どうしてこうなってしまったんだろう?
僕は目の前の敵と、マリアと戦っている。風のような刃が身体を斬りつけてくるが、それを少しずつかわし
ていく。乱暴に振り回してるように見えるがその太刀筋は意外にも丁寧だ。当たり前か、僕と同じ師の元で学
んだんだしね。まだ小さい彼女が目の前にいるように感じ取れた。
喧嘩っ早かったマリア。そのくせ人一倍泣き虫だったマリア。誰に対しても真っ向から立ち向かうマリア。
いつのころからだろう、本当にいつのころから君が隣にいなかったんだろう?
「はぁぁぁぁぁぁ!」
鋭い突きが僕の喉元を狙ってきたがとっさに身をかがめで避ける。毎回言われたっけ、突きに弱いって……。
じゃあ、こちらもお返しだ。このまま一気に間合いを詰めて、足元を思い切り払う。鍛えたと何回も言う彼女
だったけど足自体は結構細いから払いやすい。
「くっ!」
軽く舌打ちをするとすぐさま床に手を付いて、距離をとる。そこから見えたのは彼女の微笑だった。
楽しいのかな? いや、楽しいんだ。子供の頃にこんな事をしたんだ。仕方ないから僕は手加減をして――。
「うっ……」
彼女の剣が僕の胸を貫いた。鋭い痛みが頭に走る。でも、それ以上に……。
「あっ……」
僕は彼女を抱きしめていた。理想なんか捨ててしまえ、なんて何回も頭の中で思った。
「ようやく……捕まえた」
心から出た言葉に僕は涙を流した。そして彼女もまた……あの頃と同じ声で……泣き出した。
僕は目の前の敵と、マリアと戦っている。風のような刃が身体を斬りつけてくるが、それを少しずつかわし
ていく。乱暴に振り回してるように見えるがその太刀筋は意外にも丁寧だ。当たり前か、僕と同じ師の元で学
んだんだしね。まだ小さい彼女が目の前にいるように感じ取れた。
喧嘩っ早かったマリア。そのくせ人一倍泣き虫だったマリア。誰に対しても真っ向から立ち向かうマリア。
いつのころからだろう、本当にいつのころから君が隣にいなかったんだろう?
「はぁぁぁぁぁぁ!」
鋭い突きが僕の喉元を狙ってきたがとっさに身をかがめで避ける。毎回言われたっけ、突きに弱いって……。
じゃあ、こちらもお返しだ。このまま一気に間合いを詰めて、足元を思い切り払う。鍛えたと何回も言う彼女
だったけど足自体は結構細いから払いやすい。
「くっ!」
軽く舌打ちをするとすぐさま床に手を付いて、距離をとる。そこから見えたのは彼女の微笑だった。
楽しいのかな? いや、楽しいんだ。子供の頃にこんな事をしたんだ。仕方ないから僕は手加減をして――。
「うっ……」
彼女の剣が僕の胸を貫いた。鋭い痛みが頭に走る。でも、それ以上に……。
「あっ……」
僕は彼女を抱きしめていた。理想なんか捨ててしまえ、なんて何回も頭の中で思った。
「ようやく……捕まえた」
心から出た言葉に僕は涙を流した。そして彼女もまた……あの頃と同じ声で……泣き出した。
森宮祐一の傷が完全に塞がったのはエグザトリアに搭乗して早くも三ヶ月が経った頃だった。
通っていた学校は既に完全閉校しており、自分以外の生徒は別の学校に通っている事を看護士から聞いていた。
あの件でかなりの人間が死んだらしい。学校は破壊され、病院やビル、クラブハウスも潰された。自分が住
んでいたマンションは完全に廃墟となっており、家具一式から始まり、冷蔵庫からテレビといった家電製品、
そして父が残したメモもバイラムの襲撃によって炎と共に無くなっていた。
祐一は自分の身体に視線を送る。きつく巻かれた包帯は自分の身体を圧迫し、立つことは出来るが細かい動
作ができず、ほとんどベッドのリクライニング機能を使わなければ起き上がることが出来なかった。
そろそろ退院かな? そう思うが医者からは内臓にまで傷が到達しているのでもう少し入院してくれと言われた。
テレビをつけてみる。朝早いこの時間にやっているのはニュース番組だけだ。
「ですから、我々はアンギュロスに対して報復をするべきなのですよ!」
「しかしねぇ…各都市部の復興の方が最重要ではありませんか?」
「それよりも降伏するべきですよ、バイラムの相手になるのなんてあのエグザトリアしかないではないですか!」
背広姿のコメンテーターたちは激しい議論を重ねている。だが祐一にはその殆どが保身にしか見えなかった。
今、バイラムに来られたら一溜まりもないんじゃないか。
醜悪なコメントを繰り返すばかりのコメンテーターたちに嫌気がさしたのでテレビを消し、そのままベット
へと寝転がる。何も無い白い天井には蛍光灯が同じような光を降らせてきた。
「メアリー……」
祐一は小さく呟いた。
アステロイドベルトに自分がいる。そう言い残し、メアリーは飛び立っていった。軍人でもなければ宇宙飛
行士でもない僕がいけるはずがないのに……。だが、彼女の声はとても楽しそうだった。まるでデートを待ち
焦がれているかのように感じた。来て欲しいというサインなのかな? イヤ、本当に来て欲しいのだろう。
「やめておこう、戦場に行くなんていくらなんでも無理だ」
体を横にすると再び瞳をとじた。何度も自分は駄目だと言い聞かせながら。
通っていた学校は既に完全閉校しており、自分以外の生徒は別の学校に通っている事を看護士から聞いていた。
あの件でかなりの人間が死んだらしい。学校は破壊され、病院やビル、クラブハウスも潰された。自分が住
んでいたマンションは完全に廃墟となっており、家具一式から始まり、冷蔵庫からテレビといった家電製品、
そして父が残したメモもバイラムの襲撃によって炎と共に無くなっていた。
祐一は自分の身体に視線を送る。きつく巻かれた包帯は自分の身体を圧迫し、立つことは出来るが細かい動
作ができず、ほとんどベッドのリクライニング機能を使わなければ起き上がることが出来なかった。
そろそろ退院かな? そう思うが医者からは内臓にまで傷が到達しているのでもう少し入院してくれと言われた。
テレビをつけてみる。朝早いこの時間にやっているのはニュース番組だけだ。
「ですから、我々はアンギュロスに対して報復をするべきなのですよ!」
「しかしねぇ…各都市部の復興の方が最重要ではありませんか?」
「それよりも降伏するべきですよ、バイラムの相手になるのなんてあのエグザトリアしかないではないですか!」
背広姿のコメンテーターたちは激しい議論を重ねている。だが祐一にはその殆どが保身にしか見えなかった。
今、バイラムに来られたら一溜まりもないんじゃないか。
醜悪なコメントを繰り返すばかりのコメンテーターたちに嫌気がさしたのでテレビを消し、そのままベット
へと寝転がる。何も無い白い天井には蛍光灯が同じような光を降らせてきた。
「メアリー……」
祐一は小さく呟いた。
アステロイドベルトに自分がいる。そう言い残し、メアリーは飛び立っていった。軍人でもなければ宇宙飛
行士でもない僕がいけるはずがないのに……。だが、彼女の声はとても楽しそうだった。まるでデートを待ち
焦がれているかのように感じた。来て欲しいというサインなのかな? イヤ、本当に来て欲しいのだろう。
「やめておこう、戦場に行くなんていくらなんでも無理だ」
体を横にすると再び瞳をとじた。何度も自分は駄目だと言い聞かせながら。
ところ変わって中国南西部。荒野にやや近いこの場所ではいたる所から煙が上がっている。その多くは青龍
や玄武といったAUAのPMだった。そして、その中に黒い機体が混じっている。そうバイラムも――。
「ふんっ!」
コウシュンの掛け声とともにエグザトリアの刃が大きく振るわれるとバイラムを袈裟ごと二つに切り裂いた。
火花を散らしながら大地に横たわると瞳から光が消え、そのまま横たわった。エグザトリアは剣を軽く振っ
て収納すると辺りを見渡すした。緑と茶色の平原に一陣の風が吹き抜けると純白の身体がきらりと光った。
「……隊長、全バイラムの撃破を確認しました」
背後にいる黄龍、リーシェンがそう報告する。レーダーには反応を知らせる光点が見えないことからこの辺
りのバイラムは既に駆逐されてしまったようだ。先ほどの戦いで倒したのがAUAに存在する最後のバイラム
だったのだろう。炎と黒煙が吹き荒れ、骸が横たわる戦場を再度、見渡すとコウシュンは軽くため息を付いた。
「そうか……帰還するぞ。破片の回収はほかの奴らに任せるとしよう」
「了解!」
リーシェンがそういうとエグザトリアと黄龍が大空へと飛び立っていった。
他の奴らとはバイラム調査委員会のことである。ADAM乗組員の脳が使われたこの機体はバイラムのブラ
ックボックスを回収し身元を特定、そして遺族へと引き渡すのを主な仕事としている。もっとも身元判明率は
かなり低く、現在で家族の元へ帰ってきた人間は回収した分の2割でしかなかった。その理由は森宮一明のよ
うな機体の癖が少ない事とDNA検査によって死亡するケースが存在するからだ。そして、身元が判明したと
しても多くの場合、そのまま無名墓地へと移送される事が多い。逆恨みを恐れてか、もしくは家族全員が今回
の騒動によって死亡したか、のどちらかである。
「それにしてもすごい機体ですね……このエグザトリアという機体は……」
「ああ……」
リーシェンはエグザトリアの戦いを思い出した。
バイラムの攻撃を食らっても傷がつかない装甲。そして瞬時といってもいいほど懐に飛び込んだ機動力と運
動性能。そして、腰に付いているライフルを一度も使わずに倒した攻撃力。センサー類もかなりいい物らしく、
黄龍が捕らえられ無い距離から既に敵機を捕捉していたのだ。更に何か奥の手らしいものが見え隠れするのも
恐怖の対象であった。戦闘の最中、時折、コウシュンのうめき声が聞こえてくることがあった。恐らく、この
機体にあまりついていけてないようだ。
これもバイラムの一種なのか?
