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「第二話“鋼鉄の騎士達 ~Metal Knights~”」

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irisjoker

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 『Robochemist!』


 第二話「鋼鉄の騎士達 ~Metal Knights~」



 深海で生じた気泡が細分化、光を求めて海と大気の境界線へと浮上していく。
 否、それは曖昧な像に過ぎぬ。それはいわば深層心理、寝ているときに発露するという深き世界から表の世界へと意識が顕現することを示す。
 早朝、寝返りを打つと共に眼を開けば、見知らぬ天井が広がっていた。アイボリー色と言えばいいのか、ほぼ白で曖昧な色の壁紙の上に、薄パネル式照明が淡く光る面を視認した。
 彼女の頭の下には、まるで絨毯のように明るい茶色髪が広がっている。強く、艶めかしく朝日を反射していて、繊維の細かさと緻密さを明白にしている。
 布団の中で耳を澄ましてみれば、小鳥と海鳥が競い合うようにチュンチュンギャアギャア鳴いている。なんでも縄張り争いなんだとか。頑張れ。
 寝起きで鈍い体と、血糖が廻っていないのかおぼつかない思考で、自分がどこに居るのかを考えて見れば、HRK学園の寮なのだとようやくわかった。
 そう、ここは自宅ではなく寮であり外なのだ。彼女は入学して移動疲れの身体を引きずり、やっとこさ指定されたこの場所に来て寝てしまったのだ。
 家具は既にある。あまり広くはない部屋に、ベッドを筆頭に生活に必要であろう各品々がどすんと配置されている。自分の品は、後から郵送されることになっているから、まだ無い。
 軽く伸びをして、唾をごくりと飲むと息を吸う。鈴を硝子瓶の中で転がしたような、濁りと鋭利さを併せ持つ声が、白い喉から染み出した。

 「―――………………ンぅ」

 新鮮な酸素が肺を俄かに満たしていき、血中に溶け込み、朝の清々しさを感じた。その中には春の生命力が豊富に溶け込んだ柔らかな空気もあった。
 アルメリアは眼をごしごしと擦ると、布団を抱き枕のように胸に寄せて、両脚を抱き、横に転がった。パジャマが引かれて、腰が露わになった。
 生温い布団は天国級であった。そこに突っ込んだ脚を動かせば、温かさが皮膚に染みいるようだ。なんと心地の良いことだろう。
 心地が良いと言えば、覚醒した時と、眠りに落ちる時、その両方は正反対だというのに、似たような安らぎがある。今は眠いようなそうでないような感じで、これもまた良い。
 だが二度寝を許容したらグダグダと寝続けて昼間に起きる羽目になりかけないので、止めた。目を閉じたまま上半身を起こして口に手を宛がい欠伸。双眸を開き、暫くの間ぼーっと虚空を見つめる。
 ――あれ? 今日は何の日だったかな。
 そうだ、今日は休みで明日から授業の説明会が開かれるんだった。
 頭の中でぺらりと学園のパンフレットを開き、授業日程を思い出す。確かに今日は休みだった。身辺の整理や荷物の受領。寮近辺の把握。そう言ったことをしておけということか。
 ならばもうひと眠りしてもいいが、せっかく起きたのなら時間は有効に消費したい。昔から早起きはなんとやらと言うではないか。

 「…………おはようございま~す」

 誰もいない部屋でアルメリアは挨拶をすると、布団を端に除けて、まずはだらしなく垂れた髪の毛を櫛で梳いてポニーテールに結うことを始めた。
 調理器具はあっても食材が冷蔵庫に無いから、今日はどこかに食べに行こう。


