創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

capter2 MAIN 結 中編

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匿名ユーザー

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「あんたは一体誰なんだ・・・。」

 潤也は辺りを注意深く観察しながら、潤也を拘束しているベッドの横に座る老婆に尋ねた。

「あたし?あたしかい?あたしゃ、時峰九条。ただのお節介好きの老婆さ。」

 その解答にむっとした顔をする潤也を見て老婆はくすりと笑った後、

「時峰・・・九条・・・。」

 潤也は記憶に引っかかるようなものを感じた。
 何処か・・・何処かでその名前を見たことがある気がする。

「まあ、あんたが助けた女の養母って所さ、年離れてるから正直、『娘よ・・・』というよりかは『孫よ・・・』だけどね。あの娘にもそう呼ばせている。」

 そう笑う老婆。

「あの俺を捕まえようとしていた隊長の・・・。」

 潤也は自分を捕まえようとし、そして鋼機で焔凰を打ち倒した女隊長の事を思い出す。

「そう、それね。いやーお婆ちゃん、話が早い子好きよ。」

 潤也はそれを無視して頭を振った後、自分の現状を確認する。
 現在、潤也はベットに拘束されている。
 何度か起き上がろうと試行してみるものの腕と足がガチガチに拘束されており、それが叶わない。
 おそらくはあの鋼獣との戦いの後、意識を失った自分をリベジオンのコックピットをこじ開け引きずりだしたのだろう。
 その後、今のように拘束されたといったところだろうか?
 模犬との戦いから記憶がないということはあの女隊長が所属していたイーグルという組織に捕まったと考えるのが妥当だろうか?

「おや、まぁ、なんか色々考えてるみたいだねぇ・・・。」

 そう楽しそうに言う老婆を無視して潤也はここからどう脱出するべきか思案を巡らせた。
 拘束は堅い。
 潤也一人の力ではとてもでは無いがここから抜け出す事は不可能だ。
 おそらくは一人では潤也を監禁した者の許可が出るまでここから出ることは出来ないだろう。
 しかし、潤也はそれを許容など出来る訳が無かった。
 戦わなければ・・・。
 潤也の意識はあの日からずっとそれで埋め尽くされている。
 戦い、殺し、戦い、殺し、戦い、殺す。
 目を覚ませば黒峰咲への憎悪を思い、敵を見つけては憎悪の限り殺し、そして憎悪を夢見ながら眠る。
 そして自身に染み込ませるようにして続けた理念は今、黒峰潤也に息づいてる。
 呼吸をするようにして憎悪を思い、殺意に溺れる。
 それが全てを知ったあの日からずっと自分の意識に染み込ませるようにして行なってきた事だ。

「あら、無視かい?それにそんな目をしていたら幸せになんてなれないよ?」

 少し不満そうに口を尖らせる老婆。
 一人での脱出は不可能というところかと潤也は思った。
 その時、一人の少女の顔がよぎる。
 よく知った顔の少女の頭にナイフが突き刺さっている風景。
 少女はこちらを泣きながら見ている。
 何かを願うように・・・。
 何かを愛するように・・・。
 何か潤也にとって絶対的なものを壊すように・・・。
 潤也は胃から何か喉を焼くようなものがせり上がってくるのを感じた。
 それを吐き出す間際で堪える。

「お前さんが何を思ったかは知らないが、あの可愛い子には感謝しておく事だね。」
「感謝?」
「あの子の献身が無ければ、お前さん今もここに帰ってくる事はきっと出来なかったから・・・。」
「何の事を・・・。」

 潤也は頭に強烈な痛みを感じた。
 それと共に記憶の奔流が潤也の脳内に流れ込む。
 模犬との戦い。
 限界を超えたDSGCシステムの駆動。
 そして――――――

「そうか、俺はシステムに呑まれたのか・・・。」

 確信する。
 あの戦い限界を超えるシステムの駆動の際、間違いなく黒峰潤也は怨念に呑まれた。
 幾千幾万の怨念の前に黒峰潤也というちっぽけな存在はかき消されてしまったのだ。
 そうして何が起こったのかは想像に難くない。
 怨念に呑まれ、怨念そのものに支配された自分はあの場で暴走したに違いない。
 しかしだとするならば、おかしな点がいくつかある。
 なぜ自分は今ここに自意識を保っているのだろう?
 もしあの怨念達に負け、自我を失っていたのだとしたら今ここで黒峰潤也という一個の人間はまともな思考など出来るはずもない。
 よくて廃人。悪ければ、怨念達の代弁者として黒峰潤也という人間では無い者になっていたのでは無いか?

「さあ、なんのことを言っているのかはさっぱりだね・・・でもあの娘は生きたまま死んでいるようなお前さんを蘇らせる為にあんな事をしたんだろうさ・・・。」
「あの娘?」

 そう言われて潤也は九条の視線の先を見る。
 その先にはこの部屋への入り口へと繋がる扉があって、その扉の隙間から少女がこちらを覗いている。
 その少女の顔を見て、潤也は目を大きく見開いた。

「さ――――」

 そう呼びかけようとして潤也は頭を振る。
 そんな筈は無い。
 黒峰咲がここにいるわけがない。
 ならば、ここにいる少女はなんだ・・・?
 その後、潤也はその扉の奥にいる少女に声をかけた。

「おい、藍・・・お前何をしてるんだ?」

 扉の隙間の奥にある瞳がびくりとして視線を泳がせる。
 それから返答もなく、その場を静寂が支配する。
 おそらくは悩んでいるのだろう・・・。
 あの少女が考える事はどうせ自分が出て行ってもいいのだろうか?だとか自分が怒っているのでは無いか?だとか自分に合わせる顔が無いだとかそういう事で迷っているのだろう。

「藍・・・さっさと出てこい!」

 潤也は扉の隙間の人間にそう怒鳴りつける。

「う、うん。ごめんなさい、潤也。」

 そうそっと扉を開いて、少女が一人部屋の中に入ってくる。
 和服を崩したような一風変わった服を着た黒い髪の少女だった。
 琴峰藍。
 黒峰潤也のパートナーであり、『至宝』ブリューナクの所有者である。

