(違和感と悪夢)
更新日:2022/09/10 Sat 21:17:48
更新日:2022/09/10 Sat 21:17:48
「ん?ここは……」
アンコは首を降った。
「アンコ、どうしたの?」
声のする方に向く。そこにいたのは、ロリポップ姉妹の次女、フロート・ロリポップだった。
「あ、いえ…」
アンコは辺りを見渡した。いつも通り、普通のちょっとおかしな喫茶店の店内だ。
(寝てたのかな?)
少しの違和感から目を反らしながら、アンコは仕事に戻った。
アンコは首を降った。
「アンコ、どうしたの?」
声のする方に向く。そこにいたのは、ロリポップ姉妹の次女、フロート・ロリポップだった。
「あ、いえ…」
アンコは辺りを見渡した。いつも通り、普通のちょっとおかしな喫茶店の店内だ。
(寝てたのかな?)
少しの違和感から目を反らしながら、アンコは仕事に戻った。
ここは喫茶オウマがトキ。人外女児の集う場所。
アンコはここの厨房を任されているパティシエの一人だ。
厨房の外から声が聞こえる。
「にゃははは~!酒じゃ!酒じゃ!ろくべぇ!もっと酒~!」
この声はこの店の店員、のじゃロリ猫のものだ。
(またやってる……勤務中なのに……)
アンコは磨いていた皿に力を込めた。
(うっせぇな…)
「どうかしたのかい?小鳥ちゃん」
声をかけたのは、同僚のピネ・ブルースだった。
「へ?あ、いや……何でもないです……」
パリンと音がして、慌てて手元を見ると、洗っていた皿が割れていた。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、それよりも君の手は切れてないかい?珍しいね、君がミスするなんて」
ピネの声を聞きながら、アンコはモヤモヤとした感情を抱えていた。
(今、私は何を考えて……?)
アンコはここの厨房を任されているパティシエの一人だ。
厨房の外から声が聞こえる。
「にゃははは~!酒じゃ!酒じゃ!ろくべぇ!もっと酒~!」
この声はこの店の店員、のじゃロリ猫のものだ。
(またやってる……勤務中なのに……)
アンコは磨いていた皿に力を込めた。
(うっせぇな…)
「どうかしたのかい?小鳥ちゃん」
声をかけたのは、同僚のピネ・ブルースだった。
「へ?あ、いや……何でもないです……」
パリンと音がして、慌てて手元を見ると、洗っていた皿が割れていた。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、それよりも君の手は切れてないかい?珍しいね、君がミスするなんて」
ピネの声を聞きながら、アンコはモヤモヤとした感情を抱えていた。
(今、私は何を考えて……?)
(最近何かおかしい)
アンコは思い返してみた。
(何故か時々意識が遠くなる)
それは決まって、アンコがストレスを感じている時に起きる。
(気が付くと知らない場所にいる)
遠のいた意識から目を醒ますと、何故かリビング・ラビリンスにいる事がある。
(どうしてここにいるのか分からなくなる事がある)
オウマがトキの店員として、厨房を任せられたのに。
「アンコ……?アンコ!」
ハッとして振り向くと、プラム・ロリポップとその愛犬のマロロンの姿があった。
「どうしたの?フラフラして」
「イヌヌワン!」
「あ、す、すみません……。ご注文のホットケーキ出来上がってます」
アンコはホールへと戻っていくプラムの姿を眺めながら、またモヤモヤを募らせた。
(自分だっていつも仕事サボってフラフラしてる癖に……)
アンコは自分の思った事にビックリして、小麦粉のついた手で口を押さえた。
(っていけない!こんな事考えたら……)
疲れてその場にしゃがみこんだ。幸いな事に、厨房スタッフ達は忙しく、誰も気が付いていない。
(良い子でいなきゃ……良い子でいなきゃ……)
アンコは深呼吸を繰り返し、吐き気を飲み込んで立ち上がった。
(良い子でいなきゃ繝翫ヤ繝。繧ー達が悲しむ!)
