創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

シンブレイカー 第十七話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 翌日、私は自室で目が覚めた。
 3日前のマイケルの襲撃でめちゃくちゃになっていたはずの室内と窓はどういうわけか
昨夜私が帰宅したときにはすっかり片づいていて、ガラスも修理されていた。
しかしそのことを母も父も記憶しておらず、不自然な状況に魔学の気配を感じとって、
私は嫌な気分になった。
 もし自分が目にしたことが無かったことになっていて、
知っているはずのものごとを知らないことにされているとしたら……それは最大の恐怖だろう。
 自分の過去も、未来も、信頼できなくなってしまうのだから。
 そして私の追い求める真実もその過去の中にある。
 複雑な想いで部屋を出た。私は何も知らなさすぎる。



 数十分後、私は天照研究所の資料室に居た。
机に資料のファイルを山と積み上げ、ぺらぺらとめくりながらそれらしい情報を探していく。
 探しているのはこの天照研究所や、魔学それ自体の過去についての資料だった。
今までに『×』の襲来はあったのか、などの魔学に関する重大事件を調べるつもりだった。
 なぜそんなことをしようと考えたのかというと、昨夜私が帰宅して、
ひとりベッドに寝転がってこれまでの様々な事件や、因幡の涙の理由をあれこれと考えた結果、気づいたからだ。
(私は天照研究所にうとすぎる)
 天照恵から研究所の成り立ちや組織の中の立ち位置などは説明を受けた。だがそれだけだった。
私は天照研究所が過去にどのような実験を繰り返し、具体的に何を目的として、
どのような人々が働いているかを何も知らないということに気がついたのだ。
 何も知らないままでは前には進めないのは当たり前だ。
昨日、研究所を去るときに聞いた高天原の言葉はそういうことだったのかもしれない。
 分厚いファイルをめくると魔学の19世紀初頭からの歴史がこと細かに記されている。
じっくり読もうかとも思ったが、文章のほとんどが難解な英語であるうえに魔術用語や科学用語が頻繁に
登場しているので早々に断念した。
 よく考えたらそこまで遡る必要もないかもしれない。私はファイルをとじ、別の山から新たに一冊の資料を
ひっぱり出した。
 適当に開くと見覚えのある顔写真と名前にぶちあたる。
(あれ、天照さんだ)
 一度本を閉じて表紙を確認する。資料のタイトルは『2013年度 天照研究所 天照病院 職員名簿』だった。
(職員名簿だったのか……)
 タイトルも確認せずに適当にとってきたせいでこれが名簿だと気づかなかった。
 なんとなくページをめくり、天照恵の項目を眺める。そこには名前や役職だけでなく、
簡単な経歴も記されていた。

【天照 恵(あまてらす めぐみ)】
女性
38歳 独身
天照研究所所長 兼 天照病院理事長
経歴
前所長、天照空也の娘である。
幼いころから魔学の教育を受けるとともに研究に従事、最高学府医学部卒業後、前所長天照空也の後を継ぎ、
研究所所長及び病院理事長として着任。

(やっぱりすごい人なんだなぁ)
 圧倒されつつページをめくる。次も知っている人間の項目だった。

【高天原 頼人(たかまがはら よりと)】
男性
22歳 独身
天照研究所副所長 兼 天照病院理事
経歴
天照家の分家である高天原家現当主。
最高学府理学部物理学科中退後、天照恵と同時に天照研究所副所長及び天照病院理事に就任。

 こちらも負けず劣らず凄まじい経歴だ。
 中退というのがやや気になるが、何か事情があったのだろうか。
 高天原家というのがどういった存在であるのかも気になる。
 さらにページをめくる。

【因幡 命(いなば みこと)】
女性
22歳 独身
天照研究所医療技術研究部長 兼 天照病院特殊医療技術開発部長
経歴
最高学府医学部を早期卒業後、研究所及び病院に現在の役職で就任。

