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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.11A

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 ペンタピア中が眩い光の巨柱に照らされる少し前の事。街の中心に聳えるドルサルタワーの内にて彼――レェン・マジェノは静かに歩を進めていた。
 整然とした金の角刈りに丸眼鏡。左右に補佐を従え、ただ真っ直ぐ歩み続ける軍服姿。感情など一切窺い知る事の出来ず、ある種通常の人種とは隔絶した、爬虫類のような雰囲気を持つこの男であったが――

――人知れず、彼の胸は何時に無く高鳴っていた。

 遂に己の夢が叶うのだ。目指すものに至るのだ。

――彼の心は何時に無く昂揚していた。

 「あの力」が導く輝かしい未来に思いを馳せ、思い描く理想を現実にするべく。

――そして、彼は満ち足りていた。

 やっと自らが成し遂げた事をあの人に披露する事が出来るのだ。永き、永き、時を経て……

 長く無機質な廊下を抜け、辿り着いた先――多数の将兵が忙しなく行き交い、無数の観測機器や小型のディスプレイが並び、
中央に向かって階段状となった制御室らしき場所。対面する側には巨大なディスプレイが設置されており、無数の情報が事細かに表示されている。

「遂に、この時が来たか……」

 感慨深そうなその男の両眼に映るのはディスプレイの向こう側――複数のカメラによって表示された遠く聳える湾曲した白い壁と、
同心円状に配置され足場を占領する直径が大型マシンダム程もあるリング状の機関の群れ。そして、遥かな空を多数重なり占領する巨大な紅いレンズ。
 1つ1つでは意味が分からずとも、鳥の目を持って見ればその広大な空間全体が1つの連動した装置――超巨大な光学兵器である事が分かるだろう。

「“オール・オーバー”の手筈はどうだ。」
「はっ。全システム正常に稼働中。輪転炉からの電力供給も想定以上のものとなっており、パワーチャージも既に完了しております。“ユニット”の射出準備も完了しており、後はご命令があればいつでも。」
「そうか。」

 施設の責任者の言葉を聞き、満足げに頷くレェン。
 全ては滞りなく、順風満帆に進んでいる。

「――――」

 腕に付けた高級そうな金の時計を眺める。
 今より30分ほど後の事――3時35分42秒。
 セカイは正しい位置に収まり、ペンタピアはかの“力”を呼び起こすにこれ以上無く相応しい舞台となる。その為の贄となるのは次元を揺るがす莫大なエネルギー、そしてユニットの内に収められた“楔”。
 「彼ら」の助力によりこれらは全て揃い、今まさにセカイは新たな時代の幕開けを迎えようとしている。

(素晴らしい、実に素晴らしいな――!)

 人知れず、口の端を上げる男。


――だが、彼は気付いていなかった。


 己が偉業と信じて疑わぬ行いが、尋常ならざる狂気に、悪意に、憎悪に満ち満ちたセカイに仇為す所業である事に。










「…………」

 気が付いた時、俺の目の前には瞼を開いても閉じても変わらない闇が広がっていた。
 ここは何処だ?――なんて問いの答えは決まっている。

「…………」

 あの時、猛烈な事象震に煽られ落とされたペンタピアの外堀の底。
 街の光も、星の光さえも届かない闇の底。そんな所に俺はいた。

 手を、身体を揺すって動かしてみる――どうやら問題ないらしい。
 ただ、目の前にある筈の手の平さえ見えやしない。そのまま自分の顔を鷲掴みにしてみて――気付いた。

「……?」

 ソートアーマー、じゃない?
 肌の柔らかい感触はソートアーマーの硬いものとはまるで別物。間違えるはずが無い。
 そして、変身していない――と言う事は

「アリスッ!!」

 身体を持ち上げ、声を張り上げ叫んだ。
 反響しない。返事は

「ここにいる。」

 すぐ近くから聞こえた。
 声をする方を見れば所々に突き刺さった光源より漏れる青白い光に照らされた巨大な物体――列車と、鉄橋の一部だったもの――が鎮座していた。

「よかった……身体の方は?」
「問題ない。」

 どうやらアリスは列車の側面のハッチをこじ開けようとしているらしい。
 前見たあのコンテナを軽々と担いだとんでもない力があればどうという事も無さそうだが、どうもそうでもないらしい。ともかく

