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第一一話 「白き羅刹」前編

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 ボーデの法則。
 我々の住む太陽系は一定の距離間に惑星が存在している。
 太陽を基点とし、水星、金星、地球、火星、木星、の間をそれぞれ1.5倍の距離で並んでいる。
 しかし、このボーデの法則にはたった一つだけおかしな点があった。
 それは火星と木星の間に一つの惑星がないことである。
 そこにあるのは単なる小惑星群のみ、惑星があったわけではない。
 だが、昨今の太陽系惑星論を紐解いて見るとある可能性が浮上してきた。
 それは、我々が火星をテラフォーミングしたようにこの第五惑星もまたテラフォーミングをされたのだ。
 ただのテラフォーミングではない、惑星自体を移動できるように改造したテラフォーミングである。
 無論、単なる荒唐無稽な話であり学論では一切信じられては居ない。
 だが、もしもこの話が本当ならば、我々、地球人以外の知的生命体がいるという話である。
 そう、異星人を信じるなどともっとも荒唐無稽な話なのだから。

 大西洋沖にある海洋自営都市、アトランティス。人がいないゴーストタウンの上にに三つの影が交差していた。
 一つは白の騎士、ナイツ。もう一つは黄色の魔弾、ビスマルク。
 その二機をあしらいながらもその圧倒的な存在感を見せ付けている紫の鬼、バイラム・カスタム。
 ビスマルクとナイツは前回と同じ、対バイラム用の装備であったが大気圏内の戦闘を想定していなかったの
か少し動きが鈍くなっていた。一方のバイラム・カスタムには何も無かった。大きな獲物を持つ二人に対し、
その身一つで縦横無尽に飛び回っていた。閑散とした街並みに爆音が響き渡り、無数の瓦礫が空を舞い、赤い
炎と漆黒の煙がいたるところから上がっていた。辺りに人がいないことが幸いしたのか道路は既に意味をなし
ておらず、その下にあるパイプがむき出しになっており、そこから海水が時おり空に向かって噴出していた。
 剣と拳がぶつかり合い、赤い火花が飛び散ると同時に辺りには火の粉が舞い、甲高く激しい音が何回も響き渡った。
「この!!」
 ファルのビスマルクがセルの操るバイラム・カスタムへと迫ると手に持っていた大剣を思い切り縦に振りぬく。
「甘いわね」
 それを胸元三寸で避けるとそのままローリングソバットの要領で蹴り付けた。
 鈍い音共にそのまま大地へと向かっていく。がギリギリの所で機体を無理矢理安定させると急上昇をし始めた。
 バイラムの横からナイツが迫ってきた。手には先のバイラムとの戦いで作られた槍を持っている。 
「やらせん!」
 雷のように鋭い突きを繰り出すが、右へ左へと軽やかに避けられてしまう。今度は後ろからビスマルクが迫ってきた。
「この!」
「ふふ、もっとよく狙いなさいな」
 まるで闘牛士のように向かってくる二人をいなしていく。右から、上から、後ろから。手に持っているマシ
ンガンが何度も火を吹くがバイラム・カスタムはそれを読んでいるのか素早く避けていく。
 先ほど撒いた空雷すら足止めにも、ダメージを与える意味も持たなかった。
 ボルスは軽く舌打ちをしながら睨みつける。目の前にいる紫の鬼はあの時のバイラムを髣髴させる。
 だが、諦めるわけにはいかん。友の仇を取らなくては!
