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第九話「メキド・フレア」中編(上)

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 そして、各国々で新型が完成をして一週間。
「ご気分の方はいかがですか? 水原さん」
「はい、問題ありません」
 白一色の壁の部屋にに白衣を着た医者と奈央がお互いに向き合うように座っていた。
 医務室に連れられ要入院判定を貰った奈央はここ最近ずっと医師の診察を受けていた。
 以前のような逃亡は無くなったものの、やはり精神安定剤が手放すことは出来なくなり、バイラムを見ると
体の調子がおかしくなり、嘔吐や痙攣といった症状が絶え間なく出ていた。
「では、このままお仕事を続けてください」
「はい」
 そう言って奈央は立ち上がると自分の病室へと向かっていった。仕事といってもやる事は簡単な事務作業だ。
 奈央は備え付けの椅子に座ると机の上にある書類を一枚手に取りながら隣のノートパソコンの電源を入れる。
 OSのロゴと共に自分が今、置かれている状況を考えてしまう。
 先日、ナタリア大尉から除隊を促された。おもむろに頷きはしたものの手続きの書類が来るのは一週間後のことだ。
 その間に考えろって事なのかな?
「ふぅ……」
 思わずため息を付いてしまう。そういえば祐一くんはどうしているんだろうか?
 この前の電話から一度も連絡をしていなかった。あの黒い悪魔が自分の父親だと知ったらどうするんだろう?
 悲しむのかな? それとも絶望するのかな? どっちにしろショックを受けるのは確実だろう。
 そんなことを考える奈央の耳元に誰かがそっとささやいた。
 それを言う勇気無いくせに。自分から真実に目を向けないのに何を言ってるの?
 思わず耳をふさいでこの声を遮断しようとする。が、声はますますの波ように跳ね返ってくる。
 あれは一明さん。人々を恐怖の渦に貶める悪魔。その正体を掴んだあなたは褒められて当然なの。
「ちがう!」
 あの人と戦う! なんて気安いことが良く言えたものね。現にここに隠れているじゃない。
「もう、やだ……」
 膝を抱えながら思わず小さく呟いた。その言葉と同時に涙がこぼれた。
 そんな時、病室の戸を叩く音が聞こえてきた。
「どうぞ」
 そう返事をすると扉が開かれた。来客者はナタリア大尉だった。来るって言ったのは一週間後なのに……。
「気分はどうだ?」
「もう平気です」
 そう口に出してみるが本当は逃げたくて仕方ない。どこへ逃げたいのか分からないが逃げられるなら……。
「そうか、だが無理をするな」
 そう言ってテーブルの上においてあるリンゴを手に取った。そして果物ナイフを手に器用に剥き始めた。
「してませんよ」
「そうか……」
 気遣われているのは理解できているがついふてくされたかのように言ってしまう。まるで子供ね……。
「剥けたぞ、奈央」
 先ほど剥いたリンゴをお皿の上に置く。些かいびつに歪んだリンゴがまるで自分の心に見えてきた。最もナ
タリアが不器用な部分があるせいもあるのだろうが。
「ナタリア大尉はどうして軍人になったんですか?」
 思わず聞いてしまった。自分がこの道に入ったのは他に就職口が無かったというなんともお粗末な理由である。
 それに引き換え、目の前にいる女性は自分とは違った雰囲気を持っており、きっと立派な事情を持って望ん
だのだろう。
 ナタリアは少しの沈黙の後、息を吐き出すかのように言った。
「人を殺したからだ」
「え?」
 ナタリアの言葉に思わず声を詰まらせた。そんな奈央を見てナタリアは少し苦笑いを浮かべた。
「聞きたいという顔をしているな」
「え? はい……」
 よほど顔に表れていたのか少し恥ずかしかった。
「ふっ、何から話せばいいのかわからんな」
「どうして人を殺したんですか?」
 最も聞きにくいであろう事柄から聞いてみた。もし、前フリを聞いてしまえば恐らく聞きづらくなるに違い
ないだろう。それに目の前の女性が軍人になる前に人を殺したなんて思っても見なかったからだ。
「そうだな……憎かったから、かもしれんな」
「憎かった?」
「ああ、戦争でやる人殺しとはまた違った感覚だった」
 ナタリアは少し遠い目をした。殺した相手は誰なんだろう?
