私は往く。
蒼き大空を
暮れ行く空を
冥き夜空を
蒼き大空を
暮れ行く空を
冥き夜空を
私は往く。
確固たる誓いを胸に
届かぬ想いを胸に
切なる願いを胸に
確固たる誓いを胸に
届かぬ想いを胸に
切なる願いを胸に
私は往く。
追おうとする者のその翼をもぎ
狙おうとする者のその手を潰し
食らおうとする者のその顎を圧し折り
追おうとする者のその翼をもぎ
狙おうとする者のその手を潰し
食らおうとする者のその顎を圧し折り
私は往く。
だが、いつしか私は疲れていた。
だが、ただただ逃げる事に疲れていた。
だが、私はそれに気付かなかった。
だが、いつしか私は疲れていた。
だが、ただただ逃げる事に疲れていた。
だが、私はそれに気付かなかった。
私は往く。
もはや私を繋ぎ止めるのはあの誓いだけ。あの想いだけ。あの願いだけ。
いつしかそれを届ける為に、いつしかそれを成しえる為に、
もはや私を繋ぎ止めるのはあの誓いだけ。あの想いだけ。あの願いだけ。
いつしかそれを届ける為に、いつしかそれを成しえる為に、
私は、セカイの果てを往く。
星が瞬き満月が照らす闇夜。
その下、何処までも広がる鉛色の雲海。
そして無音。ただただ静寂が時を刻む。
その下、何処までも広がる鉛色の雲海。
そして無音。ただただ静寂が時を刻む。
いつも通りの夜空。
何も変わる事は無く、誰も変える者は無く――否、今日は「少しばかり」違っていた。
何も変わる事は無く、誰も変える者は無く――否、今日は「少しばかり」違っていた。
無音の内に風切る音。それを引き摺る何者かの影を雲海は映す。
それは銀色。淡い月明かりに照らされ光沢を放つ装甲。ただそこかしこに大小の損傷の跡があり、無事とは少し言い難い。
それは人型。五体を持ち、されど瞳は猛禽。鋭き蒼い光を湛え、後方に光の軌跡を残しながら「無音」で空を往く。
それは銀色。淡い月明かりに照らされ光沢を放つ装甲。ただそこかしこに大小の損傷の跡があり、無事とは少し言い難い。
それは人型。五体を持ち、されど瞳は猛禽。鋭き蒼い光を湛え、後方に光の軌跡を残しながら「無音」で空を往く。
「―――――」
それは異形。機械仕掛けの異形の甲冑。だがどこか少女を思わせる風貌も併せ持つ。
極超音速で闇夜を往くそれが少女というのも奇妙な話だが、確かにそれはヒトであり、人であり、女であり、子供であった。
極超音速で闇夜を往くそれが少女というのも奇妙な話だが、確かにそれはヒトであり、人であり、女であり、子供であった。
「―――――」
内心、「彼女」は不満げだった。
見た目通り、「彼女」は超常の存在。人と同じ背丈で、更にヒトの形をしながらも音を遥かに超える速度で飛行する
……常識的に考えれば明らかに異常だが「彼女」にとってそれは普通。故にそれでも届かぬ自らの理想と現実との
ギャップを比較し解消する為に思考に思考を重ねる。
見た目通り、「彼女」は超常の存在。人と同じ背丈で、更にヒトの形をしながらも音を遥かに超える速度で飛行する
……常識的に考えれば明らかに異常だが「彼女」にとってそれは普通。故にそれでも届かぬ自らの理想と現実との
ギャップを比較し解消する為に思考に思考を重ねる。
今の彼女に足りないもの。それは速度だった。
人の視点から見れば十分過ぎる速度だが、「彼女」にとってはそれでも不満。更にどうすればその問題を解決できるのか分かっていながら、
今の状況ではどうする事も出来ないと言う点も不満を増幅させる一因となっていた。
人の視点から見れば十分過ぎる速度だが、「彼女」にとってはそれでも不満。更にどうすればその問題を解決できるのか分かっていながら、
今の状況ではどうする事も出来ないと言う点も不満を増幅させる一因となっていた。
何故彼女はそこまで急いでいたのか。
理由は至極単純。追われていたのだ――超常の存在である「彼女」をも脅かす脅威に。
