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第2話【ザイフリード】

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「これが……、切り札……。凄い……」
「当然ね。なんたってザイフリードですもの」
 崩れた丘から上半身を覗かせる騎士――ザイフリード――は、雪人達へと迫る機甲騎士と比べ、非常に格調高く思えた。
 それは、土に埋もれていたにも関わらず一片の輝きをも失っていない白銀の鎧に身を包んでいるからか。
 白銀の鎧――ザイフリードの体を覆う装甲は、雪人もゲームや物語などで馴染みのあるプレートアーマーによく似ている。
 また、ロボットのキモとも言えるアクチュエーター内蔵の関節部分も、隙間無いよう白銀の装甲で覆われていた。
 両の肩部アーマーからはそれぞれ一本ずつ、テールが機体後方に向かって伸びている。
 胸部アーマーの、特に左胸は意匠の凝らされた作りになっており、何かの紋章が象られていた。
 重装の胸部に比べ腰部分は細く、蛇腹状の装甲によって守られている。
「……」
「どうしたのよ」
「綺麗だ……」
「当然!」
 雪人が無意識に呟いた言葉に、マナは自分がそう言われたかのように喜んだ。
 それはマナが、このザイフリードを心の底から誇りに思っていることの証であろう。
「……お姉様、時間がありません。ユキトも」
「あ、ああそうね忘れてたわ。ユキト! あんたは今から、ザイフリードに乗りなさい!」
「ああ! ……ああ? ……ええっ!?」
 マナからの突然の搭乗指令に、雪人が心底驚いた顔で飛び上がった。
 ザイフリードに乗れ、だって? それはつまり、この騎士を動かせと言うことであって……。
 つまりこの騎士を駆って、着実にこちらへ向かいつつあるあの騎士を倒せということだ。
「む、無理無理無理無理!」
「無理じゃない! できるわ!」
「そうですユキト、あなたならば……いえ、あなたにしかできません!」
「な、何故にっ!」
「そう、決まっているからです」
 ミナがその瞳に力強い光を宿し、雪人を見つめる。その姿に思わず雪人も言葉を失ってしまった。
 二人の間に沈黙が流れる。互いに口を開かず、否、開けず、ただただ見つめあう。
「はぁ。いい、ユキト。ミナはね、巫女なのよ」
 その沈黙が気まずかったのか、マナがおちゃらけた風に口を開く。
 マナが言葉を続けるのと同時に、ミナが気まずそうに視線を逸らし、地面へと向けた。
「黒いローブ、それは巫女の礼服みたいなもんなんだけど……ううん、それはともかく」
「な、なんだよ」
「優秀な巫女は、ありとあらゆる物をこの世界へと呼び出すことが出来る。これがどういう意味か、わかるわよね」
 この世界へと、呼び出す。雪人はその言葉を反芻し、そして理解した。
 自分はやはり異世界に呼び出されたのだ。
 そしてそれは、目の前にいるこの少女、ミナ・エウリューデの力によるものだったのだと。
「お前が……、俺を……?」
「そうです……。ユキト」
 顔を上げたミナの瞳には、若干の後悔と、縋るような色が見て取れた。

 機甲聖騎士ザイフリード 第2話【ザイフリード】


「お前……、お前が俺をこんな世界に呼んだのか」
「はい……」
「だったら、俺を元の世界に戻す事なんて容易いはずだよな? 返してくれよ」
 堰を切ったように、雪人の口が動き始めた。
 何の意味もなくこんな出来事に巻き込まれたと思っていたが、すぐ近くにその要因がいたのだ。
 聞きたいことや言いたいことがたくさんあって、上手く言葉に纏まらない。
 しかしとにかく雪人にとって重要であったのは、元の世界に戻れるのか、否かであった。
「どうなんだよミナ! 俺は戻れるのか! 戻れるよな、な?」
「……」
「何で黙るんだよ……、おい! 答えてくれよ!」