 ◆  ◆  ◆  ◆


 小中高大までをカバーするHRK学園は、アルメリアの家がある島から余り遠くない場所の島一つを全て占有して建つ、巨大な教育機関である。
 次世代を担う人材の育成を掲げ、ロボット、宇宙、医療、いずれも最先端の教育と研究をおこなっている。
 唯でさえ陸上が少ないネオ・アースでは人々の移動や生活様式も独特となる。それは教育機関でも同じことが言えて、HRK学園が島一つを丸々使っているのも、また必然と言えた。
 メガフロートでも浮かべればいいじゃないと思うだろうが、整備費や建造費の関係を考えると現実的ではない。それよりも島を拡張したほうがよほど良い。
 そんなこともあってか、利便性を考慮して小中高大などが一緒になっている学園が多い。幼稚園が一緒になっているのもある。
 もっとも、一緒になっているだけでそれぞれは別物なのだが。
 さて、学園島と称すべきその土地に来て、アルメリアが最初に口にしたのは、どこにでもありそうなハンバーガーと清涼飲料であった。食べ物で冒険はしない主義だった。
 お昼過ぎ。
 寮の周囲と、校舎への行き方を一通り頭に叩き込んだアルメリアは、明日からお世話になる校舎へと足を踏み入れた。
 5階建て校舎。西洋建築を踏襲しながら、装飾などに関して言うなら中国や日本の影響が見受けられる。そのほかは無国籍というべき、機能性を重視した感じであった。
 校舎に限らず、学園全体が西洋なのか、東洋なのか、いまいち断定しにくい建物が大半である。口を開けた白いライオンの像があったかと思えば、醜悪なガーゴイルが雨どいで翼を休めている飾りもあるのだ。
 正面の門から足を踏み入れようかと思ったが、制服も着ずに入るのは憚られた。一応携帯電話に生徒証はインストールしてあるのだが、なんとなく気後れしてしまう。悩む。リュックを背負いなおす。

 「あっ、そうだ」

 ふと、思い出した事があった。リュックから学園のパンフレットを取り出して、そのページを開く。
 そこには、5mほどのロボット同士が激しく火花を散らして戦っている絵が印刷されていた。六脚式のロボットの射撃を、頭部の兎のようにぴんと立った耳を持つ二脚式が紙一重で避けている。
 それは『Metal Knights』と呼ばれる、歩行型ロボットによる戦闘競技。兵器としてではなく、制約内で許されたロボットを使って行われる競技。
 『外殻機』という、作業用介護用のいずれにも該当しない中途半端な機体を、決められたルール内で操り戦う。
 最近各地で人気が出てきているゲームであり、アルメリアが興味を持っている事柄の一角を占めるものである。ロボットを愛する彼女にはたまらないのだ。
 視線が光線ならパンフレットを焼き穿っているであろう勢いでじっくり見つめて、リュックに突っ込む。
 競技では銃の使用も許可されていることもあってか、専用の設備が必要なのだ。
 万が一観客席に鉄をも砕く大威力が微笑めば(炸裂すれば)、結末はB級スプラッタ映画より悲惨である。
 アルメリアは胸を高鳴らせながら、スキップを交えてメタルナイツの競技場へと歩いて行った。天高く日は昇り、足を保護するスニーカーは軽く、跳ねれば髪の房が犬の尻尾のように揺れる。
 本日、とても上機嫌なり。


 ◆  ◆  ◆  ◆


 「ここかな……うーん、ひょっとして迷った?」

 周囲に気を配らず、自分がいる位置も考えずに歩きまわればどうなるかなど分かっていることだったのに、上機嫌なアルメリアは見事に迷子になっていた。
 無機質なコンクリート製の地面を、不安げに歩いていく。心なしか寒くすらなってきた。
 周囲は倉庫街。島一つが学園というだけあって、一つ一つがいちいち大きい。倉庫というか、普通の建物だろう。屋根がついているし、大型の照明装置まで見受けられる。
 赤いシャッターが正面にあり、その大半が閉じてしまっている。中には半開きの。完全に開いているが中身の無いものまで。どうやら、ただの倉庫ではなさそうだが、一体何をするところなのか見当もつかなかった。
 とある倉庫の前には飲料で喉を潤すツナギの若者。平和だ。
 耳を澄ませば、時折ガタンだのキュイーンだの、加工をしているような、何かが駆動しているような音が聞こえてくる。潜水機に乗せてもらった時のモーター音に似ている気がした。

 「もしかして……」

 ひょっとするとだ、もしかして、この場所はメタルナイツで使用される機体の整備兼保管庫なのでなかろうか。ということは近くに設備があるかもしれない。
 アルメリアはざっと周囲を見回し、倉庫の方に一歩二歩寄って、声をかけた。足音に気がついた青年が顔を上げた。
 黒髪、顔立ちから推測するに東洋系なのだろう。