そう思うと背筋が凍りついた。これがバイラムと同じように量産機ならば地球はあっさりと壊滅するだろう。
リーシェンは前方を飛んでいるエグザトリアへ視線を送る。いや、睨み付けると言ったほうが正しかった。
コウシュン隊長もこの気体の恐ろしさを感じ取っているのだろう。
その証拠にコウシュンは多く語らない。ひたすらバイラムを斬り捨てるだけであった。無論、ライフルは使
えたが全く使うことなく、エグザトリアが持つ剣のみでバイラムを倒したのだった。
未知の機体である以上、慎重になるのは理解できたが、やはり……。
そんな考えをしているうちに基地が見えてきた。そのまますべるように滑走路に着陸すると格納庫へと向か
い、機体を停止させる。そしてハッチを開くと重い地響きと音をさせながら格納庫の中へと入る。そしてハン
ガーが到着すると息苦しいヘルメットをはずし、一息つく。
「お疲れ様です!」
「ご苦労、水原」
コックピットから降りると奈央が出迎えた。コウシュンは奈央に頭を下げるとそのまま格納庫を去っていた。
その後に次いでリーシェンも降りてくる。スーツの首周りを軽く緩めると去っていくコウシュンの背中を見つめた。
「難しい顔をしてますね」
「まあ、仕方ないだろう。慣れないものに乗ったのだからな」
エグザトリアへの作業はほとんど突貫であった。奈央も作業を手伝ったがエグザトリアはオーバーテクノロ
ジーの塊といっても過言ではなく、出来たのはせいぜいコックピット回りの調整のみ。後はせいぜい電子マニュ
アルの呼び出し程度であった。が、それでも乗りこなし、無事に生還しただけでもコウシュンのすごさがリー
シェンには理解できた。
リーシェンはゆっくりとした足取りで格納庫の奥へ歩いていくとそこにある物に視線を向けた。
「それにしてもよく集まったものだ」
「はい……」
二人は格納庫の奥にある物、すなわちバイラムの残骸を見る。山のように積まれており、全てここ数日で集
めたものである。アジアで暴れていたバイラムは全てエグザトリアによって殲滅させられたのだった。が、残
骸を集めろと指示をしたのは他ならぬヨウシンであった。目的は奈央も彼の口から聞かされるまで分からなかった。
「これを軽く加工して各部隊に送られます。それで対バイラム兵器とするそうです」
「対バイラム兵器か……」
リーシェンには苦肉の策に見えた。元々黄龍もバイラムと戦うために作られた機体である。しかし、それを
複数作るとなるとかなり骨の折れる作業となる。経済が混乱し、物資が不足する現在ではバイラムの残骸を加
工し、それらを武器としたほうが効率が良かった。
ふと、隣にいる奈央に視線を送る。奈央の顔からは怒りや悲しみ、恐怖やジレンマといった物が何も一つ感
じなかった。
「水原、お前は――」
大丈夫なのか? それでいいのか? なぜ軍に戻った?
そんな疑問を口にしようとする。が、全てを言う前に奈央は明るい口調で言った。
「リーシェン少尉、終わりにしましょう。この戦いを」
だが、リーシェンには痛々しい言葉でしかなかった。おそらく無理をしている。いや、もう限界を超えてし
まったのだろう。その事実がリーシェンにとって一番辛かった。以前のように抜ける事があるだろうがそれは
バイラムとの、アンギュロスとの戦いを終わらせてからだろう。
「……ああ、そうだな」
この言葉とともにバイラムの残骸へ視線を向けた。かつて人々を恐怖させた黒の塊は何も言わず、ただその
存在だけを誇示だけしていた。
や玄武といったAUAのPMだった。そして、その中に黒い機体が混じっている。そうバイラムも――。
「ふんっ!」
コウシュンの掛け声とともにエグザトリアの刃が大きく振るわれるとバイラムを袈裟ごと二つに切り裂いた。
火花を散らしながら大地に横たわると瞳から光が消え、そのまま横たわった。エグザトリアは剣を軽く振っ
て収納すると辺りを見渡すした。緑と茶色の平原に一陣の風が吹き抜けると純白の身体がきらりと光った。
「……隊長、全バイラムの撃破を確認しました」
背後にいる黄龍、リーシェンがそう報告する。レーダーには反応を知らせる光点が見えないことからこの辺
りのバイラムは既に駆逐されてしまったようだ。先ほどの戦いで倒したのがAUAに存在する最後のバイラム
だったのだろう。炎と黒煙が吹き荒れ、骸が横たわる戦場を再度、見渡すとコウシュンは軽くため息を付いた。
「そうか……帰還するぞ。破片の回収はほかの奴らに任せるとしよう」
「了解!」
リーシェンがそういうとエグザトリアと黄龍が大空へと飛び立っていった。
他の奴らとはバイラム調査委員会のことである。ADAM乗組員の脳が使われたこの機体はバイラムのブラ
ックボックスを回収し身元を特定、そして遺族へと引き渡すのを主な仕事としている。もっとも身元判明率は
かなり低く、現在で家族の元へ帰ってきた人間は回収した分の2割でしかなかった。その理由は森宮一明のよ
うな機体の癖が少ない事とDNA検査によって死亡するケースが存在するからだ。そして、身元が判明したと
しても多くの場合、そのまま無名墓地へと移送される事が多い。逆恨みを恐れてか、もしくは家族全員が今回
の騒動によって死亡したか、のどちらかである。
「それにしてもすごい機体ですね……このエグザトリアという機体は……」
「ああ……」
リーシェンはエグザトリアの戦いを思い出した。
バイラムの攻撃を食らっても傷がつかない装甲。そして瞬時といってもいいほど懐に飛び込んだ機動力と運
動性能。そして、腰に付いているライフルを一度も使わずに倒した攻撃力。センサー類もかなりいい物らしく、
黄龍が捕らえられ無い距離から既に敵機を捕捉していたのだ。更に何か奥の手らしいものが見え隠れするのも
恐怖の対象であった。戦闘の最中、時折、コウシュンのうめき声が聞こえてくることがあった。恐らく、この
機体にあまりついていけてないようだ。
これもバイラムの一種なのか?
