創作発表板@wiki

F-1-479

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
Top > ファンタジーっぽい作品を創作するスレ > スレ1> 1-479 ファンタジーと言えば魔法だろう 5

ファンタジーと言えば魔法だろう 5


1-454の続き

479 : ◆91wbDksrrE :2009/02/16(月) 00:17:29 ID:nACkizgp

「べっくしっ!」
 盛大なくしゃみが、青空に響く。
「風邪でもひいたのかにゃ?」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
 誰かに噂でもされてんのかな。
「屋上でサボったりしてるから風邪ひくにゃ」
「だから風邪じゃないって。サボってもいないし」
 今は昼休み。俺は一人のんびり休み時間を楽しんでいた。だから、別にサボり
ってわけじゃない。……まあ、ちょっと早めかつ自主的に昼休みに突入したりは
したけれども。具体的には一時間分。
「それをサボりって言うんにゃ」
「うるへー。って言うか心の声を読むな」
 最近、『澱み』の発生率が上がっているような気がする。
 放課後や休みもお構い無しに発生する奴らのせいで、何かと忙しい毎日を送って
いる俺にも、休息の時は必要だ。うん、言い訳完了。
「誰に対しての言い訳にゃ?」
「だから心の声を読むなって。……しかし……なあ、リリ」
「なんにゃ?」
「あいつらって、一体何なんだろうな?」
 あいつら……『澱み』と俺達が呼んでいる存在の正体は、今もってわからない
ままだ。ただはっきりしている事は――
「わたしにゃの敵にゃ。それで十分にゃ」
「ま、そりゃそうなんだけどな」
 そう。はっきりしている事は、あいつらが俺達人間に害を為す存在であるという
事くらい。そして俺達は、それを妨げる為に戦っているという事くらいだ。
 何の為にかはわからないが、今まで相対してきた『澱み』は、例外無く人間に
害意を持って動いていた。
「……何の為に、か」
 物事には、何事にも理由があって然るべきである……それは、人間の価値観、
理屈であって、人ならぬ存在には通じないのかもしれない。だが、それがもしも
存在し、それを理解する事ができれば、今よりもっと効率良く、今よりもっと
先んじて、『澱み』と対する事ができるんじゃなかろうか。俺はそんあ事を
考えたりしているのだった。
「……うーん」
 魔法しか通じず、通常兵器では一切打撃すら与える事ができない。
 時間経過と共に成長し、徐々に知能のような物を得ていく。
 それと共に戦いにも適応し、手ごわくなる。
 同時に、最初は単なる塊のような形態を、徐々に人のそれへと近づけていく。
 発生するのは逢魔が時と言える夕刻のみ。
 発生原因、目的共に全く不明。
 推察できる材料も、今の所なし、と。
 それが俺の『澱み』について知る全てだった。


「……さっぱりわからん」
「わからん事を無理に考えようとしても、あんまりいい事は無いにゃ」
「まあ、そりゃそうなんだろうが」
 そもそも、わからないと言えば、俺自身が遣っているこの力だってそうだ。
「リリは……自分の生まれとか、わかんないんだよな?」
「またその質問かにゃ。女の生い立ちを語らせるとにゃ、無粋の極みにゃ」
「……そういう台詞は大股開いて毛づくろいしながら言うなよ」
「見られたにゃー。恥ずかしいにゃー」
「棒読みかい」
 魔法とは、一体何なのか。『澱み』に抗する武器であり、俺だけにしか使えない
技であり、通常の物理法則とは一線を画する現象を生み出す超常の力だ。
 リリの正体も含め、俺は俺が遣うこの力の起源を知らない。いや……知らされて
いないと言うのが正確か。
「高度に発展した科学は、魔法をも超える……」
 呟いたその言葉が、唯一俺が"あの人"から受け継いだ言葉。力と、その言葉だけ
を、まだ物心ついて間もなかった頃の俺に残し、"あの人"は……先生は、何処かへ
消えた。代わりに現れたのが、一匹の喋る黒猫、リリだ。だが、現れたタイミング
とかを考えると、色々と知ってそうなリリは、多くを語ってはくれない。
 というか、あんまり知ってそうな雰囲気が無い。
「失礼にゃ」
「じゃあ、知ってる事話してくれよ」
「女にゃ秘密があるにゃ」
 毎回こんなやり取りではぐらかされるわけだが、多分、リリも詳しい所は
知らないのだろう。知っていて、秘密にする理由は無いはずだから。
「はぁ……先生に、もっと詳しく色々聞いておけばよかったなぁ」
 後悔先に立たずとはこういう事を言うのだろうか。あの頃の俺は、力の遣い方を
覚えるのに精一杯だったし、実際にその力を何の為に遣えばいいかもわかって
いなかった。それがわかったのは、何年かして実際に『澱み』と対峙し、殴って
も蹴ってもどうにもならなかった『澱み』を、魔法の力で何とか退けた時に
なって、漸くだ。だから、今考えてるような、様々な疑問を問おうという考えを、
当時の俺は一切持っていなかった。
 先生に色々と教わるのが楽しかった。
 ……ただ、それだけが、当時の俺の"理由"だったんだ。
「先生、今頃何してんのかなぁ」
 思えば、先生は謎の多い人だった。というか、謎しかなかったような気もする。
長い髪と、丸みを帯びた体つきから女性だと思ってはいるが、それとても本当に
そうであったかと問われれば自信が無い。ハスキーな声だったし、言動は男っぽい
感じだったような気もするし。住んでる場所とか、普段何してる人なのかとか
そういった話をした事は一度も無く、プライベートも謎だ。
「……なんで、俺だったんだろ」
 疑問は、青空を流れ、時折陽の光を遮る雲のように、次から次へとわいてくる。
『澱み』についての疑問。魔法についての疑問。教えてくれた先生への疑問。
 ……だが、そのどれにも、答えは出ない。太陽を遮る雲を流す風は、俺の中の
空には吹いていないようだった。
「……ま、考えてもしゃーないか」
 チャイムの音が、そんな俺の思考を現実へと引き戻す。もう昼休みも終わりだ。
「結局、なるようにしかならんしな」
「そうにゃそうにゃ」
 リリも横で頷いている。
「せっかく、先生から貰った力だ……活かさなきゃ損だもんな」
 少なくとも、俺のこの力は、大なり小なり、誰かの為にはなっているはずだ。
 そう考えるだけで、何か気力が湧いてくるような気がする。それは気のせいかも
しれなかったが、魔法で大事なのはそうだと思い込む事だ。そして、それは魔法に
おいてだけの話じゃない。
「よし、じゃあ、気合入れて午後の授業頑張るぞ!」
「その意気にゃー!」
 そう。
 信じる力は、いつだって何かの助けになる。
 良い事だけじゃなく……悪いことにだって、助けとなってしまう。
 それを俺が実感させられるのは、その日の放課後の事だった。