「相手はどんな人なんですか?」
「私の父親だ」
「!?」
 思わずナタリアの顔をじっと見てしまう。とてもじゃないが父親を殺そうとする人物とは到底思えなかった。
「東ロシアがAUAに入ってまだ十年かそこら頃だ。当時は大規模な不景気で食うのにも困る生活だった。そ
んな中、私の母は父に暴力を振るわれていてな……そのせいでとても家には居辛かった、家出を何度も繰り返
してな、そのせいで学校では不良娘といわれたよ」
 ナタリアは自虐的な笑みを浮かべた。奈央は黙ったまま話を聞いていた。
「そして、そんな生活は突然終わりを告げた。きっかけは簡単だ、父は私を犯そうとした。無論、私も抵抗
したが……近くにナイフがあったのがいけなかったな。気がつけば父は胸を押さえてうずくまっていたよ。普
通の家族ならここで救急車を呼ぶんだろうが……私は……」
 続く言葉が出て来る事はなかった。いや、出なくても大体は想像がつく。大尉は自分の父親に――。
「後はまるで流れるように時間が過ぎ去ったな。警察が来て、逮捕されて、そして裁判があって、刑務所に入
れられた。牢獄の中は快適とはいえなかったが少なくともあの家に比べればまともに感じたな。あの後、刑罰
として自動的に軍人にされたよ。受けた任務は戦線維持や危険な作戦に参加させられた。司法取引とはいえヒ
ドイ扱いをかなり受けたな」
「あの、その……」
 思わず口ごもってしまう。やはり同じ女性としては聞き難いが正直、気になる。
「……強姦はされなかったぞ、父にも、軍人にもな」
 ナタリアがそういうと奈央は少しホッとしたかのような顔になる。
「だが、周りからは……」
 どんな扱いを受けたのか想像はある程度出来たが実感が沸かなかった。
「……そうですか」
 そんな当たり障りのない事を言ってしまう。ナタリア大尉の話を聞いても自分の心は全く動かない。
「続き、話しても良いか?」
「え?」
 突然の言葉に少し戸惑ってしまう。
「まあ、やはりといったところか、案の定、こんな生活いつまでも続くと思い始めた。その内、殺されること
が運命なのではと感じ、だったらそれをなしてやろうと思ってた。だが、そんな私に転機が訪れた。」
「転機、ですか?」
 奈央は首をかしげる。彼女の転機は正直、想像が出来なかった。ナタリアは軽く鼻で笑うと言葉を続けた。
「ソウ司令だ」
「ソウ司令、ですか?」
「当時は司令ではなく大隊長だったな。ソウ隊長、いや司令は私にある物をくれた」
「ある物?」
「ああ、これだ」
 ナタリアは胸のポケットからあるものを取り出した、それは――。
「エルバッジ?」
 エルバッジ。AUAでは勲章として様々な人物が貰う物であり、一生涯に一人一つしか貰えないものである。
勲章の種類はそれぞれ、科学、音楽、絵画、文学、治安、スポーツ、社会、国際の八つに別れており、ヨウシ
ンが貰ったのは治安のバッチであり、それを誰かに渡すと言うのはそれだけ信頼が置ける人物である。
「ソウ司令は私にバッジを渡して一言呟いたんだ。『罪とは罪を知らぬこと、罰とは罪を忘れぬこと』とな」
「……罪を知らぬこと……」
 思わず呟いてしまう。以前、ヨウシンにいった言葉を思い出した。
 あなたの行いで誰かが死ぬかもしれませんよ。
 それは理解している、でも……私に討てるの? それだけじゃない、祐一くんに説明できるの?