「藍、ここは何処だ。なんで俺はこんな風に拘束されている?」

 カーテンの奥から木漏れ日が入ってきて自分の頬に当たっているのを煩わしく感じながら潤也は聞いた。
 藍は頷き、少し緊張した面持ちで答える。

「えっとね、潤也。潤也はあの鋼獣『模犬』との戦いを何処まで覚えてる?」

 潤也は記憶を確認するようにして振り返り答えた。

「ブリューナクを構成した所までは覚えてる。そこから先は記憶に無いな・・・。」
「うん、そっか・・・あのね、その時に潤也は――――えっと・・・。」

 言葉を選ぶ為、思案する藍。
 潤也は藍のその仕草に呆れたように息を吐いて

「怨念に呑まれたんだろう?」
「うん。」

 やはりかと潤也はため息を吐いた。
 少し気を落ち着ける為に目をつむる。
 その後、どう声をかけていいかどぎまぎしている藍を促すようにして

「さっさと本題に入れ。」

 と言った。

「うん、ごめんね。その後、暴走したリベジオンは模犬を倒したんだけど、その後にDSGCシステム自体がフリーズして―――」
「フリーズ?」
「うん、急なシステムの再構成の無理が祟ったんだと思う。」
「なるほどな・・・。」

 不幸中の幸いという他無い。
 シャーリーと名乗った鋼機部隊の隊長に破壊されたシステムを急場で作りなおしたのだ。
 そのような状態で再構成すればシステムに問題発生したと言われても納得の出来る話であった。

「それで・・・その後俺はどうなったんだ?」
「戦いの後ね、潤也は意識を失っちゃっててね、その際にイーグルって組織に捕まってしまったの・・・。人数が多すぎたのと鋼機までいたから私それを見ている事しか出来なくて・・・。」

 罪悪感に囚われて俯く藍。
 それに潤也は辛辣な物言いで言う。

「お前の話はどうでもいい。その先は?」
「う、うん。それでね、潤也は10日ぐらいこのイーグル本部に拘束されてたんだけど―――」
「――――10日だと!!」

 声を荒げる潤也。
 そんなに時間を無駄にしていたのか?
 その間にも咲は刻々と計画を進めているというのに!
 今すぐにでもここから出なければ―――
 潤也は拳を強く握り締める。
 それをなだめるようにして九条が言う。

「落ち着きな。あんたはほんの昨日まで意識不明の重体だったんだ。」
「意識不明?」
「そうさ、あんたの身柄はイーグルが保護させて貰ってね。」
「保護ねぇ・・・。」

 自分を拘束している拘束具を見る。
 九条は苦笑して、

「あんたが利口にしてれば、それを外すのにはそれほど時間はかからないさ。あたしゃ必要ないと思うけども、他の奴らからすればあんたやそこのお嬢ちゃんの暴れっぷりをみたら危惧する気持ちもあるんだろさ。」
「それよりも俺に逃げて欲しくないという思いのほうが強いんじゃないか?」
「ふふ、かもねぇ。」
「それでね!」

 潤也と九条が話しているのにちょっと不機嫌そうに藍が口を挟む。

「わたしはイーグル本部に潤也を助けだそうと乗り込んだんだけど・・・。」
「一人でか?」
「うん。」

 無謀な事この上ない。
 しかし、目の前にいる少女なら確かに出来るかもしれないと潤也は思った
 この黒峰咲と同じ顔をした少女は琴峰機関が作り上げたありとあらゆる琴峰の結晶であり、至宝の所有者なのだ。
 その能力は人間の域をはるかに逸脱している。

「色々装備を受け取って万全を期して来たから潤也を助けにくるのが遅くなったんだ。ごめんね。」

 そう申し訳なさそうに謝る藍。

「お前、今装備を受け取ったと言ったな?」

 そう問う潤也を見て咲は自分の失言に気づく。

「誰から受け取ったんだ。」

 そう責めるような口調でいう潤也に藍は観念したようにして答える。

「――――――アテルラナ。」




―2―


「奴の手を借りたのか!?」

 声を荒げていう潤也。
 それに藍は申し訳なさそうに頷く。

「落ち着きな、坊や。お嬢ちゃんが萎縮してるじゃないか?」

 宥めるように九条が言った。

「あんたには関係ない話だ!」
「落ち着きなと言ってるんだ、坊や。あんたを助ける為に色々準備してくれてきたんだろう?いい子じゃないか・・・。」
「そういう問題じゃない!!奴の・・・奴の手を借りるという事がどういう事なのかあんたにはわかってない。奴は―――奴は―――」
「わからないね。だが、あんたこそ現状を理解しな。この子がこうしてここにいて、坊やが拘束されているこの状況、どういった状況なのか坊やにだって察しが付いてるんだろう?」
「ああ、こいつが失敗したのはわかる。それで俺もこいつも拘束されているのは理解している!」

 そうとしか考えられなかった。
 もし藍の行動が実を結んでいたのだとしたら、自分は今この場にいないだろう。
 だが、黒峰潤也は今ここに拘束されており、藍もおそらくは監視下に置かれている。
 つまりは二人して捕まっているという事だ。
 しかし、それを時峰九条は笑う。

「おっと勘違いしなさんな、この子は目的を果たしている。この時峰九条に取り入って約束をさせたんだ。十分な事だろうさ。」
「約束?」
「とある条件を呑めばあんたの機体ごと解放してやるってね・・・。」
「はっ、どこまで本気だか・・・。」

 そううそぶく潤也を苦笑して、

「いいかい、坊や。あたしは時峰九条。このイーグルで副司令を任されているものさ。あたしには一つだけ決めている事があってね。絶対に約束は破らない。その点においては信用してもらっていい。」
「ふん、あんたみたいな老婆にそんな力があるようには見えないけどな・・・。」
「残念、あたしゃ今が全盛期さ。」
「はぁ?」
「あたしに出来ない事なんてそうそうないって事だよ。」

 そう自信を持って言う。
 その瞳にはそれを信じている強い意志が篭っている。

「たとえそれが本当だったとして、一体どんな無理難題を俺たちにふっかける気だ?」
「べっつにー、大したもんじゃないさ。ただ、あたしをあんたらの行動に同行させろって言うだけだよ。」
「同行?」

 九条の身なりを見て目を細める潤也。
 枯れ枝のような腕にしわしわの顔、とてもでは無いが潤也達の戦いについてこれるような身なりに見えない。
 それがどうして付いて来れるのだろうか?
 やはりこれは何か別の自分をはめる為の策略か何かなのだろうか?

