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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第二話 猫とマシン

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sousakurobo

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最初に聞こえたのは轟音。
次に感じたのは熱風。
そして目にしたものは──


「なんでこんなことになっちゃったんだろうな」
夜が明けて朝になり……けれど千歳は部屋に閉じこもったまま出てこようとはしなかった。
閉じこもって泣いて過ごしたいとはユウとて思わないでもなかったが、その誘惑に身を任せるつもりはなかった彼だ。

『わたしは、わたしはお兄ちゃんの妹じゃないッ! ホントは……ホントは兄妹じゃないって知っているんだからァッッ!!』

千歳、ずっと一緒に育ち、暮らしてきた家族──たった一人の妹。
彼女は確かに本当の妹ではないと、家族ではないと言ったのだ。そして、自分だけがそれを知らないでいたかの様に告げた。
なんのことだかさっぱりわからなかった。頭の中で言葉が渦を巻き続けている。ただただ同じ言葉ばかりが繰り返し響いてくる。
「なんでこんなことになっちゃったんだろうな」
慰めるかのようにカイアがユウの頬を舐めた。
『あぁ、あの時のようだ』
あの時もカイアがユウの頬を舐めていた。
半年前の──あの夏の日も。



「だからさ、夏祭りにはぜひに千歳ちゃん様にもおでまし願いたいわけよ!」
「結局お目当ては千歳だったか」
あったりまえだろ、と妙に偉そうに言う山彦に僕は呆れ顔で答える。
「俺はさぁ、千歳ちゃんのラブリー浴衣姿が見たくて見たくて見たくて気が狂いそうになるほどなんだよ! 髪をアップにまとめてくれていたらもはや神! その目的のためならばどんな手段だって総て正当化される!」
「その千歳の兄貴である僕に聞かせるようなセリフじゃあないよな」
「わかってるよ義兄さん」
とりあえず手にしたほうきでぶん殴る。
「ひどぅい」
「黙れ山彦。お前は今死んでいい」
「くそっ、やられはせん。やられはせんぞー!」
と、じゃれあってれば怒られるのは当然の道理だ。
「ちょっと! 文月山彦! きちんと掃除しなさいよっ!!」
心底嫌そうに声を荒げるのは委員長の伊吹。山彦も負けずに嫌そうな顔で返す。
「なあんで俺ばっかり怒鳴られるんだよう。優作だって一緒にさぼってんのにさ」
「あんたがきちんと掃除を始めれば、不破君だってきちんとしてくれるわよ。……でしょ?」
無言で頷くと山彦がほうきの柄でつっついた。「この裏切り者メ」知ったことじゃないとは言わないでおこう。
ちゃんとしてよねと念を押して伊吹志摩子は廊下の方へ歩いていく。イーッっとその背中に舌をだす山彦に僕はため息をつく。
「小学生か、お前は」
「いくら美人で、いくらナイスバデーで、いくら巨乳ちゃんでもあいつはねーわ。そう思うだろ?」
はいはいと流して僕は床を掃きはじめた。これじゃいつまでたっても終わりはしない。
「さっさと終らせて帰ろうよ山彦。夏祭りの話はその後だ」


「で、どうよ?」
うん? と振り返る。
「千歳ちゃんだよ、千歳ちゃん!」
あぁ、と僕は気の抜けた返事。
「あいつは夏休み中は特別講義を受けに行くとか言ってたな。城南大学の緑川教授のとこにお世話になるって」
「おまえんとこの親の知り合いだっけ?」
「そ。あいつ本気で父さん達の後を継ぐつもりらしくってさ」
「第五次宇宙開発かァ……夢のある話だねェ」
「あいつにとっちゃもう夢ってわけでもないみたいだよ」
ほうきを手放して手近の机に腰掛ける。
「夢じゃなくてさ、手にしつつある未来? なんだろな。少なくとも夢じゃない」
「迷うようなこともなく、押し付けられることもなく、進路は自分で決めちゃって、実現しつつあるってことか。天才少女はちがうねぇ」
山彦が僕を突っつく。
「んで、その千歳ちゃんのお兄様なお前はどうなのよ。お・ま・え・は」
僕は……言いかけて口ごもってしまった。
「あっ……と、悪ィ」
珍しく神妙な顔をする山彦に、僕はわざと大きく「別にィ」と答えてその背中を叩いた。

第五次宇宙開発の中核は恒久的居住実現を目的とした火星開発計画。
三年前、地球連邦評議会は18年前の失敗を理由に滞っていた計画を再開することを決定した。
主導するのは連邦内で最大の発言権をもつNOA(ニュー・オーガニゼーション・オブ・アメリカンコンフィネント)。
そしてAPC(アジアーパシフィック・コミュニティ)の一員でありながらNOAと同調する日本。
僕の両親はその計画の中核に位置する技術者だった。
もう、何年も会っていない。
僕はあえて会いにいこうとしたことはなかった。
そんな両親に会うために、妹は努力を重ねている。
僕は、千歳が羨ましいのかもしれなかった。

「実際凄いと思うよ。この間の全国模試もダントツの全国一位だったって言うし。でもそれはあいつの目標なんかじゃない、通過点なんだ」
「兄ちゃまとしては色々と思う所があるってわけね」
暗くなりかけた雰囲気を茶化して変えようとする気遣いが嬉しかった。
「可愛くて、頭がよくって、可愛くて、天才少女で、可愛くて、しかも妹だなんてな。お前それは天が二物も三物も与えたってもんだぞ。この世の神様に感謝しなきゃならん」
「与えられたのは僕じゃなくて千歳なんだけど」
ちがあぁぁぁうぅぅぅっ! 耳元で、大声で叫ぶのはかんべんしてほしい。
「そんな妹がいるって時点でお前は二物、三物当たり前なんだよおぉぉぉッ!!」
「って言われても、僕は妹属性なんてないし」
やれやれと肩をすくめた。これじゃいつまでたっても掃除なんか終わりゃしないな。
そう思った時だった。

最初に聞こえたのは轟音だった。窓が異様な振動に震える。
次に感じたのは吹き寄せる熱風。
それは窓から飛び込んできて、せっかく掃き寄せた埃やゴミを一瞬で撒き散らせた。
どこからか女生徒の悲鳴が聞こえる。どこからか窓ガラスの割れる音がした。一拍遅れでたくさんの騒々しさが辺りに満ち溢れてくる。
「な、なんだってんだよ!?」
山彦の声が、なぜか遠くから聞こえてきているように感じた。
僕の目は、耳は──総ての感覚は空に向けられていたからだ。

──ボンッ

ごま粒のような小さな黒い点だったものが、オレンジの光点になった瞬間、黒煙が膨れ上がる。一呼吸置いてから大きな音が耳に届く。
「マジかよ……」
山彦がつぶやく。
「間違いないよ……あれ、戦闘だ」
かすれたような声っていうやつだ。僕は僕の喉から出てきたその声が、あまりにも自分の声質と違っていて不快さを感じていた。
「戦争、やっている──!」


「日本政府はSARFの介入は不要と繰り返すばかりです!」
長門の返答はもはや憤りの色を隠そうとはしないものだった。
「自衛軍は自前の戦力で止められるつもりなのだろうが……あれは装備と人命の無駄遣いというものだな」
どこか他人事のように言う信濃に大和は付き合っていられるわけもない。
「磯風君、安全保障会議への働きかけはどうなっている。指揮権委譲までかかる時間は」
「召集から現在7分。承認へはまだ20分はかかるものかと」
磯風参謀の返答はいつも明確なことこのうえない。それだけにその20分という数字は大和には絶望的なものに思えた。
『彼がはっきりと答えた以上、その数字は覆ることのない数字なのだろうから』
つまりそれは、承認が降りるこれから20分の間、自分達がただ見ていることしかできないということだ。
「ユニット01と“彼”に準備だけは促しておいてくれたまえ。SARFのお宝と言えば彼らだけなのだからな」
大和の指示を受けて磯崎がコンソールに向かう。同時に長門が柔らかな声を上げた。
「航空自衛軍のJF11戦闘機が目標にエンカウント。ラウンドを開始します」
「百里の305航空隊か。他の基地はどうなっている」
「入間を始め、他の基地も出撃を準備している模様です。完了次第出撃するとのことです……待ってください、たった今練馬駐屯地特機第一大隊所属のセンチネルが出撃したとのことです!」
司令室にどよめきが溢れる。
「虎の子の人型特機を投入するか。一応自衛軍にも敵の脅威レベルがどれだけのものか理解できる人物はいるようだな」
あぁと信濃に言葉だけで返事をする大和。
その目は正面の大型モニターから寸分も移ることはなかった。
「18年ぶりか」
またしても「あぁ」としか大和は返答しない。
そこに写し出された“モノ”は金色の輝きを纏った、生物とも機械とも判別しかねる浮遊物体たち。
それは、彼ら二人にとって郷愁さえ感じさせる、仇敵との再会だった。


「春日、浅間、遅れるな。戦闘飛行に移る」
そのように冷静に指示を飛ばすものの、すでに霧島中尉のセンチネル『九六式“撫子”』は跳躍して戦闘飛行に入っていた。
「中尉殿、首都市街地でのセンチネルの戦闘飛行は──」
生真面目な部下の提言を最後まで聞いてやるような呑気さを彼女は持ち合わせていない。
「緊急事態はその限りではない。現在は緊急事態である!」
了解の返事と共に春日機、浅間機の撫子も上昇して霧島機に続く。
霧島は不満だった。
『何が起こっているのか把握もできず、テレビに噛り付いているしかないようでは軍人になった甲斐がないというものだ』
情報が入ってこないからと手をこまねいているような上司など、毒にも薬にもならないどころの話ではない。事態に即応できない軍人など絵に描いた餅以下だと思う彼女だ。
そんな筋金入りの現場主義者である彼女であるから、部隊長の八島大佐の緊急出動の命令がなければ独自の行動を取っていたかもしれない。
八島大佐自身も市ヶ谷からの正式な命令をもっての指示ではないのだが、彼女がそれを知ることはなかった。
「前方……爆光を確認? 友軍機が市街地上空で撃破されています!!」
言われるまでもなく霧島もその爆発光を確認していた。上空1500mにも満たない高度。
春日准尉のひきつった声を耳にする前にはすでに撫子の右腕部にマウントされたガンポッド、左肩部のミサイルポッドの安全装置を解除していたから、僚機の二人にもそれを促す。
「春日、浅間、安全装置を外せ。有視界戦闘も有りうる、現場指揮官権限において搭載兵装の自由使用を許可する」
「そんな?! こんな所で」
「中尉殿、ここは市街地です!」
それぞれ違う言葉で驚きの言葉を訴えるが、霧島はそれを意に介さない。
「両名とも状況を再確認しろ。戦場では躊躇する者から先に撃墜されることになる。我々はAWACSの援護なしに敵性戦力に対応しなければならんのだ」
霧島にしてみれば、「なぜそんなことが言われなければわからんのだ」ということだ。
どうやら先行して迎撃に出たJF11戦闘機“綺羅星”の編隊は壊滅的な状態であるように思える。
最大望遠でモニターに写し出された敵性戦力は黄色っぽいオブジェにように霧島の目には見えた。学生の頃にむりやりつれていかれた現代美術のなんとかというソレに似ているように見えたのだ。
「あれが、敵でありますか」
浅間准尉が間の抜けた声をあげている間にまた一機、綺羅星が黒煙を噴いて落下していった。
『市街地に墜落する!』
そう思った時には霧島はフットペダルを踏み込んでいた。
急加速で戦闘空域に向かう。これ以上戦闘を続けては市街地の損害がどれだけのことになるのかといった事もあったが、それ以上に許せなかったのだ。
その理屈は「自分の縄張りを侵された」という腹立ちと同質のものだった。
加速にしたがってグングンと近付くオブジェが何者かなどといったことに関心はない。
「敵は潰す」
モニター上のレティクルが“敵”に重なり、赤く変わった瞬間、霧島は対空ミサイルを発射していた。


ようやく避難を始めて、僕達は高台の緑地帯公園にまで歩いていた。
「ていうかさ、軍の飛行機やられてね?」
十機くらいいた戦闘機がもう二つか三つしか残っていないように見える。
「うわ、また落ちたぜ……あれって駅前のあたりじゃん!」「やだ……、家に帰れないよ」「つーかどこと戦争してるわけ?」
緊張感のない会話をしながら歩く同級生や上級生、下級生たち混在の行列。僕達は遊歩道を歩き、延々と歩き続けているのだ。
「あーあ、あれ百里の第305航空隊の綺羅星じゃんよ。貴重な機体がやられてく……。くぅー、もったいない!」
「おめー、ツッコミ所そこかよ」
山彦が高雄の双眼鏡を奪ってツッコミを入れる。
「高雄は山彦がツッコミ役になれる唯一の友達だもんな」
「そうそう、大事にしてくれないと銃殺刑だゾ☆」
山彦がオーバーアクション気味に高雄の頭を叩いた。「うるせー、この軍オタ」いつものことだけど山彦は高雄にだけは強い。
「でもさぁー」
山彦にヘッドロックをかけられながら高雄。意外と打たれ強い。
「あの金色のペンギンみたいなの、なんなんだろね」
振り返ってもういちど戦場になってる辺りを見返す。
「ペンギンか? どっちかって言うと金色の……地蔵…さま? だろ」
山彦もどことなくズレている気がしないでもないのだけど……なんだろう。
「どうした優作?」
山彦が僕の顔を覗き込む。
「なんかさ、どっかで見たことがあるような気がするんだよな、あの変な花瓶みたいなやつ」
既視感というのだろうか、見たことがあるような気がする──でも思い出せない。思い出そうと考えて込んでいるうちに段々不安になってくるアレだ。
また爆発の光が瞬いた。そして立ち上る黒煙。
あの光と煙の中で誰かが死んだんだろうか。
落ちていく残骸のその下で誰かが命を落とすかもしれない。
そう思えば怖くなってしかるべきなのかもしれないのに、なんで僕はこんなにも懐かしさで胸が一杯なんだろう。
「ほらっ、そこの三人! 立ち止まらないで先に進んでよ!」
山彦が顔をしかめる。高雄がずれた眼鏡を直す。そして僕はとりあえず謝る。
「ごめん、伊吹さん」
伊吹は整った顔を少し紅潮させていた。坂の上のほうから走ってきたようだった。
「あ、うん。それは……まぁ、いいんだけど」
いいのかよ、と山彦が小声でツッコミを入れる。本人には聞こえないようにだけど。
「ねぇ、優作君は……妹さんとは会っていないわよね」
嫌な予感がした。
「上の避難所にいなかったのならさ、まだ下の方の行列の中にいるんじゃない?」
高雄が後ろの方を見下ろす。確かにまだ列は後ろにまだけっこう残っている。
「そうなんだけど、妹さんのクラスって一番最初にまとまって避難を開始したって言うから……優作君?!」
伊吹の言葉が終るよりも早く僕は駆け出していた。
その時、より大きな爆音と共に金色の物体に何かが襲い掛かっていく映像が目に飛び込んでくる!
それは着弾とともにそれなりに距離の離れたこの場所まで大きな衝撃を届かせた。それは小柄な生徒なら簡単にひっくり返すような衝撃波だった。
悲鳴とうめき声の二重奏に爆音が重なる。
「陸自のセンチネルだ!」
そんな中、高雄の声が理解できる程度に僕の耳に届いたのは奇跡だったのかもしれない。見上げるといつか高雄に見せられたセンチネルとかいう巨大なロボットが飛ぶ姿がそこにあった。
『あれが撃ったのか?!』

なぜだか僕にはそれがわかった。
下に避難する都民がまだいるとわかっていながら、あのセンチネルのパイロットは“敵”にミサイルを発射した。
こんな低高度で飛行すればまわりに環境に被害が出るとわかっていながら飛んでいる!
「音速で飛んでるわけじゃないって言っても、こんな低い所で飛べば被害は出るだろうに!」
躓いて止まった足を奮い立たせて、僕はもう一度走り始めた。
僕の頭の上を通り過ぎた陸自のセンチネルがまたミサイルを発射する!
ブシャアッ、って音が頭の上から降ってきて、僕はまた足を止める。何もかもがどうしようもないくらい最低だ。
「ふぅざけぇんなああぁぁぁ」
妙にビブラートのかかった変な調子の叫び声を誰かがあげた以外に非難の言葉はあがらなかった。
うめき声と、うめき声、そして教師の避難を促す小さな声。それだけだ。
金色のヤツが少し大きくなったように見えたのは見間違いだろうか。
違う。
大きくなったんじゃない。こちらに近付いたんだ!
ガクガクと震える足を叩いてもう一度奮い立たせる。背中の方から僕を呼ぶ伊吹の声が聞こえた。
「ごめん」
もう一度走りだす。千歳を探さないと。
教師の怒鳴り声も聞こえた。だけど今度こそ止まらない。爆音がまた聞こえた。でも止まるもんか。

──千歳、無事でいてくれ!

結局行列の中にさえ千歳はいなかった。校舎内はガランとしていて人の気配はどこにもない。
「もう、避難できていたのか?」
誰もいない一年五組の教室に答える者はいない。もしかしたら自分の教室にいるのかとも思ったのだけど。
ホッとすると同時に気が抜けた。まったくあいつはいつもいつもを心配かけて。
だけど──
ふと思った。
僕がこうすることに意味は、あるのか?
千歳が心配になって行列を逆行し、学校まで戻ってきた。けど、千歳はいない。つまり意味なんてなかったってことだ。
千歳は──才能を努力で伸ばし、その力を認められて、世界に必要とされている。緑川教授なんてまるでベタ惚れのように彼女の才能を愛している。
きっと父さんと母さんもそうだ。
天才少女、不破千歳は誰からも愛されている。必要とされている。
だけど、僕はどうだ?
僕は誰かに必要とされているか?
妹は…家族は、世界は、僕が思っているほど、僕を必要としてくれているのだろうか。
違う!
そんなこと考えちゃいけない。僕は兄貴で、息子で、家族なんじゃないか!
多分行列の中にいたのを見落としていたんだ。それか、上の避難所にいたのに伊吹が勘違いしたに違いない。
そう自分を納得させて、何気なく、本当に何気なく窓の外を見上げた僕は、金色の光が教室の窓一面を埋め尽くしているのを目撃した。

ザラザラとしたものが顔に触れている。
悪くない。イヤじゃない。
だけど、これはなんなんだろう?
僕は──何をしていたんだっけ。
体の節々が痛い……痛いな。なんでこんな。
目が中々開かない。なんでだろう。なんか眩しいものを直視したみたいに、痛くて──

──金色の光!!

飛び起きた僕は瓦礫の中にいた。そう、瓦礫だ。崩れたコンクリートと突き出た鉄筋、散らばった机やと椅子に、ぽっかりと空いた壁の穴と──
ここは一年の教室……五組か? 空はまだ青い。気を失ってから、時間はたいして経っていないようだ。
でも、金色の光はどこへ?
「もう、いきなり起き上がるから転んじゃったじゃないか」
声は足元からした。
「感謝してよね、あと少し僕らが来るのが遅かったら君、死んじゃってたんだからさ」
外から爆音がまた一つ。遠い。
足元に小さな黒猫が一匹、いた。
ドサンという音がした。僕が尻餅をついた音だ。後ずさりしようとして躓いたんだ。
頭がおかしくなったんだろうか、僕には目の前のこの黒猫が喋ったように聞こえた。
「頭がおかしくなった訳じゃないし、確かに僕が喋っているよ」
黒猫はクククと笑った。
おかしいな、猫は笑ったりしない。笑う猫もいるにはいるけど、そいつはニヤニヤ笑うと姿を消すんじゃなかったっけ。
「動揺してるのか、冷静なのか、よくわからない奴だね、君は」
黒猫は、まぁそんなことはどうでもいいけどなんてぬかした。
大体、こいつはなんで喋ってもいない僕が頭の中に思い浮かべただけの事を聞いたかのように言っているんだ!
「まぁ、そんなことはどうでもいいじゃないか」
またクククと笑う。
そして、ズンという地響きと共に黒猫の背後、ぽっかりと開いた校舎の壁の穴の向こうに何かが落ちてきた。
違う、降り立ったんだ。
『久しぶり』
そんな言葉が胸に浮かんだ。
「喜んでいるよ、レガシアムも」
引き寄せられるように立ち上がる。
それは、白いマシンだった。黒猫が僕を呼ぶ。
「迎えに来たんだよ。僕らには君が必要だから」
そして、僕にも彼らが必要だから。

だから──

それが、僕の日常が変わった、運命の日だった。



■次回予告■

白いマシンに乗り込んだユウはそこに安らぎを感じた
しかし、それは同時に戦闘空域を飛ぶということを意味するのだ

せまる金色のオブジェ──E&Eにユウは恐怖を感じる

だけど──

自分の後ろには街が、学校が、友達がいる

だから──


次回 アーティファクト・レガシアム

ファーストステップ

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