 自分の中で考えが何度もループし始める。
「皮肉や嫌味になってしまったな、すまない」
「いえ……」
 奈央はそう言うが心が落ち着く事はなかった。
「まあ、家族には連絡しておけ。辞めるにしても続けるにしても電話ぐらいしてやれ、こんなご時世だからな」
 ナタリアは席を立つとそのまま病室の外へ出て行った。
「一明さん、私は……」
 私は……どうしたら良いんでしょうか?
 ここ最近ずっと一明の事ばかりを考えていた、しかし全く答えが出ない。
 あなたが居たらどんなに良かったことか……
 奈央は仰向けになりそのままベットに寝そべった。

 奈央が寝そべっている頃、マールはユニオンの軍事の中心であるイタリアのローマへやってきた。
 ローマにはユニオンの軍事中枢を司る国防ビルがあり、そしてその十階にある国防省長官室があった。
「マルネ・ラザフォード大佐、入ります」
 長官室の横にあるベルを押し、インターホンのマイクに向かって叫ぶ。
「入れ」
 自動ドアが開いた。部屋には年老いた男性が一人、部屋の奥に座っていた。白髪交じりの金髪をオールバッ
クにしており、皺だらけ顔にはかつては美形だった名残が幾つもあった。
 部屋の中には大きなデスクには無数の書類が載っており、棚には大量のファイル、そして壁にはユニオンの
兵士を募集するポスターが貼られていた。
「久しぶりだな、ラザフォード大佐」
「ええ、本当に……お久しゅうございます、クロード・ラザフォード長官」
 そう、目の前にいるのは男性はマールの父親であり国防省長官であった。
「さて、ここに来たという事は……」
「ええ、辞令のお断りを口頭でお伝えしようと参ったわけです」
 笑みを浮かべていた顔から急に悲しそうな顔に早変わりをした。目の前の娘の言葉に父親としてショックだっ
たのか少しいじけた様子で見つめてきた。
「どうして? あの危ないバイラムから遠ざかることが出来るって言うのに……」
 今のユニオンはやたらと退役を申し出る将校が多かった。嫌、将校だけではない士官、下士官、挙句の果て
には兵士までこぞって辞めていく。
 無理もない状況だった。残れば確実にバイラムと戦うことになるのは明白であった。
「だからこそです、安易に任務を放り出す物が軍人としての職務を全う出来るとは思えません」
 マールはやや冷た目な口調で話しながら目の前にいる父に視線を送る。
「そう、でもあんまりいい話を聞かないな。ラザフォード大佐」
 この言葉に少し身体が震えた。先日、ファルに引き止めるように頼んだのだが、案の定、彼女も上官の命令
に従うだけの兵士であった事に少し憤りを感じる。
 せめてもうちょっと良い評価が欲しかったな。
 自分の力不足を認識したわけではないが権力で成り上がったものとして捉えられたことがマールには苦痛であった。
「具体的にはどのようなことが?」
 あえて態度を崩さずに聞いてみる。こうなったらヤケよ、徹底的に困らせてやる。そう決めると彼女の肝は
あっさりと座った。
「まず、軍人としての緊張感がない」
 父親の言葉にマールは少しぐらついた。これはどうにも変えようのない事実であった。ファルとの馴れ馴れ
しい会話はビスマルク隊の人間なら誰でも知っていた。階級による上下関係も全く意味を成していなかった。
そのせいかどうか分からないが隊の中には穏やかな空気が流れてしまい、締りが無いという印象がもたらされ
てしまった。
「それは私流のコミュニケーション手段であって、私の評価を下げる原因にはなりません」
 だが、マールも毅然とした顔で最もらしいことを言うが父はさらに言葉を続けた。
「二つ目、軍務用判、及びサインを使わず独自の物を使用する」
 これも少し響く、ユニオンの中では出処を判別するために特殊な印鑑やサインを使うのだがマールの使った
ものは独自性が強く、ほとんど趣味ではないかと思われるシロモノだった。そう、例えば――。
「ウサギのハンコは可愛いけど、うちにも雰囲気っていうものがあるんだよ。マール」
 父はまるで小学生の子供を叱るように優しく諭してきた。
「でも可愛くないし、どうも固いんだもん」
 一発でどこの誰かが分かるが上層部の間ではとても大佐階級を持つ人間がやることではないと称された。
「そして、最後だ。手柄を優先しない傾向があり」
 この言葉にマールは少し眉間に皺を寄せた。
 始めてビスマルク隊に配属されて、初めての任務はあの合同演習である。
 あの時ファルに撤退命令を出したのは他ならぬ自分だ。しかし、危険だから退避をさせたのに手柄を取る気
が無いと評価されたのは納得がいかなかった。その証拠に手柄を求めた物たちは全てバイラムの核によって消された。
「部隊の被害を抑えることが指揮官の意義ではないのですか?」
「それもあるけどねぇ……」
 勝利することも指揮官の意義である、というのはマールも十分に理解している。
 被害を減らすことか? それとも勝てば良いのか?