「くすくす、信用出来ないって顔に出てるよ。」

 潤也の心を見透かして九条は心底面白そうに笑う。

「潤也・・・その人の事を信用してもいいと思う。約束をしたらわたしを潤也の元まで連れて行ってくれたし、わたしを今ある程度自由が効くようにしてくれたのもその人だし・・・。」
「約束?」
「お嬢ちゃんにゲームを一つ仕掛けたのさ、結果、あたしは負けちまってねー。あんたをここから出してやるという約束させられたんだよ。」
「あれの何処が負けなの・・・。」

 藍は少し落ち込んだようにして言う。

「あんたを連れて行った所で、付いてこれないと思うぞ?」

 そういう潤也に九条は笑う。

「そんな簡単な事をあたしの半分も生きてないような若造に心配されるまでもないよ。」
「それで、あんたが付いてくる事を了承すれば、この拘束を外してくれるのか?」
「まあ、そうだね。」
「勝手にすればいい。俺にはどうでもいいことだ。」
「了承と取るよ。」
「なら拘束具を外してくれ。」

 その頼みに九条は首を振った。

「それは無理だね。」
「はっ?」
「だってあたしゃ鍵を持ってないんだもの。」
「なんだ、誰かから鍵をもらってこないといけないのか?」
「いいや、鍵は貞夫が管理している。このイーグルの司令だね。」
「じゃあ、さっさとそいつから取ってきて・・・」
「いや、だから無理だって・・・。」

 九条の物言いに苛立ちを覚える潤也。

「あのなぁ・・・婆さん。ボケてるのか?それともからかってるのか?さっきと言ってる事が違うだろ。」

 それに九条はまたくすりと笑う。

「鍵は貞夫が管理しているよ。あいつはあんたを拘束から解く気は当分ないしね。それにあの子が何処に鍵を隠しているのかなんてあたしは知らない。」

 潤也は九条を睨む。

「おい、それじゃあ、お前が言っている約束と―――」

 そう抗議しようとする潤也の唇に九条は自身人差し指を押し当ててた後、「少し黙りなさんな」と囁いて立ち上がる。
 そして潤也を拘束している錠に手を横に当てて一呼吸した後、手刀を振りかぶって下ろした。
 潤也は錠を見る。
 その視線の先には潤也を縛っていた拘束具が元からそうであったように綺麗に切断されていたのが映った。
 そうして九条は次々と潤也を拘束している錠を切断していく。

「ほら、こうすればあんたの拘束は解ける訳だ。」

 潤也は手に持った切断された拘束具を信じられないような瞳で見る。
 とてもでは無いが人間業が無い。
 潤也は先ほどとは違う警戒した目つきで九条を見た。

「―――あんた一体何者だ?」

 その質問を九条は笑って流して

「さて、行こうか坊や。今ここは結構危ない状態にあってね・・・さっそくだけどあんたの出番だ。」

そう言われ、立ち上がって肩を回す潤也。
久しぶりに立ったせいか体に気だるさを感じた。
自分の体が鉛のように重い。
半月も寝たきりだったのだから仕方ないとも言えるが・・・。

「危険?」
「あんたの敵が今ここに迫ってきている。」


―3―

 潤也達は個室を抜けて、近くにあった非常用の階段から降りた。
 九条の説明によると今いるここはイーグル総本部の20階なのだそうだ。
エレベーターを使う事も考えたが、現在の潤也達は脱走者である。
 司令室側からエレベーターを止められたりしたら元も子もない。

「藍、リベジオンは何処にある?」

 そう息も切れ切れになりながら潤也は藍に問いかけた。
 二週間も寝たきりだったせいか久しぶりの運動に体が思うように動かない。
 藍はそんな潤也を心配そうに見つめた後、

「このビルから出て3km程離れた場所にある鋼機の格納庫だよ。」

 そう言った。

「遠いのか近いのかわからない距離だな・・・。」

 少し面倒そうに潤也は言う。
 既に息が切れ切れになっている。
 そこまで体力が持つかどうか若干心配だった。

「ほらほら、若い子が息を切らさない。あの子見てみなよ。女の子であんたより若いのに全然お前さんより体力あるよ。」

 そういう九条に潤也は顔をしかめて・・・。

「あいつと一緒にするな・・・。」

 そう潤也が叫ぶ。
 琴峰藍の身体能力は人間のそれを逸している、現在、体が訛っている事を覗いても藍と潤也では大きく身体能力に差がある。
 それと同じに見られるのはたまったものではない。
 藍は首を振るようにしていう。

「わ、わたしも大変だよ。」

 そう急に辛そうな顔をして藍はそういった。
 それなりの期間過ごしてきてわかった事だが、藍は嘘が下手だ。
 おそらくは藍なりに潤也を気遣っての事なのだろうが、潤也からしてみればそれは気に入らない事であり、

「そういう嘘を付く暇があるなら、さっさと足を動かせ。俺にそういう気遣いはしなくていい。」

 そう言う潤也に対して藍は自分が潤也を苛立たせたのだと気づき、真っ青な顔になって

「ご、ごめんね・・・潤也・・・。」

 そう申し訳なさそうに謝罪した。

「あらあら酷いじゃないか、そういう言い方はちょっと可哀想なんじゃないかい?可愛いじゃないかい、あんたに合わせようとしてくれてるんだよ?こういう気遣い出来る女の子とか中々いないよ?」
「あんたには関係のない事だ。」
「そうだねぇ、でもあたしはこの子が見てて可哀想で仕方ないんだよ。あたしが助けてあげると約束したのはこの子なんだよ。お前さんじゃない。この子の希望もあってお前さんも助けたが、そう辛く当たるなら―――」
「―――黙っててクソババア。」

 そう声に静かに怒気を込めて言う藍。

「だってさーお嬢ちゃん、これだけこの坊やに尽くしているのに帰ってくるのが罵倒とかそういう思いやりの無い台詞ばかりっていうのは―――」
「黙れって言っているの!!」

 そう叫ぶ藍。

「これはね、わたしが好きでやってる事なの。わたしはね、潤也の為になんだってするって決めてる。潤也が言えば、この目だってくり抜いたっていい。わたしはね――――」
「――――藍。」