理由は至極単純。追われていたのだ――超常の存在である「彼女」をも脅かす脅威に。
「!」
突如後方の雲海が爆ぜる。同時に雲下より現れ「彼女」を猛追する1つの機影。
それは巨人。機械仕掛けの巨人。
彼女の10倍以上はあるだろう巨躯を艶の無い漆黒の重装甲で覆い、右腕で持った身の丈の更に2倍はあろうかという長槍を「彼女」に向け、
左腕の甲には機体の装甲と同じく黒い大柄な盾を取り付けたその姿はどことなく大昔の騎士の姿を連想させる。
それは巨人。機械仕掛けの巨人。
彼女の10倍以上はあるだろう巨躯を艶の無い漆黒の重装甲で覆い、右腕で持った身の丈の更に2倍はあろうかという長槍を「彼女」に向け、
左腕の甲には機体の装甲と同じく黒い大柄な盾を取り付けたその姿はどことなく大昔の騎士の姿を連想させる。
「――――!」
「彼女」は咄嗟に軌道を逸らす。
そのすぐ傍を掠める重装甲にして超重量。吹き荒れるソニックブーム。だがそれで終わりではない。
息つく暇も無く巨人は「彼女」の方を向き直り、更にその長槍を突き出す。同時にその槍身は中央から三つに分かれその間を紫電が走る。
そのすぐ傍を掠める重装甲にして超重量。吹き荒れるソニックブーム。だがそれで終わりではない。
息つく暇も無く巨人は「彼女」の方を向き直り、更にその長槍を突き出す。同時にその槍身は中央から三つに分かれその間を紫電が走る。
刹那、閃光。
槍身に添う形で放たれた眩いばかりの光の群れは独りで「彼女」のいる方向に湾曲し一斉に襲い掛かる。その数40。
一旦広がったそれらはまるで自らの意思を持つが如く彼女に向かい収束し襲いかかる。
槍身に添う形で放たれた眩いばかりの光の群れは独りで「彼女」のいる方向に湾曲し一斉に襲い掛かる。その数40。
一旦広がったそれらはまるで自らの意思を持つが如く彼女に向かい収束し襲いかかる。
「ッ」
雲海を這うように駆ける「彼女」。
だが光の群れはその背後を執拗に追尾し食らいつく。同時にそれを放った主も槍を突き出し肉迫する。
だが光の群れはその背後を執拗に追尾し食らいつく。同時にそれを放った主も槍を突き出し肉迫する。
「――――――」
傍目に見れば絶体絶命。
振り切れないと悟ったか「彼女」は巨人に向き直り極超音速での飛行から慣性の影響も一切無く
雲海直上でぴたりと静止。胸の前で右の指を真っ直ぐに伸ばす。
振り切れないと悟ったか「彼女」は巨人に向き直り極超音速での飛行から慣性の影響も一切無く
雲海直上でぴたりと静止。胸の前で右の指を真っ直ぐに伸ばす。
「イグザブレイド、顕現化(マテリアライズ)。」
宣言。呼応するように瞬時に右の甲に文字通り「顕現」した銀の長剣。
その切っ先は鋭く美麗なれど、同時にこの世のものとは思えぬ光沢を放つ。
その切っ先は鋭く美麗なれど、同時にこの世のものとは思えぬ光沢を放つ。
それとほぼ同時に湾曲しつつ迫る光の群れ。
だが「彼女」は動じない。その猛禽の瞳に冷たい光を宿し、襲い来る脅威に真正面から立ち向かう。
だが「彼女」は動じない。その猛禽の瞳に冷たい光を宿し、襲い来る脅威に真正面から立ち向かう。
「はぁ!」
左肩に添えられ、そこから一気に振り抜かれた斬撃。
同時に大気が震えまるで見えない何かに押し出されるように吹き飛ぶ周囲の雲。
しかもそれだけではない。吹き飛ばされた雲と同時に光の群れもまとめて掻き消されてしまった。
邪魔なモノが無ければ「彼女」にとって超音速とは言え猪突猛進なランスのチャージなど恐るに足らない。直後に襲来したそれを軽くいなし、距離を取る。
巨人の方も「彼女」の方に向き直り、その燃ゆる瞳により睨みを利かす。
同時に大気が震えまるで見えない何かに押し出されるように吹き飛ぶ周囲の雲。
しかもそれだけではない。吹き飛ばされた雲と同時に光の群れもまとめて掻き消されてしまった。