(……高天原さんと同い年だったんだ……)
 なによりもそこにまず驚いてしまった。気を取り直して経歴を眺めるが、
しかしそれらの情報からこれ以上得られるものはなさそうだと感じる。
 ファイルを閉じた。
 それから手を頭の後ろで組み、ぼんやりと考える。
 やはり私は彼らのことを何も知らないに等しかったんだ。
 しかし彼らは私のことを知っている。通っている大学や、自宅の場所、
好きな風景が眺められる場所まで……考えてみれば異常な話だ。
 ……そうだよ、異常だ。
 いや、どう考えてもおかしい!
 私は気づいて、ぞっとした。
(私はいつ彼らにその話をしたんだ? )
 片手で側頭部をおさえ、必死で記憶を掘り返す。
 だがいくら思い返しても私は天照研究所の人間に対して一度だって大学や自宅の場所を教えていない
はずだった。
 にも関わらず高天原は最初の『×』と戦った翌日には大学までスマートフォンを渡しに来たし、
その後『火炙り』のときには研究所の所員が私を迎えに来た。さらにその次、マイケルの襲撃時にも、
マイケル本人に加え高天原とカオスマンが自宅に助けに来ていた。
 私は一度も彼らにそれらの場所を教えていないのに、だ。
 二度目三度目はまだ言い訳がたつだろう。『×』の出現位置から予測したとか、
かつて織星山に登ったときの高天原の会話から調べたとか、スマートフォンの反応を探したとか
言えばいいのだから。しかしそれを差し引いても初回はどう考えてもおかしい。
 果たして初回の高天原の来訪以前に研究所が私の大学を知るチャンスがあっただろうか?
 ……あった。
 一番最初、病院のあのベッドで目覚めたときに、私はサイフなどの私物を受け取れなかった。
それどころではなかったし、研究所がわも見つけられなかったと言っていたからだ。
 だけどそこでもし彼らがサイフを見つけていて、その中の学生証や身分証明書を見ていたとしたら?
 話の筋は通る。
(だけど早合点かもしれないじゃないか)
 私は自らの推理にそう反論した。
(もしかしたら彼らはあの時点ですでに荷物を見つけていて、それを高天原さんが勘違いしただけかも)
(でもそれならすぐにまた渡すチャンスはいくらでもあったはずだ)
(それに今気づいたけど、私がなくしたのはサイフだけじゃなく、それを入れていたバッグもだ)
 私はいつもサイフはバッグに入れていた。
 いったいどこで失くしてしまったのだろう。
 いや、そもそも――

(――私はあのベッドに運ばれる以前、どこにいたんだ?)

 思い出せない。
 もう1ヶ月以上前のことだから思い出せないのも当然かもしれない。
 でもここで思い出さなければ、私は真実に辿りつけない気がする。
 あのベッド以前に全ての答えがあるような、そんな予感がした。
 私は両手で頭を抱え、目をつぶり、眉間にシワを寄せてなんとか思い出そうともがいた。
 しかし記憶は曖昧でどうにもはっきりしない。
 また魔学によってロックでもかけられているのだろうか。
「……ダメだー! 思い出せないー!」
 私は腕を左右に伸ばして思わずそう叫んだ。その拍子に積まれた資料の山が崩れて、
机から床にぶちまけられてしまう。慌てて拾い集めていると、
落下の際に開かれた資料の1ページが目にとまった。
「……あ!」
 そのページを見て私は声をあげた。
 と同時に今まで真剣に頭を悩ませていたのがなんだかバカバカしくなって、頬が緩む。
 私はその資料を拾い上げた。問題解決のカギはこんなに近くにあったのに、
なんで思いつかなかったのだろう。
 『2013年度 天照研究所 天照病院 職員名簿』と題された資料のそのページには
『八意 司』の名前があった。



