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ビューティフル・ワールド 第二話 赤白

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―――――――この物語の主人公である、三つ編みの少女こと一条遥が、もう一人の主人公、鈴木隆昭と遭遇する数十分前に時間を戻そう。

遥とリヒターが特訓していた草原から少し離れた場所に、その家はある。
壁に伸びている蔦が特徴的である、二階建てレンガ造りのその家は、不思議とノスタルジックな趣を感じさせる。
この家に住居を構えるのは――――何でも屋、やおよろずと呼称させる面々だ。遥とリヒターはこのやおよろずに所属している。
まだまだ期間が短いので、生憎新人としてキャリアは皆無だが……。

やおよろずが掲げる何でも屋という看板は伊達では無い。
オートマタの修理・点検・整備から、ある種の探偵業、果てはちょっとした揉め事処理まで依頼があれば幅広く引き受ける。
それでいて成功率は極めて高く、その筋からの信頼は高い。これから、性格は少々個性的ながらも、プロフェッショルな面々を簡潔ながら紹介していこう

優雅さと渋さを兼ね備えた珈琲の匂いが、部屋に充満する。さて、味の方はどうか。コップに一杯注ぎ、テイスティング。

美味い。やはり上質の豆を焚いただけあり、深い旨みがある。ルガ―・ベルグマンは自らが入れた珈琲の味に、満足げに頷いた。
ルガ―・ベルグマン。彼はここ、やおよろずではメカニック一人目にして、料理洗濯掃除云々の雑務を担当している。その仕事ぶりは正にパーフェクト。
その豪快さ溢れる図体とは反面、常に繊細な仕事ぶりには皆、高い信頼を寄せている。無論、珈琲を作るのも、上手い。

「やっぱりルガ―さんの入れる珈琲は美味しいな。喫茶店開けるよ」

新聞紙を片手に、やおよろずのメカニック二人目兼突っ込み担当のライディ―ス・グリセンティが、ルガ―の入れた珈琲を一杯飲んで感嘆の息を漏らす。
その利発そうな眼鏡が示す通り、理知に富んだ頭脳明晰な少年である。まだ10代ながらも、メカに対しての造詣の深さは並みではない。
が、その常識人ぶりが災いしてか、このやおよろずでは突っ込み役という、幸か不幸かあまり名誉では無いポジショニングを与えられている。
まぁ、彼の突っ込みがあってこそ、面々のボケが一層際立つのだが。彼にはもう一つ特徴があるが、それは後々明らかになる。

「お、珈琲ですね! さっきから良い匂いがすると思ったら……!」
何処からともなく現われた、茶色い作業着を着た一人の少女がテーブルの上に置かれた珈琲を見、嬉しそうに笑う。
少女の綺麗な肌と麗しい金髪は、何か機械でも弄っていたのか煤で薄汚れている。せっかくの可愛らしい姿が少しもったいない。

「整備お疲れさま、リタちゃん。珈琲飲む前に、シャワーを浴びてきた方が良いよ。顔が煤だらけだから」
「はーい! 入れたて宜しくです!」

そう言ってバタバタと、元気よく駆け出していった金髪の少女は三人目のメカニック。リタ・べレッタ。
やおよろずではもっとも個性的でかつ、抑えの利かないおてんば娘だ。ちなみに恋はしてない。

どこかのアグネスがガラっと戸を開けそうな程の発育途上なロリータボディと、幼い顔つきはとても19歳には思えない。思えないが、立派な19歳である。
一応言葉づかいは年相応だが、その性格はまさに体は子供、頭脳も子供。興味がある事には直猛突進。納得するまで追求する。ついでにボケも直猛突進な為、気が抜けない。
とはいえ、彼女はその年にしてライディ―スと同じく、実に優秀なメカニックだ。彼女の確かな腕前には、皆一目置いている。

<全く……騒がしいぞ貴様ら。さっきから全く寝つけないじゃないか……>
ふと、空中から眩い高級感と、言いしれぬ威厳を醸し出す金色の玉石が備えられた杖がふわふわと二人の間を漂う。
それだけでも驚くべき事だが、杖は驚くべき事に、二人に気だるそうに話しかけている。

