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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.11B

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匿名ユーザー

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「全固定パイル、設置完了!」
「砲身は慎重に、ゆっくり上げろよ!こう見えてデリケートだからなぁ!」

 淡い青の光に照らされた列車の外より俺達が眺めるのは、内部より男達の手によって操作され、屋根をスライドさせた空間より徐々に天に向かってせり上がっていく
車両の倍ほどの長さ――折り畳まれて格納されていたらしい――はあるであろう、太く、そして車体と同じく黒い砲身。
 聞けばこの列車の武装の中で最大の有効射程と火力を持ち、その取り回しのし辛さ――車体を停止させた上でパイルで固定しないと反動で吹っ飛ぶ――から滅多に使われる事がないという所謂“とっておき”なんだとか。

「――アタシらがここに来たのは、あの子……レェンからの手紙があったからさ。」

 その威容を、これを持ち出す理由を作った本人と一緒に眺めていると、隣に座っていたペーネがそんな事をぽつりと呟いた。

「“あの時”以来……50年ぶりの手紙、かね。」
「あの時?」
「前も言ったね。“グレートマインズの悲劇”さ。あたしの息子――レェンは当時そこでスカベンジャーとして働いていた。勿論その事件にも巻き込まれてね、多くの人がそうなったように行方不明――まぁ表向きには死んだ事になったのだよ。」
「そんな事が……」
「ただアタシは信じなかった。この目で我が子の亡骸か、無事な姿を見るまで、アタシの中ではあの子の死を信じるつもりは無かったのさ。我ながら馬鹿馬鹿しいね――けど」
「そのレェンから手紙が来た、と。」
「そういう事。勿論狂喜乱舞したさ……ただ、その内容といったら“貴方に是非見せたい物がある。明日の深夜3時頃、ペンタピアへ来てもらいたい。”てだけ書いてあるというよく分からないものでね。少しは疑ったけど、
もしこの差出人が本当にレェンなら――なんて考えると居ても立ってもいれなくなってね……休暇をもらって事情を知っていて信用出来るあいつらと一緒にここまで来たってわけさ。だけどまさか軍の偉いさんになっててこんな事になるなんてねぇ……」

 首にぶら下げた年季の入った金のロケットペンダント。
 それを手に取り、ペーネはその中身を見せてくれた。

「確かに……あの男に似ているっちゃ似ているな。」

 丸く切り取られたモノクロの内に明るく笑みを浮かべる、まだあどけなさの残る青年。淵に「レェン・マジェノ」と彫られている。
 確かに見た目その物は大きく違うが、その身に漂う雰囲気は何処か似通っている……けど

「でもよ。その時、レェンは一体何歳だったんだ?」
「確か18だったね。この写真を撮ったのは丁度1年ぐらい前だったか……」
「なら今じゃ68……だけど、どう見てもテレビに映ってたアレはそんな歳には見えなかったぜ?」

 そう、いいとこ行って30代。
 アレで68だなんて言うのなら是非ともその若さの秘訣を聞いてみたいもんだ。

「――あの常軌を逸した言動。そして、連動して現れた大規模な異変……これらを合わせて考えれば、あの男は相当以前よりセカイ外の存在の影響下にあったと考えられる。
長期的な計画を遂行させるために宿主の身体的劣化の進行を遅らせる程度、それ相応の力を持つ者ならやりかねんな。」
「あの目、あの言葉遣い、やっぱり変なのが憑り依いてたんだね……」

 90度程の角度で固定される砲身。相対するはペンタピアを支える巨大な柱。
 後はアリスの言ってたアレをやるだけだが……

「レェン……」
「あー……えーと、アレだ。俺達前にもああいう化け物に取り込まれてた人を助けた事があってな。今回も大丈夫だって、きっと。」
「ウェルの件は極めて稀にして特異なケースだ。例に挙げるには相応しくない。グランアーマーが顕現化出来なければ3人ともやられていた可能性もある。あのような奇跡が2度続くとは思わぬ事だ。」
 こいつはどうしてこう……!
 反論するにも上手い言葉が見つからずとりあえず睨んでおく、が

「……ただ、私は奇跡等起きずとも“最善”を尽くす事には変わりない。出来うる限り物的、人的被害を減らし、生ける者の命を守る事が私の根底にある思考――それが例え目標の命であったとしても、だ。」