 そう思った矢先、通信機から冷たいような、慈愛に満ちたような、複雑な感情を混ぜた声が聞こえてきた。
「ねえ、いいかげんに諦めたら?」
「何だと!?」
「私とあなた……違うわね、バイラムとナイツでは性能に差がありすぎるわ。だから大人しくここは――」
「ふざけるな! 貴様だけは許さん!」
 叫びと共に思いきりペダルを踏み込む。ナイツもそれに答えるかのように背面のバーニアを輝かせる。
 そして一気に接近するとバイラムの懐へと飛び込む。しかし彼女は気だるそうな表情で操縦桿を傾ける。
 バイラムが手の平を大きく開くとそのままナイツの目の前へと突き出し、頭部を吹き飛ばそうとする。
 だが、突然ナイツの姿が消えた。
「!?」
 後ろに視線を移したときには、ナイツの槍が目前に迫っていた。
「くぅっ!」
 素早く身体を捻って交わそうとするがすでに遅く、バイラム・カスタムの胸部が軽く抉れてしまった。
 一方のナイツも無理をしたせいか、腕から火花が散っていった。推進剤のメーターは既に振り切れており、
戦闘を続けるにはかなり不利になるだろう。
 無論、中のパイロットも無傷ではなかった。急加速と急転回という無茶な行動により目元から赤い血が涙の
ように頬を伝っている。額に浮ぶ汗、そして荒い息を整えようと肩で息をしていた。
「さすが、ね。じゃあこちらも本気を出させてもらうわね」
 セルは素早くキーボードを叩き、胸元に手を入れると特殊金属性の棒を取り出した。
 そして、操縦桿の真下にあるコンソールに差し込み、大きく息を吐いた。
「EX1、スタンバイ」
 セルの声と共にコックピットにオレンジ色のウィンドウが飛び出した。
 そして、紫のバイラムにもオレンジの線が浮かび上がる。あれは……確かバイラムも同じ……。
「さよなら、ボルス大尉」
 彼女は無慈悲にペダルを踏み込むと同時に紫の鬼が姿を消した。

 時を少し遡り、中国、重慶より北東に位置する町、西安。
 その街にある大きな中華料理店。奈央とリーシェンの回りには幾つものお皿が置いてあった。お皿の殆どは
ソースなどで汚れており、二人がかなり長時間据わっている事を示している。
「よく食べるものだ……」
 目の前に置かれたジャスミン茶を一気に飲み干すとリーシェンはため息を付いた。
 これだけの量を食べたという事は恐らくかなりの金額になるだろう。そう思うと少し気が重い。
 そんなリーシェンの気持ちを知らずに奈央は満足そうな顔で最後のお皿をそっとテーブルの置いた。
「リーシェン少尉のおごりなんですよね?」
「私がいつおごると言った!」
 思わず立ち上がり、苛立った声で凄むが彼女はややジト目でリーシェンをにらみ返してきた。
「バイラム解析の時の事、忘れてませんから」
「ぐっ!」
「黄龍の時も頑張りましたよね、私?」
「ぬぅ……」
「鳳凰の整備にもお礼を言ってもらわなかったですよね?」
 捲くし立てるかのような奈央の辛辣な言葉にいリーシェンは言葉を返せない。
「……分かった、おごりだ! それでいいのだろう?」
 乱暴に座ると頬に手を付いてそっぽを向いた。そんなリーシェンを見て、彼女はしてやったりという顔をする。
「はい、ご馳走様です。リーシェン少尉殿」
 支払いをどうするか、と頭を抱えていると懐の携帯が鳴った。硬派なリーシェンらしくそっけない電子音が店内に響く。
 辺りを軽く見渡し、懐から取り出すと口元に手を当てて通話ボタンを押した。
「こちらリーシェン」
「ヨウシンです。少尉、水原さんは一緒ですか?」
 ヨウシンの問いを聴いてちらりと奈央の方を見る。彼女はまだ食事をしている。
「ええ、先ほどからやけ食いをしています」
「それならいいです。ああ、そうだ。折角なのでそのまま上海へ行ってください」
「はい、ではこれから空港へ――」
「空港へ向かうのやめてください。車で北京へ向かってください」
「何故です?」
「空路は逃げ場がありませんので……」
 ヨウシンの言葉にリーシェンは少し苦い顔をする。
 何かに狙われる、というとことか……? いや、既に付けられているのかもしれない。
「了解、それでは向かいます」
 携帯電話を切ると今度は注意深く辺りを見渡した。料理店の中には若い男女から始まり、背広を着た男や家
族連れなどが食事をしていた。だが、その中を一つずつ一瞥すると少し緊迫感に満ちた顔をする。
 いるな、客に紛れてはいるが……。
 すぐさま奈央の方に向き直ると真剣な瞳で見つめた。彼女の方はデザートの杏仁豆腐を少しずつすくうと口へ持っていく。
「水原、日本へ帰るのは良いがやる事はあるのか?」
「今のところありませんね、軍の仕事を辞めたからって実家に帰るわけでもありませんし」
「そうか、それなら一緒に来てくれないか?」
「別にいいですけど……人気が無い所に連れて行かないで下さいね」
 そう言いながら彼女は杏仁豆腐の汁を啜った。
「……全く、ここまで図太ければ軍を辞めたとしてもやっていけるな」
「お褒め頂きありがとうございます」
 二人はそのまま会計を向かったあと、自分達の車に乗り込んだ。軽い振動と共に車が動き出す。
 このまま高速道路に向かうとペダルを軽く踏み込んだ。時おりバックミラーで背後を見ると黒い車が数台、
自分達の後ろについてきた。かなり遠くなので見え辛いが恐らく外交官ナンバーだろう。追って来るのに丁度
いいのでかなりの権力者ということを意味している。
「ところで水原、ジェットコースターは好きか?」
「え? 好きって言うほどではありませんけど平気ですよ」
「そうか、それなら良かった」
 リーシェンはそういうと一気にペダルを踏み込んだ。荒いエンジン音を響かせ、車が前へと進んでいく。
 奈央は事態を把握出来ていないのか目をパチクリさせている。
「え? なんですか?」
「水原、覚悟はしておけ!」
「え? え? えええええええええええええ!?」
 うろたえる奈央を尻目にスピードをどんどん上げていく。法定速度を突き破り、さらに加速させていく。
 後ろにいる車もまた、同じようにリーシェンたちに迫ってきた。銃器を持って射撃はして来ないものの、確
実に追いかけてこようと迫ってきた。
 くっ、ソウ司令の読みどおりか!?