実はこの杖は杖ではない。杖の形状をしているが、実はリヒターと同じく、オートマタなのだ。
説明していなかったが、オートマタは一部を除き、非戦闘時にはこの様に形態を変えて、持ち主と共にある。リヒターも普段は杖として携帯されている。

この杖、もといオートマタの名は玉藻・ヴァルパイン。やおよろずに所属するオートマタの中では、最も古い、いわば古参及び大ベテランだ。
その口調は老獪さと厳しさを兼ね備えた……というより、単純に眠れない事にいらっと来ている低血圧なお姉さん的な物を感じる。
巧みにリヒターにも人格がある様に、玉藻にも女性としての人格がある。引き籠りがちで皮肉屋という、少々難儀な性格だが……。

「まぁまぁ……リタちゃんには後で僕から言っておくから」
<ふぅん……少しは女らしさというモノを学んでほしいものだな、リタには……。二度寝するから静かにしてくれ。分かったな>

ルガ―にそう言い残し、玉藻はふわふわとどこかへ飛んでいった。その様子に、ライディースは苦笑する。

ざっと紹介したが、やおよろずの面々はこれで全てではない。主人公である一条遥とは別に、後三人。
このやおよろずを取り仕切る家主、もといオーナーである可憐な少女と、この物語の裏の主役と言える一人の男と一機のオートマタがいるがそれはまた後々。

「ん、ルガ―さん、ちょっとちょっと」
先程までの安らいだ表情から一転、ライディースが新聞のある一面を読み、険しい顔つきになる。
ルガ―がその体格に似合わぬ、可愛らしい刺繍エプロンの紐を締めると、ライディースに体を向けて聞いた。

「もしやまた。例の事件かい?」
「あぁ。今回もアリーナの上位入賞者……。列車に乗ろうとした所を件の犯人に襲撃されて、何も出来ないまま強奪されたって……」
「物騒な事件だなぁ。ここ一週間で何件起きてるんだろう……。多分10件くらい起きてる気がするね」

ルガーとライディースも憂いた表情を浮かべるが無理もない。
何と言ってもここ数週間で、何十ものオートマタが何者かによって強奪される事件が多発しているのだ。

事件の顛末はこうだ。
被害者達は皆、オートマタを所有している神子。それぞれ高い役職に就いていたり、アリーナと呼ばれる武道会の上位入賞者だったりと割とスペックの高い者達が多い。
強奪と言われるだけあり、被害者達は皆、犯人から無理やりにでもオートマタを奪われていくらしい。中には死にはしないものの直接攻撃を受け、重傷を負った神子もいる。
無論、抵抗を試みロボットへと変化させる神子もいるが、闘いが始まった瞬間、気づけば自分のオートマタが機能を停止し、そのまま強奪されてしまうという。
抵抗した神子の中にはかなりのベテランもいるが、その犯人の所有しているオートマタの異常な強さに、全く手も足も出ないと聞く。

被害者の面々は、そのオートマタを口々にこう呼ぶ。「鬼」と。

「リヒトさんとへ―ちゃん、大丈夫かな……」
ライディースが不安げな声でそう言うと、ルガ―が二杯目の珈琲を入れて、明るい声で答えた。

「大丈夫さ。どんなピンチもひょいっと、明るく乗り越えてくれる。そういう二人だよ」
ルガ―の言葉に、ライディースは微笑を浮かべ、置かれた二杯目の珈琲に口を付ける。実はこれ以外にも気になるニュースがあるが、個人的な事なので心にしまって置く。
と、シャワーを浴びて普段着に着替えたリタが、首にタオルを巻いてやって来た。こうして見ると、ホントに小学生くらいじゃないかと思うくらい、リタは小さい。
見計らって、ルガ―がテーブルの上に珈琲を置く。リタはイスに座り目を瞑ると、両手を使って熱い筈のコーヒーを一気に飲み干し、すっきりした表情で言った。

「うーん、美味い! もう一杯!」
「ちょ、熱くないのかよ! コーヒー牛乳じゃないんだぞ!」
「いま豆焚いてるからちょっと待っててくれるかな」
口を付けるや数秒経たず飲み干したリタと、反射的に突っ込みを入れたライディースに苦笑しながら、ルガ―は再びコーヒーを焚く。
普遍的だが、幸福であるこのだらけきった時間。が――――勢い良くドアを開ける音によって途切れる。