 これは個人の思想なのでどれが一番良いのかは誰も分からない。
「まあ、そんなだから……ねぇ?」
 父親の目配せに軽くため息を付いた。そして、意を決したかのような真顔で顔を上げた。
「残念ですが、辞令は受け取れません」
 マールの思いに堪えるかのように父親も厳しい顔になった。
「何故だ? 辞令を断ることは命令違反だぞ」 
「分かっています。しかし、例え命令違反をしても私は彼女達が大好きです」
 偽りのない気持ちだ。あの部隊の面々が嫌いになる理由がマールには無い。例え自分に対し批判的な視線を
持っていたとしても、仕方なく上官に従うだけの兵士だとしても。
 そんなマールの言葉を聞いて父親の顔は完全に緩んでしまった。完全に呆れた顔をしながらも笑みが浮んでいる。
「ふぅ、あーあ、本当に馬鹿な子だねぇ」
「しかたありません、あなたの子ですから」
 思わず笑みを浮かべるマールを見ながらそのまま背もたれに体重を預けて笑い出した。
 そして引き出しから書類を取り出した。分厚くはないものの軽めの冊子ほどの量があった。
「これは?」
「引止め嘆願書、ミスリーア少尉が集めて私のところに提出してきたよ。これだけ愛されてる娘を持って私は
幸せ者だなぁ」
 ファルの名前から始まりビスマルク隊全員の署名とサインから始まり、整備班、ブリッジクルー、一部士官。
 一枚一枚から様々な思いが伝わってくる。
「お父さん……」
 マールが視線を父親の方に向ける。
「パパと呼んでくれ」
 父は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「パパ、ありがとう」
「うんうん、私も父親冥利に尽きると言うものだ」

 そして翌日のAUA、重慶基地の司令室ではなにやら厳かな雰囲気に包まれていた。
「リーシェン少尉、いかがなさいましたか?」
 ヨウシンはゆっくりとした口調で目の前の若者を見た。顔に苦悶の表情が浮んでいる。
「真に申し訳ありませんが自分をパイロットから降ろしてください」
「ほう、何故ですか?」
 突然の申し出にヨウシンは眉をひそませる。少なくともヨウシンは目の前の人物は高い素質を持っているこ
とを理解していた。今はそうでないにしてもゆくゆくはコウシュンの後釜に添える器を備えていると思っている。
だが、その人物から成長の足がかりであるPMの操縦をやめたいと言い出したのだ。
「あの機体は正直しっくり来ないのです。私の操縦技術よりも上の人物を立てるべきなのです」
「ほう、それは良い事を聞きましたね。どこがしっくり来ないのですか?」
 意地悪そうに言うとリーシェンは少し困った顔をした。最も、ひねくれた意味合いはほとんど無く、彼が感
じている違和感の方に興味があるようだ。
「色々ありますが、やはり操縦感覚ですね」
「操縦感覚ですか……困りましたね」
 思わず腕を組んで唸ってしまう。
 感覚と言う最も言葉にしにくい部分が扱いづらいと言ったのだ。これは技術部と話し合う以外の方法がない。
 考えているヨウシンを知らずに、リーシェンはさらに言葉を続けた。
「……あれに乗れば乗るほど自身の至らなさに気がつき、却って自分がこの機体に似つかわしくないように感
じます。どうかご再考の事をよろしくお願いします」
 リーシェンは頭を深々と下げた。
「わかりました、考えておきましょう」
「では、失礼します」
 そして頭を上げて敬礼をすると部屋を出て行った。そんなリーシェンの背中を見送りながらヨウシンはた
め息を漏らした。
「困りましたね、これはどうにかしなければ……」
 ヨウシンは机の上にある電話の受話器を取ると技術部を呼び出す。数回のコール音が鳴り響くと受話器を取