 そう思いながら目の前に視線を送ると大型のトラックが目の前に迫っていた。
「きゃぁぁ!?」
「ちぃ!」
 舌打ちをしながらハンドルを回す。道路に後を付けながら横に流されるがブレーキとアクセルを上手く使い、
ドリフトのようにトラックを避けた。トラックのドライバーも驚いたのか急ブレーキを踏んだ。
 後ろにいる車もまた、そのトラックの合間を縫ってリーシェンたちを追いかけてくる。
 かなりの手練だな。プロか?
 ぶつかると予想をしていたリーシェンだが追いかけてくる車に少し感心をしてしまう。
 だが、こちらとてそう簡単に捕まるつもりはない。
 再びアクセルを踏んで車を引き離しにかかるが黒の車も負けじと速度を上げてくる。お互いの距離が徐々に
縮まっていく。薄暗い道路を明らかに走り慣れているようだ。
 このままでは追いつかれるな……。
「仕方が無い。水原、舌を噛まない様にしっかりと口を閉じてろ!」
「はい!」
 そういうとギアを最高にし、思いきりペダルを踏み込んだ。一気に加速させるとそれにつられるように後ろ
の車も速度を上げていく。二ツの車は道交法を無視して走っている車をまるで小さく波打つかのように進んでいく。
 時折車の横をぎりぎりの距離でかわしてたり、交差点をそのまま突っ切るようにひたすら前へと進んでいく。
 まずいな……。
 運転をし始めて早くも一時間経とうとしている。追手の車は一向に離れる気配はない。
 最後の手段しか無いか!?
「水原、衝撃の体制をとれ!」
 そういうと奈央は全身を前に倒して対衝撃用の体勢をする。そして、リーシェンはギアの隣にあるスイッチ
を押し込んだ。ニトロである。排気口から大量のガスが吹き出ると同時に車が思い切り前へと進んでいく。
 追っ手の車も追いつこうとする高速道路に入ってきた車がそれを邪魔をしてくれた。
 リーシェンは振り向かないまま追手を遠くへ遠くへと引き離していく。
 そして車が完全に見えなくなると一旦、高速道路から離れ、身近にあるパーキングエリアへと入る。
 すぐさまドアを開けて外の空気を取り込もうとする。車の窓から辺りを見渡しても追っ手らしいも
のはどこにも見えない。いるのは普通の一般市民のみ。
 問題ないことを確認するとリーシェンは隣にいる奈央へと視線を写した。
「何とか巻いたか……水原、大丈夫か?」
「は、はい」
 口ではそう言うが彼女の顔からは完全に生気、というものが消え去っていた。目を見開いたまま能面のよう
な顔でじっとしている。手も固いのかずっと腕を伸ばしたままだ。
「恐らく、道中で襲われるだろう。ここからは車を乗り継いでいく。くれぐれも迅速な行動を心がけてくれ」
「はい」
「……そんな顔で言われても困るのだが……」
「はい」
「……とにかく、いくぞ」
「はい」
 結局、別の車に乗り換えるまで、奈央は身体を固くしたままであった。

 所変わって同時刻のステイツ、フロリダ基地。
「どういうことですか!?」
 ボルスは感情の赴くまま机を思い切り叩いた。そして手元に持っている書類を叩きつけた。
 一方の彼、基地司令もまた、釈然としないかのように鼻を鳴らした。彼は簡素な机の上に肘を付いている。
「どういうこともない、そういうことだ」
「私は職務を全うしてきました。それなのにいきなり解雇通知が来るとは聞いていません!」
「私も非常に驚いているんだ! だがこれは大統領府からの直接頂いたものなのだ!」
「大統領府から!?」
 この言葉にボルスは戸惑った。軍上層部、ではなく大統領から直接個人指定の解雇嘆願書が届いた。ということだ。
 いくらなんでも無茶苦茶すぎる。それとも大統領も似たようなものなのか?
