ここ最近、長谷堂宗也の朝は非常に遅い。元から遅いのだが、雇い主の呉服港管理者フェルニアから待機命令
を出されて以来、二度寝、三度寝と惰眠を貪るのが当たり前になり、起床時間が輪を掛けて遅くなっている。
暇潰しにヒーローごっこでもやるかと思い立ったこともあったが、ここ数日は裏も表も呉服港は平和その物。
仕事も無ければ趣味も無いが、こうして惰眠を貪っている間にも報酬が発生しているのだから楽な人生である。
を出されて以来、二度寝、三度寝と惰眠を貪るのが当たり前になり、起床時間が輪を掛けて遅くなっている。
暇潰しにヒーローごっこでもやるかと思い立ったこともあったが、ここ数日は裏も表も呉服港は平和その物。
仕事も無ければ趣味も無いが、こうして惰眠を貪っている間にも報酬が発生しているのだから楽な人生である。
「あ、宗也さんだ」
「おや、リリスさんじゃないですか。奇遇ですね」
宗也がいつもの様に喫茶カナンに行こうか、それとも偶には違う所に行ってみようかと、優柔不断な足取りで
閑散とした呉服通りを歩いていると、薄桃色のワンピースを着た生天目リリスに声をかけられる。
いつも羽織っているレース生地のエプロンドレスでは無いので、宗也の目には何処と無く新鮮に映った。
閑散とした呉服通りを歩いていると、薄桃色のワンピースを着た生天目リリスに声をかけられる。
いつも羽織っているレース生地のエプロンドレスでは無いので、宗也の目には何処と無く新鮮に映った。
「確かに奇遇なんだけど、こんな時間からぶらぶらして……仕事は?」
「今はぶらぶらするのが仕事なんですよ」
「どんな仕事なんだか……」
「こんな仕事ですねぇ」
「ああ言えば、こう言う……その怠け癖を直すのに、ウチでバイトする?」
リリスは責めるような目付きをしていたが、何を言っても暖簾に腕押し。飄々とした態度で都合の悪いことは
全て笑顔で黙殺されるだけ。『仕事でも与えてやれば少しはマシになるだろうか?』と、まるでニートの子を
持つおかんの様な発想で仕事を提案した。
全て笑顔で黙殺されるだけ。『仕事でも与えてやれば少しはマシになるだろうか?』と、まるでニートの子を
持つおかんの様な発想で仕事を提案した。
「いやー、今は結構大きな山を抱えているので、二重契約はちょっとー……ねぇ?」
想像した通りの答えが返って来たせいか、リリスは責める様な表情から一変して、呆れ顔を浮かべる。
一応、宗也の名誉の為に補足するが、二重契約を禁じたのは他でも無い依頼主のフェルニアだ。
今、呉服港を騒がせている事件の根源を断つ為にもフェルニアにとって、宗谷は如何なる状況下に於いても、
自由自在に動かせる貴重な戦力だ。肝心な時に使えないのでは話にならぬと、二重契約を禁じたのであった。
だから、こうしている間にも報酬が加算されているのだ。
一応、宗也の名誉の為に補足するが、二重契約を禁じたのは他でも無い依頼主のフェルニアだ。
今、呉服港を騒がせている事件の根源を断つ為にもフェルニアにとって、宗谷は如何なる状況下に於いても、
自由自在に動かせる貴重な戦力だ。肝心な時に使えないのでは話にならぬと、二重契約を禁じたのであった。
だから、こうしている間にも報酬が加算されているのだ。
「その割には随分とゆっくりお休みだったみたいだけど?」
「おや?」
「寝癖」
リリスは宗也の肩に手を乗せ、背伸びをして、側頭部に突き刺さった矢の様な寝癖を掴む。
どんな寝方をしたら、こんな寝癖になるのか定かでは無いが、頭の緩さに反して毛髪の方は随分と頑固らしく、
リリスは悪戦苦闘しながら宗也の寝癖を直す。
どんな寝方をしたら、こんな寝癖になるのか定かでは無いが、頭の緩さに反して毛髪の方は随分と頑固らしく、
リリスは悪戦苦闘しながら宗也の寝癖を直す。
「あれまぁ……」
「眠気覚ましにちょっと付き合ってよ」
「あー、お付き合いは結婚を前提に考えているので、すぐに決断するのはちょっと……」
「はいはい。良いから来る」
またいつもの様に煙に巻こうとするが、そんなの知った事かとリリスは宗也の手首を掴んで足早に歩き出す。
宗也の言う事に一々耳を貸したり遠慮をしていては話が進まない。短い付き合いながら、その程度には宗也を
理解し扱えるようになっていた。
宗也の言う事に一々耳を貸したり遠慮をしていては話が進まない。短い付き合いながら、その程度には宗也を
理解し扱えるようになっていた。
「分かりました。行きます。行きますから、そんなに手を引っ張らないで下さいってか、取れちゃいますよ。
すっぽ抜けますよ~? リリスさん聞いてはります? 全っ然、聞いてませんね? もしもし? もしも~し?」
すっぽ抜けますよ~? リリスさん聞いてはります? 全っ然、聞いてませんね? もしもし? もしも~し?」
それから暫く、無言のリリスに引き摺られるようにして呉服通りを通り抜け、宗也の手首からリリスの手が離
れたのは共同倉庫の西区画に到着してからだった。
れたのは共同倉庫の西区画に到着してからだった。
「って、リリスさんと出会った思い出の場所ですやん」
「ほら、これ持つ」
「あー、米ですか……って、重ッ!?」
二人が出会ってから、精々十日。タイラントハウンドによってもたらされた被害は、痕跡の一つさえ残さずに
修復されており、まるで初めから何もされていないような様相を呈していた。偶然によって生まれた縁に懐か
しいモノを感じかけていたが、宗也は余韻を感じる間も無く、リリスから麻袋を投げ渡される。
修復されており、まるで初めから何もされていないような様相を呈していた。偶然によって生まれた縁に懐か
しいモノを感じかけていたが、宗也は余韻を感じる間も無く、リリスから麻袋を投げ渡される。
「落とさないでね。まだ乗せるよ」
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!?」
宗也が慌てて麻袋を両腕で抱え直している間にも倉庫の中から米の入った麻袋が飛んでくる。
「あんな大きな火吹き狼を余裕綽々で引き摺っていった癖にひ弱ぶらない」
「いや、アレはカラクリがあったってだけで特別、力持ちってわけじゃ……ヒギィッ!?」
宗也がタイラントハウンドを余裕綽々で引き摺っていくことが出来たのも、ストレンジギアの能力強化による
影響に過ぎず、素の宗也の単純な腕力は人並み以上ではあるが、荒波に鍛えられた海の漢達には及ばない。
つまる所、普通の範疇に納まる程度のレベルでしかないのだが、リリスがストレンジャーの事情を知る筈も無い。
だから、力仕事を厭った宗也が例によってふざけているだけにしか見えておらず、情け容赦なく麻袋を投げる。
影響に過ぎず、素の宗也の単純な腕力は人並み以上ではあるが、荒波に鍛えられた海の漢達には及ばない。
つまる所、普通の範疇に納まる程度のレベルでしかないのだが、リリスがストレンジャーの事情を知る筈も無い。
だから、力仕事を厭った宗也が例によってふざけているだけにしか見えておらず、情け容赦なく麻袋を投げる。
「カラクリでもトリックでも良いから、落とさない内に使う」
「だ、大体、お客さんいないんだし、こんな量……らめぇっ!?」
そして、リリスに向かって客がいないは禁句だ。律儀にも麻袋を落とすまいと必死に抱える宗也の両腕に血管
が浮かび上がり、生まれたての小鹿の様に震えているが、リリスはいつもの涼しい表情で、麻袋を投げ付ける。
が浮かび上がり、生まれたての小鹿の様に震えているが、リリスはいつもの涼しい表情で、麻袋を投げ付ける。
「これくらいの量だったら一日、二日で無くなるって。宗也さんがいない時は忙しいんだから」
「とか言いながら、乗せないで下さい。指が千切れてしまいます。いや、割とマジで!!」
「なんか、ちょっと楽しくなってきたかも」
宗也の顔が隠れる程麻袋が積み上げられたにも関わらず、リリスは容赦なく麻袋を投げる。
リリスにしては珍しく実に楽しげな声色をしているが、両者共に世間様には見せられない顔になっている。
リリスにしては珍しく実に楽しげな声色をしているが、両者共に世間様には見せられない顔になっている。
「変な性癖に目覚めなくて良いですから」
「頑張れ男の子」
「男の子……って歳でも無いんですがねぇ」
「男は何歳になっても子供だって言ってなかったっけ?」
「過去や他人の言動に縛られてはいけません……って何故!?」
そして、とどめと言わんばかりに麻袋を押し付ける。最早、いつもの飄々とした宗也の姿は何処にも無い。
「いや、何と無く。ほら戻るよ」
「うへぇ~い……っと、リリスさん。すいませんが、ちょっと失礼しますよ」
宗也はいつもの表情で大量の麻袋を片腕で抱え直し、先を行こうとするリリスの腰に手を回して抱き寄せる。
「え? ちょ、ちょっと!?」
「すいませんねぇ。休憩時間が終わりそうと言うか終わったみたいなので、ちょっと飛ばしますね」
そう言って、狼狽するリリスを余所に宗也は苦笑を浮かべて、地を蹴る。
身体の中が浮かび上がるような浮遊感を感じたかと思うと気が付けば、リリスの視界には青い空と広い海。
そして、眼下には呉服港の町並みが広がっていた。
身体の中が浮かび上がるような浮遊感を感じたかと思うと気が付けば、リリスの視界には青い空と広い海。
そして、眼下には呉服港の町並みが広がっていた。
「飛ばす……って言うか、飛んでる!? 飛んでるから!!」
「はい~、飛んじゃってますねぇ。そんで着地しますねぇ。舌を噛まない様にご注意を」
クッションの上に降り立ったかのような小さな衝撃と共に視界は入れ替わり、喫茶カナンの看板が真正面に。
宗也は目を白黒させているリリスから身を離し、店の中に麻袋を運び込んで、踵を返して後ろ手に手を振る。
宗也は目を白黒させているリリスから身を離し、店の中に麻袋を運び込んで、踵を返して後ろ手に手を振る。
「それじゃあ、埋め合わせはまたの機会に」
「あ、ちょっと宗也さん!? って居ないし……ストレンジャーって、あんなのばっかなのかな?」
リリスが引き止めようと反射的に振り返るが、見通しの良い大通りから宗也の姿は蜃気楼の様に消えていた。
考えようによっては不気味ではあるが、宗也の人となりが影響して気味の悪さは感じず、リリスの宗也に対する
『変な人』という評価が精々『とても変な人』に変わったくらいだ。
考えようによっては不気味ではあるが、宗也の人となりが影響して気味の悪さは感じず、リリスの宗也に対する
『変な人』という評価が精々『とても変な人』に変わったくらいだ。
名誉か不名誉か『とても変な人』に評価がランクアップした長谷堂宗也はフェルニアの居城に赴いていた。
ストレンジギア同士の通信機能で『速やかに参上しろ』との呼び出しを受けていたのであった。
ストレンジギア同士の通信機能で『速やかに参上しろ』との呼び出しを受けていたのであった。
「逢引の最中に済まんな」
「いえ、地元住人との交流と言う名の情報収集ですので、お気になさらず。
民間人は管理者の市政に不満も無く日々を平和に過ごしている様子ですねぇ」
民間人は管理者の市政に不満も無く日々を平和に過ごしている様子ですねぇ」
「ま、良かろう。これよりバルヴィン家に向かう。同行しろ」
「どうやら往生際の悪い方のようですねぇ」
フェルニアの腰には管理者用の儀礼剣では無く、刃幅が広く厚みのあるショートソードがぶら下がっている。
それは自らの手で罰する為か、宗也一人では対応出来ない可能性があるからか、それとも単純な示威行為か。
どちらにせよ、フェルニアに武装をさせた時点で宗也はバルヴィン公爵を往生際の悪い人間だと評した。
それは自らの手で罰する為か、宗也一人では対応出来ない可能性があるからか、それとも単純な示威行為か。
どちらにせよ、フェルニアに武装をさせた時点で宗也はバルヴィン公爵を往生際の悪い人間だと評した。
バルヴィン公爵の邸宅は呉服港全域を一望出来る丘の上にあり、周囲は堅固な外壁が張り巡らされている。
煌びやかな豪邸は要塞としての機能も有しており、何も知らぬ者が見れば、まるでバルヴィン公爵家の邸宅が
管理者の居城と勘違いをする程の体を為していた。
煌びやかな豪邸は要塞としての機能も有しており、何も知らぬ者が見れば、まるでバルヴィン公爵家の邸宅が
管理者の居城と勘違いをする程の体を為していた。
フェルニアは扉を押し開け、邸宅の中へと進む。挨拶もノックも無し。いくら管理者とは言え、押し入りの様
な振る舞いに使用人達が戸惑っているが、フェルニアは気にした様子も無く、視線のみで宗也に入るよう促す。
な振る舞いに使用人達が戸惑っているが、フェルニアは気にした様子も無く、視線のみで宗也に入るよう促す。
「ここまでフリーダムで良いんですかねぇ……お邪魔しますよー」
成人男性一人がすっぽりと納まる程度の大きさの樽を抱えた宗也が踏み入れるなり、使用人達は肉の腐った様
な強烈な悪臭に顔を顰め、或いは咽、えずき出す。更には樽の底から染み出し、滴り落ちる赤黒い血液に気付
いたメイドが悲鳴を上げ、屋敷の中はいよいよ混沌とし出して来る。
な強烈な悪臭に顔を顰め、或いは咽、えずき出す。更には樽の底から染み出し、滴り落ちる赤黒い血液に気付
いたメイドが悲鳴を上げ、屋敷の中はいよいよ混沌とし出して来る。
「フェルニア様、一体どうなされたのですか? この騒動は一体……」
騒ぎに気付いたバルヴィン公爵と思わしき初老の男が、慌しい様子でエントランスホールに現れた。
「突然にすまんな。此処最近、呉服港を騒がせているコアクリスタルの暴走事故についてだ」
「えぇ……色々と騒がせている輩がいるようですが、この騒ぎは一体……」
「宗也」
「はい。この方、クレイクさんで宜しいですか?」
宗也は戸惑うバルヴィン公爵の眼前に抱えた樽を置き、蓋を外す。元より強烈だった悪臭が一際強くなる。
口元を押さえて蹲る者、絨毯に吐瀉物をぶちまける者、宗也とフェルニアだけが涼しい顔をしているのが尚更
この二人の異様さを際立たせていた。
口元を押さえて蹲る者、絨毯に吐瀉物をぶちまける者、宗也とフェルニアだけが涼しい顔をしているのが尚更
この二人の異様さを際立たせていた。
流石のバルヴィン公爵も口元を押さえ、反射的に顔を背けるが、今更になって宗也の声が耳に入ったのか、凍
り付いたかの様に身を硬直させ、さび付いたブリキの人形の様に震えながら、背けた顔を樽に向ける。
り付いたかの様に身を硬直させ、さび付いたブリキの人形の様に震えながら、背けた顔を樽に向ける。
「改めて、お尋ねします。この方はクレイクさんですか?」
バルヴィン公爵は弾かれた様に樽の淵に両手をかけ、蛇の様に目をぎょろ付かせて中身を覗き込んだ。
人間の缶詰とでも言うべきだろうか。上半身と下半身は引き千切られた上体で無理矢理詰め込まれ、損壊した
右腕はインプラント化手術の際に取り付けられた生体パーツと共に、顔の横に添えるように置いてあった。
まるで物の様な扱いにバルヴィン公爵の顔が憤怒の赤に染まる。
人間の缶詰とでも言うべきだろうか。上半身と下半身は引き千切られた上体で無理矢理詰め込まれ、損壊した
右腕はインプラント化手術の際に取り付けられた生体パーツと共に、顔の横に添えるように置いてあった。
まるで物の様な扱いにバルヴィン公爵の顔が憤怒の赤に染まる。
「ク、クレイク!? 一体これはどういう事なのだ!?」
バルヴィン公爵は声を荒げ、宗也を押し退けフェルニアに掴みかかるが、フェルニアの表情は冷めたものだ。
宗也がバルヴィン公爵を引き剥がそうと動くが、フェルニアは視線だけで宗也の動きを制する。
仕方の無い人だと宗也は苦笑いを浮かべて肩を竦める。
宗也がバルヴィン公爵を引き剥がそうと動くが、フェルニアは視線だけで宗也の動きを制する。
仕方の無い人だと宗也は苦笑いを浮かべて肩を竦める。
「それは此方の台詞だ。嫡出子を跡継ぎにするか、コアクリスタルに適合出来る庶長子を跡継ぎにするかで、
お家騒動を起こすのは勝手だが、呉服港を巻き込むな。ましてやこの私を相手に隠し通せるとでも思うなよ。
この騒動も、この出来損ないが死んだのも、子供の手綱の一つもまともに握れなかった貴様の手落ちだ」
お家騒動を起こすのは勝手だが、呉服港を巻き込むな。ましてやこの私を相手に隠し通せるとでも思うなよ。
この騒動も、この出来損ないが死んだのも、子供の手綱の一つもまともに握れなかった貴様の手落ちだ」
「下らん……? バルヴィン家の苦悩を下らんと言ったか!?」
「寧ろ、害悪とも言える。マスクアートに於いて、貴族など形骸化した骨董品に過ぎん。私からすれば貴様が
見下す町民の命の方が上だ。口煩く喚こうと景色でいるだけならば、存在する事を容認してやったものを……
民と港に害を為すというのならば、今この場で家を潰し、地を這い、首を切り、呉服港の全ての者に詫びろ」
見下す町民の命の方が上だ。口煩く喚こうと景色でいるだけならば、存在する事を容認してやったものを……
民と港に害を為すというのならば、今この場で家を潰し、地を這い、首を切り、呉服港の全ての者に詫びろ」
「貴様……マスクアートの独立に関わったバルヴィン家が骨董品だと? この高貴な命が下賤の者に劣ると!?
捧げろ!? 潰せ!? 詫びろ!? この栄光を抱えるまでにどれ程の重責があったと思っている!?」
捧げろ!? 潰せ!? 詫びろ!? この栄光を抱えるまでにどれ程の重責があったと思っている!?」
「オウムが……庶長子のグルータルを嫡出子のシーナに婿入りをさせ、バルヴィン家に近いコアクリスタルの
適格者の血を入れる事が目的だったようだが、貴様のいらん発言が切欠で婚姻は破産し、争いに発展。状況を
打開する為に末弟のクレイクにインプラント化手術を受けさせ、タイラントハウンド、ガルバトスを与えるが、
満足に制御出来ず立て続けに暴走事故を引き起こした。まあ、犯罪者の動機や経緯などはどうでも良い」
適格者の血を入れる事が目的だったようだが、貴様のいらん発言が切欠で婚姻は破産し、争いに発展。状況を
打開する為に末弟のクレイクにインプラント化手術を受けさせ、タイラントハウンド、ガルバトスを与えるが、
満足に制御出来ず立て続けに暴走事故を引き起こした。まあ、犯罪者の動機や経緯などはどうでも良い」
「犯罪者だと!? 我々の苦悩をどうでも良い……ッ!?」
いい加減に鬱陶しくなってきたのか、それともバルヴィン公爵の罪状を述べている内に頭に血が上ったのか、
フェルニアは、いつまでもしがみ付いて離さないバルヴィン公爵を振り払い、体勢を崩した所を蹴り飛ばす。
フェルニアは、いつまでもしがみ付いて離さないバルヴィン公爵を振り払い、体勢を崩した所を蹴り飛ばす。
「何度も言わせるな、オウム如きが。貴様の取るにも足らん矜持が無用の騒動を引き起こし、民の財産を傷付
けただけで無く、命まで奪いかけた。貴様等如きの為にどれだけ余計な手間を取らされたと思っている?」
けただけで無く、命まで奪いかけた。貴様等如きの為にどれだけ余計な手間を取らされたと思っている?」
(宗也です。ぶっちゃけ、空気です。宗也でした)
「言わせておけば、貴様ッ!」
度々のバルヴィン公爵の怒号に公爵家の私兵達が詰め掛け、宗谷達を取り囲み、バルヴィン公爵から引き離す。
「漸く出番ですか、それにしてもどんな権謀術のやり取りがあるかと思えば唯の暴論の力押しじゃないですか」
「罪人を捕らえるのに手間などかけてはおられん」
フェルニアは鼻を鳴らして、バルヴィン公爵家の私兵達から背を向け、壁に寄りかかる。武装して来た割には
自らの手で何かをするつもりは無いらしく、腕を組んで目を瞑った。
自らの手で何かをするつもりは無いらしく、腕を組んで目を瞑った。
「いやはや、過激な上に剛毅ですねぇ。それで……誰を殺して、誰を生かしますか?」
「一度、シーナとグルータルも交えて話をしたい」
「では、バルヴィン公以外は」
「私が裁判官代わりだ。殺せ」
「殺せって……良いんですか? 民は呉服港の財産なのでしょう?」
「出来損ないの骨董品に群がる屑など人の為り損ないに過ぎん。そんなモノは民では無い」
「あらま……一応、警告はしますけど、フェルニアさんにごめんなさいする気がある人は、今すぐお屋敷から
出て行って下さいね。但し、お屋敷から出て行く人の邪魔をしたら問答無用で首を刎ねますので、ご容赦を」
出て行って下さいね。但し、お屋敷から出て行く人の邪魔をしたら問答無用で首を刎ねますので、ご容赦を」
宗也は殺戮の技と術、奥義を持つ超一流の殺戮者を自認し殺戮を是とするが、無益な殺戮を否としていた。
曰く、無事抜かずに済めば天下泰平。されど抜いたからには見敵必殺。汝、殺戮に酔い歓ぶことなかれ。
曰く、無事抜かずに済めば天下泰平。されど抜いたからには見敵必殺。汝、殺戮に酔い歓ぶことなかれ。
「はぁ……何故だか、殺気立っていますねぇ。本当に良いんですか~? 家族を人質に捕られているとか弱味を
握られているせいで無理矢理従わされているとか、借金があるから仕方無くとか、訳ありの方はいませんか~?
ほら、今なら本当に何もしませんよ? 送り狼みたいに安心した所をガブっとなんて騙し討ちはしませんよ?」
握られているせいで無理矢理従わされているとか、借金があるから仕方無くとか、訳ありの方はいませんか~?
ほら、今なら本当に何もしませんよ? 送り狼みたいに安心した所をガブっとなんて騙し討ちはしませんよ?」
フェルニアがどんなに無駄な行為だと言っても、宗也は決して最後通牒を止めることは無い。何故なら――
「無駄だ。代々、バルヴィン家を心酔する者で構成された絶対忠誠の親衛隊だ。貴様如きの言葉など耳に……」
「それを先に言って下さいよ。折角の親切心を出したのに此方が莫迦みたいじゃないですか」
――抜いたからには見敵必殺。一度始めた以上は宗也は止まらない、止められない、止まる気が無い。
屋敷に飛び上がる三つの首と三つの鮮血の噴水。宗也は溜息交じりに抜刀した刃を納刀する。
屋敷に飛び上がる三つの首と三つの鮮血の噴水。宗也は溜息交じりに抜刀した刃を納刀する。
「何をしている!? 相手は一人だぞ!? 殺せ!!」
私兵達は無言で戦力を二つに分け、一方はバルヴィン公爵を方円陣で防御し、もう一方は宗也との間合いを
計りながら、ストレンジギアを展開しようと粒子を収束させる。先程のほんの一瞬のやり取りで仲間の首が
三つ飛ばされた。それは良い。結果として宗也の実力が分かったからだ。
計りながら、ストレンジギアを展開しようと粒子を収束させる。先程のほんの一瞬のやり取りで仲間の首が
三つ飛ばされた。それは良い。結果として宗也の実力が分かったからだ。
私兵達は確かに見た。宗也が仲間に肉薄する姿を。だが、見ることが出来たのは其処までだ。肉薄した次の
瞬間、仲間の首が飛んでいた。と言うよりも、この狼藉者はいつ抜刀し、いつ首を三つも刎ね飛ばしたのか。
まずは宗也の動きを見切る。ギアの展開と共に視覚の強化を優先する。仲間も同じ事を考えているらしく、
申し合わせたかの様に動く仲間達に頼もしさを感じ、胸から生えた切っ先を見たのを最後に意識を失った。
瞬間、仲間の首が飛んでいた。と言うよりも、この狼藉者はいつ抜刀し、いつ首を三つも刎ね飛ばしたのか。
まずは宗也の動きを見切る。ギアの展開と共に視覚の強化を優先する。仲間も同じ事を考えているらしく、
申し合わせたかの様に動く仲間達に頼もしさを感じ、胸から生えた切っ先を見たのを最後に意識を失った。
「普段からギアに頼り切りの人達はこれだから……展開する暇なんて与えませんし、展開しても無駄ですよ」
真正面にいた筈の宗也に背後からの急襲を受ける。今度は抜刀どころか、どうやって背後を捉えられたのかも
分からない。しかし、恐慌状態に陥っていないのは選ばれた親衛隊としての矜持の賜物と言えた。無意味だが。
分からない。しかし、恐慌状態に陥っていないのは選ばれた親衛隊としての矜持の賜物と言えた。無意味だが。
ストレンジャーを超常の者たらしめているのは単にストレンジギアの影響によるもので、肉体その物は常人と
何ら大差は無い。ギアを展開しなければ唯の人間と大差無く、展開した所で、心臓を貫く、首を切り落とす、
頭蓋を叩き潰す、窒息、毒、燃焼、感電、氷結、人間相手と同じ殺傷方法が同じように通用する。
手段は多岐多彩、多種多様。ギアを展開する必要も、展開を阻止する必要も、相手の土俵で戦う必要も無い。
何ら大差は無い。ギアを展開しなければ唯の人間と大差無く、展開した所で、心臓を貫く、首を切り落とす、
頭蓋を叩き潰す、窒息、毒、燃焼、感電、氷結、人間相手と同じ殺傷方法が同じように通用する。
手段は多岐多彩、多種多様。ギアを展開する必要も、展開を阻止する必要も、相手の土俵で戦う必要も無い。
宗也にとっては最早、如何でも良いことだがストレンジャーでありながら、ストレンジギアを展開せず確実に
屠っていく姿にバルヴィン公爵の私兵達は底知れぬ不気味さを感じていた。
屠っていく姿にバルヴィン公爵の私兵達は底知れぬ不気味さを感じていた。
そう。底が見えないのだ。超常の戦闘能力がストレンジギアによる能力強化である事はストレンジャーならば
誰にでも分かり切っていることだ。だが、生身の状態でこれ程の戦闘能力を持つのならば、ストレンジギアを
展開したのなら、その戦闘能力は何処まで跳ね上がるのか?
誰にでも分かり切っていることだ。だが、生身の状態でこれ程の戦闘能力を持つのならば、ストレンジギアを
展開したのなら、その戦闘能力は何処まで跳ね上がるのか?
