創作発表板@wiki

F-2-031

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

「凶漢ケイン 2」

31 : ◆6l0Hq6/z.w :2010/08/14(土) 23:44:28 ID:ak8DW+ZG

》24の続き。
主人公の設定を若干変更します。

当初三十代半ばで屈強な、ゴリラのような巨漢のイメージで書き始めましたが、
二十代前半の、もっと俊敏そうな、中背の細マッチョということにします。

2ちゃんでは一旦書いてしまうと修正が利かないという不便さがあることに気付いた。
今後も書いてしまってから、やっぱこれはこういうことにするね、ってのはありそう。

32 :凶漢ケイン ◆6l0Hq6/z.w :2010/08/14(土) 23:57:40 ID:N6UWauOD

 地上の騒ぎが大分遠ざかって、ケインがようやく立ち止まって息をついていると、
その耳に鳥の羽ばたくような音が届いた。

辺りの暗闇を見回すと、離れた所の屋根の連なりのすぐ上を、一羽の鳥の影が、水
平に飛び回っている。
 カラスくらいの大きさで、それは決して近付かず、かと言って離れもせず、遠巻き
に巡回しては時折屋根に止まり、再び羽ばたいては周囲を巡っていた。
 ケインは怪訝そうに見るが、すぐに気にするのを止めると、今度は猫のような忍び
足で屋根の上を進んで行く。やがて、目指す建物を前にすると、一旦足を止めて、光
る目をじっと向けた。
 それは裏通りに建つ石造りの黒い屋敷で、三階建ての最上階の窓に灯がついていた。
 ケインは石瓦の屋根に音も無く飛び移ると、明かりの点った窓の上方へ進む。そし
て下の様子を窺いながら、マントを脱ぐと片手に掛けて、ぐっと身を乗り出した。

 その時、先ほどから彼にずっとついて来ていた黒い鳥が、羽ばたき音と共にやって
来て、彼のすぐ間近を飛び回り始めた。
 その羽が顔を打つと、ケインは鬱陶しそうに手を振って追い払おうとする。
 しかし黒い鳥はしつこく付きまとうと、耳障りな甲高い声で鳴いた。それは女の引
き笑いのような奇怪な声音で、闇夜に不気味に響いた。

 一方でその直下、三階の明かりのついた部屋の中では、十名ほどの男たちが集って
いた。
 中央に据えられた円テーブルを囲んで、四名の男がカードゲームをしている。
 そのうちの一人、背の低い小太りの男は、血走った目で自身のカードと、対戦者た
ちのそれとを見比べていた。そのカードを持つ手が小刻みに震えている。
 部屋の周りの壁際には、いかつい男たちが立ち並んでいる。それぞれの腰に剣を吊
った彼らは、円テーブルのゲームをむっつりと押し黙って見守っていた。

 沈黙の中、不意に窓の外から奇妙な鳥の鳴き声が届いてきた。
 窓際に立っていた男は訝しげに振り返ると、ゆっくりテラスに出て行く。
 外に立ち、そこから夜の町並みを見回していると、突然上方からマントが降って来
て、その頭にふわりと覆い被さった。
 絡みついた布を、男が必死に引き剥がそうとしていると、そこへケインが屋根の縁
に掴まりながら飛び込んで来て、両足蹴りを相手の顔面に喰らわせた。男は吹っ飛び
ながら部屋の中に転がり込む。
 一同は突然の闖入者に驚愕して立ち上がり、向かい合う。
 ケインは床に降り立つと、向こうのテーブル席にいる小太りの男を見て、

「やっぱり、ここだったか」

 穏やかな、それでいて恐ろしいような笑みを浮かべる。

「ルキウス、会いに来たぞ」

 ケインの姿を見て、小太りの男は一瞬で顔を蒼褪めさせると、すぐに椅子を後方に
倒しながら立ち上がり、後退りする。
 一方、ケインに蹴り倒された男は、絡まったマントをようやく外すと、

「……手前!何の真似だ!」

 怒り心頭で立ち上がり、腰の剣に手を掛ける。更に他の男たちも同様にして続こう
とすると、突然背後から一喝の声が入った。

「待て!」

 一同が振り返って見ると、部屋の奥のソファに五十絡みのスキンヘッドの男が座っ
ている。
 腰周りが太く、がっしりとしていて、鷹のような目が印象的である。
 決して大きな体ではないものの、有無を言わさぬ威圧感を持つその風貌から、一見
してこの場を仕切る首領である事が知れた。
 ソファに身をもたせながら、男は鷹揚に言う。

「俺が相手をしよう」
「しかし!」
「妙な奴だ。ひとつ話をしてみようじゃないか」

 スキンヘッドの男は面白そうに相手を眺めながら、

「どうした若僧、血相変えて。死にそうなツラだぞ?」

 嘲弄を含んだ口調に、しかしケインは意にも介さない様子で、

「邪魔するぜ。あんたがこのヤクザどもの首領か?」
「ヤクザとは失礼な奴だな。これでもこの町の上流人士と付き合いがある」
「だったらそいつらも揃って、同じヤクザなんだろうよ」
「俺がヤクザなら、お前は礼儀知らずのチンピラじゃねえか……チンピラを
家に招待した覚えは無いが?」