 ボルスにおかしな疑問がわきあがってくる。そんなボルスを見ながら基地司令は言葉を続けた。
「そうだ。ボルス大尉、残念だが今日限りでシルバーナイツは解散。君の使っていたナイツも解体される」
「そんな身勝手が――」
「これは命令だ! 既に決まったことなのだ!」
 司令の言葉にボルスはただ黙るしかなかった。苦虫を噛み潰したような顔を一瞬だけするとすぐさま敬礼をした。
「了解しました」
 ボルスは踵を返しそのまま司令室を出て行った。
 廊下を足早に歩いていく。よっぽど腹を据えかねているのか鼻息は荒く、視線も真っ直ぐ見据えているようだった。
 突然来た解雇通知、部隊の解散、機体の解体。ありとあらゆることが突然すぎる。
 これがアンギュロスの力だとでもいうのか!?
 だとするなら大統領ですら、この力に太刀打ちが出来ないということだ。そうなれば当然……。
「隊長、どうでした?」
「どうもこうもない、解雇を通知された」
「解雇!?」
 アルとレイはお互いの顔を見合わせた。
「わ、私達は異動で済んだのに隊長だけ解雇とは……一体どういうことなのでしょうか?」
「司令に問い合わせてみたが決定事項の一点張りだ。少なくとも私個人という存在を抹消したいのだろう」
 椅子に深々と座ると机に顔を付してため息を付いた。
「そんな、いくらなんでも……」
 やりすぎではないか、とレイは言いたいのだろう。だが、ボルスの考えは違った。むしろ不敵な笑みを浮かべている。
「レイ、お前の気持ちは分かる。だが私はようやく対峙したのだ。バイラムを持つ組織とな」
 既に解雇された。という事実をボルスは黙認しつつ、次なる手段を考え始めている。
 そんな彼を見て、心配そうに目を伏せながら
「……それで隊長はどこへ?」
「それはまだ決めていない。だが……やるべきことは沢山あるはずだ。もっともその前に消されるかもしれんがな」
「そんなことは……」
「無いとは言い切れんだろ? ケントもその師匠であるライオネル教授も死んだのだ。ならば次は私の番かもしれん」
 ここ最近、バイラムに関係するものが襲われ始めている。ライオネルとケントの二人だけだが何かが胎動を
始めているのはボルスは感じている。悪意とも言うべきものだろうか? そう考えると気が引き締まり、感性
が高ぶってきた。
「……それにしても不可解ですね」
「ああ、アンギュロスという組織がかなりの力を――」
「いえ、彼らは一体どこで訓練を積んだのでしょうか?」
「どういうこと?」
「レイ、お前も見ただろう。あのセルとかいう女とバイラムの加速力を」
 レイは少し腕を組んで軽く思い出そうとする。
「ええ、あんな速度を出したら身体がバラバラになるわ。普通ならもっとじっくり馴らしてからするのが普通なのに」
 あまりにもあっという間だったので覚えている部分は少ないものの彼女が乗るバイラムはとても人間が乗る
ものとはとても思えなかった。そこであるは一つの推論を立てたようだ。
「もし仮に軍の経験者ならばどこかに各軍の癖が見受けられるはずなのに彼女にはそれがありませんでした」
「じゃあ、PMCみたいな所とか?」
「いや、PMCなら尚更だ。社員である以上、その訓練にあった身のこなしをするはずだ」
 例えどの軍に属していても軍の訓練時、付けられる癖、というものがある。
 これは各軍の個性の一つであり、何を重視しているかで現れる。
 例えば、ステイツは機動兵器を重点的に訓練をする。その際、計器、各部のカメラやミラー、辺りの様子な
ど視線がやたらと動く。その為、ステイツの兵士は観察眼がやたらと養われるのだ。
 PMCも例外ではない。銃を持っただけで傭兵になるものは一人もいない、それ相応の訓練を課せられる。
その際、どこの軍に属していたかは教官によってまちまちだが必ずといっていいほど特色が現れる。
 だが、自分達が対峙したセルにはそれが何一つ無いのだ。
「では、隊長はいかなお考えで?」
「まだ彼女については良く分からんが少なくとも訓練を受けたというよりもともとの身体能力が高いのではないだろうか?」
「アレだけの事を才能のみで?」
「そうだ、だが……」
 そんな女がいるなら今頃オリンピックの選手をしていたり、軍やマフィアにスカウトされているんじゃないか?
 アルの疑問に対し、ボルスは首を横に振る、今は彼女の謎よりもバイラムへと戦いのほうが重用だ。
 アトランティスへ来い。そう彼女は私を挑発したのだ、ならば受けなくてはいかん。
「とにかく、この話を解決するには彼女に会うしかないな。アル、レイ。最後まで私に付き合ってくれた礼を
言わせてくれ。ありがとう」
 ボルスが敬礼をすると二人もそれに合わせるかのように敬礼を返した。
「隊長……」
「こ、こちらこそ!」

 所変わって中東アジア、サウジアラビア。
 二つのカップが二人の目の前に置かれている。まだ時間が経ってないのか湯気が立ち上っている。
 腕を組んで気楽そうな顔をしているアジャムに対し、カミーラは少し悲痛な表情をしていた。
 先ほど乗っていたバイラムⅡは地下の格納庫へと収容し、現在は整備モードで稼動をしている。
 少しの沈黙の後、カミーラが話を切り出した。
「さて、何から話せばいいのでしょうか?」
「まず、お前は自分が異星人だって言ったたよな? 具体的にはどこ違うんだ?」
「既に知ってるではありませんか」
 アジャムの言葉に彼女は顔を少し赤くしながら顔を背けた。そんな彼女を見てアジャムはにやけた笑みを浮かべ始めた。
「やっぱりじっくりみないと分からないというかなんと言うか……」
「……そうですね」
 若干茶化し気味に言うが彼女は意を決して、自分が来ているものを脱いでいく。
 その様子を見たアジャムもまた、同じように服を脱ぎ始めた。
「何故、貴方も?」
「いや、こういうのは一方に恥をかかせちゃいかんと思ってな」
「それが地球の礼儀みたいなものなのですか?」
「いや、俺の流儀だ」
 そんなアジャムに軽くため息をつきながら服を脱いでいく。
 そして全てを脱ぎ終えると彼女はアジャムの方に向き直った。
「……わかりますか?」
「へえ、綺麗だな」
 カミーラの体は美しかった。身体にはしみやニキビと言ったものが何一つ無く、長い髪が光を浴びて艶やか
に輝いていた。バストも大きすぎず小さすぎず綺麗な形をしており、流暢な曲線を描いている。
「私はそんな事を聞いているわけではありません」
「分かってるって……なるほどねぇ……」
 カミーラの身体をそっと触れる。柔らかく滑らかな感直が手に広がった。
 そしてゆっくりと肩を、背中を、腰を、足を。上から順に沿って撫でていく。
「どうですか?」
「なるほど、骨格が若干男寄りだな」
 以外にも彼女の骨格は男性のように太かった。構成している骨自体に若干の差異があるものの、もし肉付け
をするなら男性の骨格になるだろう。肋骨に関して言えば女性が括れを作る部分は少し長くなるが土台がしっ
かりしている為、思ったほど長くは無かった。
「筋肉も俺達とはかなり違うんだろ?」
「はい、トレーニングはしてないのでかなり落ちていると思いますが少なくともそこの冷蔵庫ぐらいなら――」
 カミーラが指した先にあるもの、かなり大型の業務用冷蔵庫であった。筋肉は明らかに向こう側が上のようだ。
 御岳はこちらの方が上だというのに明らかに大きな差があるんだな。
「へぇ……じゃあ、こっちも使えんのか?」
 アジャムがカミーラの下腹部へと視線を持っていく。場所は――。
「試してないのでなんとも言えませんね」
 今度はいたって冷静に呟いた。子供産むところはあるもののそんなに使わないようだ。
 アジャムはカミーラの情報を一通り纏めてみる。
 姿かたちに小さな差異はあれど、根本的な部分は普通の女とかわらねぇんだな。
 二人は服を着なおし始める。お互い無言のまま服を着る姿はどことなく滑稽に見えてしまう。
 そして服を着終えると再び向かい合って座った。
「なるほどねぇ、で? 何で地球に来たんだ?」
「移住可能な惑星を発見した為です。元々私達は流浪の民、この宇宙では居住可能な惑星は思ったほど少ないのです」
 カップを手に取るとお茶を口に含んだ。アジャムもそれにつられてカップを手に取る。
「移住可能……俺らの星か?」
「いえ、貴方たちが火星と呼ぶ赤い惑星の事です」
「火星に移住ねぇ、あいつら全員が黙ってるとは思えないんだがなぁ……」
 あいつら、とは三強だろう。火星開発の主権は彼らによって進められており、土地利権を巡って、政治の議
論になるほどである。無論、それ以外の国も一部であるが所有権を主張していた。その為、火星利権と呼ばれ
るほど火星の扱いは国連で慎重に議論され、現在では開発が終わるまで誰も手出しをしない、という形になっていた。
「はい、ごく普通に政治交渉が始まりました。当たり前かもしれませんが当初、お互いの言葉が理解不能でした。
意思疎通を図るために最初は文字ではなく身体を使ったジェスチャーだったり、絵画を使ったり。まあ、端から
見ればとても交渉とは思えない光景でしたよ」
「へえぇ、面白そうだな……」
 いかにもふんぞり返った奴らが身振り手振りを使ったり、絵を使ってを使って意思疎通を図る姿はなんと
なく愉快に感じる。どの言葉も全く通じない以上、仕方がないことだが滑稽さは拭えない。
 だが引っかかる所があった。それは――。
「うん、待てよ? 何でお前がそんな事知ってるんだ?」
「私は政府の要員でした、条約の締結、交渉などが主な仕事でした。」
「外交官って訳か」
「ええ、そして交渉はあらかた纏まりました。火星の移住は許可。ただし……こちらの要望をかなえるのなら
ば。という形で終わりました」
「要望?」
「軍事基地の破壊、テロリストの殲滅。簡単に言えば軍事行動ですね。技術贈与もその中に含まれていました。
一方で内政干渉に当たるのでは、と議論を呼びました。そこで両者の意志を汲み取る組織が生まれました」
「それがアンギュロスって訳か?」
「はい、そして……生贄が必要になりました」

「生贄ってどうことなんですか!?」
 省のビルの中で奈央は叫んだ。ヨウシンは温厚そうな笑みを浮かべながら平然と言い放った。
「簡単な話ですよ。彼らはバイラムに改造されたのです。理由は二つ、異星人の集団が世間一般にばれること
への阻止。もう一つは地球風のデザインにすることで情報を撹乱ですね」
「そ、そんな……」
 奈央は目に涙を浮かべ、肩を落とし俯いていた。
 二人ともここに車でかなり時間がかかった。ついたとたんヨウシンの元へ案内され、突然この言葉を言われたのだ。
 森宮一明は異星人への生贄だった、と。
「司令、最初からお話をしてください」
「そうですね。まず、今の政府が抱える借金はおいくらかご存知で?」
「借金ですか? 十兆は軽く超えるって言ってますが……」
「はい、そうです。その内の六割が軍事費なのです」
 ヨウシンの言葉に二人とも顔を見合わせた。
「もちろん軍縮、という物も考えられました。ですが軍縮を行った矢先、起こった出来事はご存知ですか?」
「え? 何か起こったんですか?」
「私が荒鷹と呼ばれるようになった事件、通称天安門立て篭もり事件です」
 ヨウシンの言葉にリーシェンは完全に納得したかのように大きく頷いた。
「なるほど、下手に軍縮を行えば一部の軍人がテロリズムにはしり、かといってこのままでは借金は膨らむ。
そこに異星人、そしてバイラムというわけですか」
「そうです、軍事基地自体を破壊させればお金を使わなくて済みますし残った基地が機能不全に陥ればテロリ
ストが占拠することはありません。同じように退役軍人の年金の支払いや軍需産業の叩き付けも無くなります。
なぜなら、目の前にバイラムという脅威がいるんですよ、守って貰わなくては困るではないですか」
「戦死者への年金はどうするおつもりで?」
「これも簡単ですね、軍資金が足りないのでお支払いは待ってください。というわけです。その殆どがバイラ
ムの費用となって消えましたけどね」
「どうして……一明さんだったんですか?」
 奈央が振り絞るかのようにいうとヨウシンのほうが一部も情を見せずに平然と言い放った。
「この計画を成功させるには高い能力を持つ人間が必要でした。軍人では軍縮を掲げれば反対されます、かと
いってアスリートに手を出せば国民の反感を買います。死んだとしても確認をするすべを持たない人間、自殺
だと怪しまれますが事故で殺せる人間。そう、宇宙飛行士こそもっとも優れた人種だったんです」
「……じゃあ一明さんは何の為に……人類の夢だって信じたあの人は……」
「水原……」
 顔を伏せて泣く奈央にリーシェンがそっと肩に手を置く。一方のヨウシンは顔をしかめたままだった。
「話を続けてもよろしいですか?」
「はい……」
「そして、彼らはアンギュロスの手によってバイラムに改造されました。まず小手調べとしてユニオンの軍事
施設、ビスマルクが発表される場所へ投下されたのです。まあ、当たり前かもしれませんが政府の人間がスパ
イとしているのですからね。日時も場所もあらかじめ知らされていたのでしょう。ビスマルクのお披露目をわ
ざわざ他国の人間を入れたのも理由があります。自分達が作り上げた戦闘兵器をお披露目する為、でしょうね」
「だが、もしもバイラムがビスマルクに負けてしまったらどうなさるおつもりだったのですか?」
「別にかまいませんよ、パイロットがいないんですから単なる無人兵器として片付けられます。一応自爆装置
も付いていたようですが……。使われなかったようですね、作った本人達もあれほどの性能を誇るとは思って
いなかったようで。」
 ヨウシンは深呼吸すると彼女に拳銃を手渡した。そして、席を立つと窓際へと歩いていく。夜の町を照らす
街灯が幾つも付いている。そこには無数の人々が生活をしているのだろう。
「これは?」
 手渡された拳銃をじっと見る。大きさは手の平ぐらいだが奈央にはとても重かった。
「水原さん、貴女の判断をお聞かせ願いたいと思います」
「判断?」
 首を傾げる奈央の後ろからカーテンが開く音が聞こえてきた。 
 振り向くとそこには大臣がいた。彼は手足を縛られ猿ぐつわを噛まされて床に転がされている。
「むぐぅ!むぅむ!」
「元凶の一人です。森宮一明を殺した張本人……といっても差支えがありませんね、どうしますか?」
 奈央は大臣の方へ視線を移す。恐怖でもみくちゃになった顔で奈央を見つめていた。
「どうするって……」
「正直に言いましょう、彼は私がもっとも嫌う人種です。自分が何を為したか理解をしていない最悪な人種です。
それだけではありません、甘い言葉によって人々の命を売り渡した下劣な者です」
 言葉からは明らかに敵意が混じっている。もしここで彼が殺されたとしてもヨウシンは眉を一つ動かすことなく
後処理をするだろう。
「先ほど渡した拳銃には弾が入っています。後は……分かりますね?」
 奈央はもう一度、視線を銃に移した。
 撃てるの? 撃ちたいの? にくいの? かなしいの? 
 僕の父さんは三年前に死にました。
 頭の中に祐一の寂しそうな顔が浮ぶ。
 いいか、奈央ちゃん――。
 星の良さを教えてくれた一明の顔が思い浮かぶ。
 無意識に大臣へと銃口を向けると彼は軽くうめいた。
「殺人罪を御気にされているのでしたら私に罪を被せてくださって結構です」
「私は……」
 手の平に汗が滲む。
「水原さん、ご決断を」
「っ!」
 奈央がトリガーを引くと乾いた音が室内に響いた。撃った銃弾は床に焦げ後を付けていた。発砲音を聞いた
大臣のズボンが水に濡れている。
 そしてそのまま力なく床にへたり込んだ。銃を撃つのは初めてだったのか手の平が震えている。
「……すみません、司令……私は……」
「結構です、私個人としても血にまみれずに澄んだ事を心から安堵しています。それに、貴女がこんな人間の
血を浴びるなんて私にはとても耐えられませんでした。良く決断をしてくれました。」
 そう言ってヨウシンは深々と頭を下げた。これは彼なりの礼とお詫びなのだろう。
「そ、そんなことは……」
「ソウ指令!」
 突然扉が開いた。扉の先には通信兵が下り、彼の顔は完全に蒼ざめており、唇が震えていた。
「なにか?」
「重慶基地からの通信です! 今から数分前にバイラムが重慶基地を強襲!」
 ヨウシンは思いきり目を見開いたがすかさす冷静な声で状況を聞いてきた。
「被害は?」
「基地に残っていたコウシュン中佐やナタリア大尉のおかげで死者はでていませんが……基地内の兵器は殆ど
使用不可能でした……。黄龍も完全に……」
「そうですか」
 兵士の言葉にヨウシンは大きく頷いた、一方のリーシェンは戸惑いを隠せなかった。
「バ、バイラムだと!? ソウ司令、これは一体!?」
「……情報がないので何ともいえませんが……恐らく、交渉決裂。でしょうね」
「交渉?」
「ええ、しかし……ここまでやるとは思いませんでしたよ」
 そう言って胸の通信機に手を伸ばす。スイッチを入れると全部体に伝わるよう全周波数で通信を入れた。
「こちらヨウシン、省にいる人間は全て解放、後に撤退。集合場所は重慶基地。くれぐれも命を粗末にしないように」
「了解」
「さてと、二人ともさっさと逃げる準備をしましょう」
「了解。水原……」
 奈央の方に視線を向けると彼女は立ち上がった。
「脱出するんですよね、行きましょう」
「そうですね、水原さん。とりあえずは……」
 動き出す奈央を尻目にヨウシンがそっと耳打ちをしてきた。
「水原さんのフォロー。お願いしますね」
「了解」