 そう潤也に刺すような視線で睨まれて藍は口を閉じて俯いた。
 それを見て九条はため息を吐く。

「嫌だねぇ、これだけ年を重ねても人の心はわからない。まあ、いい。ただ、老婆心で言わせてもらうけどね、あんたらそういう関係を続けるんだったらきっと双方が救われないよ。」

 潤也はふと自嘲気味に言う。

「それでいい。」

 そうでなければならない。
 自分に救いなんてものがあってはならない・・・。
 だって、自分がやろうとしている事は正義では無いのだから・・・。
 復讐なのだ。
 そんな事をする人間が誰かから称賛されたり、幸せになっていいはずが無い。
潤也の戦いに大義は無い、あくまで黒峰潤也一個人がそうしたいと思うからこその戦い。
そんな私闘なのだ。
もし、これが誰かの為の戦いになってしまったのならば、その誰かは潤也の心に必ず隙間を作る。
その誰かがきっと怨念達になってしまう。
そして、きっとDSGCシステムの怨念たちに今度こそ精神ごと乗っ取られてしまう。
そうならない為には黒峰潤也自身が誰かの為ではなく、自分の為に強い目的意識を持って力を持つしかない。
だからこそ、黒峰潤也は真実を知ったあの日、復讐を決意したのだ。
そんな人間が救われるなんてはなはだおかしい話なのだ。
黒峰潤也は自分が決して正しいことをしていないのだと知っている。
だから救われなくて当然であり、自分がそれを果たした後には何も残らないという事を確信している。
それでも―――――黒峰咲を殺さなければならない。
たとえ、それが後付の理由であったとしてもそれを真実にしなければならない。
憎め、憎め、憎め。
他の思いを憎悪で塗りつぶしてしまえ!

これが黒峰潤也という人間の今の在り方だった。

「はぁ、お嬢ちゃんも難物だと思ったが、坊やもまた面倒そうな子だねぇ・・・。」

 九条は潤也の瞳を見て感想を漏らす。
 少しの沈黙の後、潤也は呆れたように九条を見て言う。

「しかしだな・・・。」

 先ほどから疑問に思っていて、けれど触れないように黙っていた事だったのだが・・・そろそろ我慢の限界だった。

「あんたよくそれで走れるな・・・。」

 それはある意味、当然の疑問であり問いかけであった。
 この枯れ枝のような老婆は潤也達に向かい合わせになるように体を向けて、後ろ向きに走りながら階段を降りているのだ。
 奇妙奇天烈かつ、見てるこちらが今にも踏み外して階段から転げ落ちていきそうで怖い。
 しかし、老婆はそんな思いをどこ吹く風で笑って

「え、だってこっちのほうが話しやすいじゃないかい。」

 とさも当たり前のように言った。

「そういう問題なのか?」

 しかもこの老婆、自分たちが走るのよりも速い速度で階段を駆け下りているのだ。
 この老婆後ろに目でもあるのだろうか?

「こんなのはあたしの元でちょっと修練すれば出来るようになるさ。」

 とさも当然のように言う。

「あんたなんなんだ・・・。」

 藍はそれを見て・・・そうか、潤也の前でそういう事はやっちゃダメなんだと小さく頷いた。
 そうして1階にたどり着いた。
息も切れ切れになりながら顔をあげる潤也の耳に金属と金属がぶつかった音が聞こえる。
 撃鉄を引く音だ。
 潤也の目の前には銃を構えた二人の制服姿の女性と仰々しい顎髭を携えた男が立っていた。

「残念だが、まだ君をここから出すわけにはいかない。」

 顎髭の男、秋常貞夫は静かに潤也を見据えてそう言った。

―4―

 責務という言葉がある。
 何か責任を持つような事柄についた時、その者に課せられる果たさなければいけない務めという意味だ。
 どれほど侮られようと、どれほど息子に憎まれようと秋常貞夫はイーグルの司令を引き受けた時に、その肩書にかかる責務だけは何よりも優先しなければならないとそう決意した。
 何故ならば、イーグルの司令という立場は自分の采配次第で人を何人も殺してしまう肩書きだからだ。
 だから自分の立場には誠実でなければならない、他の何もかを捨ててでもこれだけは果たさなければならない。
 もし死者が出たとしても、それは決して無駄死では無かったのだとそう言えるようにしなければならない。
 全ては人の世の為、絶対の正義を持って自分はこの責務を果たさなければならない。
 イーグル総司令、秋常貞夫という人間はそういった責任感を持つ人間だった。
 そういった責務を背にして、貞夫は今、彼らの前に立っている。
 『彼ら』とは何か?
 ブラックファントムの操縦者である黒峰潤也、半日前イーグルに単独で強襲をかけた琴峰機関の最終作№I、そしてイーグル創始者の一人にして副司令である時峰九条のそうそうたる面子だ。
 イーグルに迫るあの巨大なアンノウンはこのイーグル本部を踏み潰すまで、残り20分ほどの猶予しかない。
 この状況を打開できるのは目の前にいる黒峰潤也とあのブラックファントムしかいないだろう。
 つまりイーグルがこの本部に残る者達の命を救うためにはこの男を行かせ、あの巨大な化け物を倒してもらう事に期待するしかないのである。
 イーグルが生き延びる、果てはここに生きる職員たち全てを救うにはこれしかない。
 だから、この黒峰潤也の逃走は見過ごすべきなのである。
 だが、しかし・・・と貞夫は考える。
 それには一つ大きな不安事項があるからだ。


「貞夫、どういうつもりだい?」

 そう訝しげにみた後、問いかけたのは時峰九条だった。
 彼女は秋常貞夫の師であり、第七機関の最大戦力であり、このイーグルの副司令でもある。

「それは私の台詞だと思うんだがな・・・勝手が過ぎるぞ九条、そこの侵入者を放し飼いにするお前の勝手に目を瞑ってきたが、流石にこれは看過出来ない。」
「何がだい。この状況をなんとか出来るのはこの坊やだけだろう?そりゃ、あたしゃちょっと荒っぽい方法を取ったと思うがね、間違った事はしてないと思うがねぇ。」
「そういう問題では無いだろう、九条。話を逸らすな、物の見方を私に教えたのはあなただったな。ならば、私が何を考えてここに立っているかわかる筈だ。」
「ふん、この坊やが危険かどうかだって?はっ、もしどうしようない人間ならあたしだって別に解放したりしないさ、貞夫をあたしがこの坊やを解放したという事はね、この坊やにそういった危険性は今のところは無いと判断したからだ。」
「私はあなたの力やあなたの機転、あなたの知力の全てにおいて遺憾ながら信頼を置いてはいるが、1つだけどうしても信用していないものがある。それは、あなたの人を見る目というものだ。あなたはその人を見る目の無さで一体何人の人間を見殺しにしてきた!!」

