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鋼鐵の特攻兵―Gun Strike Girles― 第一話中編・中

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sousakurobo

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 レオパルディネがアイザックに手を引かれて連れられて来たのは、
基地内にあるJDFの病院だった。清潔感漂う白亜の建物は真新しく、
植え込みなども綺麗に整備されている。
 一体、アイザックは此処に何の用事があるのだろう。彼は
長身を屈ませて自動ドアを潜って中に入ると、受付で手続きを
簡単に済ませ、エレベーターで一緒に地下へと降りた。
 地下は地上の階よりも冷房が効き過ぎていて、薄い夏服を着ている
レオパルディネは思わず身震いした。

<こっちだ>

 アイザックが先に立って先導する。ふと、レオパルディネはある事に気付いた。
人並み以上の身長を持つアイザックは、普通の人間が生活するのを
前提に作られた空間では常に頭が天井に擦りそうになるが、此処は
彼の長身でも余裕があるほど天井が高い。まるでアイザック、
いやフルプラセスが利用するのを前提としているかの様に。
 迷路の様に複雑な通路を進むと、ガラス張りのオフィスに行き着いた。
 見るからに高価そうな大小様々な医療用の研究機材が幾つも並べられ、
壁際にはアイザックよりも大きなスーパーコンピューターが何台も備え付けられている。
 その設備の整った研究室と思しきオフィスの一角にあるデスクでは、
白衣姿の女性が書類と格闘していた。女性の直ぐ傍には大きな診察台がある。
 アイザックはガラスを軽くノックした。それで女性は二人の存在に
気付いた様子で、今まで睨めっこしていた書類から顔を上げた。
 アイザックはガラス戸を押し開けて中に入った。レオパルディネも続く。

「うひゃあ! さ、寒いぃぃぃ!」

 オフィスに入った瞬間、外よりも更に効き過ぎた冷房に小さな身体が
震え上がった。寒冷地でも問題なく動作するように設計されている
アイザックの義躰は物ともしないのだろうが、南洋の暑さに
すっかり慣れた生身の身体には堪えた。
 デスクに座る女性は目の覚める様な美女だった。身体付きは
すっかり成熟しており、白衣の下に着ているタートルネックの
セーターに包まれた姿態は起伏に富み、黒いタイトスカートの
腰回りは肉付きが充実していた。氷の様に冷たく澄んだ碧眼は
怜悧な知性の輝きを秘め、肌理細かく透き通るかの様に白い肌は
何処か儚なげでもある。仕事の邪魔にならない様にと結い上げた
濃い蜂蜜色の髪からは、大人の女の色香の様なものさえ感じられる。
薄く笑んだ白桃色の唇からは光沢ある白い歯並びが覗いていた。