何事かと、ルガ―及び二人が玄関へと駆けつけてくる。
三人の前には、リヒターが変化したであろう、黒き杖を持った遥が息をぜぇぜぇと荒げて立っていた。
よっぽど急いだのであろう、服や肌に泥が跳ねている。その様子を一瞥し、ルガ―が心配そうに口を開いた。

「……遥ちゃん?」

「……突然ですみません。ルガ―さん……ライ……頼みが……頼みが、あるんです」

「草原に居る三人を……助けて、欲しいんです」



                          ビューティフル・ワールド

                       the gun with the knight and the rabbit


――――やおよろずから所変わって、大分離れた場所へと視点を変える。

人の気配はおろか、生き物の気配も無く、虚無と負の雰囲気が充満する廃工場。
その廃工場の中へ、凶悪めいた目つきの黒いスーツの男達が、両手に手錠をした子供達を連れて工場の中へと入っていく。
男達の表情には堅気では無い、明らかに外道な雰囲気があり、その男達の後ろで歩く子供達の目に、生気は無い。

男達の先頭で下品な毛皮を羽織り、仰々しいアロハシャツを着た大柄な男(以下アロハシャツ)が、持っているブランデーの瓶をラッパ飲みし、下卑たゲップを吐く。
その横には悪趣味な紫のスーツ(以下紫スーツ)を着た小柄な男が、男をよいしょする様に手を擦って男に媚び諂う目線を送っている。

「しかしボス、今回も高値で……売れますかね?」
紫スーツが手を擦りながらアロハシャツに笑いを浮かべながら言う。アロハシャツはブランデーを飲み干すと、口元を二やりとさせて返答した。

「高値で売らなくてどうする。せっかく苦労して集めたんだ。是が非でも買わしてやる」
「へへへ……流石です、ボス」

アロハシャツと紫スーツは目を合わせると、口元の端々をニヤリと歪ませた。その様は下品としか言いようがない。
アロハシャツと紫スーツ、そして黒服の男達の正体は言わずもがな、悪党だ。それもドが付く。
連中は殺人はもとより恫喝、強請、殺人、強姦、果ては薬物売買まで人として外れた事を幾度となく重ねてきた。それも何十年にも渡って。
無論公的な機関は連中の悪事を捕まえようと躍起になってはいるものの、連中は巧妙に、かつ狡猾に、その包囲を潜りぬける。

今回はその悪事の一つ――――ある売買を行う。その売買の商品は――――人間。それも、まだ10代前半の青臭さが抜けない子供達をだ。

時に難民から奪い、時にふとした瞬間から、親からはぐれてしまった子共を、時に……これ以上は止めておくが、連中は様々な手で商品となりそうな子供達を誘拐する。
そして徹底的に人間としての尊厳を奪い、商品へと仕立てあげていく。勿論、子供達の未来など考えもしない。
自らの意思を失った子供達は、商品として様々な人間へと売買されていく……。

ある子供は異常性癖を持つ富豪の奴隷となり、ある子供は臓器を移植する為だけに生かされ、ある子供は……。
考えるだけでもゾッとする程、えげつなく、残酷な末路を子供達は迎えている。そこに、救いなどありはしない。
今回の取引は、大きな企業の重役と名乗る男から、少女を買いたいと言う契約の元、売買を行う。

子供達はボロ布の様な服と言えない物を着せられており、胸には数字が乱暴に書かれたワッペンが縫われている。
生気を失ってもなお、寒さと恐怖心からか子供達の顔にはハッキリと怯えが見える。
しかし、言葉を発する事を許されない為か、何も言わずガタガタと体を震わせるだけだ。

「で、今回の奴はまだ来てねえのか?」
「もうそろそろな筈ですが……」

各々、廃材や機能を停止した大型機械に座り、連中は取引相手が来るのを待つ。それぞれ腰元に備えた拳銃の点検等をし始める。
毛皮のコートを紫スーツに手渡し、アロハシャツは扇子を広げて風を煽ぎながら、ドスンと腰を下ろして取引相手が来るのを待つ。
待ちながら、商品である子供達を一瞥するその目は、邪悪。冷酷に品定めをするその目に、人間的な物は何も感じられない。

