ………』
だが、その最中。
ぼくは彼に問われた。
『本当にさ、その女の子のこと大事なの?』
「ああ、それはもう掛け替えの無いほどに」
人に、掛け替えのある命なんて無いけれど。
『殺しちゃダメ?』
「殺しちゃダメ」
当たり前だ。
言うまでもないけれど。
それでもきっと真剣に彼はぼくに尋ねて、
『じゃあ、僕は殺さないし、七実ちゃんも殺さないって』
「「………はぁ」」
七実ちゃんと声が被る。
よく分からないが、もしくは気まぐれかもしれないけれど殺さないと言った。
『別にいいよね、七実ちゃんも』
「………まあ、構いませんが。どちらでも」
………カリスマ性と言う奴か。
彼は、七実ちゃんの心へ上手い具合に螺子込まれていた。
まるで狐面みたいだ。あの人は、無駄にカリスマだけはあったからな。
と言うところで、彼ら二人は踵を返した。
何処へ向かうかは知らない。―――だから聞いてみる。
躊躇う場面では、ないだろう。
「君たちは今から何処へ向かうの?」
『僕たちは―――どうする? 七実ちゃん』
「そうですね、わたしとしては………どこでもいいんですが」
どうやら無計画であるっぽい。
『ん? クラッシュクラシックはいいの?』
クラッシュクラシックは……ここから丁度北西に位置する建物だったと思う。
じゃあ、彼らは豪華客船からでも来たのだろうか。
「今更行ったとしても蛻の殻でしょう。
―――それに泥舟さん……でしたか? 彼の言い分をそのまま信じるというのもよくよく考えればおかしな話です」
泥舟。………誰のことかまだ名簿を
阿良々木暦のところで止めているから分からない。
少なくとも、ぼくの知り合いにはいなかったと思う。
『そりゃごもっとも』
最後、彼のその言葉を以て会話は終わった。つまりはもう喋るようなことはない、ってことか。
なんか会話についていけないけれど、ようするに当てが無いみたいだ。
だったら、親切にもぼくはひとつの指針を示してあげよう。
「だったらさ、骨董アパートってところに行ってみれば? もしかしたらいい人がいるかもよ?」
いい人。
七実ちゃんがどの人を思い浮かべているかは分からないし、
彼がどんな人を思い浮かべているかはぼくは分からない。
ただ、ぼくがイメージするのは――
哀川潤。
圧倒的「主人公」。
絶対的「請負人」。
きっと彼女であれば、こんな二人でも、成長させてくれる。
ぼく達が出会ったのが、ただ単なる街道であればそんなことを頼む気もないけれど。
生憎ここはバトルロワイアル。
――――放っておく訳にはいかない。
もう人を殺そうなんて発想に向かわせない。
ここにいるかは分からないけど玖渚と真宵ちゃんを壊すわけにはいかないんだ。
確証はある。
ぼくというダメにダメを重ねたようなぼくが出来たんだから。
ついでに言うと、あの殺人鬼に人殺しと言うものを止めさせたのも彼女。
だから、と言うのも変だけれど。
必ず、こんな二人でもなんかをどうにかしてくれる。
そう思う。
故にぼくはそういった。
きっとぼくの様なマイナスな奴の二人でも、大丈夫。
なにせ、彼女は「主人公」なのだから。
『どうする? 七実ちゃん』
ぼくの意見を聞いて、彼は七実ちゃんに軽い口調で意見を促す。
対して七実ちゃんはと言うと。
「はあ……。まぁ……禊さんがよろしければそれでもよろしいですが」
彼女の方も割合どうでもよさそうだった。
というよりは、もう検討はあまりないからそれでもいいよ、みたいな。
けれど、結論としては骨董アパートに向かうようであった。
『だって』
と、彼が締める。
が、今度は彼がぼくに質問を投げかけてきた。
『………そういやついてこないの? 人数は多い方がいいと思うけど』
という素敵滅法なアイディアを当然の様に却下して。
『……そう』
すると目に見えて彼はテンションを下げていった。
言っておくけどぼくは悪くない。――――と思うけど。
次いで溜息交じりに、七実ちゃんが彼に、
「禊さんは……言うまでもなさそうですね」
『うん、僕は七実ちゃんについていくよ』
確認を込めて、言葉を発し、彼もさも当然かの様に返す。
……この二人の間柄ってなんなんだろうなあ。
なんて考えていると、今度はぼくに話しかけるみたいで、
顔をこちらに向けてまるで病人の様なひ弱な声を零す。