「無事か!」

 上部の覗き穴から声を掛けてみる。
 中は真っ暗。だが物音が少しして

「……あー、あん時の兄ちゃんか。こちとらみんな無事だ。ただ落ちた時の衝撃が多分原因で外へ出る為のハッチが皆破損しててな。そこの嬢ちゃんにも頼んだがちょっと開けるのを手伝って欲しいんだ。」
「分かった。」
「車両のすぐ脇のが一番開けやすそうだからそれを開けてみようと思う。こっちからも頑張ってみるがそっちからも引っ張ってみてくれ。」

 それだけ聞いて了承の返事を返した後、車両の上部から駆け下り、中からも物音がする側面のハッチに手を掛けてみる。

「んー!!……しかし無茶苦茶高い所から落ちた筈なのに、皆よく無事だったなぁ……」
「……っ!……ソートアーマーに残されていた全エネルギーを用いて列車に対してベクトル干渉を行った。結果被害は最小限に留められたものの……」
「つぁぁぁぁっ!!……その物言いだと大分不味い事になってんだな?」
「……っっ!!……ああ。あくまで「式」を揺さぶられた事に起因する一時的な障害だが、グランアーマー、ギガンティックは元よりソートアーマーや身体機能強化といった基本機能すら安定せん。そのベクトル干渉を行った結果即座に顕現化が強制解除された程だからな。」
「だぁぁぁぁぁっっ!!……で、俺の意識も一時吹っ飛んだと。前後の事覚えてないし……」
「……済まない。」
「アリス……」

 ハッチに手を掛けたまま面目なさげに俯くアリス。
 ただ俺は

「ありがとよ!」

 考え付く限り飛び切り明るい笑顔をして見せた。

「ディー……」
「正直あの時俺は、ペーネも、俺も、アリスも、みんな終わったと思った。だけど結果はみんなアリスが助けてくれた。だからお前が暗い顔をする道理は無いぜ。むしろ胸を張って誇れるぐらいだ。」
「…………」
「辛気臭い顔すんなって。後の事は今から考えりゃいい。俺とお前ならきっと皆も助けられるし、多分今上にいるだろうバケモノだってぶちのめせるさ……っと、そろそろ仕上げだ。」

 傾いた分厚い扉の向こう側は暗く、口々に声が聞こえる。
 向こうもこっち同じように頑張っているようだ。

「んじゃ、そっちにいる人達―!合わせていくぜー!」
「おー!」
「任せとけぇ!」
「助かるよー!」
「あいよー!」
「オーケーだ!」

「「「「「「せーのっ!!」」」」」」

 全身全霊より込められた力は、遂にハッチを強引にこじ開けた。
 中にいたのは1人1人礼を述べてくれるあの時も出会った筋骨逞しい男達と

「ふぇ~……ありがとね、助かったよ。」

 変わらず元気そうなペーネばあさんだった。


「ふーむ、そりゃ困った事になったねぇ……」

 俺達が一通り分かっている事を説明した後、腕を組んで考え込むペーネ。

「あの事象震だ。間違いなく地上ではただ事では無い何かが起きている。」
「そいつを止めた上で家族も助けなきゃいけないんだけど……」

 どうしたもんかと周りを見渡してみる。
 列車の電灯は配線が落下の衝撃で壊れたらしく、周囲を照らすのは所々の地面に刺さったイグザダガーによる僅かな光源のみ。上も下も真っ暗でどうなっているのか分かったもんじゃない。

「まずは周りを調べるのが先決だね。幸いあんた達のお陰で列車の装備のほとんどは十分使えて選り取り見取りなんだから……ああ、あったあった。」

 よっこらしょ、と取り出したのは何やら砲弾らしきもの。
 マッチョメンの1人と一緒に列車の上部に備え付けられた小口径の大砲にそれを装填すると

「さぁて、ドでかい音がするから気をつけなぁ~……撃てぇ!!」

 そう言う通りに爆音を轟かせつつ、漆黒の闇に向かってその砲弾をぶっ放した。
 直後窓に下ろされた防弾シャッターの合間より差し込む光。

「こいつぁ照明弾って奴さ。夜間のバリード襲撃に備えて何発か積んでいたんだけど、こんな時に役に立つなんてねぇ……」
「へぇ……」
「ただこれの光はそう長くは持たないのさ。だからさっさと一通り調べないと。」