何時頃からか、廃工場の周りを数機のオートマタ達が徘徊し始める。リヒターの様な精悍さも堂々さも見えない、醜悪なデザインのオートマタ達だ。

オートマタには、リヒターや玉藻の様に特定の持ち主が居ない、野良と呼ばれる種類が存在する。
野良と呼ばれる由縁には、特定の持ち主が居ない為、マナと呼ばれるエネルギーを常に補充できない事と、それ故に性能が低く知能も拙い事から。
しかしそれ故に、マナさえ貰えるならばどんな事でもする。よってその目的の為なら、どんな凶暴な事さえ厭わない。

「きりきり働けよ……ガラクタども」
掌を地面に付き、アロハシャツがニヤリとした笑みを浮かべたまま、誰ともなしに呟く。
恐らく、徘徊している野良オートマタ達とアロハシャツにマナを供給されており、その代価として、取引を守る用心棒となっているのだろう。
この様な男でさえ神子である事に、世の無常さを感じる。と、何者かが工場内に入って来た。今回の取引相手だ。

「ボス、来ましたよ」
「おう」

アロハシャツは立ち上がり、紫スーツから毛皮を受け取り羽織ると、取引相手の元へと歩いていく。取引相手も、アロハシャツの男の元へと歩いていく。。
取引相手の男は体全体が膨れており、これ以上無い程の肥満体形だ。着ている白いスーツも相まって、実に気持ちが悪い。歩く度にドス、ドスと不気味な音が響く。
右手には趣味の悪いダイヤを何個も嵌めており、黒光りする大きなアタッシュケースを持っている。今回の取引における代価だろう。
男達がそのアタッシュケースを見、中の紙幣を想像したのか、目元を緩ませる。紫スーツに至っては分かりやすく口からよだれが出ては、右腕で拭う。

「エトフ・リィー・ヒンル―ド本人だな」

アロハシャツが、手元に握っている資料と、取引相手の男――――エトフの顔を交互に見ながら聞いた。
エトフはにま―と歯を剥いて笑うと、大きく頷いた。アロハシャツの顔にも笑みが浮かぶ。合わせる様に、エトフがげへへへと不快な笑い声を発した。
紫スーツが怒号を浴びせながら、エトフの前に子供達を横一列に並べはじめた。子供達は視線を上げない様ビクつきながら、一列に並ぶ。
やはり怖いのだろう、子供達の目から涙が零れだす。よくよく見ると、子供達の肌には痛々しい痣や、火傷の痕の様な物がちらちらと見えている。

「ガキ一人に付き50万、女は上質なガキを選んだからプラス20万だ。好きなのを選んでくれ」

アロハシャツが葉巻を咥えると、慌てて紫スーツがライターで火を付ける。エトフは子供達の顔をじろじろと見ている。
子供達はただただ、エトフの視線から目を逸らす事しか出来ない。今にも肉食獣に捕食されそうな、小動物の様に。
エトフしばらく子供達を観察すると、アロハシャツに聞いた。

「ちょっと話してみたいんだけどぉ、良いかなぁ?」
その体格に見合った、野太く、そして生理的不快感を感じさせる声に、一層、子供達は体を強張らせる。
アロハシャツは紫スーツと一言二言話すと、構わんよと気の無い返事をした。エトフはしゃがむと、一人の男の子の耳元まで近づいた。
一体何をされるのか……と、子供が肩を震わせる。エトフは子供の耳元に自らの口を近づけると、周囲に聞こえない、しかし通った声で男の子に囁いた。

「俺がくしゃみをしたら、皆を連れて適当な場所に隠れていてくれ。心配すんな、すぐに終わる」

さっきの生理的不快感ボイスと全く違う、痺れる様な低温イケメンボイスに、男の子の顔がキョトンとなる。が、何かを察したのか、小さく頷いた。
子供の反応に、エトフが右目でウインクをする。立ちあがり、アロハシャツに向き合う。
エトフの目を見るに、誰を買うかが決まった様だ。アロハシャツが葉巻を地面に落し、踏みつぶすと、エトフに聞いた。

「決まったか?」
「あぁ、でもちょっと待ってくれぇ。くしゃみが……」

エトフがそう言って大きな鼻を膨らまし、顔をしかめて――――びゃあっくしょん!っと弾ける様なくしゃみを発した。
瞬間、エトフの体が異常に膨張し、やがてエトフの顔が埋もれた。目の前で起きている事が理解できず、アロハシャツ含めた連中と、子供達が目を丸くする。
次の瞬間、エトフの体が大きな音を立てて風船の様に破裂し、持っていたアタッシュケースが右手から落ちた。