そう思うと背筋が凍りついた。これがバイラムと同じように量産機ならば地球はあっさりと壊滅するだろう。
リーシェンは前方を飛んでいるエグザトリアへ視線を送る。いや、睨み付けると言ったほうが正しかった。
コウシュン隊長もこの気体の恐ろしさを感じ取っているのだろう。
その証拠にコウシュンは多く語らない。ひたすらバイラムを斬り捨てるだけであった。無論、ライフルは使
えたが全く使うことなく、エグザトリアが持つ剣のみでバイラムを倒したのだった。
未知の機体である以上、慎重になるのは理解できたが、やはり……。
そんな考えをしているうちに基地が見えてきた。そのまますべるように滑走路に着陸すると格納庫へと向か
い、機体を停止させる。そしてハッチを開くと重い地響きと音をさせながら格納庫の中へと入る。そしてハン
ガーが到着すると息苦しいヘルメットをはずし、一息つく。
「お疲れ様です!」
「ご苦労、水原」
コックピットから降りると奈央が出迎えた。コウシュンは奈央に頭を下げるとそのまま格納庫を去っていた。
その後に次いでリーシェンも降りてくる。スーツの首周りを軽く緩めると去っていくコウシュンの背中を見つめた。
「難しい顔をしてますね」
「まあ、仕方ないだろう。慣れないものに乗ったのだからな」
エグザトリアへの作業はほとんど突貫であった。奈央も作業を手伝ったがエグザトリアはオーバーテクノロ
ジーの塊といっても過言ではなく、出来たのはせいぜいコックピット回りの調整のみ。後はせいぜい電子マニュ
アルの呼び出し程度であった。が、それでも乗りこなし、無事に生還しただけでもコウシュンのすごさがリー
シェンには理解できた。
リーシェンはゆっくりとした足取りで格納庫の奥へ歩いていくとそこにある物に視線を向けた。
「それにしてもよく集まったものだ」
「はい……」
二人は格納庫の奥にある物、すなわちバイラムの残骸を見る。山のように積まれており、全てここ数日で集
めたものである。アジアで暴れていたバイラムは全てエグザトリアによって殲滅させられたのだった。が、残
骸を集めろと指示をしたのは他ならぬヨウシンであった。目的は奈央も彼の口から聞かされるまで分からなかった。
「これを軽く加工して各部隊に送られます。それで対バイラム兵器とするそうです」
「対バイラム兵器か……」
リーシェンには苦肉の策に見えた。元々黄龍もバイラムと戦うために作られた機体である。しかし、それを
複数作るとなるとかなり骨の折れる作業となる。経済が混乱し、物資が不足する現在ではバイラムの残骸を加
工し、それらを武器としたほうが効率が良かった。
ふと、隣にいる奈央に視線を送る。奈央の顔からは怒りや悲しみ、恐怖やジレンマといった物が何も一つ感
じなかった。
「水原、お前は――」
大丈夫なのか? それでいいのか? なぜ軍に戻った?
そんな疑問を口にしようとする。が、全てを言う前に奈央は明るい口調で言った。
「リーシェン少尉、終わりにしましょう。この戦いを」
だが、リーシェンには痛々しい言葉でしかなかった。おそらく無理をしている。いや、もう限界を超えてし
まったのだろう。その事実がリーシェンにとって一番辛かった。以前のように抜ける事があるだろうがそれは
バイラムとの、アンギュロスとの戦いを終わらせてからだろう。
「……ああ、そうだな」
この言葉とともにバイラムの残骸へ視線を向けた。かつて人々を恐怖させた黒の塊は何も言わず、ただその
存在だけを誇示だけしていた。
「移送、ですか?」
「ええ、そうです」
司令デスクの上で腕を組んでいるヨウシンの頭に包帯が巻かれている。
簡単な事だった、ほんの数日前に自分の頭を銃弾が掠めたのだ。だが、その際近くにいた民間人に当たり、
大怪我を負うことになった。その民間人は今でも入院をしている。
やったのは政府筋のものだろう。しかもなりふりかまわない所からかなり焦っている事が容易に分かった。
確かに自分はこの戦いにおいて政府の裏を暴いてしまった。だが、民間人ごと殺害する行為にヨウシンは怒
りを覚えた。テロリストを忌み嫌うくせに自分たちはそれを省みようとしないことに腹が立つ。見つけ出して
制裁をしてやりたいところであったがそれ以上にバイラム対策に時間を追われた。当然のようにその間に暗殺
の手が迫っており、毒薬、狙撃、通り魔。など気が休まる暇もなかった。
が、それもすぐ終りを告げた。理由は簡単、政府高官の一部が市民の手によって私刑にされたのだ。
無論、それ自体は問題ではなかった。それは単なる犯罪の一つでしかないのだが……。
しかし、政府高官たちは自分たちに飛び火する事を恐れ、市民たちを暴徒として鎮圧したのだった。
自分たちが引き起こした事に対し、反省の意もなく……。
ヨウシンはやむなく市民を守るため、軍を動かした。案の定、政府からは反乱軍扱いされたが世論はヨウシ
ンの擁護に動いた。そしてバイラムを作り出した政府高官はみな解雇という形となり、形式上の暫定政府が誕生した。
その間ヨウシンは軍備力を着実に蓄えていた。PMの補充から始まり艦隊の建て直し、食料や弾薬を初めとする
軍蓄品の準備。そして、人員の募集。目の回るような日々では会ったがそれもそろそろ終わるとヨウシンは確
信していた。エグザトリアという存在が国連に知られた日に。
「我々以外にもエグザトリアのデータを欲する人は多いでしょう」
バイラム以上の高性能機、エグザトリア。現在は国連の管理下の元、各国への移送をしている。
この提案を行ったのはヨウシンであり、国連はそれを承諾するという形になった。もっとも、国連もハワー
ドが精力的に動いているため、この提案は時間の問題であった。どちらにしてもエグザトリアはAUAだけで
は手に余りすぎた。そしてその移送任務を目の前にいるコウシュンに頼もうというのだ。
現在もバイラムの猛威はいまだ続いている。自分たち、AUAはエグザトリアの使用によって沈静したのだ
が他の国、ユニオンやステイツといった所ではいまだにバイラム警報が敷かれている。
市民の間で言いようのない不安が渦巻いていることもヨウシンもコウシュンも知っている。
そしてその不安の根源にあるというのが今だにバイラムに歯が立たない、という事であった。
もうすぐバイラムが来て一年になるというのにだ。対策をするにしても金がかかりすぎる。
もっとも、現在の段階で百億を超えた人類が二十億という小数になった時点で金の価値はほとんどなくなっ
てしまった。今回の騒動で地図から消えた町はい二百は超えたのだ。高齢化社会など言われてた昨今だがあっ
という間にその数は次々と減り続けている。
「了解しました、早速移送をします。では」
コウシュンは敬礼をするとすぐさま機敏な動きで部屋を出て行った。
その様子を見ながらヨウシンは机の上にある受話器に手を伸ばす。
「私です。最終決戦用作戦プランをお送りします」
数秒の無言の後、電話機は切られた。
「ええ、そうです」
司令デスクの上で腕を組んでいるヨウシンの頭に包帯が巻かれている。
簡単な事だった、ほんの数日前に自分の頭を銃弾が掠めたのだ。だが、その際近くにいた民間人に当たり、
大怪我を負うことになった。その民間人は今でも入院をしている。
やったのは政府筋のものだろう。しかもなりふりかまわない所からかなり焦っている事が容易に分かった。
確かに自分はこの戦いにおいて政府の裏を暴いてしまった。だが、民間人ごと殺害する行為にヨウシンは怒
りを覚えた。テロリストを忌み嫌うくせに自分たちはそれを省みようとしないことに腹が立つ。見つけ出して
制裁をしてやりたいところであったがそれ以上にバイラム対策に時間を追われた。当然のようにその間に暗殺
の手が迫っており、毒薬、狙撃、通り魔。など気が休まる暇もなかった。
が、それもすぐ終りを告げた。理由は簡単、政府高官の一部が市民の手によって私刑にされたのだ。
無論、それ自体は問題ではなかった。それは単なる犯罪の一つでしかないのだが……。
しかし、政府高官たちは自分たちに飛び火する事を恐れ、市民たちを暴徒として鎮圧したのだった。
自分たちが引き起こした事に対し、反省の意もなく……。
ヨウシンはやむなく市民を守るため、軍を動かした。案の定、政府からは反乱軍扱いされたが世論はヨウシ
ンの擁護に動いた。そしてバイラムを作り出した政府高官はみな解雇という形となり、形式上の暫定政府が誕生した。
その間ヨウシンは軍備力を着実に蓄えていた。PMの補充から始まり艦隊の建て直し、食料や弾薬を初めとする
軍蓄品の準備。そして、人員の募集。目の回るような日々では会ったがそれもそろそろ終わるとヨウシンは確
信していた。エグザトリアという存在が国連に知られた日に。
「我々以外にもエグザトリアのデータを欲する人は多いでしょう」
バイラム以上の高性能機、エグザトリア。現在は国連の管理下の元、各国への移送をしている。
この提案を行ったのはヨウシンであり、国連はそれを承諾するという形になった。もっとも、国連もハワー
ドが精力的に動いているため、この提案は時間の問題であった。どちらにしてもエグザトリアはAUAだけで
は手に余りすぎた。そしてその移送任務を目の前にいるコウシュンに頼もうというのだ。
現在もバイラムの猛威はいまだ続いている。自分たち、AUAはエグザトリアの使用によって沈静したのだ
が他の国、ユニオンやステイツといった所ではいまだにバイラム警報が敷かれている。
市民の間で言いようのない不安が渦巻いていることもヨウシンもコウシュンも知っている。
そしてその不安の根源にあるというのが今だにバイラムに歯が立たない、という事であった。
もうすぐバイラムが来て一年になるというのにだ。対策をするにしても金がかかりすぎる。
もっとも、現在の段階で百億を超えた人類が二十億という小数になった時点で金の価値はほとんどなくなっ
てしまった。今回の騒動で地図から消えた町はい二百は超えたのだ。高齢化社会など言われてた昨今だがあっ
という間にその数は次々と減り続けている。
「了解しました、早速移送をします。では」
コウシュンは敬礼をするとすぐさま機敏な動きで部屋を出て行った。
その様子を見ながらヨウシンは机の上にある受話器に手を伸ばす。
「私です。最終決戦用作戦プランをお送りします」
数秒の無言の後、電話機は切られた。
アトランティスのアンギュロスが撤退をして一日が経っていた。
海上都市アトランティスは先ほどの戦闘行為に抗議をすると言っているがテロリストであるバイラムを匿っ
たという事実と今回の後始末のため、抗議は有耶無耶のまま終わるのは誰の目にも明白であった。
そして、ボルスとファルたちはフリューゲルスのブリーフィングルームに集まっていた。
全員が目の前にいる女性、カミーラへ視線を注いでいる。カミーラはあわてた様子もなく、ひっそりとした
様子で座っていた。先ほど、彼女が知り得る情報を話し終えたところであった。
「以上が私が知っている情報です」
カミーラがそう言うとボルスは大きくため息をついた。
「なるほど、良く分かりました……」
あまりの事に気がどうにかなりそうだった。目の前に居る女性は異星人で今回の戦いを仕組んだのは三強の
政治家たちであり、バイラムは外宇宙を探査するために呼び出された宇宙飛行士だった。そして、異星人との
交渉が決裂したため幾つ物市民の命が失われた。
たったそれだけなのだ。それだけのために……。
ボルスはつい歯軋りをしてしまった。言いようのない怒りが奥底から湧き上がってくる。
口先三寸で彼らに投票した民衆は愚かななのか? 世のため人のために働くと言うのは意味がないことなのか?
