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無限桃花 一滴の雨

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eroticman

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一滴の雨


か細い雨音が耳を撫ぜた。

雨か……

眠りの淵に揺らぐ意識がゆるりと浮上してゆく。
何か快い夢を見ていた気がする。
脳裏に蘇る内容は朧だが胸に満たされた何かは、やるせないほど柔らかく、穏やかなものだった。

目を閉じたまま深く息を吸い、時間をかけて長く吐き出す。
そうしてしばらく雨粒の囁きに耳を傾けていると、その間に夢の残滓は霧散していった。
身を起こし寝乱れた髪に軽く手櫛を入れる。
すい、と難無く毛先まで指を通す長い黒髪は常ならば一つに纏め上げている。
背に流していては刀を振るい、敵を斬り伏せるのに邪魔なだけだ。
かといって男の如く断髪するのは躊躇われた。
闘いの年月と女子の未練が、流れる黒髪を形作った。
軽く手で束ねてから、いつものように枕頭に置いていた結わえ紐に手を伸ばす。
愛刀村正の横にあるそれを何気なく取ろうとした、刹那



束ねた髪がさらさらと手から零れて背に落ちた。


消えたはずの夢の通い路から懐かしい少女のこえがする。

あねうえ、あねうえ、私に結わえさせて
ほら、わたしのはまだこんなに短いんだもの
上手に結わえるから 
ねぇ、あねうえ


「彼方……」

か細い雨音はいつしか篠突くものへと変わっていた。
村正の鞘の上に一滴だけ、雨が落ちた。


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