 ―― 一方その頃 ――


「え、えっと……すいませーん」
 僕は勇気を振り絞って先輩の教室を訪ねていた。きっと、多分、恐らく、魔法の
事について話だと言えば、先輩は察してくれるはず!
「はーい」
 僕の声に応じて出て来たのは、女の先輩だった。うわ、なんか綺麗な人だ……。
 黒い髪が長くて綺麗で、相当手入れとかしてんだろうなぁ、って感じ。
 ナチュラルなお化粧が上手だし……大人の女って雰囲気だなぁ。
「あれ、貴方一年の滝野さんよね? うちのクラスに何か用?」
 思わず見惚れてしまいそうになってた僕は、その人の声で我に返った。
 そうだよ、見惚れてる場合じゃないじゃないか!
「あ、えっと……はい、そうです」
 あれれ? なんで僕の事知ってるんだろう? ……まあいいや。とにかく今は
先輩を呼び出してもらって、話をするのが先決だ。
「えっと……その……高崎先輩、いらっしゃいますか?」
「祐太に用なの? そりゃ残念だったわねー。あいつ前の時間からドロップアウト
 してて、まだ帰って来てないわよ」
 ……まさか、そんな想定はしてなかった。ドロップアウト。要するにサボり。
 ええええええっ!? そんなぁあぁあ!
「まあ、多分昼休み終わる頃には帰ってくるだろうけど……どんな用なの?」
「……えと、えと……その、ちょっと他の人には言い辛い、かなぁ、って」
「ははぁ……なるほど、そういう事か。あいつモテるもんねぇ。何でかはさっぱり
 わかんないけど」
「え、あ、いや、違います! そういう話じゃないんです!」
「はいはい、そういう事にしといたげる。伝言とか、しておいてあげようか?」
 優しい先輩だなぁ……。
「あ……いいえ、またちょっと出直してきます……えっと」
 僕はお礼を言おうと思って、その先輩の名前を知らない事に気付いた。
「芳原叶(よしはらかなえ)よ。滝野美由さん」
「あ、ありがとうございます、芳原先輩……」
 あれ、やっぱり僕のこと知ってるんだ。何でだろう?
「僕のこと、知ってるんですか?」
「そりゃもちろん。滝野さん有名人だもの」
 ……僕が有名人? そんな馬鹿な。
「それに、一昨日くらいから、ちょこちょこうちの教室の方伺ってたでしょ?
 何か用でもあるのかなぁ、ってずっと思ってたの。まさかあいつに用とは
 思ってなかったけど」
 ああ、なるほど、それでか……って見られてたんだ。恥ずかしい……。
「すいません……」
「別に謝らなくていいわよ。ま、放課後とかになら、普通にあいつも
 いると思うから、授業終わってから来たらいいと思うよ。一応、あなた
 が来たって事は伝えて、待ったげるように言っておいてあげるから」
「あ、ありがとうございます!」
 うぅ……いい人だぁ。何だか、上級生の教室に来るのを躊躇してた自分が
馬鹿みたいに思えてきちゃうよ……あはは。
「ホントにありがとうございました。じゃあ、放課後に出直して来ます!」
「いいっていいって。んじゃね」
「はい!」
 あー、ホントに案ずるより産むが怒るでしかしだったよ、明日香。
 いい先輩とも会えたし、ホントに思い切って良かった!
 ……なんて事を考えながら、ランラン気分で自分の教室へと帰っていく僕は、
この出会いがきっかけで、学校で一騒動起こる事になるなんて、思いもして
いなかったのだった――


〈続く〉

※続きは、1-537

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー