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Episode 12:Are you ready?~穴開きチーズにしてあげます~

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「まどかちゃん、大丈夫かな……」
 列車を下りていくまどかの背中を見ながら、ぽつりと遥が呟いた。いくら神子とはいえまだ十四歳の、しかもこのブラウニングのお姫様だ。さらに今回の敵は飛行型、しかも無数。襲われる可能性だって十分に有り得る。もしそうなったら……ああ、そんな事想像したくない。
「大丈夫だよ、遥ちゃん。……むしろ心配するべきは相手方かもしれない」
 浮かない顔の遥の肩を、大きな手が優しく叩いた。ルガーだ。ルガーはにこりと微笑むと、窓の外に視線を移して、
「――――彼女達はひょっとすると、このやおよろず一デンジャーな人物かもしれないからね」


パラベラム!
Episode 12:Are you ready?~穴開きチーズにしてあげます~


 ゆったりゆっくり、落ち着いた足取りで列車を出たまどかに、フリューゲルタイプ達の視線が殺到した。だがまどかは怯える事なく、むしろ余裕の表情で鳥達を睨め回す。
 スティーヴが言った通り、数は十。腕と翼が一体になった機体や、背中にウイングを備えた機体、モノアイ、バイザー、逆関節――――それぞれ細部に違いがあり、どうやら完全に同一の機体というわけではないようだ。
 深呼吸して、金属製の杖を地面に突き立てる。
「パラベラム」
 それは神子だけが使える魔法の呪文。マナの道を開き、鋼鉄の巨人を召喚するためのパスワード。
 直後、轟音と白煙が巻き起こり、まどかの姿を完全に隠蔽した。鳥たちが警戒し、素早く飛翔する――――その時。
 煙の壁にいくつもの穴を開け飛び出した鉄の塊が、防壁を貫通して逆関節の左脚を吹き飛ばす。
<ナ、何ガ>
 驚愕を口に出す事すら許されないまま、逆関節の頭部が鉄屑と化した。ゆっくりと落ちていく逆関節を尻目に散開する僚機達。
 そのおり、煙の中から長い砲身がぬっと顔を出した。そして一拍遅れてそれの持ち主が姿を現す。オリーブ色の装甲に身を包んだ重オートマタだ。
<まったく、完全に破壊してはいけないというのは面倒なものだな>
 密集していた敵に散られたせいで狙いがつけにくくなったが、彼女にとって、そんな事は些細な問題のようだ。
「いいじゃないですか、その面倒臭い事をすれば家計が助かるんですから」
 ――――いや、正しくは“彼女達にとって”か。
「それに、言い出したのはたまちゃんですよ。……あ、4時の方向」
 言われた通りの場所に無造作に二発発砲。モノアイの頭部が粉々になった。それでもモノアイはなんとか姿勢を制御して墜落を避けると、腕部の装甲がスライドさせ、姿を現した機銃でたまを狙う。
<まあ、確かにそうだがな……>
 それを確認するや否や、即座に腕を狙って三発撃つ。一発は外れたが、他は手首と腕の付け根に命中。
 久方ぶりに銃を撃つせいか、思ったよりも当たらない。ああっ、クソッ、苛々する。
<おい、おまえら。破壊されたくないなら武器を捨てて投降しろ。新しい御主人様くらいは捜してやるぞ>
<固定武装ヲドウ捨テロト言ウンダ!>
 腕と翼が一体になった機体が、さっきまでモノアイだった機体を指差して言う。……ああ、それもそうか。
「これは一本取られましたね、たまちゃん」
 まどかが手で口元を隠してふふふと笑う。
<いや、どっちみち身体はいただくんだ、武器を捨てる事に変わりはないだろう。全然一本取られてないな、うん、全然一本取られてないぞ。……で、どうなんだ? 断る理由はないだろう?>
 鳥たち、顔を見合わせてシンキングタイム。安定した生活というこの上なく素晴らしいものをチラつかされて、心が揺れないわけが――――
<断ル>
 あった。
<貴様ノヨウニ、タカガ人間ニ頭ヲ垂レルナド、我々ニハ我慢デキナイノデナ!>
「あら、まあ」
<そうかい……!>
 自分自身を嘲笑されただけでなく、あまつさえ惚れた女……じゃなかった、妹同然の少女を馬鹿にされたたまが、地の底から聞こえるような声で言った。
 こういう場合、シロなら上手い事を言うのだろうが、たまは違う。ウサギと違って狐は凶暴なのだ。
<マナ不足で流暢に話す事すら出来ないくせに、随分と偉そうな口をきくな、ん?>
 発砲、発砲、発砲。腕と翼が一体になった機体は辛うじて防壁でそれを防ぐも、次々と吐き出される貫通力に優れた大口径ライフル弾はいつしか防壁を貫き、正確に彼のコンデンサを撃ち抜いた。
 背部から、まるで鮮血のように圧縮されたマナが噴き出す。蛍のような、美しい光が。
<……もう我慢しなくていいぞ、まどか。思いっきりやろう>


 ♪  ♪  ♪


「たまちゃんはともかく、まどかちゃんが危険って……とてもそうは見えませんけど」
 散発的に鳴り響く発砲音をまったく気にかけていないルガーに、怪訝そうな顔で遥が尋ねる。
 普段の、少なくとも今まで遥が見てきたまどかはどこにでも居そうな純朴な女の子だ。そんなまどかが、あのリヒト・エンフィールドより危険とは思えない。というか絶対リヒトのほうが危険だろう、色んな意味で。
「そりゃあ、いつものまどかちゃんはごくごく普通の女の子だよ。だけどね――――」
 窓の外に転がっているフリューゲルタイプを見て興奮している二人のメカニックを一瞥すると、ルガーは言葉を続けた。
「トリガーハッピーなんだ、あの子は」


 ♪  ♪  ♪


<……もう我慢しなくていいぞ、まどか。思いっきりやろう>
 たまの言葉を聞いた途端、まどかの顔が待ってましたとばかりにパッと輝いた。
「はい!」
 杖を地面に突き立てると、金属と金属がぶつかり合ったような音が響き、たまの両手と両肩に光球が出現した。右手に持った対物狙撃銃を捨てて光球を握り締めると、光が広がり、形になっていく。
<Substantiation>
 地面に落ちた対物狙撃銃が粒子になって空へ還っていくのと同時、纏った光が弾けて、武器が実体を持つ。手の光は大型ガトリングガンに、肩の光は多連装ミサイルランチャーに。
 それを確認した鳥達が、発射体勢が整う前に片を付けようとブースタを全開にする。その内の一機、フレームに最低限の装甲をくっつけただけの、もやしのようにヒョロ長い機体が軌道を外れてまどかへと突進した。
「えー、では、改めまして……」
 迫る驚異もなんのその、少女がごほんっと咳ばらい。
「Are you ready?」
<Yes,My master>
 手に持つ杖をくるりと回す。すると、つい先程まで金属性の棒でしかなかったそれが光に包まれ、別の何かに姿を変える。
<マスターサエ潰セバ――――>
「OK!! Let's Partyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!」
 ――――少女はそれを構えると、眼前の敵に景気良くぶっ放した。いくつもの光がもやしの胸部を刳り、軌道を変える。轟音を響かせて、もやしが地面に激突する。
 一拍遅れて、飛び散った多数の破片が小気味いい音を立てて列車にぶつかった。
 ――――キャリバーフィフティー。たった今まどかが盛大にぶっ放した、とある重機関銃に模した杖だ。まあ杖と言っても、その姿形はほとんどベースになった古代の重機関銃そのものなのだが。ちなみに名前もその重機関銃の愛称のひとつから取ってきている。
 さて、このキャリバーフィフティー。見た目こそ重機関銃の尻に柄を付けただけだが、当然まどかのような少女でも扱えるよう、中身は全くの別物になっている。
 材質の変更とマナの特製によって重量とリコイルは軽減され、打ち出される弾も圧縮されたマナに変更。これにより威力の調節が可能で、幅広い運用が可能となり、さらに神子ならばほぼ無尽蔵に弾を打ち続ける事ができる。
 もっとも、最大出力で撃ってもオートマタ対する決定打にはならない。関節を狙うか、相手がフリューゲルタイプのような超軽装甲の機体だった場合のみ、それなりのダメージを与える事が可能だ。もちろんバリアを張られていればアウトであるが。
 そして、たった今まどかの手によって行動不能に陥った野良は――――必要以上にマナを使うのを渋っていたのもあるだろうが――――相手がただの人間の小娘だという事で油断して、最低出力で防壁を展開していたためその屍を曝す事となったのだ。……死んでないけど。
「――――過信と慢心は、死出の旅への片道切符ですよ」
 ピクピクと痙攣するもやしを一瞥すると鳥達に銃口を向けて、キャリバーフィフティーにマナを装填しながらひとりごちる。
 さて、残るは七機。一対多に特化したたまならば取るに足らない相手だろう……取るに足らない相手だろうが、久方ぶりの戦闘だ、やっぱりもっとぶちまけたい、バラ撒きたい。だから――――
「ふふふ、穴開きチーズにしてあげます」
 その直後、鈍く光る砲身は再び咆哮した。


 ♪  ♪  ♪


 曳光弾駆け抜ける戦場を、レーダーセンサー総動員で、超長距離から見る影ひとつ。茶褐色の、狸が一匹。その名はムジナ、寒戸(さぶと)・ムジナ。またの名を、お杉と言った。
<……あらま、一網打尽ってヤツねぇ>
 まるでカトンボのようにフリューゲルタイプ達が落とされていくのを見ながら、お杉がぼそりと呟いた。
 フリューゲル達も健闘していると言えるだろうが、あれは相手が悪いというものだ。一見何も考えずに弾をバラ撒いているように見えて、その実狙い易い場所に誘導している。例えるなら――――そう、詰め将棋のように。
<あの緑のブルタイプ、どう思う? レオン>
 別の場所で待機している獅子型のオートマタ、フォルツァ・レオーネに話し掛けた。
<ああ、強いな。今すぐにでも戦いてぇ>
 やや押さえた調子で、低く唸る。歓喜に打ち震えているのがよくわかる声だった。
<動物園だの何だの言って、自分が一番野性に忠実じゃん>
 苦言を提しつつ、補助装置もフル稼動の最大望遠で戦闘を観察。……あ、また一機やられた。
<戦うためにアンサラーに入ったんだ、あんなものを見て興奮しないはずがねぇ。だろう? ムジナ>
 なるほど確かにレオンのようなタイプならそうだろうが、お杉は別だ。アンサラーに入ったのだってある程度安定した生活を手に入れるためだし、戦いなんかよりも悪戯をするほうが断然好きだ。
 そんな自分が気付けば幹部になり、気付けば極東から西洋くんだりまで来ていた。まあ、今の生活もそれなり以上に楽しいので、そこまで不満はないのだが。
<まあ、あんたならそうかもね。で、どうするの? 戦いたいなら行ってくればいいじゃない。援護ならするよ?>
 適当に戦ってもらって撤退しよう、勝てそうならもちろん勝たせてもらうが。
<いいや、俺が戦いたいのはリヒター・ペネトレイターだ。惜しいが、あれと戦うのは次の機会だな>
<じゃあ、あの牛さんどうするの>
<おまえに任せる>
<えー>
 ひどい、押し付けだ。
<おまえもシュヴァルツと同類か>
 呆れた声で獅子が呟く。わざわざ口に出して煽りやがってこの野郎。シュヴァルツの事はかわいいと思うが、あの子と同類というのはちょっと心外だ。
<だいたいあたしは偵察に来ただけで、別に戦いに来たわけじゃないんだから、そんないきなり戦えって言われても困るんだけどさ――――>
 声を上げるお杉の目線の先では既に戦闘は終わっていて、動けなくされたフリューゲルタイプ達が次々と回収されているところだった。
<ブルタイプの武器をいくつか使えなくするだけでいい、頼んだぜ、相棒>
<へ? ちょっ、意味わかんな>
 ぶちっ。
 切れた……いや、切られた。
<あンの獅子舞ぃっ!>
 勝手に相棒とかぬかしやがって、こっちの都合はお構いなしか。力任せに地面を殴り付ける。
 ――――だが、まあいい。やるだけやってやろうではないか。そう、大丈夫だ。的は大きいんだから。
 傍らに置いてあった武器一式をハードポイントにマウントし、お杉は背景に溶け込むようにその場から消えた。


 ♪  ♪  ♪

<……まったく、呆気なかったな>
 フリューゲルタイプのボディを貨物室に運びながら、たまが呟いた。ガシャンという音が響いて、次々と積み上げられていく、動かなくなった人形達。
「はい、すっごく気持ち良かったです」
 キャリバーフィフティーを抱き抱えてうっとりするまどか。しかしこれは返事になっていない。
<そうか、良かったな。だがそいつとこの身体を早く仕舞ってくれ、もう出発する>
「わかりました!」
 ……まあ、いいか。だって満面の笑みを浮かべるまどかが、凄く可愛いんだから。
 主の喜ぶ顔を見られる事――――例え牙を抜かれた獣と罵られようと、神子の従者をやめられない理由のひとつだ。おそらくマナを貰える事よりも大きな理由だろう。
 まどかが杖で機体に触れると、鋼の身体が光に消えて、獣の身体に心が宿る。同時に銃をくるりと回し、元の杖へと瞬時に戻す。この間たったの一秒ちょっと。
 小さな狐がまどかのポケットから顔を出し、肩へと素早く這い上がった。
 それを確認すると貨物車両に上がり、先頭車両に向かって叫ぶ。
「スティーヴさーん! 準備できましたー!」
 手を振るスティーヴが見えた後に車両が揺れて走り出す。よろめいたまどかが近くの手摺りに寄り掛かった。
<……揺れる事くらい予想しておけ>
「すみません」
 まどかがあははと苦笑した。
「そういえば、ここより後ろの車両は何があるんでしょう?」
 この列車は機関車と客車、貨車とやたら大きな車両一両で構成されているが、その一両が何なのかがわからない。侵入は出来ないようだし、そもそも勝手に見るのは気が引ける。
<さあな。……まあ、そういうのはあまり触れん方がいいだろう>
「そうですね」
 道程は残り半分。灰色の森を越えれば、神の門はもう目と鼻の先だ。上手くいけば明日には向こうに着くだろう。
 意気揚々と鉄製の扉を開ける。まさかそこに信じられない光景が広がっていようとは、この時の二人には想像もつかなかったのであった――――


 ♪  ♪  ♪


 先回りをするためにお杉は走る。目指すはこの先にある灰色の森だ。
 灰色の森――――古代の遺跡群だ。まるで群生する木々のような高層建築物群からそう言われている(……今、群って字何回使っただろう)。
 隠れ場所が多いので、野良オートマタはおろか盗賊や猛獣が潜んでいる事もあるという非常に危険な場所だ。
 しかし、野良が多いという事はその場で戦力を補充できるという考え方もある――――上手く釣る事ができれば、だが。
 フリューゲルタイプ達の回収にはそれなりに時間が掛かるはずだ、その間に使えそうな連中をスカウトするとしよう。
<……と、この辺でいいか>
 ブースタを切って、着地。さあ、まずは釣りエサからだ。マナを迸らせる。鼻がいいオートマタならすぐに食いついてくるだろう……ほうら、来た来た。
<って、うぇ……。よりによってカーネタイプ……>
 忌ま忌ましげにお杉が呟く。
 細身だが力強いシルエットの脚部と、そこから生えた四本のアイゼン、頭部に備えられた耳のようなセンサーは、まさしくカーネタイプのものだった。
 カーネは犬だから鼻がいいのは当然だが、狸であるお杉としてはあまり係わり合いになりたくない存在だ。
 それに犬というのは人と仲がいいもの、ひょっとするとその首には首輪が巻かれているかもしれない。
<狸ガナンノ用ダ>
 ……と思ったが、それは杞憂だったようだ。片言はマナ不足の証明、それはつまり野良だということの証明にもなる。お杉はほっと胸を撫で下ろした。
<忠告ニ来タ、ココノヌシニ会ワセテモライタイ>
 とりあえず流暢に話すと怪しまれるので、話し方を相手に合わせる。
<忠告?>
<ソウダ。四日前ニガサ入レガアッタダロウ? モウスグ神子共ガコノアタリ一帯ノ野良ヲ駆除シニヤッテ来ルラシイ>
 四日前にこの辺りはこの領のオートマタ部隊――――ブラウニング機甲騎士団によるガサ入れがあったはずだ。目的はオートマタのディーラーの捜索・逮捕だったはずだがちょうどいい、利用させてもらおう。
<ソウカ……。見ナイ顔ダナ、貴様、名前ハ?>
 えぇー……面倒臭いな、もう。適当に名乗っておくか。
<クズノハ・ムジナ、ダ。時間ガナイ、ナルベク早ク頼ム>
<アア、ワカッタ。ココデ待ッテイロ>
 そう言って、犬はビル群の中へと消えていく。思ったよりもすんなり理解してくれた――――ああ、馬鹿でよかった。
 さて、まさかのぬし釣りに成功したわけだが、これはひょっとしてひょっとすると楽に勝てるのではなかろうか。
 カーネタイプならフリューゲルよりも装甲は厚いし、何より統率が取れている。機動力や運動性だってそれなり以上だ。たかだか牛一頭仕留める事など造作もないだろう。
 込み上げてくる変な笑いを抑えていると、しばらくしてここの主は現れた。
<クズノハ……ト、言ッタナ>
 背後にぞろぞろと手下を連れて現れたそれは他のカーネよりも二回り程大きく、鋭角的なオートマタだった。犬というよりも、狼に近い印象を受けるイケメンだ。
<ハイ>
<ソノ情報、確カナンダナ?>
 お杉は大きく頷き、先程の戦闘の記録映像を送る。当然だが、日付や地名はしっかり入力してある。
<先程コノ先ノ草原デ記録シタモノダ。モウスグ先マデ迫ッテイル>
 ぬしはしばし黙考して、
<情報ヲ改竄シタ形跡ハナイナ……ヨシ、ワカッタ。情報感謝スル>
 とだけ言ってその場を立ち去った。無論、部下達も一緒に、だ。見えなくなったのを確認してから、心の中でひとりごちる。
 ――――ああ、馬鹿でよかった。


 ♪  ♪  ♪


 重い鉄製の扉を両手で開けると、そこに広がっていた光景とは――――
「おまえさん、相当粘ってるそうだな、あ?」
 リタが片手をポケットに突っ込み、捕らえたフリューゲル達の本体である宝玉の回りをくるくる回る。
「ネタは上がってんだよ」
「そうやって、黙秘権を使うのは構わねぇよ?」
 宝玉の前に座っているリヒト――――サングラスを掛けている――――が言った。いつの間に起きていたんだろう……。起きていたなら教えてほしかった、フリューゲルのボディーを運ぶのを手伝ってもらったのに。
 なんてマイペースな事を考えているまどかをよそに、苛酷な取り調べは勢いを増していく。
「だがよ、警察を甘く見るなよ」
 なんちゃってデカが顔の前で手を組んだ。サングラスがキラリと光る。
「おまえがやったってのは明白なんだよ、デコ助野郎!」
 そりゃ現行犯だもの。
「おい、ナメてんのかこの野郎てめー!」
 ビシッとでこぴん。しかしリタに脅されても迫力がないというか、むしろ可愛いというか。
「……おい珍獣、乱暴はよそうぜ」
 部下の不祥事は上司の不祥事だ。赤髪サングラス団長が珍獣刑事を叱咤する。乱暴って程のものでもないような気がするのだが……。
 それよりもルガー達はどこに行ったんだろう。遥は何故かそこでブラインドを持って苦笑いを浮かべているのだが。
「中々落ちないですね」
「ああ、そうだな……こうなりゃ泣き落とし作戦しか――――」
「だ、団長! 団……ちょ……重いなこの扉。団長!」
 重い扉をがらりと開けて、どたばたとライ達が入ってきた。
「おう、何があった。メガネ、筋肉、ウサギ」
 一応補足しておくが、メガネがライ、筋肉がルガー、ウサギがシロだ。
「三つ編みを殺った共犯が見つかりました、団長」
 ……どうやら遥は死んだ事になっているらしい。だから苦笑いを浮かべていたのか。
「何!? それは本当か、筋肉!」
「はい、連中は――――」
 いつまで続くんだろう、そう思っていた矢先の事だった。
「た、大変だ!」
 スティーヴが客車に転がり込んできたのは……あれ? なんかデジャヴが……。
「どうした、イヌミミ」
 どっしりとした余裕を持って構えるグラサン団長。
「また野良が来たんだ! カーネタイブが、たくさん!」
「はあ、またですか。もう振り切っちゃえばいいんじゃないかな」
 もううんざりといった調子で、ライ。
「そうは言っても、速度を上げるには時間が掛かるし……」
 速度を上げている間に取り付かれたら一巻の終わりだ。となると、ここはやっぱり――――
「わかりました、私達が時間を稼ぎます」
「すみません、二回も……」
 耳と尻尾をしゅんと垂らしながら言うスティーヴに、まどかは胸をぽんと叩きながら、言う。
「いいんですよ、好きでやってるんですから! ……出番ですよ、たまちゃん!」
<あ? ああ、いつでもいいぞ>
 白けきった目で茶番劇を見ていたたまを正気に戻すと、杖で床を突いて言う。
「じゃあ、装備と一緒に上に直接送りますね」
<イエス・マイマスター>
「Exterminate……パラベラム!」
 直後、頭上でズシンと重厚な音が響いた。それを確認してからまどかは杖をフィフティーキャリバーに持ち替えて、
「では、二次会といきましょうか!」
 屋根の上に着地したたまは、まずは全身に備えられたカメラ・アイとレーダーで周囲の状況の確認を始めた。現在地は灰色の森の手前、どうやらあのカーネタイプ達は灰色の森の住人のようだ。
 しかし解せないな、何故こうも頻繁に、積極的に襲い掛かってくる? ……まさか、もう賢者の石の情報が知れ渡っているのだろうか。だとしたら面倒な事になるが――――まあいい、とっちめて聞き出せばいいだけの事だ。
 四方八方から接近するカーネ達に向かって機械的にトリガーを引く。回転する銃身から矢継ぎ早に弾丸が吐き出され、カーネ達の装甲を刳り、傷つけていく。だが有効打にはなっていない。
 ――――ミサイルを使うしかないか。
 光の軌跡を描いて、肩部からマジックミサイルが飛び出した。
 それぞれの物体――――有機物、無機物に関わらず、だ――――が持つ固有のマナを探知して追尾するそれは、カーネに対して十分な威力を持っていたようだ。攻撃が命中した敵機は煙とマナの光を撒き散らしながら後方へ消えていった。
 撃ち漏らしもまどかがしっかりキャリバーフィフティーで上手く牽制してくれるおかげで近付く事ができないようだ。
 やがて車体が速度を増し、残ったカーネ達も地平線の向こうへ消えていく。どうやら役目は果たせたらしいが、油断は禁物だ。灰色の森はカーネ達の住み処なのだから。
<まどか、ライフルをくれ。ミサイルはマナを使いすぎるし、弾を無駄にバラ撒くような事はなるべくしたくない>
『楽しいけど、お金かかっちゃいますもんね……わかりました』
 澄んだ音が響くと、両手に保持していたガトリングガンが光となって消え、代わりにごっついライフルが一梃と、右手にすっぽり収まった。おまけに高周波ブレードが左手に。
<ふふっ。ありがとう、感謝するよ、まどか。……さて>
 戦場が灰色の森に移行する。途端、たまの前後から敵機が飛び掛かった。くるりと方向を修正し、発砲。右手側のカーネが視界から消え、左手側のカーネは高周波ブレードに裂かれ、そのままいなされ、地面に落ちていった。
<私を仕留めるには、まだまだ数が足りないな>
 まるで嘲笑するかのように、近づくカーネの手を撃ち、足を撃ち、頭を撃つ。その戦闘力、圧倒的。
 が、
<――――なッ!?>
 超高速で飛来した弾丸がたまの肩を掠めた。バランスを崩した重装甲が、そのまま列車の屋根から落ちる。
 舌打ちをして、スラスターを全開。小さくなっていく列車に向かって彼女は叫ぶ。
<気にせず行け、すぐに追い付く!>
 ――――その声に、悲壮感はなかった。


 ♪  ♪  ♪


「た、たまちゃんが!」
 豆粒のように小さくなってしまったたまを見て、遥が涙声で叫ぶ。
「まどかさん、列車を止めましょう。彼女を助けないと……!」
 スティーヴが努めて冷静に提案するが、まどかは首を縦に振ろうとはしなかった。
「せっかくたまちゃんが作ってくれたチャンスです、無駄にはできません。それに――――」
 キャリバーフィフティーで床を突く。
「これくらいのピンチ、たまちゃんは慣れっこですから」
 すると空中に無数のスクリーンが現れ、文字の羅列がまどかを包んだ。器用にスクリーンをタッチして、何かを解除していく。
<久々ですね、たま姉ぇ様の本気モード解禁>
「本気モード? あ……」
 泣くもんか、と目尻に溜まった涙を拭っていた遥が声を上げた。そういえば以前、入社試験の後でまどかがこんな事を言っていた。

 ――――そうですよ、私達まだ完全には負けてません。だってたまちゃん、まだキャストオフしてないですから。

「キャスト、オフ……」
「知っているのか雷電」
 いや、雷電って誰?
<装甲をパージする事だと聞きました>
 代わりにリヒターが答えてくれた。
<しかし、装甲をパージしただけでは、劇的な戦闘力の上昇には繋がらないと思うのですが>
 言われてみれば確かにそうだ。増加装甲を排して速く動けるようになったとしても、その分防御力は低下するだろうし、そもそもオートマタの装甲はそこまで重くないため、機動性の上昇もたかが知れている。
「ああ、あの装甲は……確かに防御力も上がるけど、装備してる目的は違うんだ。遥ちゃんは極東生まれの極東育ちだよね」
 ルガーの質問に、遥がこくりと頷く。
「なら聞いた事ないかな、白面金毛九尾の狐、極東三大機械人形が一機、玉藻前の話」
「数百年前に暴れ回った末に退治されたっていう伝説の機械人形ですよね?」
 たった一機で当時の軍隊や野良オートマタを蹂躙したという大妖狐――――結構有名な話だ。退治されてからも、近づく人間や動物達を殺す毒石、殺生石に姿を変え、復活の時を今か今かと待っているという。
「あのお話、本当は結末が違うんだよ。命からがら討伐部隊から逃げ延びた玉藻前は、ひとりの見目麗しい少女に惚れて、彼女の飯綱になったんだ」
 まどかを横目でちらりと見る。まさか、まさか――――
「それがまどかちゃんの御先祖様、初代ブラウニング領主夫人なんだ。つまりたまちゃんは、かつて極東を恐怖のズンドコに叩き落とした九尾の妖狐その人なんだよ」
 てっきり同名の別人だと思っていたが、本物だったとは……。遥の頬に一筋の冷汗。
「え、じゃ、じゃあ、リヒターが借りてる、これは……」
「殺生石と呼べばいいのかな」
 ――――なんて事だ、かつて極東を恐怖のズンドコに叩き落とした大妖狐を締め上げた上に謝らせてしまったではないか……二回くらい。
「まあ、そんな大妖狐も今じゃすっかり丸くなって、ただの不器用なお姉さんなんだけど……あれ? 遥ちゃん、具合でも悪い?」
<大丈夫ですか、マスター>
「いえ、なんでも、ないです……」
 あ、後で謝っておこう……生きてたら。
「で、話を戻すけど、たまちゃんが装甲を纏ってるのは、有名人が変装をするのと同じ理屈なんだ」
 その割に名前隠す気ゼロなのはなんでだろう、と思ったが、あまりに野暮なのでやめておいた。多分有名だから同じ名前を名乗る輩が多いんだろう、うん、納得しとこう。
「だから大妖狐最大の特徴も、増加装甲を着ていたら使えないんだ。誰だかわかっちゃうからね
「大妖狐最大の特徴……」
「そう、莫大な妖力の証明――――九本の尻尾さ」


 ♪  ♪  ♪


 滑るように着地したたまを、即座にカーネ達が取り囲む。素早い対応だ、さすがに統率が取れている。だが、たまが気掛かりなのは別の事。――――そう、先程たまを突き落としたあの一撃だ。あれは確かに対物狙撃銃によるもの……これは少々厄介な事になりそうだ。
 思考をしている間にも、敵の数は増えていく。スナイパーがいる以上迂闊に立ち止まる事はできないが、これでは動く事もできない。一発なら大丈夫だが、そう何発も耐えられるものではない。
 少しずつ、少しずつ。じりじりと擦り寄るように距離を詰められていく。接近戦が苦手なブルタイプではいささか不利だ。
 空気を裂いて三発の弾丸が殺到する。だが、避けられない。一発は防壁で弾く事ができたが、残りの二発は右肩に命中。ミサイルポッドへの直撃は避けたが、たま自身は一回転して倒れ込む。
 頭を使わなければいけないか……いや、待てよ。
 ふと、流れ込んでくる情報に気付く。久方ぶりに感じるそれは、九本の尻尾が発する妖気。どうやらまどかが解禁してくれたらしい。
<……さすが私のマスターだな、いい判断だ>
 そりゃあもう、キスしてあげたいくらい。
<畳ミ掛ケロ、貪リ尽クセ!>
 リーダーらしき機体が命令すると、たまを囲んでいたカーネ達が一斉に飛び掛かった。が、
<Standby...>
 ブルタイプの装甲に亀裂が走り、そこから金色の光が零れる。目眩ましの閃光だ。
<Eject!>
 いくつにも分割された増加装甲が飛散し、目を潰されたカーネ達をその勢いでもって吹き飛ばす。光の中から現れたのは、黄金の鎧と、白いマスクのヴァルパイン。高貴な雰囲気と美しさは、その名を知らぬ者にも確かな畏れを抱かせた。
 だが、今のままではただの狐でしかない。彼女が本当の力を発揮するためには、さる合言葉が必要なのだ。
 足を広げ、見栄を切る。恥ずかしくても、言わねばなるまい決め台詞。
<我こそは、白面金毛九尾の妖狐、泣く子も黙る玉藻前! 奇術妖術恐れぬのなら、性根を据えてかかってこい……!>
 背部で蕾が花開くが如く、九本の尻尾が現れる。
 白面金毛九尾の狐、大妖狐・玉藻前、万を持して、ただいま見参!
 獣が獲物を睨む時のような、射るような視線がたまに向かって殺到するが、一方たまはぴくりとも反応しない……いや、人差し指を相手に向けてクイクイと引く。挑発だ。そんな狐の挑発に、犬達は――――
<殺レ>
 ――――ひっかかった。
 三機のカーネが真っ直ぐ襲い掛かってくる。たまは尻尾から両刃の長剣をずらりと引き抜き、流水のようなステップで迎え撃つ。
 交錯。踊るような斬撃が、一瞬にして三機の身体をバラバラに切り裂いた。ついでに背後から飛来した弾丸も真っ二つにする。
 だが余韻に浸る暇はない。続いて五機のカーネがたまを取り囲む。しかしたまはいたって冷静、平静そのもの。
 まず背後の二機が爪を立てて飛び掛かるが、あっさりと切り払われる。
<コイツ、後ロニ目ガアルノカ!?>
 次は四方八方から、タイミングをずらしての攻撃。これならば躱せまい、そんなカーネ達の考えが甘かった事を、次の瞬間思い知らされる。
<目だけじゃないな――――>
 刹那、九本の尾のうち六本が展開し、それぞれ長剣を持った腕へと変貌する。
<――――手もあるぞ>
 一閃、二閃、三閃、四閃――――各々の腕が、時折飛んでくるライフル弾も含めた各々の的を切り刻むその姿、まさに阿修羅そのもの。
 ばたばたと犬達が地面に倒れ伏し、残った連中は及び腰。頃合いか、と大妖狐、群れの主を睨んで言った。
<死にたくなければとっとと失せろ>
 しばしの沈黙の後、これ以上の戦闘は無意味だと判断したのか、カーネ達は無言で遺跡の中へと去って行った。



 ♪  ♪  ♪


<え、嘘、何アレ、本物……!?>
 遠方で狙いを定めていたお杉が、驚きや憧れ、畏怖……その他諸々の複雑な感情を孕んだ声を上げた。それもそのはず、お杉こと寒戸・ムジナは元々極東の住人だからだ。玉藻前の恐ろしさは嫌というほど知っている。
 ――――勝ち目はないかもしれない。
 事実視線の先ではカーネ達が一方的に血祭りに上げられているし、場所を変えて撃った対物狙撃銃も全てバリアと剣の合わせ技で軽くあしらわれている。逃げる算段を整えておいたほうがいいかもしれない。
 だが、今のお杉は不思議とそこまでの恐怖を感じずにいた。いやむしろ、先の名乗りを聞いてから身体が火照るというか動悸が止まらないというか……。
 なるほど確かに、舞い踊るように戦うたまの姿は非常に美しかった。こうなってしまうのも、わからない話ではない程に。


 ♪  ♪  ♪


<さて――――>
 光学迷彩を使って辺りを捜し回り、ようやく今回の黒幕と思われるオートマタを――――思ったよりもすんなりと――――捕獲する事ができた。機体のタイプはムジナ型。なるほど、狸ならば回りくどい真似をしている事もある程度理解でき――――
<玉藻前様! 貴女は本当にあの玉藻前様なのですか!?>
<はぁ? ああ、まあ、そうだが>
 ……本当に敵か? こいつは。何やら恋する乙女のオーラを感じるのだが。
<私、関の寒戸と申します!>
<ああ、あの佐渡の貉神のお杉さん>
 それなりに名の知れたオートマタだった事に多少驚きつつも、淡々と対応する。なんせ狸だ、恋する乙女のオーラを纏っていても、腹の底では何を考えているかわかったものではない。
<ご存知だったんですか! 歓迎しました!>
<まあ、な。それよりも、極東の住人の貴様が何故ここにいる>
<まあ、ちょっとした仕事で……>
<ちょっとした仕事で、犬コロ共に私を襲わせたわけか>
 ぎく、お杉がわざとらしく呟いた。
<いや、まあ、それは……申し訳ございませんでした>
 平謝り。以前の玉藻なら無言で切り捨てていたところだが、今のたまは違う。
<いや、いいんだよ。おまえの裏にいるのが何なのかを教えてくれればな>
 するとお杉の身体から煙が立ち昇る。
<残念ですが、それについてはお答えする事はできません>
<クソッ、ダミーか!>
 バルーンや人形をマナで細工した偽物だが、ここまで精巧なものは見た事がない。
 煙を抜けると、そこには空中に身を投げ出す彼女の姿があった。
<ですが、こちらも貴女に惚れてしまった身。名前だけでもお教えしましょう>
 あたかもじわりと滲むように、お杉の姿が消えてゆく。
<謎の反動勢力、アンサラー。以後、お見知り置きを>
 ……さすが狸、まんまと逃げられた。
 しかしアンサラーとは、聞いた事のない名前だ。というか、
<さりげなく告白されなかったか、今――――>


 次回へ続きますとも!


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