邪魔なモノが無ければ「彼女」にとって超音速とは言え猪突猛進なランスのチャージなど恐るに足らない。直後に襲来したそれを軽くいなし、距離を取る。
巨人の方も「彼女」の方に向き直り、その燃ゆる瞳により睨みを利かす。
「………………」
敵の力は絶大。回避自体は比較的容易とは言え、一撃でも貰えばまず助かる見込みは無い。
それに今までの戦闘により蓄積したダメージにより機体稼働率は精々30%少々。このままでの長時間の戦闘行動の続行は不可能だが、これでは奴の追跡から逃れられもしないだろう。
更にはこちらの今使える得物はこの一振りの長剣のみ。だがこれであの機体の重装甲を貫くのはまず不可能。敵も自らと同じ超常の存在。この程度で倒せるのなら苦労はしない。
それに今までの戦闘により蓄積したダメージにより機体稼働率は精々30%少々。このままでの長時間の戦闘行動の続行は不可能だが、これでは奴の追跡から逃れられもしないだろう。
更にはこちらの今使える得物はこの一振りの長剣のみ。だがこれであの機体の重装甲を貫くのはまず不可能。敵も自らと同じ超常の存在。この程度で倒せるのなら苦労はしない。
(だが、ここでやられるつもりも無い。)
この程度の危機、幾度も遭遇してきた。
私は往かなくてはならない。立ち止まってはならない。使命を果たすまで、私に死ぬ事は許されない。
私は往かなくてはならない。立ち止まってはならない。使命を果たすまで、私に死ぬ事は許されない。
前方の敵機が槍を突き出す。
だが突撃の前動作は取らない。ただ突き出し、「彼女」に向ける。不審に思う「彼女」だったがその理由はすぐに分かった。
だが突撃の前動作は取らない。ただ突き出し、「彼女」に向ける。不審に思う「彼女」だったがその理由はすぐに分かった。
(――事象励起。新手か。)
世界が揺れる。世界が震える。世界が壊れる。
「彼女」の周囲の三箇所に巻き起こる超常的事象。空間が軋みを上げて歪みを生み、その内より何者かが姿を現す。
「彼女」の周囲の三箇所に巻き起こる超常的事象。空間が軋みを上げて歪みを生み、その内より何者かが姿を現す。
「――――――」
燃ゆる瞳。黒き装甲。
手には戦車砲もかくやと思うほど巨大なライフルを持つ。
今まで「彼女」を追い掛け回してきた機体が「騎士」だとすると今度現れたのは「歩兵」と言った所か。
手には戦車砲もかくやと思うほど巨大なライフルを持つ。
今まで「彼女」を追い掛け回してきた機体が「騎士」だとすると今度現れたのは「歩兵」と言った所か。
(シュバイゼンの今までの動作はこれの為の下準備……やってくれる。)
「彼女」や「騎士」といった超常的存在の駆動により世界に歪みを生み、そこより自身の援軍を滑り込ませる。
「ある者」を呼ぶ危険性も高いがそれ相応の技術があればこれほど効果的な増援方法もあるまい。
「ある者」を呼ぶ危険性も高いがそれ相応の技術があればこれほど効果的な増援方法もあるまい。
敵は4。自身は1。
完全に包囲された形だ。彼らがあのような技術を完成させていたとは予想外だったが敵が1体でも4体でも正直詰みである事には変わらない。
完全に包囲された形だ。彼らがあのような技術を完成させていたとは予想外だったが敵が1体でも4体でも正直詰みである事には変わらない。
『お前の負けだ。投降しろ。』
「騎士」より通信が入る。
物静かな男の声。絶対的優位な立場にありながら、彼の言葉の端々には諭すような雰囲気も感じられる。
物静かな男の声。絶対的優位な立場にありながら、彼の言葉の端々には諭すような雰囲気も感じられる。
『今ならまだ懲罰のみで済む……アリス、お前を殺したくは無い。』
それは「彼女」も分かっていた。
ランスチャージも本気で当てるつもりはなく、湾曲レーザー砲撃も出力を大分絞っており、例え直撃しても「彼女」の装甲なら怯む程度の威力しかない事に。