 そう怒りを表す貞夫に九条は少し目を細めて、

「煉夜(れんや)の事を言っているのかい・・・?」
「さあな、あなたがそう思うのならばそうなのではないかな。」

 九条は少し目を瞑ってため息を吐いた後、

「はぁ、痛いところを突かれたね。まあいい、好きにしな。あたしはこの場においては傍観者でいてやるよ。」
「ふん、当然だ。仮にもお前は、このイーグルの副司令なのだからな・・・・治外法権の乱用もいい加減にして欲しいものだ。」

 そのやりとりを横から見ていた潤也は呆れたようにため息を吐いて、藍に視線をやって言う。

「藍、面倒だ。抜けるぞ、殺さない程度に無力化しろ。」
「うん、わか―――」

 そう了解の返事を返そうとする藍。

「動くな!!」

 そう耳が割れんばかりの大声で貞夫は恫喝する。
 それと潤也の後ろからも銃を持った兵士が現れ潤也に銃口を向けた。

「これはまた大仰な・・・。」

 潤也は舌打ちする。
 今、潤也には四方を囲むようにして銃口が向けられている。
 この程度、常軌を逸した能力を持つ藍ならば倒せない事もないだろうが、それが潤也を守りながらとなると非常に困難だ。
 黒峰潤也は藍とは違い、その身体能力は普通の人とそれほど変わらない。
 いや、寝たきり生活が続いたせいで体に重さを感じていて凡人以下かもしれない。
 そんな潤也を守りながら闘うのはいくら藍といえど困難といえた。

「おい、お前、ここの司令でいいんだよな。何の目的でこんな真似をする。」
「何の目的?そうだな、あえていうならば正義の為だ。」
「正義?」
「そう、正義だ。我々は人をありとあらゆる災厄から守るために結成された組織だからね。君が闘うアンノウン達・・・君は鋼獣と呼んでいたかね?あれと闘うのも我々の正義ゆえだ。」
「じゃあ、なんで俺にこんな真似をする。少なくとも俺は鋼獣、それを操るUH達とは敵対関係にある。それは今までの俺の行動からあんたらも理解しているだろう?」
「概ねそのとおりだ。」

 貞夫が頷く。

「じゃあ、俺に今、この状況で銃口を向ける意味が何処にある。」

 それは当然の問いかけだった。
 イーグルも潤也も同じく鋼獣と敵対関係にある。
 確かに黒峰潤也は今回脱走の形にはなったが、そもそもとしてあの鋼獣に対処できうる力を持つのは黒峰潤也とリベジオンのみだ。
 ならば、ここで黒峰潤也を行かせる事は、この司令本部にいる人間全てを生かす事にも繋がる。


「あるのだよ。私は、ある意味では彼ら鋼獣以上に君を危険視している。」
「あっ?」
「君はあの鋼獣達をあの黒い鋼機で何体も破壊してきた、しかし、それは何故かね?正義感からの行動かね?それとも君とあの鋼獣達との内輪もめかね?わからない、わからないのだよ。」
「なんだ、あんたら、俺をあいつらの仲間じゃないかと疑っているのか?」
「いや、敵対はしているのだろうとは思っているよ。だが、彼らに敵対しているとはいえ、それが我々の味方だとは限らないだろう?」
「それで、味方じゃなかったらなんの問題があるんだ?俺が奴を倒せば少なくとも、あんたらは助かる。それで十分じゃないか・・・。」
「ふむ、たとえそうだとして、もしそれ程の力を持つ君が我々の敵に回ったとしたらどうなる?それは今我々が目の前に据えている脅威よりも脅威なのでは無いかね。」
「なるほど、そういう事を言いたい訳か・・・。」

 潤也は呆れたように肩で息を吐いた。
 つまり彼らはこう言いたいのだ。
 敵同士で小競り合いしているだけで、お前も奴らを倒したら人間の敵になるのではないか?と・・・。
潤也は苦笑いした後、皮肉めいた口調で言う。

「で、どういえば、あんたらは俺を信用してくれるんだ。」
「さてね、それが今の悩みの種だよ。本当ならば、もう少し時間をかけて相互理解を深めていこうかと思ったのだがね、お互いこう時間がない状況だ。君を信用しようにも残り時間が限られている。だから端的に質問をさせてもらうよ。まず君は何のために戦っている。」

 地響きがなり大地が揺れる。
 突風が吹き、本部入り口のガラスに石がぶつかる音がする。
 鋼獣は確実に近づいて来ている。
 それを背に受けながら汗を垂らしつつ貞夫は潤也を見定めるように潤也を見る。
 潤也は答えなければこの硬直状態がずっと続く事を察し、口を開く。

「私怨。」
「なんのだ?」
「ありふれた理由さ、俺の家族は奴らを率いているものに殺された。だから俺は奴らが憎い。奴らが俺と同じ空気を吸っている事が許せない。ただ、それだけだよ。」
「ふむ、復讐というわけか・・・ならば、それを成した後君は何をする?」
「成した後?笑わせないでくれ、俺は今それ以外のことなんて考えてないし、考える気もない。終わった後の事なんて終わった時に考えるさ。」

 貞夫は少し考えるようにした後、自分の後ろで銃を構える女性に声をかけた。

「どう見る、雫くん?」

 女性は少し呆れたような声で言う。

「なんで私に聞くんですか、司令。嘘はついていないとは思いますが、それだけでは無さそうですね。まだ、何かを隠している気がします。」
「なるほどなるほど参考になる意見をありがとう。」
「あんた、偉そうな事言っといて一人でそういう事を決める事も出来ないのか?無能だな。」