 ケインは悪びれもせず、両腰に手を当てると、

「なあに、長居はしねえ。用事を済ませたらすぐに帰る」
「用事だと?」

 スキンヘッドは鼻で笑う。 

「だったら玄関から来い」
「よく言うぜ。どうせ門前払いだろ」
「だが、これじゃ喧嘩の出入りにしか見えんな」
「体裁はどうでもいい」

 ケインは言うと、小太りの男に目を当て、

「俺は、お前さんたちが匿っている、その男に会いに来たんだ」

 小太りの男は荒く呼吸をし、恐怖に震えながら背後を振り返ると、スキンヘッドに懇
願するような目を向けた。しかし相手の方はそれを無視すると、

「匿う?何を勘違いしてる」

 肩をすくめて見せ、

「匿ってなんかいない。そんな義理はねえな」

 小太りの男は驚愕に目を見張ると、思わず大声を出す。

「馬鹿な!」

 首を横に激しく振って、

「そんな馬鹿な!だってあんたはさっき……」

 その時、部屋のドアが勢いよく開いて、屋敷の中を守っていた男たちが飛び込んで来
た。すぐに侵入者に飛び掛かろうとするのを、スキンヘッドの男は大声で制する。

「手を出すんじゃねえ!俺がいいと言うまで控えてろ!」

 一同が動きを止めていると、スキンヘッドはケインに向き直り、

「……よく聞け。この男はな、俺たちにとって頭痛の種なんだ」

 素っ気無く告げる。

「とんでもないカード気違いでな。そのくせ、負けも支払えない。なのに、庇う筋合いが
どこにある?」
「負けは払った!」

 小太りの男は血相を変えて言う。

「払ったじゃないか!」
「とうとう気が狂ったか」

 スキンヘッドの男は軽蔑の視線を向け、

「俺たちはまだ、一銭も受け取ってないぞ?」
「だから、夜明けまでには!夜明けまでには金が来る!」

 そう言って、小太りの男はケインを指差した。

「この男が掴まれば!賞金が手に入るんだ!」
「やっぱりそうか」

 ケインは溜め息をついた。

「古い友人を売るとはな。見損なったぞ、ルキウス」
「友人だと?」

 ルキウスと呼ばれた小太りの男は、吐き捨てるように、

「お前みたいな悪党は友人でも何でもない!俺は今じゃ堅気なんだ!」
「昨日はずいぶん気前良く、遊ぶ金を持たせてくれたはずだが」
「うるさい!お前などさっさと首切り役人に引き渡されればいいんだ!それが正義
のためなんだ!」
「正義か」

 ケインは薄ら笑いを浮かべる。

「可哀相に。確かに少々頭がおかしくなってるらしい」

 ルキウスが憎悪に顔を歪めるのにも構わず、スキンヘッドの男を見ると、

「こいつをここまで追い詰めたのは、あんたらか」
「何を言う。博打の負けはこの男の勝手だ」
「イカサマをやっておいてもか」
「おい。口の利き方に気をつけろよ」

 スキンヘッドが凄む。

「一体、何の根拠があってそんな事を言う?」
「お前たちがけしかけたんだな。俺を役人に売れと」
「けしかけてなんかない。こいつが勝手に申し出たんだ」
「甘く見るなよ」

 今度はケインが鋭く言い放つ。

「そんな理屈が通ると思うのか?俺は今、すこぶる機嫌が悪い。この気分をどうして
くれる?」
「だったら、この男を呉れてやる」

 スキンヘッドの男は顎をしゃくって小太りの男を指し示す。

「実際、こいつはとんでもねえ奴さ。今だって凝りもせずにゲームを続けている。負け
の清算は済んだんだから、続きをやらせろと迫りやがる。こっちも渋々付き合っちゃい
るが、どうせまた迷惑を掛けるに決まってるんだ。もううんざりだよ。渡してやるから、
後はそっちの気の済むようにしろ」
「収まらんな」

 ケインは冷たく答える。

「そんなんじゃ収まらない」
「なら、どうする?」

 スキンヘッドの男は皮肉っぽい笑みを浮かべる。

「この屋敷の人数をすべて相手にでもするつもりか?」
「試してみるか?」

 ケインは、ぐるりを取り囲む男たちを見回しながら、

「この狭い部屋なら、二十人でも三十人でも同じ事さ。戦い方は心得てる……
それに、誰を狙えばいいのかもな」

 凄みを利かせたその言葉に、スキンヘッドの男の片頬がぴくりと動く。部屋の中に
集まった男たちが一斉に剣を抜く。
 一触即発の雰囲気の中で、突如ルキウスは腰帯に差した匕首を抜き放つと、腰溜め
に構えて、叫び声を上げながらケインに突進した。
 その切っ先が胸に突き刺さる寸前で、ケインは体を開いて難なくそれをかわすと、
相手の手首を掴まえる。強い握力でそのまま上方に捻り上げると、

