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白狐と青年 第55話「乱の終わり」

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konta

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「乱の終わり」



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 庁舎から脱出させられた議員たちを後方に護送する武装隊達に庁舎上の戦いの余波が及ばないように警戒していた彰彦は、街中に響き渡るような鬼の咆哮を聞いた。
 宙空に現れた、≪魔素≫製の刃で出来た結界じみた空間。その中に取り込まれた、庁舎から脱出させられてきた議員たちの話によれば通光が変化したものとも通光が変化していたものともとれるらしい鬼の上げた断末魔の咆哮だった。
 宙に磔られた鬼の首を切断した者は確かに彼の親友だ。
 それらの光景を目に焼き付けながら、彰彦は思った事をそのまま呟く。
「しっかし、なんだあの刃物の数は、クズハちゃんの魔法か? いや、でもあの≪魔素≫の感じは匠っぽい気もするんだが」
 彰彦が呟いている間にも、空中に存在している刃群は次々に砕けては≪魔素≫の光となって消えて行く。数を減らしていく刃を見て、地上に帰還していたキッコが明日名に支えながら口を開いた。
「あれは基本的にはクズハのものが構成しておるようだが、匠のものも感じる。どうにも二人の≪魔素≫が混ざっているようだの」
「てーと、つまりあの刃物は匠は少ししか作ってなくて、残りのほとんどクズハちゃんが作ってるって事でいいのか?」
「一本一本の制作者が違うわけではないみたいだ。全ての刃に二人それぞれの≪魔素≫を合わせた刃を作っている。おそらくは二人がそれぞれの≪魔素≫を使って一つの魔法を構築していると見ていいと思う」
「明日名の言う通りだの。匠が持っておるあの魔装、あれを中心にして結ばれた魔法だろうて」
「なるほどなあ……これまで一度もあんなことができるなんてアイツ言ってなかったってことは、もしかしてぶっつけ本番でやったのか?」
 だれともなく口にして、彰彦はそのくらいの無茶でもやらないと危険な相手だったのだろうと動きを止めた鬼の骸を見上げた。
「でもこれでとりあえず行政区の戦いは完全に俺たちの勝ちってことだな」
 やれやれと息を吐く。周りに居る者たちも最も厄介そうだった鬼が討伐された事に安堵しているのが分かる。
 ほとんど崩れてしまった庁舎の上階付近にいる二人をどうやって迎えに行ったものか相談しようと彰彦は平賀の方に目をやり、
 あ、という顔をしている平賀を見た。
 その顔は上空に向けられている。どうしたのかと思っていると、キッコの声が聞こえてきた。
「む、落ちて来るの」
「は?」
 声に反応して即座に視線を上に戻す。
 そこにはもう先程まで存在していた刃の群れの姿はなかった。
 そして、キッコの言う通り、宙に刃で支えられていた鬼の骸も、刃の上に乗っていた匠とクズハも、等しく地上に向けて落下を開始していた。
「げっ?!」
 巨体と呼べる大きさの鬼の骸が落下してきたら何人が下敷きにされるのか。結末を考えて思わず口もとを引き攣らせる。ともかく落下物たちをどうにかしようと彰彦はキッコたちと手早く相談しようとして、あまりにものほほんとしている彼女らの姿に慌てた。
「ちょ、キッコさん! 余裕こいてないであのでっかいのどうにかしようぜ!」
「慌てるな。上を見てみい」
「あん……?」
 目線をまた上げる。
 鬼の骸は淡い≪魔素≫の光に包まれてゆっくりと落下してきていた。同じように、クズハを抱えた匠もゆっくりと落下してきているのが見える。その手には符が構えられている。
「あー、符か。まだ持ってたんだな。心配させやがって」
 まったくじゃと頷いて、平賀が武装隊の指揮役に声をかける。
「医療班と、通光君の死体を回収する為に何人か武装隊を用意しておいてもらおうかな」
「了解しました」
 指揮役の指示を受け、鬼の討伐を受けて弛緩していた空気が慌ただしさを取り戻していく。
 そんな中、匠とクズハは鬼の骸と共に地面に降り立った。