 そう言われつつ列車を出て上空にて瞬く光を頼りに周囲を散策してみる。
 列車を跨いで向こう側にある巨大な切り立った壁は恐らく上部のペンタピアを支える柱だろう。俺達がいる足場はその柱をぐるりと囲んだドーナツ状のもの。
そこらに転がるのは俺達と同じく上から降ってきたのだろう、バリードやマシンダムの残骸や、さっき落ちてきて爆散したらしいシュバイゼンもどきの黒い破片ぐらい。目ぼしいものは特に無く、上へ行く為のルートなんて物も無い。ただ

「な……――」

 散策のついで。足場の端、切り立った崖の淵より底を覗き込んだ俺は絶句した。
 そこに広がっていたのは――

「……街、だな。」

 いつの間にか俺の横に佇んでいたアリスが呟く。
 そう、その通り……街だ。それもただの街じゃない。近未来的な建築物が並ぶ、スチームヒルはもとよりペンタピアなんかよりも
もっともっと広く地平線の向こうまで続く街が、照明弾の光に僅かに照らされた暗黒の底に何一つ音も無く静かに横たわっていたのだ。

 その内に俺とアリスの異変に気付いたらしい男達やペーネらも集まってきて

「こりゃ一体……?」
「すげぇな……」
「アタシ達の住んでいるその下にまさかこんなものがあるなんてねぇ……」

 呆然としたり、感慨深そうに眺めたり、口々に言い合う。

「……見る限り動体反応は、0。確かに街ではあるが現在人が暮らしているわけではないようだ。」
「じゃあ何だってんだこれは……」
「情報が微量故に確信は持てんが、周囲の構造からしてこれは恐らく――」

「たっ、たっ、大変だー!皆早く戻ってきてくれ!テレビで、テレビが……!!」

 アリスが言いかけた言葉を上から塗り潰すように大声を上げながら列車の方より走ってきたのは
 四角い縁の眼鏡を掛けてちょっとヒョロッとして気弱そうな、周りのマッチョメンと比べると少し浮いている男。


「どうしたんだいナック!そんなに慌てて。」
「何か役に立つかなと思って列車内の配線を修理してたら、テレビで……お頭の……!」
「落ち着いて話しな!訳が分からんよ!」
「とにかくお頭もみんな来てくれ!とんでもない事になってる!」

 言いたい事は分からないが、その鬼気迫る迫力に圧されて言われるがままに列車に戻ってみる。
彼が言っていた通り内部の電気はきちんと通電するようになっており、草臥れた電灯が車内を照らす。その上、戸棚の上に置かれた年代物のテレビが何かを映し出していた。

『ザ……ザザ…………私の名はレェン・マジェノ。ペンタピア軍の最高司令官であり、善良なるペンタピア連合の諸君に、大いなる力をもって福音を齎す者である。』

 モノクロテレビに映し出されていたのは、何やら演説を行っているらしい角刈りに切れ目の軍人然とした男。しかしこんな時間に演説……?なんて思っていると

「レェン……?あのレェンだってのかい!?」

 背後より聞こえたペーネの驚愕の声に思わず皆して振り向く。
 足は震え、目は焦点が定まっていないその姿。どうもただ事では無いらしい。

「……あのおっさんの事、知っているのか?」
「ああ、知っているさ……これ以上無く、ね。だってあの子は――」



「アタシの、ただ1人の息子なんだから。」




 その時、彼――レェン・マジェノの声、姿はペンタピア、アクアリング、スチームヒル等、ペンタピア連合に属する全てのジャンクヤードのありとあらゆる音声、画像を出力する電子機器より発せられていた。

『私の名はレェン・マジェノ。ペンタピア軍の最高司令官であり、善良なるペンタピア連合の諸君に、大いなる力をもって福音を齎す者である。』

 様々なジャンクヤードの街頭の、家庭用の、ありとあらゆるテレビよりその声が、その姿が聞こえ、映る。
 電源のONOFFに関係なく、そもそも電力の供給の有無にも関係なく、ジャンクの海にうち捨てられた物からもさえ――

『私の名はレェン・マジェノ。ペンタピア軍の最高司令官であり、善良なるペンタピア連合の諸君に、大いなる力をもって福音を齎す者である。』

 携帯機器も、マシンダムのディスプレイも全てが全て。例外はない。
 人々は驚愕し、混乱した。だが続く事態にその混乱すら揉み消される。

『全ては来るべき未来の為に。全ては来るべき大いなる力の為に。』

 光の巨柱が聳えたその場所。ペンタピアのほぼ中央。
 超大型レーザー砲“オール・オーバー”の直径1キロの紅い真円のレンズが覗くその上空に、忽然とそれは姿を現した。


――O‐Regression_ Materialize



 セカイを喰らい、侵食し、外側より“裏返り”、顕現化。
見る者を闇の淵へと誘う圧倒的な神気を放つその異形。
 この世ならざる極彩色に染まるそれは、一見「球体」に見える。だがじきにそれは間違いだと知るだろう。


