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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.6A

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 言いたい事というものは、そういう事に限って言い出しづらいもの。
 相手が迷惑を被る可能性があるとなれば尚更だ。

 覚悟を決めろという内面の声も聞こえたような気がした事もあったが、そもそも私が覚悟を決めたところでどうなるわけでもない。
 なら彼に決めてもらうのか?それこそ巫山戯るなとしか言いようがないだろう。
 彼はただの一般人だ。確かにイグザゼンとあそこまで適応出来る人間が早々いるわけではないが、だからといって私の都合で巻き込んでいいものか?
 決める覚悟などありはしない……いや、元より覚悟を決める必要など無い彼を、だ。






 この家に世話になって早3日が経つ。
 「歪み」は更に大きくなっているものの、危惧していた励起獣などの襲撃も無く見える範囲では平穏そのもの。
 そして彼に対してどう接するか考えている内に、私の内のイグザゼンのダメージはほぼ完全に修復されてしまったと言う有様。
 置かれる環境によって修復速度にも違いが出るようで、どうも普段の倍近い速度でここまで漕ぎ着けたようだ。まぁ早い事に越した事はないので何よりなのだが――

――これなら、私1人でも何とかなるのではないだろうか?

 ふと、そんな事を考えた。
 今の「歪み」の規模なら私だけでもまだ間に合う。警備を突破するのも機会を見れば何とかなる。
 他者を巻き込まずに済むのならそれ以上の事はないな。

 ……そう、私は今まで何を考えていたのだろう?この道を歩むのは私1人で十分なのだ。故に連れ添いは要らない。必要ない。
 彼らの生活を間近で見た後だと尚更そう思う。光指す世界に生きる者達――護るべき者を戦わせてどうするか。
 そう叱咤し呆けていた頭を叩き起こし、私は「いつも通り」1人で脅威と向き合った――筈なのだが


 ……どうしてこうなったのか?
 ますますもって分からない。


「これかなぁ〜?」

 いつも通りリングダム亭の工場より飛び出たベランダにて、「歪み」を監視していた私。
 警備の薄くなった瞬間を突くつもりだったのだが

「こっちの方がいいかなぁ〜?」

 今、何故かスチームヒルの一角のとある洋服店の姿見鏡の前にいる。

<ランラ「それ以上はいけない。」
「いや〜ホントみんな似合うから迷っちゃうわね〜♪」
「さっきも言ったけどあんまり高いのはダメだからな。気をつけとけよ。」

 木目調の床と壁に囲まれ落ち着いた店中には、こちらの様子など気にもせず新聞を読み耽る店主と
 私に後ろから手を回し次々とっかえひっかえ様々な服を合わせていくベルに、その横でそれを呆れ顔で見ているディー、そして何故か以前出会った1人と1機の姿まであった。

 ……どうも言っている内に更に混乱してきたらしい。順を追って整理するべきか。


 いつ「歪み」を叩くか思慮していた私の前に現れたあの2人。ベルに聞けば私の為に服を選んでくれるらしい。

 「いつまでもウェルのお下がりじゃあんまりだからね。あなたさえ良ければ買ってあげたいんだけど、どうかな?」


 気遣い自体は嬉しいが私自身まったく困ってはいない。故に断るのが筋と言えるが、何故か断れなかったのも私。強く押されると成されるがままと言うか、なんと言うか……

「……嫌なら嫌って断ってもいいだぜ?あんまりのる気でもないみたいだし……」

 ディーの言葉も嬉しいが、目の前で爛々と輝く彼女の瞳の力には負け……結局私も彼らと共に街に降りる事となった。ちなみにウェルはベルに誘われてはいたが
 読みかけの本があるとの事で付いてくる事はなかった。人が多い所や騒がしい所が苦手というのもあるらしく、その点については私も共感出来なくは無い。