「………そうですか、ではいっきーさん。出来ればあの方の言う通り面白そうなお方でしたからお喋りしてもよろしかったんですが」
あのお方………零崎かな。
あいつ余計な事言ってなければいいが。
「まあ人探しをしているのなら仕方が無いんじゃない?」
『そう言うことだね! ――――そう言うことで僕達はそろそろ行くとしようか』
というと、今度こそはを再度彼は踵を返して―――。
ぼくもその気になって、思ってみない言葉を紡いだ。
「そう。――――じゃあ、縁が《合ったら》、また会おう」
○感想/クマガワミソギ・ヤスリナナミ○
鑢七実。
世界に嫌われたもの。
運命に弾かれたもの。
父母に拒まれたもの。
何であれども、良い人生を送ったなどは傍目から見れば言える人生ではない。
本人がどう思おうとも、それに変わりはないと言えよう。
才能がある? だからなんだ。
勝者になる? だからなんだ。
最強になる? だからなんだ。
才能ゆえに病魔に見舞われた彼女。
病魔ゆえに努力を禁じられた彼女。
健康でいたいという夢を見る。
努力をしたいという夢を見る。
たとえ何でも見切る見稽古。
それをもってしても、どうにもできない夢。
羨ましい。
彼女は、遇う人会う人にそう言った。
そんな彼女。
鑢七実は先に噂に聞いた戯言遣いと出遭った。もしくは出逢った。
思ったことと言えば、感じたことと言えば。
面白い方でした。
と言う他に見当たらない。
少なからず鑢七実にとってはそうであった。
漂う空気は、異質なもので。
放つ言葉は、異色なもので。
まるで戯言のようでいて、芯がこもった言葉である。
聞こえる言葉の端々から感じるに足りて。
分かることと言えば、あの少女を守りかったという気持ち。
彼女は笑う。もしくは嗤う。
そんな戯言遣いの姿を思い返して。
まるで自分とは違った。
性別も、年齢も。
気色も、風貌も。
強弱も、経験も。
それでいて、雑草とも思えなかった。
わたしは彼―――それと禊さんに何を抱いているのでしょうか?
ふと、彼女の中で起こる疑問。
かといって答えに戸惑う議題でもなかった。
憐憫の情?
仲間意識?
一目惚れ?
正直言って、どれでもよかったのかもしれない。
そんな疑問は直ぐ様取り下げられた。
暫く歩く。
そんな中。
ふと、目線を下に下げた。
そこには、血濡れた自分、次いで着物。
何も思わない―――わけではない。
感じたことは、微かでこそあるが、純粋なる憤怒。
自分が悪いとはいえ、雑草の分際でよくもわたしを汚したな、と。
明らかに、違う。
戯言遣いに感じた思いとは。
球磨川禊に通じた思いとは。
再度、笑う。――――自分自身に嗤う。
かつて、彼女は鑢七花に「錆びた」といった。
それはもう、ボロボロに。
もはや何も斬れまい、そこまで思わせるほどに。
奇策士、とがめ。
既に死んでいった彼女。
あの人が連れ去ったが為に思えば錆びていった。
良くも悪くも、斬れ味は落ちていく。
だけれども、最後には皮肉にも感じるが―――二人の力の結束があって負かされた。
無論、言うまでもないが虚刀流が刀を使ったというのもあるだろう。
しかしそれでも、七実に隙を付けくわえたのは紛れもなく、とがめの奇策である。
同時に、その僅かな隙に付け入ることが出来るのは――――鑢七花ただ一人であった。
ならば、今の自分はどうなのだろう。
顧みる。省みる。
今までの軌跡、ここに至るまでの足跡を。
――――――確実に、錆びている。
もはや取り返すが付かないほどの傷―――錆を付けられた。
球磨川禊。
彼と関わってから、それが物凄い速さで浸食していく。
そこらの雑草とは思えないほどの、存在へ成り上がる――――もしくは成り下がる。
けれど、それを恐れている訳ではない。
ただただ受け入れる。
可笑しな話だ。
錆を振り落とせと言った本人が、錆に犯されているのだから。
相手―――鑢七花。
彼ほどの単純馬鹿であれば、とがめが死んだと聞いた途端吹っ切れておかしくない、七実はその様に考える。
まるで逆。
七月。
彼女らには紫のある「七」の字が付いた月。
土佐の鞘走山清涼院護剣寺で起きた決闘とは、全くの逆。
七花が正真正銘、全力の力量を以て戦える。
七花が精進証明、渾身の覚悟を以て争える。
だが。
七実は?
彼女は?
先ほど、英雄の一人を殺した。
だから、全身全霊、悔いの残らない様に、戦えるという証拠になるのであろうか。
分からない。―――――本人しか。
病気。
結局はどうなったのだろう。
取り除くに適ったのか。《物語》の前に屈してしまったのか。
仮に出来ていた場合。
彼女の夢は、一つ前に進むことができる。
健康な体を、手に入れられる。
そして、どんだけ無茶な努力をしようにも止められることもない。
仮に出来なかった場合でも。
彼女はきっといつも通りであろう。
元々彼女の病は、不治の病。治らないところで絶望するほど彼女は『弱くない』。
どちらに傾いているのか。
それを知るのは、―――――二人のみ。
意味を知るのは、―――――誰もいない。
だが、錆びた刀、朽ちる天才―――鑢七実。
歩みを止めるに、至らない。
その姿を先行して歩く球磨川禊は、いつも以上に笑っている。
理由が分かるのは、一人である。
過負荷の条件。
思い通りにならなくても。
負けても。勝てなくても。馬鹿でも。
踏まれても。蹴られても。
悲しくても。苦しくても。貧しくても。
痛くても。辛くても。弱くても。
正しくなくても、卑しくても。
それでも、へらへら笑っているものである。
ここには、二人。
へらへらと笑う組み合わせが、明確に存在しているのである。
―――――はたして、笑わない彼。戯言遣い。彼は何に入るのか。
――――――全ては球磨川禊の匙加減。
【一日目/朝/E‐3】
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、血塗れの着物
[装備]双刀・鎚@刀語
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:弟である鑢七花を探す。
1:七花以外は、殺しておく。
2:骨董アパートに行ってみようかしら。
3:球磨川さんに興味が湧いてきた。
4:少しいっきーさんに興味が湧いてきた。
[備考]
※不治の病が『大嘘憑き』により消えた可能性があります。
その際の制限があれば制限等(時間制限、程度の問題等)は後続の書き手様にお任せします。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。だけどちょっと疲れたかな』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式とランダム支給品が3個あるよ』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんについていこう!』
『3番は骨董アパートに行くのもいいかもしれないよ』
『4番は―――――まぁ彼についてかな』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります。
存在、能力をなかった事には出来ない。
自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り2回。
他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り3回。
怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。 (現在使用可)
物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
※戯言遣いとの会話の内容は後続の書き手様方にお任せします。
○理想/×××××・ハチクジマヨイ○
静かに、去ってゆく二人の姿を見送って、ぼくは――――この立っている男の人の傍に立ち入った。
死んでいるにも関わらず。
満身創痍なのも関わらず。
堂々とした立ちぶりを見せる、死体がここに一つ。
真宵ちゃんの傍で、何かから守っているかのような、番犬のように威圧的に立っている死体が一つ。
改めてみると、その姿は本当に大きい。
零崎なんかを引きだすまでもなく、平気でぼくよりも高い身長である。
ただ、その巨木のような男も――――血塗れとなっていた。
下から確認すると、未だ付けている足は比較的(あくまで比較的だが)怪我は少なく、
腹に行くと、すこし、描写するのも躊躇われるが、変な形になっている。
その時目に入るはすっかり垂れ下がっており、それはきっと死んでいるから、の他にも理由はある。
肩が砕けている。見るだけで分かるほど、はっきりと砕けていていた。
無論頭も、血が垂れ下がっている。―――――これは七実ちゃんがやったんだろうね。
成程……。
この人には悪いけれど、益々真宵ちゃんはギリギリセーフだった、というわけだ。
確認するまでもないけど、一応は確認の意味を込めて脈を測ろうと手を取ってみる。
―――が、もはやその時点で手遅れだ、という結論に至った。
「…………ふう」