「ちょっとユキト、妹を虐めないでもらえるかしらね」
 マナの避難するような視線に、雪人は若干たじろいだ。
 少し勢いに任せて乱暴な口調が過ぎたかも知れなかった。事実、ミナは涙目になっている。
 雪人は自称フェミニストであった。女性にこんな表情を見せられるのはたまった物ではない。
「う……、すまん、ミナ」
「い、いえ……」
「あの、それで……、俺は元の世界に戻れるのか?」
「まだ言うかこの夜這い魔!」
 反応する前に、マナの拳が雪人の腹にめり込んだ。
 ぐえっ、と情けない声を出し、雪人は草原に転がった。
「な、なにすんだっ……」
「今問題なのはそこじゃない! 見なさい、あれを!」
 痛みで滲んだ視界、マナが指さす方向にはさらに距離を詰めてきた機甲騎士が見える。
 もう数分でこちらまで辿り着いてもおかしくはない。地面の揺れもひどくなってきている。
「くっ……、確かに、今はあいつを何とかしないと……」
「だぁから、あんたがザイフリードに乗るのよ!」
 ずい、と頬を膨らませたマナが雪人に詰め寄った。
 目と鼻の先にマナの整った顔があり、雪人は少し気恥ずかしくなって目を逸らした。
 彼女が膝を屈めている故に、白いワンピースの胸元の谷間を直視してしまうことになりかねないというのも理由であるが。
「あー、あの……絶対?」
「生きている限り、どんなこと、何にでも可能性はあるって知ってた? つまりはそういうことよ」
「ユキト、厚かましいとは思います……。けれど、お願いです!」
 マナとミナ、二人の言葉に、雪人は無言で、だがしっかりと頷いた。
「……ここで死んだら、帰れるものも帰れないしな!」
「ユキト。あんたはもう、ザイフリードに認められているわ。心ゆくまで、ザイフリードを駆りなさい!」
「え?」
「お姉様と私があなたを認めていますから……。ザイフリードもきっと、それに応えてくれます」
「……そうなのか、ザイフリード」
 下半身を未だ土砂に埋めたままのザイフリードに向かい、雪人は問うた。
 すると、彼の言葉に反応したのか、兜をあしらったデザインの頭部、その奥から覗くザイフリードの両眼が光り始める。
「う、うわっ?」
「ユキト、あなたはザイフリードに認められたのです。……あなたは今日から、騎士となるのですよ」
「俺が……、騎士……?」
 雪人の問いかけに、ミナは静かに微笑んだ。
「まだまだひよっこのへなちょこでしょうけどね」
 続いてマナが茶化すように口を開く。
 うっさい、と雪人は答え、ゆっくりと差し出されたザイフリードの左手にその足を掛けた。
「……ザイフリード、頼む」
 敵の機甲騎士は、着々と近づいてきている。このザイフリードが発見されるのも時間の問題だろう。
 雪人が搭乗する前に撃墜――なんてことになっては洒落にもならない。
 雪人のはやる気持ちと焦りに応えたか、ザイフリードの左手は左胸部、紋章の手前まで彼を持ち上げた。
「ここに……、入れってことなのか?」
 問いと同時に、紋章が中心を境に二つに割れた。
 開かれた扉から覗くのは、ザイフリードを駆るための中枢部分だろう。
 雪人は小さく頷き、ザイフリードのコクピット部分へと足を踏み入れた。
「……なるほど、全方位カバーってね」
 雪人がコクピット内部に入った後に扉が閉まり、扉があった部分を中心に、全周囲に外の風景が映し出された。
 雪人の足下――ザイフリードの足下近く――には、勝ち気な笑みを浮かべるマナと、心配そうに胸の前で両手を握るミナの姿が見える。
「む。これに座れってことか」
 扉のあった位置、つまりザイフリードと雪人から見て正面に対するように、操縦席が置かれていた。
 雪人の過ごした世界では見たことも触ったこともないような不思議な材質であり、常に、薄い色を変えて発光している。
 それに座ったと同時に、足下には二つのヘッドペダルが、両手近くには操縦桿が、どこからかせり出してきた。
 それぞれに手を掛け足を掛け、雪人は薄く笑った。
