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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

ARTIFACT LEGACIAM 第一話

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sousakurobo

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多分ユウにとって意識を失っていた時間は数分の一秒にも満たない間だったに違いない。
ハッとしたと同時に彼は瞬間的にレバーを捻っていた。
ビシャーン!
それは耳障りで、生理的に不快で、いくつものそうした音達を重ねたような形容し難い音楽だった。そのように聞こえたのだ。
『音を音と認識できてる間はまだ死んでいないッ』
死んでいないということは、まだ生きているってことだ。そう自分を奮い立たせながらユウは次々に飛んでくる熱線をレガシアムの巨体を横飛びに跳ねさせて回避する。
「ユウ、砲撃来るッ! 至近弾ふたあぁつぅ!」
黒猫の姿をしたカイアが耳元で叫ぶ頃にはユウはバリアーをピンポイントで展開させていた。
至近弾の爆発はバリアーで受け止めたものの、強烈な衝撃となってコクピットを揺らす!
体中に衝撃が走る。神経電位接続とかなんとかというシステムの影響で、機体が受けるダメージはユウ自身にも届く。
それはフィルター越しとは言え、当たり前の少年であるユウには耐え難いものだ。
「直撃よりはずっとましだけどッ」
言葉を吐き捨て、ユウはレガシアムが右手に携えたガトリング砲を無照準で乱射する。
もとより撃破を狙っての射撃ではない。E&Eの体表は強固な装甲でもあったし、その前面には強力なバリアフィールドが張られてもいる。
「よっしゃっ!」
カイアが喝采をあげる。牽制の為のガトリング乱射はE&E(ダブルイー)の体勢を大きく崩すことに成功していた。
いくらか着弾すれば儲けモノ程度でばら撒いたそれが当たりに当たり、体勢を崩してくれもしたのだから大もうけと言ってもいい。
だが、
「これ以上は銃なんて撃てない……」
いまはまだ郊外での戦闘だからまだいい。だが、戦闘空域は次第に市街地へと迫っている。
「これ以上は街に被害が出ちゃうんだよ!」
山が潰れ、川が踏み壊された。このままでは街までもが燃やされてしまう、その恐怖!
街に被害が及べば家も学校も、家族も友人も死んでしまうかもしれない。それはユウにとって恐怖以外のなにものでもなかったのだ。
「一気に決めるしかない!」
「ユウ、それは危険なことなんだよ?」
「それでも」
「やるしかないなら」
「やってみるさ!」
叫ぶと同時にユウはペダルを踏み込む。
ブーストオン。レガシアム背部のコーン状の推進器が光を発するとともに爆発的な加速がレガシアムを一直線に飛翔させる!
体勢を整え終わったE&Eがあの破壊の熱線を発する腕部をこちらに向ける!
「や、ら、せ、る、も、ん、か、ッ、!」
緊急加速にも似たその爆発的な急加速はレガシアムのコクピットシステムでも減殺しきれるものではなかった。
シートに沈み込む──というよりムリに押さえつけられているような状態のユウの声は喉を絞められた鶏にような奇妙な声色になる。