アンコは思い返してみた。
(何故か時々意識が遠くなる)
それは決まって、アンコがストレスを感じている時に起きる。
(気が付くと知らない場所にいる)
遠のいた意識から目を醒ますと、何故かリビング・ラビリンスにいる事がある。
(どうしてここにいるのか分からなくなる事がある)
オウマがトキの店員として、厨房を任せられたのに。
「アンコ……?アンコ!」
ハッとして振り向くと、プラム・ロリポップとその愛犬のマロロンの姿があった。
「どうしたの?フラフラして」
「イヌヌワン!」
「あ、す、すみません……。ご注文のホットケーキ出来上がってます」
アンコはホールへと戻っていくプラムの姿を眺めながら、またモヤモヤを募らせた。
(自分だっていつも仕事サボってフラフラしてる癖に……)
アンコは自分の思った事にビックリして、小麦粉のついた手で口を押さえた。
(っていけない!こんな事考えたら……)
疲れてその場にしゃがみこんだ。幸いな事に、厨房スタッフ達は忙しく、誰も気が付いていない。
(良い子でいなきゃ……良い子でいなきゃ……)
アンコは深呼吸を繰り返し、吐き気を飲み込んで立ち上がった。
(良い子でいなきゃ繝翫ヤ繝。繧ー達が悲しむ!)
ところ変わって、ここは喫茶オウマがトキの本屋。
「それでね、その時ノアが……」
友達と仲良く話しているのは、喫茶店と提携しているこの本屋の主、マリネッタだ。
「……」
マリネッタの横にいた全身紫色の少女、ピオーネが、フラりとどこからか出てきた少女に視線を移す。
「あれ?ピオーネちゃんどうしたの?」
様子に気付いた眠たげな少女、淡雪がピオーネの視線を追いながら聞いた。
「コケェ!コケコケ!」
ピオーネの胸に抱かれたペットのコッカドルチェも何かを感じ取ったかのように鳴き出す。
「アンコ……具合……悪そう」
ピオーネは、フラりと出てきた少女、アンコが見えなくなるまで待ってからそう呟いた。
「あら、そう?優しいのねピオーネったら」
マリネッタはふふっと微笑んだ。アンコの事などどうでも良さげだ。
「このままじゃ……大変なことになる……気がする」
ピオーネはその不安を抑えるように、ぎゅっとコッカドルチェを抱きしめた。抱き締められたコッカドルチェは苦しげにまた鳴いた。
「コケェ!コッコッココッコバーン!」
「それでね、その時ノアが……」
友達と仲良く話しているのは、喫茶店と提携しているこの本屋の主、マリネッタだ。
「……」
マリネッタの横にいた全身紫色の少女、ピオーネが、フラりとどこからか出てきた少女に視線を移す。
「あれ?ピオーネちゃんどうしたの?」
様子に気付いた眠たげな少女、淡雪がピオーネの視線を追いながら聞いた。
「コケェ!コケコケ!」
ピオーネの胸に抱かれたペットのコッカドルチェも何かを感じ取ったかのように鳴き出す。
「アンコ……具合……悪そう」
ピオーネは、フラりと出てきた少女、アンコが見えなくなるまで待ってからそう呟いた。
「あら、そう?優しいのねピオーネったら」
マリネッタはふふっと微笑んだ。アンコの事などどうでも良さげだ。
「このままじゃ……大変なことになる……気がする」
ピオーネはその不安を抑えるように、ぎゅっとコッカドルチェを抱きしめた。抱き締められたコッカドルチェは苦しげにまた鳴いた。
「コケェ!コッコッココッコバーン!」
「あれ?」
アンコは首を降った。どうにも頭が重い。
「私、いつの間に厨房に?」
アンコは辺りを見渡す。確か、クロカンブッシュの作り方を確かめに本屋へと向かった筈だが。
「何でだろう?さっきまで書庫にいた筈なんだけど……」