するとアタッシュケースが無機質な機械音を立てて横に開き、左右に小さな黒い穴が出てきた。
その穴から白煙が勢いよく噴出される。白煙はあっと言う間に周辺を覆い尽くしていく。連中は事態が把握できず、ただ両目を塞ぐ事しか出来ない。

「皆、隠れるんだ!」
エトフからメッセージを受け取った男の子が、小声で他の子供達にそう言うと、近くの大型機械へと忍び足で走りだす。
他の子供達は最初、男の子の行動にポカンとしていたが、すぐに理解し、男の子へと続いていく。

「くそっ……何なんだよ、こりゃあ!」
黒服の男の一人が、必死に目元を擦りながら状況を把握せんと周囲に顔を向ける。と、その時だ。

「俺の演技、中々だっただろ?」
明らかに仲間では無い男の声がして、男は振り向いた。そこには、紅蓮の様な赤い髪の男がニヒルな笑みを浮かべていた。
男は腰元の拳銃を取り出そうとした。が、赤毛が握っているロッドで男の頭部目掛けて振り払う。確かに伝わる、頭部の重み。

「ガっ……」
赤毛の電光石火の様な素早い動作に対応できず、男はそのまま、声も出せず地面に突っ伏す。
赤毛という異常に気付き、近くに居た黒服を着崩した男が拳銃を赤毛へと向けようとした――――瞬間。

「っと、危ねえな」
赤毛はロッドを地面に突き立てると、バレエを踊るかの様な優雅な回転蹴りを、手首に目掛けて放つ。着崩した男は小さな悲鳴を上げた。
綺麗に着地し、ロッドを先程同様、頭部へと振り払う。これ以上無いほどクリーンヒットしたロッドによって、着崩した男は横転したまま動かなくなった。
赤毛はロッドを肩でトントンと叩くと、天井を見上げて、ほくそ笑んだ。


「くそったれ……! 何してんだてめぇら! 早く奴を見つけてぶち殺せ!」
アロハシャツが義憤に顔を歪めて、黒服に叫ぶ。黒服達は腰元に備えた拳銃を取り出して、謎の闖入者を探す。
次第に周囲を覆っていた白煙が晴れ――――アロハシャツの額にハッキリとした青筋が立つ。商品である子供達の姿が、人っ子一人消えているのだ。


「どこのどいつかは知らんが……タダじゃすまねえぞ馬鹿野郎! 早く見つけ出せてめぇら!」
「俺はここだぞ、アロハ野郎」
突然声が響き渡り、アロハシャツと黒服達が一斉に天井を見る。
そして、気づく。入り組んだ鉄筋の上で器用に立つ、赤毛の存在に。黒服達がアロハシャツを守る様に囲む。

「てめぇか……俺を騙すとは、偉い事してくれたじゃねえか、ええ、このクソガキが!」
「おぉ、くせぇくせぇ。三流の悪党の匂いがプンプンしやがる。ゲロ以下の匂いがな」

アロハシャツの恫喝に、赤毛は全く怯えた様子を見せない。むしろ、この状況を楽しんでいるかのようだ。

「何にせよ、てめえはもう終わりだ! 死ね!」
アロハシャツの男の言葉と共に、黒服達が拳銃を赤毛へと向けて、引き金を引いた。吸いこまれる様に、大量の銃弾が赤毛へと迫る。
幾ら身体能力に優れていようが、これだけの銃弾の雨を避ける事など出来ない……。どんな無残な死体になるかを考え、アロハシャツは残忍な笑みを――――。

「な、何ぃ!?」
が、アロハシャツは笑うどころか、目の前の光景に、驚きのあまり目をひん剥いた。

赤毛は持っているロッドを両手で持つと、凄ましい早さで回し始めた。その早さはまるで、飛行機のプロペラが回っているかのようだ。
黒服達の拳銃から放たれた銃弾は全て、その回転によって叩き落とされるか弾かれて、虚しく地面へと落ちていく。
黒服達が必死に赤毛を攻撃しようと、すべて無効化される。ロッドの回転の元に。赤毛の真下に、銃弾の水溜りが出来る。