「さぁて、やってやろうじゃないか!」
 足下のフットペダルを踏み込むのと同時に、機体が大きく揺れる。
 両足のスラスターを噴かしているのだ。雪人はペダルをさらに強く押し込んだ。
「まずは枷を取るぞ!」
 ザイフリードの下半身は土砂に埋もれている。強くスラスターを噴かし、雪人は土砂を除けることにしたのだ。
 数秒の後に足下のスクリーンを見れば、下半身を覆っていた土砂は全てどこかへ吹き飛ばされていた。作戦成功である。
「よし、やれるな」
「こらこの夜這い魔ぁぁぁぁ!」
 満足そうに頷いた雪人であったが、横合いから入った少女の怒号に眉を顰めた。
「なんだよ……」
「考え無しに行動するんじゃないわよ! 見なさい、私の服が!」
「あ……。悪い」
 マナの服は、飛んできた土や砂のせいで白い部分を見つけるのが困難なほどになっていた。
「あんた、降りてきたら折檻よ。折檻折檻……、うふふふふ」
「降りたくねぇ……」
「ユキト、頑張ってください……。どうか、ご無事で」
「ああ、心配しなくて大丈夫。こいつに乗ってると、負ける気がしないからな!」
 見えてはいないだろうが、雪人はスクリーン越しに、ミナへと満面の笑みを向けた。
 それを感覚で理解したのか、ミナも小さく笑みを漏らす。
 ミナのその姿を見て、何故か雪人の心は、ふと温かくなるような、そんな感覚に囚われた。
「そろそろ……だな」
 スクリーン正面。刻々とザイフリードとの距離を詰めるのは、フランツァ王国の量産型機甲騎士キルデベルタであった。
 陽光を浴び、燦然と輝く白銀の鎧を纏うザイフリードと比べると、その装甲はくすんでしまった鉄の鎧としか見えない。
 だがその姿は紛れもなく騎士である。兜の形状はザイフリードと比べるといたってシンプルで、頭蓋は曲面状に覆われていた。ヘルメットに見えるな、と雪人は何となく思った。
 ヘルメットの下、面の奥に配された両眼はカメラアイとなっており、怪しく紅い光を発している。
 機甲騎士の挙動において重要なアクチュエーターが内蔵される肩部や大腿部アーマーは大きな球状になっており、中身をしっかりと守られるように作られていた。
 また、腰部分はスカートのようになっており、関節部分保護と武器でもある細剣の保持に一役買っている。
 全体的に見て、突出した部分はない、纏まった機体と言える。量産機として見れば、かなり評価の高い部類に入るであろう。
「……来たか」
「いい、ユキト! ザイフリードを壊さないように! 以上!」
「わかってる!」
 雪人がそう叫んだのと同時に、ザイフリードの存在に気がついた敵のキルデベルタが右手を前に突き出すように駆けてきた。
 右手の指、五本のマニピュレーターは銃口になっており、そこから牽制用の掃射を行なうのである。
「マナ、ミナ、お前達はとりあえず逃げてろ」
「ええ! 頑張るのよ!」
 その言葉に頷き、雪人はペダルを踏みしめた後操縦桿を倒す。
 またたく間にその動きはザイフリードの両下肢へと伝達し、聖騎士はキルデベルタの射線から避けるように素早く動いた。
 ザイフリードが動いたことに若干驚いたのか、キルデベルタの動きが一瞬止まる。
「もらった!」
 雪人の叫びと共に、ザイフリードが駆ける。脚部スラスターを噴かし、一直線に敵へと向かっていく。
 ザイフリードに武器はないが、固めた両の拳はおそらく敵の装甲を貫けるであろう。
 右腕を振りかぶり近づいたところで、ようやく敵が動きを再開した。後方にスラスターを噴かしつつ、頭部のマスク部分に埋め込まれていたバルカン砲からの牽制射撃を行なう。
 スラスターの勢いで草原が抉れ土埃が舞った。視界の悪い状況で、敵からの射撃攻撃を受ける状況はあまり芳しいものではない。
 雪人はペダルを踏み込み、後方へと回避行動を取った。
「こっちにも何か……、飛び道具があれば……」
 だが見たところ、ザイフリードには飛び道具と思わしき武装は搭載されていない。