確かに本屋まで足を運んだ事は覚えているが、そこからどうやって帰ったのか見当もつかない。それに、欲しかった本も手に入れていない。
「おう、どうしたのじゃ?」
そんなアンコに降ってきた声。いつの間にか、隣にのじゃロリ猫が立っていた。
「の、のじゃロリ猫先輩?!」
アンコはビックリして数歩後退りして聞いた。
「あなたこそ、どうしてここに?」
「にゃはは!いやぁ酒が切れてしまってな。料理酒を失敬しようと思ったのじゃ。あ~料理酒ってどこじゃったっけ?」
のじゃロリ猫の言葉に呆れながら、アンコは答えるしかなかった。
「料理酒ですね。はい、喜んで……料理酒ならこの棚に……」
まただと思った。この料理酒は店のものなのに。しかし、料理酒を渡さなければのじゃロリ猫にとって"悪い子"になるだろう。アンコは"良い子"でいなくてはならない。
「……時にアンコよ」
料理酒を取り出したアンコに向かって、のじゃロリ猫が唐突に切り出した。
「はい?」
アンコが顔をあげると、いつもの締まらない顔をした先輩はどこにもいなかった。真剣な顔をしている。そんな顔出来たのかと、アンコは内心驚いた。
「お主、何をそんなに暴れておるのじゃ?」
のじゃロリ猫の質問に、アンコは首をかしげた。意味が分からない。
「え?何ですか?」
アンコの顔を見たのじゃロリ猫は、ぼそりと呟いた。
「ふむ、本人に自覚症状は無いか…」
そして直ぐにいつものおちゃらけた雰囲気に戻り、アンコの手から料理酒をくすねるように取る。
「にゃはは!何でもないのじゃ!料理酒貰っていくぞ~!」
「あ、はい!どうぞ……!」
おどけながら出ていくのじゃロリ猫に呆気に取られながら、アンコは思考していた。
(暴れる?私が?どういう意味だろう?)
考えても分からず、アンコはため息をついた。
「料理酒、渡しちゃったなぁ」
『腹立つ』
「ッ!誰?!」
確か、厨房には自分しかいなかった。それなのに聞こえた耳慣れない声に、アンコは鳥肌が立った。
厨房の隅の暗がりに誰か立っている。のじゃロリ猫にも気付かれず、そこに立っていたのだろうか?
「出てきてください!ここは厨房です!お客様が入っていい所では……え?」
『ムカつかない?あいつ』
暗がりから出てきたそれは、アンコと同じ姿をしていた。同じ顔、同じ声、同じ翼……違うのは表情だろうか、アンコよりも目付きが鋭く、大人っぽく見える。
「あなたは……誰?どうして私と同じ格好をしているの?」
謎の少女は軽く笑った。
『フフ。あたしはあんた、あんたはあたし。ねぇ、今なにかしたいことある?』
「え、したいことって?」
予想外の少女の回答に、アンコは困惑し、顔をしかめた。この少女を見つめていると、頭が痛い。
「また……意識が……」
最後に見たのは、うっすらと笑う少女の、気味の悪い顔だった。
アンコは首を降った。どうにも頭が重い。
「私、いつの間に厨房に?」
アンコは辺りを見渡す。確か、クロカンブッシュの作り方を確かめに本屋へと向かった筈だが。
「何でだろう?さっきまで書庫にいた筈なんだけど……」
確かに本屋まで足を運んだ事は覚えているが、そこからどうやって帰ったのか見当もつかない。それに、欲しかった本も手に入れていない。
「おう、どうしたのじゃ?」
そんなアンコに降ってきた声。いつの間にか、隣にのじゃロリ猫が立っていた。
「の、のじゃロリ猫先輩?!」
アンコはビックリして数歩後退りして聞いた。
「あなたこそ、どうしてここに?」
「にゃはは!いやぁ酒が切れてしまってな。料理酒を失敬しようと思ったのじゃ。あ~料理酒ってどこじゃったっけ?」
のじゃロリ猫の言葉に呆れながら、アンコは答えるしかなかった。