ぼくは一息を吐いた。
溜息を吐くと幸せが逃げると言うが、今のぼくに幸せの貯蓄なんて無いから関係はないかもしれない。
―――さてと、だ。
ぼくは、この男に対してどう対処するべきなのか。
体格を見る限り、上半身Tシャツ一枚なの(だったっぽいこと)も考えて、ぼくが着ているこの制服は彼のものだと推測できる。
だとしたら、ぼくはどうするべきなんだろう。
「………礼を言うべきなのかな」
そうは言いつつも、一向にしてぼくは礼を言わない。
別に言わない気が無いわけでもないけど、だからと言って言う訳でもない。
曖昧模糊。
不分明なぼくは、どちらでもない立場をとり続ける。
「…………なんなんだろうなあ」
またしても嘆息気味にぼくは吐く。
この声は、誰に救いの手を差し伸べているもんなのか。
生憎ながらぼくも、よく分からない。
甚だ戯言で間違いなかった。
特例はあるとして、ぼくは死体と言うものは馴れているつもりだ。
その為死体と言うものに驚いているつもりはない。
幾ら成長したとはいえ、見慣れた物は見慣れてしまったし、ぼくは彼に対してなんら感慨を受けていない。
だからぼくに躊躇う理由は一切ない。
これがぼくの平常運行。
こんなのがぼくの常識。
成長しても、劣化しても、周りが直ぐに変わるわけではない。
《なるようにならない最悪(イフナッシングイズバッド)》。
確か子荻ちゃんがぼくに唱えていた気がする。
言い訳をするつもりもないし、言い逃れを試みる気もありはしない。
この人もどうせ、ぼくに親切をするっていう形で関わってしまった故に、死んでしまった。
経験論上、あり得ない話ではない――――というレベルではなく。
真っ先に思い浮かべた状況。
ぼくは死にたくないとはいえ。
ぼくは失いたくないとはいえ。
ぼくの所為で人が死ぬなんて、もうコリゴリ。
《運命》という言葉で縛られようが。
《宿命》という単語で魘されようが。
《世界》という語句で拒まれようが。
《物語》という文句で塞がれようが。
ぼくは――――切り開いていきたかった。
「主人公」としても。
「傍観者」としても。
「………ま、何であれ。真宵ちゃんを守ってくれたことには感謝するほかないよね」
とはいえ、ぼくはどうしてかこの人を前にしてどうしても言葉を濁してしまう。
恨まれている―――なんて被害妄想でもしているのかな。
だとしたらきっとお門違いだ。
この人がぼくについて知っているとも思えないし、何より――――他人の為に命を張れる人なんだから。
ぼくが被害妄想するなど、失礼も甚だしい。
……まあ、いつも通りの戯言だから。
「………言っても仕方ないよな」
と、ぼくは最終的に結論付けて、もしくは結論から逃げる形でぼくはこの話題を打ちきる。
打ちきって、ぼくはこの人が背負っていたディパックを頂戴した。―――有難く使わせてもらう。
……異様に軽かったのが少しばかり気になった。
その次に、ぼくがすることと言えば、
八九寺真宵ちゃんの元に戻ること。
「………」
ぼくは、彼女の元に座り込む。
警戒も何もあったもんじゃない。
「………よいしょ、っと」
彼女の体をを、胡坐を掻いているぼくの身体にに抱き寄せる。
いざという時、やっぱりこっちのの方が逃げやすいっていうのもあるからね。
その際、それなりの振動がたってしまった、
それでもなお彼女は起きることもなく寝続けていた。
無用心にぐっすりと眠りこくっている。
――――疲れていたんかな。
そりゃ6時間も動きっぱなしだったんだし、
死の直前に迫っていたっていうんだから仕方のない話か。
それに30分強前まで寝ていたぼくとしては、文句の一つも言えない立場なんだよね。
「………」
真宵ちゃんは、すぅすぅと微かな寝息をたてながら、眠る彼女。
なんとなく、頭を撫でてみる。
すると彼女は可愛らしいうめき声をあげ、眠り続ける。
「………」
しかし、彼女。
何で一人なんだろう。
ぼくにはそれがよく分からない。
「………」
第一回放送で、なにがあったのだろうね。
もしかして――――阿良々木君の名前でも呼ばれたかな。
………だとしたら、笑いごとじゃあないよなあ。
彼女にとって彼がどこまで占めていたのかは知る由もないし知りたいとは思わないけれど。
だからといって無関係ではない。
寧ろ口振りからしたら、依存していたかもしれなかった。
可能性は十分にある。
それ故に侮れない。
その為に恐ろしい。
「………」
もしくは、ぼくの見解が間違っていたのか、ツナギちゃんが敵だった、とか。
そうだとすると、彼女がここにいないのも頷けるってもんだけど。
一応これでもぼくの観察眼は相応のものだと思っていたのだが違ったのかもしれない。
突如として夢で片付けていたツナギちゃんのおぞましき、禍々しき、いや一周回って神々しい
あの姿を見せつけられたら泣きたくなるのも頷けよう―――――――――きっとぼくなら呆然として動けないかもしれない。
―――戯言……だよね?