レガシアムはブンっと手に携えていたガトリング砲をE&Eに向かって放り投げる。それは見事にE&Eの構えた腕部に命中してくれた。
暴発した熱線がガトリング砲と共に自らの腕さえも爆発の中に弾けさせた。
そして、ユウはレガシアムの両の手にバリアーのエネルギーを収束させる。
1000、2000とあった距離が埋まるのに必要だった時間は正に瞬きする間もないくらいの一瞬だった。
ギギギギイィィィィィンン……。
衝撃がレガシアムを襲う、だけど次に拳に感じた衝撃はさらにその何倍も鈍く、熱い代物だった。
「ユウ、真芯を捉えた!」
「オオオオアアアァァァァッッッ!!!!!」
少年の咆哮と共にレガシアムはE&Eのフィールドを破った。その光を纏った拳は生物とも無機物──金属とも定まらない不可思議な“表皮”を突き破る!
その拳が、真芯を捉えた!
「フィールドッ──」
「──全開イィィッッ!」
E&Eの真芯まで届いたレガシアムの両の拳。その拳が纏ったバリアーフィールドが急速に膨張する!
通常兵器には強固な盾として機能するバリアーも、強靭な装甲も、内部からの攻撃には無意味だった。
「目標、爆散しました。エネルギー反応0、消滅を確認! レガシアムは健在ですっ」
長門通信士のその宣言は司令室の中に安堵の吐息の連鎖を生み出したのだった。
「よろしい。状況をイエローに移行。関係各所への連絡を行ってくれ」
大和孝和の落ち着いた声にもやはりホっとした色は表れている。クスリと笑って、今だにティーンエイジャーの癖の抜け切らない長門通信士は「了解です」と連絡作業に入った。
「今回もなんとかしのげたか」
確かにホッとはした。したけれども部下たちのようには安堵の気持ちに浸れない大和だった。
『敵の侵攻は明らかにその間隔を狭めている。今回はしのげた──これまでもしのげた。だがこれからは?』
連邦評議会の反応は鈍い。まして実際に侵攻の標的となってるはずの日本政府の動きはさらに鈍かった。
それを思うと気楽にはしゃげない気分の大和なのだ。
「それに、結局今回も優作君に頼る……丸投げしちまう結果になっちまったもんなぁ」
指揮卓にふんぞり返ったままの信濃丈史がポツンと言う。
「信濃、人の思考を読むなと何度言えば聞いてくれるんだ」
「わかりやすい顔してるてめェが悪ィんだよう」
やっと大和の顔に少しだけ笑みが浮かんだ。その瞬間だった。
「大和長官、日本政府からのコールです。……その、いつもの」
長門通信士の一言が、彼の笑みを一瞬で消し飛ばした。大和の顔にみるみるうちに苦いものが浮かんでくる。
『あぁ、そうか。いつもの、なぁ』
ニヤニヤしつつも、友人であり上司でもある大和の心労を想像するに、出来る事ならば代わってやりたいとも思う信濃である。
もちろん本当に代わってやるつもりはないのだが。
「わかった、私の部屋の方に回してくれたまえ。50秒後にとる」
ハァとため息をつく大和に信濃は一応同情の視線を向けた。
「気苦労がたえないな。長官殿」
なあに、と大和は力なさげに胸を張ってみせる。
「優作君は命をはってくれている……。彼を守ることは我々を、ひいてはこの星を守ることにもなるのさ。これくらいはな」
そうして彼は彼にしか出来ない戦いに向かっていく。
「守り守られる絆、か。お前のそういう生真面目なとこ、嫌いじゃないぜ。多分……優作君もな」
その言葉は大和が司令室を出た後にこぼれたものだったから、当然彼には届いてはいなかった。

「三番から四番、コンタクト!」
格納庫におさまったレガシアムに整備員たちが群がる様子は、まるで童話のガリバーと小人たちのように見える。
コンタクト完了の報告を受けると同時に笠置はキャットウォークで待機する分隊員たちに指示を飛ばした。
「よぉし、各部強制開放!」
その声がレガシアムが鎮座しているせいで手狭な印象を与えるこのだだっ広い格納庫に広がる切るころには、その装甲がいっせいに展開していった。
同時に展開した装甲と本体の間から蒸気にも似た熱が放出されていく。
「冷却作業急げよ。後の作業が詰まってんだからな」
腕組みをする姿は正に職人。その周りを整備員たちが忙しなく、しかし統一された意思の下にとでも形容できるメリハリのある動きで行き交っている。
損害は皆無というわけではなく、深刻というわけでもなく……といったところだった。
大和が日本政府との折衝という戦いに挑んでいるころ、この研究所兼格納庫においての戦いも始まっていた。
「おらあ、トロトロしてんじゃねぇぞ! とんまな奴にゃあ整備部名物重油入りシチューを食わせるからなっ」
そんな風に檄を飛ばすのは主任に抜擢されたばかりの生駒だ。『野郎、調子にのってやがるな』笠置は嘆息する。
どうやらまだまだ引退はできなさそうな現状だった。
「どうですかオヤジさん」
かけられた声に笠置は振り返る。
「おぉ、鞍馬か」
鞍馬と呼ばれたひょろっとしたメガネと白衣の優男は笠置の横に立ってレガシアムを見上げる。
「ダメージは内臓にまで達しちゃいねぇ。最初の頃にくらべりゃ上手くケガするようになってきたぜ」
「そうですか」
「まぁ装甲板だってタダじゃねぇんだ。きっちり避けて損害が出ねぇようにしてもらえりゃ楽だけどよ。欲を言いだしたらきりがねェな」
それに……とヘルメットをぽんと叩いて視線を落とす。
「レガシアムはオーバーテクノロジーの産物よ。一回出撃すりゃあほとんど全部手直しだからな、損害の大小はあんまり関係ねェよ」
「そうですね」
「なんとか……なんとか、坊主の負担を軽くできるような、何かがありゃあいいんだけどなァ……」
「……」
鞍馬は答えない。笠置の方も返事を求めての発言ではなかった。
「あいつは、あの坊主はよくやってくれてるよ」
「えぇ、本当に」
初めて鞍馬の視線がレガシアムから笠置の方へと向いた。
「彼は、不破君はわかってくれています」
「だったら」
頷いて再び鞍馬はレガシアムを見上げる。
「世界を守ってくれる彼を、僕たちが守らなければなりません。知恵と力を振り絞って──全力で」
それが自分たち大人とユウ──不破優作をつなぐ絆だと信じて。
二人は拳を握り締めていた。

時刻はもう10時を過ぎていた。
『やばいよなぁ。約束破っちゃって』
戦闘が終って、基地に戻って、でも意識を失っていたユウはほんのさっきまで医務室で眠っていたのだ。
「しょうがないよ、今日だって戦闘はハードだったんだしさ」
「カイアは僕が戦っているのを知ってるからいいよ。けどさ、基地の人以外で僕の事を知ってるのって伊吹だけなんだよ?」
背負ったリュックから顔だけ出しているカイアにユウはちゃんと隠れておいてよと言うのだが、
「隠れてたら一人で会話する危ない人に思われちゃうじゃん」
と反論されてしまう。
「どっちにしろ猫と会話してるヤバイ人に思われちゃうよ」
ため息をつくものの、カイアはまるで気にしたふうもない。
「伊吹ってあの子だよね、あのおっぱいでっかい子。流行りのツンデレっ子ってヤツでしょ。あんたのことが気になってる訳じゃないンだからネッ! ってヤツ」
「カイアってホント変なことばっか覚えるよね」
自宅近くまではSARFの車で送ってもらえた、その残りのいくらかの道でのことだ。
住宅街の道に他にあるのは心許ない明滅を繰り返す街灯くらいのもの。
動くもの、喋る者はユウとカイア以外に皆無だった。
だけど、
シンと静まり返った住宅地であっても、家々には明かりが灯っている。人が住んで、人が暮らしている証がそこにある。
「ユウ……」
唐突に、でも静かにカイアが声をあげた。
「君の守った街だ。君が守った人たちなんだよ」
返事はない。
声は必要なかった。
リュック越しでもカイアには分かっていた、芽生えた絆がそれを伝え合っていた。

「ただいま~」
鍵を開けて家に入るが、明かりは何一つついていない。
「千歳? もう寝ちゃったのかな」
カイアに喋るなよと言いながらリュックから下ろす。
「誕生日会してくれるってのにすっぽかしちゃったからな。怒っているだろうな」
そうしてリビングに入って明かりを点けた時だった。
「……」
テーブルと、卓上のご馳走と、そして、
「ち、千歳?」
待ち続けていたのだろう妹が座っていた。
「お、お前……」
眠っているわけではない。椅子に座って、俯いたまま、そうして待っていたのだ、ずっと。
「……ずっと待っていたのか? もしかして戦闘があった間も?!」
答えはない。
千歳はユウと目を合わせようとしなかった。
いや、ユウの方こそ千歳と──誕生日の約束を守らなかった妹と目を合わせなかったのかもしれない。
快活で明るい、誰とでも仲良くなれるといった太陽のような少女がいま、深く沈んで光を失っている。
だけど、ユウは逆に怒っていた。誕生日の約束を破ってしまったという負い目からそのように感情を発してしまったのだ。
「どうしてだよ! 避難命令は出ていたんだろ? 逃げなきゃダメじゃないか!」
「……」
無言の苦痛がよりいっそうユウに気持ちと裏腹の言葉を並べさせる。
「今日は良かったよ、こっちまで戦闘の被害は及ばなかったからさ。でももしこっちにまで飛び火してたらって……そう思わなきゃダメじゃないかッ」
しかし千歳は俯いたまま答えない。
──大丈夫だよ、千歳は僕が守るからね。
いつか自分が言った言葉が胸に蘇る。

「……千歳」
それ以上いたたまれなくってユウは妹に背中を向けた。
「今日は、その、ごめん」
ガタンっと椅子が倒れる音。次の瞬間ユウは後ろから抱きしめられていた。
「千歳?!」
「……と、いたの」
小さなか細い声。それは「今まで誰といたの」と聞こえた。
今度はユウの方が黙る番だった。
レガシアムのこと、SARFのこと、誰にも言えない、自分だけの秘密。
「伊吹さん? 伊吹さんといたの? そうなの?」
違うよという言葉はいかにも力なく、それは確かに事実ではあったけど、真実であるという説得力には欠けている。
「イヤだよ…。そんなのイヤだよぉ」
その言葉は段々と湿り気を帯びてきて、やがてすすり泣く声へと変わっていった。
「なんだよ、そんな……泣くことなんて、ないだろ?」
「だって、だって、怖かったんっだよ、とても怖かったんだよ!」
すがりつく妹にユウはただ、その背中を好きにさせている。
「伊吹とはなんでもないよ。それに……ごめん、今日は一緒にいてやれなくって。でも本当に危ない時は絶対側にいて守ってみせるから」
声が、止まった。
「だって、この世に二人だけの兄妹なんだもんな」

「違う」

それは暗い、暗くて深い……深淵から響いてきたような声。
「千歳?」
次の瞬間ユウは突き飛ばされていた。
「わたし、わたしだって知っているんだからあッ!!」
絶叫はユウの心に突き刺さる。
千歳の左目に涙が浮かんでいた。
──本当の涙は左の瞳に浮かんで、左の瞳から零れるの。
そう言ったのは、はたして誰だったろう。
「何を、言って、いるんだよ……。千歳」
それは、女だった。ユウの知ってる妹の顔ではなかった。妹は、千歳は“女”の顔をしていた。
「お兄ちゃん、好き。愛してるの」
だから──とユウも告げる。
「僕だって好きさ、兄妹なんだもの」
左の瞳から、涙が零れた。

「違う」

それは絶望的な響きが込められた言葉。
「わたしは、わたしはお兄ちゃんの妹じゃないッ! ホントは……ホントは兄妹じゃないって──」
これは夢なのかもしれないと少年は思った。夢であってほしいと少年は思った。
「──知っているんだからァッッ!!」
走り出す妹を見ながら、彼の瞳は何も見ていなかった。
白い巨大なロボット、異形の“敵”。戦い、そして……そして……。
日常と一緒に絆も壊れていってしまうのか?
わずかな達成感も粉々に消し飛んでしまった。何をする気力も湧き上がらず、

──不破優作は今日、17歳の誕生日を迎えた──



■次回予告■

生まれる絆、壊れゆく絆
17歳の誕生日、その夜に少年は『はじまりの日』を思う

それは、あの夏の日
爆音、熱風、そして巨大な異形のモノ達が飛び交うソラ

逃げ惑う人々の中、出会ったのは、黒と白

白いマシンと黒い猫

次回 アーティファクト・レガシアム

猫とマシン

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