「さて、貴方は……放置させていただきましょう。その命で尻を拭いなさい」
 ヨウシンが耳元で囁くと彼はその場に倒れた。
「全く、政治家というのは俗人にやらせるわけには行きませんね」
 軽く自傷気味に微笑むと彼は大臣に背を向けた。

 同時刻、全ての整備員が慌しく動いている。いや、基地全体がこの状況にうろたえている状態だった。
「一体何が起こっているんだ!?」
 格納庫の自動ドアが開くと近くにいる整備員に声をかける。
「バイラムが来たんです」
「バイラムだと!?」
 整備員の話ではここ、ワシントンを初め、サンフランシスコ、カナダ、メキシコなど各主要都市に出現し、破
壊行動を行っているらしい。しかも前回とは大きく違い都市部に執拗とも言えるほどの爆撃を行っており、民
間人の死者を多数出したという報告が入ってきている。
「アルとレイはもう出撃したのか?」
「すでに、しかし大尉、ナイツはもう……」
「出撃できんのか?」
「はい……」
 ボルスのパラディンは前回の戦いでかなりの深手を負った。その上に開発者であるケントがいないため、機
体を破棄するか、どうかを迫られていた。一応、ボルスは拒否をし続けていたものの修理を行える人間がいな
いため、格納庫の隅でスクラップに成り果てていた。苦い顔をしながらさらに言葉を続けた。
「では、予備のポーンで良い。あるか?」
「一応ありますけど……」
「それなら良い、すぐ発進する!」
 そう言ってボルスは一目散に駆け出した。そして素早くポーンのコックピットへ続くエレベーターに飛び乗った。
「ま、待ってください、いくらなんでも……」
 整備兵が止めるがボルスはそれを無視して思い切りペダルを踏み込み、一目散に基地の外へと飛び出していった。

 さらに所変わってポルトガル基地。
「ローマ、及びアテネにバイラムの出現を確認!」
「エジプト、コンゴ、ロンドンでもその姿を確認しました!」
 オペレータールームの中で様々な怒声が飛び交っている。
 バイラムを確認できた場所だけでも既に十を越えたのだ。ステイツでも同じように確実に都市部に被害が出ていた。
 シュペールのブリッジに顔を出すとすぐさまマールの方を向くと彼女の額には冷や汗が浮んでいる。
「まさか……あのときのバイラムが地球に来たってこと?」
「みたいだね……」
「で、どうすんの?」
「私達はこのままアトランティスに向かってって。根源を叩けば多少は怯むだろうって」
 根源、アトランティスの事なのだろう。そこに何があるのか……。
「発進、目標はアトランティス!」
 マールの指示が飛ぶとシュペールのエンジンが爆音を上げて前進する。
 ファルは頭の中でウィルスの言葉を反芻する。
 男でも女でもないいきものを知ってるかね? 
「一体なんなのよ、アンギュロスって!?」
「さぁ? でも……あそこに行けば何か分かるって事かも」
 お互いを顔を見合わせた後、ファルは格納庫へと歩いていった。

 とあるオフィスで二人の女性が話をしていた。一方は長い黒髪を無造作に伸ばしており、手入れをしていないせいか
かなりボサボサであった。切れ目と赤い唇がナニよりも印象的な美人であった。服装も彼女の性格をそのまま現したかの
ような赤いレザースーツを着ていた。
「暴走?」
「はい、本日、エグザトリアの重武装機動実験をしたところ、突如制御系等に異常が発生し、そのまま……」
 もう一人の女性は背中まである茶色の髪を一本の三つ編みにしており、いかにも野暮ったそうな仕草で彼女
を見つめていた。素っ気のない白衣の下には黒いシャツと紫のスカートを身につけており、黒ぶちのめがねに
は厚いレンズが入っており、洒落っ気のないすっぴんの顔は元々印象が薄い彼女の顔をさらに薄くさせている。
だからと言って染みやソバカスといった物が何一つなかったが。
「それで?」
「それで、とは?」
「破壊するのか? 捕獲するのか?」
「捕獲ですね、破壊するのも惜しいですし、敵の手に渡るのも危険ですので……」
 長髪の女性は軽くため息を付くとクルリと彼女に背を向けた。
「それならマリアにやらせておけ、任務失敗のペナルティーにはなる」
「了解です」
「それと……セルは?」
「アトランティスの防衛に着く、と」
「……そうか」
 女性は髪をかきあがると少し苦い顔をした。

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