火星と木星の間にアステロイドベルト、その隕石群に混じって雪の結晶のような銀色の人工物があった。
人工物はいくつもの小惑星に跨っており、地球や月からでは見辛い位置に存在していた。
時折、上下に左右に動くがこれは人口重力を発生させるためである。
アステロイド基地。それがこの”場所”の名前である。
そしてその格納庫にはバイラムを筆頭に無数のPMが格納されている。だが、動いているのはほんの一角だ
けであった。一角、それは赤いバイラムがある場所。すなわちネオ・バイラムのところであった。
「うーん、困りましたねぇ……」
「やっぱたんない?」
モニターを見ながらアルフェアは少し腕を組んで唸った。
足りない、とは資材という意味である。元々、彼女たちには資源が足りない事が多い。ほとんどは戦争の道
具として使ってしまうため、慢性的に不足しやすかった。地球とのつながりがあった頃は毎回補給物資が届け
られていたがあの事があってからほとんど届けられていなかった。
そのため、火星からの資源が必須になってきた。発掘する量のほとんどは他のものが目覚めたときに使用す
る為である。だが、火星に向かえば物資を消費は激しくなり、到着する前に力尽きる可能性があった。
「はい、特に全体の構図とエンジンが一番の問題ですね」
表示されたのはネオ・バイラムの全体図。なのだがほとんどが赤い文字、すなわち出力不足を表している。
祐一の父親である一明のデータを本格的にフィードバックをしようとしたのだが……。
「ネオ・バイラムじゃ足んないんだね」
ネオ・バイラム自体のエンジンはバイラムのエンジンをほんの少しいじった程度でしかないのだ。
もしも新しく強力なエンジンを積めば機体自身が崩壊しかねない。それならいっそのことネオ・バイラム自体
を作り直すしかない。しかし資源が足りない現状ではそれは悪手過ぎる。一番痛いのはエグザトリアが暴走し、
脱走という形になったことだ。元々あれにかなりの資材をかけていたのだから。
「バイラムはあっちの名称ではないですか?」
バイラムと命名したのはあちらの政治家たちである。意味は悪魔にささげる羊に別れの言葉を、という意味
があるBYE・LAMBなのだがそれでは語呂が悪いという事でBUY・RAMとなった。
宇宙飛行士の思考、すなわち”random-access memory”を買うという意味も含まれ始めた。
「いいの、いいの! 向こうだって分かりやすいほうが良いでしょ」
「そうですけど……」
アルフェアはバイラムという名前が嫌いだった。本来の名前は形式番号で呼ぶのが普通なのだがメアリーや
セルは”バイラム”という名前を使っている。目の前のPMは自分が作り出したのに呼ぶのはなぜか他者が付
けた名前である事がどうにも許せなかった。
「ああ、そうそう。ようやく地球のほうで大きな動きがあるみたいです」
「動き? ってことは……」
「はい、久々の大規模な戦闘になりそうですよ」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両手を挙げて喜ぶメアリー。そんな彼女をやれやれといった顔で苦笑をするアルフェア。
「もうそんなに喜ばないでください」
「だって、祐一とようやくデートできるんだもの」
が、小躍りをする彼女にすかさず冷や水を浴びせた。
「……でも、あれは軍に接収されたんじゃないでしょうか? それに彼は軍に出頭を勧めたんですよね?」
「あっ……そうだった」
アルフェアの言葉にメアリーは肩を落とし、この世の終りと思えるようなガッカリとした顔で部屋を出て行った。
そんな彼女を見て、小さくつぶやいてみる。
「……でもそんなに好きなら必ず来てくれますよね? 彼氏さん」
自らの三つ編みそっと撫でながら彼女は小さく唇を吊り上げた。
「そうだ、確かセラさんから……」
すかさずキーボードを叩いてデータを呼び出す、そこには三機のPMが表示された。
その三機とは”ビスマルク””ナイツ””黄龍”の三機であった。
「この機体のデータをフレーム部分に組み込んで……」
ネオ・バイラムに組み込むと出力不足から最低出力に変わった。これならフレームを部分的に変えるだけで済む。
「後はエンジンを新しいのに変えるだけ……」
エンジンはエグザトリアの代替エンジンでも十分。性能もそう大差がない。
これならメアリーが納得するものが作れるだろう。
「いやぁ、勉強になりました。PMって奥が深いんですねぇ」
彼女は一人で大きくうなずいた。ふと、辺りを見渡し誰もいないことを確認すると心の奥底で小さく泣いた。
人工物はいくつもの小惑星に跨っており、地球や月からでは見辛い位置に存在していた。
時折、上下に左右に動くがこれは人口重力を発生させるためである。
アステロイド基地。それがこの”場所”の名前である。
そしてその格納庫にはバイラムを筆頭に無数のPMが格納されている。だが、動いているのはほんの一角だ
けであった。一角、それは赤いバイラムがある場所。すなわちネオ・バイラムのところであった。
「うーん、困りましたねぇ……」
「やっぱたんない?」
モニターを見ながらアルフェアは少し腕を組んで唸った。
足りない、とは資材という意味である。元々、彼女たちには資源が足りない事が多い。ほとんどは戦争の道
具として使ってしまうため、慢性的に不足しやすかった。地球とのつながりがあった頃は毎回補給物資が届け
られていたがあの事があってからほとんど届けられていなかった。
そのため、火星からの資源が必須になってきた。発掘する量のほとんどは他のものが目覚めたときに使用す
る為である。だが、火星に向かえば物資を消費は激しくなり、到着する前に力尽きる可能性があった。
「はい、特に全体の構図とエンジンが一番の問題ですね」
表示されたのはネオ・バイラムの全体図。なのだがほとんどが赤い文字、すなわち出力不足を表している。
祐一の父親である一明のデータを本格的にフィードバックをしようとしたのだが……。
「ネオ・バイラムじゃ足んないんだね」
ネオ・バイラム自体のエンジンはバイラムのエンジンをほんの少しいじった程度でしかないのだ。
もしも新しく強力なエンジンを積めば機体自身が崩壊しかねない。それならいっそのことネオ・バイラム自体
を作り直すしかない。しかし資源が足りない現状ではそれは悪手過ぎる。一番痛いのはエグザトリアが暴走し、
脱走という形になったことだ。元々あれにかなりの資材をかけていたのだから。
「バイラムはあっちの名称ではないですか?」
バイラムと命名したのはあちらの政治家たちである。意味は悪魔にささげる羊に別れの言葉を、という意味
があるBYE・LAMBなのだがそれでは語呂が悪いという事でBUY・RAMとなった。
宇宙飛行士の思考、すなわち”random-access memory”を買うという意味も含まれ始めた。
「いいの、いいの! 向こうだって分かりやすいほうが良いでしょ」
「そうですけど……」
アルフェアはバイラムという名前が嫌いだった。本来の名前は形式番号で呼ぶのが普通なのだがメアリーや
セルは”バイラム”という名前を使っている。目の前のPMは自分が作り出したのに呼ぶのはなぜか他者が付
けた名前である事がどうにも許せなかった。
「ああ、そうそう。ようやく地球のほうで大きな動きがあるみたいです」
「動き? ってことは……」
「はい、久々の大規模な戦闘になりそうですよ」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両手を挙げて喜ぶメアリー。そんな彼女をやれやれといった顔で苦笑をするアルフェア。
「もうそんなに喜ばないでください」
「だって、祐一とようやくデートできるんだもの」
が、小躍りをする彼女にすかさず冷や水を浴びせた。
「……でも、あれは軍に接収されたんじゃないでしょうか? それに彼は軍に出頭を勧めたんですよね?」
「あっ……そうだった」
アルフェアの言葉にメアリーは肩を落とし、この世の終りと思えるようなガッカリとした顔で部屋を出て行った。
そんな彼女を見て、小さくつぶやいてみる。
「……でもそんなに好きなら必ず来てくれますよね? 彼氏さん」
自らの三つ編みそっと撫でながら彼女は小さく唇を吊り上げた。
「そうだ、確かセラさんから……」
すかさずキーボードを叩いてデータを呼び出す、そこには三機のPMが表示された。
その三機とは”ビスマルク””ナイツ””黄龍”の三機であった。
「この機体のデータをフレーム部分に組み込んで……」
ネオ・バイラムに組み込むと出力不足から最低出力に変わった。これならフレームを部分的に変えるだけで済む。
「後はエンジンを新しいのに変えるだけ……」
エンジンはエグザトリアの代替エンジンでも十分。性能もそう大差がない。
これならメアリーが納得するものが作れるだろう。
「いやぁ、勉強になりました。PMって奥が深いんですねぇ」
彼女は一人で大きくうなずいた。ふと、辺りを見渡し誰もいないことを確認すると心の奥底で小さく泣いた。
「以上が報告です」
「そうか」
マールとファルはモニターの人物、ウィルスに向かってアトランティスの出来事を報告した。
バイラム・カスタムとの戦闘、そして割って入ったバイラムⅡ、そしてその裏側に隠された真実。彼女たち
二人以外は全員形だけだが休息をとらせた。ただでさえ混沌としているこの状況では休めといわれて休めるも
のではないけど。そしてカミーラたちは基地に着くと同時にあっという間にその姿を消した。なにやら目的が
あるらしく、帰ってくると言い残し……。
ウィルスは軽くため息を付くと再び二人のほうへと視線を送る。
「それで、政府筋のほうはどうなの?」
「以前、変更はない」
変更はない、というのは政府に対し誰が責任を取るかで国会が波乱を呼んでいた。ウィルスは軍部として動
いてはいるものの事態は思っている以上に好転していない。
「うわ、怠惰」
「やめないよ、ファルちゃん」
「……ごほん、それよりも君たちに頼みたい事がある」
「頼みたい事? こんなときにですか?」
「ああ、ラザフォードの奴も一応承諾をしてくれている。全く、判の付くのに何時間かかっているんだ?――」
次々と愚痴が湧き出してくる。マールの父親であるラザフォードとウィルスは折り合いが悪く、顔をあわせ
るたびに喧嘩をしていた。好敵手なのか、それとも単に馬が合わないのか、わからないが。
「あの……」
思わずマールが声をかけた。ファルにいたってはだるそうな顔をしながら軽く唸っていた。
「す、すまない。頼みというのは簡単だ。君たちは三日間待機をしてくれ」
「待機ったって……」
ファルは少し毒づいた。現在のユニオンはバイラムに対し、何の対策が出来ていないのだ。
自分は本土防衛を無視してバイラムの尻尾をつかもうと必死になったがそのシッポはきれいに巻きながら逃
げて行き、何の成果を挙げられないまま、本国へおめおめと帰ってきてしまった。
正直に言っていいところが何もない。試作型とはいえナイツも来てくれたのに一向に手柄を立てられない自
分に腹が立って仕方がなかった。だったらせめて本国にいるバイラムに対し一矢ぐらい報いてやりたいのに目
の前にいる男はそれに対し待ったをかけたのだ。ふてくされるな、といわれるのは目に見えていたがファルに
は腹の立つ選択だった。
「すぐに出撃すべきです、ビスマルクでも十分時間稼ぎにも――」
「待機だ」
すかさず進言をするが取り付く暇もなくこの一言を浴びせられた。そのせいでさらに苛立ちが増していく。
「しかし!」
「……了解しました、三日間ですね?」
マールはファルを制すように口元に手をを当てた。念を押したかのような言葉をぶつけるとウィルスは頷く。
「ああ、三日間だ」
「了解しました、ではその間にビスマルクの修理と補給を申請します」
「分かった、二人ともご苦労だった」
「はっ!」
二人は敬礼をすると目の前の大型モニターの電気が消えた。
「マール! 一体どういうつもりよ!」
彼女のほうに視線を送ると先ほどから溜めていた鬱憤をぶつけた。
この状況下で待機命令を出すのはある意味異常だ。普通なら命がけで他の隊に救援に池と命令されるのに自
分たちは待機。今頃、バイラムは確実に殺人スコアを伸ばしているだろう。それがどうにも許せなかった。
「落ち着いて、ウィルス長官は三日待て、といったのよ」
「そんなの分かってるわよ、同じ事を言わなくていい!」
「あの人は決して恩着せがましくて陰険で出世欲は強いけど――決して勝てない戦いはしないよ」
この言葉にファルは少しと惑った。正直に言えばマールはとぼけたことをいつも言っているがこういうと
きにはまるで全てを知っているかのように直感が冴えていた。イヤ、実際見通している。
が、どうにも今回は信用できなかった。事態が事態な場合もあるのだが。
「……そういうもんかしら?」
「そういうものよ、じゃあバイラムと戦ってデータを集めてきてね?」
突然のマールの言葉にファルは唖然とした。先ほどの言葉をいきなり撤回したようなものだ。
さっきまでウィルスと待機命令に従う素振りをしていたくせに掌を返し、バイラムと戦えと彼女は言ったのだ。
「はぁ? 今待機って……」
「うん、だから極秘行動!」
笑みを崩さずその姿にファルはマールの背後からどす黒いオーラが湧き上がっているように見えた。
もはや観念するしかない、と思い――。
「……分かったわよ、データ収集ね」
「うん、絶対に必要になると思うの。今回は特に……ね」
そのとき、マールの顔は少し陰りを見せたがファルは全く気がつかなかった。
「そうか」
マールとファルはモニターの人物、ウィルスに向かってアトランティスの出来事を報告した。
バイラム・カスタムとの戦闘、そして割って入ったバイラムⅡ、そしてその裏側に隠された真実。彼女たち
二人以外は全員形だけだが休息をとらせた。ただでさえ混沌としているこの状況では休めといわれて休めるも
のではないけど。そしてカミーラたちは基地に着くと同時にあっという間にその姿を消した。なにやら目的が
あるらしく、帰ってくると言い残し……。
ウィルスは軽くため息を付くと再び二人のほうへと視線を送る。
「それで、政府筋のほうはどうなの?」
「以前、変更はない」
変更はない、というのは政府に対し誰が責任を取るかで国会が波乱を呼んでいた。ウィルスは軍部として動
いてはいるものの事態は思っている以上に好転していない。
「うわ、怠惰」
「やめないよ、ファルちゃん」
「……ごほん、それよりも君たちに頼みたい事がある」
「頼みたい事? こんなときにですか?」
「ああ、ラザフォードの奴も一応承諾をしてくれている。全く、判の付くのに何時間かかっているんだ?――」
次々と愚痴が湧き出してくる。マールの父親であるラザフォードとウィルスは折り合いが悪く、顔をあわせ
るたびに喧嘩をしていた。好敵手なのか、それとも単に馬が合わないのか、わからないが。
「あの……」
思わずマールが声をかけた。ファルにいたってはだるそうな顔をしながら軽く唸っていた。
「す、すまない。頼みというのは簡単だ。君たちは三日間待機をしてくれ」
「待機ったって……」
ファルは少し毒づいた。現在のユニオンはバイラムに対し、何の対策が出来ていないのだ。
自分は本土防衛を無視してバイラムの尻尾をつかもうと必死になったがそのシッポはきれいに巻きながら逃
げて行き、何の成果を挙げられないまま、本国へおめおめと帰ってきてしまった。
正直に言っていいところが何もない。試作型とはいえナイツも来てくれたのに一向に手柄を立てられない自
分に腹が立って仕方がなかった。だったらせめて本国にいるバイラムに対し一矢ぐらい報いてやりたいのに目
の前にいる男はそれに対し待ったをかけたのだ。ふてくされるな、といわれるのは目に見えていたがファルに
は腹の立つ選択だった。
「すぐに出撃すべきです、ビスマルクでも十分時間稼ぎにも――」
「待機だ」
すかさず進言をするが取り付く暇もなくこの一言を浴びせられた。そのせいでさらに苛立ちが増していく。
「しかし!」
「……了解しました、三日間ですね?」
マールはファルを制すように口元に手をを当てた。念を押したかのような言葉をぶつけるとウィルスは頷く。
「ああ、三日間だ」
「了解しました、ではその間にビスマルクの修理と補給を申請します」
「分かった、二人ともご苦労だった」
「はっ!」
二人は敬礼をすると目の前の大型モニターの電気が消えた。
「マール! 一体どういうつもりよ!」
彼女のほうに視線を送ると先ほどから溜めていた鬱憤をぶつけた。
この状況下で待機命令を出すのはある意味異常だ。普通なら命がけで他の隊に救援に池と命令されるのに自
分たちは待機。今頃、バイラムは確実に殺人スコアを伸ばしているだろう。それがどうにも許せなかった。
「落ち着いて、ウィルス長官は三日待て、といったのよ」
「そんなの分かってるわよ、同じ事を言わなくていい!」
「あの人は決して恩着せがましくて陰険で出世欲は強いけど――決して勝てない戦いはしないよ」
この言葉にファルは少しと惑った。正直に言えばマールはとぼけたことをいつも言っているがこういうと
きにはまるで全てを知っているかのように直感が冴えていた。イヤ、実際見通している。
が、どうにも今回は信用できなかった。事態が事態な場合もあるのだが。
「……そういうもんかしら?」
「そういうものよ、じゃあバイラムと戦ってデータを集めてきてね?」
突然のマールの言葉にファルは唖然とした。先ほどの言葉をいきなり撤回したようなものだ。
さっきまでウィルスと待機命令に従う素振りをしていたくせに掌を返し、バイラムと戦えと彼女は言ったのだ。
「はぁ? 今待機って……」
「うん、だから極秘行動!」
笑みを崩さずその姿にファルはマールの背後からどす黒いオーラが湧き上がっているように見えた。
もはや観念するしかない、と思い――。
「……分かったわよ、データ収集ね」
「うん、絶対に必要になると思うの。今回は特に……ね」
そのとき、マールの顔は少し陰りを見せたがファルは全く気がつかなかった。
三日後、ファルは格納庫に呼び出された。
待機命令を受けての三日間、彼女はバイラムとの戦闘に明け暮れた。と言っても戦っては逃げを何度も繰り
返し、一向にバイラムの数は減らせなかった。逃げるたびに頭の中で自分自身を臆病者と罵っていた。無論、
戦闘の際には何度の撃墜の危機に陥ったが幸か不幸か、そのたびに無人機の邪魔が入ってくれた。恐らく、マ
ールの手配である事はなんとなく理解できた。
そして、昨日の夜中にこんな命令書を受けた。
午前九時、格納庫へ。新型PM『エグザトリア』に搭乗せよ。
エグザトリア? 聞いたことの無い名前に思わず首を傾げてしまう。軍部のデータベースにエグザトリアの
名前で検索をするが全くと言っていいほど引っかからない。軍需産業のデータベースにも検索を駆けてみるが
何一つ当たらなかった。
一体このPMは何? その疑問を打ち砕いたのはニュースサイトであった。
AUAに現れたバイラム型PM、バイラムを全滅させる。
過激な文章と共に思わずクリックをする。画面いっぱいに広がるページを見つめながら今度は命令書に視線
を送る。同じ名前ではあるが……。どうにも実感がわかなかった。
一体、エグザトリアってなんなのかしら? そんな事を考えながら格納庫へと向かう。
呼び出し主はウィルスだが当の本人はそこにおらず、居たのは整備員だけであった。
「ミスリーア少尉、こちらを……」
ファルの目の前に白いPMが置いてあった。いつものビスマルクと違い、辺りには普段の倍の整備員が機体
のチェックを行っていた。中には東洋人の顔がちらほら見られる。恐らく、エグザトリアを整備したことがあ
るスタッフなのだろう。
「これがエグザトリア……」
AUAから送られてきたバイラム以上の高性能機。話では搭乗した民間人の少年が一機でバイラム三機を撃
墜した。また、搭乗したAUAのパイロットはこれ一機でAUAに居るバイラムを全て駆逐したらしい。
再び視線をエグザトリアに向けるが、白の鬼は無言のまま突っ立っている。
本当にバイラムそっくりなんだ。ううん、これは”バイラム”そのもの。先ほど手渡されたマニュアルをも
う一度読み直す。スペックでは明らかにビスマルクより上だ。
「少尉、搭乗をお願いします」
声をかけられ、われに返るとすぐさまコックピットへと向かう。シートに座って一番最初に思ったのが小さ
いだった。AUA式な製かちょっと動かしにくいわね。と、操縦桿を握りながら自分の体格に合わせていく。
落ち着いて辺りを見渡すとシートもさることながらコックピット全体が少し小さいのだ。天井にはシートに
座りながらも手が十分に届く。
まるで箱みたいね。そう思いながらペダルを踏み込むと地響きを立てて歩いていく。がその地響きはビス
マルクとは違ってかなり軽かった。装備重量の違いかしら? と思うが重くない操縦桿に違和感が拭えない。
伝わってくる振動も地響きと言うよりマッサージチェアのような軽いものだ。
カタパルトまで来るとエグザトリアを所定の位置に付かせる。
とにかくやるだけだと言い聞かせ、ペダルをゆっくりと踏む。背面のバーニアがそれに応じて輝きだす。
「ミスリーア少尉、発進します」
声とともに思い切り踏み込むとすさまじい衝撃が襲い掛かってきた。体全体が後ろのシートに沈みかかる。
骨が軋んだ音を響かせてくる。正直に言えば止めれば嘔吐しそうだった。ブレーキを踏まなきゃ、と思うが
ペダルが遠くに感じ取れた。その間にエグザトリアは速度と高度を上げていく。三秒に付き百メートルという
脅威の数値をたたき出しながら。
「ぐぅぅぅぅぅぅ……」
うめき声を上げながら何とかアクセルペダルから足を離した。しかし、ブレーキペダルには届かない。
まずい! そうは思うが先ほどの衝撃で体がいう事を利かなかった。バランスを崩しのまま落下、するかに
見えたがエグザトリアはすばやくバランスを整えると風に乗るかのようにそのまま空を滑っていった。
軽くため息を付くと通信が入った。相手はウィルスだった。
「ミスリーア少尉、応答を」
「こちらミスリーア」
「どうだ、エグザトリアは?」
「今のところ問題はありません」
そうは言うが正直言ってこれはどこから持って来たのかと問いただしたかった。
いや、バイラムは政府と異星人の共同作だ。もしかしたらこれも同じように共同作なのかもしれない。
「そうか、一応リミッターをかけて置いただが問題ないようだ」
「リミッター? って事はこれは全開じゃないってことなんですか?」
「そういうことになるな、私も細かい仕様書を受け取ったのは今日の朝なのだから」
リミッターつきであそこまで出るなんて……。頭の中を一珠の不安が過ぎる。
「それで、搭乗したのはいいんですけどこれから何を?」
「その機体でバイラムを駆逐してくれ」
「了解」
ファルはコックピットについているボタンを押して、レーダーを呼び出すと周囲に転々としたものが見えた。
これがバイラムなのか、点は都市部に存在している。身近なところから行ってみるか。
南に進路をとると再びアクセルペダルを思い切り踏んだ。今度は先ほどに比べかなり軽く。
が、それでもエグザトリアの速度はかなりのものであった。先ほどまで陸地にいた自分がすでに海の上に来ている。
「すごい……」
思わず口からそんな言葉がこぼれてしまう。こんなの初めて、音速旅客機みたい……。
しかし、すぐさま我に帰ると再び目的地へと足を向ける。敵は目の前まで居るのだから。
徐々に陸地に近づくと遠くから煙が見えてきた。
見つけた! レーダーの先に見える黒い影、バイラムだ。レーダーでは三機、都市を破壊しようとしている。
バイラムはこちらに気づいたのか、すかさず銃を構えると一斉に撃ってきた。
いくつもの光の矢がエグザトリアに向かって飛んでいく。
「くっ!」
すばやく操縦桿を倒し、ビームが当たる寸前に上昇すると腰のライフルを手に取り、そのまま一機に照準を
合わせようとする。しかし軸がブレ、上手く捕らえられない。調整が終わってないの? それともジャミング?
そんな疑問が思い浮かんだ瞬間、バイラムが一気に接近してきた。
いつものように挑発的な態度を見せながら突っ込んでくるとすかさず、刃を振るってきたが身を屈め、そ
れをかわすとバイラムの腹部を思い切り蹴り付け、大きく吹き飛ばす。
「舐めないでよね!」
叫びとともに再び腰についているライフルを構える。ぶれたままのロックサイトを向かってくるバイラムに
固定をし、睨みつけ――。
「堕ちなさい!」
トリガーを引くと銃身が火花をあげながらビームを放つ。放たれたビームは真っ直ぐ飛んで行きバイラムの
頭を溶かし、そのまま貫いた。 頭部を失ったバイラムは力なくそのまま落下し、重い轟音と土煙を巻き起こ
しながらその場に横たわった。
「や、やった!」
初めて悪魔を倒したことに喜ぶファルであったが背筋に言いようの無い不気味さが走った。
思わず地面のほうへと視線を向けると他のバイラムがこちらを見つめていたのだ。
が、その顔からは恨みも悲しみも感じない。ファルは視線から感じ取れたのは興味、ただそれだけだった。
ふと、カミーラの言葉が頭の中に過ぎる。
バイラムは宇宙飛行士の脳を使っているのです。そして……その認識を変えられ――。
バイラムたちはいっせいにファルの方へと向かってきた。今度はフォーメーションを組むかのようにファル
の周りを飛び始めた。そして左右、前後、上下と刃を振るい、ビームを放ってきた。
が、それを紙一重でかわしていく。二機の動きを予測しつつ備え付けられていた剣で攻撃をいなしながら隙を探す。
動きが意外と単調ね。あと、武器の使い分けがなってない。
エグザトリアは二機のうち一機の攻撃を剣で受け止めるとそのまま押し返し、仰け反ったところにい縦に振るった。
バイラムは音もなく、二つに割れる。そして、割れた物はビルを倒しながらその場に横たわった。火花を飛
び散らせ、まるで死んだばかりの遺体のように軽く痙攣をするとそのまま瞳から光が消え去った。
マールはその様子を確認することなく、もう一機のバイラムに視線を移す。そして振り返った勢いを利用し
てそのまま横に大きく振るう。大きく空を切る音と共に今度は横に真っ二つになった。下半身がそのまま風に
乗るかのように都市部郊外へと堕ちていく。そして上半身もバランスを失い、潰れたトマトのように叩きつけられた。
ファルは軽く息を整えると堕ちたバイラムへ視線を送る。今までの記憶を掘り起こしてみてもこんなに簡単
に倒せるとは思ってない。むしろもっと手強いと思っている。だが……この機体がバイラムをあっさり引き裂いた。
正直言ってとても嬉しい。手も足も出なかったものを倒したのだから。そんな考えだと笑みが浮かんできた。
「んふふふふふ……」
しかし、その一方で不安が過ぎった。
もしも、これが敵の兵器なら? それにこの機体が暴走したら? いや、最悪、操られる場合もある。
言いようの無い不安が急に襲いかかってきた。
エグザトリアについて自分は何も知らないことに気がつくと不安はさらに盛り上がってきた。
どう足掻いても貫けなかった装甲を紙切れのように引き裂く武器。あちらの攻撃を受け付けない防御力。
稼動部分が多く、ビスマルクとは違った運動性能。小型のコックピットの中では使わなかったものが結構ある。
最悪の場合、エグザトリアが暴走したとき誰が止めるのであろうか?
「……尉! ミスリーア少尉!」
ぼうっとした頭を静めるかのように再びウィルスから通信が入った。
「こちら、ミスリーア。この地域のバイラムを劇はしました」
「そうか、それなら別の地域にいるのも頼む」
「了解」
そういうと通信が切れた。ファルは青い空を見つめながら気を取り直そうとする。
とにかく、今はバイラムを殲滅しないと!
そんな想いを胸に彼女はエグザトリアを次の場所へと運んでいった。
待機命令を受けての三日間、彼女はバイラムとの戦闘に明け暮れた。と言っても戦っては逃げを何度も繰り
返し、一向にバイラムの数は減らせなかった。逃げるたびに頭の中で自分自身を臆病者と罵っていた。無論、
戦闘の際には何度の撃墜の危機に陥ったが幸か不幸か、そのたびに無人機の邪魔が入ってくれた。恐らく、マ
ールの手配である事はなんとなく理解できた。
そして、昨日の夜中にこんな命令書を受けた。
午前九時、格納庫へ。新型PM『エグザトリア』に搭乗せよ。
エグザトリア? 聞いたことの無い名前に思わず首を傾げてしまう。軍部のデータベースにエグザトリアの
名前で検索をするが全くと言っていいほど引っかからない。軍需産業のデータベースにも検索を駆けてみるが
何一つ当たらなかった。
一体このPMは何? その疑問を打ち砕いたのはニュースサイトであった。
AUAに現れたバイラム型PM、バイラムを全滅させる。
過激な文章と共に思わずクリックをする。画面いっぱいに広がるページを見つめながら今度は命令書に視線
を送る。同じ名前ではあるが……。どうにも実感がわかなかった。
一体、エグザトリアってなんなのかしら? そんな事を考えながら格納庫へと向かう。
呼び出し主はウィルスだが当の本人はそこにおらず、居たのは整備員だけであった。
「ミスリーア少尉、こちらを……」
ファルの目の前に白いPMが置いてあった。いつものビスマルクと違い、辺りには普段の倍の整備員が機体
のチェックを行っていた。中には東洋人の顔がちらほら見られる。恐らく、エグザトリアを整備したことがあ
るスタッフなのだろう。
「これがエグザトリア……」
AUAから送られてきたバイラム以上の高性能機。話では搭乗した民間人の少年が一機でバイラム三機を撃
墜した。また、搭乗したAUAのパイロットはこれ一機でAUAに居るバイラムを全て駆逐したらしい。
再び視線をエグザトリアに向けるが、白の鬼は無言のまま突っ立っている。
本当にバイラムそっくりなんだ。ううん、これは”バイラム”そのもの。先ほど手渡されたマニュアルをも
う一度読み直す。スペックでは明らかにビスマルクより上だ。
「少尉、搭乗をお願いします」
声をかけられ、われに返るとすぐさまコックピットへと向かう。シートに座って一番最初に思ったのが小さ
いだった。AUA式な製かちょっと動かしにくいわね。と、操縦桿を握りながら自分の体格に合わせていく。
落ち着いて辺りを見渡すとシートもさることながらコックピット全体が少し小さいのだ。天井にはシートに
座りながらも手が十分に届く。
まるで箱みたいね。そう思いながらペダルを踏み込むと地響きを立てて歩いていく。がその地響きはビス
マルクとは違ってかなり軽かった。装備重量の違いかしら? と思うが重くない操縦桿に違和感が拭えない。
伝わってくる振動も地響きと言うよりマッサージチェアのような軽いものだ。
カタパルトまで来るとエグザトリアを所定の位置に付かせる。
とにかくやるだけだと言い聞かせ、ペダルをゆっくりと踏む。背面のバーニアがそれに応じて輝きだす。
「ミスリーア少尉、発進します」
声とともに思い切り踏み込むとすさまじい衝撃が襲い掛かってきた。体全体が後ろのシートに沈みかかる。
骨が軋んだ音を響かせてくる。正直に言えば止めれば嘔吐しそうだった。ブレーキを踏まなきゃ、と思うが
ペダルが遠くに感じ取れた。その間にエグザトリアは速度と高度を上げていく。三秒に付き百メートルという
脅威の数値をたたき出しながら。
「ぐぅぅぅぅぅぅ……」
うめき声を上げながら何とかアクセルペダルから足を離した。しかし、ブレーキペダルには届かない。
まずい! そうは思うが先ほどの衝撃で体がいう事を利かなかった。バランスを崩しのまま落下、するかに
見えたがエグザトリアはすばやくバランスを整えると風に乗るかのようにそのまま空を滑っていった。
軽くため息を付くと通信が入った。相手はウィルスだった。
「ミスリーア少尉、応答を」
「こちらミスリーア」
「どうだ、エグザトリアは?」
「今のところ問題はありません」
そうは言うが正直言ってこれはどこから持って来たのかと問いただしたかった。
いや、バイラムは政府と異星人の共同作だ。もしかしたらこれも同じように共同作なのかもしれない。
「そうか、一応リミッターをかけて置いただが問題ないようだ」
「リミッター? って事はこれは全開じゃないってことなんですか?」
「そういうことになるな、私も細かい仕様書を受け取ったのは今日の朝なのだから」
リミッターつきであそこまで出るなんて……。頭の中を一珠の不安が過ぎる。
「それで、搭乗したのはいいんですけどこれから何を?」
「その機体でバイラムを駆逐してくれ」
「了解」
ファルはコックピットについているボタンを押して、レーダーを呼び出すと周囲に転々としたものが見えた。
これがバイラムなのか、点は都市部に存在している。身近なところから行ってみるか。
南に進路をとると再びアクセルペダルを思い切り踏んだ。今度は先ほどに比べかなり軽く。
が、それでもエグザトリアの速度はかなりのものであった。先ほどまで陸地にいた自分がすでに海の上に来ている。
「すごい……」
思わず口からそんな言葉がこぼれてしまう。こんなの初めて、音速旅客機みたい……。
しかし、すぐさま我に帰ると再び目的地へと足を向ける。敵は目の前まで居るのだから。
徐々に陸地に近づくと遠くから煙が見えてきた。
見つけた! レーダーの先に見える黒い影、バイラムだ。レーダーでは三機、都市を破壊しようとしている。
バイラムはこちらに気づいたのか、すかさず銃を構えると一斉に撃ってきた。
いくつもの光の矢がエグザトリアに向かって飛んでいく。
「くっ!」
すばやく操縦桿を倒し、ビームが当たる寸前に上昇すると腰のライフルを手に取り、そのまま一機に照準を
合わせようとする。しかし軸がブレ、上手く捕らえられない。調整が終わってないの? それともジャミング?
そんな疑問が思い浮かんだ瞬間、バイラムが一気に接近してきた。
いつものように挑発的な態度を見せながら突っ込んでくるとすかさず、刃を振るってきたが身を屈め、そ
れをかわすとバイラムの腹部を思い切り蹴り付け、大きく吹き飛ばす。
「舐めないでよね!」
叫びとともに再び腰についているライフルを構える。ぶれたままのロックサイトを向かってくるバイラムに
固定をし、睨みつけ――。
「堕ちなさい!」
トリガーを引くと銃身が火花をあげながらビームを放つ。放たれたビームは真っ直ぐ飛んで行きバイラムの
頭を溶かし、そのまま貫いた。 頭部を失ったバイラムは力なくそのまま落下し、重い轟音と土煙を巻き起こ
しながらその場に横たわった。
「や、やった!」
初めて悪魔を倒したことに喜ぶファルであったが背筋に言いようの無い不気味さが走った。
思わず地面のほうへと視線を向けると他のバイラムがこちらを見つめていたのだ。
が、その顔からは恨みも悲しみも感じない。ファルは視線から感じ取れたのは興味、ただそれだけだった。
ふと、カミーラの言葉が頭の中に過ぎる。
バイラムは宇宙飛行士の脳を使っているのです。そして……その認識を変えられ――。
バイラムたちはいっせいにファルの方へと向かってきた。今度はフォーメーションを組むかのようにファル
の周りを飛び始めた。そして左右、前後、上下と刃を振るい、ビームを放ってきた。
が、それを紙一重でかわしていく。二機の動きを予測しつつ備え付けられていた剣で攻撃をいなしながら隙を探す。
動きが意外と単調ね。あと、武器の使い分けがなってない。
エグザトリアは二機のうち一機の攻撃を剣で受け止めるとそのまま押し返し、仰け反ったところにい縦に振るった。
バイラムは音もなく、二つに割れる。そして、割れた物はビルを倒しながらその場に横たわった。火花を飛
び散らせ、まるで死んだばかりの遺体のように軽く痙攣をするとそのまま瞳から光が消え去った。
マールはその様子を確認することなく、もう一機のバイラムに視線を移す。そして振り返った勢いを利用し
てそのまま横に大きく振るう。大きく空を切る音と共に今度は横に真っ二つになった。下半身がそのまま風に
乗るかのように都市部郊外へと堕ちていく。そして上半身もバランスを失い、潰れたトマトのように叩きつけられた。
ファルは軽く息を整えると堕ちたバイラムへ視線を送る。今までの記憶を掘り起こしてみてもこんなに簡単
に倒せるとは思ってない。むしろもっと手強いと思っている。だが……この機体がバイラムをあっさり引き裂いた。
正直言ってとても嬉しい。手も足も出なかったものを倒したのだから。そんな考えだと笑みが浮かんできた。
「んふふふふふ……」
しかし、その一方で不安が過ぎった。
もしも、これが敵の兵器なら? それにこの機体が暴走したら? いや、最悪、操られる場合もある。
言いようの無い不安が急に襲いかかってきた。
エグザトリアについて自分は何も知らないことに気がつくと不安はさらに盛り上がってきた。
どう足掻いても貫けなかった装甲を紙切れのように引き裂く武器。あちらの攻撃を受け付けない防御力。
稼動部分が多く、ビスマルクとは違った運動性能。小型のコックピットの中では使わなかったものが結構ある。
最悪の場合、エグザトリアが暴走したとき誰が止めるのであろうか?
「……尉! ミスリーア少尉!」
ぼうっとした頭を静めるかのように再びウィルスから通信が入った。
「こちら、ミスリーア。この地域のバイラムを劇はしました」
「そうか、それなら別の地域にいるのも頼む」
「了解」
そういうと通信が切れた。ファルは青い空を見つめながら気を取り直そうとする。
とにかく、今はバイラムを殲滅しないと!
そんな想いを胸に彼女はエグザトリアを次の場所へと運んでいった。
ボルスがステイツに帰ってきたのはファルたちがイングランドへと帰還した日よりも二日ほど早かった。
フリューゲルスを出てから一路、仲間がいるアトランタへと進路をとる。焼けた荒野がいつまでも続く中、
小さくうごめくものをいくつも見つける。それを見てボルスは現在の状況を再確認した。聞こえてくるラジオ
からはバイラムの情報が聞こえてくるものの、他の国とは違い、ステイツは思っている以上に被害が少なかっ
た。あのときの強襲以来、行動を起こす様子が無かったらしい。
きっとアルとレイが頑張ってくれているのだろう。いや、バイラムが思っている以上に活発でないのが原因
かもしれない。
認識を書き換えられたとはいえ、少なくとも故郷に対して何らかの感情を抱かないはずが無い。
だが、別の様子に心を傷つけられてしまう。
その証拠に少し高度を上げて見渡してみると遠くのほうでは町という町から煙が上がっていた。ラジオでは
一部、暴徒と化した市民が略奪を行っているらしい。治安部隊が出撃しているが焼け石に水のようだ。発砲す
る事態にまで発展してないのが救いだがそれも時間の問題だろう。バイラムが動かない事により襲ってくる不
安は恐怖と変化し、自暴自棄やモラルの低下を引き起こしていた。
まさに終末の時だな、バイラムはトランペットでも持ってきたのか?
そんなジョークが飛び出せる以上、自分は大丈夫だと言い聞かせる。正直に言えばカミーラの言葉が後を引
いていた。異星人との交渉や今回の侵略、どちらにとってもショックは大きかった。
ケントは異星人の存在を知ったから消されたのだろうか?
そんな疑問が浮かぶ度に振り払おうとする。今はバイラムの掃討が最優先だ。そう――。
「むっ……」
雲の隙間から黒の機体がちらりと見えた。白の雲に紛れつつも小さな隙間からにちらちらと見え隠れするの
がどうにも威圧的だ。そして、一定の距離感を保ちつつ、ナイツの周りを回り始めた。恐らく、この機体は――。
「相変わらずといったところだな……」
正直言って腹立たしかった。すぐさま飛び掛ってバイラムの一機でも叩き潰してやりたかったが今のナイツ
にはそれが出来ない。共有結合の槍を持っているのはアルとレイ二人だけだ。
そんな自分の気持ちを知ってか知らずか分からないが黒の機体、バイラムは攻撃を仕掛けてくることも無く
ただひたすらナイツの後ろをうろうろと飛んでいる。
「ならば……!」
ここから突き放して一刻も早く二人と合流するしかない。
そう思うとペダルを思い切り踏み込んでナイツを加速をさせる。が距離は離れる事は無くぴったりとバイラ
ムはくっついてきた。お互いマッハは既に超えているがバイラムは距離を近づける事も無ければ離れる事も無かった。
舌打ちをしながらさらにペダルを踏み込み、速度を上げてみる。
計器が回ると共にすさまじい衝撃がボルスに襲いかかってきた。歯を食いしばり、腹に力を入れてそれに耐える。
が、バイラムもまた同じように加速をして離す様子は無い。雲を突き破る追いかけっこが始まった。
右に左にと何度も振り払おうとするがバイラムは止まる様子も無くナイツを追いかけ続けている。
「いい加減にしてもらおうか!」
叫びと共に操縦桿のボタンを押して脇に付いているチャフグレネードを撒き散した。金属の破片が宙を舞い、
黒の機体に触れると一定の距離感を取るのを止めて、一気に近づいてきた。やぶ蛇だったか? そうは思うが
帰ってこっちのほうが気分が良かった。様子見をされているのは返ってプレッシャーであったが、攻撃をして
くるのなら気分も切り替えられる。
「やはりな! おちょくられるのには慣れてはいないようだ!」
雲を掻き分け飛び出してくると同時に大きく剣を振るうがナイツの姿はどこにもなかった。
辺りを見渡すと上のほうからマシンガンが飛んできた。視線をそちらに向けるがそこには太陽があった。
突然の事なのか、目が眩み戸惑うバイラム。カメラが焼け付いたのか視線をそらした。
その瞬間、後ろから同じように雲を掻き分けて飛び出してくるナイツが居た。
「これならどうだ!」
いきおいよく斬撃を叩き込もうとするがそれに気づき、すぐさま反転をする。そしてナイツの一撃を素早く
受け止めた。剣と剣とがぶつかると激しい火花が飛び散り、甲高い轟音が響き渡った。が、バイラムとの性質
上、剣にひびが入る。試作型ではこんなものか!? 恨めしい瞳で睨みつけるがバイラムの剣はナイツの首元
へと伸びる。やむえまいと一旦後ろに下がると再び剣を振るい始めた。
金属と金属がぶつかると鐘のような響が大空に鳴り渡る。しかし、一方的に攻撃してるにもかかわらず、バ
イラムは仰け反る様子は無かった。むしろ一つ一つ品定めをするかのように攻撃を受け、流し、そしてかわしていく。
優勢を保とうとしているが徐々に押されていることは隠せない事実である。
従来のナイツならば出来ていたことが出来なかったものも原因のひとつだった。試作型ナイツは完全にボル
スの動きについて来れていない。反応の悪さは自身の技術でカバーをしているが劣勢である事は言い訳が出来ない。
一通り攻撃を受けた後、まるで飽きたと言わんばかりに剣を構えて一気に近づくと腕を大きく振り上げてきた。
「これを待っていたのだ!」
振り下ろされると同時に肘を思い切り蹴りつけた。その拍子にバイラムの肩が切り裂かれ、腕は自分の体か
ら離れた。その瞬間、すかさずその腕を掴むとナイツの力全てを使って頭部へと叩き付けた。
ガシャン、という音と共にナイツの腕はその衝撃でへこみ、ほぼ七十度の角度に曲がったがバイラムの頭部
もまた自身の腕によって完全に砕かれた。そして頭を破壊されたバイラムは煙をを噴かせながらそのまま大地
へと落下していった。
「ふぅ……危なかった……」
初めて戦ってから既に一年経っている。こちらとて学習はしている。が、ギリギリであった事に違いなかっ
た。一年経つというのにバイラムの脅威は変わっていなかった。機体の事を抜いたとしても命を奪われかねない。
「アルたちと合流せねば……」
気を取り直すと一路、アトランタへと進路を取るとナイツは一目散に向かっていった。
フリューゲルスを出てから一路、仲間がいるアトランタへと進路をとる。焼けた荒野がいつまでも続く中、
小さくうごめくものをいくつも見つける。それを見てボルスは現在の状況を再確認した。聞こえてくるラジオ
からはバイラムの情報が聞こえてくるものの、他の国とは違い、ステイツは思っている以上に被害が少なかっ
た。あのときの強襲以来、行動を起こす様子が無かったらしい。
きっとアルとレイが頑張ってくれているのだろう。いや、バイラムが思っている以上に活発でないのが原因
かもしれない。
認識を書き換えられたとはいえ、少なくとも故郷に対して何らかの感情を抱かないはずが無い。
だが、別の様子に心を傷つけられてしまう。
その証拠に少し高度を上げて見渡してみると遠くのほうでは町という町から煙が上がっていた。ラジオでは
一部、暴徒と化した市民が略奪を行っているらしい。治安部隊が出撃しているが焼け石に水のようだ。発砲す
る事態にまで発展してないのが救いだがそれも時間の問題だろう。バイラムが動かない事により襲ってくる不
安は恐怖と変化し、自暴自棄やモラルの低下を引き起こしていた。
まさに終末の時だな、バイラムはトランペットでも持ってきたのか?
そんなジョークが飛び出せる以上、自分は大丈夫だと言い聞かせる。正直に言えばカミーラの言葉が後を引
いていた。異星人との交渉や今回の侵略、どちらにとってもショックは大きかった。
ケントは異星人の存在を知ったから消されたのだろうか?
そんな疑問が浮かぶ度に振り払おうとする。今はバイラムの掃討が最優先だ。そう――。
「むっ……」
雲の隙間から黒の機体がちらりと見えた。白の雲に紛れつつも小さな隙間からにちらちらと見え隠れするの
がどうにも威圧的だ。そして、一定の距離感を保ちつつ、ナイツの周りを回り始めた。恐らく、この機体は――。
「相変わらずといったところだな……」
正直言って腹立たしかった。すぐさま飛び掛ってバイラムの一機でも叩き潰してやりたかったが今のナイツ
にはそれが出来ない。共有結合の槍を持っているのはアルとレイ二人だけだ。
そんな自分の気持ちを知ってか知らずか分からないが黒の機体、バイラムは攻撃を仕掛けてくることも無く
ただひたすらナイツの後ろをうろうろと飛んでいる。
「ならば……!」
ここから突き放して一刻も早く二人と合流するしかない。
そう思うとペダルを思い切り踏み込んでナイツを加速をさせる。が距離は離れる事は無くぴったりとバイラ
ムはくっついてきた。お互いマッハは既に超えているがバイラムは距離を近づける事も無ければ離れる事も無かった。
舌打ちをしながらさらにペダルを踏み込み、速度を上げてみる。
計器が回ると共にすさまじい衝撃がボルスに襲いかかってきた。歯を食いしばり、腹に力を入れてそれに耐える。
が、バイラムもまた同じように加速をして離す様子は無い。雲を突き破る追いかけっこが始まった。
右に左にと何度も振り払おうとするがバイラムは止まる様子も無くナイツを追いかけ続けている。
「いい加減にしてもらおうか!」
叫びと共に操縦桿のボタンを押して脇に付いているチャフグレネードを撒き散した。金属の破片が宙を舞い、
黒の機体に触れると一定の距離感を取るのを止めて、一気に近づいてきた。やぶ蛇だったか? そうは思うが
帰ってこっちのほうが気分が良かった。様子見をされているのは返ってプレッシャーであったが、攻撃をして
くるのなら気分も切り替えられる。
「やはりな! おちょくられるのには慣れてはいないようだ!」
雲を掻き分け飛び出してくると同時に大きく剣を振るうがナイツの姿はどこにもなかった。
辺りを見渡すと上のほうからマシンガンが飛んできた。視線をそちらに向けるがそこには太陽があった。
突然の事なのか、目が眩み戸惑うバイラム。カメラが焼け付いたのか視線をそらした。
その瞬間、後ろから同じように雲を掻き分けて飛び出してくるナイツが居た。
「これならどうだ!」
いきおいよく斬撃を叩き込もうとするがそれに気づき、すぐさま反転をする。そしてナイツの一撃を素早く
受け止めた。剣と剣とがぶつかると激しい火花が飛び散り、甲高い轟音が響き渡った。が、バイラムとの性質
上、剣にひびが入る。試作型ではこんなものか!? 恨めしい瞳で睨みつけるがバイラムの剣はナイツの首元
へと伸びる。やむえまいと一旦後ろに下がると再び剣を振るい始めた。
金属と金属がぶつかると鐘のような響が大空に鳴り渡る。しかし、一方的に攻撃してるにもかかわらず、バ
イラムは仰け反る様子は無かった。むしろ一つ一つ品定めをするかのように攻撃を受け、流し、そしてかわしていく。
優勢を保とうとしているが徐々に押されていることは隠せない事実である。
従来のナイツならば出来ていたことが出来なかったものも原因のひとつだった。試作型ナイツは完全にボル
スの動きについて来れていない。反応の悪さは自身の技術でカバーをしているが劣勢である事は言い訳が出来ない。
一通り攻撃を受けた後、まるで飽きたと言わんばかりに剣を構えて一気に近づくと腕を大きく振り上げてきた。
「これを待っていたのだ!」
振り下ろされると同時に肘を思い切り蹴りつけた。その拍子にバイラムの肩が切り裂かれ、腕は自分の体か
ら離れた。その瞬間、すかさずその腕を掴むとナイツの力全てを使って頭部へと叩き付けた。
ガシャン、という音と共にナイツの腕はその衝撃でへこみ、ほぼ七十度の角度に曲がったがバイラムの頭部
もまた自身の腕によって完全に砕かれた。そして頭を破壊されたバイラムは煙をを噴かせながらそのまま大地
へと落下していった。
「ふぅ……危なかった……」
初めて戦ってから既に一年経っている。こちらとて学習はしている。が、ギリギリであった事に違いなかっ
た。一年経つというのにバイラムの脅威は変わっていなかった。機体の事を抜いたとしても命を奪われかねない。
「アルたちと合流せねば……」
気を取り直すと一路、アトランタへと進路を取るとナイツは一目散に向かっていった。
基地に到着して真っ先に目に入ったのは疲れ果てた顔のアルとレイであった。顔は青ざめ、目には隈が浮か
んでおり、ベッドに座って濡れたタオルを顔に当てていた。レイにいたっては簡易ベッドの上で横たわっており、
起き上がるのすら辛い状況らしい。格納庫の近くにあるこの休憩所では、隣からクレーンなどが動くけたたまし
い音が何度も聞こえてきた。とてもではないが休めと言われても休める状況とは思えなかった。
「大丈夫か?」
「へ、平気です。こんなの市民たちの不安に比べたら……」
そうアルは言いながらすぐさま立ち上がって腕を上げようとする。
だが自分の身体を支えきれず、そのまま床に膝を付いた。先ほどの声にも完全に覇気がなかった。
「しっかりしろ!」
すぐさま駆け寄ると肩に腕を回し、立ち上がらせる。支えるアルの体は筋肉質であったのに対し、ほんの少
し軽かった。恐らく連日連夜、バイラムとの戦いに明け暮れていたらしい。それだけではない、食事らしい食
事をしていないのだろう。その証拠にアルは足に力が入らないらしく、立ち上がろうとしても常にフラフラと
安定しなかった。
「ありがとうございます……」
「何、礼はいらん。これは隊長の務めだからな」
必死になってベッドの上に座らせるとそのまま勢いよく後ろへ倒れた。眠気が激しいらしく、何度も瞬きを
している。頑張っていてくれる事は十分に理解できた。
それに引き換え、試作型ナイツを引っ張り出しておいて私はこの様か。友の敵も討てず……。
「隊長?」
そんな悔しさそうな顔に気がついたのか、レイがつい声をかけてくる。知らず知らずのうちに悔しさが顔に出ていたらしい。気落ちしている場合ではない。ここからが大変なのだから。
「いや、大丈夫だ。それよりも状況を聞かせてくれ
ボルスがそういうと二人とも起き上がろうとするがすぐにそれを手で制す。
「はっ、我々二人は現在のところバイラム二機の撃破に成功。しかし依然バイラムは広範囲に点在しており、
その対処に追われています。一応軍部のほうでは対策を練っていますが依然打開策は発表されてません」
ケントが作った共有結合の槍は製作に時間がかかるようだった。バイラムの破片を使用した武器を製作する
のにも、配備するのにも、時間がかかるのは明白であり、そもそも現在の敵はバイラムではなく暴徒と化した
市民である。彼らを静めなければ二次災害が起こるのは確実であった。そうなればナイツに頼るしかなかった。
ボルスほどの技量がないにしても二人は堅実に任務を行い、バイラムを一機ずつ倒していった。
「そうか……私のほうも軽く説明しておこう」
ボルスはアトランティスであった事を説明した。バイラム・カスタムとの戦闘、ユニオンとの連携、現れた
バイラムⅡ。そして異星人の存在……。ボルスは彼女が残した言葉も包み隠さず二人へ伝えた。
「そんな……」
「異星人なんて……信じられません」
二人とも信じられないといった表情でボルスを見つめている。レイに居たってはとてもじゃないが自分が
デマに踊らされているのではないかと疑うかのような視線が含んでいる。
「私もそう思う。だが、信じるしかないのだ」
二人が事態を飲み込もうとした丁度同じタイミングでニュース番組が始まった。
「ニュースです、つい先ほど国連からバイラムに付いての発表がありました」
一体何事だ? 一斉にテレビ画面へと視線を移す。
背広を着た男が演説台の上に立つと視線を真っ直ぐカメラに向けてきた。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。バイラムの解析結果が先ほど分かりました。バイラムの正体はADA
Mの乗組員です。バイラムは彼らを改造して作られた生体起動兵器なのです」
突然の発表にボルスは目を白黒させた。 このタイミングでか!? いくらなんでも今は拙過ぎる!
例え事態を知るのは遅かれ早かれ理解は出来ていた。だが、今この状況での情報開示は火に油を注ぐ結果に
なりかねない。それだけではない、この行為によってADAM乗組員の家族にも被害が及ぶ可能性がある。
おまけに解析という言葉からどこと無く卑怯な臭いも感じ取れた。恐らく政府筋の保身だろう。
そんなボルスの心配も目の前の男には全く伝わらず、言葉を続けていく。
「それだけではありません、今回の騒動を引き起こしたのは三強の政治家なのです。彼らは火星にある莫大な
資源を見つけたのです。これに対し――」
資源だと? 初耳だぞ、それは。
発表は続いていく。先ほどの疑惑は確信へと変わっていく。暴動は確実に起きる、しかも最悪な方法で。
ただでさえ、暴動が起きているのだ。最悪の場合、治安維持のために市民と軍が激突だろう。市民を守るた
めの軍が守る対象である市民へと銃を向ける。皮肉というレベルを超えて滑稽に見えてきた。
そうなったらどうすると自分に自問自答してみるが自分の心内は既に決まっていた。
三人ともテレビへと視線を放さない中、基地内放送が入った。
「ボルス大尉、ボルス大尉、至急、基地通信室へ」
一体なんだろうか? ありとあらゆる事がいまさらに感じている現状で何を申し立てようというのだろう。
二人とも不安そうな顔でボルスを見るが彼は自虐めいた笑みを浮かべる。
「心配するな、ちょっと怒られてくるだけだから安心してくれ」
そういうとそのまま待機室を出て行った。広い廊下には人影がほとんど無く、歩いているのはボルスだけであった。
一体、何のようなんだ? だが、思い当たる事はいくつもある。不法侵入に軍備品の強奪、及び無断使用。
おまけに国家機密を知ったとなれば銃殺刑だな。
不吉な事を考えているのに足取りは思った以上に軽かった。自暴自棄になっているのか、それとも明るい兆
しでも見つけたのかも分からないが。
通信室の中は誰もおらず、通信用の端末があるだけであった。どうしたものやら……。と通信の端末に電源
を入れる。
「こちら、ボルセウム・ライアー”元”大尉。司令部、応答を願います」
「こちら、司令部。久しぶりだな、大尉」
目の前に現れたのはボルスの解雇を言い渡した将軍であった。時間がそんなに経ってはいないはずなのだが
白い部分がかなり増えていた。それだけではない。皺の部分も多く、既に十年以上も時が過ぎ去ったかのよう
な風貌であった。
「まず、単刀直入に言おう。君の除隊は不当なものとしてそれが取り消された」
「そうですか……」
大統領府から来た通知はアンギュロス側の政治家が仕込んだものらしい。
恐らく、教授からケントへ、ケントから私へと何らかの情報が流れていると思ったようだ。
まあ、結局のところ自分自身から出た錆のせいで自分の首を絞める結果になったのだが。
「そして、君のやったことは全て不問にさせてもらう」
「全て、とは?」
「試作型ナイツの独断使用、PM銃器一式の強奪。おまけに戦前逃亡に不法侵入。あげれば切りがないぞ」
「失礼ですが私は戦前逃亡ではありません、そもそもあの時、私は解雇されたのですから」
皮肉混じりに言うと司令もまた何食わぬ顔でこう返してきた。
「辞令が受理されて執行されるまで三十日必要だ。それに一民間人にPMを使わせるのは犯罪ではないのかね?」
そういいながら指を組んでボルスを見つめる。口では決して負けんと思っているのだろうか?
軽く咳払いをすると彼は話を続けた。
「話を戻そう、戦時特例処置として君の階級を少佐とする」
「少佐?」
「人手不足なのだよ、わがステイツも」
「……確かにバイラムのせいで人間は減っていますが……」
苦々しい顔で言うがどうにもしまらない事情だ。少佐という地位は魅力的だがそれ以上にステイツの台所事
情が切羽詰っているのがどうにも情けなく感じる。
「では、それでいいな。それでは早速だが君に任務を言い渡す。君は本日ワシントンにいる大統領を保護してくれ」
「大統領を、ですか?」
「ああ、彼には多額の借りがあってね」
借りという言葉にボルスは眉をしかめた。恐らく……裏金の事だろう……。いや、この司令の事だ。権力の
ゴリ押しを受けたのだろう。
「保護は結構ですが……バイラムとのつながりを示すのに有力な人物ではないのですか?」
本来なら法廷へと出廷させるべきなのだ。それなのに目の前の司令は平然とした口調で言い放った。
「ボルス少佐、民間人よりも大統領の命の方が重いのだよ」
「しかし!」
「既に決まったことだ、ボルス少佐。辞令を受け取って戦線へ復帰したまえ。」
傲慢な物言いにボルスの怒りはついに頂点に達した。
「ふざけるな! 散々振り回しておいてそれか!? 私は都合のいい駒ではない!」
そのまま感情に任せ、通信機を床に叩き付けた。床の乾いた音と共に通信機が火花を散らして機能を停止させた。
荒い息を整えると冷静に自身の行動を思い直す。こんなに感情を露にしたのは久しぶりだった。ケントとナ
イツの仕様と巡って夜中まで議論をするような高揚感ではなく、今だに保身しか考えない彼らへの鬱憤だった。
「情けないな、全く」
小さくつぶやくと通信室に背を向けて歩いていった。
んでおり、ベッドに座って濡れたタオルを顔に当てていた。レイにいたっては簡易ベッドの上で横たわっており、
起き上がるのすら辛い状況らしい。格納庫の近くにあるこの休憩所では、隣からクレーンなどが動くけたたまし
い音が何度も聞こえてきた。とてもではないが休めと言われても休める状況とは思えなかった。
「大丈夫か?」
「へ、平気です。こんなの市民たちの不安に比べたら……」
そうアルは言いながらすぐさま立ち上がって腕を上げようとする。
だが自分の身体を支えきれず、そのまま床に膝を付いた。先ほどの声にも完全に覇気がなかった。
「しっかりしろ!」
すぐさま駆け寄ると肩に腕を回し、立ち上がらせる。支えるアルの体は筋肉質であったのに対し、ほんの少
し軽かった。恐らく連日連夜、バイラムとの戦いに明け暮れていたらしい。それだけではない、食事らしい食
事をしていないのだろう。その証拠にアルは足に力が入らないらしく、立ち上がろうとしても常にフラフラと
安定しなかった。
「ありがとうございます……」
「何、礼はいらん。これは隊長の務めだからな」
必死になってベッドの上に座らせるとそのまま勢いよく後ろへ倒れた。眠気が激しいらしく、何度も瞬きを
している。頑張っていてくれる事は十分に理解できた。
それに引き換え、試作型ナイツを引っ張り出しておいて私はこの様か。友の敵も討てず……。
「隊長?」
そんな悔しさそうな顔に気がついたのか、レイがつい声をかけてくる。知らず知らずのうちに悔しさが顔に出ていたらしい。気落ちしている場合ではない。ここからが大変なのだから。
「いや、大丈夫だ。それよりも状況を聞かせてくれ
ボルスがそういうと二人とも起き上がろうとするがすぐにそれを手で制す。
「はっ、我々二人は現在のところバイラム二機の撃破に成功。しかし依然バイラムは広範囲に点在しており、
その対処に追われています。一応軍部のほうでは対策を練っていますが依然打開策は発表されてません」
ケントが作った共有結合の槍は製作に時間がかかるようだった。バイラムの破片を使用した武器を製作する
のにも、配備するのにも、時間がかかるのは明白であり、そもそも現在の敵はバイラムではなく暴徒と化した
市民である。彼らを静めなければ二次災害が起こるのは確実であった。そうなればナイツに頼るしかなかった。
ボルスほどの技量がないにしても二人は堅実に任務を行い、バイラムを一機ずつ倒していった。
「そうか……私のほうも軽く説明しておこう」
ボルスはアトランティスであった事を説明した。バイラム・カスタムとの戦闘、ユニオンとの連携、現れた
バイラムⅡ。そして異星人の存在……。ボルスは彼女が残した言葉も包み隠さず二人へ伝えた。
「そんな……」
「異星人なんて……信じられません」
二人とも信じられないといった表情でボルスを見つめている。レイに居たってはとてもじゃないが自分が
デマに踊らされているのではないかと疑うかのような視線が含んでいる。
「私もそう思う。だが、信じるしかないのだ」
二人が事態を飲み込もうとした丁度同じタイミングでニュース番組が始まった。
「ニュースです、つい先ほど国連からバイラムに付いての発表がありました」
一体何事だ? 一斉にテレビ画面へと視線を移す。
背広を着た男が演説台の上に立つと視線を真っ直ぐカメラに向けてきた。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。バイラムの解析結果が先ほど分かりました。バイラムの正体はADA
Mの乗組員です。バイラムは彼らを改造して作られた生体起動兵器なのです」
突然の発表にボルスは目を白黒させた。 このタイミングでか!? いくらなんでも今は拙過ぎる!
例え事態を知るのは遅かれ早かれ理解は出来ていた。だが、今この状況での情報開示は火に油を注ぐ結果に
なりかねない。それだけではない、この行為によってADAM乗組員の家族にも被害が及ぶ可能性がある。
おまけに解析という言葉からどこと無く卑怯な臭いも感じ取れた。恐らく政府筋の保身だろう。
そんなボルスの心配も目の前の男には全く伝わらず、言葉を続けていく。
「それだけではありません、今回の騒動を引き起こしたのは三強の政治家なのです。彼らは火星にある莫大な
資源を見つけたのです。これに対し――」
資源だと? 初耳だぞ、それは。
発表は続いていく。先ほどの疑惑は確信へと変わっていく。暴動は確実に起きる、しかも最悪な方法で。
ただでさえ、暴動が起きているのだ。最悪の場合、治安維持のために市民と軍が激突だろう。市民を守るた
めの軍が守る対象である市民へと銃を向ける。皮肉というレベルを超えて滑稽に見えてきた。
そうなったらどうすると自分に自問自答してみるが自分の心内は既に決まっていた。
三人ともテレビへと視線を放さない中、基地内放送が入った。
「ボルス大尉、ボルス大尉、至急、基地通信室へ」
一体なんだろうか? ありとあらゆる事がいまさらに感じている現状で何を申し立てようというのだろう。
二人とも不安そうな顔でボルスを見るが彼は自虐めいた笑みを浮かべる。
「心配するな、ちょっと怒られてくるだけだから安心してくれ」
そういうとそのまま待機室を出て行った。広い廊下には人影がほとんど無く、歩いているのはボルスだけであった。
一体、何のようなんだ? だが、思い当たる事はいくつもある。不法侵入に軍備品の強奪、及び無断使用。
おまけに国家機密を知ったとなれば銃殺刑だな。
不吉な事を考えているのに足取りは思った以上に軽かった。自暴自棄になっているのか、それとも明るい兆
しでも見つけたのかも分からないが。
通信室の中は誰もおらず、通信用の端末があるだけであった。どうしたものやら……。と通信の端末に電源
を入れる。
「こちら、ボルセウム・ライアー”元”大尉。司令部、応答を願います」
「こちら、司令部。久しぶりだな、大尉」
目の前に現れたのはボルスの解雇を言い渡した将軍であった。時間がそんなに経ってはいないはずなのだが
白い部分がかなり増えていた。それだけではない。皺の部分も多く、既に十年以上も時が過ぎ去ったかのよう
な風貌であった。
「まず、単刀直入に言おう。君の除隊は不当なものとしてそれが取り消された」
「そうですか……」
大統領府から来た通知はアンギュロス側の政治家が仕込んだものらしい。
恐らく、教授からケントへ、ケントから私へと何らかの情報が流れていると思ったようだ。
まあ、結局のところ自分自身から出た錆のせいで自分の首を絞める結果になったのだが。
「そして、君のやったことは全て不問にさせてもらう」
「全て、とは?」
「試作型ナイツの独断使用、PM銃器一式の強奪。おまけに戦前逃亡に不法侵入。あげれば切りがないぞ」
「失礼ですが私は戦前逃亡ではありません、そもそもあの時、私は解雇されたのですから」
皮肉混じりに言うと司令もまた何食わぬ顔でこう返してきた。
「辞令が受理されて執行されるまで三十日必要だ。それに一民間人にPMを使わせるのは犯罪ではないのかね?」
そういいながら指を組んでボルスを見つめる。口では決して負けんと思っているのだろうか?
軽く咳払いをすると彼は話を続けた。
「話を戻そう、戦時特例処置として君の階級を少佐とする」
「少佐?」
「人手不足なのだよ、わがステイツも」
「……確かにバイラムのせいで人間は減っていますが……」
苦々しい顔で言うがどうにもしまらない事情だ。少佐という地位は魅力的だがそれ以上にステイツの台所事
情が切羽詰っているのがどうにも情けなく感じる。
「では、それでいいな。それでは早速だが君に任務を言い渡す。君は本日ワシントンにいる大統領を保護してくれ」
「大統領を、ですか?」
「ああ、彼には多額の借りがあってね」
借りという言葉にボルスは眉をしかめた。恐らく……裏金の事だろう……。いや、この司令の事だ。権力の
ゴリ押しを受けたのだろう。
「保護は結構ですが……バイラムとのつながりを示すのに有力な人物ではないのですか?」
本来なら法廷へと出廷させるべきなのだ。それなのに目の前の司令は平然とした口調で言い放った。
「ボルス少佐、民間人よりも大統領の命の方が重いのだよ」
「しかし!」
「既に決まったことだ、ボルス少佐。辞令を受け取って戦線へ復帰したまえ。」
傲慢な物言いにボルスの怒りはついに頂点に達した。
「ふざけるな! 散々振り回しておいてそれか!? 私は都合のいい駒ではない!」
そのまま感情に任せ、通信機を床に叩き付けた。床の乾いた音と共に通信機が火花を散らして機能を停止させた。
荒い息を整えると冷静に自身の行動を思い直す。こんなに感情を露にしたのは久しぶりだった。ケントとナ
イツの仕様と巡って夜中まで議論をするような高揚感ではなく、今だに保身しか考えない彼らへの鬱憤だった。
「情けないな、全く」
小さくつぶやくと通信室に背を向けて歩いていった。
そして、そこから一週間経った。
この一週間の間、シルバーナイツはバイラム掃討に精を出していた。
ボルスは囮に徹し、その間に二機でバイラムを倒すというシンプルなものだったがこちらを甘く見ているバ
イラムには非常に効果的であった。最初のと違い、現在のバイラムは共有結合の装甲に頼りきりであるため、
隙が丸出しであった。
無論、そんな事もないバイラムもいた。初撃をかわされたり、逆に槍を持っていたナイツが襲われる事もあ
ったがその場合はボルスが身を挺してそれにカバーに入った。
その為、囮の試作型ナイツが最も酷い損傷を受けるケースが多かった。もっとも、中のボルスはナイツの構
造が頑丈だったため、かすり傷程度で済んでいたが。
そんな中、バイラム三機を撃破して帰還したときのことである。
「……エグザトリア?」
「ええ」
ハンガーに取り付け、コックピットから降りると一人の整備員がボルスに話しかけてきた。
この整備員にはいつも贔屓にさせてもらっているので、ボルスとしてもありがたかった。
彼からは軍の情報から始まり、市民の動向、政府の内情、トイレットペーパーの安売りまで教えて貰うこと
もあった。元情報部らしく、その手の伝手はいくつもあるらしい。どういった因果で整備員になったかは教え
てもらっていないが。
「国連で管理しているPMだそうです。なんでも一機でバイラムを全て殲滅したとか……」
「そんな強力な機体はどこで開発したんだ? 少なくともステイツで作られたとは到底思えないのだが」
「……小耳に挟んだのですが……」
整備員が急に声を潜めた。どうやら聞かれたくない話らしく周囲に視線を配っている。
「どうした?」
「エグザトリアはバイラムと同じ所で作られた機体らしいです。最初の搭乗者である何の訓練も積んでいない
少年があっという間に倒したぐらいですから」
「バイラムと同じか……」
バイラムと同じ、という事は恐らく認識の書き換えも当然行われているのだろう。
それだけではない、あのバイラムを一機で駆逐したと言われている事から性能もナイツとは大幅に違うのだろう。
「そしてそのエグザトリア、この間ようやくステイツに運び込まれたようです」
「なんだと?」
「おっ、少佐も気になりますよね。元々はマッケンバウアーがわざわざ手引きをしてくれたぐらいですからね、
まあ、毒をもって毒を制すというわけで……その陰で億単位の金が動いたとも言われいますよ」
「そこまでやるとは……」
正直信じられない自分がいた。バイラムと同型機とはいえそこまで性能差があるとは思えなかった。
無論、バイラムⅡとバイラム・カスタムの戦闘を目撃していたボルスにとっては信じられることではあったが。
「AUAもユニオンもエグザトリアのおかげでバイラムを駆逐できたらしいですからね。ナイツだけでは……
おっと、すみません」
「いや、別に気にしてはない。悔しいが事実である以上否定は出来ないからな」
「ありがとうございます、っとそろそろ休憩時間が終わるので私はこれにて失礼します」
「ああ、それでは」
二人はお互いに敬礼するとそれぞれ自分の持ち場へと帰っていった。
エグザトリア……いくらなんでも信じられんな。
そう思いつつも心のどこかでその“力”欲しがっている自分がいた。
進まないバイラムの掃討、強大すぎる敵。切り札であったが今はないパラディン。
この言いようのない不安を振り払えるものをほしいと心のそこから願っている。
いかん、こんな気持ちでは勝てる戦いも勝てないな。
気分を一新しようと外へ出て空気を吸おうとすると基地内放送が入った。
「シルバーナイツは至急通信室へ」
またか……今度はなんだ?
ボルスは踵を返して基地の中へと入っていく。基地にいる人々はボルスのほうをちら理を見た後、そそくさ
と自分の仕事へと戻っていく。全く、有名になったものだ。
「あっ、隊長!」
通信室の前でアルとレイが立ち往生していた。二人とも一体何の用事なのか分からないらしく、少ししかめ
た顔で話をしていたようだ。とにかく会うしかないと思い、三人が通信室へ入ると一番大きいモニターに電源は入った。
「久しぶりだね、少佐」
出てきたのは司令だった。正直に言えば受話器を叩きつけたと言うのにまた顔を合わせるということにボルス
は驚きを隠せなかった。人手不足なのか、それとも他にやる人間がいなかったのか、と心の中でつぶやく。いや、
解雇されなかっただけマシだと思いたい。
「今度はなんでしょうか? またあの大統領のお守でしょうか?」
皮肉をぶつけることに嫌気がさしていたがこの顔を見るとどうしてもいちいち嫌味をこぼしてしまう。
「その大統領はつい先日暗殺されたよ」
「暗殺!?」
「犯人は側近の秘書だよ、家族を殺された恨みを晴らした、といったところだね」
司令の言葉からボルスはなんとなくだが理解が出来た。恐らくその秘書はバイラムの、ADAM乗組員の近
親者だったのだろう。三年という月日は決して人の心を癒すことなく、まるで剥ぎ取られるかのように再び蘇
ったのだ。もしくは、大統領に責任をかぶせ、自信の安寧を得るためにあえて罪を被せたか……。
「さて、本題に入ろう。君はエグザトリアというPMを知っているな?」
「はい、ステイツの軍人はみんな知っています」
「なら話が早い、それに君を搭乗させる。というのはどうかな?」
「何ですって!?」
アルが驚きの声を上げる一方、ボルスはなんとなくだが理解をしていた。
唯でさえ、進まないバイラムの掃討とエグザトリアという新型。それを欲するのは当然のことかもしれない。
それだけではない、その間にこのエグザトリアのデータを欲しがるのだろう。
量産するほどの力を持っていないが少なくともデータを取得すれば他の国より数歩リードすることが出来るのだ。
「少佐、君なら理解をしているはずだ。現状でベストなのはこの機体を使ってバイラムを駆逐する事だ」
まるで悪魔のささやきのように司令は言葉をつむぐ、しかしボルスの心は既に決まっていた。
「お言葉ですが私はバイラムに乗るつもりはありません!」
ボルスの言葉に対し、司令もまたすかさず反論をする。
「しかし、ナイツで勝てると? そこの二人に任せたつもりなのだろうがここ一週間の戦果はバイラム三機。
市民を守るなどと片腹痛い事だよ」
「ぐっ……」
アルは思わず歯軋りをしてしまう。痛いところを突かれ、反論が出来ない。
結果が全てである以上、この指令がいっていることは事実である。
あえて乗れといわないの自分のプライドなのだろうか?
「……分かりました、私が搭乗します」
「隊長!」
「ただし、破壊し終えたらすぐさま国連へと返却を要望します」
「その辺りは理解をしている」
「では、失礼します」
ボルスは敬礼をすると部屋を出て行った。そして、アルがすかさず怒声をあげた。
「隊長、どういうつもりなのですか?」
「……お前が言いたいことは分かる。だが、現在のナイツで勝てると思うか?」
「それは……」
あの時乗らないといったのは自分の意思だ。
無論、冷静に考えてみればナイツでバイラムを倒すのはあまりにも困難である。
装甲を貫けるとはいえ囮を使ったワンパターンな作戦、もしもきちんとした戦術を備えたバイラムならひと
たまりも無い。そして、何よりも国力の回復を第一にしなければ戦いはさらに長く続くだろう。
「それだけではない、あの紫のバイラムといつか、真っ向から打ち合わなくてはならんだろう。そうなったら
ナイツ、いやパラディンでも心もとない。我々には力が必要なのだ、この戦いを終わらせるために」
「隊長……」
「信念を曲げて頭を下げるのはこれっきりだ、私はナイツを愛しているからな」
ボルスはそういうがバイラムに乗り込むのには心のどこかで抵抗があった。ナイツを大切にしているという
のは事実だがそれ以上にバイラムへの嫌悪があった。これも新たなナイツを作るため、アンギュロスたちに勝
つためと言い訳をしている。
ケント、お前は許してくれるだろうか?
この一週間の間、シルバーナイツはバイラム掃討に精を出していた。
ボルスは囮に徹し、その間に二機でバイラムを倒すというシンプルなものだったがこちらを甘く見ているバ
イラムには非常に効果的であった。最初のと違い、現在のバイラムは共有結合の装甲に頼りきりであるため、
隙が丸出しであった。
無論、そんな事もないバイラムもいた。初撃をかわされたり、逆に槍を持っていたナイツが襲われる事もあ
ったがその場合はボルスが身を挺してそれにカバーに入った。
その為、囮の試作型ナイツが最も酷い損傷を受けるケースが多かった。もっとも、中のボルスはナイツの構
造が頑丈だったため、かすり傷程度で済んでいたが。
そんな中、バイラム三機を撃破して帰還したときのことである。
「……エグザトリア?」
「ええ」
ハンガーに取り付け、コックピットから降りると一人の整備員がボルスに話しかけてきた。
この整備員にはいつも贔屓にさせてもらっているので、ボルスとしてもありがたかった。
彼からは軍の情報から始まり、市民の動向、政府の内情、トイレットペーパーの安売りまで教えて貰うこと
もあった。元情報部らしく、その手の伝手はいくつもあるらしい。どういった因果で整備員になったかは教え
てもらっていないが。
「国連で管理しているPMだそうです。なんでも一機でバイラムを全て殲滅したとか……」
「そんな強力な機体はどこで開発したんだ? 少なくともステイツで作られたとは到底思えないのだが」
「……小耳に挟んだのですが……」
整備員が急に声を潜めた。どうやら聞かれたくない話らしく周囲に視線を配っている。
「どうした?」
「エグザトリアはバイラムと同じ所で作られた機体らしいです。最初の搭乗者である何の訓練も積んでいない
少年があっという間に倒したぐらいですから」
「バイラムと同じか……」
バイラムと同じ、という事は恐らく認識の書き換えも当然行われているのだろう。
それだけではない、あのバイラムを一機で駆逐したと言われている事から性能もナイツとは大幅に違うのだろう。
「そしてそのエグザトリア、この間ようやくステイツに運び込まれたようです」
「なんだと?」
「おっ、少佐も気になりますよね。元々はマッケンバウアーがわざわざ手引きをしてくれたぐらいですからね、
まあ、毒をもって毒を制すというわけで……その陰で億単位の金が動いたとも言われいますよ」
「そこまでやるとは……」
正直信じられない自分がいた。バイラムと同型機とはいえそこまで性能差があるとは思えなかった。
無論、バイラムⅡとバイラム・カスタムの戦闘を目撃していたボルスにとっては信じられることではあったが。
「AUAもユニオンもエグザトリアのおかげでバイラムを駆逐できたらしいですからね。ナイツだけでは……
おっと、すみません」
「いや、別に気にしてはない。悔しいが事実である以上否定は出来ないからな」
「ありがとうございます、っとそろそろ休憩時間が終わるので私はこれにて失礼します」
「ああ、それでは」
二人はお互いに敬礼するとそれぞれ自分の持ち場へと帰っていった。
エグザトリア……いくらなんでも信じられんな。
そう思いつつも心のどこかでその“力”欲しがっている自分がいた。
進まないバイラムの掃討、強大すぎる敵。切り札であったが今はないパラディン。
この言いようのない不安を振り払えるものをほしいと心のそこから願っている。
いかん、こんな気持ちでは勝てる戦いも勝てないな。
気分を一新しようと外へ出て空気を吸おうとすると基地内放送が入った。
「シルバーナイツは至急通信室へ」
またか……今度はなんだ?
ボルスは踵を返して基地の中へと入っていく。基地にいる人々はボルスのほうをちら理を見た後、そそくさ
と自分の仕事へと戻っていく。全く、有名になったものだ。
「あっ、隊長!」
通信室の前でアルとレイが立ち往生していた。二人とも一体何の用事なのか分からないらしく、少ししかめ
た顔で話をしていたようだ。とにかく会うしかないと思い、三人が通信室へ入ると一番大きいモニターに電源は入った。
「久しぶりだね、少佐」
出てきたのは司令だった。正直に言えば受話器を叩きつけたと言うのにまた顔を合わせるということにボルス
は驚きを隠せなかった。人手不足なのか、それとも他にやる人間がいなかったのか、と心の中でつぶやく。いや、
解雇されなかっただけマシだと思いたい。
「今度はなんでしょうか? またあの大統領のお守でしょうか?」
皮肉をぶつけることに嫌気がさしていたがこの顔を見るとどうしてもいちいち嫌味をこぼしてしまう。
「その大統領はつい先日暗殺されたよ」
「暗殺!?」
「犯人は側近の秘書だよ、家族を殺された恨みを晴らした、といったところだね」
司令の言葉からボルスはなんとなくだが理解が出来た。恐らくその秘書はバイラムの、ADAM乗組員の近
親者だったのだろう。三年という月日は決して人の心を癒すことなく、まるで剥ぎ取られるかのように再び蘇
ったのだ。もしくは、大統領に責任をかぶせ、自信の安寧を得るためにあえて罪を被せたか……。
「さて、本題に入ろう。君はエグザトリアというPMを知っているな?」
「はい、ステイツの軍人はみんな知っています」
「なら話が早い、それに君を搭乗させる。というのはどうかな?」
「何ですって!?」
アルが驚きの声を上げる一方、ボルスはなんとなくだが理解をしていた。
唯でさえ、進まないバイラムの掃討とエグザトリアという新型。それを欲するのは当然のことかもしれない。
それだけではない、その間にこのエグザトリアのデータを欲しがるのだろう。
量産するほどの力を持っていないが少なくともデータを取得すれば他の国より数歩リードすることが出来るのだ。
「少佐、君なら理解をしているはずだ。現状でベストなのはこの機体を使ってバイラムを駆逐する事だ」
まるで悪魔のささやきのように司令は言葉をつむぐ、しかしボルスの心は既に決まっていた。
「お言葉ですが私はバイラムに乗るつもりはありません!」
ボルスの言葉に対し、司令もまたすかさず反論をする。
「しかし、ナイツで勝てると? そこの二人に任せたつもりなのだろうがここ一週間の戦果はバイラム三機。
市民を守るなどと片腹痛い事だよ」
「ぐっ……」
アルは思わず歯軋りをしてしまう。痛いところを突かれ、反論が出来ない。
結果が全てである以上、この指令がいっていることは事実である。
あえて乗れといわないの自分のプライドなのだろうか?
「……分かりました、私が搭乗します」
「隊長!」
「ただし、破壊し終えたらすぐさま国連へと返却を要望します」
「その辺りは理解をしている」
「では、失礼します」
ボルスは敬礼をすると部屋を出て行った。そして、アルがすかさず怒声をあげた。
「隊長、どういうつもりなのですか?」
「……お前が言いたいことは分かる。だが、現在のナイツで勝てると思うか?」
「それは……」
あの時乗らないといったのは自分の意思だ。
無論、冷静に考えてみればナイツでバイラムを倒すのはあまりにも困難である。
装甲を貫けるとはいえ囮を使ったワンパターンな作戦、もしもきちんとした戦術を備えたバイラムならひと
たまりも無い。そして、何よりも国力の回復を第一にしなければ戦いはさらに長く続くだろう。
「それだけではない、あの紫のバイラムといつか、真っ向から打ち合わなくてはならんだろう。そうなったら
ナイツ、いやパラディンでも心もとない。我々には力が必要なのだ、この戦いを終わらせるために」
「隊長……」
「信念を曲げて頭を下げるのはこれっきりだ、私はナイツを愛しているからな」
ボルスはそういうがバイラムに乗り込むのには心のどこかで抵抗があった。ナイツを大切にしているという
のは事実だがそれ以上にバイラムへの嫌悪があった。これも新たなナイツを作るため、アンギュロスたちに勝
つためと言い訳をしている。
ケント、お前は許してくれるだろうか?
「これがエグザトリアか……」
格納庫で最終チェックをされているエグザトリアを見てため息を付く。ボルスが乗るナイツとほぼ似たよう
なカラーリングに対し、姿かたちがバイラムである事を教えてくれた。装備品もせいぜい、腰のライフルと備
え付けの剣のみというシンプルなものである。
エグザトリア自体がここに輸送されるまではそう時間がかからなかった。
乗ると決めて三日、その間に三人ともバイラム撃破に精を出した。だが、倒した数はせいぜい三機発見した
うちの一機。残りの二機はボルスたちをまるで相手にするわけでもなく、あっという間に逃げ去ってしまった。
あまり、甘えていられないな。現在、バイラムが残っているのはこのステイツのみだ。
AUAやユニオンでは既に安全宣言が出ていた。多くの難民を抱えたこの国から出て行くものも多いがもう
そんな事はさせない。そう思った矢先、整備員から声をかけられた。
「少佐、チェックが終わりました!」
コックピットに乗り込むとスターターを突っ込んだ。軽い振動がコックピットに伝わってくるとそのままゆ
っくりとエグザトリアは動き出した。意外にも手ごたえはかなり軽い感じであった。まるでナイツがトラック
であるのに対し、このエグザトリアはまるで軽快なスポーツカーを思わせる軽快さだった。ペダルの踏み込み
もかなり軽く、操縦桿の操作性も決して悪くはない。
「さて、と……」
実力を見せてもらおうか、エグザトリア。首を回し、軽く伸びをするとコンピュータの方の起動が完了した。
耳障りな電子音と共に目の前にあるディスプレイがメッセージが表示する。
『おはようございます。本日のミッションはこちらになります』
「インフォメーションか……」
まあ、昨今のPMなら付いてて当然だが……。
『バイラムの丸焼き、民間人への補給物資の運搬、アホの大臣の尻叩き、以上の三品です』
突然の事にあっけに取られてしまった。だがすぐさま気を取り直した。
「ちゃんと表示をしろ!」
とコンソールを叩いてしまう。が、Cpuは止まることなくころころとメッセージを変えていく。
『ほんのジョークですよ、パイロット君』
これがエグザトリアなのか? 全く報告が入ってなかったぞ!
先ほど期待感は既にどこかへと消え去っており、今あるのは不安と苛立ちだけであった。
全く、とんでもないものをよこしたものだ。
「少佐、カタパルトの準備が整いました。前進をしてください」
「了解」
重い溜息とペダルを踏み込み、カタパルトの前まで来る。そんな時、新たなメッセージが表示された。
『やれやれ、そんなだからケツに火がつくのさ』
「!? き、キサマァ!!」
苛立ちを抑えきれず、懐にある拳銃に手を伸ばそうとする。
「エグザトリア、発進準備完了。少佐、発進してください」
だが、オペレーターの発進と言う言葉に反応して、自動的にカタパルトへと足を運ぶ。そしてあっという間
に臨界までエンジンを稼動させ、背面のバーニアを輝かさせた。そしてシグナルがグリーンになったと同時に
基地から飛び出していく。
数秒の後には雲を突き抜け、下にあった基地の姿が見えなくなっていた。
「うおおお!? こ、こんなじゃじゃ馬とは聞いてなかったぞ!」
準備をしないまま飛び出したため、ボルスは大きくのけぞる事となった。すさまじいGがコックピットに降
りかかる。シートに完全に押しつぶされる形で操縦桿を握り締めた。が、操縦をしているというよりも完全に
振り回されているという状況だ。
ここに来る前の戦闘データをボルスは見せてもらった。
初戦闘時は大きな動きはなく、ただライフルを撃つだけだった。
AUAのパイロットが乗った場合はきびきびとスムーズに動いた。
ユニオンのパイロットの場合はまるで鳥のように優雅に曲線を描いている。
だが、自分の場合は明らかに振り回されている。下手に操縦桿を倒せば衝撃で墜落するのは誰が見ても明ら
かであった。一体、何が違うというのだろうか? 状況か? それともパイロットの動作か? そんな疑問も
浮かぶが今はこの暴走PMを制御するほうを優先した。
「くっ、止まれ!」
ブレーキのペダルを踏むとエグザトリアは空中で急停止をする。今度は大きく前へと吹き飛ばされそうにな
るがシートベルトのおかげでそれを免れた。突然のことに思わず気分が悪くなるが無理やり胃液を元に戻す。
「ふぅ……うぉ!?」
一息入れようとした瞬間、今度はすさまじい勢いで落下をし始めた。ペダルを踏んでいないせいだろうか?
『私はチョウ、美しく飛び上がる』
「くそ!?」
再びアクセルを踏み込むと空中に静止するように滞空し始めた。地面までの距離は百メートル、もしも失敗
していたらボルスは衝撃で骨折していただろう。
一体全体なんなんだ? そう思い、ディスプレイのほうへと視線を送ると――。
『トニー、車の調子はどうだい? ああ、調子はいいよ。あまりに調子がよすぎてエンジンから煙が出てるしね』
「何が車の調子だ!」
振り回され、死に掛けた怒りをぶつけようと大きく拳を振りかぶろうとする。だが――。
『怒るのは後だ、敵が来た』
「敵だと?」
先ほどとは打って変わって普通のインフォメーションになる。辺りを見渡すとそこにいたのはバイラムだった。
数は五機、珍しくVの字の編成飛行を行っている。ある者はライフルを手に、ある者は剣を構えてボルスの
方へ視線を向けている。恐らく、この前逃したバイラムだろう。その証拠にここ依然つけた肩の傷が一機のバイ
ラムについていた。
「なっ!?」
『どうやら知られているらしいな。頼んだぞ、ルーキー』
「私はルーキーではない!」
バーニアを輝かせ、一気に近づく。発進のときに感じたGよりもさらに激しい衝撃波がボルスを襲う。慣ら
し運転は終わったと言いたげにどんどん加速をしていく。風景は線のように流れ、目に入るものはバイラムの
み。右に、左に、上に、下に、振り回される事なくバイラムの背後に回りこむと攻撃を与える間もなく剣を大
きく振るった。若干、擦れた音と共に背中を切り裂かれると同時にそのまま地面へと堕ちていく。
地面に横たわったバイラムは二つに切り裂かれた。
「ちぃ!」
ボルスはエグザトリアの性能に驚きつつもその真価を発揮でないことに苛立ちを感じていた。
今のは二機ともいけたはずだ! もう少し反応を早くせねば!
今度はよりしなやかに動かそうと模索してみる。再び剣を構え直し、間合いを取り直す。
だが、バイラムもまた黙ってはいない。残りの四機がライフルを構えると一斉にエグザトリアを目掛け砲撃
を開始する。よっぽど壊したいらしいのか、照準が定まらないまま撃っているように見えた。
軍事経験が無い素人の脳を使っているのだ。当たり前といえば当たり前だな。
エグザトリアはその間隙を縫いながら一気に距離を縮める。そしてバイラムの腹部に飛び膝蹴りを叩き込む。
装甲が思い切りへこみ、大きくよろける。その隙をボルスは見逃さなかった。
「これで!」
そしてそのまま剣を胸につきたてる。若干苦しんだ様子を見せた後、バイラムは力なくその場にうなだれた。
引き抜くと同時にバイラムは大空の花火になった。二機目も撃破。あとは……。
「隊長!」
背後からアルとレイのナイツがやって来た。手にはいつもの通り槍を持っている。
「これより援護をします」
「たのむ!」
三対三という状況下であったが形勢は完全にこちらが有利であった。
散々、連携行動や集団行動を行われていたシルバーナイツに対し、バイラムの戦い方はどこと無く不器用だった。
連携はずさんであり、戦いもどことなく臆病な感じがした。その証拠に戦い方に腰が入っていなかった。
それだけではない、試作型のナイツとは違い、エグザトリアはボルスの注文に答えてくれた。
若干”遊び”があったがペダルを踏み込めば速度を上げ、操縦桿を倒せば右に左にときちんと避けてくれる。
一気に近づくがすばやく上昇し視界をかく乱させると後ろからいる二機のナイツがバイラムの胸を、腰をそ
れぞれつら抜いた。その光景に対し、バイラムから戸惑いの表情を感じ取れた。
こんなはずが無い、という顔がそこにあった。
認識を変えたとしても恐怖という感情はあるようだな。と思うボルスであったがその考えは甘いことに気がつく。
最後のバイラムが急に地上へと降り立った。エグザトリアたちもそれに続く。
そして、地表スレスレまで近づくと今度は辺りを見渡す。すると何かを見つけたのはそこに一直線に向かった。
ボルスは視線の席にあるものに驚いた。
「まずい!」
バイラムが向かった先、そこは……原子力発電所であった。
エグザトリアが追いかけようとするがバイラムはEX-1を起動させた。
赤の血管と共にさらに加速させていく。メーターで計算すればマッハ4はあるだろう。音速の壁を突き破り
土煙を巻き起こしながら一直線に向かっていく。ときたま岩などの障害物に当たるが一向に気にする様子もなく
ひたすら目的地へと突き進んでいった。
「逃がすか!」
ボルスもまた思い切りペダルを踏み込み、バイラムを追う。バイラムと同じ音速の壁を、そのさらに上を跳
び越していく。
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びとともに一の太刀を浴びせるとバイラムはあっさりと真っ二つになった。
手応えも音もなくただ、ゆっくりと下にずれ……そして地面へと横たわった。
エグザトリアはそのまま上昇していくと音速世界からゆっくりと帰還してきた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
息を整えながら機体を振り向かせ、先ほどのバイラムへと視線を送る。
そこにはかつて自分たちを苦しめた悪魔の姿はどこにも無く、あるのは破壊されたPMだった。
「バカな! 私たちはいったいなんだったんだ?」
思わず声を荒げてしまう。苦戦を重ねたバイラムがあっさりと倒れたという事実がどうにも信じられなかった。
育て上げてきたナイツが侮辱されているような気分になった。友の研究成果も何の意味もない。
仮にも幾多の戦いを勝ち抜いてきたナイツがまるで児戯のように感じてしまう。
「隊長……」
苦い顔をしているボルスに対し、アルもレイも何にもいえなかった。
格納庫で最終チェックをされているエグザトリアを見てため息を付く。ボルスが乗るナイツとほぼ似たよう
なカラーリングに対し、姿かたちがバイラムである事を教えてくれた。装備品もせいぜい、腰のライフルと備
え付けの剣のみというシンプルなものである。
エグザトリア自体がここに輸送されるまではそう時間がかからなかった。
乗ると決めて三日、その間に三人ともバイラム撃破に精を出した。だが、倒した数はせいぜい三機発見した
うちの一機。残りの二機はボルスたちをまるで相手にするわけでもなく、あっという間に逃げ去ってしまった。
あまり、甘えていられないな。現在、バイラムが残っているのはこのステイツのみだ。
AUAやユニオンでは既に安全宣言が出ていた。多くの難民を抱えたこの国から出て行くものも多いがもう
そんな事はさせない。そう思った矢先、整備員から声をかけられた。
「少佐、チェックが終わりました!」
コックピットに乗り込むとスターターを突っ込んだ。軽い振動がコックピットに伝わってくるとそのままゆ
っくりとエグザトリアは動き出した。意外にも手ごたえはかなり軽い感じであった。まるでナイツがトラック
であるのに対し、このエグザトリアはまるで軽快なスポーツカーを思わせる軽快さだった。ペダルの踏み込み
もかなり軽く、操縦桿の操作性も決して悪くはない。
「さて、と……」
実力を見せてもらおうか、エグザトリア。首を回し、軽く伸びをするとコンピュータの方の起動が完了した。
耳障りな電子音と共に目の前にあるディスプレイがメッセージが表示する。
『おはようございます。本日のミッションはこちらになります』
「インフォメーションか……」
まあ、昨今のPMなら付いてて当然だが……。
『バイラムの丸焼き、民間人への補給物資の運搬、アホの大臣の尻叩き、以上の三品です』
突然の事にあっけに取られてしまった。だがすぐさま気を取り直した。
「ちゃんと表示をしろ!」
とコンソールを叩いてしまう。が、Cpuは止まることなくころころとメッセージを変えていく。
『ほんのジョークですよ、パイロット君』
これがエグザトリアなのか? 全く報告が入ってなかったぞ!
先ほど期待感は既にどこかへと消え去っており、今あるのは不安と苛立ちだけであった。
全く、とんでもないものをよこしたものだ。
「少佐、カタパルトの準備が整いました。前進をしてください」
「了解」
重い溜息とペダルを踏み込み、カタパルトの前まで来る。そんな時、新たなメッセージが表示された。
『やれやれ、そんなだからケツに火がつくのさ』
「!? き、キサマァ!!」
苛立ちを抑えきれず、懐にある拳銃に手を伸ばそうとする。
「エグザトリア、発進準備完了。少佐、発進してください」
だが、オペレーターの発進と言う言葉に反応して、自動的にカタパルトへと足を運ぶ。そしてあっという間
に臨界までエンジンを稼動させ、背面のバーニアを輝かさせた。そしてシグナルがグリーンになったと同時に
基地から飛び出していく。
数秒の後には雲を突き抜け、下にあった基地の姿が見えなくなっていた。
「うおおお!? こ、こんなじゃじゃ馬とは聞いてなかったぞ!」
準備をしないまま飛び出したため、ボルスは大きくのけぞる事となった。すさまじいGがコックピットに降
りかかる。シートに完全に押しつぶされる形で操縦桿を握り締めた。が、操縦をしているというよりも完全に
振り回されているという状況だ。
ここに来る前の戦闘データをボルスは見せてもらった。
初戦闘時は大きな動きはなく、ただライフルを撃つだけだった。
AUAのパイロットが乗った場合はきびきびとスムーズに動いた。
ユニオンのパイロットの場合はまるで鳥のように優雅に曲線を描いている。
だが、自分の場合は明らかに振り回されている。下手に操縦桿を倒せば衝撃で墜落するのは誰が見ても明ら
かであった。一体、何が違うというのだろうか? 状況か? それともパイロットの動作か? そんな疑問も
浮かぶが今はこの暴走PMを制御するほうを優先した。
「くっ、止まれ!」
ブレーキのペダルを踏むとエグザトリアは空中で急停止をする。今度は大きく前へと吹き飛ばされそうにな
るがシートベルトのおかげでそれを免れた。突然のことに思わず気分が悪くなるが無理やり胃液を元に戻す。
「ふぅ……うぉ!?」
一息入れようとした瞬間、今度はすさまじい勢いで落下をし始めた。ペダルを踏んでいないせいだろうか?
『私はチョウ、美しく飛び上がる』
「くそ!?」
再びアクセルを踏み込むと空中に静止するように滞空し始めた。地面までの距離は百メートル、もしも失敗
していたらボルスは衝撃で骨折していただろう。
一体全体なんなんだ? そう思い、ディスプレイのほうへと視線を送ると――。
『トニー、車の調子はどうだい? ああ、調子はいいよ。あまりに調子がよすぎてエンジンから煙が出てるしね』
「何が車の調子だ!」
振り回され、死に掛けた怒りをぶつけようと大きく拳を振りかぶろうとする。だが――。
『怒るのは後だ、敵が来た』
「敵だと?」
先ほどとは打って変わって普通のインフォメーションになる。辺りを見渡すとそこにいたのはバイラムだった。
数は五機、珍しくVの字の編成飛行を行っている。ある者はライフルを手に、ある者は剣を構えてボルスの
方へ視線を向けている。恐らく、この前逃したバイラムだろう。その証拠にここ依然つけた肩の傷が一機のバイ
ラムについていた。
「なっ!?」
『どうやら知られているらしいな。頼んだぞ、ルーキー』
「私はルーキーではない!」
バーニアを輝かせ、一気に近づく。発進のときに感じたGよりもさらに激しい衝撃波がボルスを襲う。慣ら
し運転は終わったと言いたげにどんどん加速をしていく。風景は線のように流れ、目に入るものはバイラムの
み。右に、左に、上に、下に、振り回される事なくバイラムの背後に回りこむと攻撃を与える間もなく剣を大
きく振るった。若干、擦れた音と共に背中を切り裂かれると同時にそのまま地面へと堕ちていく。
地面に横たわったバイラムは二つに切り裂かれた。
「ちぃ!」
ボルスはエグザトリアの性能に驚きつつもその真価を発揮でないことに苛立ちを感じていた。
今のは二機ともいけたはずだ! もう少し反応を早くせねば!
今度はよりしなやかに動かそうと模索してみる。再び剣を構え直し、間合いを取り直す。
だが、バイラムもまた黙ってはいない。残りの四機がライフルを構えると一斉にエグザトリアを目掛け砲撃
を開始する。よっぽど壊したいらしいのか、照準が定まらないまま撃っているように見えた。
軍事経験が無い素人の脳を使っているのだ。当たり前といえば当たり前だな。
エグザトリアはその間隙を縫いながら一気に距離を縮める。そしてバイラムの腹部に飛び膝蹴りを叩き込む。
装甲が思い切りへこみ、大きくよろける。その隙をボルスは見逃さなかった。
「これで!」
そしてそのまま剣を胸につきたてる。若干苦しんだ様子を見せた後、バイラムは力なくその場にうなだれた。
引き抜くと同時にバイラムは大空の花火になった。二機目も撃破。あとは……。
「隊長!」
背後からアルとレイのナイツがやって来た。手にはいつもの通り槍を持っている。
「これより援護をします」
「たのむ!」
三対三という状況下であったが形勢は完全にこちらが有利であった。
散々、連携行動や集団行動を行われていたシルバーナイツに対し、バイラムの戦い方はどこと無く不器用だった。
連携はずさんであり、戦いもどことなく臆病な感じがした。その証拠に戦い方に腰が入っていなかった。
それだけではない、試作型のナイツとは違い、エグザトリアはボルスの注文に答えてくれた。
若干”遊び”があったがペダルを踏み込めば速度を上げ、操縦桿を倒せば右に左にときちんと避けてくれる。
一気に近づくがすばやく上昇し視界をかく乱させると後ろからいる二機のナイツがバイラムの胸を、腰をそ
れぞれつら抜いた。その光景に対し、バイラムから戸惑いの表情を感じ取れた。
こんなはずが無い、という顔がそこにあった。
認識を変えたとしても恐怖という感情はあるようだな。と思うボルスであったがその考えは甘いことに気がつく。
最後のバイラムが急に地上へと降り立った。エグザトリアたちもそれに続く。
そして、地表スレスレまで近づくと今度は辺りを見渡す。すると何かを見つけたのはそこに一直線に向かった。
ボルスは視線の席にあるものに驚いた。
「まずい!」
バイラムが向かった先、そこは……原子力発電所であった。
エグザトリアが追いかけようとするがバイラムはEX-1を起動させた。
赤の血管と共にさらに加速させていく。メーターで計算すればマッハ4はあるだろう。音速の壁を突き破り
土煙を巻き起こしながら一直線に向かっていく。ときたま岩などの障害物に当たるが一向に気にする様子もなく
ひたすら目的地へと突き進んでいった。
「逃がすか!」
ボルスもまた思い切りペダルを踏み込み、バイラムを追う。バイラムと同じ音速の壁を、そのさらに上を跳
び越していく。
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びとともに一の太刀を浴びせるとバイラムはあっさりと真っ二つになった。
手応えも音もなくただ、ゆっくりと下にずれ……そして地面へと横たわった。
エグザトリアはそのまま上昇していくと音速世界からゆっくりと帰還してきた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
息を整えながら機体を振り向かせ、先ほどのバイラムへと視線を送る。
そこにはかつて自分たちを苦しめた悪魔の姿はどこにも無く、あるのは破壊されたPMだった。
「バカな! 私たちはいったいなんだったんだ?」
思わず声を荒げてしまう。苦戦を重ねたバイラムがあっさりと倒れたという事実がどうにも信じられなかった。
育て上げてきたナイツが侮辱されているような気分になった。友の研究成果も何の意味もない。
仮にも幾多の戦いを勝ち抜いてきたナイツがまるで児戯のように感じてしまう。
「隊長……」
苦い顔をしているボルスに対し、アルもレイも何にもいえなかった。