る音が聞こえた。
「はい、こちら技術部」
 低い声が聞こえてくる、声の主は恐らく技術部の主任だろう。受話器の向こう側から物々しい鉄の音が響いてくる。
「すみません、司令部ですが……」
「ソ、ソウ司令! ご用件はなんでしょうか?」
「リーシェン少尉から黄龍の操縦感覚がどうも合致しないと報告を受けましてね、それでそのご相談を」
「黄龍の? そうですか……やっぱり」
「やっぱり、というのは?」
「ええ、少尉からこういう要望が来たんです。やるべきときにやるべきことが出来ない、と」
「どういう意味なのですか?」
「さあ? とりあえずこれから少尉と話してみようと思います」
「分かりました、ではお願いします」
 ヨウシンは受話器を置くと腕を組んだ。
「さて、どうした物でしょうか?」
 呟いた瞬間、司令室の電話が鳴り響く。
「はい、こちら重慶基地司令室」
「ソウ司令、私です」
 声を聞いたヨウシンはすぐさま険しい顔に早変わりした。
「……合言葉を」
 重苦しい口調で言うと相手も同じような口調で返してきた。
「……枝葉の青」
 言葉を聞くと警戒を解いたが重苦しい口調は以前変わらないまま話し始めた。
「さて、報告をお願いします」
「はい、司令が睨んだとおりここ最近、旧軍人の年金が滞っています。議会では対バイラム計画に使用されて
いると発表されていますが……」
「実際は違うと?」
「はい、使われているのはもっと別の費用です、その証拠に青龍や朱雀といったPMはせいぜい軽い改修止まりです」
 ヨウシンは引き出しから資料を手に取る。改修の内容もお粗末なものだ。出力強化、コンピューターの乗せ
換え。これなら黄龍の開発費の半分以下で十分行えられる。
「ふむ、そうですか……ところで別、というのは?」
「そこまではわかりません、これから調査をと……しかし、何らかの裏金として使っていることは明白でした」
「そうですか、分かりました」
「では、失礼します」
 そういって向こうから受話器を置く音が聞こえた。再び腕を組み考え始める。裏金というフレーズがいつま
でも心に引っかかる。もしも、AUAだけではなく他の政府にも手が込んでいたのならば……。それだけでは
ない、使っている相手もまた気になる所だ。軍部ではない、軍需産業でもない。ならばどこに……。
「ふぅむ……一応後詰めをして置いたほうが良いかもしれませんね」
 そして再び受話器を手に取った。

 そしてさらに後日。重慶基地の格納庫ではリーシェンと技術部の主任の男性二人が黄龍のコックピット近く
で話し合いをしていた。
「どうですか?」
「いや……残念だが……」
 リーシェンは苦い顔をすると技術主任もまた渋い顔をした。お互い上手くいってない様だった。
 反応が悪いわけではない。武装に不満があるわけでもない。だがしっくり来ない、どこかおかしい。
 何度も同じ事を報告書に書いてしまうことはリーシェンにとっても技術部にとっても辛かった。
「そうですか……もう一度検討をして見ます」
「ああ、たのむ」
 技術主任が頭を下げるとリーシェンも同じように会釈をした。そして主任はそのまま部屋を出て行くとリー
シェンは重くため息を付いた。
 そしてそのまま背もたれに体重を預けるとライトしかない天井を見つめた。
「どうした物か……」
 そんな事を呟いていると突然扉が開いた。
「誰だ?」
 視線を向けた先にいたのは――。 
「水原!」
 すかさずコックピットから降りて彼女の元へ走っていく。
「その……私……」
「もう平気なのか?」
「……いえ、これを出しに来たんです」
 そう言って彼女は白い封筒に入った紙を取り出した。
「これは……」