 私達を乗せ走り出すキャリアー。
 向かう先、荒れ果てた荒野の内にぽっかりと空いた巨大な穴は、見慣れぬ者がまじまじと見ると怪物の巨大な口腔か何かにも思えてくる。


 ……様々なセカイを渡ってきた私だが、その目的ゆえにそこの住人と同じ視点で物事を見ると言う事は今まで1度も無かった。
 故に新鮮。故に不安……ただ、全体からすれば悪い気はしなかった。

 幾多の人々が行き交う街のメインストリートを走る私達を乗せたキャリアー。
 一本道の遥か彼方には巨大な城や要塞の如く聳え立つヒルズコンビナートが見え、脇を連なる統一されていない雑多な建材を用いて作られた建物や露店の群れは、前を行き交う人々も手伝って活気に満ち満ちていた。

「ん〜……この辺でいっかな?ディー、キャリアー置いてきてね。」
「あいよ。」
「じゃ、行こうアリスちゃん!」
「ああ。」

 私の手を引きキャリアーを降りるベル。
 私達が歩道に降りたのを見届けてから走り去っていくキャリアー。

 ガラス越しではなく、肌で感じる街の空気。
 人の寄り付けぬ場所ではなく、等身大で感じる街の雰囲気。

「………………」

 大気は排気により汚染され、雰囲気も一見華やかだが、どこか黒く危険な匂いも孕む。
 私の歩む道と比べれば人が暮らせるというだけでも大分ましと言えばそうだが、それでも決してよい環境とは言えない。

――だが

 何処か安らぐものを感じた。
 ……このようなところで、だ。不思議なものだな。

「……?アリスちゃん?」
「……いや、なんでもない。行こう。」

 目の前に佇む一軒の商店。周囲の街並みに違わず建物自体は雑多なものの、入り口から覗く店内は小奇麗にされており悪くない印象を受ける。

「ここの服屋さん、あまり来る事はないけどウチで着てる服は作業着以外みんなここで買ってるのよ。ちょっと高いけど質がいいのよねぇ〜♪」

 楽しげに語りながら店内を物色するベル。
 気に入ったらしい服を手元に着々と並べていく。

「……おー、やってるやってる。でも出来る限り安くていい奴探してくれよ?あんまり余裕無いからな。」

 5分ほどするとディーが戻ってきた。
 ベルが取り出した服を一着一着眺めつつ、そんな事を言う。

「安くて、ねぇ……それにしても予算低すぎやしない?」
「キャリアー。」
「……あ。」
「俺も工面してやってんだから文句言うなよな……」

 鉄より布が高価なのがこの街の常識らしい。
 回す金に余裕がないというのなら私の為に無駄な負担を掛けてくれなくても……なんて行きしなの車中で聞いてみたが

「いいのいいの!いつまでも男物の服じゃあアレでしょ?」

 なんてその時は返された。しかし、やはり断った方がよかったのだろうか?


「お金にお困りなら僕が出してあげようか?」
<HAHAHA!久シブリダナァミンナァ!>

 なんて考えているとどこからともなく現れたリョウとミッチー……だったか。
 買い物袋をミッチーの頭(サドル?)に載せ、以前会った時と変わらない食えぬ笑みを浮かべている。

「お断りだ……って、なんでお前がいんだよ!?」
「僕のウチの近所だからいてもおかしくないだろう?」
「言うほど近くないだろ。つーかお前が外出とは、なぁ。」
<2ヶ月ブリグライラシイゼ?買出シツイデニ服モチョット買ットク事ニシタッテヨ!>
「2ヶ月ぶり!?足に根が張りそうね……あたしだと退屈で死ぬかもしれない……」
「なぁに、本さえあれば死にはしないさ。ああ、あとヒトとして最小限必要なものがあればね。」
「本当に本だけでも死にそうに無いけどな、お前。」
「かもしれないね。」
「肯定すんな。」