 貞夫はそういわれ少ししかめ面になった後、

「否定はしないよ。私はそこにいる老婆とは違って凡人だしね。私のような人間はこのような様々な有能な人間に支えられているのだよ。」
「格好つけたような言い回しですけど、それ自分が無能だと認めた発言ですよね・・・。」

 藍はそのやり取りにくすり笑いそうになり慌てて口に手を当てる。

「で、無能さん。あんたの信用を勝ち取れたのかね。」

 貞夫は無能と呼ばれた事に喉から出かけた言葉を飲み込んで、少し口を尖らせながら

「まあ、いい。一応、時間もないしね、君の事を信じさせてもらうほかは無いようだ。」
「なら・・・さっさとこの物騒なものを下げてもらえないか?」
「その前に一つだけ条件がある。」

 そういって貞夫は胸のポケットから輪のようなものを取り出す。

「それはなんだ?」
「腕輪型の発信機だよ。人工衛星を通じて君の居場所を逐一私達に知らせる事が出来る代物だ。また我々との通信機能その他が付いている。」
「それで?」
「これは特殊な錠が付けられていてね。一度付けたらこちらの許可がない限り外せない代物だ。これを君が付ける事で我々はとりあえず君を信用したという証という事にしようと思う。」
「信用出来ないから首輪を付けようというわけか?」
「そんな大仰なものではないよ。単なる発信機だ。それ以上の効力は無い。だが、君の行方が分からないのはやはり我々としては不安なのでね。そこの老婆はしょっちゅう姿を消すし・・・。」

 潤也は、自分の後ろにいる老婆に目をやる。
 九条はどこ吹く風と顔をそむけた。

「代わりに我々の得た情報を君に渡す事が出来る、鋼獣の出現情報などもね。どうだ君にとっても悪い代物ではないだろう?」
「これを付けなかった場合は?」
「この膠着状態が、我々があの化け物に潰されるまで続くことになる。」

 潤也は周囲を見渡した後ため息を吐いて、貞夫の方に歩み寄り腕輪を取る。

「わかったよ、ここでこのアホな状況を続けても俺としても不都合だ。それぐらいならば請け負っておく。」

 貞夫は少し驚いたように潤也の顔を見つめる。

「何をジロジロ見ている?なにかこれ以上言いたい事とかあるのか?」

 その視線を心底不快だと言わんばかりの顔で言う。

「いや、これほどすんなり行くと思っていなくて驚いただけだよ。」

 ふん、顔を背ける潤也。
 その後、後ろの女性が補足するように潤也に言う。

「注意事項ですが、その腕輪から発信される信号がもし消失した場合、我々はあなたをアンノウン達と同等の敵と見定めます。事が終わったからといってすぐに外そうなどとはしないでくださいね。これはそこにいる女性の力を借りて外そうとしてもこちらはすぐに認識できる作りなっていますのでご理解の程をお願いします。」
「あー、はいはい、わかったよ。」

 そういって、潤也は腕輪を付けた。
 それを見て、貞夫は銃をさげるように指示を出す。

「君を君の機体まで送り届けよう、車は用意してあるすぐに付くはずだ。」
「わかったよ。」

 貞夫は後ろ見る。
 その視界には既に本部に迫りつつある鋼獣が映った。
 動く山とでも形容するのがふさわしい雄大な全貌、その巨大さゆえに非常にゆっくり動いているように見えるがそれは間違いなく異常な速度でこちらに迫ってきている。
 その巨躯は鋼機の攻撃など無碍にもせず、一瞬で踏みつぶしてしまうだろう。

「しかし、君は本当にあれに勝てるのかね?」

 潤也はそう問いかけられた後、遠くから迫る巨躯を見て、ふと笑って言った。

「余裕だ。」



―6―


 黒峰潤也がブラックファントムの元へ向かうのを見送った後、琴峰雫は横からじーっと見るようにして尋ねた。

「それで、司令、彼らはあなたのお眼鏡に適ったんですか?」

 気にはなっていた事だ。
 先ほど、司令は自分に嘘を付いているかどうかと話を振ったが、それは自分の答えをそこで言いたくなかったからだと雫は推測している。
 だから、雫は秋常貞夫が真実彼らを見てどう思ったか気にはなっていた。
 貞夫は少しこまったように頬を人差し指でかいた後、

「言わなくちゃダメかね?」

 と聞いた。

「ええ、お願いします。それに私としてもあなたが彼らにどういう感想を抱いたのか気になる所ですので・・・。」
「さてね、あれしきの対話で人の全てを図るのは無理だよ。だがそうだなぁー、しいていうなら危うい目だとは思ったな。」
「危うい目?」

 黒峰潤也の瞳を思い出す、年に似合わない程暗い印象を受ける瞳だった。
 それが貞夫に嫌な目だという印象を与えたのだろうか?

「あれは己を偽るものの目だ。己を殺し、己を痛ぶり続けるものの目だ。」
「そういった人間は我々でもよく見るのでは?」

 というよりは軍人というのはそういう者が多い。
 命令とあれば本心納得などしていなくてもそれを納得し自分の嘘を付いて行動しなければならない事が多々だ。
 それを貞夫が危険視する理由が雫にはわからなかった。
 貞夫は面倒そうに答える。

「我々が嘘を付いたり、何かを偽る時は少なくとも己でそれを納得して偽っている。それが大儀だと、そう納得して己を殺している。だがね、おそらくだがあの黒峰潤也という青年は違う。」
「違う?」
「あの青年は、自らの目的はなんだと聞かれて私怨と答えただろう?つまり個人的な感情から出たものにより彼は動いているという事になる。それには大義など無い。自分の心の赴くままに行動しているという事なのだからな。だが、それならば何故あんな目をしているのか・・・何故、自分を偽ろうとするのか・・・。正直な話だがね、私は彼が怖いと思ったよ。いつ爆発してもおかしくない爆弾のように見えた。とてもではないが彼の事を信頼など出来なかった。」
「――――司令。」
「ああいう輩を私は一人だけ知っている。そして、そいつは過去に大きな過ちを犯した。」
「それは一体・・・?」
「そいつが贖罪として作り上げたのが、このイーグルという組織だよ。」