「宗也、外からだ」
「はいよっと」
手近な私兵の鼻っ面を柄尻で貫き、捻り、脳髄を引き抜き、フェルニアの側へと駆け、侵入者へ警戒を向ける。
黒い影が、窓を突き破りエントランスの真ん中に降り立つ。芝居がかった仕草で両手を広げ、ガラス片を弾く。
赤く鋭い眼光の黒髪の痩身の男は口の端を吊り上げ、ニィっと笑った。
黒い影が、窓を突き破りエントランスの真ん中に降り立つ。芝居がかった仕草で両手を広げ、ガラス片を弾く。
赤く鋭い眼光の黒髪の痩身の男は口の端を吊り上げ、ニィっと笑った。
「グルータル!? 貴様、何をしに来た!!」
「ご挨拶ですな。先代バルヴィン公。態々、事態の収拾を付けに来たというのに」
「先代だと!? 貴様、何を言っている!?」
「バルヴィン家は私が引き継ぎます。ですので、安心してお眠り下さい」
側室に生ませた子とは言え、グルータルの傲慢さは傍目から見ても間違いなく、公爵の血を受け継いでいた。
寧ろ、グルータルの若さとバルヴィン公爵の選民思想からくる過保護が影響して、公爵よりも悪化している。
寧ろ、グルータルの若さとバルヴィン公爵の選民思想からくる過保護が影響して、公爵よりも悪化している。
グルータルが展開した使役型のストレンジギアの砲門が何の脈絡も無く、公爵に向けられているのだから、
フェルニアで無くても、頭を抱えたくなるというものだ。
フェルニアで無くても、頭を抱えたくなるというものだ。
グルータルは相も変わらず芝居がかった動きで長剣を引き抜いて、指揮棒のように操るなり、ストレンジギア
の砲門が火を噴くが、火線がバルヴィン公爵家を貫くよりも早く、宗也は公爵を蹴り飛ばし、射線から外す。
の砲門が火を噴くが、火線がバルヴィン公爵家を貫くよりも早く、宗也は公爵を蹴り飛ばし、射線から外す。
「はいはい。重要参考人同士で勝手しないで下さいね」
「先代を相手に随分と無礼な真似をしてくれたような」
「怒りの沸点も低い人に暴言吐くからですよ。話が進まないじゃあないですか……っと」
公爵を護るためにやむを得ず足蹴にしたというのに、殺害を目論んだ張本人に無礼と言われる筋合いは無いと
反論したくなる気持ちを抑えながら、砲撃を避ける。話にならないのが親譲りなのは確認するまでも無い。
反論したくなる気持ちを抑えながら、砲撃を避ける。話にならないのが親譲りなのは確認するまでも無い。
「ストレンジギアを相手に生身で相対するとは不遜だな」
「取り合えず、捕まってくれませんかねぇ? 管理者様が事情聴取をお望みの様ですので」
「インプラント化しなければ、石ころ一つ満足に扱えん出来損ないに従う道理など無い。貴様も思わんか?」
「貴族の血の次は、コアクリスタルの適正ですか……次から次に自分を持ち上げる屁理屈思いつきますねぇ」
「貴様の様な無教養な者でも創世記は知っていよう? この世界は過去に神の顰蹙を買い一度、滅ぼされた。
破壊の因子、コアクリスタルによってな。故にコアクリスタルは人間にとって絶対の敵でなければならない。
ならば、何故我々は先天的にコアクリスタルを制御出来る? 何故、コアクリスタルは我々に牙を剥かない?
そうだ。我々は人間では無い。人間を管理する為に父なる神に遣わされた存在であると、そうは思わんか?」
破壊の因子、コアクリスタルによってな。故にコアクリスタルは人間にとって絶対の敵でなければならない。
ならば、何故我々は先天的にコアクリスタルを制御出来る? 何故、コアクリスタルは我々に牙を剥かない?