 「あ、あのー。ちょっとすいません」
 「はい?」
 「ちょっと道を尋ねたいのですが、いいですか?」
 「構いませんよ」

 意地を張って自分で行こうなんて考えたら更に迷子になるのは分かり切ったことだから、道端でのんびりと携帯電話を弄っていたツナギ姿の青年に道を聞くことにした。
 青年は快く道を教えてくれた。しかもご丁寧にもメモ用紙に記号付きの地図まで描いてくれて、ここはどうだの、ここを曲がるだの、しっかりと。
 アルメリアはその地図を大事に握りしめて、競技場の方向に一歩を踏み出した。

 「わっ」

 だが、つい止まってしまった。なぜなら真正面、道路を進んでくる鉄の物体があったからだ。全高約5m。金属的な光沢こそ消えているが、ヒトと比べて圧倒的に硬質で、巨大で、無骨だった。
 のっぺりしたモノアイにはぼんやりと青い光が宿る。正面が細く、後方にいくにつれて大きくなる頭部パーツから飾りにしか見えない触角のようなものが二本。
 腕は肩と関節がやけに出っ張り、全体にちぐはぐな印象を与える。脚部は、人間のとは逆方向に関節が向いているかと思うほど不可思議な形状で、つま先に当たる部分がカンガルーの足を思わせる特異な構造となっており、細い。
 胸から腰回りはさほど凹凸はないが、女性的な曲線美すら感じる程に研ぎ澄まされている。
 ざっと見るとレース専用の車のような、戦略偵察機のような、極限まで肉を削ぎ落したような。頼りなくもあり、しかし機能美と造形美を感じた。
 ―――まるで、蚊のよう。
 アルメリアはそのような文を脳裏に浮かべ、その外殻機が脚部のローラー機構でスルスルと道路を進んでくるのを観察していた。

 「おおきい……」

 アルメリアの身長は160cm前後。対するはその数倍のロボット。象が目の前をのしのしと歩いたらこうなるのだろうか。もう動物園にしか生息していないが。
 その機体は、主機駆動の唸り声、ローラー機構、各部モーターの囁きを立てつつアルメリアの前を通過すると、さっき地図を貰った青年の前で不気味なほど静かに停止した。
 しゅーっと圧搾空気が漏れるや、機体の背面部の鍵爪のような部品が跳ね上がった。続いて中身がせり出てくると、紫色の頭が覗いた。
 はて、紫? 思わず首を捻りそうになった。
 ネオ・アース惑星改造期には遺伝子を意図的に操作することで作業に適した人種が産まれたが、それも少数で今現在は固く禁止されている。彼女彼らは髪の毛や眼の色が多少不可思議なことで知られている。
 つまり考えられる可能性は、染めているか、遺伝子改良の家系に産まれたのか、アンドロイドなのか……。
 ところがそれらはどれも間違った認識であると後に知ることになる。
 外殻機から出てきたその女性――外見はどう考えても幼女だが――は、白衣を一気に脱ぎ下にいる青年に投げつけると、機体のでっぱりに片足を乗せて、波止場で良く見る海の男より尚カッコのついた体勢をとった。
 紫色の髪がそよ風にふわりと舞い、頬を擽る。日光を知らないかのような肌はしかし、赤き血潮の存在を抹消したように白く。幼いながら髪と同じ色を湛えた瞳は理知的な光を宿しているように見えた。
 その紫少女は手で腿をぱちんと叩き、下から見上げてくる青年に口を開いた。額から汗が一滴落ちた。

 「暑い! どうにかならんのかコイツは! 排熱で蒸し風呂なのだぞ!」
 「無理ですよ。クーラーなんて乗せたらアドバンテージである機動性が駄目になってしまいますから」
 「本当にか? 努力はしたか?」
 「出来るだけの冷却と断熱はしていますが、何分機体が細いので積めませんでした」
 「フムん……仕方ないか。ところでそこの子」