「料理酒ですね。はい、喜んで……料理酒ならこの棚に……」
まただと思った。この料理酒は店のものなのに。しかし、料理酒を渡さなければのじゃロリ猫にとって"悪い子"になるだろう。アンコは"良い子"でいなくてはならない。
「……時にアンコよ」
料理酒を取り出したアンコに向かって、のじゃロリ猫が唐突に切り出した。
「はい?」
アンコが顔をあげると、いつもの締まらない顔をした先輩はどこにもいなかった。真剣な顔をしている。そんな顔出来たのかと、アンコは内心驚いた。
「お主、何をそんなに暴れておるのじゃ?」
のじゃロリ猫の質問に、アンコは首をかしげた。意味が分からない。
「え?何ですか?」
アンコの顔を見たのじゃロリ猫は、ぼそりと呟いた。
「ふむ、本人に自覚症状は無いか…」
そして直ぐにいつものおちゃらけた雰囲気に戻り、アンコの手から料理酒をくすねるように取る。
「にゃはは!何でもないのじゃ!料理酒貰っていくぞ~!」
「あ、はい!どうぞ……!」
おどけながら出ていくのじゃロリ猫に呆気に取られながら、アンコは思考していた。
(暴れる?私が?どういう意味だろう?)
考えても分からず、アンコはため息をついた。
「料理酒、渡しちゃったなぁ」
『腹立つ』
「ッ!誰?!」
確か、厨房には自分しかいなかった。それなのに聞こえた耳慣れない声に、アンコは鳥肌が立った。
厨房の隅の暗がりに誰か立っている。のじゃロリ猫にも気付かれず、そこに立っていたのだろうか?
「出てきてください!ここは厨房です!お客様が入っていい所では……え?」
『ムカつかない?あいつ』
暗がりから出てきたそれは、アンコと同じ姿をしていた。同じ顔、同じ声、同じ翼……違うのは表情だろうか、アンコよりも目付きが鋭く、大人っぽく見える。
「あなたは……誰?どうして私と同じ格好をしているの?」
謎の少女は軽く笑った。
『フフ。あたしはあんた、あんたはあたし。ねぇ、今なにかしたいことある?』
「え、したいことって?」
予想外の少女の回答に、アンコは困惑し、顔をしかめた。この少女を見つめていると、頭が痛い。
「また……意識が……」
最後に見たのは、うっすらと笑う少女の、気味の悪い顔だった。
「あれ?」
アンコはのどかな草原に立っていた。花が咲き乱れ、川の水は冷たそうで、今にも泳ぎ出したくなるほど綺麗だ。
「どこだろう、ここ。確か、のじゃロリ猫先輩と話して……」
顎に手を当てて考えるが、どうにも思い出せない。頭に何か引っ掛かっているようだ。
「……ちゃーん!」
遠くから、誰かの声が響いた。
「アンコちゃーん!」
黒い影が、こちらに向けて走ってくる。
「だ、誰?」
黒い影が、黒い影のまま、アンコの近くで止まった。
「え?忘れちゃったの?酷いなぁ私は繝翫ヤ繝。繧ーだよ」
黒い影は、どうやら少女のようだった。二つ結びにした髪が、影の状態でも印象的だ。
「あなたの……」
その子の顔から、身体から、影がさっと消えた。現れた顔は、身体は噛み傷だらけ。壮絶な表情をしていた。
アンコは叫んで逃げ出した。
「あなたのオヤツだよ」
そんな少女の言葉を聞き流し、必死に逃げた。いつしか野原は消え、一件の小屋が見えた。アンコはその中に入り、扉を固く閉ざす。
「開けてぇ~!アンコちゃーん!開けてぇ~!」
扉の向こうで、ドアノブを捻る音が聞こえた。アンコは震え、扉に背を向け、両手で耳を塞いだ。
「開けて~!ねぇ、開けてってば~!」
耳を塞いでも声は聞こえた。のんびりした声で、何度も扉をノックされる。
「ねぇ~開けてよ~!開けろ~!早くー!」
少女の声に、何故だか焦りが滲み始めた。扉をノックする音に力が入ってくる。