もしも暴れてもいいというのならば机を拳で叩き壊し、椅子を壁に投げつけたり、モニターを全て壊したかった。
でもそうはしなかったのは本当の敵を見つめ直さなくてはいけないからである。
軽く一呼吸を置き――。
「それで……?」
「それでとは?」
「事の顛末は理解できました。しかし、あなた方のことを我々はよく知りません」
ボルスが言いたいのはアンギュロス側はどんな対応を示しているのか、という事である。
もしも戦いが続けばこちらは確実に負けるだろう。バイラムが量産機、しかも今も各都市へ進撃をしている。
何とか和平に持ち込みたいというのが本音であったが今の彼の心は友の敵と軍人としての使命で揺れていた。
少なくともあのセルという女を討ち取らねば気が済まん。
「そうですね、現在のところほとんどコールドスリープをしています」
「ほとんど? そちらは一体何人居るんですか??」
「人口はおおよそ七十億程度です」
この言葉に全員言葉を失った。彼女が宇宙の放浪者で火星を欲しがっていることは理解できた。
しかし、その数は地球の人口とほぼ同じと言い放ったのだ。
もしも目覚めたとするなら地球へと襲い掛かってくるのではないか、いやカミーラのように地球へと共住す
るものもいるだろう。だが、割合を考えれば数億にも上るだろう。
そんな空気の中、すかさずマールが言葉を続けた。
「では、貴方達の方で動いているのは?」
「私を含め、ほんの百名ぐらいでしょうか?」
「百人ねぇ……」
ファルは頭をかきながら言葉を濁した。
ファルと同じようにマール、ボルス、ビスマルク隊の面々もまたお互いに顔を見合わせていた。
一堂の中に流れていた空気は”信じられない”だけであった。。
地球が手引きしたのは理解できていた。だが、あまりにも人数が少なすぎるのだ。
百人、決して多くもない数字なのだがどうにも全員納得がいかなかった。
その証拠に顔をしかめている者、彼女に疑いの眼差しを向けている者、新手のジョークだと思っている者。
多種多様な反応を示していた。カミーラ以外の人間はそれだけの人数で地球人類の数割の命を持っていかれた
ことが信じられないのであった。
「もちろん、動いているもの全てがこの計画に賛同したわけではありません」
「まあ、当然っちゃあ当然だと思うけど……んで? あんたはなにを担当してたの?」
「一応、条約の調停係を務めました。結んだのはおおよそ五年前ぐらいでしょうか?」
「五年前…か……」
ボルスは感慨深そうに昔を思い出した。
丁度、あの頃は軍に対して風当たりが強かった。戦争需要は非人道的、国を食い物にしている、など沢山の
批判を浴びていたことをボルスは覚えていた。当時、軍に入るという事を両親から反対されたのも今でも覚えていた。
「調停係って事は政府との交渉をしたってことですよね?」
「ええ、駆け引き……らしいことはほとんどしてませんね。火星の開発は困難を極めていたらしいですから」
火星の状況は思ったより芳しくなかった。理由は簡単、これといった物が何一つなかったからだ。
火星の石自体も現在では価値が薄く、土地自体も作物が育たない問い状況であった。
そのため、スポンサーがなくなり、最低限の基地を残し消え去ろうとしていた。
「今回の件が終われば火星は私たちのものになるはずでした……が、こうなってしまった以上戦争は避けられません」
カミーラの言葉がボルスたちにのしかかった。約束を破った彼らに対する報復は筋が通っているからだ。
が、だからといって民間人への攻撃は許されないだろう、と思うボルスであった。
「それで彼ら……でいいのかな? とにかく向こう側は和平をするつもりはあるのでしょうか? 再交渉って
いう形になりますけど、少なくともお互いに戦闘を続けるメリットはないと思うのですが……」
マールの言葉にカミーラは少し戸惑ったような顔をするが首を軽く横に振るとすぐさま口を開いた。
「残念ですがおそらくはないと思われます」
カミーラの言葉にマールは首をかしげた。ボルスも腑に落ちないらしく眉間に皺を寄せている。
戦争を続ける理由は二つ。資源を求める「資源奪取」宗教のような「正当性の証明」が一般的なのだがカミ
ーラたちはそうではないらしい。
「どうして?」
「都市部を襲った時点で既に交渉の席は無くなったと判断します。無論、組織が変わったからと言って人間が
変わった程度では向こうは納得しないでしょう」
「えっと、つまり?」
「この戦いを終わらせるにはあちらのトップを殺害するしかありません」
カミーラの言葉に全員が騒然とした。
彼女が言った言葉は降伏は認められない。という意味なのだから。
しかも政治ならば落とし所を決めるのだがそれすら出来ず、どちらかが滅びるまで戦争は続行するという意
味がある。そこに終わらせるゴールはなく、ただひたすら屍の山を作る事となるのだ。
それだけではない、最悪なのはあのバイラムが相手なのだ。
口では言わないがおそらくバイラムの数はADAM乗組員と同意とするならその数は数十機に及ぶ。
そしてそのバイラムの壁を突破し、敵の総大将の首を取る。
あまりの事にマールもボルスもファルもみんな口を閉ざしてしまった。
空気を打破するためにボルスは苦し紛れに言葉を並べてみる。
「と、ところで彼女のバイラムといい、初代のバイラムといい、あの血管のようなラインはなんだ?」
前々から気にはなっていた。あの状態のバイラムは異常ともいえる機動力を有していた。
戦い方もより凶暴性や感性が増し、ボルスたちは一瞬でも気を抜いたら死んでいただろう。
「EX1、正確な名前はエクストリームアクセルワン。強襲用の短時間戦闘形態です、リミッターを解除する
事により一時的に戦闘力を上げるのです。発動にはタイムリミットがあるので使い方は限られていますが……」
「それは理解しているが……」
耐えられるのか? とてもじゃないがタイムリミットがついているとは到底思えなかった。
最初のバイラムとの決戦で見せたあの力はあまりにもでたらめ過ぎた。
一方的といっても過言ではない。空母を何隻も落とし、PMが紙切れのように千切れ飛ぶ。
目で追うことは絶対出来ないだろう。明らかにマッハを超えている。
同じスピードであったとしてもそれ以上の”何か”を隠し持っているのは確実であった。
「やってもらわなければ困ります」
不安そうな顔をしているボルスをばっさりと切り捨てた。
無論、ほかならぬ彼女もまたそう思っているのだろう。
「……苦しい戦いだな」
「ええ……」
ボルスとマールは事態の再認識をする。もはや国の垣根といった物はなくなり、あるのは事態を打破するた
めにどのような手段をとるか、だけであった。
ただし、その手段はどれを選んで茨の道である事は全員、理解をしていた。
「すみませんが……そろそろ」
カミーラは手を上げて話の終りを申し出た。隊員たちの顔には長話で疲れの色が見え始めている。
ファルもマールも考えをまとめたいという顔でカミーラを見ていた。
「ああ、引き止めて悪かった」
「いえ、お気になさらず」
カミーラが頭を下げるとボルスもまた同じように頭を下げた。
海上都市アトランティスは先ほどの戦闘行為に抗議をすると言っているがテロリストであるバイラムを匿っ
たという事実と今回の後始末のため、抗議は有耶無耶のまま終わるのは誰の目にも明白であった。
そして、ボルスとファルたちはフリューゲルスのブリーフィングルームに集まっていた。
全員が目の前にいる女性、カミーラへ視線を注いでいる。カミーラはあわてた様子もなく、ひっそりとした
様子で座っていた。先ほど、彼女が知り得る情報を話し終えたところであった。
「以上が私が知っている情報です」
カミーラがそう言うとボルスは大きくため息をついた。
「なるほど、良く分かりました……」
あまりの事に気がどうにかなりそうだった。目の前に居る女性は異星人で今回の戦いを仕組んだのは三強の
政治家たちであり、バイラムは外宇宙を探査するために呼び出された宇宙飛行士だった。そして、異星人との
交渉が決裂したため幾つ物市民の命が失われた。
たったそれだけなのだ。それだけのために……。
ボルスはつい歯軋りをしてしまった。言いようのない怒りが奥底から湧き上がってくる。
口先三寸で彼らに投票した民衆は愚かななのか? 世のため人のために働くと言うのは意味がないことなのか?