 そういえばそうだ。
 突入ポッド騒ぎの時だって賊を1人も殺す事無く、むしろ危険を冒してまで助けようとしたんだっけ。
 ウェルの時はあいつなりの考えの下、ウェルを犠牲にしてアクアリングと俺達を助けようとしただけだ。怒鳴ったりはしたがやろうとした事はあいつが全部正しい。

「……砲の準備も出来たようだ。行こう。」

 それだけ言って俺達に背を向け列車へと向かうアリス。
 続く俺とペーネ。さっき睨んだのが少し恥ずかしくなった。



「しかしまぁ……それ本当に出来んのか?」

 信管を抜かれて床に横たわった、俺の身長程もある大きな砲弾をコツコツと叩きながらそうごちる。にわかには信じ難いからであるが……経験則、アリスが嘘を言うとは思えないし、これしか手立てがないならそれに賭けるしかないが……

「勿論だ。」
「まさか自分が砲弾になって打ち出されるたぁ……」

 アリスの説明ではこうだ。
 イグザゼンを構築する為の「式」を応用し、砲弾の形状と特性を持った物質へと自らを再構築し、それをあの大砲で発射してもらうというもの。

「基本はソートアーマーの顕現化と変わらない。ただ必要なのはその物体を強くイメージする事。イメージが強ければ強いほどオリジナルに近い形状と特性を得る事に繋がる。」
「イメージ、なぁ……」

 つまりは砲弾になりきれって事。
 いきなり言われてはいそうですかと出来るわけもないが、やらなきゃどうしようもないのが辛い現実。

(やるっきゃ、ないか……!)

 砲弾の前で屈み、片手を当てて瞳を閉じる。


――――eXar-Xen might access.


 何処か遠くより聞こえた声に呼応し、一瞬ブレて捻じ曲がり在らぬ方向へと飛び立つ意識。
 ただ、それも一瞬。次の瞬間には奇妙不可思議な平衡をもって狂気と正気の合間を漂う事になる。

「――――」

 目の前に横たわる砲弾。その内部構造、構成物質の全てがアリスを介して俺の頭に飛び込んで来る。
それらを俯瞰的に観測、思考……こうして分かった事だがこれは大きいだけで構造も単純。ソートアーマーが構築出来てこれに変異出来ないはずが無い。

「……行ける。」

 目を見開く。
 そこには先ほどと変わらぬ光景。

「では、行こう。」

 隣に佇むアリスが呟いた。そして

「「イグザゼン、ソートマテリアル!」」

 ソートアーマーの「式」を応用し、顕現化。
 小規模の励起震と共に俺達2人の身体は瞬時に溶け合い、一発の白い砲弾へと姿を変えた。


「ホントに弾になっちまったなぁ……」
「そっくりなのが何とも言えんな……」

 離れた所で見守っていたマッチョメン達が床に転がる俺達の周りに集まり、口々にそんな事を言いながら手筈通りに数人係りで巨大な砲へと装填していく。

「よっ、と……後で必ず助けに来てくれよ?」

 蓋を閉め、ハンドルを回す男が言う。
 勿論放っておくつもりは毛頭無い。

「装填完了!」
「後は任せな。仕上げはアタシがやる。」

 砲の隣の席に座ったペーネの手で角度の微調整が行われていく。
 ほんの僅かな違い。だけどそれも何キロも向こうでは大きな差となって現れるのだから侮れない。ここは本当に長年の経験がモノを言う所なのだろう。

「――さーて、これで準備完了だ。ディー、そしてアリス……アタシもあんた達を確実に地上へと届ける事でアタシなりの“最善”を尽くすとするよ。
だから、あんた達も“最善”を尽くして、出来る事なら、少しでも可能性があるのなら……あの馬鹿息子を、レェンを、バケモノの手から救ってやっておくれ……っ!」

 直後、背後の火薬が炸裂し、砲弾に爆発的な加速を与え、巨大な砲の内部より滑るように中空へ向けて放たれた。
 猛烈な勢いで大気を押し退け猛進する“砲弾”。見る見る内にペーネの列車と砲門が小さくなっていき、暗闇の内へと消えていく。
 同時に近付いてくるのはいつもと変わらない夜空と、ペンタピアの長大な外壁。弾の射線は放物線を描く様にその外壁の少し上で頂点へと達した。