 だがため息を吐いた雪人の言葉に呼応してか、操縦桿の一部分が薄く光った。
「……これは……ザイフリード……、これを使えってことか?」
 答えはないが、しかし既に出ているようなものだ。
 ザイフリードは雪人を認めた。その彼が、雪人に教えてくれているのだろう。
「オーケー、やってやるよ! うおおおおっ!」
 雪人の咆吼。
 ザイフリードの肩部アーマーから伸びるテールがゆっくりと持ち上がり、先端は円弧を描くようにして機体の正面へと固定された。端から見れば、肩部から砲身が伸びたような形となる。
 数刻の後、テール先端部分が輝きを増した。光が収束し、大きな球を作り出す。
「ん? ……そうか、こいつは【テール・カノン】だな?」
 スクリーンの端に映し出された、Tail Cannonの文字。それはおそらく、この武器の名称なのだろう。
 文字の下に表示された数値は発射までの時間を表している。
 テール・カノン発射まで、後数秒……。
「覚悟しろよ……、ヘルメット野郎」
 だが、しかし。
「うわああああっ!」
「なにっ!?」
 粉塵の影から、敵のキルデベルタが飛び出して来る。フィンガーバルカンを発射しながらの突撃である。
 テール・カノンの充填は終わっているが、思わぬ襲撃にザイフリードはバランスを崩してしまった。
「ぐっ……、うおおっ!」
 雪人は無理矢理に機体上半身を捻り、テール・カノン発射のトリガーを引いた。
 しかし不安定な姿勢からか銃身は逸れ、キルデベルタの横を狙うような形となってしまう。
「くそっ!」
 雪人の毒づきと同時に、テール・カノンが発射された。
 大地は震え、空が揺れる、そんな感覚に陥るほどの轟音が雪人の脳髄を叩く。
 スクリーンのほとんどを覆うような閃光が迸る。あまりの衝撃の大きさに、雪人も開いた口を塞がずにはいられなかった。
 発射の反動で機体が撥ね、ザイフリードは草原をゴロゴロと転がる。白銀の騎士が、情けなく地を転げ回る。
 何回転したろうか。雪人は頭を打ち付け、彼の視界には星が舞った。
「……てて……、どう、なった……。……な!?」
 瞳を開けて、スクリーンを凝視する。
 段々とはっきりしてきた雪人の視界が捉えた、かつての草原は、見るも無惨な姿になっていた。
 大地は数km先まで、テール・カノンの射線上に抉られ、黒い煙を上げている。敵のキルデベルタも巻き込まれたのか、短く残った右腕を残し、跡形もなく消えてしまっていた。
 そう、全てはザイフリードの力のために。
「……な、おい……嘘だろ? いくらなんでも、無茶苦茶すぎる……」
 過ぎたる力。そんなフレーズが頭をよぎる。
 まさしくそれは、一介の高校生に過ぎなかった雪人には過ぎたる力としか言いようがなかった。
 テール・カノンは、発射すれば全てを消し去る魔の巨砲だ。
「くっそ……、今になって膝が笑って来やがった……。なんだよこれ」
 腔内がカラカラに乾いてしまった。上手く声を出せない。
 操縦桿を握る両手も、じっとり汗ばんで力を上手く入れられない。
「……こいつは……、とんでもないぞ……」
 雪人はぼんやりと呟いた。
「……ユキト」
 ザイフリードを降りた雪人を待っていたのは、屋敷から大急ぎで駆けてきたのか、肩で息をするマナと、涼しい顔で姉の後ろに立つミナの姉妹であった。
 マナは言いたいことがたくさんあるのか、ザイフリードやテール・カノンがこしらえた直線上の焦土、雪人を代わる代わるに見ては口を開けたり閉めたりしている。
「マナ?」
「あー……えっと、とにかく。うりゃっ!」
「げぶぅっ!?」
 意を決したか、マナが拳を大きく振りかぶって雪人を殴った。鳩尾への一撃に雪人はバランスを崩し、またも地に伏す。
「な、なにずんだっ……!」
「あんたは、馬鹿かっ! あんなことになって、もう……あんたは!」
「……」
 マナの言うあんなことというのが何であるのかは、さすがの雪人も一瞬で理解した。
