※
未来都市ロボヶ丘、中央市街付近の避難所――
大都会の死角に生まれたささやかなオアシスも、遂に戦闘ロボで乗り付けた凶悪犯罪者ひとりのために恐慌状
態に陥りつつあった。
『ハロー! ハロー! そこなロップイヤー(垂れ耳ウサギ)ちゃん、なかなか可愛いね! どうだろう? バ
ニーガールになって吾輩に給仕するというのは!』
「イヤです。気持ち悪い」
『気持ち悪いって……。は、発言には気を付けることだ、このいやらしいロップイヤーの一般市民め! 一般市
民め! フランスはパリの裏社会で“二本足の狼王(クルトー)”と呼ばれたこのドン・エフィール様に恥を掻
かせるとは!』
しまった――
悪山エリスは後悔した。
よほど両手で目を覆い隠してしまいたい気持ちにかられる。反射的に本音が出てしまったのだが、気持ち悪い
は我ながらちょっとひどかったと思う。芝居掛かった大仰な言い回しの中で『気持ち悪いって……』だけがもう
完全に素になっていて、けっこうショックだったんだろうなぁというのが分かる。
『ロップイヤーの一般市民め! このエフィールロボ・パラノイダーが見えないのかね!? いくら現代社会に
毒されたバーチャル世代の一般市民でも、この雄々しく聳えるジェットポートピア砲(略してジポ砲)が放つ圧
倒的暴力のかほりには気づきそうなものだが!』
「……っ!」
認めるのは癪だが、今この避難所の人びとの生殺与奪の権利を握っているのは、戦闘ロボを所有するドン・エ
フィールとかいう男なのだ。不用意な言動はみんなを危険に晒しかねない。
未来都市ロボヶ丘は、真最強無敵ロボ有するシロガネ四天王の庇護の下、大小無数の悪党どもがめいめいに悪
事を楽しむというまさに世も末な状態にある。善良なる市民たちのうち幾らかはこうして頼れる者なき身を寄せ
合って避難所とかキャンプとか呼ばれる集団を形成し、ひたすらに嵐が過ぎ去るのを待つしかないのだった。
『ハロー! ハロー! 分かったならばそれでいい! 物分かりのいいロップイヤーの一般市民め! 何せ吾輩
ときたら寛大であるからな!』
悪山エリスの蒼ざめた顔色から絶対的優位を改めて確認できたことで、ドン・エフィールも溜飲を下げた。
『それでは物分かりのいいついでに、さっそくバニーガールに……うん?』
にわかに緊張が走る中、飛び出し掛けた菊野くすり女医を手で制して、よっこらしょとテントの日陰から抜け
出てくる男たちがあった。平均年齢七〇歳とちょい。ドン・エフィールに向けて、これ見よがしに、大袈裟に肩
をすくめる『分かってねぇなぁこいつ』のジェスチャー。明らかに挑発であった。
『何だ、お前たちに用はないぞ!? 愛すべき一般市民たちめ! 何か言いたいことがあるのか、この、陰湿で
陰険な一般市民ども!』
「さっきから黙って聞いていれば……バニーガールはない。エリスちゃんには白衣の天使、ナースコス以外あり
えない。この娘っ子は、先生を手伝ってみんなのために頑張っていたからな」
「コスチューム選びには着る者の内面を知ることも大切なのだが、わかっておらん」
「全く近頃の若いもんは」
台詞の内容こそどうかとも思うが、ここで少女だけを矢面に立たせてはおれないという、心ある老人たちの意
志の表れだった。ロボヶ丘生まれの古い世代には、意外とこういう、よくいえば勇敢な、悪くいえば向こう見ず
な人間が多い。
『黙れよ! このいい歳した一般市民ども! 形から入るってことも、あるではないか! この感性の古い、頭
ガッチガチの一般市民め!』
パラノイダーのジポ砲(ジェットポートピア砲)の砲身がキュラキュラと動き、老人たち、またその後ろの群
衆へと照準を合わせる。強風に煽られた樹木のようなどよめきと、女性たちの小さな悲鳴が、半ば廃墟と化した
ビル街の一角に反響する。
『どうだ? うん? 怖いであろう、愛すべき一般市民たち! これで自分たちの立場については、分かっても
らえたかな?』
ドン・エフィール、得意の絶頂であった。
『ロップイヤーの一般市民め! しかしだ。そこは吾輩もイギリスの社交界に浮き名を流し“歩く薔薇”と称え
られたドン・エフィール、女性の意思を尊重する男である! 強くって、紳士的! それがモテの奥義であるか
らな! ロップイヤーが今後吾輩に従順になると誓うなら、この避難所は特別に見逃してあげようではないか。
さもなくば、愛すべき一般市民を皆殺しした上で、ウサギ小屋までお持ち帰りコースである!』
その時に避難所の住人の中で悪山エリスを気の毒げに窺った者、つまり彼女の自己犠牲を心ならずも願った者
が、いなかったと言えば嘘になる。……無理もない。誰もがこの状況に疲弊しきっているのだ。責めるのは酷と
いうものである。
悪山エリスとしても、実は悪くない提案だった。彼女の場合、最悪の事態になっても祖父である悪山悪男の救
出に期待できるわけで、一時不愉快な思いをするくらい何でもない。
しかし、
「わ――」
――かりましたと悪山エリスが言い掛けたところ、またもや三人の老人たちが噛み付いた。
「この“シルバー三連星”を見損なうんじゃねえぞ、この薄汚い犯罪者がッ!!」
「若者を生け贄にするくらいなら死んだほうがマシなのだが、わかっておらん」
「全く近頃の若いもんは」
『もー!! さっきから何なの!? ウザいんですけど!?』
あまりの鬱陶しさに、ドン・エフィールもついつい地金を晒す。
最初のうちは「ちょっと爺さん、まずいって……」などと引き止めていた人びとも、ここまで来るとだんだん
腹が据わって来たものらしい。男たちがスコップや鉄パイプのありかを横目に確かめ、女たちは背後に隠してフ
ライパンやお玉を握り締め、ガキンチョは投げるのに丁度いい石を見繕い始める。
まったく、愛すべきロボヶ丘の一般市民たち!
そんなもの、犯罪者操る戦闘ロボのパワーの前では果敢ない蟷螂の斧ではあろうが――
「エリスちゃんは渡さんよ」
「エリスちゃんを攫うにはワシらを倒す必要があるのだが、わかっておらん」
「全く近頃の若いもんは」
老人たちが虐げられて来た人びとの意志を代弁する。
「……みんな……」
悪山エリスもこれにはじんと感極まって、思わず胸を抑えた。家庭の事情が事情なだけに、その感情には複雑
なものがある。
大都会の死角に生まれたささやかなオアシスも、遂に戦闘ロボで乗り付けた凶悪犯罪者ひとりのために恐慌状
態に陥りつつあった。
『ハロー! ハロー! そこなロップイヤー(垂れ耳ウサギ)ちゃん、なかなか可愛いね! どうだろう? バ
ニーガールになって吾輩に給仕するというのは!』
「イヤです。気持ち悪い」
『気持ち悪いって……。は、発言には気を付けることだ、このいやらしいロップイヤーの一般市民め! 一般市
民め! フランスはパリの裏社会で“二本足の狼王(クルトー)”と呼ばれたこのドン・エフィール様に恥を掻
かせるとは!』
しまった――
悪山エリスは後悔した。
よほど両手で目を覆い隠してしまいたい気持ちにかられる。反射的に本音が出てしまったのだが、気持ち悪い
は我ながらちょっとひどかったと思う。芝居掛かった大仰な言い回しの中で『気持ち悪いって……』だけがもう
完全に素になっていて、けっこうショックだったんだろうなぁというのが分かる。
『ロップイヤーの一般市民め! このエフィールロボ・パラノイダーが見えないのかね!? いくら現代社会に
毒されたバーチャル世代の一般市民でも、この雄々しく聳えるジェットポートピア砲(略してジポ砲)が放つ圧
倒的暴力のかほりには気づきそうなものだが!』
「……っ!」
認めるのは癪だが、今この避難所の人びとの生殺与奪の権利を握っているのは、戦闘ロボを所有するドン・エ
フィールとかいう男なのだ。不用意な言動はみんなを危険に晒しかねない。
未来都市ロボヶ丘は、真最強無敵ロボ有するシロガネ四天王の庇護の下、大小無数の悪党どもがめいめいに悪
事を楽しむというまさに世も末な状態にある。善良なる市民たちのうち幾らかはこうして頼れる者なき身を寄せ
合って避難所とかキャンプとか呼ばれる集団を形成し、ひたすらに嵐が過ぎ去るのを待つしかないのだった。
『ハロー! ハロー! 分かったならばそれでいい! 物分かりのいいロップイヤーの一般市民め! 何せ吾輩
ときたら寛大であるからな!』
悪山エリスの蒼ざめた顔色から絶対的優位を改めて確認できたことで、ドン・エフィールも溜飲を下げた。
『それでは物分かりのいいついでに、さっそくバニーガールに……うん?』
にわかに緊張が走る中、飛び出し掛けた菊野くすり女医を手で制して、よっこらしょとテントの日陰から抜け
出てくる男たちがあった。平均年齢七〇歳とちょい。ドン・エフィールに向けて、これ見よがしに、大袈裟に肩
をすくめる『分かってねぇなぁこいつ』のジェスチャー。明らかに挑発であった。
『何だ、お前たちに用はないぞ!? 愛すべき一般市民たちめ! 何か言いたいことがあるのか、この、陰湿で
陰険な一般市民ども!』
「さっきから黙って聞いていれば……バニーガールはない。エリスちゃんには白衣の天使、ナースコス以外あり
えない。この娘っ子は、先生を手伝ってみんなのために頑張っていたからな」
「コスチューム選びには着る者の内面を知ることも大切なのだが、わかっておらん」
「全く近頃の若いもんは」
台詞の内容こそどうかとも思うが、ここで少女だけを矢面に立たせてはおれないという、心ある老人たちの意
志の表れだった。ロボヶ丘生まれの古い世代には、意外とこういう、よくいえば勇敢な、悪くいえば向こう見ず
な人間が多い。
『黙れよ! このいい歳した一般市民ども! 形から入るってことも、あるではないか! この感性の古い、頭
ガッチガチの一般市民め!』
パラノイダーのジポ砲(ジェットポートピア砲)の砲身がキュラキュラと動き、老人たち、またその後ろの群
衆へと照準を合わせる。強風に煽られた樹木のようなどよめきと、女性たちの小さな悲鳴が、半ば廃墟と化した
ビル街の一角に反響する。
『どうだ? うん? 怖いであろう、愛すべき一般市民たち! これで自分たちの立場については、分かっても
らえたかな?』
ドン・エフィール、得意の絶頂であった。
『ロップイヤーの一般市民め! しかしだ。そこは吾輩もイギリスの社交界に浮き名を流し“歩く薔薇”と称え
られたドン・エフィール、女性の意思を尊重する男である! 強くって、紳士的! それがモテの奥義であるか
らな! ロップイヤーが今後吾輩に従順になると誓うなら、この避難所は特別に見逃してあげようではないか。
さもなくば、愛すべき一般市民を皆殺しした上で、ウサギ小屋までお持ち帰りコースである!』
その時に避難所の住人の中で悪山エリスを気の毒げに窺った者、つまり彼女の自己犠牲を心ならずも願った者
が、いなかったと言えば嘘になる。……無理もない。誰もがこの状況に疲弊しきっているのだ。責めるのは酷と
いうものである。
悪山エリスとしても、実は悪くない提案だった。彼女の場合、最悪の事態になっても祖父である悪山悪男の救
出に期待できるわけで、一時不愉快な思いをするくらい何でもない。
しかし、
「わ――」
――かりましたと悪山エリスが言い掛けたところ、またもや三人の老人たちが噛み付いた。
「この“シルバー三連星”を見損なうんじゃねえぞ、この薄汚い犯罪者がッ!!」
「若者を生け贄にするくらいなら死んだほうがマシなのだが、わかっておらん」
「全く近頃の若いもんは」
『もー!! さっきから何なの!? ウザいんですけど!?』
あまりの鬱陶しさに、ドン・エフィールもついつい地金を晒す。
最初のうちは「ちょっと爺さん、まずいって……」などと引き止めていた人びとも、ここまで来るとだんだん
腹が据わって来たものらしい。男たちがスコップや鉄パイプのありかを横目に確かめ、女たちは背後に隠してフ
ライパンやお玉を握り締め、ガキンチョは投げるのに丁度いい石を見繕い始める。
まったく、愛すべきロボヶ丘の一般市民たち!
そんなもの、犯罪者操る戦闘ロボのパワーの前では果敢ない蟷螂の斧ではあろうが――
「エリスちゃんは渡さんよ」
「エリスちゃんを攫うにはワシらを倒す必要があるのだが、わかっておらん」
「全く近頃の若いもんは」
老人たちが虐げられて来た人びとの意志を代弁する。
「……みんな……」
悪山エリスもこれにはじんと感極まって、思わず胸を抑えた。家庭の事情が事情なだけに、その感情には複雑
なものがある。
『――んなん、であるかッ!! 一般市民ども!!』
ドン・エフィールは、自分がたかが生身の一般市民たちに圧倒されているという事実が信じられなかった。
エフィールロボ・パラノイダーは、重装甲・大火力・悪路もへいちゃらなカスタマイズ機である。警察機構の
制式ピストルやパトカーでも敵うロボではない。それをスコップてアンタ……。
だというのに、何故これほどまでに彼らは強そうに見えるのだろう……?
人数が多いからか?
こちらに激怒して、敵意を漲らせているからだろうか?
行動の意味が理解できないからかもしれない。
『まあ、もうそんなことはどうでもいいのである……! 愛すべき一般市民めッ……どうでもいい……馬鹿で愚
かな一般市民め……ッ!!』
そうとも、皆殺しにすれば関係ない。
今から泣き叫びながら死んでいく人間の行動になど、気に留め置く価値は何もない。そんなものは後から幾ら
でもやりたい放題に、無視することも否定することも出来るのだ。死んだ者が何を言っていようが、負け犬の遠
吠えである。
惑わされてはならない。こいつらは断じて“強者”ではない。まぎれもない“弱者”だ。ひとたびエフィール
のロボが動き出せば内臓をブチまけるだけの愚かで哀れな存在なのだ。
ドン・エフィールは皆既月食のような昏い笑みを浮かべた。
パラノイダーの操縦席は幾重もの重装甲に完全防御されて絶対に安全であるし、ジポ砲(ジェットポートピア
砲)は都市軍の軽戦車ていどなら正面から破壊できるクラスの威力絶大なビーム兵器だ。
恐れるものなど何もない。
ジポ砲(ジェットポートピア砲)のトリガーに恭しく指を添える。
『グンナイ! グンナイ! 愛すべき一般市民たち――』
「だめ――!!」
悪山エリスの悲鳴が掻き消える。孫を溺愛している悪山悪男のこと、護衛としてプテラノドローンを密かに配
備しているのかもしれないが、それもおよそ不可視のため分からない。だいいち、自分以外の人びとまで守って
くれるほど便利なメカ恐竜でもない。
そして、絶望の瞬間が来る。
エフィールロボ・パラノイダーのジェットポートピア砲(略してジポ砲)が、群衆へと破滅の火を――
エフィールロボ・パラノイダーは、重装甲・大火力・悪路もへいちゃらなカスタマイズ機である。警察機構の
制式ピストルやパトカーでも敵うロボではない。それをスコップてアンタ……。
だというのに、何故これほどまでに彼らは強そうに見えるのだろう……?
人数が多いからか?
こちらに激怒して、敵意を漲らせているからだろうか?
行動の意味が理解できないからかもしれない。
『まあ、もうそんなことはどうでもいいのである……! 愛すべき一般市民めッ……どうでもいい……馬鹿で愚
かな一般市民め……ッ!!』
そうとも、皆殺しにすれば関係ない。
今から泣き叫びながら死んでいく人間の行動になど、気に留め置く価値は何もない。そんなものは後から幾ら
でもやりたい放題に、無視することも否定することも出来るのだ。死んだ者が何を言っていようが、負け犬の遠
吠えである。
惑わされてはならない。こいつらは断じて“強者”ではない。まぎれもない“弱者”だ。ひとたびエフィール
のロボが動き出せば内臓をブチまけるだけの愚かで哀れな存在なのだ。
ドン・エフィールは皆既月食のような昏い笑みを浮かべた。
パラノイダーの操縦席は幾重もの重装甲に完全防御されて絶対に安全であるし、ジポ砲(ジェットポートピア
砲)は都市軍の軽戦車ていどなら正面から破壊できるクラスの威力絶大なビーム兵器だ。
恐れるものなど何もない。
ジポ砲(ジェットポートピア砲)のトリガーに恭しく指を添える。
『グンナイ! グンナイ! 愛すべき一般市民たち――』
「だめ――!!」
悪山エリスの悲鳴が掻き消える。孫を溺愛している悪山悪男のこと、護衛としてプテラノドローンを密かに配
備しているのかもしれないが、それもおよそ不可視のため分からない。だいいち、自分以外の人びとまで守って
くれるほど便利なメカ恐竜でもない。
そして、絶望の瞬間が来る。
エフィールロボ・パラノイダーのジェットポートピア砲(略してジポ砲)が、群衆へと破滅の火を――
――ぞくり。
ドン・エフィールの体は発射体勢のままで凍りついていた。
引き金が動かない。
指がッ、震えて震えてそれどころではないッ!?
『――なっ、何だ……このプレッシャーは……ッ!?』
何かが、来る。
ドン・エフィールを蝕むものは、
『これは……恐怖ッ!? 恐怖だと!? 吾輩はかの超大国軍すら対決を避けるという設定の、あの“ひとり戦
隊”ドン・エフィール様なのだぞ!?』
正体不明の衝撃に揺さぶられ、一瞬だけパラノイダーの無限軌道の片側が地表から剥がれた。
(風――ウインドッ!?)
そう、“風”だ。
腐臭漂う未来都市に、砂塵を巻いて、一陣の烈風。
しかしそれは断じて単なる自然現象を意味しない!
邪悪の吹き溜まりに颯爽と吹きこんで淀みを吹き散らす、“正義の息吹き”……一体、何者なんだ!?
赤道の下に広がる大沙漠を渡る熱風のように激しく、凶悪犯罪者の手足たる戦闘ロボをことごとく粉砕して回
る男が来た!
どこからともなく!
――お前は誰だ。破壊と略奪の限りを尽くしてきた悪党が、ほうほうの体で逃げ出しながら訊いたという。
――お前は何だ。勇気をどこかに置き去りにしていた一般市民も、今一度武器を手に取って尋ねたという。
「あなたは――」
強きを挫き、弱きを助く、勧善懲悪の超戦士。今や巷の話題を浚う噂のあるじ。
目撃者は往々にして証言する。
引き金が動かない。
指がッ、震えて震えてそれどころではないッ!?
『――なっ、何だ……このプレッシャーは……ッ!?』
何かが、来る。
ドン・エフィールを蝕むものは、
『これは……恐怖ッ!? 恐怖だと!? 吾輩はかの超大国軍すら対決を避けるという設定の、あの“ひとり戦
隊”ドン・エフィール様なのだぞ!?』
正体不明の衝撃に揺さぶられ、一瞬だけパラノイダーの無限軌道の片側が地表から剥がれた。
(風――ウインドッ!?)
そう、“風”だ。
腐臭漂う未来都市に、砂塵を巻いて、一陣の烈風。
しかしそれは断じて単なる自然現象を意味しない!
邪悪の吹き溜まりに颯爽と吹きこんで淀みを吹き散らす、“正義の息吹き”……一体、何者なんだ!?
赤道の下に広がる大沙漠を渡る熱風のように激しく、凶悪犯罪者の手足たる戦闘ロボをことごとく粉砕して回
る男が来た!
どこからともなく!
――お前は誰だ。破壊と略奪の限りを尽くしてきた悪党が、ほうほうの体で逃げ出しながら訊いたという。
――お前は何だ。勇気をどこかに置き去りにしていた一般市民も、今一度武器を手に取って尋ねたという。
「あなたは――」
強きを挫き、弱きを助く、勧善懲悪の超戦士。今や巷の話題を浚う噂のあるじ。
目撃者は往々にして証言する。
――“真っ赤な戦士”、だった。
『なッ、何だ、お前は……ッ!? 怪しい奴ッ!! 愛すべき一般市民には全然見えない不埒な輩めッ!?』
「フッ――そんなことはない。俺もまた正義を愛する一般市民のひとりさ――」
今まさにロボヶ丘の片隅で悪党ドン・エフィールの前に現れた気障な男も、噂の通りまったくの赤!
なるほど全身を覆う防護服の色は、大気圏を引き裂く隕石の赤熱を思わせる。蛍のようにぼうと光を纏って見
えるのは恐らく気のせい、つまりそれほどまでに匂い立つ正義。
緑のV字バイザー涼やかに煌めくヘルメットの曲線美はもはや艶めかしいほどだ。きりりと引き締まった口元
は、剥き出しに見えてこれが強力なバリアーに守られている。
黄金の籠手と、同じ金属素材らしき長靴だけが、西洋甲冑のように武骨だった。
自己主張激しく胸板全体を走るラインは“X”、いや、曲線と折れ線を組み合わせた“K”かッ。
“K”のイニシャルを持つ正義のスーパーヒーローの未来都市への帰還――それは何を意味するのか? 悪が
気づいた時には、概ね遅い……ッ!!
「俺の名は、ボルカッコマン」
仰天せよ、悪。
これが正義だ。
「理想の戦士、ボルカッコマンだッ!!」
「フッ――そんなことはない。俺もまた正義を愛する一般市民のひとりさ――」
今まさにロボヶ丘の片隅で悪党ドン・エフィールの前に現れた気障な男も、噂の通りまったくの赤!
なるほど全身を覆う防護服の色は、大気圏を引き裂く隕石の赤熱を思わせる。蛍のようにぼうと光を纏って見
えるのは恐らく気のせい、つまりそれほどまでに匂い立つ正義。
緑のV字バイザー涼やかに煌めくヘルメットの曲線美はもはや艶めかしいほどだ。きりりと引き締まった口元
は、剥き出しに見えてこれが強力なバリアーに守られている。
黄金の籠手と、同じ金属素材らしき長靴だけが、西洋甲冑のように武骨だった。
自己主張激しく胸板全体を走るラインは“X”、いや、曲線と折れ線を組み合わせた“K”かッ。
“K”のイニシャルを持つ正義のスーパーヒーローの未来都市への帰還――それは何を意味するのか? 悪が
気づいた時には、概ね遅い……ッ!!
「俺の名は、ボルカッコマン」
仰天せよ、悪。
これが正義だ。
「理想の戦士、ボルカッコマンだッ!!」
『おれはボルカッコマン』
作詞・作曲・歌/ボルカッコマン
コーラス/海老原カッコウーマン
コーラス/海老原カッコウーマン
(ボル カッコマン カッコイイね――!?)
【1】
顔に青痣 カッコ悪い
鼻血も出てて ちょっとダサい
それでもそれで大切な みんなを守れるのなら!
顔に青痣 カッコ悪い
鼻血も出てて ちょっとダサい
それでもそれで大切な みんなを守れるのなら!
ピストル ナイフで 悪を斬る
憧れるね だけど あいにく
おれには この拳しかなくってね!
憧れるね だけど あいにく
おれには この拳しかなくってね!
カッコマン! カッコマン! 誰より
カッコマン! カッコマン! 弾けろ
カッコマン! カッコマン! もっと激しく
カッコマン! カッコマン! もっと熱く
カッコマン! カッコマン! 弾けろ
カッコマン! カッコマン! もっと激しく
カッコマン! カッコマン! もっと熱く
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
おれは ボルカッコマン!(カッコマン!)
おれは ボルカッコマン!(カッコマン!)
【2】
泥にまみれて カッコ悪い
必死こいてて かなりダサい
それでもこれで凶悪な 悪者を倒せるならば!
泥にまみれて カッコ悪い
必死こいてて かなりダサい
それでもこれで凶悪な 悪者を倒せるならば!
クレバーに 近道 先回り
羨ましいね だけど あいにく
おれには がむしゃらがお似合いさ!
羨ましいね だけど あいにく
おれには がむしゃらがお似合いさ!
カッコマン! カッコマン! 誰かが
カッコマン! カッコマン! 呼んでる
カッコマン! カッコマン! どこにいようが
カッコマン! カッコマン! 駆けつける
カッコマン! カッコマン! 呼んでる
カッコマン! カッコマン! どこにいようが
カッコマン! カッコマン! 駆けつける
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
おれは ボルカッコマン!(カッコマン!)
おれは ボルカッコマン!(カッコマン!)
理想の戦士だ ボル ボル カッコマン!(ボルカッコ三倍拳!)
命知らずの ボル ボル カッコマン!(ボルカッコ幻影拳!)
ボル ボル ボル ボル ボル ボルカッコマン!(ボルカッコ熱唱砲!)
命知らずの ボル ボル カッコマン!(ボルカッコ幻影拳!)
ボル ボル ボル ボル ボル ボルカッコマン!(ボルカッコ熱唱砲!)
Ah――
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! ボルカッコ!
おれは! おれは! ボルカッコマン!!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! カッコ!
カッコ! カッコ! カッコ! カッコ! ボルカッコ!
おれは! おれは! ボルカッコマン!!
(ボル カッコマン カッコイイね――!!)
「必ッ殺ッ!! 真・ネクソンクロガネアニヒレイター――“ボルカッコ幻影拳(げんえいけん)”!!」
カッ!!
ボルカッコマンの正拳突きから黄金の閃光が弾ける。
『ぐわああああああ!? ばっ、ばかなッ……こんなばかなッ! このドン・エフィール様と、パラノイダー様
がッ……フルボルカッコに……ッ!?』
それきりドン・エフィールは、パラノイダーの操縦席にドサリと崩れ落ちた。
『……グ、グンナイッ……』
「これでまたひとり悪は倒れたッ!!」
ボルカッコマンはカッコつけるのもそこそこに颯爽と去っていった。今のロボヶ丘に、悪はまだまだいくらで
もいる。その全員をボッコボコに粉砕するまで、彼が休まることはないのだろう。
――間違いない、あの人が帰って来た!
悪山エリスは、喜びの意外な大きさに驚く。脳裏に浮かんだのは、最強無敵ロボに挑む、悪山悪男の不敵な笑
みだった。
「ボル……カッコマン!? 何だそれ。このあたしも聞いたこと……ないぞ!?」
E自警団十大技師長第九位の立場にある、最期の良心・菊野くすりが密かに恐れおののく。
「ロボの破壊を最小限に留め、中の人を無力化するとは……! 恐るべし、必殺のボルカッコ幻影拳! そして
まことにもって恐るべし、理想の戦士……ボルカッコマン!!」
「感心するばかりでなく、ワシらもそろそろ倉庫に封印している複式収穫ロボ・三体合体コンバイン3を引っ張
り出して悪と戦うべきなのだが、分かっておらん!!」
「全く近頃のじじいどもときたら……!!」
シルバー三連星の震え声もまた心なしか熱い。握り締められた拳の中で、掌の汗がじゅわッと蒸発ッ。
「――ちっ!! ロボがないカッコマンじゃあいまいち頼りにならねえ。こうなったら俺も……!」
「お、俺は大学が緊急休講で更に暇になってしまった暇な大学生、田所育男!」
善良にして勇敢なる一般市民たちがまたひとり、またひとりと腕まくりし、おのおの武器を手にして立ち上が
っていく。
未来都市ロボヶ丘に正義の旋風が吹き荒れるのだった。
カッ!!
ボルカッコマンの正拳突きから黄金の閃光が弾ける。
『ぐわああああああ!? ばっ、ばかなッ……こんなばかなッ! このドン・エフィール様と、パラノイダー様
がッ……フルボルカッコに……ッ!?』
それきりドン・エフィールは、パラノイダーの操縦席にドサリと崩れ落ちた。
『……グ、グンナイッ……』
「これでまたひとり悪は倒れたッ!!」
ボルカッコマンはカッコつけるのもそこそこに颯爽と去っていった。今のロボヶ丘に、悪はまだまだいくらで
もいる。その全員をボッコボコに粉砕するまで、彼が休まることはないのだろう。
――間違いない、あの人が帰って来た!
悪山エリスは、喜びの意外な大きさに驚く。脳裏に浮かんだのは、最強無敵ロボに挑む、悪山悪男の不敵な笑
みだった。
「ボル……カッコマン!? 何だそれ。このあたしも聞いたこと……ないぞ!?」
E自警団十大技師長第九位の立場にある、最期の良心・菊野くすりが密かに恐れおののく。
「ロボの破壊を最小限に留め、中の人を無力化するとは……! 恐るべし、必殺のボルカッコ幻影拳! そして
まことにもって恐るべし、理想の戦士……ボルカッコマン!!」
「感心するばかりでなく、ワシらもそろそろ倉庫に封印している複式収穫ロボ・三体合体コンバイン3を引っ張
り出して悪と戦うべきなのだが、分かっておらん!!」
「全く近頃のじじいどもときたら……!!」
シルバー三連星の震え声もまた心なしか熱い。握り締められた拳の中で、掌の汗がじゅわッと蒸発ッ。
「――ちっ!! ロボがないカッコマンじゃあいまいち頼りにならねえ。こうなったら俺も……!」
「お、俺は大学が緊急休講で更に暇になってしまった暇な大学生、田所育男!」
善良にして勇敢なる一般市民たちがまたひとり、またひとりと腕まくりし、おのおの武器を手にして立ち上が
っていく。
未来都市ロボヶ丘に正義の旋風が吹き荒れるのだった。
しかし――
いかに理想の戦士ボルカッコマンであっても、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの魂を受け継ぐ超超級のスー
パーロボットもないというのに、果たしてあの真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネに勝利することなど出来るの
であろうか?
パーロボットもないというのに、果たしてあの真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネに勝利することなど出来るの
であろうか?
※
「この調子ならば、シロガネ四天王が動き出すのも時間の問題だな」
ワルサシンジケート大首領ドン・ヨコシマは、郊外の鉄塔の上に立ち、正義の旋風吹き荒れる未来都市ロボヶ
丘の全景を一望していた。
蜂起した一般市民は、一般に流通しているロボや重機の類、あるいはペンキ・洗剤・ロープといった日用品や
大工道具などまで駆使して果敢に悪と戦っていた。
本物のヒーローとは、奮戦するばかりでなく、人びとの内にも影響を及ぼす。
「しかしあの阿呆め、ボルカッコマンを名乗るには、些か早い――」
ワルサシンジケート大首領ドン・ヨコシマは、郊外の鉄塔の上に立ち、正義の旋風吹き荒れる未来都市ロボヶ
丘の全景を一望していた。
蜂起した一般市民は、一般に流通しているロボや重機の類、あるいはペンキ・洗剤・ロープといった日用品や
大工道具などまで駆使して果敢に悪と戦っていた。
本物のヒーローとは、奮戦するばかりでなく、人びとの内にも影響を及ぼす。
「しかしあの阿呆め、ボルカッコマンを名乗るには、些か早い――」
ボルカッコマン試験、第二の試練――“未来都市ロボヶ丘のロボット犯罪者を討ち倒せ!”
そう、ボルカッコマン試験はまだ終わってはいない!
第一の試練、その“追試”の合否判定から三時間弱。
少々反則気味ではあったが、その結果はひとまずの合格と言えた。ヨコシマにとってはあくまで“形式上の”
敗北といったところで、その身にはわずかの外傷もなく、聖職者の装いにも乱れはない。
ただし、銀色のスーツケースだけはその手許になかった。
中身は、“ボルカッコマンスーツ”である。
理想の戦士ボルカッコマンの力を拡張する異貌のパイロットスーツだ。
あの時――
田所正男とヨコシマの“原始暴帝”が激突する直前、ボルカッコマンスーツは作動した。そして一瞬にして田
所正男の全身に定着し、真・ネクソンクロガネアニヒレイターをブースト、見事ヨコシマの“原始暴帝”の魔手
を撥ね退けた。
ボルカッコマンスーツは、通常のカッコマンスーツとは全くの別物である。
カッコマンスーツは、ヘルメット・アンダースーツ・プロテクターといった複数のパーツから成る装備一式を
基地の自動更衣室で組み上げていく。パワーアシスト機構やセンスアシスト機構を内蔵し、耐Gや耐熱など各種
耐性をデフォルトで有する高性能パイロットスーツである。
一方、ボルカッコマンスーツは、いつもはガラスのような固体とも粘性の極めて強い液体とも断じ難い状態で
ケースに納まっており、ボルカッコマンスーツにしか分からない条件が満たされた時、液状化しながら流動、人
体に纏わりつき、防護服を形成する性質を持つ。
ボルカッコマンを知るごく限られた研究者は、その条件を個人的な資質と推定し、それを“ボルの力”、“ボ
ルの資質”などと呼んでいた。天然の才能と言うよりはあくまで心のありようの強さに過ぎないのだが、装着者
に奇怪な精神状態及び鋼の精神力、そして正義の魂を要求するという点で、そのハードルの高さは常軌を逸して
いた。
このボルとは人名である。
すなわち“ボル中山”。
最強のはぐれ研究員にして初代ボルカッコマン。ドン・ヨコシマにとっては永遠の宿敵というべき人物だった
が、二十年も前に原因不明の死を遂げていた。ボルカッコマンスーツは、その時にたまたまヨコシマの手に渡っ
たものだった。ヨコシマにも最強の敵対者として思うところがあり、悪にとって危険かつ有用な技術の塊である
という事実を度外視してでも、丁重に保管していたのである。
「あいつならば、どうだ?」
ボル中山に当てた言葉だったが、当然ながら死者は答えない。
しかし、今になってもふと地獄の淵から甦って来るのではないかと期待してしまうのだ。持てる全ての権能を
駆使して戦い、幾度となく引き分け、遂に世界のもう半分までは歪め損ねた。“最大の悪”であるために、ヨコ
シマは心からその決着を希う。
はぐれ研究員からはぐれ、狂博士からすらはぐれ、誰の追随をも許さなかった男だった。“専門全科”、“物
理法則からはぐれた男”、“勇者”――さまざまに呼ばれた彼だが、最も好んで自らも名乗った二つ名がある。
第一の試練、その“追試”の合否判定から三時間弱。
少々反則気味ではあったが、その結果はひとまずの合格と言えた。ヨコシマにとってはあくまで“形式上の”
敗北といったところで、その身にはわずかの外傷もなく、聖職者の装いにも乱れはない。
ただし、銀色のスーツケースだけはその手許になかった。
中身は、“ボルカッコマンスーツ”である。
理想の戦士ボルカッコマンの力を拡張する異貌のパイロットスーツだ。
あの時――
田所正男とヨコシマの“原始暴帝”が激突する直前、ボルカッコマンスーツは作動した。そして一瞬にして田
所正男の全身に定着し、真・ネクソンクロガネアニヒレイターをブースト、見事ヨコシマの“原始暴帝”の魔手
を撥ね退けた。
ボルカッコマンスーツは、通常のカッコマンスーツとは全くの別物である。
カッコマンスーツは、ヘルメット・アンダースーツ・プロテクターといった複数のパーツから成る装備一式を
基地の自動更衣室で組み上げていく。パワーアシスト機構やセンスアシスト機構を内蔵し、耐Gや耐熱など各種
耐性をデフォルトで有する高性能パイロットスーツである。
一方、ボルカッコマンスーツは、いつもはガラスのような固体とも粘性の極めて強い液体とも断じ難い状態で
ケースに納まっており、ボルカッコマンスーツにしか分からない条件が満たされた時、液状化しながら流動、人
体に纏わりつき、防護服を形成する性質を持つ。
ボルカッコマンを知るごく限られた研究者は、その条件を個人的な資質と推定し、それを“ボルの力”、“ボ
ルの資質”などと呼んでいた。天然の才能と言うよりはあくまで心のありようの強さに過ぎないのだが、装着者
に奇怪な精神状態及び鋼の精神力、そして正義の魂を要求するという点で、そのハードルの高さは常軌を逸して
いた。
このボルとは人名である。
すなわち“ボル中山”。
最強のはぐれ研究員にして初代ボルカッコマン。ドン・ヨコシマにとっては永遠の宿敵というべき人物だった
が、二十年も前に原因不明の死を遂げていた。ボルカッコマンスーツは、その時にたまたまヨコシマの手に渡っ
たものだった。ヨコシマにも最強の敵対者として思うところがあり、悪にとって危険かつ有用な技術の塊である
という事実を度外視してでも、丁重に保管していたのである。
「あいつならば、どうだ?」
ボル中山に当てた言葉だったが、当然ながら死者は答えない。
しかし、今になってもふと地獄の淵から甦って来るのではないかと期待してしまうのだ。持てる全ての権能を
駆使して戦い、幾度となく引き分け、遂に世界のもう半分までは歪め損ねた。“最大の悪”であるために、ヨコ
シマは心からその決着を希う。
はぐれ研究員からはぐれ、狂博士からすらはぐれ、誰の追随をも許さなかった男だった。“専門全科”、“物
理法則からはぐれた男”、“勇者”――さまざまに呼ばれた彼だが、最も好んで自らも名乗った二つ名がある。
“理想あれかし”、ボル中山――
『ボルカッコマンは理想の戦士。“理想”こそボルカッコマンの根幹を成す、正義の究極の力! 正義とは、望
ましくない現実の状態を、より望ましい理想の状態に近づけようとする作用をいう。少なくともぼくはそう定義
付けし、そのために特化したこのスーツを開発したんだ!』
――だから今度こそ決着をつけよう、ヨコシマくん!!
爽やかなくせに妙に暑苦しいボル中山との記憶を、ドン・ヨコシマは今でも明瞭に思い出すことが出来た。あ
れほどの正義の味方は、ボル中山の死後二十年が経っても、ヨコシマの前に立ちはだかることはなかった。
正義の味方の間でネクソニウムを活用したチクシュルーブテクノロジが流行しだした時期にはずいぶんと期待
したものだったが、その興味も長くは続かなかった。どれほど技術があろうとも、所詮は使う者次第である。
「田所正男、果たしてどれほどの物か……」
それが明らかになるのは、彼らが“真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ”という、新世代の怪物と向き合った
時だろう。
――これからが本番だッ!!
ましくない現実の状態を、より望ましい理想の状態に近づけようとする作用をいう。少なくともぼくはそう定義
付けし、そのために特化したこのスーツを開発したんだ!』
――だから今度こそ決着をつけよう、ヨコシマくん!!
爽やかなくせに妙に暑苦しいボル中山との記憶を、ドン・ヨコシマは今でも明瞭に思い出すことが出来た。あ
れほどの正義の味方は、ボル中山の死後二十年が経っても、ヨコシマの前に立ちはだかることはなかった。
正義の味方の間でネクソニウムを活用したチクシュルーブテクノロジが流行しだした時期にはずいぶんと期待
したものだったが、その興味も長くは続かなかった。どれほど技術があろうとも、所詮は使う者次第である。
「田所正男、果たしてどれほどの物か……」
それが明らかになるのは、彼らが“真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ”という、新世代の怪物と向き合った
時だろう。
――これからが本番だッ!!
※
悪の巣窟となったロボヶ丘ともなれば、正義の味方も歩けば悪にぶち当たる。それはエンカウント率の調整を
しくじったクソゲーのようだった。
いるわ、いるわ!
大枚叩いて購入したロボでやったもん勝ち我が世の春よと悪事に励む悪党ども!
コンビニ強盗!
自動販売機荒らし!
ロボで殴る蹴るの暴行!
油を撒き散らす!
ATMの列に横入り!
スカートめくり!
暇潰しに公衆電話を粉砕!
盗み食い!
スーパーマーケットの商品棚にラリアットをかましてカップラーメンを散らかす!
収賄!
女児をナンパ!
女児をナンパしていたと市民に通報された腹いせに広場のハトを蹴散らす!
消防署の前にロボをウンコ座りさせて駄弁る!
ポイ捨て!
泥棒したトラックいっぱいの野菜を転売!
泥棒したトラックも転売!
ロボ同士で大喧嘩するのを見物しながらどっちが勝つか賭け事! これを競ロボと名づける!
リアル警泥ごっこに興じる!
盗撮!
失敗のなすりつけ!
デジタル万引き!
何ということだろう。
そこでは、およそ悪さという悪さの全てが公然と行われていた。あんまり不道徳であったがために天の怒りを
買ったという超古代都市ソドムとゴモラが温泉に思えるほどの圧倒的地獄。
ここが今の未来都市ロボヶ丘なのだ! 田所カッコマンの愛した街だ!
(ひどい! ひどすぎる! まるで悪の見本市だ!)
人はここまで悪くなれるのか。
かつての平穏なロボヶ丘は何だったのだろう。いや、悪山悪男とかいたけど!
「ンっだテメェはァ! アハァン?」
「俺らの悪さの邪魔をしようってえのか!?」
「人の邪魔をするのは良いことなの? ……悪いことでしょ? まったく許されない行為!」
「許さないのは俺だ悪者!! ボルカッコ熱唱砲!!」
物陰から踊り出るや通りすがりのロボット暴走族三人組を怪光線でぶちのめしてから、ボルカッコマンは悲し
みと怒りに打ち震えた。
その目の前を「オレ神速飛翔ロボ・シロガネソニックやる!」「あたしジャンヌさまー」「まってー」……シ
ロガネ四天王ごっこに興じる子供たちが邪悪な笑顔を浮かべて駆け抜けていく。まったく世も末である。
(これは何てことだ! カッコマンの敗北と不在が、こういう人間たちをのさばらせてしまったと考えるのは傲
慢だろうか!?)
一刻も早く正義の味方としてボルカッコイイところを見せなくては、未来都市ロボヶ丘の未来は闇に蠢くダー
クネスだ。
幸いにも、今の田所正男は理想の戦士ボルカッコマン。もはやカッコイイことの権化とでもいうべき存在であ
る。……これはもうやるしか!
「ハフゥン……やるでないの。今のはこの俺様も、ちょっとヤバかったぞ」
先ほどぶちのめしたはずのロボット暴走族のうち、ひとりがむっくりと立ち上がる。
モヒカンのような頭頂パーツを引っ提げて、改造ロボデザイン業界に覇を唱える機体である。背中に円筒形の
燃料タンク。それにチューブで直結された何か得体の知れない噴射機のような武器!
「ボルカッコ熱唱砲を凌いだか」
「俺様はショウ! “ショードクダー”のショウ! 欺瞞に満ちたこの世界を浄化の炎で滅菌消毒する者だ!」
「俺は理想の戦士ボルカッコマン! それこそ欺瞞と知るがいい!」
「正義の味方を気取って俺様に楯突いてきたおバカは何人もいた。今どうしてるかって? みんな病院の廊下で
お寝んね中さ! ……廊下っていうのは、もう病室が満員だからだよ」
「そうか」
操縦席の上から滑らかに口上を並べ立てる悪党のふてぶてしさといったら、どうだ!?
「走れ、俺様のショードクダー!」
けしかけられるままに、ぼんぱぱとエンジンから爆音を撒き散らしながらボルカッコマンに迫るショウ専用ロ
ボ・ショードクダー! モヒカンの消防士然とした悪のロボだ! つまりは有り得ないような絵面だった。
さあ震えるがいい! 人間が生身で相撲を取ろうなど愚の骨頂、この理不尽なまでのパワー!
それに比べて、ロボを迎撃せんと拳を固める全身スーツの、何となまっちょろく見えることか! ――黄金の
ガントレット? メッキじゃねえの、それ!
「ボルカッコマン? ゴミだね」
ショウの口元には、思うがままに暴力を振るう快楽に浸る笑み。これを戦いとすら思っていない。何たって馬
力が違う!
「消毒ファイヤーッ!!」
その上、至近距離から不意打ち気味の火炎放射ッ!! ずるい!! ずるすぎる!!
しかしボルカッコマンはそんな“はした熱”ごときで火傷などしない。
ボルカッコマンスーツの遮熱性?
そうではない。正義の心は何より熱いというだけだ!
「ショードクダーの究極兵装“浄化ファイアー”で火達磨にならないなんて……あってはならない! お前、ま
さかただのカッコマンじゃないな?」
「そうさ! ボルカッコマンは最強のカッコマン! 正義の瞳でサーチ、正義の心でプロテクト、ボルの力でデ
ストロイ!」
「何がボルだよ! ……ていうか意味わからないし、ださくね……?」
「お前には、ボルが足りない」
「会話をしろォォ……」
「だからこそお前にフォー・ユー! ボルカッコ幻影拳ッ!!」
「ぐぎゃあああああああああああああああ!?」
何が何だか分からないうちにショウとショードクダーは無力化され、お仲間の暴走族たちと川の字になって寝
ることとなった。ショードクダーが弱いわけではない。ボルカッコマンが強すぎるのだ。 もう最強!!
「――ふん、口ほどにもない」
それまで道ばたの自動販売機を退かして下の十円玉を拾おうと格闘していたロボが、もったいぶった動きで振
り返る。
心安らぐ薄茶色に、柔らかな質感。大きさといい、形といい、そのまま冷蔵庫包装用の大型段ボールから手足
がニョキ生えたような、まこと得体の知れない筐体もとい機体であった。
その実ただの厚紙なのではないかと疑わしい超軽量装甲は、駆動系への負荷を大幅に軽減。また通気性にも優
れ、狭所に籠る操縦者の精神衛生にも一役買う。
人類という種の脚力の限界に挑戦するツイン・クチサキック・エンジンが生み出すは、原動機付き自転車に勝
るとも劣らぬ大馬力!
どうやらワルサシンジケート製のロボではないが、これも悪には違いない。
「“闇の火炎放射器”ショードクダーのショウが聞いて呆れる。この悪のカリスマ・朽崎野男と大言壮語ロボ・
クチサキダーKの最強コンビが潰すまでもなかったな」
「ボル!」
「ぎゃー」
ボルカッコマン気合の攻撃に、悪のカリスマと大言壮語ロボの最強コンビもいきなり脱落!
「おっとぉ! この残虐非道ロボ・ザコダ1010印(せんとういん)を駆ってロボヶ丘南西部の山間部で猛威
を振るっていたボクも忘れてもらっちゃ困るわけだよ――グッハァッ!?」
「カッコ!」
謎の手作り感のために金魚鉢をひっくり返したようにしか見えない骸骨あたまのロボが、右手の蛮刀と左手の
マシンガンを活かす間もなく綺麗な出オチで消えていった。全身に施された骨のペイントがいっそ痛々しい。
「幻影拳!」
ボルカッコマンの快進撃は続く!!
ロボヶ丘で悪の限りを尽くした悪党どもの命も、今や風前のともし火なのか!?
「こいつ……!! 強えなんてもんじゃねえ!! ……ボル強いぜ!!」
「しかもボル正義!!」
「シロガネ四天王ダイヤルに通報しなくちゃ! クソッ、誰だ? 駅前の公衆電話を軒並みぶっ壊しやがったア
ホは! 死ねよ! みんなが迷惑! あ、俺でした」
悪者たちの阿鼻叫喚に、反撃の狼煙を上げた一般市民たちも勢いづく。
「今だ! 俺たちの町を取り戻せ!」
だが――
「もっ!! もしもしっ!? シロガネ四天王ダイヤル!? 早く来てくれ! 町で正義の味方が暴れているん
だ! ……うわあああああこっち来た!? ひぃぃっ来るな! 来るなあああああッ!?」
「やはりシロガネ四天王、そして真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを倒さないことには、悪者どもの士気は衰
えないか」
全ての悪の用心棒となった、シロガネ四天王。
警察や都市軍に睨みを利かせる、悪の王国における治安の要。悪者どもの精神的支柱でもあるらしい。
しかし、勝てるのか!?
最強無敵ロボ・ネクソンクロガネはもういないというのに!
「――勝つッ!!」
敵がたとえ完全武装した千人のロボット犯罪者だとしても、悪のマッドサイエンティストが開発した強大なメ
カ恐竜だとしても!
悪の科学と宇宙の神秘が融合した真なる最強無敵ロボだとしても!
正義の味方であるならば、必ず勝たねばならないのだ!
しくじったクソゲーのようだった。
いるわ、いるわ!
大枚叩いて購入したロボでやったもん勝ち我が世の春よと悪事に励む悪党ども!
コンビニ強盗!
自動販売機荒らし!
ロボで殴る蹴るの暴行!
油を撒き散らす!
ATMの列に横入り!
スカートめくり!
暇潰しに公衆電話を粉砕!
盗み食い!
スーパーマーケットの商品棚にラリアットをかましてカップラーメンを散らかす!
収賄!
女児をナンパ!
女児をナンパしていたと市民に通報された腹いせに広場のハトを蹴散らす!
消防署の前にロボをウンコ座りさせて駄弁る!
ポイ捨て!
泥棒したトラックいっぱいの野菜を転売!
泥棒したトラックも転売!
ロボ同士で大喧嘩するのを見物しながらどっちが勝つか賭け事! これを競ロボと名づける!
リアル警泥ごっこに興じる!
盗撮!
失敗のなすりつけ!
デジタル万引き!
何ということだろう。
そこでは、およそ悪さという悪さの全てが公然と行われていた。あんまり不道徳であったがために天の怒りを
買ったという超古代都市ソドムとゴモラが温泉に思えるほどの圧倒的地獄。
ここが今の未来都市ロボヶ丘なのだ! 田所カッコマンの愛した街だ!
(ひどい! ひどすぎる! まるで悪の見本市だ!)
人はここまで悪くなれるのか。
かつての平穏なロボヶ丘は何だったのだろう。いや、悪山悪男とかいたけど!
「ンっだテメェはァ! アハァン?」
「俺らの悪さの邪魔をしようってえのか!?」
「人の邪魔をするのは良いことなの? ……悪いことでしょ? まったく許されない行為!」
「許さないのは俺だ悪者!! ボルカッコ熱唱砲!!」
物陰から踊り出るや通りすがりのロボット暴走族三人組を怪光線でぶちのめしてから、ボルカッコマンは悲し
みと怒りに打ち震えた。
その目の前を「オレ神速飛翔ロボ・シロガネソニックやる!」「あたしジャンヌさまー」「まってー」……シ
ロガネ四天王ごっこに興じる子供たちが邪悪な笑顔を浮かべて駆け抜けていく。まったく世も末である。
(これは何てことだ! カッコマンの敗北と不在が、こういう人間たちをのさばらせてしまったと考えるのは傲
慢だろうか!?)
一刻も早く正義の味方としてボルカッコイイところを見せなくては、未来都市ロボヶ丘の未来は闇に蠢くダー
クネスだ。
幸いにも、今の田所正男は理想の戦士ボルカッコマン。もはやカッコイイことの権化とでもいうべき存在であ
る。……これはもうやるしか!
「ハフゥン……やるでないの。今のはこの俺様も、ちょっとヤバかったぞ」
先ほどぶちのめしたはずのロボット暴走族のうち、ひとりがむっくりと立ち上がる。
モヒカンのような頭頂パーツを引っ提げて、改造ロボデザイン業界に覇を唱える機体である。背中に円筒形の
燃料タンク。それにチューブで直結された何か得体の知れない噴射機のような武器!
「ボルカッコ熱唱砲を凌いだか」
「俺様はショウ! “ショードクダー”のショウ! 欺瞞に満ちたこの世界を浄化の炎で滅菌消毒する者だ!」
「俺は理想の戦士ボルカッコマン! それこそ欺瞞と知るがいい!」
「正義の味方を気取って俺様に楯突いてきたおバカは何人もいた。今どうしてるかって? みんな病院の廊下で
お寝んね中さ! ……廊下っていうのは、もう病室が満員だからだよ」
「そうか」
操縦席の上から滑らかに口上を並べ立てる悪党のふてぶてしさといったら、どうだ!?
「走れ、俺様のショードクダー!」
けしかけられるままに、ぼんぱぱとエンジンから爆音を撒き散らしながらボルカッコマンに迫るショウ専用ロ
ボ・ショードクダー! モヒカンの消防士然とした悪のロボだ! つまりは有り得ないような絵面だった。
さあ震えるがいい! 人間が生身で相撲を取ろうなど愚の骨頂、この理不尽なまでのパワー!
それに比べて、ロボを迎撃せんと拳を固める全身スーツの、何となまっちょろく見えることか! ――黄金の
ガントレット? メッキじゃねえの、それ!
「ボルカッコマン? ゴミだね」
ショウの口元には、思うがままに暴力を振るう快楽に浸る笑み。これを戦いとすら思っていない。何たって馬
力が違う!
「消毒ファイヤーッ!!」
その上、至近距離から不意打ち気味の火炎放射ッ!! ずるい!! ずるすぎる!!
しかしボルカッコマンはそんな“はした熱”ごときで火傷などしない。
ボルカッコマンスーツの遮熱性?
そうではない。正義の心は何より熱いというだけだ!
「ショードクダーの究極兵装“浄化ファイアー”で火達磨にならないなんて……あってはならない! お前、ま
さかただのカッコマンじゃないな?」
「そうさ! ボルカッコマンは最強のカッコマン! 正義の瞳でサーチ、正義の心でプロテクト、ボルの力でデ
ストロイ!」
「何がボルだよ! ……ていうか意味わからないし、ださくね……?」
「お前には、ボルが足りない」
「会話をしろォォ……」
「だからこそお前にフォー・ユー! ボルカッコ幻影拳ッ!!」
「ぐぎゃあああああああああああああああ!?」
何が何だか分からないうちにショウとショードクダーは無力化され、お仲間の暴走族たちと川の字になって寝
ることとなった。ショードクダーが弱いわけではない。ボルカッコマンが強すぎるのだ。 もう最強!!
「――ふん、口ほどにもない」
それまで道ばたの自動販売機を退かして下の十円玉を拾おうと格闘していたロボが、もったいぶった動きで振
り返る。
心安らぐ薄茶色に、柔らかな質感。大きさといい、形といい、そのまま冷蔵庫包装用の大型段ボールから手足
がニョキ生えたような、まこと得体の知れない筐体もとい機体であった。
その実ただの厚紙なのではないかと疑わしい超軽量装甲は、駆動系への負荷を大幅に軽減。また通気性にも優
れ、狭所に籠る操縦者の精神衛生にも一役買う。
人類という種の脚力の限界に挑戦するツイン・クチサキック・エンジンが生み出すは、原動機付き自転車に勝
るとも劣らぬ大馬力!
どうやらワルサシンジケート製のロボではないが、これも悪には違いない。
「“闇の火炎放射器”ショードクダーのショウが聞いて呆れる。この悪のカリスマ・朽崎野男と大言壮語ロボ・
クチサキダーKの最強コンビが潰すまでもなかったな」
「ボル!」
「ぎゃー」
ボルカッコマン気合の攻撃に、悪のカリスマと大言壮語ロボの最強コンビもいきなり脱落!
「おっとぉ! この残虐非道ロボ・ザコダ1010印(せんとういん)を駆ってロボヶ丘南西部の山間部で猛威
を振るっていたボクも忘れてもらっちゃ困るわけだよ――グッハァッ!?」
「カッコ!」
謎の手作り感のために金魚鉢をひっくり返したようにしか見えない骸骨あたまのロボが、右手の蛮刀と左手の
マシンガンを活かす間もなく綺麗な出オチで消えていった。全身に施された骨のペイントがいっそ痛々しい。
「幻影拳!」
ボルカッコマンの快進撃は続く!!
ロボヶ丘で悪の限りを尽くした悪党どもの命も、今や風前のともし火なのか!?
「こいつ……!! 強えなんてもんじゃねえ!! ……ボル強いぜ!!」
「しかもボル正義!!」
「シロガネ四天王ダイヤルに通報しなくちゃ! クソッ、誰だ? 駅前の公衆電話を軒並みぶっ壊しやがったア
ホは! 死ねよ! みんなが迷惑! あ、俺でした」
悪者たちの阿鼻叫喚に、反撃の狼煙を上げた一般市民たちも勢いづく。
「今だ! 俺たちの町を取り戻せ!」
だが――
「もっ!! もしもしっ!? シロガネ四天王ダイヤル!? 早く来てくれ! 町で正義の味方が暴れているん
だ! ……うわあああああこっち来た!? ひぃぃっ来るな! 来るなあああああッ!?」
「やはりシロガネ四天王、そして真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを倒さないことには、悪者どもの士気は衰
えないか」
全ての悪の用心棒となった、シロガネ四天王。
警察や都市軍に睨みを利かせる、悪の王国における治安の要。悪者どもの精神的支柱でもあるらしい。
しかし、勝てるのか!?
最強無敵ロボ・ネクソンクロガネはもういないというのに!
「――勝つッ!!」
敵がたとえ完全武装した千人のロボット犯罪者だとしても、悪のマッドサイエンティストが開発した強大なメ
カ恐竜だとしても!
悪の科学と宇宙の神秘が融合した真なる最強無敵ロボだとしても!
正義の味方であるならば、必ず勝たねばならないのだ!
「――ずいぶんと威勢がいいな」
空気が変わる。
奴らが来たッ!!
ボルカッコマン・アイがいち早く声のあるじを突き止める。
中央市街のやや外れ、背の低い建築物がひしめく地域に、四つの巨大な影が現れていた。
白銀に統一された無法の戦士。悪の総本山によって送り込まれた刺客。恐怖の巨大ロボット軍団。
「き、来てくれた……! ボクらのシロガネ四天王が!」
スーパーヒーローを待ち侘びた男の子のような感極まった声がどこからともなく聞こえるが、騙されてはいけ
ない。正義か悪かでいえば、乱入者のほうが“悪”だ。
それもワルキューレ規格どころではない。四人が四人、それぞれが専用の“ネクソンタイプ”、すなわち超級
巨大ロボに乗った、とびきりの巨悪である。
いずれも基調色は、銀の粉をまぶしたような美しい“白”だ。シンボルマークの入れ墨や、装甲の継ぎ目が、
それぞれ異なる色で亡霊のように発光している。
「我らの筋肉を怖れずによくぞ来たッ。さぞや名のある筋肉なのだろうな。フッハ! 楽しみでならないッ」
一人目は、闘魂の赤。重装甲を下からめりめりと押し上げる駆動系のパワー、熱気に陽炎すら立ち昇る筋肉筋
肉ただ筋肉の化身。
「ここ四人もいらないだろ。お前らのうち誰か三人くらいマジで消えるか死なないかな……」
二人目は、冷笑の青。遠い町から流行り病を運んで来る蒼ざめた風のように、魔性の鳥人は死と厭な嗤いを振
り撒く。
「……我慢しろ」
三人目は、警戒の黄。『狙えるものならば当ててみよ』とばかりに心臓を中心に拡がるターゲットは、超一流
の狙撃者なりの諧謔なのか。
「活きのいい獲物だといいわね。だらしない子は切り刻み甲斐がないもの」
四人目は、幻惑の緑。甲冑の女騎士の歩法に付き従って揺らぐ頭髪パーツが放つ光には、夜光塗料めいた人工
的な妖しさがある。
「――いきなり勢揃いとは、手間が省けたな」
ボルカッコマンが軽口を叩くが、もはや震え声になっていた。
それも当然。あの最強無敵ロボを闇に葬り去った、ワルサシンジケート屈指の戦闘部隊。ひとたびその圧倒的
暴力を目の当たりにしては、何者も恐怖を禁じ得ないのだ。
「剛力無双ロボ・シロガネマッスルのニック・W・キム! 四天王いちのマッシブ!」
「神速飛翔ロボ・シロガネソニックのカッコマンエビル! 四天王いちのスピード!」
「百発百中ロボ・シロガネスナイパーのスナイパーガマン! 四天王いちのスナイパー!」
「一騎当千ロボ・シロガネブレードの切り裂きジャンヌ! 四天王いちのテクニシャン!」
「四人揃って、せーのッ!! シロガネ四天王ッ!!」
思い思いのポーズを取る彼らの背後で、謎の大爆発が起こった。その余波だけで、あのシルバー三連星駆る複
式収穫ロボ・三体合体コンバイン3がオシャカに! 白銀なる者は並び立たずということか!
シロガネ四天王。
彼らこそまさしく、喋って歩く四つの地獄だ。
「俺は理想の戦士ボルカッコマン。シロガネ四天王、平和の敵にして、俺と戦友たちの仇。ロボヶ丘から速やか
にご退場願おう」
弱い心を振り払い、勇んで名乗りを上げるボルカッコマンだが、反応は何するものぞと冷ややかだった。
「何このちび」
悪のカッコマン――カッコマンエビルの声は、ボルカッコマンを敵として認識していないようですらあった。
「待つのだカッコマンエビルよ! 体は小さいが、侮るのは筋肉の質を確かめてからでも遅くはないッ。……む
むッ。悪くない、悪くないが、……青いねッ。もっと鶏肉を食うべきだそうするべきだ」
筋肉の質は強さの質でもある。それを一目で見抜く禿頭の巨漢――ニック・W・キムは、ただ図体だけの木偶
の坊ではない。
「いちいちポージングするのやめろ! 音声のみに出来ねえんだぞ!」
「E自警団の戦闘員。巨大ロボ巨大格闘主義から趣旨替えしたのか」
片目にスコープを嵌めた軍人崩れの男――スナイパーガマンもまた冷静な視点を持っていた。
「同じ巨大ロボでブザマに負けたしねぇ。そういうこともあるでしょうよ」
ライダースーツの妖女――切り裂きジャンヌが、二匹の蛆虫が戯れるように口紅鮮やかな唇を舌で舐める。
「しかしッ。ちょっと目先を変えてみたくらいで勝てるほど、私たちの鍛え上げた筋肉は甘くない。まるで糖質
オフの……スポーツドリンクのようになッ!!」
剛力無双ロボ・シロガネマッスルの躍動のポージングと押し付けがましい視線、そして挑戦者を怯ませる絶対
の自信。単純明快な強さほど始末に負えない。
「オッサンの口上はどうでもいいけど、たぶんお前、神速で死ぬね。オレが殺すし」
神速飛翔ロボ・シロガネソニックの翼端が、ボルカッコマンを指差す。シロガネソニックにとって翼は腕でも
ある。地中海の神話に“掠め取るもの”の名を残す怪物のように。
「早い者勝ちでいいって意味かしら? でも反乱分子への見せしめも兼ねて、じっくりやりたい気分だけど」
一騎当千ロボ・シロガネブレードも愛剣をぞろりと鞘から抜き放つ。ネクソニウムの融けた妖刀の艶やかな輝
きに、見る者の息が止まる。
「ボルカッコマン、無謀という名の勇気には、我が銃弾で報いよう」
百発百中ロボ・シロガネスナイパーが祈るように銃身を額に付ける。スナイパーガマンの集中力が極限まで高
まっていく。
「――来るか!」
奴らが来たッ!!
ボルカッコマン・アイがいち早く声のあるじを突き止める。
中央市街のやや外れ、背の低い建築物がひしめく地域に、四つの巨大な影が現れていた。
白銀に統一された無法の戦士。悪の総本山によって送り込まれた刺客。恐怖の巨大ロボット軍団。
「き、来てくれた……! ボクらのシロガネ四天王が!」
スーパーヒーローを待ち侘びた男の子のような感極まった声がどこからともなく聞こえるが、騙されてはいけ
ない。正義か悪かでいえば、乱入者のほうが“悪”だ。
それもワルキューレ規格どころではない。四人が四人、それぞれが専用の“ネクソンタイプ”、すなわち超級
巨大ロボに乗った、とびきりの巨悪である。
いずれも基調色は、銀の粉をまぶしたような美しい“白”だ。シンボルマークの入れ墨や、装甲の継ぎ目が、
それぞれ異なる色で亡霊のように発光している。
「我らの筋肉を怖れずによくぞ来たッ。さぞや名のある筋肉なのだろうな。フッハ! 楽しみでならないッ」
一人目は、闘魂の赤。重装甲を下からめりめりと押し上げる駆動系のパワー、熱気に陽炎すら立ち昇る筋肉筋
肉ただ筋肉の化身。
「ここ四人もいらないだろ。お前らのうち誰か三人くらいマジで消えるか死なないかな……」
二人目は、冷笑の青。遠い町から流行り病を運んで来る蒼ざめた風のように、魔性の鳥人は死と厭な嗤いを振
り撒く。
「……我慢しろ」
三人目は、警戒の黄。『狙えるものならば当ててみよ』とばかりに心臓を中心に拡がるターゲットは、超一流
の狙撃者なりの諧謔なのか。
「活きのいい獲物だといいわね。だらしない子は切り刻み甲斐がないもの」
四人目は、幻惑の緑。甲冑の女騎士の歩法に付き従って揺らぐ頭髪パーツが放つ光には、夜光塗料めいた人工
的な妖しさがある。
「――いきなり勢揃いとは、手間が省けたな」
ボルカッコマンが軽口を叩くが、もはや震え声になっていた。
それも当然。あの最強無敵ロボを闇に葬り去った、ワルサシンジケート屈指の戦闘部隊。ひとたびその圧倒的
暴力を目の当たりにしては、何者も恐怖を禁じ得ないのだ。
「剛力無双ロボ・シロガネマッスルのニック・W・キム! 四天王いちのマッシブ!」
「神速飛翔ロボ・シロガネソニックのカッコマンエビル! 四天王いちのスピード!」
「百発百中ロボ・シロガネスナイパーのスナイパーガマン! 四天王いちのスナイパー!」
「一騎当千ロボ・シロガネブレードの切り裂きジャンヌ! 四天王いちのテクニシャン!」
「四人揃って、せーのッ!! シロガネ四天王ッ!!」
思い思いのポーズを取る彼らの背後で、謎の大爆発が起こった。その余波だけで、あのシルバー三連星駆る複
式収穫ロボ・三体合体コンバイン3がオシャカに! 白銀なる者は並び立たずということか!
シロガネ四天王。
彼らこそまさしく、喋って歩く四つの地獄だ。
「俺は理想の戦士ボルカッコマン。シロガネ四天王、平和の敵にして、俺と戦友たちの仇。ロボヶ丘から速やか
にご退場願おう」
弱い心を振り払い、勇んで名乗りを上げるボルカッコマンだが、反応は何するものぞと冷ややかだった。
「何このちび」
悪のカッコマン――カッコマンエビルの声は、ボルカッコマンを敵として認識していないようですらあった。
「待つのだカッコマンエビルよ! 体は小さいが、侮るのは筋肉の質を確かめてからでも遅くはないッ。……む
むッ。悪くない、悪くないが、……青いねッ。もっと鶏肉を食うべきだそうするべきだ」
筋肉の質は強さの質でもある。それを一目で見抜く禿頭の巨漢――ニック・W・キムは、ただ図体だけの木偶
の坊ではない。
「いちいちポージングするのやめろ! 音声のみに出来ねえんだぞ!」
「E自警団の戦闘員。巨大ロボ巨大格闘主義から趣旨替えしたのか」
片目にスコープを嵌めた軍人崩れの男――スナイパーガマンもまた冷静な視点を持っていた。
「同じ巨大ロボでブザマに負けたしねぇ。そういうこともあるでしょうよ」
ライダースーツの妖女――切り裂きジャンヌが、二匹の蛆虫が戯れるように口紅鮮やかな唇を舌で舐める。
「しかしッ。ちょっと目先を変えてみたくらいで勝てるほど、私たちの鍛え上げた筋肉は甘くない。まるで糖質
オフの……スポーツドリンクのようになッ!!」
剛力無双ロボ・シロガネマッスルの躍動のポージングと押し付けがましい視線、そして挑戦者を怯ませる絶対
の自信。単純明快な強さほど始末に負えない。
「オッサンの口上はどうでもいいけど、たぶんお前、神速で死ぬね。オレが殺すし」
神速飛翔ロボ・シロガネソニックの翼端が、ボルカッコマンを指差す。シロガネソニックにとって翼は腕でも
ある。地中海の神話に“掠め取るもの”の名を残す怪物のように。
「早い者勝ちでいいって意味かしら? でも反乱分子への見せしめも兼ねて、じっくりやりたい気分だけど」
一騎当千ロボ・シロガネブレードも愛剣をぞろりと鞘から抜き放つ。ネクソニウムの融けた妖刀の艶やかな輝
きに、見る者の息が止まる。
「ボルカッコマン、無謀という名の勇気には、我が銃弾で報いよう」
百発百中ロボ・シロガネスナイパーが祈るように銃身を額に付ける。スナイパーガマンの集中力が極限まで高
まっていく。
「――来るか!」
「いや、もう行ってるけど?」
声は、身構えたボルカッコマンの背後から聞こえてきた。
「な――」
カッコマンエビルの神速飛翔ロボ・シロガネソニックが、ボルカッコマンの後方の空間に瞬間移動。どういう
ルートを通ったのか全く分からない。
事ここに及んで、ボルカッコマンはようやく理解する。
目線の高さ。
視野の広さ。
一動作の規模。
(最強無敵ロボと共に戦うのとでは、戦闘の次元がまるで違う……!!)
わずか遅れて衝撃波が到達。一帯のビルの窓ガラスが全壊し、未来都市にあらざる吹雪と化す。
こうして、ロボヶ丘の命運を賭けた正義と悪の戦いは、偽りの銀世界をリングとして最終ラウンドに突入した。
「な――」
カッコマンエビルの神速飛翔ロボ・シロガネソニックが、ボルカッコマンの後方の空間に瞬間移動。どういう
ルートを通ったのか全く分からない。
事ここに及んで、ボルカッコマンはようやく理解する。
目線の高さ。
視野の広さ。
一動作の規模。
(最強無敵ロボと共に戦うのとでは、戦闘の次元がまるで違う……!!)
わずか遅れて衝撃波が到達。一帯のビルの窓ガラスが全壊し、未来都市にあらざる吹雪と化す。
こうして、ロボヶ丘の命運を賭けた正義と悪の戦いは、偽りの銀世界をリングとして最終ラウンドに突入した。
※
『シロガネ四天王を引きずり出せたか。ヒーロー・ボル・カッ“ク”マンは』
未来都市ロボヶ丘の外れ、鉄塔の尖端から観戦と洒落こむドン・ヨコシマの隣、同高度の“空中”に、前触れ
もなくその人物は出現した。
およそ人とは思えぬ奇怪な姿をした男だった。
黄ばんだ髑髏――。
頭蓋骨だけが切り取られ、そこからコードが伸びて、上方に浮かぶ脳髄のモデルと繋がっている。その脳はど
う見ても頭骨の容積よりも二回りは大きく、皺のように見えるのも溝ではなく電子回路のパターンだった。
全体的には悪趣味な気球といった趣きのシルエット。これはあくまで対人用に投影されるビジョンに過ぎず、
本体となる生身の人間は別の場所に存在しているはずだが、それにしても不気味なアバターではある。
代名詞もまた“頭脳”である。巨大な頭脳。
何者の巨大な頭脳であるのかと問われれば、“悪の”。
すなわちこの男こそ、“悪の巨大頭脳・ドクトルポイズン”! ワルサシンジケートに参画する人知及ばぬ狂
博士のひとりだ。
『天竺はムンバイ西海底より愛をこめて、ドン・ヨコシマ。事態は順調に進んでいるようじゃないか』
「イッツァ・ミラクルに依頼された“宝探し”は楽しんでいるか? トレジャーハンターポイズン」
『それが天職でな。狂博士もトレジャーハンターも大して変わらんぞ』
交わす会話はいかにも気安い。
精神に異常を来した芸術家の作品のような骸骨が、歯を火打石のように打ち鳴らして朗らかに“笑う”のは、
ひどくジョークめいた光景だった。
『真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを破壊するために、E自警団はネクソニウム爆弾“断罪X”の発動を決め
たようだが』
「奴らがあれを止めるにはそれしかないからな」
ヨコシマはにやりと笑った。
E自警団には、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネに代わるネクソンタイプの巨大ロボットを新たに製造するだ
けのネクソニウムの備蓄はもはやない。
推定される可採埋蔵量から見ても既に限界に近く、今後は世界中のあらゆる機関が既生産分のネクソニウムを
“奪い合う”構図が生まれる段階に入るだろうと言われている。
もっとも、ネクソンタイプに対抗し得る兵器はネクソンタイプのみ――というわけではない。
同じ巨大ロボットという括りでも、狂博士悪山悪男のメカ恐竜などは、ネクソンタイプに総合力で匹敵あるい
はそれを凌駕する。
ただし、いわゆる“正義の味方”の組織としては最大の戦力規模を誇るE自警団であっても、悪の総本山ワル
サシンジケートとは技術力において格段の差がある。それは、“はぐれ研究員”と“狂博士”の格の違いという
ことも出来た。
ネクソニウムによるドーピングでそれを埋めることなしには、E自警団ではワルサシンジケートとまともに戦
うことすら難しい。
ネクソンタイプでありながらワルサシンジケートの技術の粋を集めた真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネが、
いかに反則的な機体であるか分かるだろう。
『断罪Xはネクソニウム兵器に覿面に効く珍しい兵器だが、それでなくても半径三〇キロメートルがぺんぺん草
も生えない焼野原となる。そうなると見越しながらボル中山の後継を送りこむとは、ドン・ヨコシマもお人が悪
い。あっ、悪の親玉か』
「何が言いたい、ドクトルポイズン」
『俺が言いたいのはな、ドン・ヨコシマ。何か“当て”があるんじゃないかということさ』
「……」
『シロガネ四天王の真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネは圧倒的な戦闘力を持つ。十大技師長の断罪Xは理論上
そのネクソンシロガネをも破壊し得る。裏で糸を引いているイッツァ・ミラクルは断罪Xすら利用するつもりで
いるだろう。だがもし、ドン・ヨコシマがここで気まぐれにでも動けば、暴力も謀略も関係ない、全てが吹き飛
ぶ。今更出てくるとも思えんが、悪山悪男のメカ恐竜も強力なワイルドカードだ。
しかしな、ボルカックマンにはないんだ。そういうものが。
この戦場にひしめく猛者たちの中で、ボルカックマンだけが自分の勝利条件を達成できる力を持っていない。
断罪Xのボタンが押されるより早く、ネクソンシロガネを倒すか。発射された断罪Xを止めて、ネクソンシロガ
ネを打ち破るか――最低でも、時間制限がある中で二つの災厄のどちらか一方を、たったひとりで阻止せねばな
らない』
「それが出来るとすれば我が“ワールドシェイキング”くらいだろうな。ボル中山であっても、スーツのみでは
無理だろう」
『だからこそ、怪しいんだ。お前は。ドン・ヨコシマ。思い出のボルカックマンスーツまで持ち出しておいて、
そんな結末では納得できるか? それとも、“これを覆せないようでは、それまでの力だったということだ”な
どと鬼でも言わないようなことを言う気か?』
ドクトルポイズンの口調はヨコシマをからかうようだったが、わずかに熱を帯びても聞こえた。
つまりドクトルポイズンは、ヨコシマにはまだ何らかの形でボルカッコマンを支援する用意があるのではない
かと疑っているのである。
「なるほど、だから“当て”か」
たとえば、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを倒して、断罪Xを阻むような、常識外れのスーパーロボット
がどこかに存在するのではないか? ヨコシマだけがそれを知っていて、ボルカッコマンにあてがおうなどと考
えているのではないか?
それは、ドクトルポイズンがわざわざこんな話を持ち出したこととも無関係ではない。
ワルサシンジケート最上級エージェントのひとりであるイッツァ・ミラクルが、血眼になって探している物で
もあるからだ。
『その正体をズバリ言い当ててみせよう。――“オリジナルネクソン”、だな?』
未来都市ロボヶ丘の外れ、鉄塔の尖端から観戦と洒落こむドン・ヨコシマの隣、同高度の“空中”に、前触れ
もなくその人物は出現した。
およそ人とは思えぬ奇怪な姿をした男だった。
黄ばんだ髑髏――。
頭蓋骨だけが切り取られ、そこからコードが伸びて、上方に浮かぶ脳髄のモデルと繋がっている。その脳はど
う見ても頭骨の容積よりも二回りは大きく、皺のように見えるのも溝ではなく電子回路のパターンだった。
全体的には悪趣味な気球といった趣きのシルエット。これはあくまで対人用に投影されるビジョンに過ぎず、
本体となる生身の人間は別の場所に存在しているはずだが、それにしても不気味なアバターではある。
代名詞もまた“頭脳”である。巨大な頭脳。
何者の巨大な頭脳であるのかと問われれば、“悪の”。
すなわちこの男こそ、“悪の巨大頭脳・ドクトルポイズン”! ワルサシンジケートに参画する人知及ばぬ狂
博士のひとりだ。
『天竺はムンバイ西海底より愛をこめて、ドン・ヨコシマ。事態は順調に進んでいるようじゃないか』
「イッツァ・ミラクルに依頼された“宝探し”は楽しんでいるか? トレジャーハンターポイズン」
『それが天職でな。狂博士もトレジャーハンターも大して変わらんぞ』
交わす会話はいかにも気安い。
精神に異常を来した芸術家の作品のような骸骨が、歯を火打石のように打ち鳴らして朗らかに“笑う”のは、
ひどくジョークめいた光景だった。
『真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを破壊するために、E自警団はネクソニウム爆弾“断罪X”の発動を決め
たようだが』
「奴らがあれを止めるにはそれしかないからな」
ヨコシマはにやりと笑った。
E自警団には、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネに代わるネクソンタイプの巨大ロボットを新たに製造するだ
けのネクソニウムの備蓄はもはやない。
推定される可採埋蔵量から見ても既に限界に近く、今後は世界中のあらゆる機関が既生産分のネクソニウムを
“奪い合う”構図が生まれる段階に入るだろうと言われている。
もっとも、ネクソンタイプに対抗し得る兵器はネクソンタイプのみ――というわけではない。
同じ巨大ロボットという括りでも、狂博士悪山悪男のメカ恐竜などは、ネクソンタイプに総合力で匹敵あるい
はそれを凌駕する。
ただし、いわゆる“正義の味方”の組織としては最大の戦力規模を誇るE自警団であっても、悪の総本山ワル
サシンジケートとは技術力において格段の差がある。それは、“はぐれ研究員”と“狂博士”の格の違いという
ことも出来た。
ネクソニウムによるドーピングでそれを埋めることなしには、E自警団ではワルサシンジケートとまともに戦
うことすら難しい。
ネクソンタイプでありながらワルサシンジケートの技術の粋を集めた真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネが、
いかに反則的な機体であるか分かるだろう。
『断罪Xはネクソニウム兵器に覿面に効く珍しい兵器だが、それでなくても半径三〇キロメートルがぺんぺん草
も生えない焼野原となる。そうなると見越しながらボル中山の後継を送りこむとは、ドン・ヨコシマもお人が悪
い。あっ、悪の親玉か』
「何が言いたい、ドクトルポイズン」
『俺が言いたいのはな、ドン・ヨコシマ。何か“当て”があるんじゃないかということさ』
「……」
『シロガネ四天王の真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネは圧倒的な戦闘力を持つ。十大技師長の断罪Xは理論上
そのネクソンシロガネをも破壊し得る。裏で糸を引いているイッツァ・ミラクルは断罪Xすら利用するつもりで
いるだろう。だがもし、ドン・ヨコシマがここで気まぐれにでも動けば、暴力も謀略も関係ない、全てが吹き飛
ぶ。今更出てくるとも思えんが、悪山悪男のメカ恐竜も強力なワイルドカードだ。
しかしな、ボルカックマンにはないんだ。そういうものが。
この戦場にひしめく猛者たちの中で、ボルカックマンだけが自分の勝利条件を達成できる力を持っていない。
断罪Xのボタンが押されるより早く、ネクソンシロガネを倒すか。発射された断罪Xを止めて、ネクソンシロガ
ネを打ち破るか――最低でも、時間制限がある中で二つの災厄のどちらか一方を、たったひとりで阻止せねばな
らない』
「それが出来るとすれば我が“ワールドシェイキング”くらいだろうな。ボル中山であっても、スーツのみでは
無理だろう」
『だからこそ、怪しいんだ。お前は。ドン・ヨコシマ。思い出のボルカックマンスーツまで持ち出しておいて、
そんな結末では納得できるか? それとも、“これを覆せないようでは、それまでの力だったということだ”な
どと鬼でも言わないようなことを言う気か?』
ドクトルポイズンの口調はヨコシマをからかうようだったが、わずかに熱を帯びても聞こえた。
つまりドクトルポイズンは、ヨコシマにはまだ何らかの形でボルカッコマンを支援する用意があるのではない
かと疑っているのである。
「なるほど、だから“当て”か」
たとえば、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを倒して、断罪Xを阻むような、常識外れのスーパーロボット
がどこかに存在するのではないか? ヨコシマだけがそれを知っていて、ボルカッコマンにあてがおうなどと考
えているのではないか?
それは、ドクトルポイズンがわざわざこんな話を持ち出したこととも無関係ではない。
ワルサシンジケート最上級エージェントのひとりであるイッツァ・ミラクルが、血眼になって探している物で
もあるからだ。
『その正体をズバリ言い当ててみせよう。――“オリジナルネクソン”、だな?』
※
「“オリジナルネクソン”、ですか?」
東のメカニッ京と対を成す、西のテクニッ京。
人類の叡智の集密書庫とも呼ばれる大メカロポリス区の地底世界に、網目のように張り巡らされた空間がある
ことを知る者は少ない。
立体的な拡がりを持つ広大な迷路だ。
ひとたびその最奥を目指したならば、まずもって生きて帰れはすまい。
振動覚を発達させた多足の蟲どもであろうとも、半年の絶食にも耐える爬虫類の一種であろうともだ。
数十種にも及ぶセキュリティシステムのことごとくを打ち砕いたとしても、かのラビリントス大迷宮を思わせ
る繁雑な構造が侵入者を悩ませるだろう。
一寸先の闇に待ち受けるのは、殺人を愛する番兵か、必殺の罠か。
しかし見よ。
このワルサシンジケート極東拠点“魔窟Mk-Ⅱ”で最も闇黒で最も危険な部屋に、当然のように常駐する男
がいる。曰くつきの刀剣のような痩身に黒いスーツ。
小動物が半狂乱で逃げ回るほどの視線の殺気を色付き眼鏡でも覆い隠しきれない、それは危険なかほりの男。
コードネーム、イッツァ・ミラクル。
ワルサシンジケート最上級エージェント、ただし本人は響きが気に入らないからと自らの肩書きを“ワルジェ
ント”と呼ぶ。
シロガネ四天王を通じて今の未来都市ロボヶ丘を牛耳る死の商人である。
傍に控えるのは、限りなく黒に近い灰色のスーツを着こなす彼の秘書、レディ・ビジョンだった。今日もお洒
落な眼鏡に手を添えて、上品な所作でその位置を微調整する。
先の問い掛けを発したのも彼女だった。
「オリジナルネクソンは、およそ六五五〇万年前、地球に飛来した“宇宙人の侵略兵器”です」
絶対の忠誠を誓うイッツァ・ミラクルの言葉でなければ、鉄面皮のレディ・ビジョンでも一笑に付していただ
ろう。それほど荒唐無稽な話だった。
「メキシコ・ユカタン半島、またはインド・ムンバイ西海底に降下し、いわゆるK-T境界の大量絶滅を引き起
こした後、地球上のどこかで眠りに就いたと考えられています」
一般的には“恐竜の絶滅”として知られるが、この事件で陸海でおよそ七五パーセントに及ぶ種が断絶したと
される。
「人類が手にしたネクソニウムすら、その航宙船殻を構成していた物質のひとつに過ぎない。イッツァミラクル
(そんなことがあっていいのでしょうか? いいのです)!」
お馴染みの口癖だったが、そこに普段より複雑な感情が見え隠れしていた。
「まさか、ネクソ二ウムの正体が、そんなものだったとは……」
表情に出さず愕然とするレディ・ビジョンに、イッツァ・ミラクルは意味ありげに微笑んだ。
「もし、オリジナルネクソン本体がスリープモードから目覚めるようなことがあれば、次は人類の時代が終わる
ことでしょう。さほどミラクルでもない確実さでね」
「最上級ワルジェント、イッツァ・ミラクルは、そのオリジナルネクソンをご所望なのですか?」
イッツァ・ミラクルが悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンに調査を依頼していたことは、レディ・ビジョンも当
然知っている。
真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネと最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを戦闘させ、ネクソニウムの共鳴反応
を利用してその位置を探知しようとしたのだ。
東のメカニッ京と対を成す、西のテクニッ京。
人類の叡智の集密書庫とも呼ばれる大メカロポリス区の地底世界に、網目のように張り巡らされた空間がある
ことを知る者は少ない。
立体的な拡がりを持つ広大な迷路だ。
ひとたびその最奥を目指したならば、まずもって生きて帰れはすまい。
振動覚を発達させた多足の蟲どもであろうとも、半年の絶食にも耐える爬虫類の一種であろうともだ。
数十種にも及ぶセキュリティシステムのことごとくを打ち砕いたとしても、かのラビリントス大迷宮を思わせ
る繁雑な構造が侵入者を悩ませるだろう。
一寸先の闇に待ち受けるのは、殺人を愛する番兵か、必殺の罠か。
しかし見よ。
このワルサシンジケート極東拠点“魔窟Mk-Ⅱ”で最も闇黒で最も危険な部屋に、当然のように常駐する男
がいる。曰くつきの刀剣のような痩身に黒いスーツ。
小動物が半狂乱で逃げ回るほどの視線の殺気を色付き眼鏡でも覆い隠しきれない、それは危険なかほりの男。
コードネーム、イッツァ・ミラクル。
ワルサシンジケート最上級エージェント、ただし本人は響きが気に入らないからと自らの肩書きを“ワルジェ
ント”と呼ぶ。
シロガネ四天王を通じて今の未来都市ロボヶ丘を牛耳る死の商人である。
傍に控えるのは、限りなく黒に近い灰色のスーツを着こなす彼の秘書、レディ・ビジョンだった。今日もお洒
落な眼鏡に手を添えて、上品な所作でその位置を微調整する。
先の問い掛けを発したのも彼女だった。
「オリジナルネクソンは、およそ六五五〇万年前、地球に飛来した“宇宙人の侵略兵器”です」
絶対の忠誠を誓うイッツァ・ミラクルの言葉でなければ、鉄面皮のレディ・ビジョンでも一笑に付していただ
ろう。それほど荒唐無稽な話だった。
「メキシコ・ユカタン半島、またはインド・ムンバイ西海底に降下し、いわゆるK-T境界の大量絶滅を引き起
こした後、地球上のどこかで眠りに就いたと考えられています」
一般的には“恐竜の絶滅”として知られるが、この事件で陸海でおよそ七五パーセントに及ぶ種が断絶したと
される。
「人類が手にしたネクソニウムすら、その航宙船殻を構成していた物質のひとつに過ぎない。イッツァミラクル
(そんなことがあっていいのでしょうか? いいのです)!」
お馴染みの口癖だったが、そこに普段より複雑な感情が見え隠れしていた。
「まさか、ネクソ二ウムの正体が、そんなものだったとは……」
表情に出さず愕然とするレディ・ビジョンに、イッツァ・ミラクルは意味ありげに微笑んだ。
「もし、オリジナルネクソン本体がスリープモードから目覚めるようなことがあれば、次は人類の時代が終わる
ことでしょう。さほどミラクルでもない確実さでね」
「最上級ワルジェント、イッツァ・ミラクルは、そのオリジナルネクソンをご所望なのですか?」
イッツァ・ミラクルが悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンに調査を依頼していたことは、レディ・ビジョンも当
然知っている。
真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネと最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを戦闘させ、ネクソニウムの共鳴反応
を利用してその位置を探知しようとしたのだ。
「オリジナルネクソンを発掘し、これを制御できれば、あのドン・ヨコシマを殺せるかもしれません」
声を潜めもせず、イッツァ・ミラクルはとんでもないことを言った。
思わず周囲を見回したレディ・ビジョンを、白手袋を嵌めた手が制する。
「ドンはワタクシの翻意などとっくに知っていますよ。むしろ大変にお喜びだ。ワルサシンジケートとはそうい
う、下克上推奨の組織なのですから」
「しかし」
それならそれで、そのための手段までが明るみになっては都合が悪いはずではないのか――?
イッツァ・ミラクルは黒眼鏡の奥で目を伏せた。
「ワタクシが初めてドン・ヨコシマやボル中山を見た時の感情、そう、“悔しさ”、女性のあなたにはなかなか
理解し難いものかもしれませんね」
悪の総本山ワルサシンジケートの最上級エージェントにまで上り詰めた謀略の魔人は、しみじみと懐かしむよ
うに言った。
「ワタクシの周囲には、強者があまりにも多すぎた。暗殺者殺しと恐れられた先代のドン・ワルザック、その右
腕であった悪のエースパイロット・イブン=アクバル、たったひとりで一個の世界と敵対して半分を抉り取った
怪物ドン・ヨコシマ、そのヨコシマの世界征服を阻んだ“理想あれかし”ボル中山、電界のアイヴァンホー・ソ
ードスミス、狂科学者として自ら作ったメカ恐竜で自ら戦う悪山悪男、剣聖カッコマンブレード、そしてシロガ
ネ四天王――」
指折り列挙されたのは、いずれも裏の世界で半ば伝説化した巨人たちの雷名だった。
「彼らは“戦士”として単体で完成している。ワタクシとは違うのです。何者にも憚ることのないあの強さを目
の当たりにすれば、ワタクシなど策略と小銭稼ぎがミラクルうまくいっただけの小悪党だと思い知らされる」
「いえ」
レディ・ビジョンには、何も言うことが出来なかった。イッツァ・ミラクルにならば、死ねと命令されれば死
ぬことも厭わない彼女でもだ。
「小賢しさと運でこつこつと権力を手にし、貴女のような部下にも恵まれ、ワタクシは幸福です。しようと思え
ばいくらでも贅沢だって出来る。小悪党らしくここらのポジションで悪くない人生だったとするのも、それはそ
れでありかもしれません」
しかしね、レディ――イッツァ・ミラクルは一瞬だけ自嘲するように鼻を鳴らした。
「ワタクシのような小悪党でも、やはり根っから悪党なのです。悪いことがしたい! 悪いこと大好き!」
その言葉に、この男の半生が集約されていた。
「いつかは無人島のひとつでも買ってのんびり余生を楽しむ? イッツァミラクル(ありえませんね)! 我が
ミラクルの完成は、ドン・ヨコシマの悪さに挑んだその先にしかない!」
悪さにも、また強さにも、さまざまな種類が存在する。
イッツァ・ミラクルは、戦闘に限っては“からきし”だった。
もっとも、最愛の部下であるレディ・ビジョンの目から見ても、彼はそのことにコンプレックスを抱えている
わけでもなかった。
イッツァ・ミラクルは臆病さと向き合って用心深く策を巡らすことで強者と渡り合ってきたし、そんな自分を
誇りに思っていたはずである。
しかし、だからこそ、それだけではどうにもならない存在がいるという事実も、それを自分自身の在り方を曲
げてでもどうにかしたいという感情もあったのだろう。
「そのための手段が、まだ地球上に残っているかもしれないのです。ドン・ヨコシマの“魔王・ワールドシェイ
キング”を滅ぼすほどの!」
無邪気に夢を語る少年のように、イッツァ・ミラクルは哄笑した。
「“オリジナルネクソン”! イッツァミラクル(それは奇跡です)!」
思わず周囲を見回したレディ・ビジョンを、白手袋を嵌めた手が制する。
「ドンはワタクシの翻意などとっくに知っていますよ。むしろ大変にお喜びだ。ワルサシンジケートとはそうい
う、下克上推奨の組織なのですから」
「しかし」
それならそれで、そのための手段までが明るみになっては都合が悪いはずではないのか――?
イッツァ・ミラクルは黒眼鏡の奥で目を伏せた。
「ワタクシが初めてドン・ヨコシマやボル中山を見た時の感情、そう、“悔しさ”、女性のあなたにはなかなか
理解し難いものかもしれませんね」
悪の総本山ワルサシンジケートの最上級エージェントにまで上り詰めた謀略の魔人は、しみじみと懐かしむよ
うに言った。
「ワタクシの周囲には、強者があまりにも多すぎた。暗殺者殺しと恐れられた先代のドン・ワルザック、その右
腕であった悪のエースパイロット・イブン=アクバル、たったひとりで一個の世界と敵対して半分を抉り取った
怪物ドン・ヨコシマ、そのヨコシマの世界征服を阻んだ“理想あれかし”ボル中山、電界のアイヴァンホー・ソ
ードスミス、狂科学者として自ら作ったメカ恐竜で自ら戦う悪山悪男、剣聖カッコマンブレード、そしてシロガ
ネ四天王――」
指折り列挙されたのは、いずれも裏の世界で半ば伝説化した巨人たちの雷名だった。
「彼らは“戦士”として単体で完成している。ワタクシとは違うのです。何者にも憚ることのないあの強さを目
の当たりにすれば、ワタクシなど策略と小銭稼ぎがミラクルうまくいっただけの小悪党だと思い知らされる」
「いえ」
レディ・ビジョンには、何も言うことが出来なかった。イッツァ・ミラクルにならば、死ねと命令されれば死
ぬことも厭わない彼女でもだ。
「小賢しさと運でこつこつと権力を手にし、貴女のような部下にも恵まれ、ワタクシは幸福です。しようと思え
ばいくらでも贅沢だって出来る。小悪党らしくここらのポジションで悪くない人生だったとするのも、それはそ
れでありかもしれません」
しかしね、レディ――イッツァ・ミラクルは一瞬だけ自嘲するように鼻を鳴らした。
「ワタクシのような小悪党でも、やはり根っから悪党なのです。悪いことがしたい! 悪いこと大好き!」
その言葉に、この男の半生が集約されていた。
「いつかは無人島のひとつでも買ってのんびり余生を楽しむ? イッツァミラクル(ありえませんね)! 我が
ミラクルの完成は、ドン・ヨコシマの悪さに挑んだその先にしかない!」
悪さにも、また強さにも、さまざまな種類が存在する。
イッツァ・ミラクルは、戦闘に限っては“からきし”だった。
もっとも、最愛の部下であるレディ・ビジョンの目から見ても、彼はそのことにコンプレックスを抱えている
わけでもなかった。
イッツァ・ミラクルは臆病さと向き合って用心深く策を巡らすことで強者と渡り合ってきたし、そんな自分を
誇りに思っていたはずである。
しかし、だからこそ、それだけではどうにもならない存在がいるという事実も、それを自分自身の在り方を曲
げてでもどうにかしたいという感情もあったのだろう。
「そのための手段が、まだ地球上に残っているかもしれないのです。ドン・ヨコシマの“魔王・ワールドシェイ
キング”を滅ぼすほどの!」
無邪気に夢を語る少年のように、イッツァ・ミラクルは哄笑した。
「“オリジナルネクソン”! イッツァミラクル(それは奇跡です)!」
※
ドン・ヨコシマと悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンの間で、腹の内を探り合うような視線が飛び交う。
実のところ、ドクトルポイズンにしても、二大ネクソン級の戦闘時にこの地にオリジナルネクソンの存在を示
す共鳴反応があったかと言えば、それは分からないとしか言いようがないのだ。もともとそれほどの精度はない
上に、当の戦闘地点でもある。微弱な反応があっても地上の反応にまぎれてしまう可能性があった。
メキシコはユカタン半島のチクシュルーブクレーター。
インドはムンバイ西海域のシヴァクレーター。
ドクトルポイズンは、特に反応の大きかったこの地域をマントル層まで虱潰しにした後、念のためにロボヶ丘
をも調査するつもりだったのである。
そこでドン・ヨコシマが不穏な動きをしていたのだから、すわ先を越されたかと思うのは当然とも言える。た
だでさえヨコシマは人類の概念を揺るがすほどの力を持っているのだ。何らかの方法でオリジナルネクソンを入
手していたとしても驚くには値しない。
実のところ、ドクトルポイズンにしても、二大ネクソン級の戦闘時にこの地にオリジナルネクソンの存在を示
す共鳴反応があったかと言えば、それは分からないとしか言いようがないのだ。もともとそれほどの精度はない
上に、当の戦闘地点でもある。微弱な反応があっても地上の反応にまぎれてしまう可能性があった。
メキシコはユカタン半島のチクシュルーブクレーター。
インドはムンバイ西海域のシヴァクレーター。
ドクトルポイズンは、特に反応の大きかったこの地域をマントル層まで虱潰しにした後、念のためにロボヶ丘
をも調査するつもりだったのである。
そこでドン・ヨコシマが不穏な動きをしていたのだから、すわ先を越されたかと思うのは当然とも言える。た
だでさえヨコシマは人類の概念を揺るがすほどの力を持っているのだ。何らかの方法でオリジナルネクソンを入
手していたとしても驚くには値しない。
「私はこれ以上、何もしない」
悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンの推測に対して、ドン・ヨコシマはそれだけを口にした。
この発言については解釈が難しい。
オリジナルネクソンに言及しないその回答は、単純にもっと大きなレベルでの否定とも取れるが、既に事態が
自動で進行していくように全ての仕込みは終わっていると捉えても無理がない。
『……まあ、いいさ。よく考えてみれば、オリジナルネクソンの本体がロボヶ丘の地下にでも眠っていたとして
も、共鳴反応から見るに恐らくはモホロビチッチ不連続面下、マントルの海を漂っているのだ。たとえ断罪Xで
あっても朝を叫ぶ雄鶏にはなるまいよ。よしんば起こせたとしても、制御方法がない以上は“魔法使いの弟子”
になるのみ――』
「どうした、いやに正義の味方の肩を持つじゃないか、ドクトルポイズン」
ヨコシマは揶揄するように言った。
悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンは、コンピュータウイルスの研究開発能力を買われてワルサシンジケートに
招かれた男だったが、その本質は怪情報の流布や風評被害の拡大にあった。
真偽不明の噂。
言霊。
そして“ジンクス”。
そういうものを愛するドクトルポイズンには、敢えて都合の良い予想を告げて、それが覆されるのを見て楽し
むという悪癖があった。
それが、時として敵側に味方しているように見えるのだ。
『ボルカックマンスーツをポンとくれてやったドン・ヨコシマにだけは言われたくないが……』
「それもそうだ」
ふわふわと空中浮遊していた髑髏が腰を据えるように一瞬だけぶれ、ぴたりと固定された。
『どうなるにしても、正義の作った断罪Xがこの都市を火の海にするくらいのショーは見られるわけだ。どれ、
それまでは頭脳派として脳筋や脳鉄どもの醜い争いを見物、見物』
頭脳派どころかほぼ脳味噌のドクトルポイズンが、カタカタと大袈裟に顎だけで喝采する。それはまるで、歓
喜する死に神のようでもあった。
(もしヨコシマの打った布石が機能するとしても、断罪X発動の前後だろう)
果たして、未来都市ロボヶ丘に幻の“オリジナルネクソン”が顕現することなどあるのだろうか?
悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンは、シヴァクレーターの調査を遅らせてでも、それを見届けるつもりでいた。
この発言については解釈が難しい。
オリジナルネクソンに言及しないその回答は、単純にもっと大きなレベルでの否定とも取れるが、既に事態が
自動で進行していくように全ての仕込みは終わっていると捉えても無理がない。
『……まあ、いいさ。よく考えてみれば、オリジナルネクソンの本体がロボヶ丘の地下にでも眠っていたとして
も、共鳴反応から見るに恐らくはモホロビチッチ不連続面下、マントルの海を漂っているのだ。たとえ断罪Xで
あっても朝を叫ぶ雄鶏にはなるまいよ。よしんば起こせたとしても、制御方法がない以上は“魔法使いの弟子”
になるのみ――』
「どうした、いやに正義の味方の肩を持つじゃないか、ドクトルポイズン」
ヨコシマは揶揄するように言った。
悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンは、コンピュータウイルスの研究開発能力を買われてワルサシンジケートに
招かれた男だったが、その本質は怪情報の流布や風評被害の拡大にあった。
真偽不明の噂。
言霊。
そして“ジンクス”。
そういうものを愛するドクトルポイズンには、敢えて都合の良い予想を告げて、それが覆されるのを見て楽し
むという悪癖があった。
それが、時として敵側に味方しているように見えるのだ。
『ボルカックマンスーツをポンとくれてやったドン・ヨコシマにだけは言われたくないが……』
「それもそうだ」
ふわふわと空中浮遊していた髑髏が腰を据えるように一瞬だけぶれ、ぴたりと固定された。
『どうなるにしても、正義の作った断罪Xがこの都市を火の海にするくらいのショーは見られるわけだ。どれ、
それまでは頭脳派として脳筋や脳鉄どもの醜い争いを見物、見物』
頭脳派どころかほぼ脳味噌のドクトルポイズンが、カタカタと大袈裟に顎だけで喝采する。それはまるで、歓
喜する死に神のようでもあった。
(もしヨコシマの打った布石が機能するとしても、断罪X発動の前後だろう)
果たして、未来都市ロボヶ丘に幻の“オリジナルネクソン”が顕現することなどあるのだろうか?
悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンは、シヴァクレーターの調査を遅らせてでも、それを見届けるつもりでいた。
※
ボルカッコマンとシロガネ四天王の戦闘は、一方的に近い展開を見せた。
「E自警団もまた、弱くて雑魚い刺客を送りこんで来たもんだね」
誉れ高き一番槍は、さすが四天王いちのスピード、カッコマンエビルの神速飛翔ロボ・シロガネソニック。た
だ素通りするだけで、置き去りにされた音が“錐”と化す。
シロガネソニックランサー。
通常の衝撃波は飛翔体の尖端を起点として発生するが、シロガネソニックが運動した時、その微小擾乱は本体
の下方で集束させられ、あたかも独立した突撃槍のようになる。いかに超ネクソン白鋼製のシロガネソニックで
も、航空系の宿命として、どうしても耐久性に劣る嫌いはある。この特殊装備があれば、苦手な肉弾戦や白兵戦
などする必要がないのだ。もっとも、カッコマンエビルにしてみれば、火器の類いが欲しいところではあった。
「うおおおおおおっ!!」
衝撃波の破壊力には耐えられても、ボルカッコマンの体重では軽すぎて、木枯らしに遭った落葉のように吹き
飛ばされる。
「そぉら!」
第二波。またも建物の窓ガラスが一斉に破壊され、破片が雹のように降り注ぐ。
第一波との干渉で発生した乱気流に体勢を崩され、ボルカッコマンは制御不能の状態で宙を舞う。
「ロボなしじゃあさァ!」
カッコマンエビルが粗末な戦闘力を嘲笑。超高速にして自由自在の飛行能力。神速飛翔ロボ・シロガネソニッ
クは、ボルカッコマンにとって、恐らく四天王の中でも最も相性が悪い敵だろう。
「空中では自由に動けまい」
スナイパーガマンの百発百中ロボ・シロガネスナイパーの照準器が閃く。
「ちっ!!」
危険を察知したボルカッコマンは、推進システムに点火。どうにか乱気流の余韻めいた複雑な風を捕まえ、自
身にも予測不可能な回避行動に出る。
「――まあ、動いても中てるがね」
狙撃銃が速射され、当たり前のように命中。
シロガネスナイパーの頭部の半分を占めるシロガネタイムブースターは、パイロットの脳神経に直結され、そ
の視覚の時間分解能を飛躍的に強化する。起動すれば世界の運動そのものがスローモーションとなる。
「ぐはッ!」
銃弾を受けた衝撃に、ボルカッコマンは背骨がひしゃげるかと思った。
「あらあらどうしたのぉ?」
そこは一騎当千ロボ・シロガネブレードの間合い、野球でいうならば打ちごろのストライクゾーン――
戦慄をスイッチとした超反射で、ボルカッコマンは脇腹数センチメートルに出現した白刃の横っ腹を叩いて斬
撃の線上から逃れる。
「テークニッ♪」
ぐるんっ。ジャンヌは、その反動をすら利用して剣先を回し、勢いのまま切り上げ。
ゾン。
タイムラグなどまるで感じられないパイロットとロボットの完全な同期は、四天王のネクソンタイプの中でも
一騎当千ロボ・シロガネブレードにしかないものだった。シロガネシンクロナイザーが可能とするのは、達人そ
の物の身体操作。
ボルカッコマンはビルの壁面に寄って緊急退避。体勢と位置から見て剣の取り回しが利かないはずだったが、
シロガネブレードはそこに障害物などないような動きをした。
壁面にズッと刃が入りこむ絶望の光景を、ボルカッコマンは見た。
ビルごと薙ぎ払われた。
急降下する感覚の後、うず高い瓦礫の山に激突。血を吐く。
「ちょっと刃筋が立たなかったかしら? かわいそう。また苦しみが長引くから」
ビルを斬った分、振り抜き動作中の曲げの微調整がわずかに遅れたのだ。シロガネブレードの剣の切れ味がい
かに常軌を逸していようとも、刃と峰の間に幅を持つことに変わりはない。さすがの四天王いちのテクニシャン
も、斬りながら曲げることは難しい。
「うーむ。私にとっては戦いづらい相手だ。足元にいるのをただキックキック踏み潰し踏み潰しでは芸がなさす
ぎる。シロガネマッスルの華はやはりがっぷり四つ組んでの剛力対決。……ボルカッコマン? そろそろロボを
出すがいい。とびきり筋肉のあるやつをだ」
シロガネマッスルは、手持ち無沙汰げに引っこ抜いたビルを“投げ”た。ビルのほうの強度が持たないはずだ
が、ニック・W・キムは怪力でありながら繊細な技術の持ち主でもある。宙を舞う玉子豆腐を苦もなく箸で掴む
その絶妙な力加減を再現する剛力無双ロボ・シロガネマッスルの駆動システム! シロガネハイパワーマニュピ
レータはどうだ!
小さなボルカッコマンにとっては範囲攻撃となるが狙いが甘く、四散する鉄筋コンクリートとガラスの残骸の
回避に成功。耳を聾する破壊音が恐ろしげに響く。
ボルカッコマンは、その混乱に乗じて動いた。
狙いは、一騎当千ロボ・シロガネブレードの“足の甲”。位置的な事情もあったが、達人である切り裂きジャ
ンヌの反応速度を忠実に再現できるシロガネブレードの速さは、ある意味ではシロガネソニックよりも厄介であ
る。叩ける状況があれば優先的に叩いておきたい。
さらに爪先は、スラスターを吹かさずとも一撃与えられる部位である上に、機動力に大きく関係する。
「山にカッコ! 里にカッコ! 野にもカッコ! ――狂おしいほどに。これがボルカッコ三倍幻影拳ッ!!」
略して、ボルカッコ三倍拳!!
あのネクソンクロガネパンチに匹敵するかもと目される、その超パワーを見るがいい(1平方センチメートル
あたり)!
「悪いけど、上からだと丸見えなのよね」
シロガネホバースリアシ!!
一騎当千ロボ・シロガネブレードが横に水平移動。
ダメージを期待できる前進や、間合いの開く後退ではなかったのは、体表に密着されるのを嫌ったからか?
ボルカッコマンも体勢からまさか真横に回避できるとは予想していなかった。標的を失い、空しく着地。
瓦礫や砂塵にまぎれたつもりでも、やはり視点や視野の違いを把握できておらず、奇襲は失敗に終わる。
悪寒。
新幹線に数十倍する速度でシロガネソニックのシロガネソニックランサーが風切り音を率いて通過する。シロ
ガネマッスルが大量生産した瓦礫が再び宙に浮き上がり、大規模な散弾となって襲い掛かる。
シロガネブレードと同方向に跳んでランサーの直撃を避けながら、帆船のように背で風圧を受けて再攻撃。超
音速の土石流に巻き込まれるのと同程度のダメージはとても無視できるものではないが、このチャンスを逃す手
はない。
「女の子ばかり追い回すなよ」
そこに抜け目なく突き刺さる百発百中ロボ・シロガネスナイパーの銀の銃弾。いや、ボルカッコマンにとって
は砲弾に等しい。アスファルトをめくり、そのままビルの外壁まで持っていかれる。
「もう女の子って歳でもないけど、けっこう嬉しかったわ、スナイパー」
「そうやって女性の心もスナイプしてるってわけか、なかなかやんじゃんガマンのオッサン」
「モテるなら筋肉も大事だぞう! しかし女性のマッチョ好きは男が思っているより多くない! 細マッチョを
目指すんだ。――さあッ! カッコマンエビルも筋肉を鍛えよう! 私が教えよう!」
「いらね」
「腹筋とかね!」
「話聞けよ」
(くそ――どこに誰がいてどこから来るのか分からない……!)
ダウンしているように見せ掛けて体力を回復しながら、ボルカッコマンは密かに歯噛みした。
四人のうちの誰でも、優先順位を下げた途端に思いもよらないところから牙を剥く。
これがシロガネ四天王――
(相変わらず、何という奴らだ!)
最大火力で急所でも突いて根気よく除去していくしかないだろうが、このままではとても攻勢に出るどころで
はない。
「E自警団もまた、弱くて雑魚い刺客を送りこんで来たもんだね」
誉れ高き一番槍は、さすが四天王いちのスピード、カッコマンエビルの神速飛翔ロボ・シロガネソニック。た
だ素通りするだけで、置き去りにされた音が“錐”と化す。
シロガネソニックランサー。
通常の衝撃波は飛翔体の尖端を起点として発生するが、シロガネソニックが運動した時、その微小擾乱は本体
の下方で集束させられ、あたかも独立した突撃槍のようになる。いかに超ネクソン白鋼製のシロガネソニックで
も、航空系の宿命として、どうしても耐久性に劣る嫌いはある。この特殊装備があれば、苦手な肉弾戦や白兵戦
などする必要がないのだ。もっとも、カッコマンエビルにしてみれば、火器の類いが欲しいところではあった。
「うおおおおおおっ!!」
衝撃波の破壊力には耐えられても、ボルカッコマンの体重では軽すぎて、木枯らしに遭った落葉のように吹き
飛ばされる。
「そぉら!」
第二波。またも建物の窓ガラスが一斉に破壊され、破片が雹のように降り注ぐ。
第一波との干渉で発生した乱気流に体勢を崩され、ボルカッコマンは制御不能の状態で宙を舞う。
「ロボなしじゃあさァ!」
カッコマンエビルが粗末な戦闘力を嘲笑。超高速にして自由自在の飛行能力。神速飛翔ロボ・シロガネソニッ
クは、ボルカッコマンにとって、恐らく四天王の中でも最も相性が悪い敵だろう。
「空中では自由に動けまい」
スナイパーガマンの百発百中ロボ・シロガネスナイパーの照準器が閃く。
「ちっ!!」
危険を察知したボルカッコマンは、推進システムに点火。どうにか乱気流の余韻めいた複雑な風を捕まえ、自
身にも予測不可能な回避行動に出る。
「――まあ、動いても中てるがね」
狙撃銃が速射され、当たり前のように命中。
シロガネスナイパーの頭部の半分を占めるシロガネタイムブースターは、パイロットの脳神経に直結され、そ
の視覚の時間分解能を飛躍的に強化する。起動すれば世界の運動そのものがスローモーションとなる。
「ぐはッ!」
銃弾を受けた衝撃に、ボルカッコマンは背骨がひしゃげるかと思った。
「あらあらどうしたのぉ?」
そこは一騎当千ロボ・シロガネブレードの間合い、野球でいうならば打ちごろのストライクゾーン――
戦慄をスイッチとした超反射で、ボルカッコマンは脇腹数センチメートルに出現した白刃の横っ腹を叩いて斬
撃の線上から逃れる。
「テークニッ♪」
ぐるんっ。ジャンヌは、その反動をすら利用して剣先を回し、勢いのまま切り上げ。
ゾン。
タイムラグなどまるで感じられないパイロットとロボットの完全な同期は、四天王のネクソンタイプの中でも
一騎当千ロボ・シロガネブレードにしかないものだった。シロガネシンクロナイザーが可能とするのは、達人そ
の物の身体操作。
ボルカッコマンはビルの壁面に寄って緊急退避。体勢と位置から見て剣の取り回しが利かないはずだったが、
シロガネブレードはそこに障害物などないような動きをした。
壁面にズッと刃が入りこむ絶望の光景を、ボルカッコマンは見た。
ビルごと薙ぎ払われた。
急降下する感覚の後、うず高い瓦礫の山に激突。血を吐く。
「ちょっと刃筋が立たなかったかしら? かわいそう。また苦しみが長引くから」
ビルを斬った分、振り抜き動作中の曲げの微調整がわずかに遅れたのだ。シロガネブレードの剣の切れ味がい
かに常軌を逸していようとも、刃と峰の間に幅を持つことに変わりはない。さすがの四天王いちのテクニシャン
も、斬りながら曲げることは難しい。
「うーむ。私にとっては戦いづらい相手だ。足元にいるのをただキックキック踏み潰し踏み潰しでは芸がなさす
ぎる。シロガネマッスルの華はやはりがっぷり四つ組んでの剛力対決。……ボルカッコマン? そろそろロボを
出すがいい。とびきり筋肉のあるやつをだ」
シロガネマッスルは、手持ち無沙汰げに引っこ抜いたビルを“投げ”た。ビルのほうの強度が持たないはずだ
が、ニック・W・キムは怪力でありながら繊細な技術の持ち主でもある。宙を舞う玉子豆腐を苦もなく箸で掴む
その絶妙な力加減を再現する剛力無双ロボ・シロガネマッスルの駆動システム! シロガネハイパワーマニュピ
レータはどうだ!
小さなボルカッコマンにとっては範囲攻撃となるが狙いが甘く、四散する鉄筋コンクリートとガラスの残骸の
回避に成功。耳を聾する破壊音が恐ろしげに響く。
ボルカッコマンは、その混乱に乗じて動いた。
狙いは、一騎当千ロボ・シロガネブレードの“足の甲”。位置的な事情もあったが、達人である切り裂きジャ
ンヌの反応速度を忠実に再現できるシロガネブレードの速さは、ある意味ではシロガネソニックよりも厄介であ
る。叩ける状況があれば優先的に叩いておきたい。
さらに爪先は、スラスターを吹かさずとも一撃与えられる部位である上に、機動力に大きく関係する。
「山にカッコ! 里にカッコ! 野にもカッコ! ――狂おしいほどに。これがボルカッコ三倍幻影拳ッ!!」
略して、ボルカッコ三倍拳!!
あのネクソンクロガネパンチに匹敵するかもと目される、その超パワーを見るがいい(1平方センチメートル
あたり)!
「悪いけど、上からだと丸見えなのよね」
シロガネホバースリアシ!!
一騎当千ロボ・シロガネブレードが横に水平移動。
ダメージを期待できる前進や、間合いの開く後退ではなかったのは、体表に密着されるのを嫌ったからか?
ボルカッコマンも体勢からまさか真横に回避できるとは予想していなかった。標的を失い、空しく着地。
瓦礫や砂塵にまぎれたつもりでも、やはり視点や視野の違いを把握できておらず、奇襲は失敗に終わる。
悪寒。
新幹線に数十倍する速度でシロガネソニックのシロガネソニックランサーが風切り音を率いて通過する。シロ
ガネマッスルが大量生産した瓦礫が再び宙に浮き上がり、大規模な散弾となって襲い掛かる。
シロガネブレードと同方向に跳んでランサーの直撃を避けながら、帆船のように背で風圧を受けて再攻撃。超
音速の土石流に巻き込まれるのと同程度のダメージはとても無視できるものではないが、このチャンスを逃す手
はない。
「女の子ばかり追い回すなよ」
そこに抜け目なく突き刺さる百発百中ロボ・シロガネスナイパーの銀の銃弾。いや、ボルカッコマンにとって
は砲弾に等しい。アスファルトをめくり、そのままビルの外壁まで持っていかれる。
「もう女の子って歳でもないけど、けっこう嬉しかったわ、スナイパー」
「そうやって女性の心もスナイプしてるってわけか、なかなかやんじゃんガマンのオッサン」
「モテるなら筋肉も大事だぞう! しかし女性のマッチョ好きは男が思っているより多くない! 細マッチョを
目指すんだ。――さあッ! カッコマンエビルも筋肉を鍛えよう! 私が教えよう!」
「いらね」
「腹筋とかね!」
「話聞けよ」
(くそ――どこに誰がいてどこから来るのか分からない……!)
ダウンしているように見せ掛けて体力を回復しながら、ボルカッコマンは密かに歯噛みした。
四人のうちの誰でも、優先順位を下げた途端に思いもよらないところから牙を剥く。
これがシロガネ四天王――
(相変わらず、何という奴らだ!)
最大火力で急所でも突いて根気よく除去していくしかないだろうが、このままではとても攻勢に出るどころで
はない。
――“巨大さとは力である”
障害物などを利用して立ち回ればすばしっこさはまだ通用するかもしれないが、戦闘のスケールがこうも如何
ともし難いものだとは……!
密着も一見有効そうでまったくの無意味だ。一人の手が届かない位置に貼り付けたとしても相手は四人いるの
だ、必ず捕まるだろう。それに零距離ではこちらからの攻撃手段がほとんどない。
「うえ。まだ生きてるっぽい。しっぶて」
「なかなかに、骨がある。……訂正しよう、骨も筋肉も、ある」
「……どこかで会ったかな。少し、動きのクセに覚えがある気がしないでもない」
「どうするのがいいかしら? 私ね、自分の血を吸った蚊は、出来るだけ生きたままテープに磔にして、翅と脚
をぜーんぶ切り落としてから、死ぬまでじっーと見ることにしてるんだけど」
一対一でも最強無敵ロボ・ネクソンクロガネと渡り合う性能を持った悪の超級巨大ロボが四体、ボルカッコマ
ンを取り囲んでいた。
回復など考えず姿を暗ますべきだったか?
しかし、ボルカッコマンは焦らず、冷めた頭で昏倒したフリを継続する。
四体が肩を並べるこの状況。四人いても一度に四人ともが攻撃できるわけではない。
では誰が来るか?
ボルカッコマンを挟んで崩落し掛けたビルが立つこの地形から考えて、カッコマンエビルが相当なアホでない
限り、シロガネソニックはない。
シロガネブレードが刺しに来るか、シロガネマッスルが潰しに来るか。この場合は、必ず他の三体に死角が生
じる。至極、動きやすい。
シロガネスナイパーの狙撃だけは対処のしようがないが、回避に気づいても密集陣形が邪魔でまともに対応で
きないのは他と共通している。大きさの違いも一方にだけ不利になるように働くわけではないのだ。
(サイズ差以外に、戦ってみて分かったことは)
四天王がお喋りしている間に、ボルカッコマンは取得した情報を整理する。いつまでも脳筋ではいられない。
(やはり以前より連携がうまくなっている)
まだお互いに邪魔をしない立ち回りで波状攻撃が可能という段階だが、足の引っ張り合いで長所を殺し合って
いたころとは比較にならない。
さらに、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネへのシロガネ四体合体まで残している。必殺技対決で最強無敵ロ
ボ・ネクソンクロガネを闇に葬り去った戦闘能力は、未だその全てが明らかになったとは言えない。
戦略的撤退を視野に入れ、即座に廃棄。
ここで反乱分子を草の根分けても探し出して根絶やしにしてやるなどと妙な勤労精神を発揮されると市民に死
人が出かねない。同じ意味で、虐殺を匂わせたヨコシマの動きが分からないのもやはり不味い。
(どうしたものか――)
ボルカッコマンにとっての突破口となったイレギュラーは、
ともし難いものだとは……!
密着も一見有効そうでまったくの無意味だ。一人の手が届かない位置に貼り付けたとしても相手は四人いるの
だ、必ず捕まるだろう。それに零距離ではこちらからの攻撃手段がほとんどない。
「うえ。まだ生きてるっぽい。しっぶて」
「なかなかに、骨がある。……訂正しよう、骨も筋肉も、ある」
「……どこかで会ったかな。少し、動きのクセに覚えがある気がしないでもない」
「どうするのがいいかしら? 私ね、自分の血を吸った蚊は、出来るだけ生きたままテープに磔にして、翅と脚
をぜーんぶ切り落としてから、死ぬまでじっーと見ることにしてるんだけど」
一対一でも最強無敵ロボ・ネクソンクロガネと渡り合う性能を持った悪の超級巨大ロボが四体、ボルカッコマ
ンを取り囲んでいた。
回復など考えず姿を暗ますべきだったか?
しかし、ボルカッコマンは焦らず、冷めた頭で昏倒したフリを継続する。
四体が肩を並べるこの状況。四人いても一度に四人ともが攻撃できるわけではない。
では誰が来るか?
ボルカッコマンを挟んで崩落し掛けたビルが立つこの地形から考えて、カッコマンエビルが相当なアホでない
限り、シロガネソニックはない。
シロガネブレードが刺しに来るか、シロガネマッスルが潰しに来るか。この場合は、必ず他の三体に死角が生
じる。至極、動きやすい。
シロガネスナイパーの狙撃だけは対処のしようがないが、回避に気づいても密集陣形が邪魔でまともに対応で
きないのは他と共通している。大きさの違いも一方にだけ不利になるように働くわけではないのだ。
(サイズ差以外に、戦ってみて分かったことは)
四天王がお喋りしている間に、ボルカッコマンは取得した情報を整理する。いつまでも脳筋ではいられない。
(やはり以前より連携がうまくなっている)
まだお互いに邪魔をしない立ち回りで波状攻撃が可能という段階だが、足の引っ張り合いで長所を殺し合って
いたころとは比較にならない。
さらに、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネへのシロガネ四体合体まで残している。必殺技対決で最強無敵ロ
ボ・ネクソンクロガネを闇に葬り去った戦闘能力は、未だその全てが明らかになったとは言えない。
戦略的撤退を視野に入れ、即座に廃棄。
ここで反乱分子を草の根分けても探し出して根絶やしにしてやるなどと妙な勤労精神を発揮されると市民に死
人が出かねない。同じ意味で、虐殺を匂わせたヨコシマの動きが分からないのもやはり不味い。
(どうしたものか――)
ボルカッコマンにとっての突破口となったイレギュラーは、
『――聴こえるか、聴こえるな、田所カッコマン!』
もはや懐かしい女はぐれ研究員からの報せだった。
※
時は数分前に遡る。
E自警団十大技師長が集う、飛行船ケンケンゴー号会議室。
「とうとう現れたかッ!! シロガネ四天王!!」
「何で喜色満面なんだお前おいっ!! 好き好んで虐殺がしたいわけではないとか言ってたくせに!! あれは
嘘だったのかこの老害野郎!!」
未来都市ロボヶ丘にシロガネ四天王出現!
その報を受けた老獪なるギゼン・シャシェフスキの反応に、叱咤する龍聖寺院光は激怒した。
「な、何を言うかッ。これは正義を執行する人間に特有の根源的な喜びだ!」
「何ぃッ!?」
苦しい言い訳は火に油を注ぐだけだった。力の入った頭皮が突っ張り、龍聖寺院光の髪がざわと逆立つ。
「あっ、あれは、田所カッコマンでしょうか?」
若きアブドゥルアジズは、険悪な空気を少しでも変えようと手ずから会議室の大型モニタにライブ映像を投影
した。わざとらしいほどの身振りで、どうにか全員の意識をそちらへと集中させることに成功する。
痛ましくも荒廃した未来都市で交戦中のシロガネ四天王と見知らぬカッコマンの映像が、砂嵐の混じった画面
を駆け抜けていく。
「さすがはこの私の見こんだ田所カッコマンだ! 信じていたぞ!」
龍聖寺院光にとって、ボルカッコマンスーツ姿は初見だったが、田所正男とは長い付き合いだ。わずかな動作
の癖や正義の魂から一目瞭然。
「どうだ! シロガネ四天王が出撃したのは、私の言った通り、田所カッコマンが立ち上がったからだった!」
「まさか本当に生きていたとはな。……まあ、何よりだ」
自信満々に大間違いのはぐれ研究論文を見せびらかしていた割りに、ギゼン・シャシェフスキは悪びれもしな
ければ筋違いに怒りを向けたりもしなかった。
しかし、この男がこれからやろうとしているのは、一般市民も、命拾いした田所カッコマンも、諸共に地上か
ら消し去ろうという悪魔の所業である。
龍聖寺院光の説得になど最初から耳を傾ける気はないのだ。田所カッコマンが生きていようが死んでいようが
そもそも関係はない。
「見たこともないカッコマンスーツだ。正規品ではないようだが、どこからあんな物を」
「きっとヤミ蚤の市よ、ヤミ蚤の市」
怒れるパンギフンの発言を接ぎ穂に、つぶやくブランカが即興の造語を早口言葉のようにリピートする。
「誇り高きカッコマンが、まさか海賊版に手を染めるなんて思わなかった! なあ、みんな!?」
「いや、あれはもはやカッコマンではない。我々が認定していないカッコマンは、いわばニセ・カッコマン。四
天王のカッコマンデビルと同じだ」
「エビルです」
ストリキニーネ本郷の度重なる指摘に、ギゼン・シャシェフスキはむくれた。
「……同じようなものだ」
「これだから近ごろの若い者は」
「失礼しました」
「金に物を言わせて言わせてもらうけど、おたくらその寸劇、毎回やるの?」
「金に物を言わせなくても言えるようなことをいちいち金に物を言わせて言う必要あるか?」
「金に物を言わせて言わせてもらうけど、ホラ、僕って金くらいしか取り柄ないじゃない? 何か発言しようっ
て意気ごんで喋る時は、付けないと不安になるんだよね」
「お前の取り柄はもうひとつだけあるね。いや、恐れ入った。実に的確な自己分析能力だ」
大富豪ミスターハリケーンの茶々に、人を食った孫紅龍の皮肉も混じって、一層収拾が付かなくなる。
(クソみたいな組織だな……)
呆れ果てた龍聖寺院光は溜め息を吐くしかない。
彼女の一瞬の弛緩を、老獪なる男が見逃すはずもなかった。
ギゼン・シャシェフスキは、そろそろと卓上のコンソールを展開して、おもむろに防護ケースを引き上げ、
「これで終わりだ! シロガネ四天王! 悪の真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ!」
ボタンスイッチをボチッと押しこんだ。
「――む!? 貴様、今何をした!?」
龍聖寺院光が声を荒げるが、気づくのが遅い。
ケースのラベルシールには、もちろんこう記されている。
E自警団十大技師長が集う、飛行船ケンケンゴー号会議室。
「とうとう現れたかッ!! シロガネ四天王!!」
「何で喜色満面なんだお前おいっ!! 好き好んで虐殺がしたいわけではないとか言ってたくせに!! あれは
嘘だったのかこの老害野郎!!」
未来都市ロボヶ丘にシロガネ四天王出現!
その報を受けた老獪なるギゼン・シャシェフスキの反応に、叱咤する龍聖寺院光は激怒した。
「な、何を言うかッ。これは正義を執行する人間に特有の根源的な喜びだ!」
「何ぃッ!?」
苦しい言い訳は火に油を注ぐだけだった。力の入った頭皮が突っ張り、龍聖寺院光の髪がざわと逆立つ。
「あっ、あれは、田所カッコマンでしょうか?」
若きアブドゥルアジズは、険悪な空気を少しでも変えようと手ずから会議室の大型モニタにライブ映像を投影
した。わざとらしいほどの身振りで、どうにか全員の意識をそちらへと集中させることに成功する。
痛ましくも荒廃した未来都市で交戦中のシロガネ四天王と見知らぬカッコマンの映像が、砂嵐の混じった画面
を駆け抜けていく。
「さすがはこの私の見こんだ田所カッコマンだ! 信じていたぞ!」
龍聖寺院光にとって、ボルカッコマンスーツ姿は初見だったが、田所正男とは長い付き合いだ。わずかな動作
の癖や正義の魂から一目瞭然。
「どうだ! シロガネ四天王が出撃したのは、私の言った通り、田所カッコマンが立ち上がったからだった!」
「まさか本当に生きていたとはな。……まあ、何よりだ」
自信満々に大間違いのはぐれ研究論文を見せびらかしていた割りに、ギゼン・シャシェフスキは悪びれもしな
ければ筋違いに怒りを向けたりもしなかった。
しかし、この男がこれからやろうとしているのは、一般市民も、命拾いした田所カッコマンも、諸共に地上か
ら消し去ろうという悪魔の所業である。
龍聖寺院光の説得になど最初から耳を傾ける気はないのだ。田所カッコマンが生きていようが死んでいようが
そもそも関係はない。
「見たこともないカッコマンスーツだ。正規品ではないようだが、どこからあんな物を」
「きっとヤミ蚤の市よ、ヤミ蚤の市」
怒れるパンギフンの発言を接ぎ穂に、つぶやくブランカが即興の造語を早口言葉のようにリピートする。
「誇り高きカッコマンが、まさか海賊版に手を染めるなんて思わなかった! なあ、みんな!?」
「いや、あれはもはやカッコマンではない。我々が認定していないカッコマンは、いわばニセ・カッコマン。四
天王のカッコマンデビルと同じだ」
「エビルです」
ストリキニーネ本郷の度重なる指摘に、ギゼン・シャシェフスキはむくれた。
「……同じようなものだ」
「これだから近ごろの若い者は」
「失礼しました」
「金に物を言わせて言わせてもらうけど、おたくらその寸劇、毎回やるの?」
「金に物を言わせなくても言えるようなことをいちいち金に物を言わせて言う必要あるか?」
「金に物を言わせて言わせてもらうけど、ホラ、僕って金くらいしか取り柄ないじゃない? 何か発言しようっ
て意気ごんで喋る時は、付けないと不安になるんだよね」
「お前の取り柄はもうひとつだけあるね。いや、恐れ入った。実に的確な自己分析能力だ」
大富豪ミスターハリケーンの茶々に、人を食った孫紅龍の皮肉も混じって、一層収拾が付かなくなる。
(クソみたいな組織だな……)
呆れ果てた龍聖寺院光は溜め息を吐くしかない。
彼女の一瞬の弛緩を、老獪なる男が見逃すはずもなかった。
ギゼン・シャシェフスキは、そろそろと卓上のコンソールを展開して、おもむろに防護ケースを引き上げ、
「これで終わりだ! シロガネ四天王! 悪の真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ!」
ボタンスイッチをボチッと押しこんだ。
「――む!? 貴様、今何をした!?」
龍聖寺院光が声を荒げるが、気づくのが遅い。
ケースのラベルシールには、もちろんこう記されている。
――“断罪X”発動
龍聖寺院光の顔が蒼白に転じた。
『もう最高!! わしらこそ十大技師長(チーフ・テン)』
作詞・作曲・歌/十大技師長
編曲/イーフ・ラス
編曲/イーフ・ラス
鏡よ 鏡
この世でいちばん かしこいのは誰?
この世でいちばん かしこいのは誰?
それは! それはもちろん
それは! それはもちろん
それは! それはもちろん
チーフテン! チーフテン! チーフテン! チーフテン!(ワァオ)
それは! それはもちろん
それは! それはもちろん
チーフテン! チーフテン! チーフテン! チーフテン!(ワァオ)
正義の味方E自警団 最高の頭脳
ああ、叡智は我らが脳髄より
ああ、叡智は我らが脳髄より
「やらない偽善! いとわぬ犠牲! 老獪なるギゼン・シャシェフスキ!」
「子供の知らない秘密の力! 嘲笑うジョージ・O・トナー!」
「正義の怒り炸裂! プンプンパン! 怒れるパン・ギフン!」
「金に物を言わせて言わせてもらおう! 大富豪ミスターハリケーン!」
「服にフリル! お肌もフリル! つぶやくブランカ!」
「子供の知らない秘密の力! 嘲笑うジョージ・O・トナー!」
「正義の怒り炸裂! プンプンパン! 怒れるパン・ギフン!」
「金に物を言わせて言わせてもらおう! 大富豪ミスターハリケーン!」
「服にフリル! お肌もフリル! つぶやくブランカ!」
はぐれても天才 わしらこそチーフテン! 人類の宝
もしもし 亀よ
この世でいちばん たくみなのは誰?
この世でいちばん たくみなのは誰?
それは! それはいかにも
それは! それはいかにも
それは! それはいかにも
チーフテン! チーフテン! チーフテン! チーフテン!(ヒュウ)
それは! それはいかにも
それは! それはいかにも
チーフテン! チーフテン! チーフテン! チーフテン!(ヒュウ)
自由の闘士E自警団 最高の権威
ああ、文明は我らが手指より
ああ、文明は我らが手指より
「努力何それおいしい? そのうち覚醒! サボるホセ・イシュー・ジンコ!」
「貴様らそれでも正義の味方か!? こじらせた女! 叱咤する龍聖寺院光!」
「一言多い人から一言以外を抜いたら、こうだ! 人を食った孫紅龍!」
「臨床試験など待ってはおれぬわ! 治療しながら人体実験! 最後の良心・菊野くすり!」
「この二つ名っていつまで使えるんだろ? 悩める男! 若きアブドゥルアジズ!」
「貴様らそれでも正義の味方か!? こじらせた女! 叱咤する龍聖寺院光!」
「一言多い人から一言以外を抜いたら、こうだ! 人を食った孫紅龍!」
「臨床試験など待ってはおれぬわ! 治療しながら人体実験! 最後の良心・菊野くすり!」
「この二つ名っていつまで使えるんだろ? 悩める男! 若きアブドゥルアジズ!」
はぐれても大天才 わしらこそチーフテン! 人類の奇跡
十人揃って叩き合い
十人揃って潰し合い
足を引っ張り合ううちに
さらなる高みに昇れるさ 昇れるさ 昇れるさ(ゲッチュウ!)
十人揃って潰し合い
足を引っ張り合ううちに
さらなる高みに昇れるさ 昇れるさ 昇れるさ(ゲッチュウ!)
はぐれても超天才 わしらこそチーフテン! 人類の希望
はぐれてもう最高 わしらこそチーフテン! 人類の夢
はぐれてもう最高 わしらこそチーフテン! 人類の夢
「チーフテン!!」
発射ボタンは押された。
地球のどことも知れぬ秘密基地から、ネクソニウム爆弾“断罪X”は飛び立った。その気になれば一瞬で何十
万という命を奪う空恐ろしい破壊兵器にしては、そのボタンはひどく軽く、大量死を運んでゆく飛翔も静かなも
のだった。
その姿を捕捉した映像はない。
レーダーの上だけを、ぴかぴかと破壊神が飛んでゆく。
その現実感のなさが、かえって不気味だった。
「何てことをッ!!」
車椅子を押してコンソールに向かう龍聖寺院光を見て、ギゼン・シャシェフスキは冷笑した。
「貴様らァ……!! 車椅子の上でなければ、胸ぐら掴み上げているところだぞ!!」
龍聖寺院光にとっては一生の不覚である。いや、そんな言葉で片付けるにはあまりにマヌケ過ぎた。
あれだけ苦労して、ほんの少しの気の緩みから、みすみすボタンを押させてしまうなんて!
(クソみたいな組織の一員とは私のことだ……!!)
「無駄だ。既に命令は達し、矢は放たれた。人工知能の判断で一番いいタイミングで作動するまで、いかなる操
作も受け付けない。ロボヶ丘の浄化を、誰にも止めることはできないのだ」
「ただでさえ、大隕石落下並みのその衝撃力は、一大都市を抉りクレーターを作る」
「とびっきりでかいのをだ」
「その余波を受けては、いかに真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネの防御システムでもただでは済むまい」
「特にパイロットは耐えられまい。死ぬかも」
「後にはぺんぺん草も生えない」
事前に練習していたとしか思えない交代の台詞で絶望を積み上げていく、老獪なるギゼン・シャシェフスキ議
長と怒れるパン・ギフン! E自警団きっての最凶コンビネーションの前には、龍聖寺院光も為す術なし!
「――おのれッ!!」
歯ぎしりをしながら、龍聖寺院光はコンソール備え付けの通信機をがっと掴んだ。
「聴こえるか、聴こえるな、田所カッコマン!」
もはや未来都市ロボヶ丘の壊滅は、一般市民たちの犠牲は、避けられないというのだろうか?
君こそが最後の希望だ、田所カッコマン! いや、理想の戦士ボルカッコマン!!
悪の巨大頭脳ドクトルポイズンの推測した通りに、ほんとうは“当て”があるのか!? 教えてくれドン・ヨ
コシマ!!
孫娘の危機だぞ!! そろそろ何かしろ、悪の天才・悪山悪男!!
いや、それとも貴様らにどうにかできるのか、シロガネ四天王!!
もうお前が責任取れ、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ!!
発射ボタンは押された。
地球のどことも知れぬ秘密基地から、ネクソニウム爆弾“断罪X”は飛び立った。その気になれば一瞬で何十
万という命を奪う空恐ろしい破壊兵器にしては、そのボタンはひどく軽く、大量死を運んでゆく飛翔も静かなも
のだった。
その姿を捕捉した映像はない。
レーダーの上だけを、ぴかぴかと破壊神が飛んでゆく。
その現実感のなさが、かえって不気味だった。
「何てことをッ!!」
車椅子を押してコンソールに向かう龍聖寺院光を見て、ギゼン・シャシェフスキは冷笑した。
「貴様らァ……!! 車椅子の上でなければ、胸ぐら掴み上げているところだぞ!!」
龍聖寺院光にとっては一生の不覚である。いや、そんな言葉で片付けるにはあまりにマヌケ過ぎた。
あれだけ苦労して、ほんの少しの気の緩みから、みすみすボタンを押させてしまうなんて!
(クソみたいな組織の一員とは私のことだ……!!)
「無駄だ。既に命令は達し、矢は放たれた。人工知能の判断で一番いいタイミングで作動するまで、いかなる操
作も受け付けない。ロボヶ丘の浄化を、誰にも止めることはできないのだ」
「ただでさえ、大隕石落下並みのその衝撃力は、一大都市を抉りクレーターを作る」
「とびっきりでかいのをだ」
「その余波を受けては、いかに真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネの防御システムでもただでは済むまい」
「特にパイロットは耐えられまい。死ぬかも」
「後にはぺんぺん草も生えない」
事前に練習していたとしか思えない交代の台詞で絶望を積み上げていく、老獪なるギゼン・シャシェフスキ議
長と怒れるパン・ギフン! E自警団きっての最凶コンビネーションの前には、龍聖寺院光も為す術なし!
「――おのれッ!!」
歯ぎしりをしながら、龍聖寺院光はコンソール備え付けの通信機をがっと掴んだ。
「聴こえるか、聴こえるな、田所カッコマン!」
もはや未来都市ロボヶ丘の壊滅は、一般市民たちの犠牲は、避けられないというのだろうか?
君こそが最後の希望だ、田所カッコマン! いや、理想の戦士ボルカッコマン!!
悪の巨大頭脳ドクトルポイズンの推測した通りに、ほんとうは“当て”があるのか!? 教えてくれドン・ヨ
コシマ!!
孫娘の危機だぞ!! そろそろ何かしろ、悪の天才・悪山悪男!!
いや、それとも貴様らにどうにかできるのか、シロガネ四天王!!
もうお前が責任取れ、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ!!
第九話につづく
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