 紫色の髪が翻る。紫色の瞳が見下ろす。青年が機体の側面に回って来ると、同じく見つめる。
 アルメリアはぼーっとしていた為に反応に遅れ、素っ頓狂な返事をしてしまう。だーん。勢いよく両足をそろえる。

 「はっ、はいいッ!?」

 紫色の少女は人差し指を指揮棒のように立てた。

 「入らないか?」
 「………えっ」


 ◆  ◆  ◆  ◆


 その少女の名前は『センジュ』と言った。否、少女ではなく、中身はれっきとした成人女性であり、とある理由から全身義体になっているので釣り合わない外見なんだそうだ。
 アルメリアは本人から聞いて信じられなかったが、学園の教授の一人であり、著名な研究者でもあり、義体研究も兼ねてそうしていると聞けば信じざるを得ない。ちなみに髪と眼の色は趣味らしい。
 もう一人の青年は『アオバ・タカヒロ』と名乗った。センジュの秘書兼整備士をやっているのだそうだ。
 アルメリアはセンジュに連れられて倉庫の中に入り、一通りの説明を受けた。
 彼女によると、外殻機に乗って行うゲーム『メタルナイツ』は一種の部活であるのだが、肝心の部員が悉く引退するという憂き目にあってしまい、到底試合どころではないという。
 整備士は何とかなるのだが、他は試合時の華々しさと現実との差を感じて逃げてしまうのだとか。機体に乗る人員の無いチームなど、ボールのないサッカーと同意義。
 だが良くある話だ。演奏中の可憐さと、基礎の譜面読みや暗記との差に嫌気がさして楽器を投げ出す人が大勢いるのと同じように。
 なお、部と言っても幾つも部が存在しており、それぞれがそれぞれで違う外殻機を保有しているらしい。
 春の陽気を何らかの障壁で遮っているようにひんやりした倉庫内で、二脚式の外殻機と六脚式の外殻機を肴に冷たい緑茶をすする三人。
 机なんて豪勢なものはないので、酒瓶を入れておく樹脂製の箱に円陣を組むように腰掛けている。倉庫は外から見た以上に天井は高く、潜水機の整備場にも似た設備が見受けられた。
 電気をつけるのももったいないということで、窓と正面の開放されたシャッターから入ってくる光が頼りだ。昼なのに内部が暗く外部が暗いため、瞳孔が困惑している気がしてならない。
 お茶を豪快に飲み干したセンジュは、ぷはぁっ、と気持ちの良い息を漏らし口を拭うとコップをアオバに押しつけた。アオバは素直に受け取ると、片手に保持した。

 「さて、どうだ。入る気になったか」
 「……うーん」

 『他のを見てから決めます』。
 アルメリアの脳裏に浮かび上がる、一種の決まり文句。ロボットは好きだが、他の部活(サークル)を見てからでもなんら変ではないし、まだ授業すら始まってないのだからいいではないか。
 しかし――。
 アルメリアはセンジュの方から視線を逸らすと、倉庫でどっしり構えて動かぬ外殻機を見遣った。
 倉庫前で教授自ら操縦していた二脚式機動力特化機体、『アノフェレス』。
 重装甲大火力、大艦巨砲主義を余すことなく体現した六脚式機体、『プロトファスマ』。
 コレに乗って戦えるというのならもう入るしかあるまいと思うが、一方で悩むこともある。ロボットについての部活なら他にもあるだろうし、研究会もある。わざわざメタルナイツを選択しなくてもいいのだ。
 アルメリアはプロトファスマの艶めかしい(※誇張表現です)六脚と、逞しい胸板(※誇張表現です)をじろじろ遠慮なく見遣って、その凛々しい(※誇張表現です)青色のカメラアイに熱い視線を注いだ。
 無限軌道は使えず足を使わなくてはならぬメタルナイツでは、六脚式が最大の脚部本数であり、重装甲を施せる。
 変態兵器を好むアルメリアには、たまらない。
 装甲を度外視したアノフェレスのささやかながら神秘性すら醸し出す(※誇張表現です)造形も気に入った。アノフェレス(羽斑蚊)の名の通りに頭部に触角があるのも素晴らしい。
 アルメリアは外殻機からやっとこさ視線を解除すると、再びセンジュとアオバに目を向けて頭を下げた。