 テール・カノンでの一撃と、それによるかのような甚大な被害。マナが怒るのも無理はないと思う。
「今回は屋敷と逆方向で良かったけど……いやあんまりよくないけど、それでもこれはやりすぎよ……」
「俺だって……そう思ってるさ」
「……ザイフリードは、強大な力を持った機甲騎士です。自身が持つ力を、見誤ってはいけません」
 今まで黙っていたミナが、ゆっくりと口を開いた。
 まったくその通りだと、雪人は小さく項垂れた。
「……今回は、初めてザイフリードを駆ったわけです。こういう事があっても、おかしくはありませんよ、お姉様」
「だけど……、こんなひどいことになってるのよ? 見なさいよ……」
「心ゆくまでザイフリードを駆れと仰ったのはお姉様です」
「う……」
 ミナの正論に、マナが言葉を詰まらせる。
「それに、早い段階でザイフリードの力の大きさを知れたことは僥倖と言えます。これから先、能力をセーブして戦うことが出来るようになりますから」
「……それも、そうね」
「ですから。ユキトに謝罪しないとダメですよ、お姉様」
「うん……ユキト、その、いきなり殴って悪かったわね。……過程はともかく、結果は完全にあんたの勝ち。よくやってくれたわ」
 笑顔で手を差し出すマナ。雪人は小さく微笑み返し、その手を握った。
「ところで、フランツァとか何とか言ってたよな、さっきの騎士」
「説明していませんでしたね。私たちが住まうブルグント王国は、隣国フランツァ王国と現在戦争のまっただ中なのです」
 雪人の疑問に対し、ミナが静かに答えた。
「戦争……」
「そ、戦争よ。詳しい事は後で教えてあげるけど……。ミナ」
「はい?」
「ちょっと……」
 マナがミナを手招きし、耳元で何事かを囁く。マナが一言喋る度にミナの顔色は様々に変化し、見ている雪人を飽きさせなかった。
 とはいえ、なんだか疎外感ばりばりでもの凄く寂しいことに変わりはない。
 既にこの二人との会話には慣れたと言っても、雪人は着の身一つで異世界に放り出された不運な高校生なのだ。
 まだ不安なこともたくさんある。自分はこれからどうなってしまうのか、など。
「……」
「ユキト」
「ん?」
「あんた、今日から私たちの下僕ね」
「はぁっ!?」
 いきなり、それも予想の遥か斜め上を貫くマナの言葉に、ユキトが目を剥いた。
 だが、マナは事も無げに、さらっとした表情で言葉を続けようとする。
「拒否権は無し。なぜならユキトは夜這い魔だから」
「違うって言ってる!」
「しらを切るの? 知ってんのよ、あんたが私の……胸をちらちら見てるってね」
「!?」
 雪人の反応に、マナは「図星ねー」とけらけらと笑った。
 目の前でそれなりの大きさの胸が揺れていたら、目が行くのは男の性である。
「胸のことはともかく……、ベッドにいたのは仕方ないだろ。ミナが俺を――」
「ふぅん……、男の癖に責任一つ取れないの?」
「何の責任だよ何の! ……っていうか、俺は元の世界に戻れるのか!?」
「――その事ですが、ユキト」
 やけに沈痛な面持ちのミナに、雪人は不安を隠せなかった。
「呼び出すことは容易いのですが……、戻すことは……」
「ちょ、ミナ、おまっ……ええっ!? 俺は元の世界に戻れないのかよ!?」
「い、いえっ、ですから、私がさらに優秀な巫女になれば……その」
 つまり、ミナが優秀な巫女としてこれ以上の力をつけるまでは雪人はこの世界に縛られなければならないと言うこと。
 少しだけ、目頭が熱くなってしまった。
「マジ……か……」
「はい、ですからそれまで私たちの事……、守ってくださいね」
 小さくちょこんと首を傾げたミナに対して、雪人は何も言うことは出来やしなかった。
 ――だって可愛いんだもの! 守りたくなっちゃうよね!


 続く

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