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仮想戦闘記録 前編

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足底に装備した機動靴の自在車輪は地形に合わせて自在に形状を変化させる事で、如何なる悪路をも滑らかに走破出来る。他にも垂直の壁を駆け上がる、使う機会は無いだろうが天井に張り付いたままの走行も可能である。
地球上のどんな天候、環境、地形でも戦える究極の汎用性、全領域戦闘能力を更に高める機動靴は無くてはならない必須の装備であり、ある意味最強の武器とも言えた。機動靴の自在車輪は時速20kmの低速で、無音で機体を前進させている。
全身に纏っている軽装甲強化服。その外側の全高3m、基本重量500kgの重装甲強化服。正確には三式重装甲強化服ブルーショルダーカスタムという名称である。
二世代旧式の三式重装甲強化服を一世代先の四式重装甲強化服に近い性能を出せるよう改造した機体であり、名前の由来である右肩のみ濃紺の真っ青な色は海上都市姫路守備隊の標準色。
遮蔽機能を最大限に発揮している今は肉眼で姿を確認するのは不可能であり、戦闘中の現在は遮蔽を解除しても周囲の景色に合わせてカメレオンのように機体色を変化させる。
遮蔽機能によって目では見えず、音も無く、匂いすらしない。レーダー、熱、振動など考えられるありとあらゆる探知手段から逃れられるが、絶対に見つからない完璧な代物ではない。重装甲強化服は遮蔽を見破る索敵機能を併せ持っている。
それは相手も同じだ。息を殺し、気配を消し、存在しないかのように行動していても発見されてしまう事はある。敵を見つける為に、敵に見つからない為に、常に全周囲に気を配る。
思考制御とコンピュータ補助で操縦する重装甲強化服は脳に直接情報が送られる。収集した莫大な情報を計算、解析したコンピュータは思考制御機能を通して、人間の脳に負担が掛からないよう極限まで簡略化した情報を、
操縦者の思考を読み取り、周囲の状況を判断し、求めている又は必要不可欠である最適な質と量を常に流し込む。この操縦方式によって全くの素人でも神業の動作を容易くさせられる。だが「使える」と「使いこなす」では天地の差がある。
戦場で相手を倒し生き残るには地獄の如き修練と研鑽を積み重ね、神業の神業の域にまで己の腕を高めなければならない。そうでなければこの世界で十日も生き残り続けるなど不可能だった。
地平線に半分隠れたまま永遠に沈まない太陽。無限に広がる荒野の中心にある巨大都市。夕焼けで紅く照らされたゴーストタウン。大人数を短時間で大量に輸送可能な公共交通機関は全く動いておらず、
莫大な車両が行き来可能な都市全体に張り巡らされた血管、大動脈たる道路に一台の車も走っていない。規則正しく林立している巨大な建造物の群れは墓石のようであり、人の営みは無く、誰も生活していない。
その代わり、鋼鉄の鎧に身を包む血に飢えた修羅が其処彼処(そこかしこ)で蠢いていた。おかしい、異常。そんな感情は全く無い。この都市は用意された戦場であり、元々人など住んではいないのだから。
最大限に発揮した遮蔽で姿と気配を消しながら、見渡す限り何者も存在しない大都市の道路を機動靴の自在車輪によって、時速20kmの低速で進んでいく。

思考制御+コンピュータ補助操縦技術で重装甲強化服の索敵用各種センサーは自身の五感と化しており、360度全方向が見える。
大昔のロボットアニメであった操縦席から外の光景が見える全天周囲モニターなどではなく、上下左右、全ての景色が視界に映る。死角は存在せず、周囲を確認するのに頭を動かさなくていい所か目を閉じたままで構わない。
脳に直接情報を流せるので「見る」という間接的行為自体が必要無いのだ。人間は広い範囲が見えていても、実際には限られた視界の極一部しか理解出来ない。集中すればする程精度は上がるが視野は狭くなる。
本棚に収まっている全ての本をただ見るだけであれば誰でも一瞬で可能だが、全ての本の題名を理解するとなると相当時間が掛かる。死角の無い全方向の視界を扱うには人間の能力は圧倒的に不足しており、普通ならば宝の持ち腐れにしかならない。
しかし、第二の脳として機能するコンピュータが計算、解析、脳に直接情報を流す事で欠点は完全に解消される。初めて重装甲強化服を着用して全方位視界を体験した者の多くが、自分が神になったような感覚になる、と語る。
神になったような感覚という表現は大袈裟過ぎるとしても、それ程までに便利だという事だ。頭上で弾けた100mm多目的ミサイルから撒き散らされる振動熱榴散弾の千を超える破片数、一つ一つを全て一瞬で理解出来る程度には。
腰の後ろに二つ装備している展開式軽装甲盾「折り畳み傘」の一つが、その名の通りに柄が一気に伸びて膜状の軽装甲を傘状に展開。降り注ぐ赤い地獄の豪雨を完全に防ぐ。
生身の人間が受けたのならともかく、「折り畳み傘」無しでまともに浴びても耐振動熱防御と防御用振動熱発生機能を備えた重装甲強化服に低威力の振動熱榴散弾は通じない。こっちを狙った相手は損傷を与える為に使用したのではない。
最も初歩の基本戦術。遮蔽で隠れた敵がいるであろう位置へ、広範囲に撒き散らせる振動熱榴散弾を使って発見する索敵方法。損傷は無かったが位置を完全に掴まれた。
「折り畳み傘」を展開する前、頭上で100mm多目的ミサイルが弾けたと同時に既に全力の回避行動を取っていた。機動靴の自在車輪が最大出力で唸りを上げ、脚部後部の装甲が開き内蔵している移動補助装置、圧縮噴射推進機二基が
圧縮した空気を進行方向と逆に噴出、絶大な推力で機体を急加速させる。
両腕の伸縮可変鋼線射出機二基から伸縮可変鋼線を二本射出。近くのビルに射ち込み、フルパワーで鋼線の収納と短縮を行う。本来なら150kmまでしか出せない速度は、凄まじい牽引力が加わり限定的だが200kmを超えていた。
先程までいた場所を敵の25mm機関砲弾が空を裂く。こちらの回避を予測して未来位置に撃って来たが、間接防御兵器を一切使わず全弾回避しビルとビルの間、敵の攻撃の死角へ退避した。
「相手は四式だな」
敵は遮蔽で巧みに身を隠していたので正確には分からないが、これまで積み重ねた豊富な戦闘経験から判断した。今はもう移動しているだろうが、攻撃してきた事で敵のおおよその位置は掴めた。無論、向こうもこちらの思考は理解しているだろう。
さて、どう戦うべきか。一旦、現在の武装を確認する。

三式重装甲強化服ブルーショルダーカスタム

全高3.15m(機動靴により+15cm) 全備重量約3トン

武装及び装備

頭部側面 短針弾発射機×1 長針弾発射機×1
右手 25mm重機関砲×1
左手 150cm振動熱斬刀×1
右腕 小型低出力光熱衝撃砲×1 伸縮可変鋼線射出機×1
左腕 装着式軽装甲盾×1 伸縮可変鋼線射出機×1
右肩 9連装100mm多目的ミサイル発射機×1
左肩 100連装10mm小型高機動迎撃ミサイル発射機×1
右脇 連装100mm超振動極熱ミサイル発射筒×1
左脇 5連装6,25mm機関銃×1
腰後部 展開式軽装甲盾「折り畳み傘」×2
右腰 12.5mm重拳銃×1
大腿部 60cm振動熱斬刀×2
脚部側面 3連装50mm弾発射機×2
脚部後部内蔵 圧縮噴射推進機×2
足底 機動靴×2

内蔵の圧縮噴射推進機は論外として、伸縮可変鋼線射出機と機動靴以外の全てが、十日前に現実と変わらない仮想空間、訓練用の都市に来て倒した敵から奪った物だ。最初に持ち込んだ物は全て敵に破壊されてしまった。
難易度の低い仮想訓練ならゲームのように弾薬が無限だったり、一定時間経てば回復したりするが、武器弾薬の補給は敵から奪う以外に方法は無い。それがここの掟だ。如何に武器の損傷を防ぎ弾薬の消費を最小限にし敵を倒すか。
形振り構わず全ての武装を使用するなら敵の重歩兵を容易とはいかないまでも、高い確率で勝利出来るだろう。だが、そうするつもりは全く無かった。弾薬の消費も理由の一つだが、俺には「奴」との戦いが控えている。
十日前から最終日の今日まで、脱落者に「奴」の名前は無かった。この都市の何処かに必ずいる。五式重装甲強化服を纏った「奴」が。これまで999回挑んで一度も勝利した事が無い最強の重歩兵が。
「悪いが、早々に決着を着けさせてもらう」
遮蔽で隠れながら敵を攻撃するのが定石だが、敢えて無視する。隠れていたビルから元の道路へ再び姿を出す。海上都市姫路守備隊重歩兵小隊隊長、清水静の戦いを見せよう。

予告

鉄の機兵が走る、跳ぶ、吼える。機銃が唸りミサイルが弾ける。
休む間も無い戦場で死肉を食らうが如く敵の全てを蹂躙し、遂に「奴」は姿を現す。
敵の血潮で濡れた肩、地獄の使者と人の言う。歴戦の猛者でも敵わぬ無敵無敗、最強の重歩兵。
赤い肩をした鋼鉄の修羅が静を待ち構えていた。

次回「仮想戦闘記録 中編」

次も静と地獄に付き合って貰う。

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