 「ごめんなさい。でも、明日までには結論を出します」
 「そうか。アオバ、競技場に案内してやってくれ。この後行くつもりだったんだろう?」
 「分かりました」

 センジュは言い終わると、両脚を組んで大きく伸びをした。一般的なロングヘアを越える長さの紫糸がふんわりと香るように揺れ、小柄な体が反り、微かに震えた。
 秘書というより召使のようにセンジュに顎で使われたアオバは嫌な顔一つせず、自分のコップの中身を飲み干し、既に中身を空にしていたアルメリアからコップを受け取った。

 「では行きましょう」
 「はい。なんかありがとうございます」

 アルメリアはアオバ先導の元、倉庫から出た。アオバは倉庫から出る直前にセンジュに手を振った。
 センジュは手元の携帯電話に浮かんだ空間投影モニターを操作しており、そこには複雑な何かが白の線で描写されている。目を離さず、手をひらりと振った。

 「行ってきます」
 「行ってらっしゃい」

 簡単な挨拶ながら、センジュとアオバの間では十分すぎる。スタスタ歩き始めたアオバに、アルメリアは慌てて後を追いかけた。
 二人が居なくなった倉庫内にて、センジュは空間投影モニター内で直立する一機のロボットを、様々な角度から眺めていた。各部から棒線が伸びて数値が表示されており、モニターの天辺には小さくこう記されている。

 ――Prototype-Perseus.

 「あのー、すんませーん。誰かいませんかー!」
 「おや、今日は大繁盛のようだ」

 その機体を見つめながら計算式や技術的問題点について考察していたところ、若い女の子の声が倉庫の外からしたので、携帯電話をぱたむと畳み、箱から腰を上げた。
 恐る恐るどころか、ここは自宅だと言わんばかりの堂々たる態度で入ってきた金髪シニョンにカメラを首に提げた少女は、倉庫で鎮座する外殻機に気がつくや、圧倒されて一歩下がった。

 「わぁ、これが外殻機! いいなぁ。あ、スイマセ~ン、撮ってもいいですか!」

 金髪シニョン、シュレー=エイプリルはパンと手を打ちあわせると、目を輝かせながらさっそくカメラを構え、許可を取り付ける前に撮ろうとした。
 流石にこれを許すわけにもいかず、慌てて外殻機と少女の間に割り込む。

 「ストップ! 駄目に決まっているだろう、誰だ君は?」
 「シュレー=エイプリルっていいます! 新入生です。君は誰?」

 両膝に手を置き目線を低くするシュレーに、センジュはやれやれと首を振って腕を組んで胸を張った。
 外見はどう見ても幼女で、白衣を脱いでいるためにまんま子供に見えてしまうから困る。大人用の義体の方が面倒さはないのかもしれないが、義体を乗り換えるのは時間と金がかかる。
 だから精一杯大人な雰囲気を醸し出して、シュレーに言わんと。

 「私はこの学園で教鞭を取る教授だ。そんなことより、メタルナイツ競技に参加したくないか?」
 「入ります! むっちゃ入ります! 今すぐ入ります!」

 シュレーは話もロクに聞かずにセンジュの手を取ると、顔を前に突き出し激しく頷く。コンマ数秒という反応の良さであった。
 ああ、単純な奴で良かった。
 センジュはシュレーに何故か抱きしめられながらも安堵した。
 ――かくしてセンジュは一人目の操縦者を手に入れたのであった。