ランスチャージも本気で当てるつもりはなく、湾曲レーザー砲撃も出力を大分絞っており、例え直撃しても「彼女」の装甲なら怯む程度の威力しかない事に。
「――――――」
周囲の「歩兵」も同じ。
出現した位置より動く事は無く、警戒しつつも発砲するそぶりは見せない。ただ陣形を取り包囲しているのみだ。
出現した位置より動く事は無く、警戒しつつも発砲するそぶりは見せない。ただ陣形を取り包囲しているのみだ。
――だが
私は往かなければならない。立ち止まってはならない。故にこのような場所で捕まるわけにもいかない。
(…………………)
「騎士」を駆る彼の、私を気遣う気持ちは痛いほど分かっていた。
だがそれに甘んじてはいけない。私の使命は彼のいる場所で叶えられるものではない。
だがそれに甘んじてはいけない。私の使命は彼のいる場所で叶えられるものではない。
『……1分待とう。その間に投降すればよし。投降しなければ、お前を討たねばならない。』
彼の冷徹な、しかしある種彼女を思う声が聞こえる。
だが彼は敵だ。今の私にとって打破すべき敵だ。
だが彼は敵だ。今の私にとって打破すべき敵だ。
「………………」
今の私の前にある道は二つ。
投降するか、このまま立ち向かい死すか。だがどちらも進むべき道ではない。
投降するか、このまま立ち向かい死すか。だがどちらも進むべき道ではない。
――ならどうすればいい?
道が無ければ作ればいい。
その為の材料も無くは無い。だがこれは下手をすれば自らの滅びも招きかねない方法。
死するのにはまだ早い。私の使命は死しては成就できないからだ。
その為の材料も無くは無い。だがこれは下手をすれば自らの滅びも招きかねない方法。
死するのにはまだ早い。私の使命は死しては成就できないからだ。
「彼女」の内に躊躇の念が一瞬過ぎる。だがそれも一瞬。次の瞬間には覚悟のみが残っていた。
(――往こう。私は立ち止まってはいけない。私は、歩まねばならない!)
自らの内の超常の力を振り絞る。事象励起。世界干渉。
同時に周囲の世界の構造が脆くも崩れ、この世ならざる何者かがその内より出でようとする。
現象自体は先ほどの「歩兵」達の「顕現」と同じ。だが規模が桁外れに違った。
同時に周囲の世界の構造が脆くも崩れ、この世ならざる何者かがその内より出でようとする。
現象自体は先ほどの「歩兵」達の「顕現」と同じ。だが規模が桁外れに違った。
『――――!アリスッ!!』
「歩兵」達よりいち早く異常を察知した「騎士」が全力を持って止めにかかる。
だがそれは「彼女」に届く寸前に見えざる「何か」によって軽々と押し留められた。
だがそれは「彼女」に届く寸前に見えざる「何か」によって軽々と押し留められた。
『悪いな、ネモ。私は貴方達の所にはもはや戻れん。』
「騎士」の動きを押し留めた何者かが実体化していく。それはまるで巨人の掌の様。
同時に「彼女」自身の周囲に「騎士」をも上回る体躯の何者かの輪郭が姿を現す。
同時に「彼女」自身の周囲に「騎士」をも上回る体躯の何者かの輪郭が姿を現す。
「イグザゼン、顕現化(マテリアライズ)。」
無感情に、冷淡に、ただ機械的に告げられる「彼女」の宣言。
そして生まれるは超常の存在をも上回る超越的存在。世界の、時空の、全ての因果の果てより来るそれは
この世ならざる咆哮を、この世ならざる叫びを、この世ならざる産声を、三千世界に渡り轟かせたのだった。
そして生まれるは超常の存在をも上回る超越的存在。世界の、時空の、全ての因果の果てより来るそれは
この世ならざる咆哮を、この世ならざる叫びを、この世ならざる産声を、三千世界に渡り轟かせたのだった。
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