急いで大型機械の背後に隠れた子供達も、男の芸当に驚きの目を向ける。その目には、僅かながら希望の色が浮かんでいる。
子供達の視線に気づいたのか、赤毛はロッドを更に回転させて目元が見えないようにすると、子供達に向かってウインクした。
次第に、黒服達の拳銃が弾切れを起こしたり、ジャムりはじめる。赤毛はその瞬間を見計らい、軽々と地面へと飛び降りる。

「纏まってくれて……」
視線をアロハシャツに向け、赤毛は子供達に見せた優しげな表情から一転、好戦的な目つきへと変化した。
黒服達が着地し、こちらに向かってくる赤毛に向けようとした。が、すでに赤毛は黒服達の目前にまで来ており――――瞬間。

「助かるよ」
体勢を低くし、赤毛が全力を込めてロッドを黒服の一人の腹部を薙ぎ払う。その衝撃に、黒服の口から透明な液が飛び出る。
衝撃のあまり、その男は横に居た黒服達を巻き込んで壁へと吹っ飛んだ。地面や壁に背中を強打した黒服達は、激痛のあまり起き上がれない。

「この野郎!」
赤毛が背を上げた瞬間、背後からから紫スーツがナイフを逆手持ちして、赤毛の男へと襲いかかる。

が、あろう事か赤毛は振り向く事さえせず、そのナイフを左手の人差し指と親指で悠々と挟んだ。
紫スーツは渾身の力を込めて振りおろそうとするが、赤毛の力が異常に強い為かビクともしない。紫スーツの額に、焦りからか汗が噴出する。
生き残っている二人の黒服達が、赤毛を殺そうと拳銃の引き金を引いた。この至近距離なら――――が。

赤毛はロッドを横一文字に振り払った。確かに放たれた銃弾が、宙で回転して、コツンと落ちる。
驚嘆しているのか、二人の黒服の動きが止まり、あまつさえ拳銃を下ろす動作まで見せる。

「き、貴様ら、何を怯えている!」
「怯えてんのはあんただろ」
赤毛はそう言って、ロッドを逆手持ちすると、紫スーツの股間に向けて思いっきり振り上げた。
男なら耳を塞ぎたくなるような、鈍く重い音がして、紫スーツは泡を吹きながらあっけなく倒れた。

「悪いが俺は手加減できないんでね」
紫スーツからナイフを奪い、赤毛は正確に、撃ってきた黒服の一人の肩に目掛けて、ナイフを投げる。それは深く突き刺さり、黒服は拳銃を落として膝をついた。
仲間に気を取られている最後の黒服に向かって、赤毛は右足を振り上げた。実に綺麗なハイキックが入る。

最早黒服達と紫スーツに立つ気力は無さそうだ。アロハシャツを除いて、全員が気絶しているか、激痛のあまり悶絶し動ける状況ではない。

「残るはお前だけだぞ、グスタフ・フレ―ン。このままぶっ倒されるか、それともお縄につくか……二つに一つだ。決めろ」
赤毛がロッドを一人だけ残ったアロハシャツに向かってビシッと突きつける。アロハシャツは悔しさのあまり、ギシギシと歯ぎしりした。
と、何故か不利な状況な筈だが、アロハシャツは赤毛の背後に目を向けてニヤニヤと笑っている。

気づけば野良オートマタ達が工場内へと入ってきており、赤毛の周りをぐるぐると囲っている。
目的は考えるまでもなく、闖入者である赤毛を嬲り殺す為だろう。いくら人間に対して異常に強くても、オートマタには敵うまい。絶対に。

「散々恥を?かせてくれたが……何にせよてめぇはもう終わりだ! 後悔する暇もなく死んじまえ!」
アロハシャツ――――グスタフの勝ち誇った声に、赤毛は何故か嬉しそうな笑みを浮かべている。
そしてロッドを地面に立たせると、グスタフに向かって悪役的な笑顔をし、静かに言い放った。