「――――!!!」

 その時――ほんの一瞬の間。俺達はペンタピアの全景を望んだ。
 煌びやかな摩天楼の内、いたる所より火の手が上がり、街の中央付近に言葉では言い表せないような奇怪なナニカが浮遊するペンタピアの全景を。

 そして、着弾。
 外壁の丁度裏側。人気の無い場所に俺達は降り立った。

「イグザゼン、ソートアーマー。」

 同時に砲弾よりソートアーマーへとイグザゼンの姿を変える。
 砲弾が落ちた事による小さなクレーターの中央で、俺達は周囲の状況を確認し――

「……なぁ、アリス。」
<どうした?>
「確かに人気はねぇが……」

 右を見れば、マシンダムのような……だけど纏う雰囲気が明らかにおかしいモノが佇む。
 左を見れば、なんだろう……歯車と鋼線をデタラメに絡ませて辛うじて人型をしているモノがいる。
 正面を見ればキャリアー……だったんだろう。だけどなんだか余分なパーツが無駄に多いモノがエンジンの唸りをあげている。
 更にそこら中に良く分からないナニカが蠢き……

「バケモノの気は多すぎんだろ!!」
<私に当たるな。まずは……ッ!>

 アリスが言葉を言い切る前に正面より突っ込んできた元キャリアーを、側面に飛んで回避する。
 更に追い討ちと言わんばかりに飛びかかってくる機械仕掛けのバケモノの群れ。
 右にかわし、左に切り払い、飛び退いて、背を向け一気に駆け抜ける。

「逃げろ、だろ!」
<ああ。恐らくあの者達はこの街の住人をセカイの楔として顕現化した励起獣。下手に倒せば楔となっている者も傷つけてしまう恐れがある……!>

 逃げ道を塞ぐように左手より現れたマシンダムっぽい何か。
 振り下ろされた巨腕をかわし、その腕伝いに肩まで駆け上り、隣のビルの屋上へと辿り着いた。

「で、こいつらを元に戻すには……」
<励起獣のイリーガルコードをばら撒き、それらを統括している大元を断てばいい。そうすればこの者達は顕現化し続けることが出来なくなり、消滅するだろう。>
「なるほど、やっぱそういう事か。なら……!」

 視線を街の中央付近にて浮遊するセカイ外の存在へと向ける。
 この世ならざる極彩色をその身に纏い、立体感の無い、酷く薄っぺらい何か。どうも掴み所の無く、よく分からない相手だが紛れも無いセカイの怨敵にして俺達の敵。

「――“これ”でやれる。」

 ビルとビルの合間を跳ね、開けた広場らしき場所へと降り立ち、呟く。

「…………」

 久々の感覚を、記憶を頼りに思い出す。
 呼吸を落ち着かせ、その「解」のみを思考する。

<……輪転炉の出力も上々。飛行式はまだ安定しないが、こちらは現状では問題無い。もっとも、あまり長くはもたんだろうがな。精々4,5分が限度か。>
「十分だ……んじゃ、行くぜ!」

「イグザゼン……!」

 それは「式」。
 絶対なる破壊の「式」。
 大いなる巨人の「式」。

<イグザゼン……>

 それは「解」。
 セカイに君臨する絶対者の「解」。
 神ならざる神の「解」。

 胸の内、唸りを上げる星界式輪転炉。
 身体より漏れ出るその力の奔流は、瞬く間にセカイの理を塗り替えていく。
 やがてそれは幾千幾億幾超の、超越の「式」にて卵の殻のように俺達の身体を包み込んでいき――そして


「マテリアラァァァァァァァァァァイズッ!!!>


 吹き荒む生誕の咆哮。大いなる事象励起。
 街を覆う異様な気配を吹き払うように、「式」は金色の光となって周囲に溢れ出で、天を穿つ柱となる。

「――――」

 その内、聳えるのは莫大な質量と力を秘めたこの世ならざる者。
 セカイを侵し、理を越え、それは超常の鋼を纏い、このセカイに顕現化した。


「あれって、もしかして……?」

 天穿つ2本目の柱。その内より現れた白銀の巨躯。
 その光景をドルサルタワーの一室の窓より、食い入るように見つめていた栗毛の少女。
 意識せずとも胸の鼓動が高鳴る。心が躍る。間違いない、あれは……!あれは……!

「ディーッ!!」


 この世ならざる闇に侵されつつある大都市にて対峙する2つの超越的存在。
 ただ1人、少女の見守る決戦の行方は如何に……

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