急な変化が現れたのはそこからだ。何かが羽ばたく音、何かが土を踏みしめる音が響く。
「ヒィ!来た!」
少女が上擦った声をあげ、扉をガンガン叩きながら口走る。
「お願い!早く!早くして!追い付かれるの!この扉を開けて!ナーシ……」
土の上を走る音に混じり、獣の唸り声のような低い音が辺りに木霊する。鈍い音が聞こえた気がした。ドアノブを叩いたり捻ったりする音が激しくなる。少女の声が途切れ途切れになり、一層激しく扉が叩かれた。
「やだぁ!やめて!」
何かが折れるような音と、少女の悲鳴。そして懇願。
「痛い痛い痛い!!!噛まないで!そんな所掴まないで!離して!許して!なんでもするから……」
バリバリと何かを噛み砕く音がした。グチャグチャと何かを咀嚼する音もする。
少女は言葉を捲し立てた。それが扉の向こうにいるアンコへの言葉だと、ゆっくりと理解していた。
「ねえ!本当にお願い!早くあけて!怖いの!痛いの!やめて、食べられたくない!早くあけて!助けて!あけて、あけて、あけてってばぁ!!!」
喚く声を煩わしげに抑える音が聞こえた。
「オゴォ!ぐ……やめ……て……」
扉の前の少女が呻く。
暫くの間、彼女の声はもう殆んど聞こえなくなった。ただ、掠れて意味をなさない音が、扉の向こうから聞こえる。
「あ………アア………ァ……………」
肉を剥ぐ音が聞こえる。骨を折る音が聞こえる。引き裂かれた内蔵から血を啜る音が聞こえる。
アンコは耳を塞いでも聞こえてくる音になすすべなく、ただこれが早く終わってくれる事をただ願っていた。
少女の断末魔の叫びが扉とアンコのいる空間を揺らし、完全になくなった。息絶えたのだと直感で察した。
ガン!と乱雑な音と振動がアンコを襲った。背を向けた扉が何者かによって蹴られているのだ。
アンコは飛び退いた。扉がガンガンと蹴り壊される。
力の抜けた少女を片手で引き摺った影がそこに立っていた。
少女の身体は陰惨で、傷だらけだ。一目でその影が捕食者だと分かる。
少女を襲った捕食者の目がアンコの目とかち合った。
その目はアンコのものだった。
「な、なに……違う、私は……私じゃない!これは夢だ!絶対に夢だ!」
アンコは現れた捕食者の顔を見て叫んだ。アンコと同じ顔だった。
アンコの顔を見て、満足げに嗤っている。
「夢よ……怖い夢よ……さめろ……覚めろ……醒めろ……!!!」
捕食者がアンコよりも大きな手で掴んだ少女の亡骸を揺らした。傷だらけで、咬み傷だらけだった。
アンコは見ないように頭を抱えしゃがみ、そう言い続ける事しか出来なかった。
「夢よ、夢……の筈………ゆめ………」
意識が遠退いた。身体が揺れ、地面に投げ出された。アンコは倒れるように気絶していた。
捕食者は倒れた片割れを見下ろし、舌打ちした。
「これでも堕ちない?なんてつまらない奴……」
捕食者は片手で掴んでいた少女の首もとに食らい付いた。
温かい血に、喉をならし、脂の乗った新鮮な肉に舌鼓を打つ。
「まあ、いいわ」
そのままガツガツと食べ尽くしていく。腹が満ちれば、前向きにもなれる。
零れ出た血と脂を掬いとった指を舐めきり、捕食者は満足げに吐息を吐いた。
「今は現実に逃げられたけど……じっくりやればいい」
捕食者は邪悪に嗤った。
アンコはのどかな草原に立っていた。花が咲き乱れ、川の水は冷たそうで、今にも泳ぎ出したくなるほど綺麗だ。
「どこだろう、ここ。確か、のじゃロリ猫先輩と話して……」
顎に手を当てて考えるが、どうにも思い出せない。頭に何か引っ掛かっているようだ。
「……ちゃーん!」
遠くから、誰かの声が響いた。