「出番だぞ、ヘ―シェン」
瞬間、ロッドに備われた宝石が眩く白い光を放ちだす。その眩しさに、グスタフと隠れている子供達が両目を塞ぐ。

「パラべラム」

襲いかかろうと赤毛の男を囲んだオートマタ達は、その光に怯み、後ずさりする。その光は周囲を包みこみ――――緩やかに消滅した。

「なっ……何だと?」
光が消えた先に居たのは、赤毛と――――1体の、厳かな雰囲気漂う、ヘ―シェンと呼ばれる白きオートマタ。
尖鋭的な二本の耳を思わせるアンテナと、素早さを感じさせる、逆関節の脚部。そしてバイザー状で作られたカメラアイが、猛禽類を彷彿とさせる紅き光を放つ。
赤毛はグスタフを、ヘ―シェンはオートマタを背中合わせとなって捉える。驚愕したまま、グスタフが聞く。

「て……てめぇら……何者だ?」

「生憎お前みたいなやつに教える名前は持ちあわ」
「答えてあげるが世の情け、正義のロリコン、リヒト・エンフィールドです! 覚えておきなさい!」

場が、凍る。ヘ―シェンは可愛らしくも活発な女性の声で、グスタフが聞いた赤毛の名を答えた。
リヒトと呼ばれた赤毛は、先程のクールな面持ちが一瞬で崩された事に怒っているのか、両手を震わせて、ヘ―シェンに言った。

「馬鹿かお前は! せっかくカッコ良く決めようと思った矢先に……台無しじゃねえか!」
「とてもじゃないですが反吐が出そうなので阻止しておきました。後で鏡に向かって幾らでもカッコいいポーズを決めていて下さい」
「……俺は今、グスタフ以上にお前をぶっ飛ばしてやりたいよ、この白ウ詐欺が」
「そんな心地の良い声で罵倒されても、惚れてしまいます」

一人と1機のあんまりにも緊張感の無い問答に、場の空気が幾らか和む。隠れていた子供達が、声を潜めて笑っている。
まぁグスタフはというと、逆に神経を逆なでされて今にも噴火しそうだが無理もない。
大金を得られた筈のチャンスがまやかしだった上に、部下を一人残らず潰されたのだ。面子も何もあったものではない。

「っと……悪ふざけはここまでだ。グスタフ・フレ―ン。クライアントからの依頼の元、お前をぶっ倒す」

リヒトとへ―シャンが向き合って、、グスタフに向かって親指を立てると、人差し指と中指を伸ばして銃の形を作り突きつける。
そして、二人一緒に声を合わせて、グスタフへと言い放った。

「「さぁ、お前の罪を数えろ」」

――――ここで良い所だが、再び場面をやおよろずに戻そう。

何とも形容出来ない、妙な沈黙が流れて数秒……。視線を宙に向けて、何か考え事をしていたルガ―が一息吐くと、遥の顔を見、言った。

「えーっと……どういう事か説明してくれるかな、遥ちゃん?」

ルガ―の言葉に、遥は少しづつ息を整えていくと、意を決した様にまっすぐな目でルガ―に視線を向けて、語りだした。
事の顛末を、余す事無く。突然、空から巨大なロボットが落ちてきた事、ロボットが落ちてきた所に、得体の知れない謎の三人組が降りてきた事。
そして――――スチュアートが話した、その三人が未来を救うという事まで、全てを。

最初、三人は真剣な顔で遥の話しを聞いていたが、段々スチュアートの時点から悪意が無いにしろ、どうにもその目から疑いの気が見え始めてきた。
遥が全て話し終える。三人と遥の間に、さっきの様な、形容出来ない沈黙というか間が出来る。しばらくそうしていると、ルガ―が冷静な口調で、遥に言った。

「……悪いんだけど遥ちゃん、熱でもあるんじゃないか?」

ルガ―の言葉には別に遥に対して意地悪してやろうとか、そういった悪意はない。ただ単純に、遥の話がどうにも信じられないだけだ。
無理もない。遥自身、自分で何を絵空事をと笑いたくなる。しかし自分は確かに見たのだ。落ちてくる巨大ロボットと、それにあの三人を。
しかも、だ。リヒターも自分と同じ物を見ている。私はハッキリと断言できる。あれは夢幻じゃない。

「最近、結構特訓し続けてるからね。体の調子が悪くなっているのかもしれない。だから……」
「……ルガ―さん」

「確かに私の話はあまりにも現実離れしていて、信じて欲しいと言う方がおかしいかもしれません。
 けど……けど、草原に助けを求めている人達が居るんです。私は……私はその人達を助けたいんです」