 そう、彼女が持っていたのは脱隊届だった。
「水原、お前……」
 怒りなのか落胆なのか悲しみなのか分からない顔をリーシェンはした。罵倒されても仕方ないと覚悟を決め
て奈央は来たのだ。現実逃避と取られても仕方が無い。
「すみません、リーシェン少尉……受理されるのはもっと後になるってナタリア大尉が言ってましたけど」
「……お前は悔しくないのか? パーチャイ少尉が殺されて!」
 思わず彼女の胸倉を掴み、大声で怒鳴った。
「じゃあ、リーシェン少尉は悲しくないんですか!? 憧れの人、大切な人をを殺せって命令されて!」
 突き返すかのような奈央の言葉にリーシェンは言葉を失う。だが屁理屈気味に叫び返した。
「あれはあの一明と言う男ではない! バイラムだ!」
「でも一明さんかもしれません!」
「違う、バイラムだ!」
「じゃあ、聞きますがあれがどうしてあの人じゃないって言えるんですか!?」
「そ、それは……バイラムはPMで……」
 奈央の問いにしどろもどろになってしまう。
「あれは、一明さんです。私は……私、は……」
 彼女の目から涙が零れ落ちた。ここに来ることも本来ならなかっただろう。だが彼女は来た。
「直接手を下すわけじゃないって言う事だって分かっています、あれは人類の敵だって事も分かっています、でも……」
 精一杯の勇気を出してここに来たのだ、自分自身と向き合うために。
 そんな彼女を見ていたら自然に手が離れていった。
「……すまなかった、水原」
「いえ、大丈夫です……」
 奈央は精一杯の笑みを見せたがその顔はどこか痛々しい物であった。
「話は済んだか?」
 声がしてきた方を向くとそこにはコウシュンがいた。
「た、隊長! いつからそこに?」
 慌てふためくリーシェンに対し、何故か顔は晴れやかであり、どこと無く楽しそうだった。
「ふっ、さあな。それよりも水原、早速で悪いのだがこの黄龍の改良を手伝ってくれないか? お前からの助
言が欲しい所だ」
 コウシュンがそう申し出ると奈央は泣き顔からいつもの真面目な顔に早変わりした。
「はい、分かりました。では軽く動かしてみてください」
「リーシェン」
「了解」
 コウシュンがリーシェンの方に視線を向けると少しふてくされた顔でコックピットに乗り移る。
 手を、足を、少しずつ動かしていく。自分が思ったとおりに動かしてみるがどうもしっくり来ないらしく顔
に苦みばしった皺が幾つも見えていた。
「なるほど」
 奈央はすぐさま近くにある備え付けのパソコンを起動させると素早くキーを叩き始めた。
「何かわかったのか?」
「はい」
 すぐさまデータベースにアクセスをすると目的の物をディスプレイに映し出した。
 中の人物は特殊なスーツを着ており、様々な動きを行っていた。
「水原、これは?」
「HTS、ヒューマニックトレースシステムです」
「HTS?」
 リーシェンは首をかしげる。聞きなれない言葉だ。
「以前、中東での演習に使ったシステムを覚えていますね?」
「ああ、確か……サポートコミュニティだったか?」
 モーションパターンを組み替えることによりありとあらゆる状況に対応しようとする物。バイラムに対して
かなり手ごたえがあったがもう少しというところで鳳凰はやられてしまった。
「はい、既存のモーションパターンを入れ替えることでPMの動作を変えることができるということでした。
しかし、HTSは直接PMの手足を動かすことが出来るシステムです」
「直接、ということはもしかして、私がPMと同化することも可能、と言うことか?」
「ええ、今までのように既存パターンを入れ替えではなく自身の手足として動かすことによりより自由にPM
を動かすことが出来ます!」