 そういわれて雫ははっとする。

「あのクソババアが何故、彼に付いたのかはわかるな。あいつは己の姿をあの青年に重ねたのだろうさ。見た目通り甘々なんだ、あのボケ老人は・・・。」

 そういって貞夫はポケットからタバコのケースを取り出し、一本取り出す。

「雫くん。私はやはり、大きな過ちを犯したのだろうか?是が非でも彼をここで留めておくべきだったのではないかという後悔が今、胸の中をかけめぐっている。ここまで不安な要素を見て君たちに死ねと言えなかった私はやはりイーグルの司令失格の無能ものなのだろうかね。」

 貞夫はライターを探すのにポケットに両手を入れて探る。
 それを見た雫はポケットからライターを取り出し、貞夫が口に咥えたタバコに火を付けた。

「いいえ、だからこそ私達はあなたに付いて来ているんです。」

 貞夫は迫る鋼獣の足音の地響きを感じながら、一息吸い煙を吐いた後、ぽそりと呟いた。

「すまないな。」

 何に対して謝ったのか・・・。
雫はそれに苦笑して、

「いつもの事です、慣れました。」



―7―

「どうだ、藍動くか?」

 黒峰潤也はリベジオンの操縦席の中で、そう琴峰藍に尋ねた。

「大丈夫、既に至宝による復元は終了済み。いけるよ潤也。」

 潤也は小さく息を吐いた後、潤也の言葉を待つ少女に意を決して指示を伝える。

「行くぞ、藍。リベジオン起動。」
「了解、リベジオン起動します。」

 モニターが光り、リベジオンのアイカメラが捉えた情報をモニターに出力する。
リベジオンが格納されていた倉庫の壁だった。

「全駆動系、正常に稼働中。システムチェック―――――――右腕上腕部に若干の反応の遅れが確認されましたが、誤差の範囲内と推定。問題ありません。」
「ブリューナクは?」
「前回の戦いで形を失った模様、使用には再構成の必要があります。」

 至宝の再構成には膨大なエネルギーが必要になる。
 つまり、リベジオンの至宝ブリューナクを扱う為にはDSGCシステムが必要だと言うわけだ。
 負担が大きいので出来れば使いたくは無い所だが敵はあの巨体だ、呪魂手甲などでは大したダメージも与えられそうにない。
となれば今回の戦いでは必ず至宝が必要になるだろう。

「DSGCシステム、駆動できるか?」
「システムに問題なし・・・でも、潤也ほんとうにいいの?」
「何がだ?」
「だって、怨念が潤也を襲うよ。」

 藍の心配に潤也は苦笑いする。

「問題ない。大体、お前が俺をここに呼び戻した時点でそうなるのはわかっていただろう、問うまでもない話をするな。」
「それはそうだけど・・・・って・・・えっ・・・」

 藍が驚いたような声をあげる。

「どうした、何かトラブルでもあったのか?」

 藍は少し申し訳なさそうにして

「今、潤也、私が潤也を呼び戻したって言ったよね・・・?潤也は意識を取り戻した時の事を覚えてるの?」
「うっすらだけどな・・・俺の知っている顔の人間の頭にナイフが刺さっているというなんとも見ていて気味の悪い光景だったよ。」

 覚えているのは永遠と続く暗闇の光景だ。
 そこはすぐに果てがあるようで、それでいて掴みどころの無い場所。
 自分が寝たきりになっていたという数日間、そんな場所を延々と彷徨っていた気がする。
 そこで誰かに囁かれて闇以外のものを見たのを覚えている。
 それは妹と瓜二つの少女が頭に自らの手でナイフを突き刺す映像。
 それは脳に焼きつくようにして未だに潤也の中にある。
 その時、覚えた感情と共に・・・。
 おそらくは自分はあの模犬との戦いの後、怨念達から自らの精神を守るために自閉的な状態になったのでは無いだろうか?
 だからこそ、今でも黒峰潤也は自分を保ち普通に考え、感じる事ができている。
 怨念達に意識を完全に乗っ取られず黒峰潤也であり続けてる事ができている。
 だが、それはありとあらゆる事から目を背けていたという事だ。
 目を閉じ、耳を塞いでなにもかもから逃げ続けていたという事だ。
 だからこそ、自分はずっと意識を失っていたのだろう。
 現実から逃避することによって自分を保っていたのだから・・・。
そんな全てから目を背けていた状態にあった自分が自分の力で現実に復帰するとはとても思えない。
 それこそ現実に戻らざるをえないものをその瞳に見せつけられたりする事がなければ・・・。
 つまり、それがあの光景なのだろう。
 黒峰咲が死ぬ光景。
 それは黒峰潤也が求めてやまぬ光景。
断罪の光景。
 贖罪の光景。
 罪には罰を、悪には断頭台を・・・。
 その復讐の明確な目的と果たすべきものをその瞳に見たがゆえに自分の目的を思い出し、それを果たすために黒峰潤也は現実へと帰還した。
 そう潤也は確信して結論付ける。
 だが、黒峰咲がここにいる筈がない。
 だとするならば、自分を目覚めさせる為に黒峰咲の代わりをした役者がいる筈だ。
 そしてそれを行える人間が今、潤也と同じ機体に乗り込んでいる。
 琴峰藍。
 黒峰咲と同じ顔を持つ少女。
その正体はA級適正を持つ黒峰咲のクローンであり、琴峰機関の全てを結集して作られた人造人間。
至宝ブリューナクの設計図の所有者であり、それゆえに不死である人間。
彼女は自分をあの暗闇から引きずりだすために一芝居打ったのだ。

「あ・・・ぅ・・・。」
「なんだ、言いたい事があるならさっさといえ時間がない。」
「ご、ごめんなさい、潤也。」

 そうただ、ただ、申し訳なそうに謝る藍。

「それは何に対しての謝罪だ?」
「そ、その咲さんの真似事して・・・本当にごめんなさい。酷いことしちゃったって自覚はあるんだ。でもわたしにはあんな事しか思いつかなくて・・・ごめんなさい。後でどんな罰でも受けるから・・・。」

 潤也はそれにため息を吐いて

「なんで、謝る必要がある・・・お前は正しい事をしたんだ。これ以上なくな。お前は俺が逃げていた俺の首根っこを引っ張って俺の成さなければならない事を直視させてくれた。だから、俺は今、こんなにも清々しい気分でいられる。」
「えっ・・・。」

 藍が驚いたような声をあげる。

「俺は咲が憎くて、憎くてたまらない。殺したくて殺したくてたまらない。そんな感情が俺をこの現実へと戻してくれたんだ。」
「潤也・・・それは――――」

 ―――違う。
 そう先に続けようとした言葉を口にだすか迷った後、口をつぐむ。
 藍ははっきりと覚えている。
 あの時、黒峰潤也がどのような行動を自分に対して取ったのか・・・。
 どのような事を自分に対して言ったのか・・・。
 だが、それを潤也に言う事は無意味だろう。
 自分がやろうとしている事は黒峰潤也の願いを踏みにじる事に他ならない。
 そんな事は藍自身望んでいない。
 だからこそ言うべきではない。

「なんだ?言いたいことがあるならはっきり言え。」
「―――ごめん。なんでもない。」

 そう答える藍に潤也は刺すような物言いでいう。

「藍、俺はそういう風に途中で言葉を切るのが嫌いだ。お前が何を考えようが俺が干渉する所ではないが、口に出した事は最後まで言え。」
「うん、ごめん。ほんとなんでもないから・・・。」

 そう硬くなに口をつぐむ藍に潤也は呆れた後、追求するだけ無駄だと結論し目の前の事に意識を集中させる。
 その様子に、藍は胸をなでおろした。

「行くぞ、藍・・・今回は大物だ。だが、いつもとやる事は変わらない。」
「うん、潤也。」

 そうして潤也はリベジオンを操作し、倉庫の扉に手をかける。
 倉庫の扉は閉じており、潤也たちにこれを開ける術は無い。
 リベジオンはその両の手を扉にかけて強引に引き裂いた。
 そうして広がるのは果てが見えぬ広い空と山々、そしてそれを覆い隠すような巨大な鋼獣。

「藍、DSGCシステムを稼働させろ――――ブリューナクを再構成する。」
「了解、DSGCシステム稼働。」

 リベジオンの体の各部が大きく展開する。
 それと同時にリベジオンの周囲に紅い光が発生し、それがリベジオンの展開部に吸い込まれていく。
 この地に眠る怨念。
 それを吸収し、エネルギーへと変換する。
 それは黒峰潤也にリベジオンに莫大な力を与える。
 それと共に潤也に死の追体験が始まる。
 病死。溺死。事故死。戦死。
 山の奥で遭難し、友人に見捨てられた死者がいた。
 食物がなく、衰弱しやせ細って死んでいく我が子を見て嘆き悲しむ死者がいた。
 猟奇趣味の男に友人を目の前で無残に殺された後、自らも殺された死者がいた。
 様々な死因で死んだ怨念たちは自身の無念を潤也に訴える。
 どうかこの無念を晴らしてくれと・・・。
 だが、怨嗟の魔王はそれを嘲笑う。
 何故、俺がそんな事をしなければならない。
 俺は俺だ。
 死者の思いなど知ったものか・・・。
 俺は目的を果たすためにお前たちを利用する。
 そうして黒峰潤也は我を取り戻す。

「――――設計図のロードを開始します。」

 藍の機械的な発言と共にリベジオンの右の掌に紅い光が収束を始める。

「設計図のロードを完了、該当因子の検索を開始。」

 呪魂手甲。
 DSGCシステムによって得たエネルギー拳に纏わせて攻撃を行うリベジオンの基本兵装の一つである。
 その熱量は鋼獣のナノマシン装甲すら溶解する程だ。
 だが、リベジオンはこの際に発生するエネルギーを攻撃のために使っているのではない。

「該当因子の検索を完了――因子収束。」

 至宝とは唯一無二で構成された物である。
 それを構成する因子は不滅であり、至宝であった時の結合を解かれても消滅せずに世界の何処かに散らばっている。
 至宝の設計図とは、至宝を構成する因子を検索し、収拾するためのものである。
 そして、今リベジオンは呪魂手甲に集めた莫大なエネルギーを持って世界に散らばった因子を収拾する。

「収束完了――第一段階を終了――第二段階への移行――骨子の構築開始。」

 リベジオンの右腕で紅い光が嵐のように暴れ回る。
 それと同時にそこに本来存在していなかった筈の物質が形を成し始める。
それは細く、リベジオンの全長を超えるほど長い。

「骨子の構築完了―最終段階へ移行――肉付けを開始。」

 棒に紅の光が走り、形を付けていく。

「―――石突きの構築――完了――――柄の構築―――完了――――頭の構築―――完了――潤也、コードを!」

その存在を確定する為のコード。所有者の証である事を証明する為のコード。
それを黒峰潤也は唱える。

「The fate of the traitor of God is not happy(神に反逆するモノに幸福無し)」

 音声によるコード入力。
 それを持って『絶対』を歪める黒槍が今ここに顕現する。

「ブリューナク、再創造完了。」

 これこそがありとあらゆる因果を支配し歪める至宝。
 黒峰潤也が黒峰咲を殺害する為に手に入れた凶刃。
リベジオンの最大兵装『ブリューナク』である。
 潤也はその黒槍を眺め、吐き気を催しながらまだ自分が我を保っている事に安堵する。
 ――――いける。
 前回の戦いの時と比べて、いくらか精神的な余裕がある。
 既に数十回近く体験した死の追体験だ。
 前回の戦いと違い怨念の追体験量を減らすフィルターが完全なのもあるが、それ以上に潤也がこの体験に慣れてきたのかもしれない。
 過分なDSGCシステムによるエネルギー供給を行わなければ、黒峰潤也は黒峰潤也である事を保ち続ける事が出来る。
 潤也は怨念から思考を切り替え、目の前にいる敵を見据える。
 その巨大さは山を思わせる巨大な鋼獣だ。
 何故このような所にいるのか?
 おそらくは、狙いはこの機体が今手に持っている黒槍だろう。
 それこそが黒峰咲とUHが求めてやまぬものである。
 幾度にも及ぶ敗北の上でついに奴らはリベジオンが至宝を持つ事に気づきその矛先をこちらに向けてきたのだ。
 黒峰潤也はその事実にほくそ笑む。
 そうして、敵を見据えて言う。

「さあ、行くぞ。デカブツ。お前がいかに無力かを教えてやる。」

 そしてリベジオンその巨躯に向けて飛翔し突撃した。

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