            ●


 鬼の方へと駆けよって行く武装隊たちの流れからはずれて、彰彦は着地するとそのまま力尽きたように寄り添って地面に座りこんだ二人に駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
「……かなり疲れた」
「少し、休みたいです」
 二人とも、特に匠は全身血染めでひどい有り様だが返事も返ってきたし、意識も保っているようだ。後ろからやってきたキッコや平賀にも焦っている様子が無い。
 大事はないのだろうと結論し、彰彦は匠の頭を平手で叩いた。
「ずいぶんと派手にやりやがったなおい!」
「んむ、よくやった」
 キッコがクズハに触れて無事を確認する。自身に触れる手を見たクズハがキッコの身体についた傷を見て眉尻を下げる。
「キッコさんの方こそ、大丈夫ですか?」
「なに、生き残ってしまいさえすればこの程度の傷など大したことはない」
 カラカラと笑ったキッコに明日名が口を挟んだ。
「それでも一応は重傷者なんだからあまり元気よく動かないでくれ。見ている側が心配になってくる。後服もしっかりと着てくれ」
「ふん、うるさいものよ」
 キッコが適当に明日名の言葉に応じる。
 それに対して何か苦言を重ねるために言葉を発しかけた明日名は、しかし言葉を止めた。何か言いたそうに視線を向けているクズハに気付いたのだ。
「クズハ? どうしたんだい? 俺に何か気になる所でもあるかな?」
 訊ねた明日名の肩に平賀が手を置く。
「これは、ばれたかのう」
「まさか……」
 小さな声で囁き交わす二人にクズハは短く訊ねた。
「明日名さんは……お兄、ちゃん? ……なんですか?」
「――――」
 一瞬目を瞠り、明日名は匠に問いかけるような視線を向けた。それを受けた匠は地面に座りこんだまま言葉を紡ぐ。
「通光が安倍の家の狐の血の話も含めて、全部話してしまいました」
「……そうか」
「クズハに起こったのは先祖返りのような現象だろうとも通光は言っていました」
「ああ、俺は古い狐の血に縋った。成功率を少しでも引き上げようとしたんだよ」
 明日名はまいったね、と呟いて困ったように笑った。
「俺としては、全部忘れてクズハという新しい人格を生きてもらいたかったのだけどね」
「……私は、これからもクズハとして生きていこうと思います。それでも私は私自身の過去を知りたいです。自分の今までとこれからに自信を持てるように。
 いろいろと、教えてくださいますか? 以前の私の事、両親の事、お兄ちゃんの事も」
「ああ、わかった。全部話そう。クズハが望むままに、それが君の幸せになるのなら」
 小さく答える明日名の言葉を聞きとった彰彦が場を和ませるように言葉を放る。
「そうと決まれば知りたい事はなんでも聞いちまうか。いつまで兄妹一緒に風呂入ってたとか、実際のところクズハちゃんの齢は幾つなのかとかな」
「あー……そういうのはまた今度の機会にね」
 曖昧に笑う明日名。それに追い打ちの質問が飛ぶ前に、平賀が口を開いた。
「話もまとまったようじゃな。こっちの方も、なんとかまとまりそうじゃよ」
 平賀はそう言って、匠たち全員に聞こえるように告げた。
「ある程度以上の思考能力を持たない異形達を操っていた通光君達が倒れ、今回の事件の首謀者たちもこうして討伐された。現在大阪圏内で発生しておる異形侵攻の騒ぎも、大元の指揮者が居なくなったためか統率感が無くなって後はもう収束するのは時間の問題だそうじゃよ」
「本当ですか! よかった……」
 クズハはそう言うと、匠の腿に倒れ込むようにして身体を横たえ、ぐったりと力を抜いた。
 匠も大きく深呼吸をひとつして、地面に仰向けに倒れ込んで力の抜けた笑みを浮かべた。
「ああ、これで安心して休める……!」
 適度に力の抜けた発言を聞いた平賀が呆れたように言う。
「かなり無茶をしておったのう、二人とも≪魔素≫も体力もほとんど残っておらんじゃろう」
「やったかいはあったと思うんだけど?」
「それは、まあたしかにそうじゃな」
 そう応えた平賀の顔が狸爺の笑みになっている事を確認して、匠は苦笑した。
「その笑顔が出てるって事は色々と任せても大丈夫なんだろうけど、あんまりあくどい事をしないでくれよ、じいさん」
「まあ、諸々の後始末はわしに任せておくとええ。悪いようにはせんよ」
「とりあえず任せるよ。起きた時にどうなってるのか楽しみだ」
 そう答えて、匠は全身を包む疲労やら苦痛やらに抵抗するのをやめて意識を手放した。







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