 HTSは船外活動の無人機を動かすものだった。本来、宇宙艦が損傷した場合はよほどの事が無い限り修理
ロボットが行うのだが専門的分野、及び部品が無い場合などの特殊なケースを想定してこのシステムが作られた。
 奈央の説明にリーシェンはただ感心をしていたがコウシュンは手を上げる。
「何故、それを今更この黄龍に取り付ける? サポートコミュニティではいけないのか?」
「リーシェン少尉が感じている違和感というのは武術を習ったものなら分かる物だと思います」
「どういうことだ?」
「私の憶測ですがサポートコミュニティでは同じ攻撃を何回も繰り返すだけで、変化を付けるということが出
来ないんです。同じパンチでも顔を狙った物とお腹を狙った物とでは握り方や速度と言った細かい部分がどう
も疎かになりやすいんです」
 同じパンチを繰り出すにしてもストレートとフックは違うパンチである。それだけではない、フェイントや
掴みと言ったバリエーションも広がる可能性を秘めていた。それはPMを操作する上でかなりのアドバンテー
ジを秘めることになり、黄龍はより強くなるという事を意味していた。
「なるほど、用は機械的過ぎる、ということだな?」
「はい、それにこのHTSなら操縦桿を傾ける、ペダルを踏む、と言った煩わしい手順からも解放されますしね」
 奈央が明るい声で言うとリーシェンはフンと勢い良く鼻を鳴らした。
「水原、それではまるで私が不器用と言われているような気がするが……」
「そんな事ありませんよ、気にしすぎです」
 奈央はディスプレイの電源を落すと二人に向き直る。
「水原、これを黄龍に取り付けるのにどのくらいかかる?」
「作成と取り付け作業を計算して……三日ぐらいでしょうか?」
 水原の言葉を聞いたコウシュンは手帳を捲ってみる。一週間後に宇宙ステーションファーストに出向するこ
とが決定している。テストは出来るだろうが再調整は恐らくギリギリに近い。
「分かった、頼む」
「わかりました、それでは作業に映ります。その間にリーシェン軍曹はコウシュン隊長と組み手をしててください」
「わかった、技に磨きをかけてくる!」
 そういうと格納庫から去って行った。
「水原伍長、無理はしないほうがいい」
 コウシュンがそう言うと奈央は少し寂しげな笑みを浮かべた。
「本当は戦いたくないんです、バイラムと。でも、どこかで決着をつけないと皆が困りますし……それに」
「それに?」
「これで最後にしたいんです。あの人を追いかけるのはもうお終い。これからは水原奈央として生きてみたいんです」
 水原奈央として生きる。あの後必死に考えて自分で出した答えだ。胸を張れるほどの気持ちは無いが今は前
を向いてみようと思い始めた。
「そうか……」
 コウシュンはそう言って格納庫から出ようとする。
「水原伍長、一つだけ聞きたいことがある」
「なんですか?」
「バイラムとの戦いが終わったら軍を辞めるのか?」
 コウシュンの問いに奈央は少し寂しげな笑みを浮かべた。
「リーシェン少尉の前ではああ言いましたけど……正直わかりません、でも……整理がついたらもう一度考え
てみようと思います。私が目指した物を」
「フッ、それなら私ももう一度考えて見るとしよう。軍人としての生き方をな……」
 お互いに苦い笑い顔をしながらコウシュンは格納庫を出て行った。彼にもこの戦いで終わりにしたいことがある
のだろう。それがなんなのか奈央には理解できなかったが。

 翌日、ボルスたちはステイツの巡航艦「フリューゲルス」の格納庫にいた。青い巡航艦には整備員たちが慌しく
動いていた。クレーンで運ばれたPMがフリューゲルスに搭載される。
「よし、ナイツとパラディンは無事に搭載したぞ!」