もしも暴れてもいいというのならば机を拳で叩き壊し、椅子を壁に投げつけたり、モニターを全て壊したかった。
でもそうはしなかったのは本当の敵を見つめ直さなくてはいけないからである。
軽く一呼吸を置き――。
「それで……?」
「それでとは?」
「事の顛末は理解できました。しかし、あなた方のことを我々はよく知りません」
ボルスが言いたいのはアンギュロス側はどんな対応を示しているのか、という事である。
もしも戦いが続けばこちらは確実に負けるだろう。バイラムが量産機、しかも今も各都市へ進撃をしている。
何とか和平に持ち込みたいというのが本音であったが今の彼の心は友の敵と軍人としての使命で揺れていた。
少なくともあのセルという女を討ち取らねば気が済まん。
「そうですね、現在のところほとんどコールドスリープをしています」
「ほとんど? そちらは一体何人居るんですか??」
「人口はおおよそ七十億程度です」
この言葉に全員言葉を失った。彼女が宇宙の放浪者で火星を欲しがっていることは理解できた。
しかし、その数は地球の人口とほぼ同じと言い放ったのだ。
もしも目覚めたとするなら地球へと襲い掛かってくるのではないか、いやカミーラのように地球へと共住す
るものもいるだろう。だが、割合を考えれば数億にも上るだろう。
そんな空気の中、すかさずマールが言葉を続けた。
「では、貴方達の方で動いているのは?」
「私を含め、ほんの百名ぐらいでしょうか?」
「百人ねぇ……」
ファルは頭をかきながら言葉を濁した。
ファルと同じようにマール、ボルス、ビスマルク隊の面々もまたお互いに顔を見合わせていた。
一堂の中に流れていた空気は”信じられない”だけであった。。
地球が手引きしたのは理解できていた。だが、あまりにも人数が少なすぎるのだ。
百人、決して多くもない数字なのだがどうにも全員納得がいかなかった。
その証拠に顔をしかめている者、彼女に疑いの眼差しを向けている者、新手のジョークだと思っている者。
多種多様な反応を示していた。カミーラ以外の人間はそれだけの人数で地球人類の数割の命を持っていかれた
ことが信じられないのであった。
「もちろん、動いているもの全てがこの計画に賛同したわけではありません」
「まあ、当然っちゃあ当然だと思うけど……んで? あんたはなにを担当してたの?」
「一応、条約の調停係を務めました。結んだのはおおよそ五年前ぐらいでしょうか?」
「五年前…か……」
ボルスは感慨深そうに昔を思い出した。
丁度、あの頃は軍に対して風当たりが強かった。戦争需要は非人道的、国を食い物にしている、など沢山の
批判を浴びていたことをボルスは覚えていた。当時、軍に入るという事を両親から反対されたのも今でも覚えていた。
「調停係って事は政府との交渉をしたってことですよね?」
「ええ、駆け引き……らしいことはほとんどしてませんね。火星の開発は困難を極めていたらしいですから」
火星の状況は思ったより芳しくなかった。理由は簡単、これといった物が何一つなかったからだ。
火星の石自体も現在では価値が薄く、土地自体も作物が育たない問い状況であった。
そのため、スポンサーがなくなり、最低限の基地を残し消え去ろうとしていた。
「今回の件が終われば火星は私たちのものになるはずでした……が、こうなってしまった以上戦争は避けられません」
カミーラの言葉がボルスたちにのしかかった。約束を破った彼らに対する報復は筋が通っているからだ。
が、だからといって民間人への攻撃は許されないだろう、と思うボルスであった。
「それで彼ら……でいいのかな? とにかく向こう側は和平をするつもりはあるのでしょうか? 再交渉って
いう形になりますけど、少なくともお互いに戦闘を続けるメリットはないと思うのですが……」
マールの言葉にカミーラは少し戸惑ったような顔をするが首を軽く横に振るとすぐさま口を開いた。
「残念ですがおそらくはないと思われます」
カミーラの言葉にマールは首をかしげた。ボルスも腑に落ちないらしく眉間に皺を寄せている。
戦争を続ける理由は二つ。資源を求める「資源奪取」宗教のような「正当性の証明」が一般的なのだがカミ
ーラたちはそうではないらしい。
「どうして?」
「都市部を襲った時点で既に交渉の席は無くなったと判断します。無論、組織が変わったからと言って人間が
変わった程度では向こうは納得しないでしょう」
「えっと、つまり?」
「この戦いを終わらせるにはあちらのトップを殺害するしかありません」
カミーラの言葉に全員が騒然とした。
彼女が言った言葉は降伏は認められない。という意味なのだから。
しかも政治ならば落とし所を決めるのだがそれすら出来ず、どちらかが滅びるまで戦争は続行するという意
味がある。そこに終わらせるゴールはなく、ただひたすら屍の山を作る事となるのだ。
それだけではない、最悪なのはあのバイラムが相手なのだ。
口では言わないがおそらくバイラムの数はADAM乗組員と同意とするならその数は数十機に及ぶ。
そしてそのバイラムの壁を突破し、敵の総大将の首を取る。
あまりの事にマールもボルスもファルもみんな口を閉ざしてしまった。
空気を打破するためにボルスは苦し紛れに言葉を並べてみる。
「と、ところで彼女のバイラムといい、初代のバイラムといい、あの血管のようなラインはなんだ?」
前々から気にはなっていた。あの状態のバイラムは異常ともいえる機動力を有していた。
戦い方もより凶暴性や感性が増し、ボルスたちは一瞬でも気を抜いたら死んでいただろう。
「EX1、正確な名前はエクストリームアクセルワン。強襲用の短時間戦闘形態です、リミッターを解除する
事により一時的に戦闘力を上げるのです。発動にはタイムリミットがあるので使い方は限られていますが……」
「それは理解しているが……」
耐えられるのか? とてもじゃないがタイムリミットがついているとは到底思えなかった。
最初のバイラムとの決戦で見せたあの力はあまりにもでたらめ過ぎた。
一方的といっても過言ではない。空母を何隻も落とし、PMが紙切れのように千切れ飛ぶ。
目で追うことは絶対出来ないだろう。明らかにマッハを超えている。
同じスピードであったとしてもそれ以上の”何か”を隠し持っているのは確実であった。
「やってもらわなければ困ります」
不安そうな顔をしているボルスをばっさりと切り捨てた。
無論、ほかならぬ彼女もまたそう思っているのだろう。
「……苦しい戦いだな」
「ええ……」
ボルスとマールは事態の再認識をする。もはや国の垣根といった物はなくなり、あるのは事態を打破するた
めにどのような手段をとるか、だけであった。
ただし、その手段はどれを選んで茨の道である事は全員、理解をしていた。
「すみませんが……そろそろ」
カミーラは手を上げて話の終りを申し出た。隊員たちの顔には長話で疲れの色が見え始めている。
ファルもマールも考えをまとめたいという顔でカミーラを見ていた。
「ああ、引き止めて悪かった」
「いえ、お気になさらず」
カミーラが頭を下げるとボルスもまた同じように頭を下げた。
「はぁ……はぁ……」
ブリーフィングルームを出たカミーラの額には脂汗が浮かんでいた。
足取りは重く、ふら付いた様子で通路を進んでいく。
「おい、大丈夫か? 顔が真っ青だぜ」
後ろから声をかけられた。振り向くとそこにいたのはアジャムであった。
彼はフリューゲルスの中を歩き回っていたらしい。
「だ、大丈夫です……」
「……なんか気晴らしでもしようぜ」
「それなら……フェンシングを……」
「フェンシング?」
突然の提案に少し戸惑った。青い顔をしているのは体調不良だと彼は決め付けていたがまさかスポーツをす
るとは思っていなかった。あごに手をやり少し唸ると彼女は懇願するかのようにアジャムを見つめる。
「だめですか?」
「いや、別にかまわねぇが」
「ありがとうございます」
部屋に行くと誰でも使用できるのかスーツからメットまで全て用意されていた。
サイズも男性用のXXLから子供用のSSまで完備されていた。
洗濯技術が進んだ昨今では自動洗浄機能がついている事も珍しくはない。
ちらちらと部屋全体を見渡す。一般的な体育館としてはそう広くはない物の戦艦の部屋しては別格であった。
「あーあ、うらやましいねぇ。傭兵はこういうところをまったく使わせて貰えないんだよな」
傭兵は待機室と割り当てられた部屋、そして自分が乗るPM。それ以外は立ち入り禁止の命を受けている。