<相変わらず冷房が効き過ぎだぞ>

 税金の無駄だと言外に含ませてアイザックは女性に苦々しく言った。

「あら、これは私に与えられた特権よ? ガンガンに冷房を効かせた
オフィスで飲む、砂糖とミルクたっぷりのよく練ったヴァンホーテンの
ココアは最高なんですもの」

 鈴の音が鳴る様な声で女性はころころと笑った。冷たく酷薄そうな
美貌とは裏腹に、笑顔は子供の様に無垢なのが意外だなとレオパルディネは思った。

<運動もせず甘いものばかり摂っていると太るぞ>

「その分頭脳労働しているから問題ないわ」

<それじゃあいい相手は見付からないぞ>

「貴方はその当てがあるのかしら?」

<少なくとも私にはだな>

「あの子はまだそんな年齢じゃないでしょ」

<……>

 すっかり言い負かされたアイザックは力無く肩を竦めた。

「ところで…そっちの仔犬ちゃんは何処で拾ってきたのかしら?」

<ああ。この子は新設される例の部隊の隊員だ>

「そう。初めまして。私はアイザックの主治医を務めるレイチェル・ムラクモよ」

 主治医、という言葉にレオパルディネはレイチェルとアイザックの
顔を不思議そうに交互に見比べた。

「大尉は…何処か具合が悪いんですか?」

「違うわよ。そんなんじゃないわ。精神安定プログラムも投薬の
必要性もないくらい彼の生体脳は健康よ」

「じゃあ何で…」

 レオパルディネの疑問に答えるかの様に、アイザックは彼が
充分に寝そべられるサイズの診察台の上に身体を横たえた。

<その疑問をこれから解決しよう。レイチェル、始めてくれ>

「分かったわ」

 レイチェルは座り心地の良さそうな椅子から立ち上がると、
レオパルディネには何の用途に使うのか分からない器材を載せた
カートを押して戻ってきた。そしてデスクの引き出しから取り出した
ノートパソコンのケーブルの先端をアイザックの項にある端子接続口に宛がった。

「いくわよ」

<ああ。やってくれ>

 レイチェルが端子を差し込むと、アイザックの義躰は途端に
弛緩して、それから動く事はなかった。モノアイから光も消えている。

「大尉?」

「今は話し掛けても無駄よ。生体脳と義躰の接続を切断したから。
今のアイザックは眠っているのよ」

 レイチェルがパソコンを操作すると、アイザックの頭部を
すっぽりと覆う装甲カバーのロックが音を立てて外れた。

「こっちにいらっしゃい。アイザックの秘密をみせてあげる」

 アイザックの秘密、という言葉にレオパルディネはドキドキした。
彼の秘密を覗いてみたいと思う反面、同時に後ろめたさもあった。
知り合って間もないが、アイザックという人物は矜持を持つ芯の
通った人間だ。己の職務に忠実で、誇りを大切にする気高い男性だ。
そんな素晴らしい人物の秘密を、本人が与り知らぬ状態の中で
覗いてしまうのは酷く卑怯な行為に思えて、彼女は躊躇った。

「あら、そんなに大した事じゃないわよ。ただの惚気だから」

 レイチェルは慣れた手つきで物言わぬアイザックから頭部カバーを外し、
その内側を見せた。カバーの内側は衝撃吸収素材が内張りされており、
そこに一枚の写真が貼ってあった。
 写真に映っていたのは美しい少女だった。年の頃は十二、三ぐらいだろうか。
乙女として成長し始めた少女の、猫の様にしなやかでありながら
丸みを帯びた姿態は、肌にぴたりと張り付くかの様な豪奢なミニドレスに
よって殊更に強調されていた。ほんのり膨らみ始めた胸、すらりと
伸びた白い手足が眩しい。陽光を受けて淡く輝く髪はまるで銀砂のよう。
翡翠の瞳が悪戯っぽく笑いかけているのは、カメラを構える撮影者に
向けてだろう。それが、少女にとって撮影者が特別な存在である事を
窺わせた。
 レオパルディネは思わず写真の少女に魅入ってしまった。

「綺麗…」

 呟きは偽らざる本音だ。夢見心地の表情で、レオパルディネは
ほうっと溜め息をついた。


「綺麗でしょ? この子はね、アイザックの大切な人なの」

「お子さんですか?」

「んー…二人の関係は親子みたいだけど、違うわ。恋人よ」

「え?」

 その言葉にレオパルディネは凍り付いた。だって、写真の少女は
どう見ても十代始めだ。対するアイザックはそれぐらいの娘がいても
おかしくはない年齢だろう。つまり、それは……

「大尉はロリコンさんですか?」

「んー…それもちょっと違うわね。確かにその子はアイザックと二十五も歳が
離れているけど、かといって彼はロリコンだという訳でもないのよね」

 レイチェルは、どうしたものかしら、言ってもいいのかしら、と
少し考える素振りをしたが、ややあって口を開いた。

「単刀直入と回りくどいの、どっちがいい?」

「単刀直入がいいです!」

「じゃあ単刀直入に言うわ。その写真に映っている女の子は男の子なのよ。
よってアイザックはロリコンという枠組みには当て嵌まらないわ。
どちらかと言えばショタコンに分類されるのかしら?」

 二重のショックでレオパルディネの思考は停止していた。こんなに
綺麗なのに男の子? でもって二十五も歳も離れているのにアイザックは
その子と愛し合っている?
 未知の世界に直面して、全く理解が追い付かなかった。

「でもまぁ、その子は性別が男の子って以外はほぼ女の子だから、
やっぱりアイザックはロリコンなのかしらねぇ」

 レイチェルが何やら独り言を言っているが、それは何処か遠い
異国の言葉に聞こえた。レオパルディネは足元が崩壊していく様な
気がして、ふらふらと近くにあった椅子の上にへたりこんだ。

「なんだかよく分からないけど、色々とショックです…」

「そうかしら? 私は素敵だと思うけど? 無骨な中年フルプラセスと
少女の心を持った美しい少年の恋愛だなんて、滅多に見れないし。
それにアイザックの様なフルプラセスは、私達と違って肉体という
枷から解き放たれている分、より純粋に目に見えない物を大切にするわ。
それは誇りだったり、友情だったり、愛だったり…彼らフルプラセスは
クルードよりも高尚な精神性を備えているのよ。まぁ、肉体的な
充足を得られないから、精神的な充足を求めてしまうとも言えるけど。
でも、彼らの心は綺麗で透き通っているわ。まるで子供の様に」

 レイチェルは中断していた作業を再開しながら言った。普段は
装甲に覆われたアイザックの素顔――耐衝撃構造の頑丈な金属骨格で
作られた一つ目の骸骨の縫合を、パソコンを操作して外した。
そうなるともうアイザックの頭部ユニットの内部機構が完全に
晒された。アイザックの頭部の中身は、何重にも防護された
複雑なセンサー系統と生体脳の維持機構、発声機構、そして
アイザック自身と呼べる生体脳を包むブラックボックスだけだ。
その間を配線や緩衝材が隙間なく埋めている。そうして剥き出しと
なったアイザックの中身に、テキパキと器材から伸びるケーブルや
チューブを差し込んでいった。

「…何をしているんですか?」

「これは彼の生体脳のメンテナンスよ。フルプラセスは定期的に
こうやって生体脳をリフレッシュさせる必要があるの。あと、
今回は生体脳を維持している高濃度ブドウ糖溶液の交換も一緒にやってるわ」

 準備を済ませて器材の電源を入れる。それでもう作業は終わりらしく、
レイチェルはオフィスの奥に消えたかと思うとココアを注いだ二つの
マグカップを手に戻ってきて、応接用のソファーに座った

「見てなくていいんですか?」

「生体脳のリフレッシュは時間が掛かるのよ。貴女もこっちにいらっしゃい」

 レオパルディネはぴくりとも動かないアイザックが気になったが、
結局は温かいココアの誘惑に負け、レイチェルの隣にちょこんと座った。

「熱いから気をつけてね」

 手渡されたマグカップの温もりが心地良い。ふぅ、ふぅと息を
吹き掛け冷ましてからココアを啜る。濃厚なカカオの風味が口の
中に広がり、こくんと喉を鳴らして嚥下すると身体の芯からぽかぽかしてきた。

「美味しい?」

「はい!」

「そう。それは何よりだわ」

 美味しそうにココアを飲むレオパルディネの姿に、レイチェルは
思わず顔を綻ばせた。
 そうやって暫くの間、レイチェルはココアを飲むレオパルディネを
眺めていたが、手持ち無沙汰なのか、マグカップを置くと彼女の
頭を優しく撫で始めた。
 レイチェルにいきなり頭を撫でられ、最初は驚いたレオパルディネだったが、
彼女の優しく丁寧な手つきが心地良いのか、むしろ嬉しそうだ。
彼女もマグカップを置くと、もっと撫でて、と言わんばかりに
無邪気に身体をぴたりと寄せてきた。

「貴女の髪の毛って柔らかいのね。むく毛の仔犬みたい」

「そうですか?」

「ええ。私は好きよ」

 レオパルディネの少し跳ねた赤いくせっ毛は柔らかく、まさしく子供のそれだ。
この年頃の少女は徐々に大人への階段を上がっていくというのに、
この少女はそれを忘れてしまったかの様に純真無垢なままだ。
このぐらいの年頃には、自分は既に純真さを失っていたというのに。
いや、そもそも自分に純真な時代などあったのだろうか?
生まれる前から大人達の道具として弄ばれた自分は、魂すらも汚れている。
 そんなレイチェルは天真爛漫なレオパルディネを羨ましく思うと
同時に、暗い欲望が鎌首を擡げてきたのを自覚した。純白なキャンバスを、
己が思い描く欲望のタッチで染め上げてしまいたいと。
 冷たく碧い氷の瞳が、妖しく光った。

 レオパルディネの柔らかな髪を梳いていた女医の白い指先は、
やがて下へと滑る様に移動し、形の良い耳、弾力のある頬、小さな唇、
細い首筋の順に触れていき、服の上から少女の鎖骨のラインをなぞって
なでらかな肩に置き、軽く抱き寄せた。
 レイチェルの手つきがこそばゆかったのか、彼女に触れられても、
無垢な笑顔でレオパルディネは擽ったそうに身をよじっただけだ。

「ねぇ、寒くないかしら?」

「んー…ちょっと寒いです」

 ココアを飲んである程度は温まったが、やはりまだ少し寒い。
レオパルディネはもぞもぞと身体を動かした。

「じゃあ、こうしたらどうかしら?」

「わっ」

 レイチェルはレオパルディネの軽い身体を抱え上げ、自身の
膝の上に乗せると、後ろから包み込む様にそっと抱き締めた。

「まだ寒い?」

「わぁ! あったかいなぁ!」

 人肌の温もりに包まれて、レオパルディネは歓声を上げた。少女の
小さな身体は丁度良くレイチェルの腕の中にすっぽりと収まっている。

「レイチェルさんって、あったかくて柔らかくて、良い匂いがします」

 背中にむにむにと押し付けられるレイチェルの豊かな乳房の感触と、
鼻腔を擽る仄かな香水の甘い匂いに、レオパルディネは嬉しそうに笑った。

「貴女も温かくて柔らかくて、良い匂いがするわ」

 レイチェルの声は少し艶やかな湿り気を帯びていた。膝の上に
乗せて抱き締めた、丁度良く腕に収まる少女の身体は人よりも
体温が高かった。それは小さな子供の様に代謝が活発だからだろう。
膝の上に乗る、未成熟だが安産型の尻は張りと弾力性に富んでいる。
細く白い項からは乳の匂いと、新鮮な果実の様に甘酸っぱい芳香が
揺らめいて、狂おしいまでに官能を刺激された。

 正直、レイチェルの自制心は限界に来ていた。同性しか愛せない上に、
更に小さな女の子を特に好むという変態的な性癖を持つ彼女には、
このまま生殺し状態でいるというのはもはや拷問に近い。今すぐに
暗い欲望に身を委ねて少女の純潔を踏みにじり、自分のものにしたかった。
少女の青く未熟な花弁を散らし、甘やかな蜜を心行くまで味わいたい。
この子はどんな表情(かお)で乱れ、どんな声で鳴いてくれるのだろう。
きっと凄艶で、小鳥の様に素敵な声で鳴いてくれるに違いない。
想像するだけでレイチェルの女は熱く疼いた。
 しかし仮にもアイザックが預かっている子だ。少女の頃から十年来の
付き合いがある彼の大切な部下にちょっかいを出すのは些か気が引ける。
 だが、ばれなければ何も問題はない。ただ、これから彼に会う度に
ほんの少し心苦しく思うだけだ。それにこの子の心を傷付けずに
楽しむ方法はある。白衣のポケットに忍ばせてある注射器には、
自白剤をベースに調合した特殊な薬物を充填してある。人の心を
思いのままに操れ、記憶すら簡単に消す事が可能だ。酷い事を
されたという記憶がなければこの少女が傷付く事は決してない。
しかし薬漬けにして、玩具にするのもいいだろう。
 レイチェルは気付かれない様に薄く笑い、さりげなくポケットに
手を忍ばせて注射器を握り締めた。

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