完全な「円」


 その怪異の姿を正確に現す言葉はこの世には存在しないが、近いもので例える事は出来る。
 360度どの方向から見た所で厚みの無い平面。だが、それは観測者が2人以上別々の位置より観測した所で変わる事は無く、故にそれが実際に平面だというわけでもない。
 それはヒトの脳の理解し得る範囲を逸脱した超越的存在。セカイにあってはならないモノ。大いなる「O(オー)」よりの使いにして来訪者。「回帰」の名を持つ存在。

『新たなるセカイの新生――否、回帰を祝おう!母なる箱舟の再誕を祝して!!』

 衝撃。揺れ動き、波打ち、飛沫を上げる怪異。
 その内より何かが溢れて漏れた――ように見えた。


「――!!」

 それを見た瞬間、考えるよりも早く動き、行動したのはテレビの前でその姿を見ていたアリス。目にも留まらぬ動きでテレビの画面に灯り代わりに持っていたイグザダガーを突き刺し、破壊していた。

「皆、おかしい所は無いな?」
「あ、アリス……?」
「テレビがぁ……高ぇのに……」
「……何かあったのかい?」
「ああ……奴は、あの怪異は、可視光線及び電波を媒体として励起獣に関するイリーガルコードをばら撒いている。もう少し遅ければある程度の耐性を持つ私とディー以外は、皆あの列車を襲った怪物と同類になっていた事だろう……他に電波を発する機器は?」
「無線があるけど、さっきの落下のせいだろう。壊れて使いもんにならねぇ。」
「なら問題無い……が、これでますます早く地上へ戻らねばならない理由が出来たな。」

 口元に手を当て、思案に暮れるアリス。
 猛烈な事象震の影響で飛行を行う「式」の展開がままならないこの状況。いかにして地上へと舞い戻るか……

「――!」

 そんな時、視線の端に映ったのは壁に固定された2mほどはある鈍色をした砲弾。
 近付き、片手を付いてみる。芯まで冷えた、冷たく硬い鋼鉄の感触。

「これならあるいは――」
「……?」

 状況を飲み込めない皆を放って更にしばし思案に暮れる。そして

「……皆、頼みたい事がある。」

 改めて皆に向き直った時、その表情に迷いは無かった。


 レェン・マジェノの熱の篭った演説ともつかない戯言。
 だが人々はそれを耳にする内、自身の内の異変に気付いた。

「あ、あ……?」

 ある者は自分の視線が異様に高くなっていることに気付き

「……!?」

 ある者は搭乗していたマシンダムと自身の身体が交じり合っている事に気付き

「むにゃ……んん……」

 ある者は眠りながら周囲と同化していき

「が、ぎぎぎ……」

 またある者は自分の身体が歯車や鋼線等に置き換わっていく形容し難い感触を、正気を保ったまま感受していた。

「……これは、不味いかな……」

 望まざるとも異形と化した者達が暴れた事により、火の手が上がるアクアリングの街並み。そんな光景をホテルの窓際よりリョウは眺めていた。

<ヤベェナァー!ミンナ毒電波ニヤラレテバケモノニナッチマッタァ!!>
「分かるのかい?……というか君は何ともないのか?」
<モチノロンサァー!ナンタッテ俺ァスペッシャルナスゥパ~!ロボッッットッ!ダカラナァ!!>
「ふーむ……しかし、ここの“O(オー)”も随分と無茶をする。事態の収拾の為にはディーとアリスに頑張ってもらうしかないが……」

窓の向こうに見えるのは、地響きを立てて歩を進める有機物とも無機物ともつかない、恐らく元はマシンダムであった異形の巨人。
腕部らしき器官を出鱈目に振り回しながら周囲の建築物を粉砕しつつ前進し、その脅威がリョウ達のいるホテルにも――

「どうもこっちも他人事では無さそうだな……行くぞ、ミッチー!」
<言ワレナクテモスタコラサッサダゼェ~!!>

 ウェルを背負ってミッチーに跨り、開け放たれた窓より一気に飛び出すリョウ。
 彼らの真夜中の逃走劇は、まだ始まったばかりであった。

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