「アンコちゃーん!」
黒い影が、こちらに向けて走ってくる。
「だ、誰?」
黒い影が、黒い影のまま、アンコの近くで止まった。
「え?忘れちゃったの?酷いなぁ私は繝翫ヤ繝。繧ーだよ」
黒い影は、どうやら少女のようだった。二つ結びにした髪が、影の状態でも印象的だ。
「あなたの……」
その子の顔から、身体から、影がさっと消えた。現れた顔は、身体は噛み傷だらけ。壮絶な表情をしていた。
アンコは叫んで逃げ出した。
「あなたのオヤツだよ」
そんな少女の言葉を聞き流し、必死に逃げた。いつしか野原は消え、一件の小屋が見えた。アンコはその中に入り、扉を固く閉ざす。
「開けてぇ~!アンコちゃーん!開けてぇ~!」
扉の向こうで、ドアノブを捻る音が聞こえた。アンコは震え、扉に背を向け、両手で耳を塞いだ。
「開けて~!ねぇ、開けてってば~!」
耳を塞いでも声は聞こえた。のんびりした声で、何度も扉をノックされる。
「ねぇ~開けてよ~!開けろ~!早くー!」
少女の声に、何故だか焦りが滲み始めた。扉をノックする音に力が入ってくる。
急な変化が現れたのはそこからだ。何かが羽ばたく音、何かが土を踏みしめる音が響く。
「ヒィ!来た!」
少女が上擦った声をあげ、扉をガンガン叩きながら口走る。
「お願い!早く!早くして!追い付かれるの!この扉を開けて!ナーシ……」
土の上を走る音に混じり、獣の唸り声のような低い音が辺りに木霊する。鈍い音が聞こえた気がした。ドアノブを叩いたり捻ったりする音が激しくなる。少女の声が途切れ途切れになり、一層激しく扉が叩かれた。
「やだぁ!やめて!」
何かが折れるような音と、少女の悲鳴。そして懇願。
「痛い痛い痛い!!!噛まないで!そんな所掴まないで!離して!許して!なんでもするから……」
バリバリと何かを噛み砕く音がした。グチャグチャと何かを咀嚼する音もする。
少女は言葉を捲し立てた。それが扉の向こうにいるアンコへの言葉だと、ゆっくりと理解していた。
「ねえ!本当にお願い!早くあけて!怖いの!痛いの!やめて、食べられたくない!早くあけて!助けて!あけて、あけて、あけてってばぁ!!!」
喚く声を煩わしげに抑える音が聞こえた。
「オゴォ!ぐ……やめ……て……」
扉の前の少女が呻く。
暫くの間、彼女の声はもう殆んど聞こえなくなった。ただ、掠れて意味をなさない音が、扉の向こうから聞こえる。
「あ………アア………ァ……………」
肉を剥ぐ音が聞こえる。骨を折る音が聞こえる。引き裂かれた内蔵から血を啜る音が聞こえる。
アンコは耳を塞いでも聞こえてくる音になすすべなく、ただこれが早く終わってくれる事をただ願っていた。
少女の断末魔の叫びが扉とアンコのいる空間を揺らし、完全になくなった。息絶えたのだと直感で察した。
ガン!と乱雑な音と振動がアンコを襲った。背を向けた扉が何者かによって蹴られているのだ。
アンコは飛び退いた。扉がガンガンと蹴り壊される。
力の抜けた少女を片手で引き摺った影がそこに立っていた。
少女の身体は陰惨で、傷だらけだ。一目でその影が捕食者だと分かる。
少女を襲った捕食者の目がアンコの目とかち合った。
その目はアンコのものだった。
「な、なに……違う、私は……私じゃない!これは夢だ!絶対に夢だ!」
アンコは現れた捕食者の顔を見て叫んだ。アンコと同じ顔だった。
アンコの顔を見て、満足げに嗤っている。
「夢よ……怖い夢よ……さめろ……覚めろ……醒めろ……!!!」
捕食者がアンコよりも大きな手で掴んだ少女の亡骸を揺らした。傷だらけで、咬み傷だらけだった。
アンコは見ないように頭を抱えしゃがみ、そう言い続ける事しか出来なかった。
「夢よ、夢……の筈………ゆめ………」
意識が遠退いた。身体が揺れ、地面に投げ出された。アンコは倒れるように気絶していた。
捕食者は倒れた片割れを見下ろし、舌打ちした。
「これでも堕ちない?なんてつまらない奴……」
捕食者は片手で掴んでいた少女の首もとに食らい付いた。
温かい血に、喉をならし、脂の乗った新鮮な肉に舌鼓を打つ。
「まあ、いいわ」
そのままガツガツと食べ尽くしていく。腹が満ちれば、前向きにもなれる。
零れ出た血と脂を掬いとった指を舐めきり、捕食者は満足げに吐息を吐いた。
「今は現実に逃げられたけど……じっくりやればいい」
捕食者は邪悪に嗤った。
「こ、ここは……?」
アンコはホールの机に突っ伏していた。
とても静かで、平和な雰囲気。いつもの開店前のオウマがトキだ。
(夢……だったのかな?あれ、なんだっけ?何か見ていた気がするけど……)
さっきまで何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。
考えを纏めきる前に、同僚の少女が、顔を覗き込んできた。
「あ、アンコ、起きたの?ずっとうなされてたわよ」
「マリネッタ……さん、すみません……直ぐ持ち場に戻りますので……」
フラフラと厨房に入っていくアンコを見て、マリネッタは友達に合図を送った。
「……やっぱり、アンコと違う……気配がする……」
現れたのは、ピオーネと淡雪だった。ピオーネは嫌な予感に顔をしかめている。
「考えすぎだと思うのだけど……」
マリネッタは口ではそう言いながらも、頭では何か考えているようだった。マリネッタがロボットだったならば、コンピューターが高速で動くカタカタと言う音がきっと聞こえていた事だろう。
「う~ん」
淡雪が言葉にならない言葉を発してから続けた。
「アンコちゃんと違う人……見える……邪悪……それが本心?」
淡雪の言葉に、マリネッタは反応した。
「淡雪、それってどういう……」
そこまで言って淡雪を見たマリネッタは驚愕して目を見開いた。
「ね、寝てる……?!」
友達の言葉に頷くかのように、淡雪の頭がくらりくらりと船を漕いでいた。
アンコはホールの机に突っ伏していた。
とても静かで、平和な雰囲気。いつもの開店前のオウマがトキだ。
(夢……だったのかな?あれ、なんだっけ?何か見ていた気がするけど……)
さっきまで何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。
考えを纏めきる前に、同僚の少女が、顔を覗き込んできた。
「あ、アンコ、起きたの?ずっとうなされてたわよ」
「マリネッタ……さん、すみません……直ぐ持ち場に戻りますので……」
フラフラと厨房に入っていくアンコを見て、マリネッタは友達に合図を送った。
「……やっぱり、アンコと違う……気配がする……」
現れたのは、ピオーネと淡雪だった。ピオーネは嫌な予感に顔をしかめている。
「考えすぎだと思うのだけど……」
マリネッタは口ではそう言いながらも、頭では何か考えているようだった。マリネッタがロボットだったならば、コンピューターが高速で動くカタカタと言う音がきっと聞こえていた事だろう。
「う~ん」
淡雪が言葉にならない言葉を発してから続けた。
「アンコちゃんと違う人……見える……邪悪……それが本心?」
淡雪の言葉に、マリネッタは反応した。
「淡雪、それってどういう……」
そこまで言って淡雪を見たマリネッタは驚愕して目を見開いた。
「ね、寝てる……?!」
友達の言葉に頷くかのように、淡雪の頭がくらりくらりと船を漕いでいた。