理由は簡単だった、自分の国の軍事機密を守るためである。が、カミーラのおかげとマールの申し出により
娯楽施設が開放されているのだ。
「それでは……」
カミーラが器具一式を手にとるとカーテンを引こうとする。がそれに待ったをかける。
「何だよ一緒に着替えるんじゃないのか?」
アジャムの言葉にカミーラは冷めた言い方で返してきた。
「慎みをなくしたら人間は終りですよ」
「ひっでぇの」
そう言いながらしぶしぶとお互い着替え始める。
正直に言えばアジャムはフェンシングをやったことがなかった。柔道、いやサブミッションとして投げ技や
締め技といった物を習得はしているがスポーツの経験はほとんどなかった。バスケットもサッカーも競技とし
ては認識しているがルールや面白さといったものを全く理解していなかった。
「……きもちわりぃ…」
アジャムは思わず顔をしかめてしまう。タイツのようにぴったりとくっつくスーツがどうにも好きになれない。
そしてカーテンが引かれるとそこには白いスーツを着たカミーラが居た。髪の毛は束ねており、すらりとした
シルエットが彼女の美しさを表していた。
「では始めましょう」
「あいよ」
二人は白癬が書かれたい地に付くとそれぞれ構えを取る。だがアジャムの構えはおかしなものであった。
サーベルを両手で持ち、神主のように左右に振り回す。足も蟹股で蛇を捕まえた男、といった感じであった。
「……ポーズが違います」
「そうか?」
「フェンシングのルール、知ってますか?」
「しらねぇ」
すっとぼけた様子のアジャムにややあきれた顔をする。
「なら、最初から説明をしましょう、まずは――」
一通り説明されると大きく頷く。が、頭ではほとんど理解はしていなかった。
せいぜい、頭から上をやられたらダメ。反撃は相手の攻撃をいなしてから。合図をしてから始める。
異星人である彼女のほうが地球の文化に詳しいのはどことなく滑稽に見えた。
二人は再び所定の位置に付くとサーベルをお互いに向ける。
「では、参ります」
「いつでもどうぞ」
その言葉と共にシグナルが点灯する。赤から青に変わると稲妻のように剣がぶつかった。
「うお!」
アジャムは少し躊躇した。理由は簡単、彼女の攻撃が思ってる以上に速かったから。いや、速いなんてもの
じゃない、明らかに力強い男の攻撃だった。が、アジャムも負けてはいない、ぎりぎりのところで飛んでくる
攻撃を紙一重でかわしていく。フェンシングのルール上、左右に大きく動く事は出来ないが最小の動きで徐々
に追い詰めていく。
「もらったぜ!」
一本をとったのはアジャムであった。彼の斬りが見事、彼女の方に決まったのだ。
「……まだこれからですよ」
そう言って再び彼女は構えを取る。アジャムもそれに習い再び構えを取る。
二本目が始まった。今度はこちらの番と言いたげに攻撃を仕掛けるがことごとく避けられていく。
大雑把な動きである事を自覚するが攻撃を止めるわけにはいかなかった。
「フフフフフ……」
突然彼女が笑い出した。声を堪えてはいるが腹のそこから湧き出るかのような笑い声に不気味さを感じた。
そして、ルールを無視するかのように力任せにサーベルを振るってくる。目は血走っており、ずっと笑った
ままであった。 アジャムは知っている。この手の目をして奴はほとんど正気を失ってるという事を。
「お、おい……やめ――」
静止の声も届かずカミーラはどんどん激しく剣を振るった。サーベル同士が激しく衝突する。
激しい剣激が飛んでくる。いや、激しいと言っても異常だった。あからさまに殺意を含んだものである。
思わずしりもちをついた瞬間、カミーラの突きがアジャムの顔面を捉えた。
あまりの激しさにプラスティックが割れた音と共に防具にヒビが入る。が、アジャムはとっさに体を倒し、
ヘルメットと体を見事ずらし、事なきを得た。
「……あっぶねぇ……」
「すみません」
荒い息を整えながら防具を脱ぐ。長い髪を掻き揚げると首筋や額には珠のような汗が浮かんでいた。
顔は先ほどのような青い顔ではなく少し気が晴れたのか少し明るい顔になっていた。そしてサーベルからヘル
メットを抜くと軽く息をついた。
「とにかく、休憩しようぜ。コーヒーでいいか?」
「はい」
ブリーフィングルームを出たカミーラの額には脂汗が浮かんでいた。
足取りは重く、ふら付いた様子で通路を進んでいく。
「おい、大丈夫か? 顔が真っ青だぜ」
後ろから声をかけられた。振り向くとそこにいたのはアジャムであった。
彼はフリューゲルスの中を歩き回っていたらしい。
「だ、大丈夫です……」
「……なんか気晴らしでもしようぜ」
「それなら……フェンシングを……」
「フェンシング?」
突然の提案に少し戸惑った。青い顔をしているのは体調不良だと彼は決め付けていたがまさかスポーツをす
るとは思っていなかった。あごに手をやり少し唸ると彼女は懇願するかのようにアジャムを見つめる。
「だめですか?」
「いや、別にかまわねぇが」
「ありがとうございます」
部屋に行くと誰でも使用できるのかスーツからメットまで全て用意されていた。
サイズも男性用のXXLから子供用のSSまで完備されていた。
洗濯技術が進んだ昨今では自動洗浄機能がついている事も珍しくはない。
ちらちらと部屋全体を見渡す。一般的な体育館としてはそう広くはない物の戦艦の部屋しては別格であった。
「あーあ、うらやましいねぇ。傭兵はこういうところをまったく使わせて貰えないんだよな」
傭兵は待機室と割り当てられた部屋、そして自分が乗るPM。それ以外は立ち入り禁止の命を受けている。
理由は簡単だった、自分の国の軍事機密を守るためである。が、カミーラのおかげとマールの申し出により
娯楽施設が開放されているのだ。
「それでは……」
カミーラが器具一式を手にとるとカーテンを引こうとする。がそれに待ったをかける。
「何だよ一緒に着替えるんじゃないのか?」
アジャムの言葉にカミーラは冷めた言い方で返してきた。
「慎みをなくしたら人間は終りですよ」
「ひっでぇの」
そう言いながらしぶしぶとお互い着替え始める。
正直に言えばアジャムはフェンシングをやったことがなかった。柔道、いやサブミッションとして投げ技や
締め技といった物を習得はしているがスポーツの経験はほとんどなかった。バスケットもサッカーも競技とし
ては認識しているがルールや面白さといったものを全く理解していなかった。
「……きもちわりぃ…」
アジャムは思わず顔をしかめてしまう。タイツのようにぴったりとくっつくスーツがどうにも好きになれない。
そしてカーテンが引かれるとそこには白いスーツを着たカミーラが居た。髪の毛は束ねており、すらりとした
シルエットが彼女の美しさを表していた。
「では始めましょう」
「あいよ」
二人は白癬が書かれたい地に付くとそれぞれ構えを取る。だがアジャムの構えはおかしなものであった。
サーベルを両手で持ち、神主のように左右に振り回す。足も蟹股で蛇を捕まえた男、といった感じであった。
「……ポーズが違います」
「そうか?」
「フェンシングのルール、知ってますか?」
「しらねぇ」
すっとぼけた様子のアジャムにややあきれた顔をする。
「なら、最初から説明をしましょう、まずは――」
一通り説明されると大きく頷く。が、頭ではほとんど理解はしていなかった。
せいぜい、頭から上をやられたらダメ。反撃は相手の攻撃をいなしてから。合図をしてから始める。
異星人である彼女のほうが地球の文化に詳しいのはどことなく滑稽に見えた。
二人は再び所定の位置に付くとサーベルをお互いに向ける。
「では、参ります」
「いつでもどうぞ」
その言葉と共にシグナルが点灯する。赤から青に変わると稲妻のように剣がぶつかった。
「うお!」
アジャムは少し躊躇した。理由は簡単、彼女の攻撃が思ってる以上に速かったから。いや、速いなんてもの
じゃない、明らかに力強い男の攻撃だった。が、アジャムも負けてはいない、ぎりぎりのところで飛んでくる
攻撃を紙一重でかわしていく。フェンシングのルール上、左右に大きく動く事は出来ないが最小の動きで徐々
に追い詰めていく。
「もらったぜ!」
一本をとったのはアジャムであった。彼の斬りが見事、彼女の方に決まったのだ。
「……まだこれからですよ」
そう言って再び彼女は構えを取る。アジャムもそれに習い再び構えを取る。
二本目が始まった。今度はこちらの番と言いたげに攻撃を仕掛けるがことごとく避けられていく。
大雑把な動きである事を自覚するが攻撃を止めるわけにはいかなかった。