 ◆  ◆  ◆  ◆


 断続的な銃声。
 ローラー機構を利用して一気に接近せんとする一機に、機関銃を持った一機が応戦する。引き金が落とされ、ペイント弾による小規模弾幕が形成された。
 脚部を寄せ、跳ぶ。1m2m………。二脚式機体が、四脚式機体を乗り越えて背面を取った。弾幕は虚しく空間を抜けた。
 だが四脚もそんなことは分かっていたのか、銃を背面に向けて、視認することもなく発射した。きついピンクのそれが、たちまち二脚を染めるかと思われた。
 二脚式は身をかがめてそれを避けると、手に持った拳銃を四脚式に撃ち放った。ヒトが扱うことのできない大口径高速弾が四脚式の肩をかすった。たまらず、四脚式は後ろに体当たりを慣行した。
 二脚式は当てられてなるものかと、ローラーにより位置をずらすと、四脚式に更に肉薄して拳銃を押しつけた。が、四脚式が片手の機銃をその方目がけて滅茶苦茶に乱射するので、走って距離を取るしかなかった。
 四脚式の脚部ローラーが白煙を上げて、二脚式の方に向く。片手に持った機関銃からは熱気が絶えず放出され、しかし機体から上がる熱の方が強い。
 二脚式に対し、機関銃を構えて発射。二脚式のカメラアイが俄かに光るや、地を蹴りローラーにより飛翔に等しい跳躍を見せ、左右に翻弄、回避、射撃。
 ローラーが作動する度地面に痕跡が曳かれ、火花が散る。
 マズルフラッシュが、コンクリートのドーム内で輝く。
 その練習試合を画面で見ていたアルメリアは、ほほぅと感嘆した。まるでゲームのようだと率直な感想を抱くと同時に、これは現実であり本当に撃ち合っているのだと、外から聞こえてくる銃撃の音が実感を与えてくれる。
 野球場ほどの面積のドーム、その壁面に小さいカメラが幾つも取りつけられている。天井には頑丈そうな照明に、保護用の鉄骨。
 ここはメタルナイツの練習競技場。実弾を使用しないだけに壁の窓硝子から中を見ることも出来るが、念のためカメラで撮影された映像を見ていたのだ。

 「凄い………」
 「ちなみにこれは練習ですので、模擬剣とペイント弾しか許可されていません。普通の試合では実弾を扱うのでもっと激しいですよ」

 空間投影モニターのある部屋の端に腰掛けたアオバが解説する。アルメリアはモニターを夢中で覗きこんでいるのであまり聞いていないかもしれない。
 と、丁度二脚式が隙を突かれて四脚式のペイント弾でピンク色に染まったことで決着がついた。二機から人が出てくると、双方のチームメンバー達が駆けつけて機体を囲んだ。
 アオバは背筋をピンと伸ばしたまま、アルメリアに声をかけた。彼は無表情ではなく、どちらかというと興味を宿した瞳であった。

 「終わったようです。どうしますか、入りますか?」
 「それは………うーん」

 アルメリアは指を顎に触れさせると、椅子に座りなおす。そして画面に映った、メタルナイツに魅入られた連中がわいわいがやがやして機体を撤収する場面を見つめた。
 試合直後で興奮しているはずだが、二機のパイロットは機体に腰掛けて談笑している。ひょっとすると、チームメイトなのかもしれない。

 「えーっと………………ぁうー……うーん………うむむ…………入ります」
 「そうですか。ありがとうございます。操縦者ゼロではチームとして認められず除籍されるところでした」

 散々悩んだアルメリアは、顎から指を離し、ポニーテールの位置を直しつつ答えを言った。俯きから顔を水平に戻し。
 一件淡々と会話をしているように思えるアオバなのだが、言葉の端々が弾んでおり、柔らかい表情なので、嬉しいのかもしれない。好青年だという印象が脳裏にインプットされた。

 「えっと……アオバさんは、センジュさんとはどんな関係なんですか?」
 「自分は彼女の秘書兼整備士兼身辺のお世話をしています」
 「そうなんですかー………あ、次の試合が始まりますね」

 その関係を聞いたんじゃないんだけどナー……なんて言えるわけも無く。
 先程の二機はいつの間にやら撤収しており、今度は三機と三機の外殻機が並んでいた。障害物まで設置されており、本格的な模擬戦を始めようとしているらしい。
 アルメリアは画面に張り付くと(投影式なので顔を接近させた)、じっと眼を凝らした。一番先頭に居るのが攻撃手。次の防御手。最後に目標。二つのチームで使用する外殻機は、形状から足の数までまるで違っていた。
 これからメタルナイツで戦うための勉強だ。
 結局アルメリアは試合の観戦で半日程時間を潰してしまったとか。



          【終】

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