 整備員が叫ぶとクレーンはゆっくりと上昇して行った。そしてシャッターが下りるとエンジンに火が入る。
 小型艦とはいえPMを三機を積むためかなり大げさな貨物ハンガーが付いていた。
 端から見ればかなり不恰好に見えるがフリューゲルスの推力ならば三機のPMを宇宙へ飛ばすぐらい動作でなかった。
「よし、全員座席に着いたな?」
 フリューゲルスの座席にはボルスたち、シルバーナイツの面々が乗っていた。前のほうにボルスが、後ろに
アルとレイが小さく座っていった。
「あの、ベルガン主任が乗っていないのですが?」
 レイがそう言うとボルスが後ろを向いて話した。
「ケントは地球に残って新しい装備を完成させるらしい。宇宙のデータ修正は通信でやるそうだから安心して
くれて良いぞ」
「それなら良いんです」
 パイロットから簡易客席に向けて放送が流れる。
「そろそろ発進します、準備はよろしいですか?」
「問題はない、いつでも良いぞ」
「では、発進します」
 声と共にフリューゲルスは垂直に上昇して行く。そしてエンジンノズルを水平にするとそのまま真っ直ぐ進
んでいった。開けた場所に来ると徐々に角度を上げていき宇宙へと昇っていった。大きな雲を突き抜け、星が
瞬く空に来ると別エンジンに切り替え、成層圏を突き抜けていった。青と黒のコントラストが鮮やかな空が徐々
に真っ黒になっていく。
「これが宇宙なのか……」
 アルは窓から見える漆黒の空間を感嘆した顔で見つめている。レイは先ほどまでいた地面の方へと視線を向けた。
「凄い、地球ってこんなに大きかったんですね」
 二人とも地球を飛び出すのがこれが初めてであった。重力が無い感触に戸惑いつつも心のどこかでのこの体
験がとても楽しく感じられる。
「はしゃぐのは良いが宇宙ステーションに着いたら宙界戦闘の訓練を開始するぞ。地上と同じ感覚でやれば最
悪の場合二度と帰って来れないかもしれん。気を抜くなよ」
「了解!」
 二人は真顔で敬礼をする。
 彼らを乗せたフリューゲルスは目的地に向かって突き進んでいった。
 国連宇宙ステーション、ファースト。そこが彼らの目的地であった。
「間近で見ると本当に人間って凄いんですね」
 レイが宇宙ステーションを見ながら呟く。目の前に広がるステーションは肉眼で見て見るとかなり大きく、
まるで小さな土星を思わせる形をしていた。真ん中に球体の周りにリングを思わせる重力安定の錘が回っており
映像ではなく直接的な目で見ると人間の凄さを実感してしまう。
 そしてフリューゲルスがファーストの接舷デッキに着くと客席の自動ドアが開いた。
「さて、着いたぞ。荷物は指定されたロッカーに入れておけ」
「了解」
 三人はシートベルトを外すと素早く立ち上がろうとする。
「うわ!」
 思わずアルは声をあげてしまった。まるで思い切り吹き飛ばされたかのように壁に激突してしまう。ほんの
軽く足に力を入れたのに大きく飛んでいった。
「いたたたたた……」
「もう、何をやってるのよ……きゃぁ!」
 転んでしまったアルを助け起こそうとするがレイもまた、この宇宙に馴れていないせいか手足をバタバタと動かしている。
「二人とも、宇宙では泳いだ方が速いぞ」
 ボルスはそう言うとクロールのように手を掻いて二人の身体を支えた。
「す、すみません……」
「面目ありません……」
 気落ちした顔をしている二人の背中を軽く叩いた。
「気にする必要は無い、まずはこの宇宙になれることが先決だ。期待してるぞ」
「はっ!」
 二人は立ち上がるとフリューゲルスを後にした。

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