そうだ。我々は人間では無い。人間を管理する為に父なる神に遣わされた存在であると、そうは思わんか?」
「はぁー……本当にもう……これだから教養の無い人は……完全にオウム返しじゃないですか。
タイラントハウンドの残骸を見た時から薄々気付いてはいたんですよ。やり口が、もう、ねぇ」
タイラントハウンドの残骸を見た時から薄々気付いてはいたんですよ。やり口が、もう、ねぇ」
宗也は神の子という単語に思い当たりがあるのか、いつもの作り笑顔も無く、素で呆れた表情を浮かべる。
だが、その表情は呆れているだけでは無く、哀れんでいるようにも、見下しているようにも見える。
だが、その表情は呆れているだけでは無く、哀れんでいるようにも、見下しているようにも見える。
「我々と共に来い! 世界を管理するのは人間でも貴族でも無い! 我々、神の子だ!」
「残念。其方で言う所の裏切り者なんですよ」
「ならば、死んで詫びろ! 愚かな兄弟め!」
「困った人達ですよ。本当に……もう二度と関わりたく無いから、マスクアートに移ったと言うのに」
グルータルのギアが砲門から立て続けに火線を放つも、エントランスを駆け回る宗也を捕らえきれず、公爵の
私兵達が巻き添えになるばかりで、宗也とグルータルが共同で片付けている様にも見える。
粗方の私兵達が肉片になるのを尻目に宗也は壁を蹴り、シャンデリアを足場に天井を飛び跳ねる。
当然の様にグルータルとギアの意識が天井に向かった瞬間、宗也の足元から影がグルータルの足元まで伸びる。
私兵達が巻き添えになるばかりで、宗也とグルータルが共同で片付けている様にも見える。
粗方の私兵達が肉片になるのを尻目に宗也は壁を蹴り、シャンデリアを足場に天井を飛び跳ねる。
当然の様にグルータルとギアの意識が天井に向かった瞬間、宗也の足元から影がグルータルの足元まで伸びる。
本来ならば光源を無視した影の動きに警戒を示すところなのだろうが、グルータルの意識は天井の宗也に向け
られている。
影の淵から飛び出す、キメリウスの存在に気付いた時には既に自身のギアを一刀両断に切り裂かれている。
更にコアクリスタルを切り裂かれ、ギアとのリンクを強制切断された反動でグルータルは膝から崩れ落ちた。
られている。
影の淵から飛び出す、キメリウスの存在に気付いた時には既に自身のギアを一刀両断に切り裂かれている。
更にコアクリスタルを切り裂かれ、ギアとのリンクを強制切断された反動でグルータルは膝から崩れ落ちた。
「この……裏切り者がァ……」
「新人の貴方に言っても仕方が無いですが、先に此方を裏切ったのは其方でしょう」
口の端から泡を吹きながらも、悪態を吐いて気を失ったグルータルを宗也は無感情に見下ろし、忌々しげに呟いた。
「精々、フェルニアさんに感謝して下さい。出会い方が違えば殺していたところです」
そして、この騒ぎにも関わらず、エントランスの中心で、無傷のまま鎮座するクレイクの残骸が入った樽を引
っ繰り返して中身を床にぶちまけ、意識を失ったグルータルを樽の中に詰め込み、背後を振り返る。
視線の先には調度、逃亡を謀ったバルヴィン公爵が両足を切り落とされ、地面に這い蹲っていた。
それをやったのはフェルニアで、その証に帯剣していたショートソードは真っ赤な鮮血に濡れていた。
っ繰り返して中身を床にぶちまけ、意識を失ったグルータルを樽の中に詰め込み、背後を振り返る。
視線の先には調度、逃亡を謀ったバルヴィン公爵が両足を切り落とされ、地面に這い蹲っていた。
それをやったのはフェルニアで、その証に帯剣していたショートソードは真っ赤な鮮血に濡れていた。
「ひぃぃぎぃあああああああッ!? 足が!! 私の足がぁぁぁぁっ!? 痛い! 痛いィィィィィィ!!」
「他人の痛みに鈍感な者程、自分の痛みには敏感なものだ」
鮮血を撒き散らしながら、のた打ち回るバルヴィン公爵をフェルニアは蔑む様な表情で血糊を払った。
「だけど、他人の痛みを知ったからと言って、他人を傷付けなくなる程おりこうさんでも無いんですよねぇ」
「た、助けてくれぇ!!」
「はいはい。大人しくしましょうね」
宗也は子供をあやす様に柔らかく笑みを浮かべ、バルヴィン公爵の方へと近付いていく。
「く、来るな! 来るんじゃない! 私に何をするつもりだ!?」
「貴族様が豚みたいに喚き散らしてはいけませんねぇ。それに何もしませんよ。此方は歯牙無い護衛ですし」
そして、泣き叫ぶバルヴィン公爵の衣装の襟足を鷲掴みにして、昏倒した樽の中に投げ込む。
「あ、お忘れ物です」
フェルニアに切り落とされた両足も一緒に投げ入れ、蓋を閉める。
「何かするのは此方では無く、フェルニアさんですから」
気を失い、静かになった樽に向けて苦笑を浮かべながら漏らすが、その軽口に対する返事は無い。
此処での用は済んだと言わんばかりにフェルニアは屋敷の外へと歩みを進めている。
此処での用は済んだと言わんばかりにフェルニアは屋敷の外へと歩みを進めている。
「つれないことですねぇ」
あくまで軽口を叩くことを止めずに肩を竦め、バルヴィン公爵等が詰め込まれた樽を抱えて歩き出す。
だが、クレイクの言葉が頭から離れず、その表情は渋面に塗り潰されていた。
だが、クレイクの言葉が頭から離れず、その表情は渋面に塗り潰されていた。
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