「おいおい、無茶するなよ」

 笑って言う。

「たったひとつの命だぜ?」

 ルキウスは痛みに脂汗を流している。ケインは一同を見回すと、

「分かってるさ。あんたらは皆悪くない!」

 澄ました顔で頷いて見せる。

「むしろ被害者だ。博打の負けはきちんと清算されなきゃな。それが筋だ」

 そう言いながら、捻り上げているルキウスを見て、

「だが、この男も悪くない。
 こいつはな、二年前まで俺の相棒だった。だが心を入れ替えてヤクザな道から足を
洗ったのさ。それで地道にこの町で居酒屋なんぞを始めた。真っ当な暮らしを願って
いたのさ。
 そうさ、こいつは悪くない。悪いのは……」

 ケインは匕首をもぎ取ると、そのまま相手の手をテーブルに叩き付け、素早く匕首
を振り上げると、押さえ付けた手の甲に容赦なく突き立てた。ルキウスは悲鳴を上げ
る。
 しかしケインは構わず切っ先をごりごり捻り込みながら、

「悪いのは、この手だ!」

 強い口調で言った。

「カード遊びを忘れられない、この手なんだ!」

 テーブルに釘付けになった手から、真っ赤な血が流れ出し、床へと滴り落ちる。
 周囲の男たちは度肝を抜かれてその様子を見詰めている。やがてケインは顔を上げ
ると、

「なあ、あんた。取り引きをしようじゃないか」

 スキンヘッドの男は眉をひそめると、

「取り引き?」
「そうだ。
 この片手。それに俺の怒りを抑える事。その二つの代償で、この男の借りをチャラ
にしろ」
「……断ったらどうする?」
「もう少し血が流れる必要があるな」

 スキンヘッドの男は黙り込んでいるが、やがて喉の奥で笑った。ケインは目を細めると、

「どうした。何がそんなに愉快だ?」
「いや……実はな。お前という男と一度話してみたかったのさ」

 笑みを浮かべると、

「最近、名を売っているという、〈凶星〉ケインとな」
「名など売っちゃいない。勝手にそう呼ばれてるだけだ」
「どのみち、この程度の事でくたばる奴だとは思ってなかった。もしくたばるようなら、
会う価値も無いさ。だが、やはりお前はこうして俺の前に現れた。
 実際、大した度胸さ。そんな出来る男なら、場合によっちゃ手を組みたい、仲間に引き
入れたいと考えていたんだが……気が変わった。お前みたいな危ない奴とはやっ
てけねえよ」
「独り言か?」

 ケインは無感動に尋ねる。

「俺は鏡じゃないぞ。取り引きするのか、しないのか?」
「……ああ!分かったよ!」

 忌々しげにスキンヘッドは答える。

「分かったから、とっとと出て失せろ!」
「宣誓しろ」
「何?」
「神々に誓え。俺はこう見えて、信心深いんだ」
「ああ!」

 うんざりした顔で、

「盗賊と知恵の神セザールと、主神セムにかけて!」

 その文句を聞くと、ケインはようやく、テーブルの手に突き立てていた匕首を抜いた。
途端にルキウスは床にうずくまると、呻きながら血塗れの手を押さえる。

「良かったな、ルキウス」

 ケインは見下ろしながら笑った。

「これで晴れて自由の身だぞ」
「くそったれ」

 ルキウスは涙を流しながら憎悪の目で見上げてくる。

「地獄に落ちろ!」
「いずれ落ち合うさ。とうぶん先の話になるだろうがな」
「とうぶん先だと?」

 スキンヘッドの男が吐き捨てるような笑い声を出す。

「お前なぞ、明日中には断頭台に上ってるよ!」
「俺は捕まらんよ」

 ケインは平然と嘯く。

「こんな事で捕まるもんか。宿命の星が守ってるからな。だから賞金も無しだぜ?」
「大した自信だ。しかし仮に逃げおおせたとしても、その調子でやってりゃ半年で
お陀仏さ」
「さあて!用事は済んだ」

 話に飽きると、ケインは匕首を持った手を素早く振り抜く。凶器は目にも留まらぬ
速さで飛び、座っているスキンヘッドの頭のすぐ横の壁に突き刺さった。

「命拾いしたな……ほら、邪魔だ!どけよ!」

 ケインは出口を塞ぐ男たちを乱暴に押しのけると、外へと出て行く。色めき立つ一同
に、スキンヘッドは怒声を放つ。

「行かせてやれ!」

 戸惑う男たちに、今度は抑えた口調で言い聞かせるように、

「放っておけ。関わるな」
「しかし!」
「こっちが無用な傷を負う必要は無い」

 そうは言いながらも、自身の顔のすぐ横に刺さっている匕首を苛立たしげに引き抜いて、
前の床に乱暴に投げ捨てる。そして廊下を遠ざかって行く足音を聞きながら、鬱憤晴らし
のように呟く。

「……どのみち、この町から生きて出られやせんさ!」

〈つづく〉

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー