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Episode 8.5-B:まずはお互いを理解するところから始めましょう 後篇

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sousakurobo

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□Chapter 06:リヒター・ペネトレイター~やおよろずという劇場に舞い降りた黒騎士~


 リヒター・ペネトレイターはルガー・ベルグマンが走って行った方向から視線を動かせずにいた。かれこれ十分間は微動だにしていない。
<おい>
 外はもう暗い。暗視モードに切り替えなければ満足に戦闘を行えないレベルだ。
<……おい>
 時刻は現在1934、気温は12℃、湿度は……
<おい!>
 何者かに肩部を殴られた。ツイン・アイを殴られた方向にスライドさせると、白面金毛九尾の狐、玉藻・ヴァルパインがそこにいた。


 ♪  ♪  ♪


<おはようございます、玉藻・ヴァルパイン。……申し訳ありません、呆けていました>
<なーにが呆けていた、だ、馬鹿野郎が。貴様、今日の戦闘で脳味噌イカレちまったのか?>
 そう言って自分の頭部を人差し指でコンコンとつつく。
<お言葉ですが、玉藻・ヴァルパイン。私には脳味噌という部品は……>
<まったく、とんだ馬鹿野郎だなお前は。どれだけ思考がガチガチなんだ。もっと柔軟に考えられるようになれ>
 たま自身は冗談のつもりで軽めの口調で言ったのだが、リヒターはそれを素直に受け止めて、
<……申し訳ありません>
 しゅんと肩を落とすその姿は、御主人様に叱られた犬そのもの。その馬鹿正直な姿を少しだけ可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
 ――――それにしても、だ。
 冗談でこうも本気で落ち込まれると、なんだか、
<いや、すまん。私のほうこそ少し言い過ぎた>
 やりづらい。
<まあとにかく、脳味噌というのは例えだ、比喩。類似した物を使って説明しているに過ぎん。お前だって、人工知能は搭載しているだろう?>
 人工知能という名前で呼ぶのはあまり好きではないが仕方ない。これ以上混乱させても馬鹿らしいだけだ。
<はい>
 よし、ちゃんと理解したようだ。しかし、何故わざわざ比喩の説明をしとるんだ私は。
 たまは眉間に中指を当てて溜め息をつくと、
<漫才を見て真面目に質問するタイプだな、お前は>
<……?>
<……いいや、なんでもない>
<……?>
 リヒター・ペネトレイター、思考中につき、現在硬直中。ああ、頭上に巨大な疑問符がいくつも見えるようだ。
<……お前、戦闘中とはまるで別人だな>
<お言葉ですが、玉藻・ヴァルパイン。我々オートマタには“別人”という表現は>
<う・る・さ・いぞお前>
 ガツン。
 頭を軽くどついてやった。
<……申し訳ありません>
 素で言っているのだから、まったく手に負えない。
<まったく、まるで子供だな>
 いや、実際子供なのかもしれない。まだ何も書かれていない、真っ白な紙。
<子供、ですか……>
<ああ、子供だ。だが安心しろ、私にもそういう時期が……なんだその目は>
<いえ、なんでもありません>
 どうやら彼のカメラの発光パターンはジト目まで再現できるようだ。
<……そういえばお前、そのカメラ>
 初期の――――第一世代の機体にしか搭載されていないタイプだ。第二世代からはコストの問題からオミットされたはずだが……。
 戦闘後に整備を担当したライディース・グリセンティによると、リヒターは各所に大量のブラックボックスが存在し、それ以外も比較的新しい型のパーツと古い型のパーツがないまぜになっている上に一部のパーツはワンオフのもの。
 さらにどれもこれもが高級品かつ回復能力に秀でた仕様になっているそうだ。
<お前、元々は特殊な実験機だったのかもしれんな>
 希少価値の高い“ヘーシェン”タイプ“ヴァルパイン”タイプに続いて、名前も聞いた事がない“ペネトレイター”タイプ。
<まるでカオスだな、ここは……>
 そもそも機体と人を増やしたはいいが、予算は大丈夫なのか、これ。
 パトロンのブラウニング家はそこまで規模が大きいとは言えず、大幅な予算の増額は期待できない。
 しかし鞍替えするなんて事は不可能だし、有り得ない。何故ならここのオーナーが、かのブラウニング家の御息女様だからだ。
 そして――――

 そのオーナーに仕える白面金毛の妖狐、玉藻・ヴァルパインは、ブラウニング家に仕える、由緒正しきオートマタだった。


□Chapter 07:玉藻・ヴァルパイン~この増加装甲がヤバ過ぎる牙を程よく包んでくれる~


「あー、たまちゃん、ここにいたんですか」
「こんばんは、リヒター」
「元気そうですね!」
 噂をすればなんとやら、やおよろずガールズ見参。新参の鳶色、古参のプラチナ、オーナーの黒髪……なんともカラフルな面子だ。
<こんばんは、マスター、リタ・ベレッタ、まどか・ブラウニング>
 リヒター、律義に全員に返礼。本当に慇懃丁寧な奴。
 しかし……。
 ガールズが手に持ち、あるいは脇に抱えるそれに目を向ける。
<お前達、美味そうなものを持ってるじゃないか>
 やれ鶏の丸焼きだのスパゲッティーだの煮込みハンバーグだの唐揚げだのなんだの……どういう食べ合わせだ、こいつは。
 まどかに目で問い掛けると、彼女は苦笑がちにリタのほうを見た。
 やはりお前か。
 よく見てみればこの娘、物凄く幸せそうな笑顔をしているじゃないか。ちなみにこういう顔の事を、阿呆面と言う。
「やあたまちゃん。起きたんだね、ふて寝から」
 いつの間にかこちらに来ていたルガー・ベルグマン、両手には鶏の丸焼きが二つ……全部でいくつあるんだ、おい。
 それにしても――――ふて寝、だと?
 確かに負けて多少は……多少は悔しかったが、たま自身はふて寝などしたつもりはない。マナの節約のためにスリープモードに移行しただけだ。それ以上でもそれ以下でもない、多分。
<一言余計だ、この筋肉達磨が>
「ありがとう、最高の褒め言葉だ」
 ――――筋肉達磨と言われて喜ぶか、変態が!
「そうですよ、私達まだ完全には負けてません。だってたまちゃん、まだキャストオフしてないですから」
 フフンッ、と得意気に言うのはまどか。……どうやら負けた事を結構根に持っていたらしい。
 ブラウニング家の人間は生来の負けず嫌いが多く、まどかとてそれは例外ではない。たまが初めて仕えたマスターもそうだった。
「きゃすとおふ?」
<キャストオフ、ですか?>
 まったく同タイミングで首を傾げる遥とリヒター。そしてあまりにもピッタリ過ぎたせいでまどか達が危うく噴き出しそうになっている。
「はい、キャストオフです」
 オホン、と咳をしてまどかが調子を戻す。
<昔、極東のある民族は、装甲をパージする事をキャストオフと言ったらしい>
「へえ、そうなんだ。なんかかっこいいね、リヒター」
 と、遥が手に持つ煮込みハンバーグが盛ってある器を机に置いた。
<イエス・マイマスター>
「でもさ、それって手加減されてたって事だよね」
<イエス・マイマスター>
 先程も見せたあのジト目。……主従揃ってなんなんだお前達は。
<手加減はしてやると言っただろう>
 それに本気を出したらすぐに倒してしまう、とも言った。
<大体私は射撃戦担当だ。あいにく殴り合いはシロ担当でな>
 格闘戦もこなせない事はないが、たまとまどかの好みは射撃戦だ。ついでにヴァイス・ヘーシェン――――シロとリヒトの好みは格闘戦。ヘーシェンタイプは偵察機としても優秀なので、自然と役割分担は決まる。
 ……まあ、件のウサギは怪我で療養中だが。
「それにマスターのまどかちゃんが学生兼神子様兼オーナー兼ブラウニング家次女だからね、そうそう無茶もできないんだよ」
 と、ルガー。そして、
「ええ? ……ええ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!?」
<うるさいぞちんちくりん>
「誰がちんちくりんか! ……じゃなくて。何で領主の御息女様がこんなところにいらっしゃるんですか?」
 突然腰が低くなる遥。極東人は肩書に弱いと言うが、これはまた。
「ブラウニングからは学校が遠いのと、神子としての経験を積みたかったので、ここでお世話になる事になったんです」
「さ、さようでございますかお嬢様!」
 平身低頭。ご機嫌取りの笑いを浮かべながら胡麻を擂る。
<変わり身の早い娘だな、お前は>
 世渡り上手というべきか、これは?
「別に普通の方と同じ接し方で構いませんよ? 遥さんのほうが年上ですし、これから一緒に暮らす仲じゃないですか」
 つまみ食いをしようとしたリタの手をぺちんと叩きながら、にこやかな顔で言い放つ。
「うん、そうだね!」
 そしてふたたび遥の態度が一変。元のそれへと戻った。
<変わり身の早い娘だな、お前は……>


□Chapter 08:ライディース・グリセンティ~ツッコミに選ばれし男の体制への逆襲~


 薄暗い部屋の中、月の光に照らされる、高い高い本の山。
 ――――ここは屋敷の地下にある、様々な知識の集う場所、ライブラリ。
 古代の遺跡から発掘され、リバース・エンジニアリングを経て生産された機械、パーソナル・コンピューターが設置されている。特定の組織を除き、管理者に登録された者――――神子にのみ購入が許されるものだ。
 そのパソコンの前で、二人の男がヒソヒソ話。
 かたや赤髪、かたや金髪。リヒト・エンフィールドとライディース・グリセンティ。リヒトの近くにヘーシェンの姿は無い。
「無理っすよ。いくら社長の息子でも相手にしてくれないだろうし、僕だってあそことは極力係わり合いたくないっすから」
 苛立ちを隠そうともせず、ライがキーボードを叩く。滑らかなブラインド・タッチ。
「でもヘーシェンのフレームが治ればここのオートマタは三機になる。そうすりゃアリーナのチーム戦だって出れるし、上手くいけば今月末のエキシビションで連中と戦えるんだぜ? どうにか話つけてくれ、頼む!」
「ヴァイスのお嬢はほっときゃ治るから、わざわざパーツを取り寄せる必要無いじゃないっすか。それに、確かにエキシビションで叩き潰してやるのは理想だけど、遥ちゃんはまだ神子にもなってない」
 リヒトの台詞をライがぴしゃりと遮った。
 再びキーボードを叩いて、ウインドウを開く。
 データの処理が終了、動画が再生され始めた。画面には、競技場を縦横無尽に暴れ回る、赤いオートマタ。
「それに今の予算じゃどれだけねだっても質のいいパーツは買えないっす。デカい仕事が来ないから金は貯まらないし……こんなんじゃ連中に勝つなんてとてもとても」
「ブルジョアジー共が羨ましいなぁオイ。質の高いパーツばっかり使いよってからに」
 反応速度や稼動効率諸々で勝っていれば、当然ながらそれは大きなアドバンテージになる。実力が拮抗しているのならばなおさらだ。
 そして、アリーナに参戦しているチームのほとんど――――特に上位のチーム――――のオートマタは、潤沢な予算によるバックアップで常に最高のパフォーマンスを維持している。
 一方やおよろずには金が無い。多少ガタがきていても、使えるパーツは駄目になるまで使う……というか使わざるを得ない。今回のヘーシェンの件が具体的な例だ。
「そういやリヒターのフレームは見た事ないタイプだが、ありゃ何かわかるか?」
 リヒトが尋ねると、ライは動画を再生しているウインドウを閉じて、
「わかんないっすね。物心ついた頃から色んな……オートマタに限らず、色んな機械を見て来たけど、あんな機体、見た事がない」
 新しいウインドウを開く。
「検索、してみますか」
「そうすっか」
 ディスプレイに『No.75753』というナンバーが浮かび上がった。
「じゃあなごみちゃんにアクセス頼むっす」
 なごみちゃんとは、多数ある管理者の内のひとつ、先程ディスプレイに表示された文字の正体だ。75753のナンバーを語呂合わせしたもので、フルネームだと『なご なごみ』正式名称は――――知らん。
 ちなみに管理者が複数あるという事は結構知られていない事実なのだが、それはまた別の話。
「おう、制限解除な」
 ライが機械の前から退き、代わってリヒトがそこに座った。
「いくぜ、俺の必殺技!」
 両手の人差し指を駆使し、超高速で、一部の神子にだけ教えられる閲覧制限解除用のパスワードを打ち込んでいく。これはダサい、とてもダサい!
 そして最後に、大袈裟なタメの後でエンターキーを、
「どーん!」
 叩く!

 びーっ!
 ERROR:パスワードが違います。

 しばらくの間、沈黙が部屋中をその占領下に置いた。機械のファンが回る音だけがしっかりと聞こえる。
「なん……だと……!?」
 沈黙を破ったのは、リヒトの信じられない、といったニュアンスの呟きだった。
「……デタラメに打ったんじゃないっすか? 今の」
「んなわけあるかよ……どれどれ」
 再度チャレンジ。今度はしっかり、ゆっくりと。

 びーっ!
 ERROR:パスワードが違います。

「またか!」
 リヒトがばんっ! とデスクを叩いた。
「こいつ壊れてんじゃないだろうな」
 そしてムスっとした顔で拗ねる。「子供っぽい人だなぁ」ライが誰にも聞こえないような声で呟いた。
「パスワードが間違ってんじゃないっすか?」
「おいおい、これ以外にパスワード知らねーぞ?」
「なごみちゃんから報せとか届かなかったんすか?」
 すると赤い髪のリヒトは、しばし黙考してから、
「……知らねーな」
 それを聞いて、ライががくりと肩を落とす。閲覧の制限が解除できなければ、得られる情報はごく僅か。料理のレシピなんかはともかく、オートマタの詳細なスペックはまずわからない。
「なんだってこんな時に……」
「まあいいわ、そのうちなごみ本人に聞きに行きゃいい。それよりオートマタの装甲なんていつの間に手に入れたんだ? 火傷したリヒターの肩がすっかり治ってたじゃねえか」
 ……は?
「火傷……ああ!」
 手をポン! と叩く。
「あれ、僕達が修理したんじゃないっすよ。自然回復っす」
「……またまたご冗談を」
 リヒトがそう言いながら手を顔の前で振って見せる。だが、あいにくこれは冗談ではなくマジだった。
「僕だって冗談かと思ったっすよ。普通の機体じゃ有り得ない回復速度だし、コンデンサの容量もダンチときた。ありゃ通常の五倍以上ありますよ」
 今の話は決して誇張ではない。玉藻との戦いで見せた、腕部にマナを集中させた一撃――――とっつき、とか言っていたか――――のマナ使用量を見ても明らかだ。
 リヒターはここに来る前にあれを一発ぶっ放してピンピンしていたらしいが、あんな荒業、他の機体が使用するには、コンデンサを大量に増設した上に、常にマスターがマナをブーストし続けなければ出来るものではない。もちろん発動後のコンデンサはすっからかんだ。
「マジかよ。市場に出回ってる機体とは次元が違うなオイ」
「まあ最大出力で戦闘すると、すぐに息切れするみたいなんすけどね。極端な機体っす」
 ……まあ、その最大出力時の戦闘力は気違いじみたものなのだろうが。
 「ふぅ」と息を吐き、メガネのブリッジをクイっと上げる。
「ひょっとすると、賢者の石を守るために作られた機体なのかもしれないっすね」
 そう言うとライは機械の電源を落として席を立つ。
「――――話を戻しますけど、何にせよあいつらを倒すにはまだ早いっすよ。リヒターだけがフルスペックでも、他の二人が勝てなきゃ」
「意味がない。だろ? わーってるっての」
 同様にリヒトも立ち上がり、首を鳴らしてそう言った。
 アリーナのチーム戦はオートマタ三機同士による三本勝負だ。一機が勝っても他二機が負けてしまえば意味がない。それに――――
「やるからには、全部勝ちたいっすから。……それであのクソ親父に、一泡噴かせてやるんだ」
声のトーンが低くなる。
 幼い頃に母親を亡くし、長い間父親と二人で暮らしてきたが――――ライディース・グリセンティは、父親が嫌いだった。仕事に没頭して息子の事を歯牙にもかけていない、そんな父親が大嫌いだった。
 仮にも大企業の社長だ、忙しいのは理解できる。だが、実の父親が息子に対して無関心というのは流石に我慢がならない。
 だから家を飛び出した。父親に一泡噴かせてやるために。
 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。標的は父の会社がスポンサーをしているアリーナの上位チーム、テスタロッサだ。
 弱点や癖等、情報は何から何まで脳味噌にインプットしてある。
 あとは自分を売り込むために整備のスキルを身につけようと、機械整備の第一人者ベレッタ氏に弟子入りしようとここを訪ねたわけだが、肝心のベレッタ氏はぶらり旅に行ってしまっていていない上に、残っていたのが――――
 耳をほじっているリヒトをちらり一瞥する。
 残っていたのが常識から掛け離れた連中だけだった、そんな悲劇。
 まあ、現在ではライ自身も完全にやおよろずのノリに染まっているのだが。遥が染まるのも、おそらく時間の問題だろう。
 何はともあれ、実力もコネも、ある程度の知名度もあるリヒト・エンフィールドと玉藻・ヴァルパインがやおよろずにいた事は僥倖だった。機体も三機になったし、これでいつでもアリーナのチーム戦に出場できる。
 そう、いつでも出場できるのだ。だから急いでエキシビションに出る必要はない。無理して出場して、惨敗なんて結果になったらそれこそ最悪だ――――自分で自分に言い聞かせる。今はまだ、雌伏の時だと。
 逸る気持ちを押さえ込んで踵を返し、部屋を出る。
 ――――今日は歓迎パーティーだ。


□Chapter 09:ヴァイス・ヘーシェン~知ってたか? ウサギは献身の象徴なんだぜ~


 やおよろずの、ガレージ。
 なんやかんやで食事の準備も終了し、遥達は食事前の雑談タイムに移行していた。
「そういえばまどかちゃん」
「はい?」
「シロって、誰の事?」
 つまみ食いをしようとしたリタの手をぺちんと叩きながら、遥。
「シロちゃんって、ヴァイス・ヘーシェンの事ですよ」
 それでも懲りずに手を出すリタの手を掴みながら、まどか。
「“ヴァイス”は白って意味だからね」
 最後の力を振り絞って伸ばしたリタのもう片方の手を掴みながら、ルガー。リタがまるで捕まった宇宙人のような状態になっている。
「これだけあるんだからひとつくらいいいじゃないですか!」
「駄目だよ」
「駄目です」
「だーめ!」
<それくらい我慢しろ>
 言葉の一斉射撃、全弾命中。けっこう堪えたらしく、じたばたしていたリタがおとなしくなった……と思ったらまどかとルガーを振り払い、ハンガーでくつろいでいるリヒターにすがりつく。
「リヒターさん、ルガーさん達が私の事をいじめます!」
<は、はぁ……>
 困惑するリヒター。当然だ、彼は今のこの状況を理解していない。
<いじめはよくないと思いますが……>
「ですよね! いじめ、かっこわるい!」
<格好悪いのはおまえだろう。もう二十歳も近いというのに何をしているんだ>
「そうだよリタちゃん。ほら、唐揚げ一個あげるからこっちにおいで」
「ワーイ」
 嬉々としてルガーの下へ駆け寄るリタ。その光景を見て遥は思う。
 ――――人に飼い馴らされた小動物みたいだ……。
 と、そこに、
「お、何やってんの皆」
「おう、俺も混ぜろよ」
 ライとリヒト、襲来。
「リヒト、君が混ざると厄介な事になるから唐揚げ一個で我慢してくれ」
 ルガーがリヒトに唐揚げを差し出す。
「ワーイ」
 この人もか……。
「ライディースさんこそ、リヒトさんと一緒にライブラリで何してたんです?」
「それは言えないね」
<どうせ助平なモノでも見て>
「ライブラリ!? ここ、ぱそこんあるの!?」
 遥の声が、たまの嘲笑を吹き飛ばした。
 ――――“ぱそこん”とやらは神子にのみ購入を許されるものの、高額過ぎてほとんど持っている人がいないという事で有名だ。
「はい、ありますよ」
「つか、あれを導入したおかげでウチの家計は未だにまっかっかなんだけどな」
「す、凄い……見ていいかな!?」
 わくわくする感情を抑え切れず、その場でぴょこぴょこ跳びはねる。
「いいけど、まずは」
「ごはん食べてからですね! いただき」
「待て、リタ」
「何ですか!」
 せっかく夕食にありつけるというところを邪魔されて不機嫌になったリタが、ぷくりと頬を膨らませてリヒトを睨んだ。
「ヘーシェンを外に忘れてきた」


 ♪  ♪  ♪


 まだ冷たい夜。満点の星空の下で、ヴァイス・ヘーシェンは月を見ていた。
 丸くて大きな、金色の星。表面には、大きな大きな一羽のウサギ。
 綺麗な満月だ、今にも吸い込まれてしまいそう。
「……こんなところにいたのか、ヘーシェン」
 声のするほうへ視点を移動させる。
 月明かりに照らされる赤い髪と、つい見とれてしまうくらいの精悍な顔……マスター、リヒト・エンフィールドだ。
<ここに私を放置のはてめーですけどね>
 なにせ今のヘーシェンはロッドだ。たまと違って安物の器なので、自分では動けない。
「まあな!」
<そこで踏ん反り返りますかそうですか>
 ふぅ、と溜め息をつく。
<で、ライさんと二人で何をヒソヒソやってたんですか>
 そう問い掛けると、リヒトは頭をボリボリと掻きながら「なんでもねーよ」とぶっきらぼうに答えた。
<……まったく、そこは言い訳を使うところでしょうに。全部バレてますよ。大方ライさんに私のパーツでもせがんでたんでしょう>
「馬鹿な、何故それを知っている!」
<あなたの考える事はなんとなくわかります。どれだけ一緒にいると思ってるんですか>
 まあ今のは当てずっぽだが、どうやら勘は当たったようだ。
「……すまんかった」
<妙に素直ですね。頭打ちました?>
「ちっげーよ。昨日、救援が間に合わずにお前の身体ブッ壊しただろ」
 昨日……ああ、あのサイクロプスとの戦闘の時の。
<あれは私が奴をスクラップにするのが早かったのであって>
「いやあれは……まあいいわ。あー……よく、頑張ったな、ヘーシェン」
 そう言うと、リヒトは目も合わせずにヘーシェンの頭を乱暴に撫でた。
<……なんと>
「どうした?」
<いえ、なんでもありません。ちょっとどきっとしただけです>
 ……それは実に不覚な事だが。
 それにしても、くすぐったいような、照れ臭いような、全身を震わせるこの気持ちは何だろう。
 いや、この気持ちの正体は知っているし、何度も経験している。だが……何故だろう、なんだか腹立たしいというか、認めたくないというか、なんというか。
「はぁ? 何言ってんだお前。……まあいいわ。とにかく、ガレージ行こうぜ。皆待ってる。リタなんか腹が減ったってうるさいしな」
<イエス・マイマスター>
 ――――ああ、そうか。今日は、
「今日は一条 遥女史の歓迎パーティーだからな。いつも以上にワイワイやろうぜ!」
<はい、そうですね。では――――>
 リヒトがヘーシェンを抱え、ガレージへと歩きだす。
 入口の前に並んでいるのは仲間達。もちろん遥とリヒターも一緒だ。
<まずはお互いを理解するところから始めましょう>
 そう言った少女の声は、いつになく上機嫌だった。


 次回へ続くよ! よ!

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