「お願いします! 力を……力を貸してください」

<私からもお願いします。あの三人が、危険な目に合う前に>

そう言って三人に頭を下げる遥と、その遥と一緒に頼みこむリヒター。

ルガ―は、思う。
この子は――――いや、一条遥という子は、まだまだ人間としてもリヒターのパートナーとしても未熟だ。これからも成長しなければいけない。リヒターも含めて。
しかし、だ。この子は常に、真摯でかつまじめで、それに他人に対してとても優しいな子だ。
人の役に立ちたいと真剣に思い、自らの力を使う事が出来る――――そんな子が、そんな突拍子もない嘘をつくだろうか?

いや――――。ルガ―はライディースと目が合う。どうやら、同じ事を考えていたようだ。
と、何故かリタの姿が見えない事に気付く。ルガ―は視線を右往左往すると、ライディースに聞いた。

「あれ、リタちゃんは?」
「遥ちゃんの話を聞くが早く、ガレージに駆けていったよ。多分……」
「……なるほど」

苦笑しながら、ルガ―が遥に向き合う。そして優しい声で、言った。

「分かった。確かその三人がいるのは、この先の草原だったね。取りあえず君は服を着替えて待っていてくれ。シャワーでも浴びてね」

ルガ―の言葉に、顔を上げた遥の顔がパァっと明るくなる。その様子に、ルガ―は微笑んで近づくと、優しく肩を叩いた。
ライディースも無言で遥の肩を叩いてサムズアップする。二人が靴を履いて、草原へと歩いていく。それを見送って、遥は家に入ろうとした。

<おい>

鋭いナイフの様な声に呼びかけられ、遥はビクッとする。気づけば目前で、玉藻が浮いている。

<ずいぶん面白い話を持って来たじゃないか。どこで読んだ小説だ、うん?>
「たまちゃん……」
<全く……お前が来てから妙な事ばかり起きる。……退屈はしないがな。後でその現場に行ってみる。お前は休んでいろ>

<それとリヒター、貴様にも着いてきてもらうぞ。状況がいまいち把握できんからな>
<了解しました>

言葉は厳しいながら、玉藻の声からは遥とリヒターの事を心配している事が伺いしれる。
遥は服を着替える為に靴を脱ぎ、家の中へと入って行く。するとガタガタと音を立てて、何かがこっちに走ってくる音が聞こえる。
目を凝らすと、中身がパンパンに詰まったリュックサックを背負ったリタがこっちに向かって走ってくる。
そして遥の横で急停止すると、しゃがんでリュックサックの中身を整理し始めた。中には、沢山の工具やらが入っている。

「リタちゃん……?」
「巨大ロボットと聞いたら黙っちゃいられませんぜ、遥さん! 一体どんなオバテクが見られるか……メカニックとして腕がなりますよ!」

――――何故だかわからないが、遥は笑顔になった。

「何だ、これ……」
件の三人の目の前で転がる、巨大な物体にライディースはただただ感嘆した。
それもそうだ。こんな巨大なロボット……らしき物体、今まで数十年生きていて見た事が無いからだ。

「観察ならあとで幾らでも出来る。ほら、運ぶぞ、ライディース」
「あ、あぁ」
軽々とメルフィーとスネイルを両肩で抱えるルガ―。当然、ライディースは残った隆昭を運ぶ羽目になる。
ライディースは正直、今だけルガ―の事が羨ましく感じる。

家路を帰りながら、ルガ―はふと、背後の巨大なロボットを見て、呟く。

「……厄介な事にならない事を願おう」


同じ頃――――ポーズを決めたリヒトとヘ―シェンに対して、ブチンっとはっきりとした音で、グスタフの血管が切れた。

「行けぇぇぇぇぇぇぇ! このクソッタレ共をぶち殺せぇぇぇぇぇぇぇ!」

「俺はグスタフを〆る。頼んだぜ、相棒」
「あいあいさー!」


グスタフによって切られた、二つの闘いの火花。

だが、グスタフはおろか、リヒトも、ヘ―シェンも、その者の存在には全く気付いていない。






―――――――――――――冷やかに戦況を見つめる、琥珀色の目をした少女の視線に。





                                     第二話



                                      赤白


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