「フフフフフ……」
突然彼女が笑い出した。声を堪えてはいるが腹のそこから湧き出るかのような笑い声に不気味さを感じた。
そして、ルールを無視するかのように力任せにサーベルを振るってくる。目は血走っており、ずっと笑った
ままであった。 アジャムは知っている。この手の目をして奴はほとんど正気を失ってるという事を。
「お、おい……やめ――」
静止の声も届かずカミーラはどんどん激しく剣を振るった。サーベル同士が激しく衝突する。
激しい剣激が飛んでくる。いや、激しいと言っても異常だった。あからさまに殺意を含んだものである。
思わずしりもちをついた瞬間、カミーラの突きがアジャムの顔面を捉えた。
あまりの激しさにプラスティックが割れた音と共に防具にヒビが入る。が、アジャムはとっさに体を倒し、
ヘルメットと体を見事ずらし、事なきを得た。
「……あっぶねぇ……」
「すみません」
荒い息を整えながら防具を脱ぐ。長い髪を掻き揚げると首筋や額には珠のような汗が浮かんでいた。
顔は先ほどのような青い顔ではなく少し気が晴れたのか少し明るい顔になっていた。そしてサーベルからヘル
メットを抜くと軽く息をついた。
「とにかく、休憩しようぜ。コーヒーでいいか?」
「はい」
缶コーヒー受け取ると近くにあるベンチに座った。彼女の気分は安定したらしくいつもの顔色に戻っている。
「…なあ、あんたらの事を聞かせてくれよ」
常々思っていた事を口にする。異星人だという彼女についてアジャムは、いや、地球人は誰一人として知らない。
せいぜい、火星を欲しがっている異星人という印象はあるがどこで生まれどのように育ったのかはまった分
からず、謎のベールに包まれた存在であった。
「……なにから話せばよろしいのでしょうか?」
彼女は軽いため息をついて、少し苦い微笑を浮かべる。突然の提案に戸惑っているようであった。
長い間、彼女と一緒に居るがお互いの過去に関して言えば基本的に触れずに居た。それはお互いに傷を持っ
ているというのを察したからである。
「そうだな……まずはあんたはどこで生まれたんだ?」
「私は育成カプセルで生まれました」
「育成カプセル?」
「この星にもあるのでしょう? 試験管ベビーが」
「まあ、そうだけどよ」
試験管ベビー、元々は不妊治療の一環として行われる処置だ。現在では試験管で生まれる人間は数百に登り、
一般家庭でも安価に行われるようになった。もっとも、試験管ベビーは犯罪率が高い、人間らしい感情が足り
ないという風評は良く聞かれるが。
「そしてそのまま学習コンピューターによって育てられました。その際、私にはある力がありました。一種の
才能といっても過言ではありません」
「才能?」
「戦う才能。バイラムⅡは元々私専用の戦闘機です。一部のエリートによってのみ与えられる特別な機体なの
です。こちらでは特別記念車とほぼ同じですね。中身もかなり上等なものを使ってます」
「特別記念ねぇ? じゃあ、バイラムっていうのはそっちじゃ普通ってことなのか?」
「普通ですね、そしてそれに乗って戦う事もまた……」
カミーラは少しトーンを落としてうつむいた。恐らく、長い間ずっと戦ってきたのだろう。
「子供の頃から戦いに明け暮れていました。昼も夜も関係なく、ただひたすら……。でも、不思議と恐怖はあ
りませんでした。後ろめたさや良心の呵責すら……あるのは鮮血と勝利の快楽だけ、一人殺せば私の身も心も
満たされるのです。ほとんど性欲のようなものでした」
「はぁん」
カミーラは意を決したように言うがアジャムは我関せずと言った顔で聞いていた。
下手に口を出すつもりは毛頭無かった。深入りすれば彼女を傷つけるのをアジャムは知っていた。
聞きはするがよっぽどな事がない限り立ち入ったことを聞かない、それが彼のルールだった。
「ですが、私は障害児でした」
「障害児? どこがだよ?」
「戦うという行為に疑問を持っているからです」
「それがどこがおかしいんだよ?」
「私たちの世界では戦いは常に日常茶飯事でした。この星に来るまで”平和”と言う言葉は辞書にのっていないのです」
「ふぅん、俺らも似たようなもんだぜ?」
アジャムは彼女と出会う前の状況を思い出す。あるものは利権のため、あるものは正義のため、あるものは目
障りであるため。例を挙げればきりがなかった。それに対し嫌悪も侮蔑もしなかった。それが傭兵の仕事である
と心のどこかで割り切っていた自分がいたのだから。
「貴方たちの戦争は“結果”の奪い合いであって、私たちの戦争とは大きく違います」
「どういうことだよ?」
「簡単に言えば逆なんです。正当性や資源を奪い合うために戦争をする、のではなく戦争に勝ったら商品とし
て資源を貰うと言うことです。こちらの世界のように人々を扇動する必要ないのです」
彼女の倫理では戦いを始めるのに大義や正義は必要がなかった。必要なのは”敵”という存在のみ。
勝ったから土地や資源を貰うのであって、自分たちが生きるために戦うというわけではなかったのだ。
「つまり、戦争が先ってことか?」
「はい……そして、そうやっていくつも文明を積み重ねてきました」
”敵”に勝つためにコンピュータを作り、”敵”に勝つために銃器を作り、”敵”に勝つために教育を施し
てきた。残酷とも思える反面、アジャムは彼女たちのほうがよっぽど善人のような気がしてきた。敵の存在に
より生き延びようとするシンプルな構造にある種の美しさを感じ取れる。
「核兵器は?」
「当然知識はあります。もっとも、それと同時に宇宙開発の技術が進みました」
「逃げ出す準備は出来てたってわけか?」
「はい、その結果なのでしょうか? ついに私たちは母星を失いました。我々の”勝利”として」
アジャムは想像できなかった。普通なら終わるであろう戦いを彼女たちは止めなかったのだ。
しかも、自分たちの勝利という言葉にめまいを覚える。このままだと地球が戦場になるのは明白すぎた。
「宇宙に逃げた私たちはあいもかわらず戦いを続けました。その結果、星という星はほとんど壊され、ついには」
「ついには?」
「この宇宙全体に戦いが広まったのです」
「スケールがでけぇな、おい」
「……永劫に続くかに見えた戦いはそのうち種の限界、というものにぶつかりました」
「どこがだよ?」
とてもじゃないがそうは見えない。子供が減ったことを種の衰退といわれたこととがあった、実際は社会学
的観点から、数をむやみに増やさないだけだという事が発表された。
「男性が滅んだのです」
「はぁ? ……なるほどな、それで試験管ベビーってわけか」
対となるものがいなくなれば当然その手の科学が発達する。
生き残りをかけている以上、これは運命だったのだろう。
「はい、男がいなくても子供を作る事が出来るようになった瞬間から既に……」
「ところでさっきのは……」
「先ほど言いましたよね、戦うのは本能であると」
「ああ、俺たちにもあるぜ、闘争本能って奴が」
「それとは違ったものです、どちらかと言えば殺戮本能、ですね」
「殺戮本能?」
「私たちは命を奪う事になんとも言えない幸福感を得るのです、たとえゴキブリでもネズミでも殺せば幸せなのです」
彼女は少し落胆したような顔でつぶやいた。恐らく彼女はこちらの価値観に染まりすぎたのだろう、殺人を
基本的に否定する地球人と比べれば自分たちの野蛮さに嫌悪を抱くのは当たり前だった。
「知っていますか?」
「なんだよ」
「……真面目に聞いてください」
「へいへい」
耳を書きながらアジャムは大きなあくびをした。
「私たちにとって最高の愛情表現は好きな相手を殺す事なのです。貴方たちならば殺人に対して罪の意識を持つ
のでしょうが私たちにとっては喜びなのです」
「死ぬほうはたまったもんじゃねぇな」
「いいえ、死ぬほうもまた喜びなのです、そして殺すほうも……」
伏せ目がちに彼女はそっとつぶやいた。
「…なあ、あんたらの事を聞かせてくれよ」
常々思っていた事を口にする。異星人だという彼女についてアジャムは、いや、地球人は誰一人として知らない。
せいぜい、火星を欲しがっている異星人という印象はあるがどこで生まれどのように育ったのかはまった分
からず、謎のベールに包まれた存在であった。
「……なにから話せばよろしいのでしょうか?」
彼女は軽いため息をついて、少し苦い微笑を浮かべる。突然の提案に戸惑っているようであった。
長い間、彼女と一緒に居るがお互いの過去に関して言えば基本的に触れずに居た。それはお互いに傷を持っ