 広い部屋の中央に置かれた異様な姿の巨大な機械は、薄暗い空間を、表面を走る赤い光でぼんやりと
照らしていた。
 無数のディスクドライブと呪術的な装飾に彩られた見上げるような大きさのその上で、
私を出迎えた禿頭痩身の男は両手を広げて高笑いをしていた。
「実に何ヶ月ぶりの登場であることか!? 」
 彼はひらりと床に舞い降り、白衣を翻してポーズをきめる。
「全国二億人のファンの皆様、お待たせしたぞ! 天才中の天才、魔学の始祖、
アインシュタインが裸足で逃げ出す奇跡の脳髄――」
 それから彼はシャツの胸元をはだけ――
「――八意司である!」
 ――もう一度ポーズを決めた。
 私はひとりで訪ねたことを若干後悔しつつも、とりあえず彼に言った。
「なんか微妙にキャラ変わってません? 」
「実に数ヶ月ぶりの登場であるからな! もとのキャラが思いだせんのだ」
「最後に会ってから一週間ちょいですよ」
「いいや4ヶ月ぶりだ。だから言わせてもらおう……さびしかったぞ!」
「……なんかすいませんでした」
「しかも『すごく』だ!」  
「はぁ」
 いったい何の話であるのかさっぱり理解できなかったので、適当に相槌を打っておく。
 八意は眼鏡の位置を直しつつ、その間に一度死に、また復活していた。
 私は小さくため息をつく。タイミングを見計らって本題に入ろうとしたが、
その前に八意がまた口を開いた。
「貴様がここを訪れた理由は知っている」
「新聞の勧誘じゃないですよ」
「貴様はジョークのセンスが無いな」
 少しイラッとしたが適当な笑顔でごまかす。
「それはそうとして」
「貴様がここに訪れた理由はひとつ」
 八意は言いかけた私を制する。
「私のタイムマシンを借りたいのであろう?」
 彼の言葉に私は頷いた。
 彼は続ける。
「私の『過去の知識』を私が直接語るのは、私が拒否する。
ならば自身で目にしてしまえば全て解決というわけだ。うむシンプル!」
「お借りできますか?」
 私が訊くと、八意はその場でくるりと一回転し、両腕で大きな『ばつ』を作った。
「残念だがそれはできんな!」
「やっぱりですか」
「予想してたという顔だな」
「そりゃ、私はまだ一度も私自身に出会っていませんから」
 八意のタイムマシンはタイムマシンという名前ではあるが、
実際は平行世界間を移動させるものだ。もしも八意の使ったタイムマシンと同じものを使ったならば、
私は彼と同じく全ての過去と未来で終わらない死を繰り返す存在となっているはずだった。
しかしそうなっていないのは、全ての平行世界で『私がタイムマシンを使った可能性』がゼロだからだろう。
「貴様の推理は正しい」
 するとそんな私の考えを見透かしたように八意が言った。
「仮に私がここで貴様にタイムマシンを使わせても、なんらかの原因でタイムトラベル未遂のまま終わるだろうな。
運命とはそういうものだ」
「で、そこで相談なんですが」
 私はスマートフォンを取り出した。八意は目を細める。
「あなたが過去で見たことを、このスマートフォンのムービーで撮ってきてくれませんか」
「ほぅ」
「本当は八意さんが全て話してくれればいいんですけれど……それはダメなんでしょう?」
「考えたな……と感心するのもこれで何回目だろうか」
 彼は眼鏡の位置を直しつつ、にやりと笑う。
「たしかにこの世界を基準にして誤差が極小の平行世界の過去を見てくれば、
それはこの世界の過去を見てきたのとほぼ同じだ」
「できますか?」
「だが断る。」
「えー」
 八意は片手をポケットに入れたまま、もう片方の手をこちらに突き出し、
人差し指を立てて左右に振った。
「私を見くびってもらっては困るな」
 そうして八意はまたポーズをとった。
「科学は日々進歩しているのだよ! ……私の場合は未来の技術を持ってきただけだがな」
「どういうことですか?」
「要は肉体が移動するから私のような状況に陥ってしまうのだ。
 『視点』だけを平行世界に飛ばせればわざわざ肉体を移動させる必要はない。
さらに言えば『こちらが平行世界に行く』のではなく『平行世界の方からこちらの用意した場に来てもら』えれば、
その『場』は一回性であるために無限ループには陥らない。
そして生物の視覚は所詮電気信号でしかなく、物理運命論に立てばその発生はあらかじめ
決められているのだ」
「はぁ」
 彼が何を言っているか全然わからない。
「というわけで……これだ!」
 八意は踊るように近くにあった機材のカバーを取り払った。
姿を現したのは異様な装飾が施された台座に乗った、スイカほどの大きさの丸い水晶で、
表面に施された紋様の彫刻と微かに聞こえるハードディスクの読み込み音から私は
それが魔学機械だとすぐにわかった。高さは台座を含めて私の腰程度までしかないが、
雰囲気は指令室の空中に浮いている巨大な水晶玉にも似ている気がする。
「タイムテレ……『世界視水晶』~!」
 なぜか若干しわがれ声になりつつ、八意はその水晶玉を示した。
「なんですか? これは」
「説明しよう!
 これは『世界視水晶』といって、ものすごくざっくり説明すれば
『平行世界のとある有機生命体が現に得ている、または得た、視覚情報を傍受する魔学機械』だ!
 これを使えばクレオパトラの風呂だって彼女自身の視点で覗ける!」
「すさまじく都合のいい機械ですね」
「ひとことで言えば『タイムテレビ』だ」
「言っちゃった!?」
「あと視界ジャック」
 誇らしげにふんぞり返る八意。
 私は恐る恐るその機械に顔を近づけ、水晶玉の中を覗きこんだ。
 水晶玉はどうやら空洞になっているらしく、
中では虹色のもやがキラキラ光りながら怪しげにうず巻いている。
「まだ設定をしていないから見えないぞ」
 死に、また物影から姿を現した新しい八意が言った。
「見せてくれるんですか? 私がここに来る以前に何をしていたのかを……」
「君次第だ」
 私の問いかけに八意は神妙な面持ちになった。白衣をなおし、まっすぐ私を見る。
私も彼を見た。向き合うと、八意は両腕を広げ、またいつものようにニヤリと口端を吊り上げる。
「果たして君は君自身が具体的に何を知ろうとしているのか理解しているのか?
 『私の過去』と漠然に言うが、『いつ』『どこ』での『だれ』の過去を知りたいのだ?
 それがわからない限り、その機械を使うことはできないぞ」
「そんなの、わかりきってます」
「ほぅ」
 私の返答が意外だったのか、八意はあごを撫でた。
「ならば宣言してみせろ」
「私が知るべきなのは――」
 言いながら私は目をつぶり、思い返していた。
 私の、過去――
 ――そもそも私が私の過去を知りたいのは、天照病院のあのベッド以前が思い出せないからだ。
 じゃあ簡単だ。
「――あのベッドに運び込まれる以前からの、私の視界です」
「よかろう」
 八意は手をすり合わせ、水晶のそばに立ち、手元のデバイスを弄くる。
「対象は志野真実。
 4次元座標から入力、誤差10の10000乗以下。
295/128/755/415/2013.5.**.8753457/alpha/52244886/omega.確定。
 チューニング終了。時空検閲を回避。アカシックレコードにアクセス、
該当箇所の情報検索……ヒット。ダウンロード開始。
 さぁ見るがよい志野真実!」
 そうして八意は水晶をずいと私の目の前に押しやった。
 私は屈み込み、水晶を覗き混んだ。
 水晶の中ではさっきと同じように虹色のもやがうず巻いている。
 と、突然そのうずの勢いが増した。
もやはぐるぐると強い勢いで回転しだし、やがて小さな台風の目のような穴が中央に開く。
 その穴の向こうがわに私は光を見た。
それが太陽の光であり、外の風景であることに気づくのに時間はかからなかった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー