創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第9話  咆哮! 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!

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 ※


「博士!!」
 ボルカッコマンは狸寝入りをやめてバッと跳ね起きた。
 取り囲むシロガネ四天王が色めき立つが、そんなものに構ってはいられない!
 死ぬはずがないという確信があっても、親愛なるはぐれ研究員・龍聖寺院光の生存が確認できたのは、やはり
喜ばしいことだった。
 俺たち正義の味方はまだやれる! そういう気分にさせてくれる吉報だった。
『……むッ? どうやらこの通信は何故か一方通行になっているようだが、まァいい、聞こえているものと信じ
て話すぞ!』
 龍聖寺院光はまくしたてるように言った。余裕のない口調から、状況の逼迫具合は、ボルカッコマンにも明ら
かだった。
『E自警団の無能上層部が、ロボヶ丘に向けてネクソニウム爆弾、“断罪X”を発射した!』
「何ですって!?」
 カッコマンスーツのライブラリで閲覧したことがある。
 一〇〇万ポンドもの超大型爆弾。一ポンドが分からない田所正男だが、桁数の多さからその凄まじさを直感で
きる。ちなみに、一ポンドは四五三.六グラムくらいであるから、これを一〇〇万倍して……
 ……。
 ……あとは自分で計算してくれ!!
『ネクソンシロガネを倒すためだが、このままでは一般市民も……巻き添えだッ!! 余波はそれほど大したこ
とないが、効力半径が十万フィートというお化け爆弾!! 優にそこらの都市圏を平らげる範囲だ!!」
「すみません、メートル法でお願いしますッ!」
『後にはぺんぺん草も生えない!!』
 ……ボルカッコマンからの声はやはりまったく届いていない。換算すればざっと半径三〇キロメートル以上に
なるが、彼にそれを知る術はなかった。
「実を言うと、先ほどから感じていた。……“断罪X”……!? この無機質な殺意の正体はそれかッ!」
「ムキッ!?」
「死ぬほどカンケーないから。ちょっと黙ってスクワットでもしてろマジで」
 筋肉用語に過敏に反応する剛力無双ロボ・シロガネマッスルの胸板を、神速飛翔ロボ・シロガネソニックの白
銀の翼が叩く。さすが、ツッコミにおいても四天王いちのスピードッ!
「……聞いた?」
「“断罪X”。噂に聞いたことがある」
 龍聖寺院光との会話の内容は、切り裂きジャンヌやスナイパーガマンにも筒抜けだった。手に入れたばかりで
ボルカッコマンスーツの各種設定の調整にまでは手が回っていないのだ。おちおち浮気相手と約束を取り付ける
ことも出来ない(アメリカンジョーク)。
「……まずいんじゃねーの? コレ」
「まずい」
 死に神に狙われていると知って、しかしスナイパーガマンは憎たらしいほど冷静だった。このシロガネ四天王
のリーダー格と目される男は、舌もそれなりには回すが頭はそれ以上に回している。

「――合体してネクソンシロガネバリアだ」

 シロガネ四天王の四人の中には、序列や命令系統というものが存在しない。雇い主の意向にそれぞれが従い、
好き勝手に暴れているだけだ。
 ただし、スナイパーガマンが、滅多にしない四天王としての“決断”を下した時、そこには一定の発言力が生
まれる。
「ちぇッ、シロガネソニックだけならまだ間に合うけどな! 付き合ってやるよ」
「素直じゃないんだから」
「ふむ。安全策を採るということは、有事に備えて筋肉を鍛えておくことにも似ているね。当然私に、……異論
はないッ」
 ワンフォアオール? オールフォアワン?
 シロガネ四天王にそんな概念はない。色も形も大きさも香りも、まるで粒の揃っていない花束だ。しかしどれ
ほど利己的でばらばらのままでも、束ねられることで意図せずに隣を引き立て、また新たな香りを生み出すこと
もある。
「いち」
「にの」
「さんッ」
「今こそ、シロガネ四体合体ッ!!」
 シロガネ四天王が口々に叫び、真なる最強無敵となるためのフォーメーションを組んだ。
 悪神の加護のように電磁竜巻が吹き荒れる。
 こうなってはもはや完成まで何者にも手は出せるまいが、ボルカッコマンはこうなる前にも動こうとはせず、
むざむざと合体の実行を見逃した。
 それどころではなかったのだ。
 活発に動き始めようとも、シロガネ四天王は後回しだ。いつか必ず倒さなくてはならないが、時間制限がない
分最優先事項からは落ちる。
(――奴らには合体でもさせておけばいい)
 V字形バイザー越しのボルカッコマンの視線は、そうやってより強大な姿に生まれ変わろうとするシロガネ四
天王をはるか飛び越え、空の彼方のくろぐろとした異様な物を睨み付けていた。
 鷹の眼よりも鋭いボルカッコマン・アイが何かを捉えた。
 致死性のウィルスのモデルのような、不気味な“何か”――
 まっすぐ、こちらに向かって来ている! シロガネ四天王“以外”には目もくれず、あくまでもプログラム通
りに正常に、それは風を切って巡航する。客室と貨物室いっぱいに“死”を抱えこんで近づいて来る!
 もう距離が……、
 時間がないッ!!
『――止めてくれ、田所カッコマン!!』
 ブツッ。もとよりかすかなノイズが混じっていた通信が、そこで一方的に途絶えた。
「止めてくれ、か――」
 空飛ぶ巨大爆弾を、最強無敵ロボもなしに? また、無理難題を言ってくれる……ッ!!
 だが、さすがははぐれ研究員・龍聖寺院光だ!
 田所カッコマンの戦友だ!
「そうまで言われては――俄然、何とかする気になって来たッ!!」
 何故なら、彼は生まれながらのヒーローだから!! カッコマンだから!!
「断罪Xを――」
 ボルカッコマンの足下のアスファルトがめくれ上がり、小片を散らして爆ぜる!
 全力疾走。
 地を蹴って、地を蹴って、背面及び足裏の推進システムを吹かし、シロガネ四天王が合体時に展開する電磁竜
巻からスイングバイの要領で力をもらってさらに加速、一気に空へと駆け上がる!
「――迎え撃つッ!!」
 急速に勢力を弱めつつある電磁竜巻の奥から、夕陽色の眼が去りゆくその背中を見送る。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネのネクソンクロガネパンチをも跳ね返す人工嵐を繭として、銀の鱗粉を持つ
嫦娥の化身がその羽化の時を迎えたのだ。

 ――真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ

 男ぶりのよい偉丈夫のような体格をした、白亜の超超級巨大ロボットである。最強無敵ロボ・ネクソンクロガ
ネを葬り去った、ネクソンタイプの最高峰。そんなものが悪の手にあることの恐ろしさは、今のロボヶ丘の惨状
が物語っている。
 冷たい斜陽の光を宿した眼差しに、立ち向かう者の無力を嘲笑う覆面。緩く捩じれた四本の角は、天を悩ませ
る棘となって伸びる。
 さしずめ、“白面の悪鬼”。
 御伽話の鬼は、美しい女に化けることも珍しくない。真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネもまた、美麗さと凄
絶さ、どちらの印象でも語られる稀有な機体と言えた。
 合体して四人分の広さになったコックピットに、生身のシロガネ四天王が集結する。
「あいつ……」
 カッコマンエビルは殊更に強い語気で、吐き捨てるように言った。
「……必死こいててダッセ!!」
「ヒーローとは、間違ったトレーニングで取り返しのつかないことになる筋肉にも似ている。もし、あの男がこ
ちらの陣営に生まれていれば、この私がそうはさせなかったものを。……惜しい筋肉をなくした」
「ひとりなら逃げ切れたかもしれないのに。……馬鹿な子」
 切り裂きジャンヌの毒のように赤い唇に浮かぶのは嘲弄ではなく、その言葉はどこか哀悼を捧げているようで
もあった。
「……」
 スナイパーガマンもまた、黙礼するように無言で引き金から人差し指を外す。
 情け無用のシロガネ四天王であっても、正義のためにとひたすら自分を切り崩していくボルカッコマンの姿に
は、何か感じるものがあったかもしれない。
「死にゆく筋肉に……敬礼ッ」
 ……しかし、だからといって、滂沱と涙するニック・W・キムに倣う四天王はいなかった。



 ※


「お前は……悪魔のような女だな」
 老獪なるギゼン・シャシェフスキの声には、軽蔑の色があった。
「カッコマンスーツはパイロットスーツであって、バトルスーツではない。……この意味が分かるな? カッコ
マンはロボと組んで初めて真価を発揮するのだ」
「……」
 沈黙した通信機をコンソールに戻す龍聖寺院光は、うつむいたままだった。
「ましてあんな偽物のスーツだけでやっとこ戦っていた田所正男に。あまつさえ『“断罪X”を止めてくれ』と
来た。どうやれというんだ。E自警団はもう、お前らなんぞにロボを預けたりせんぞ?」
「ワルサシンジケートと裏取引でもして、歌って踊れるスクラップのひとつでも貰ってんじゃねーの?」
 人を食った孫紅龍がにやにやと笑う。そんなことが出来るわけがない。ここにお前の居場所はもうないと言い
たいのである。
「生還を喜ぶでもなく、労わるでも労うでもなく、ロボを出してやるわけでもなく、ただ偉そうに死地に送りこ
むとは、人の心がないんじゃないか? ……なあ、みんな?」
 嘲笑うジョージ・O・トナーの言葉に、静かな賛同が集まる。良識ある若きアブドゥルアジズも、孤高の女は
ぐれ研究員を心配げに見ていた。
 龍聖寺院光が口を開いた。
「……貴様たちには分からんのだ。私と田所カッコマンの間にあるものが」
 激発するのを抑えているような声だった。
「それって絆とか信頼とか?」
 人を食ったという男が刺々しく食いついた。
「ハイ出マシター!! ……そういうのはさあ、ちゃんとロボを用意してやれるとか、そういうのないと、説得
力がないよ」
「そうそう、やることやってからじゃないとね」
 つぶやくブランカが付け加える。
 ぐうの音も出ない正論ではある。
 それでも龍聖寺院光は怯まない。
「絆? 信頼だと? それは単なる副産物に過ぎない」
 揚げ足を取るように言い切って、女はぐれ研究員は顔を上げた。

「“正義の魂”。私たちがやらねば誰がやるという意志のみが、我々を引き合わせる!」

 世間の人々がはぐれ研究員を見るような目で、はぐれ研究員たちは龍聖寺院光を見る。
 その言葉の意味するところをまともに推察しようとした者が、ひとりだけいた。円卓の上に置かれた、古めか
しいロボットの姿をしたブリキの玩具――。
 内蔵のカメラとマイクを通して、会議の成り行きを見守る人物である。
 E自警団十大技師長第六位、サボるホセ・イシュー・ジンコ!
 サボるためだけにたまには働きもするという男である。
 彼は考える。
 龍聖寺院光は、正義の魂だの意志だの、そんなわけのわからないものによって田所正男と巡り合ったと主張し
ているわけだが、彼女の中では“それ”は今でも有効なのだろうか?
 ということは、同じ運命が“まだ見ぬ何者か”との間にもあると信じているというのか?
 あの最強無敵ロボに列なる超超級のスーパーロボットがやって来るに違いないというのか。
 ……馬鹿馬鹿しい。
 それこそ何の根拠もないはずだ。相変わらずピントがズレていて、ちゃんとした反論にもなっていない。誰も
が、怪しげな宗教に頭をやられたかのような、彼女のいつもの汗臭い精神論だと思っていたし、事実それを否定
しきれない面はある。
 だいいち、現存するネクソンタイプのある場所は全て把握済みだ。密かに援軍の約束を取り付けられたとして
も、断罪X発動には物理的に間に合わない。
 もし断罪Xや真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネに対抗できる切り札がまだあるとすれば、ドン・ヨコシマの
ような怪物クラスの“狂博士”が手掛けた悪の機体くらいのものだろう。そういったオーバーテクノロジーの産
物について、実態や動向は十大技師長の地位にあっても知りようがないが、その絶対数は世界で五体に満たない
と言われていた。そもそも悪が正義に荷担するなどということがそうそうあるとも思えない。
 田所カッコマンに手を差し伸べるものは、ないのだ。
 しかし、ホセ・イシュー・ジンコには、女はぐれ研究員の口から飛び出したその言葉が、あたかもこれから起
きることの“予言”であるかのように聞こえていた。



 ※


 ドン・ヨコシマが連れて来た黒雲の下、大気を引き裂いてボルカッコマンが翔る。
 幾らも飛ばぬうちに、空の彼方に黒い点が現れる。ここまで来れば常人にも肉眼でも見ることが出来よう。
 それはみるみる大きくなり、その圧倒的な存在感を比例的に増していく。
(あれがそうか……!)
 あれがネクソニウム爆弾“断罪X”か。
 ボルカッコマンは戦意に薪をくべた。
(みんなの命を奪おうって物か!)

 恐ろしく巨大な黒い卵――

 全長およそ三〇メートル、速度は明らかに超音速に達している。当然、ボルカッコマンよりよほど、大きく、
重く、そして速い!
 そこから孵化するのは、死と破壊、そう、それは地獄そのものだ。灼熱と光線と、断末魔の悲鳴を吹き飛ばす
音と、形ある物のことごとくをまるでなかったようにしてしまう爆轟。
 スラスター噴射の制御装置を駆使して軸線を合わせ、真正面からぶつかる。
「――がッ!!」
 “ぶれ”た。
 跳ね上がる心臓。
 どうしてか自己の存在の確かさすら揺らぐような暴力的な衝撃に、気が遠くなるような喪失感と堪え難い嘔吐
感をすら催す。
 エンジンを破壊したいが、そう出来るだけの余裕がまるでない! 下手に後ろに回れば、この最大速度の差、
一瞬で振り切られて終わりだろう。
 しかし、このまま馬鹿正直に前から押し続けたところで結果は見えている。
 どうする!?
 考えている時間すら、もうない!



 ※


「お、おい。あれ、何だ……?」
「ミサイルか?」
 一般市民たちも異変に気づいた。着弾まであと何十秒もないだろう。
「ボルカッコマンが血相変えて飛んでいったぞ!?」
「まだロボ出さねえ気か! もったいぶってる場合かよ!」
「最強無敵ロボ・ネクソンクロガネはもうないんだよ! ニュースでやってただろう!?」
「……ダメだ!! 速度落ちない!!」
「逃げよう!」
「逃げるって……どこへ……?」
 未来都市ロボヶ丘に絶望が蔓延していく。
 正義の味方が帰還した、その矢先の出来事でもある。心が折れるのも無理からぬこと。
 押し潰されそうな不安に落ち着きをなくしていく人々の中で、悪山エリスは果敢にも飛び立った少年と、祖父
のことだけを考えていた。
「がんばれ」
 口ずさむような応援を聴いていた者は、その場には誰もいなかった。
 誰もいなかったはずである。



 ※


 ネクソニウム爆弾“断罪X”はボルカッコマンなど物ともせずに進む。未来都市を、真最強無敵ロボ・ネクソ
ンシロガネを目指す。
 生きとし生けるもの、ありとあらゆるもの、その存在を否定する者。
 断罪Xは今や無慈悲なる神にも似ていた。
 押し返しても押し返しても、後から後から押し寄せるような、超重超速、つまり超巨大物理量。ボルカッコマ
ンから見れば、暴風雨の夜に荒れ狂う長大な大河を逆行しようとしている感覚である。
「ボるああああああああああああああああッ!!」
 瞬間最大的な筋力と勇気を数時間単位で連続的に発動できる田所正男とボルカッコマンスーツと言えども、こ
こまで莫大な運動エネルギーを相殺など出来ない。
 あるいは、この都市に最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ級のスーパーロボットがいれば、まだどうにか出来た
かもしれないが、その力を持っていそうな悪の真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネは、ひとりだけ助かろうとバ
リアなど展開して完全な防御態勢。
 最大の悪を自負するヨコシマにも、メカ恐竜を保有する狂博士悪山悪男にも、動きはない。
 ボルカッコマンを助ける者はないのか。
 共に断罪Xに手を添えて、わずかでも力を加えてくれる者は、この世界のどこにもいないのか?
 いないのだろう。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは死んだ――
 悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンが言及した、オリジナルネクソンなるものの眠りは深く――
 どんなに勇気ある一般市民がいたとしても、人は空を飛べない――

 ――止まれ
 ――止まれ!
 ――止まれッ!

 一心に念じながら、ボルカッコマンは拳だけでなく全身を使って果敢にもゼロ距離ボルカッコ三倍拳。シロガ
ネ四天王との戦いでは出せなかった密着状態からの攻撃は、この期に及んでもボルカッコマンが成長しているこ
とを意味している。しかし足りない。それすらも押し退けられ、黄金の指がひしゃげる。

 ついに審判の時が来た。

「止まれええええッ!!」
 命を擲った少年の孤独な戦いも報われることはなく、
「おじいちゃんっ!!」
 空を飛べない少女の悲痛な願いも届くことはなく、
 鏖殺こそが浄化ぞと、天の声を騙る断罪者はけたたましく嗤いさえしながら、

“墜ちた”。



 ※


 ――
 ――
 ――

 何も――
 何も聴こえません。

 死んだからでしょうか。
 耳を破壊されたからかもしれません。

 どうか音をくださいと、願う者のひとりすら、そこにはいなくて。

 わたしの思い出の街のぜんぶはあの黒い爆弾に破壊されてしまって、みんなもあの光の中にとけて死んでしま
ったのでしょうか?
 どうやらそうらしいと思われるのです。

 だって、ここはあまりに静かでした。
 ほんの笑顔を見せるものも、わずかばかりの感情をぶつけるものもない。
 あんまり閑かな、まるで死んでしまったかのような世界。

 ここはかつてロボヶ丘と呼ばれた街。寂滅の未来都市。

 草原を渡る旅人にも世界はただ無関心に沈黙し、鳥や虫たちすら今さら愛を語らいはしないのでしょう。音と
いう音が、声という声が、長き擾乱に疲れ果てて眠りに落ちたように。

 それは地獄のようであり、
 同時に天国のようでもあります。

 最後に機械仕掛けの神を気取る者は白々しく黙祷を捧げ、祈りはおよそ永劫の静寂。
 もはや、そこに響くものなど――――



 ――――――――――――――――――――――――――――――――ドゥビッ




 ※


「……ン……」
 悪山エリスは瞼を開く。視界の端に、強風に靡く金の髪。
 生きている?
 誰もが無事で、息をしている。これは嘘か、夢か。人びとは信じられないと周囲を見渡していた。
 断罪Xは――“発動しなかった”。
 まさかの不発か。万が一の確率で起こった奇跡の故障だとでもいうのか?
 しかし墜ちはしたはずだ。
 製造したE自警団の公式資料によれば、断罪Xは全長一二〇〇インチ(三〇メートル超)、直径はそのほぼ半
分であり、重量は一〇〇万ポンドに及ぶ。
 ロボヶ丘住人に馴染みある単位に換算すれば、四五〇トンを上回る重さである。剛力無双ロボ・シロガネマッ
スルの重量がおよそ四七〇トンで最も近い。
 そんなもの、自由落下だけでも、果たしてどのような破壊的現象を発生せしめることだろうか。まして断罪X
は超音速で目標を目掛けて空を飛ぶというのに。
 ネクソニウム爆弾“断罪X”は未来都市のロボヶ丘の市街地に立っている。コロンブスの卵。黒い卵。中には
地獄が詰まっているはずだ。
 やはりそれは、“落下”していたのだ。
 ならば、そんなことはありえない。ありえないはずだ!
 一〇〇万ポンド、超音速の、空飛ぶ爆弾。

 ――それは空の高みから降臨する巨大質量

 なのに、衝撃はなく、爆発も、轟音さえもない――?
 シロガネ四天王でカッコマンエビルだけがぎくりとした。
「それじゃあまるで“奴”のようじゃないか! そんな神業を鼻歌混じりにやっていた奴を、このカッコマンエ
ビルは知っている!? だけどそれはバカな!!」
「その“バカな”さ――」


 ――着地は、
 ――やわらかい!


 断罪Xが崩壊してゆく!
 月の裏側が見えないように悪山エリスからは分からなかったが、断罪Xはいつの間にか食い破られ、機能の全
てを奪われていたのだ。
 三〇メートルの断罪Xの不安の影が消え去った時!
 奇しくも黒い卵から孵るように、超超級のスーパーロボットが全貌を顕す!

 ――それは、ただいるだけで一帯を圧す巨大物理力を秘めている。

「――さ」
 見上げる一般市民が、罅割れた唇を動かす。
 彼らは知っているのだ。これがきっと冠するべき偉大な称号を。この黒いスーパーロボットが、一体、何とい
う名で呼ばれるべき存在であるのかを。

 敗れながらにして最も強いと自ら断じ、敵に囲まれながら敵は無いと自ら宣う。

 名実共に“真なる最強無敵のネクソンタイプ”であるはずの邪悪の白き巨人を前にしても、欠片も臆すること
なく、当然のようにそう名乗るだろう。
 何故ならば、それは“嘘”ではないからだ。
 正義として己に課した誓いであり、味方として他者に見せるべき理想だからだ。
 この人びとの絶体絶命の危機にも、やはり帰って来て、悪と戦って必ず勝つことで、それを証明してみせよう
というのだ。
 だから、嘘っぱちじゃないかと笑う者は、未来都市にはひとりもいない。
「お帰りなさい」
 ちいさな悪の女の子が微笑んで、この正義の魂を最初に迎えた。

 ――それは、かつて最強を謳ったスーパーロボットなのか?
 ――お前は、かつて無敵と称したスーパーロボットなのか?

「そんなはずはない! あいつは死んだはずだ、俺たちが殺したんじゃないか! ネクソンシロガネクラッシャ
ーでばらばらにしてやった! そうだろう!?」
 らしくもなく、カッコマンエビルが、普段の人を小馬鹿にしたような洒落っ気をかなぐり捨てて叫ぶ。この悪
夢のような光景を振り切りたいのだ。他の四天王は何も言わないが、気持ちは同じだった。
 そうだ。
 生きているわけがない。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは確かに死んだのだ。ならばこれは何だ!?
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの面影を持つ、厳つい顔したお前は誰だ!?


「イッツァ……イッツァ……敵ながら、イッツァミラクルッ!!」
 魔窟Mk-Ⅱ最深部で、イッツァ・ミラクルがスタンディングオベーション。
「――なん……ですか、あれは……」
 配下のレディ・ビジョンは、震える膝をぴしゃりと叩きあくまでも気丈に振る舞うが、今にも崩れ落ちそうな
具合だった。聡明な彼女には理解できるのだ。その機体の真の恐ろしさが。
「いいえ、レディ。ワタクシには分かりますよ。ええ! 多少姿形を変えようとも、ね。あれはただの正義の味
方です。またワタクシたちの前に立ちはだかろうというのでしょう」
 危険なかほりのする男が、にぃ――と嗤った。
「もちろん受けて立ちますとも! 何度だって掛かっていらっしゃい! 我ら不滅の悪が、何度でも返り討ちに
して差し上げましょう!」


 ――実際には漆黒に到底及ばぬ黒鉄の色に過ぎないが、その巨大さ、その重重量、そしていかなる困難にも屈
することのない正義の意志のために、比較対象に何を持ち出そうとも黒い! 黒いとしか言いようがない!
 ――五体の各所をささやかに装飾する、黄金に縁取られた鱗状の紋様は、伝説にいう龍の逆鱗。すなわち全身
これ逆鱗なり。


 空中戦艦ケンケンゴー号、円卓の会議室。
 上級はぐれ研究員たちが食い入るように中継映像を注視する中、ギゼン・シャシェフスキだけがその衰えた拳
をわななかせていた。
「世界最高のはぐれ研究員だぞ? E自警団十大技師長第一位で、大変に偉い議長閣下の、老獪なるギゼン・シ
ャシェフスキなのだぞ? それを貴様……おふざけでないよ? “ワシの知らないネクソンタイプ”だと?」
 恥も外聞もなく、地団太すら踏んで、ギゼン・シャシェフスキは怒鳴り散らす。
「ニセ・カッコマンが現れたと思ったら、すかさずニセ・ネクソンタイプ! ニセ! ニセニセニセ! みんな
偽物だ! 騙される奴は阿呆! 偽物なのに……劣化粗悪品の分際で……見てくれだけのハリボテのくせにッ、
ワシの傑作“断罪X”まで台無しにしゃららしくさらしやがってエエエエッ!!」
 癇癪を起こした老人に憐れみの眼差しを送っていた龍聖寺院光だったが、ふっとこれまでの積年のわだかまり
がみんなほどけていったかのように、不思議に晴れやかな顔になった。
 なんだか、そうして気に食わない相手を殊更意識して腹を立てたり、ある種の優越感のようなものを覚えてい
ることが、どうにも馬鹿らしく思えてならなかったのだ。
「田所正男は頑張り屋だからな。その姿を見ていて、たまには力を貸してくれる者もいるってことさ」
 訳知り顔で言って、改めて新たなる戦友の勇姿を眺める。
 なるほど、見たことのない機体だった。
 見れば見るほどあれとは別物でありながら、しかし、それでいて確信を持って同じ精神を骨子として立つ機体
であると分かる。
「君が受け継いでくれるのか? 私が造った勧善懲悪の体現者たるの証し、堕ちて尚輝かしきあの称号を。その
覚悟があるのなら、この龍聖寺院光もこう呼ぼう――」


 下瞼から顎先までは、極端に意匠化された暴君竜の上下顎に覆われていた。
 ずんぐりとふてぶてしい頭頂高三〇メートル級の巨躯は、崩落しゆく摩天楼の中でひどく窮屈げに見える。わ
ずかに前傾した姿勢には、何をしでかすか分からない型破りな恐ろしさがあった。
 もし背後から見る者あらば、背嚢のように折り畳まれていた巨大な“尾”が傾き、どうと大地に横たえられた
ことを知るだろう。そう、この機体ならば尾を持っていたとて不思議はない。旱魃の荒野のようにささくれだっ
た、エッジの潰れた円筒型の機関がそれだ!


「それがお前の選択か」
 地下ドックにて、悪山悪男がプテラノドローンからの映像を睨み付ける。
 悪の天才から見ても、この出会い、魂が引き寄せ合ったとしか思われない!
「それにしても、究極の正義と究極の悪、二つの究極形が、ぴったり同時刻に完成するとはな。面白いこともあ
ったもんじゃ」
 悪山悪男の至近距離に、巨大な何かがくつろぐように寝そべっている。創造主であるはずの稀代の狂博士を前
にして何たる不遜、何たる傲慢か。
 しかし、この機体にだけは許される。
 それは“顎門”だ。鉄の規律に支配された軍隊のように口中に牙を整列させる暴君の貌。王者の威厳さえ湛え
たその眼が、銀幕の中に立つものを捕獲する。これはあながち捕捉の誤りでもない、この機体が何かを見るとい
うことは、そうすることに等しいのだ。
 そう遠くないであろう激戦の予感に、悪の天才・悪山悪男、呵呵大笑す。
「ようく見ておけ、“暴帝・ダイノスワルイド”。あれが儂らの相手じゃ……ッ!!」


「なるほど――」
 迎え入れられたコックピットの中で、ボルカッコマンはそれと魂のレベルで連動する。
 断罪X発動の3秒前――
 その黒い卵殻に添えられた、さらに黒い掌があった。
 田所正男はこれを知っている。右腕だけならば見覚えがあるのだ。機械駆動の黒き鉄腕。爬虫類の鱗が煌め
く肌に悪魔の爪牙のような指。
 試練の丘では戦いすらした。
 ドン・ヨコシマが開いた異界の門から、片腕だけを伸ばした謎の機体。今度は自らの意志で空間を抉じ開けて
馳せ参じ、全身を白日の下に晒したのだ。
「――これが“お前”の真の姿かッ!!」
 バシャッ!
 小気味よく展開する“瞼”の下は、夜行性の爬虫類のように縦長に収縮する、長円瞳孔の鈍い輝き。
 静かに怒れる眼差しは、今、力を持ちながら浅ましくも自分たちだけ助かろうとした真最強無敵ロボ・ネクソ
ンシロガネを見ている!
 真に最強無敵を称する資格がお前にあるかと問い掛ける目だ!
 シロガネ四天王が、あの真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネが、その視線にじりと後退さる。邪悪としての本
能が金切り声で叫ぶのだ。“これはまずい”、“これは強い”、“これはいけない”、“これは悪なるもの全て
を破壊してしまう”!

 ――カメラの眼には、悪の心胆を寒からしめる凄み

 かくて今またその代名詞の全てが揃い、荒廃の未来都市を伝説の雷名が走り抜ける!


「反則だぞ、ヨコシマ!!」
 悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンも叫んだ。
「ずるい! これにはこの悪の巨大頭脳も驚いた! やはり“当て”はあったのだ! しかしオリジナルネクソ
ンなどではなかった! だからといって、さらに頭のおかしい機体を出してくるとは!」
「引き合わせはしてやったが、それだけだ。選んだのはロボ自身ッ!!」
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの正義の魂を受け継ぐ、新世代の超超級スーパーロボット――
 悪の巨大頭脳ドクトルポイズンの予想に反して、それは六五五〇万年前地球に飛来した宇宙人の侵略兵器では
なかった。

 ワルヤマ式メカ恐竜、“原始暴帝”プロト・スワルイドがその正体!

 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの壮絶な戦死を知り、ワルサシンジケートの台頭を危惧した悪の天才・悪山
悪男は、かねてより構想のあった究極悪のメカ恐竜、“暴帝・ダイノスワルイド”の製造に着手した。
 ヨコシマが譲り受け、田所正男とも戦った“原始暴帝”プロト・スワルイドは、その試作機として先行開発さ
れた機体である。
 プロトは“原型”――
 スワルイドは制式採用版に当たるダイノスワルイドの略だが、これは悪の訛りによる発音であり、一般的には
ダイノサウロイド――“恐竜人間”を意味する。
「“原始暴帝”プロト・スワルイドは名前の通り巨大人型のメカ恐竜だが、それはその特異性のほんの一部に過
ぎない」
 一呼吸分の間を置き、ヨコシマは明かした。
「“最強無敵ロボ・ネクソンクロガネをデザインモチーフとした”この機体は、狂博士悪山悪男の発想と技術に
よって本家本元をも凌駕するポテンシャルを秘めた、“ニセ・ネクソンクロガネ”とでも言うべきメカ恐竜の鬼
子でもあるッ!」
 あの悪山悪男が何故そんなことを思いついたのかは余人には知る由もない。好敵手に勝ち逃げされて我慢なら
なかったのかもしれないし、悪のマッドサイエンティストとして一度はやってみたかったというだけのことかも
しれない。
 いずれにせよ、ニセ・ネクソンクロガネはこの世界に確かに存在するのだ。本物の最強無敵ロボ・ネクソンク
ロガネなき現在も、ここに!
 そのニセ・ネクソンクロガネが自らの意思で、孤軍奮闘していたボルカッコマンと手を組んだ。そうして断罪
Xの大量虐殺を押し留め、今や悪の真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネの前に立ちはだかっている。
 これを“正義の味方”と呼ばずして、何と言おう!!
「そう!! 悪の血統に生まれた偽物だろうとも、正義の魂を受け継げば本物ッ!!」
 最後に、最大の悪であるドン・ヨコシマが、
「あるまじくも悪の天才鍛造せし超超級のスーパーロボットめッ!! これよりお前はこう名乗るがいいッ!!
 ――――その名もッッ!!」






 第九話ァッ!!  咆哮っ!! ……“超”ッッ最強無敵ロボッ・ネクソンクロガネッッッ!!!





 ※


『歌え! 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!』

 作詞・作曲・超編曲/海老原カッコウーマン
 歌/ボルカッコマン
 コーラス/ネクソン少年合唱団


 ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
 ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
 ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ!
 ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビ!

 聞かせるさ 巨人の歌!
 その名は[COME ON(カマンッ)!] ネクソンクロガネ!!
 超最強無敵ロボ!
 [MY GOD(マイガッ)!] 腕っぷし自慢で ただ勝つだけかい?(ストロンゲースト…)
 …ダサすぎる! 涙止めるさ!(エネミーウィズン…)
 それこそほんとうの ボルカッコドリーム!(…ドリームドリーム!)

 ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
 ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
 ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ!
 ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビッドゥビー!!

 歌おうぜ! おまえとおれ!
 友情の…[GOOD(グードッ)!] ネクソンクロガネ!
 超最強無敵ロボ ネクソンクロガネ!![THAT’S RIGHT(ザッツライッ)!]



 ※


 ボルカッコマン試験、最終第三の試練――“その機体の冠する称号を証明せよ”

「超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネだとおおおおおおおおおッ!?」
「ぼおおおおるうああああああああああああッ!!」
 ボルカッコマンの獅子吼に呼応して、超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの恐竜の尾がピストン運動、勢いよ
く大地を蹴り出す。直進しか出来ない砲弾のような不器用な速さだが、その爆発的加速力は、先代の最強無敵ロ
ボにはないものだった。
 真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを強襲する、ネクソンクロガネパンチ!
 二大超級ネクソンタイプの激突に、ロボヶ丘が激震!
「私が受ける!」
 ニック・W・キムが他を制し、装甲の厚い胸部を前面に押し出す。ネクソンクロガネパンチがぶつかり、火花
を散らして弾き合う。
「ぬうんッ、デフォルトのバリアだけでは貫通される。私はそれを、身を、筋肉をもって知った!」
「今そういうのいいから!」
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネがその場でぐるりとターン。激突の反動による後退が、片足を軸に前進に
向かうエネルギーとなる。
「脚の操作、寄越しなさい!」
 切り裂きジャンヌが達人の足捌きを披露、旋回する“尾”による打撃の射程からどうにか外れる。
 ――震脚。
 ワルレックス系列のメカ恐竜だけが脚部に内蔵する秘密兵器“進化形アークトメタターサル”がここで本領発
揮。地面に吸い付くも、地面を突き放すも、自由自在だ!
「バリヤー!!」
 不穏な動きに気付いたニック・W・キムが、いち早くネクソンシロガネバリアを展開。
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは一瞬でも敵に背を向ける危険など知ったことではないとその場で回転し
て遠心力を加え、さらに踏み込んでいたのだ。同時に尾が空間を叩き出し、その反作用を推力に変換。
 ただ出鱈目に殴るだけではない、技として昇華された、これが超最強無敵ロボのネクソンクロガネパンチだ。
会心の回避を成功させた直後の、心身ともに浮足立った状態を強攻し、バリアの上から突き刺さる超重量級の鉄
拳。さすがの真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネと言えどもダメージ甚大!
「――ぬぐわッはッ!」
 四天王ニック・W・キムの気合とも悲鳴ともつかぬ謎の声と共に、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネが吹き
飛ぶ。荒っぽい着地でがりがりと舗装道路を削り、ようやく止まる。
「先代よりも、ずいぶん荒々しい戦い方ね」
「グレたんじゃね。正義の味方とかマジでやってられなそうだもん」
「巨熊ならぬ恐竜の皮を被った狂戦士(ベルゼルガ)というわけだ」
「ネクソニウム反応なしッ!? 純然たる筋肉のみで、これだけのことが可能なのかッ。羨ましいぞこの……化
け物めッ!!」
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは、あの真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネを圧倒していた。
 まさかこれほどのものとは――さしものシロガネ四天王も舌を巻く。
「しかし決して“勝てない相手”ではない」
 ニック・W・キムはニカッと笑った。
「超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは強い。いい筋肉してる。しかしネクソンタイプでないなら、その性能に
は限界が存在するはずだ」
「……あれでぇ?」
 カッコマンエビルの疑わしげな声に、ニック・W・キムは腕組みまでして得意気に見解を述べる。
「防御力は超ネクソン白鋼、デフォルトバリア、ネクソンシロガネバリアの揃った我々に分があると見た」
「怪しいものだわ」
「おい操縦桿から手ぇ離すんじゃねーよ」
「……パイロットが四人いるアドバンテージは効いていると思う」
「そうね」
 スナイパーの切り込むような指摘に、切り裂き魔が肯定を返す。
「今の私たちの連携、そんなに悪くないと思うのよ」
 予想だにしていない尾による攻撃にも、ネクソンクロガネパンチにも、ひとりでは反応できなかっただろう。
 あくまで“うまく嵌れば”の話ではあるが、この視野の広さと並列処理は、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガ
ネのような多人数乗りならではの強みである。
「しかし“脳多くして筋肉山に登る”とのことわざもある。役割分担と訓練と声掛けが必要だ。もっと共に汗を
流さねば、……ひとりでに筋肉が連携するようにならねばッ」
「……そういうのは、おいおいやるとしましょう」
 心なしかげんなりと、切り裂きジャンヌは言った。
「大技キメれば関係ないしね」
「――やるか」
 かつて最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを打ち破った、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネの必殺技。
 ネクソンシロガネクラッシャー。
 原子に影響し、その性質を変えてしまう“ネクソニウム”――それを攻撃手段として利用することであらゆる
物質を破砕する。
 行き着く先は、超ネクソン黒鋼すら破断した原子的崩壊。触れる全てを黄金に変えたという古代の王のように
それは絶対の破壊をもたらす!
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネであっても耐えられまい。理論上、耐えられない!!
 のみならず真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネとしてのエネルギー的接続を維持したまま一瞬だけ四体に分離
し、四方向から敵を挟撃する。
 四次元から殺到する、死、死、死、また死!
 逃げ場など、ないッ!!
「それなら……これでどうだッ!!」
 ボルカッコマンが負けじと咆哮した。
 防御できないのなら、断然攻撃あるのみだ。
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネのマスクが、意匠の暴君竜の顎と連動して展開する!
 そこにあったのは、“口”だ。恐竜人間であるという超最強無敵ロボは、夜行性の爬虫類のような目と、フェ
イスガードの下にまるで人間のような鼻筋と唇を持っていた。
 黒い巨体が仰け反り、大きく開かれた口が嵐を巻き起こす勢いで大気を吸い上げる。いや、貪るように体内に
取り込んでいるのは、空気ではない別の何かだ。一帯が真空になるかと思われる凄まじい肺活量。
「必殺ッ!!」
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの口腔から放たれた竜の息吹の正体は、エネルギー飽和状態に導かれた暗
黒物質の帯。
 これが超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの必殺技だ。

 ネクソンクロガネビームだッ!!

「……強い!! 強すぎるッ!!」
 未来都市において暴虐の限りを尽くしたあの真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネすら、バリアもろとも粉砕す
る超破壊力。まさに“超”・最強無敵の称号。
 倒せぬ悪など、この世にない。
「覚えてやがれ、半分トカゲ野郎!」
「カッコマンエビルの筋肉は四天王の中でも最も虚弱」
「お前も負けたんだろ!」
「この屈辱、忘れないわ……」
 シロガネ四天王は、吹き荒れる黒い嵐の中、無念げにその姿を暗ましていった。
「……ここは退こう。だが――」
 スナイパーが退き際に未来都市に残していった一粒の不安の種。そこから悪の華が芽吹く日がいつかまた必ず
やって来るのに違いない!
 しかし、恐れることはない!
 ボルカッコマン!
 そして、超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!
 彼らが、そして我々が、正義の魂をなくしてしまわない限り!



 ※


「超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ! お前はまったく物スゴイ奴だぜ!」
 コックピットのハッチを開き、黒船の甲板めいた肩に出たボルカッコマンは、新たな戦友と目を合わせる。
 これから、ロボヶ丘から悪を一掃する大仕事が待っている。
 しかし、こいつとならやれる!
 不可能などない!
 どんな困難にも、負ける気がしない!
 この日――未来都市ロボヶ丘から、ワルサシンジケートが持ち込んだ悪意が吹き飛ばされ、あるいはほうほう
の体で闇へと還っていった。
 田所正男、龍聖寺院光、超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ、そして悪山エリス――
 長きに渡るこの戦いを終えて、ようやく帰るべき場所に戻ることが出来た彼らのことについては、またいつか
の機会に語ろう。
 こうして、ボルカッコマンと超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネによって、シロガネ四天王と悪の真最強無敵
ロボ・ネクソンシロガネは敗れ去った!
 しかし、またいつ新たな悪がロボヶ丘を狙うか、分かったものではない!

 ――イッツァ・ミラクルの“オリジナルネクソン”!
 ――ドン・ヨコシマの“魔王・ワールドシェイキング”!
 ――悪山悪男の“暴帝・ダイノスワルイド”!

 こいつらは仰々しくロボの名前だけ出しておいて戦わずして終わってくれるような、ちんけな悪者どもではな
いぞ! たぶん!
 そして――
 超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの登場を知り、何やら良からぬことを考えている者たちがいる!!


「超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ……あれが我ら十大技師長のものでないことが、このメッサーリコーはた
だただ悲しゅうございますッ! ……嗚呼ッ!!」
 E自警団十大技師長新第七位として招かれた目つきのおかしな女であるとか。

『“nec‐sonare(響きもせず)――”、……何だったかな? 知らない? 古い詩歌の一節なんだけ
ど、ボクはここ以外は忘れてしまったんだ』
 樹上にて意味ありげな言葉を囀る色白の青年であるとか。

「だからわたしに声掛けてよねっていったのに。負けるなんて……オシャレじゃないなぁ!」
 四天王いちのファッショナブルおよび、その傍らに立つ白銀の豪華絢爛ロボであるとか。

「ツキが向いてきやがった!! あいつを利用すれば、ドンの座はおれのものだ……ッ!!」
 “獣王”の異名をとる、毛むくじゃらのワルサシンジケート最上級エージェントであるとか。

「……」
 大火山灼熱地嶽の中でひとり瞼を開いた“史上最大の怪物”であるとか。


 世界中の変な正義と変な悪が、今、ロボヶ丘に注目しているぞ!!
 来たるべき激戦の最終章に、備えよ理想の戦士ボルカッコマンッ!!
 地球の平和を頼んだぞ、超最強無敵ロボ・ネクソンクロガネッ!!




 最終章につづく!

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