「………」
はあ。
どちらにしても、彼女はそれ相応の悲しみを背負ってしまったはずなんだ。
人の死ってものは、どうにも終わらない。
いつか哀川さんも言っていたように、真宵ちゃんだってそれは同じ。
延々と、永遠と。
蝸牛の殻の如く、渦巻いて、抜け出せない。
「………」
だとすると、ぼくは彼女が目覚めたとき、どう接してあげるのが一番いいのだろう。
「………」
まあゆっくり考えよう。
彼女が目覚めるまで、ぼくもゆっくりしようとしよう。
………仕方もないので、あの夢の内容を覚えている間に何かに書き留めておこうかな……。
――――良い感じの紙が無いな……。仕方ない。二つ地図もあることだしその裏にでも書かせていただこう。
しかしぼくはこの夢の忘れが遅いな。普段だったら、とっくに忘れてもいい頃なのに。
それだけインパクトがあった夢だったのか。はたまた、安心院さんのせいなのか。
まあどちらでも構わない。
「………」
さあ、お祭り騒ぎはここまでだ。
「………」
この《物語》も、ハッピーエンドで。
「………終わらせてやるか」
ぼくの吐いた言葉は、戯言ではなく、傑作だった。
大嘘なんか吐くまでもなく、ぼくの言葉は何処までも真摯で。
戯言なんか撒くまでもなく、ぼくの言葉は何処までも真剣だ。
さあ、始めようじゃないか。
お祭りから、それに続く宴を。
―――――安心院さん……。ぼくは君が何を思っているか知らないけれど
ぼくは生きていきたいんだ。
ぼくは死んでいきたくない。
―――――全てが君の思いのままに行くと思うなよ
「主人公」として、「主役」として。
憧れる哀川さんの姿も参考にしながら。
全てが満足いく結果に行くとはどんだけ卑しかろうが言えたもんじゃないけれど。
最低限のボーダーラインを踏みこさないことは可能だろう。
―――――仮に出来ると言い張り思っているんだとしたら―――ぼくは
何をすれば「主人公」なのかぼくは知らない。
どうすれば「主人公」なのかぼくは分からない。
けれど、それらしくは振る舞うことは――――できる。
欺瞞はぼくの得意技だ。―――自分自身を対象にしても、それは変わらない。
いや、主人公は何をしても「主人公」なんだろう。
例えば、突拍子もなく人を殴ろうが。彼女は「主人公」であり続けた。
例えば、許可なく清水寺を壊そうが。彼女は「主人公」であり続けた。
例えば、訳があろうが父を殺そうが。彼女は「主人公」であり続けた。
ならば、ぼくは動き出そうと思う。
とんだスロースターターもいたものだ。
我ながらにしてそう感じる。
けれど―――遅いとは思えない。
今からでも、今さらでも。
ぼくは、「主人公」になってみよう。
そして、最後にぼくは呟いた。
「―――――ぼくはその現実をぶち殺す」
ありもしない光を瞳に集わせ、ぼくは決断した。
決して安心院さんの言うとおりに動くつもりもないけれど。
ぼくは少しばかりヒーローというものになろうではないか。
それこそ。
――――目の前のこの男の様な。
再度ぼくは真宵ちゃんの頭を撫でる。
―――今度は何も言わなかった。
真宵ちゃんのおなかのあたりを見れば、ぼくが今書き留めた情報がある。
そこには、今はまだこうとだけ。
『安心院なじみ―――――要注意』
ぼくは筆を、紙に載せる。
迷うことなく、戯言だった。
【一日目/朝/E-3 学習塾廃墟前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(4~6)、お菓子多数、缶詰数個、
赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り)
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
1:とりあえずは真宵ちゃんを待ちつつ、夢の内容でも纏めようかな
2:玖渚は……いるのかな? ……いたら………?
3:ツナギちゃんは……どうしたんだろう
4:………もしも暦君が死んでいたら……?
5:名簿と、ディパックの重さの訳でも確認しよう
[備考]
※ネコソギラジカルで
西東天と決着をつけた後からの参戦です。
※第一回放送を聞いていません。そして名簿も完全に把握はしていません。
※夢は徐々に忘れてゆきます(今はまだ大まかに覚えている)
※球磨川禊との会話の内容は後続の書き手様方にお任せします。
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]健康、精神疲労(大)、気絶中
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:………。
1:………。
[備考]
※傾物語終了後からの参戦です。
※真庭鳳凰の存在とツナギの全身に口が出来るには夢だったと言う事にしています。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
最終更新:2012年12月27日 15:42