ているというのを察したからである。
「そうだな……まずはあんたはどこで生まれたんだ?」
「私は育成カプセルで生まれました」
「育成カプセル?」
「この星にもあるのでしょう? 試験管ベビーが」
「まあ、そうだけどよ」
試験管ベビー、元々は不妊治療の一環として行われる処置だ。現在では試験管で生まれる人間は数百に登り、
一般家庭でも安価に行われるようになった。もっとも、試験管ベビーは犯罪率が高い、人間らしい感情が足り
ないという風評は良く聞かれるが。
「そしてそのまま学習コンピューターによって育てられました。その際、私にはある力がありました。一種の
才能といっても過言ではありません」
「才能?」
「戦う才能。バイラムⅡは元々私専用の戦闘機です。一部のエリートによってのみ与えられる特別な機体なの
です。こちらでは特別記念車とほぼ同じですね。中身もかなり上等なものを使ってます」
「特別記念ねぇ? じゃあ、バイラムっていうのはそっちじゃ普通ってことなのか?」
「普通ですね、そしてそれに乗って戦う事もまた……」
カミーラは少しトーンを落としてうつむいた。恐らく、長い間ずっと戦ってきたのだろう。
「子供の頃から戦いに明け暮れていました。昼も夜も関係なく、ただひたすら……。でも、不思議と恐怖はあ
りませんでした。後ろめたさや良心の呵責すら……あるのは鮮血と勝利の快楽だけ、一人殺せば私の身も心も
満たされるのです。ほとんど性欲のようなものでした」
「はぁん」
カミーラは意を決したように言うがアジャムは我関せずと言った顔で聞いていた。
下手に口を出すつもりは毛頭無かった。深入りすれば彼女を傷つけるのをアジャムは知っていた。
聞きはするがよっぽどな事がない限り立ち入ったことを聞かない、それが彼のルールだった。
「ですが、私は障害児でした」
「障害児? どこがだよ?」
「戦うという行為に疑問を持っているからです」
「それがどこがおかしいんだよ?」
「私たちの世界では戦いは常に日常茶飯事でした。この星に来るまで”平和”と言う言葉は辞書にのっていないのです」
「ふぅん、俺らも似たようなもんだぜ?」
アジャムは彼女と出会う前の状況を思い出す。あるものは利権のため、あるものは正義のため、あるものは目
障りであるため。例を挙げればきりがなかった。それに対し嫌悪も侮蔑もしなかった。それが傭兵の仕事である
と心のどこかで割り切っていた自分がいたのだから。
「貴方たちの戦争は“結果”の奪い合いであって、私たちの戦争とは大きく違います」
「どういうことだよ?」
「簡単に言えば逆なんです。正当性や資源を奪い合うために戦争をする、のではなく戦争に勝ったら商品とし
て資源を貰うと言うことです。こちらの世界のように人々を扇動する必要ないのです」
彼女の倫理では戦いを始めるのに大義や正義は必要がなかった。必要なのは”敵”という存在のみ。
勝ったから土地や資源を貰うのであって、自分たちが生きるために戦うというわけではなかったのだ。
「つまり、戦争が先ってことか?」
「はい……そして、そうやっていくつも文明を積み重ねてきました」
”敵”に勝つためにコンピュータを作り、”敵”に勝つために銃器を作り、”敵”に勝つために教育を施し
てきた。残酷とも思える反面、アジャムは彼女たちのほうがよっぽど善人のような気がしてきた。敵の存在に
より生き延びようとするシンプルな構造にある種の美しさを感じ取れる。
「核兵器は?」
「当然知識はあります。もっとも、それと同時に宇宙開発の技術が進みました」
「逃げ出す準備は出来てたってわけか?」
「はい、その結果なのでしょうか? ついに私たちは母星を失いました。我々の”勝利”として」
アジャムは想像できなかった。普通なら終わるであろう戦いを彼女たちは止めなかったのだ。
しかも、自分たちの勝利という言葉にめまいを覚える。このままだと地球が戦場になるのは明白すぎた。
「宇宙に逃げた私たちはあいもかわらず戦いを続けました。その結果、星という星はほとんど壊され、ついには」
「ついには?」
「この宇宙全体に戦いが広まったのです」
「スケールがでけぇな、おい」
「……永劫に続くかに見えた戦いはそのうち種の限界、というものにぶつかりました」
「どこがだよ?」
とてもじゃないがそうは見えない。子供が減ったことを種の衰退といわれたこととがあった、実際は社会学
的観点から、数をむやみに増やさないだけだという事が発表された。
「男性が滅んだのです」
「はぁ? ……なるほどな、それで試験管ベビーってわけか」
対となるものがいなくなれば当然その手の科学が発達する。
生き残りをかけている以上、これは運命だったのだろう。
「はい、男がいなくても子供を作る事が出来るようになった瞬間から既に……」
「ところでさっきのは……」
「先ほど言いましたよね、戦うのは本能であると」
「ああ、俺たちにもあるぜ、闘争本能って奴が」
「それとは違ったものです、どちらかと言えば殺戮本能、ですね」
「殺戮本能?」
「私たちは命を奪う事になんとも言えない幸福感を得るのです、たとえゴキブリでもネズミでも殺せば幸せなのです」
彼女は少し落胆したような顔でつぶやいた。恐らく彼女はこちらの価値観に染まりすぎたのだろう、殺人を
基本的に否定する地球人と比べれば自分たちの野蛮さに嫌悪を抱くのは当たり前だった。
「知っていますか?」
「なんだよ」
「……真面目に聞いてください」
「へいへい」
耳を書きながらアジャムは大きなあくびをした。
「私たちにとって最高の愛情表現は好きな相手を殺す事なのです。貴方たちならば殺人に対して罪の意識を持つ
のでしょうが私たちにとっては喜びなのです」
「死ぬほうはたまったもんじゃねぇな」
「いいえ、死ぬほうもまた喜びなのです、そして殺すほうも……」
伏せ目がちに彼女はそっとつぶやいた。
マールがブリッジに入るとオペレーターが早速と言わんばかりに報告をしてきた。
「大佐、本部からの帰還命令です。イングラントにある近くの基地へ帰還して欲しいそうです」
「わかったわ、それでバイラムのほうは?」
そのまま艦長席に座ると各国の状況を問いただす。アトランティスにいた時間はそう長くはなかったが日付
が二回ほど変わっている。状況ががらりと変わっている場合も想定していた。最悪の想定である全滅を覚悟し
ている。もっとも、その最悪な展開は免れてほしいと思っているが……。
「全機存続、代わりはないそうです。無人機で時間稼ぎはしてるそうですが……」
「そう……」
この報告にマールは目を伏せた。死者の数は以前増え続けている。バイラムを倒す手段が少なすぎるこの状
況下では確実に消耗は避けられないだろう。
「それと、ビスマルク隊のミスリーア少尉とともに出頭命令が出ています」
「出頭命令?」
「はい、帰還後、最優先でのことで……」
恐らく自分をアトランティスに送り込んだ男だろう、とマールは理解していた。
聞きたいことも山ほどある以上、ここにとどまっているわけには行かない。
「わかったわ、フリューゲルス、出航!」
「了解」
沈んだ気分を吹き飛ばすかのように大声で号令をかける。
フリューゲルスは発進した。イングランドの都市に向かって。
「大佐、本部からの帰還命令です。イングラントにある近くの基地へ帰還して欲しいそうです」
「わかったわ、それでバイラムのほうは?」
そのまま艦長席に座ると各国の状況を問いただす。アトランティスにいた時間はそう長くはなかったが日付
が二回ほど変わっている。状況ががらりと変わっている場合も想定していた。最悪の想定である全滅を覚悟し
ている。もっとも、その最悪な展開は免れてほしいと思っているが……。
「全機存続、代わりはないそうです。無人機で時間稼ぎはしてるそうですが……」
「そう……」
この報告にマールは目を伏せた。死者の数は以前増え続けている。バイラムを倒す手段が少なすぎるこの状
況下では確実に消耗は避けられないだろう。
「それと、ビスマルク隊のミスリーア少尉とともに出頭命令が出ています」
「出頭命令?」
「はい、帰還後、最優先でのことで……」
恐らく自分をアトランティスに送り込んだ男だろう、とマールは理解していた。
聞きたいことも山ほどある以上、ここにとどまっているわけには行かない。
「わかったわ、フリューゲルス、出航!」
「了解」
沈んだ気分を吹き飛ばすかのように大声で号令をかける。
フリューゲルスは発進した。イングランドの都市に向かって。