 ――――で、今に至る。

「う〜ん……」

 目の前に重ねられた服の山の前で考え込むベル。
 それを覗き込み楽しそうにしているリョウ。

「アリス君に似合う服ねぇ?地がいいから何でも似合いそうだね……特にとならば、こんな感じかな。」

 と、取り出したのは黒いシックな色合いに同じようなフリルのついた――なんだろう?言いようのない病的な印象を受ける……ドレス?なのだろうか。

「こっちのほうがいいんじゃない?」

 対するベルが取り出したのはこっちもやはりドレスなのか?ピンク色の下地にフリルのついた……舞踏会にでも出席するのかという服装。
 あの紅い怪異を思い出すが、あそこまでの華美さや、ある種の毒々しい印象はない。

「お前ら……」

 後ろで呆れるどころか少々の怒りを篭った声を吐くディー。
 何故そんな声を上げているのか知らないが……彼らの選別に何か不具合でもあったのだろうか?

「じょ、冗談よ冗談!ハハハ……」
「これ以上無く似合うと思うんだけどねぇ……」

<……黙ッテルト多分トンデモナイ物着セラレル事ニナルト思ウゼ?言イタイ事ガアレバキッチリ言ウコッタ!>
「ふむ……」

ミッチーの言うとんでもない物の正体が分からないものの、確かにあれらでは身体の動きを著しく制限されて鬱陶しそうだ。
 私としてはもっと軽めの物のほうがいいか?

「私は……」


――あなたに似合う服なんてそれこそあの冷たい機動服ぐらいじゃないかしらねぇ?


「――ッ!?」

 次の一声を挙げる直前に割って入った何か。
 まただ。また、あの紅い声が頭に響く。

――男物でも不相応よ。あなたが人らしい服を着るなんて、アタシが許さない。

 不意に襲来したそれに対応する間もなく更に声は続く。
 以前の言動とは異なり愚直で、頑な。何故ここまで怒りを露わにしている?

――あなたはイグザゼン。人である前にイグザゼンなんだから。

 人である前にイグザゼン?
 確かに私はイグザゼンの器。だが、あの怪異の声にその意味は含まれてはいない。

(……どう言う事だ?)

――その内嫌でも知る事になるわ!ALICE-28!

 それきりぷっつりとリンクが途切れた。
 言いたい事だけ言って……しかし

(ッ……――28?いや、それより!)

 何処から見られている?
 私がここにいる事が分かっているという事は、即ちそういう事。

「………………」

 全身の感覚を総動員してその根源を探す。

<「「「……?」」」>

 突然黙り込んだ私の異変に気付いたのだろう。皆して心配そうに見てくれるが、説明している暇は無い。

「……!そこかっ。」

 右手の指の間にダガーを1本顕現。すかさず投擲。
 それは違わずある一点を貫いた。

「あ、アリス!?」

 店主……だと思っていたモノが広げていた新聞。その内側の頭部があるであろう箇所を。
 倒れ伏すそれ。そして――

「ちょっと!何を……」
「よく見ろ。まったく、手の込んだ事を……」

 額を割られたそれの輪郭がぼやけていく。その内側にあったのは、顔の中心にカメラアイを1つだけ持つ銀色の卵のような形状をした頭部。
 身体も黒いゴムだろうか?得体の知れないごわごわしたものに覆われ、人型ではあるがとてもではないがヒトには見えない異形。

「え、ええ!?」
<……ナンダコリャ?>
「人形……?いや、マネキンか?」
「……ニューロソルジャーだ。光学ジャミングを掛けここの店主に成り済ましていたらしい。これによって分からなくなっていたようだが、動体反応を改めてひとつ感知した。助けてやれ。」

 そう言いつつ店の裏側へ続く入り口を指す。
 殺さないのはややこしくなるのを防ぐ為か?いや、そもそも監視するならするでもっといい方法があるだろうに何故このような回りくどく面倒な事を?

「……確かに、裏側で簀巻きにされてぐっすり眠ってる本物の店主さんがいたよ……しかしこれは一体どういう事だい?」

 彼が疑問に思うのは無理も無い。
 ただ全て説明するのにはあまりにも時間に余裕が無い。あの怪異の声を聞いてからこれ以上無くイグザゼンが告げているのだ――怪異の予兆を。


――オオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ……


「……来たか。」

 直後に聞こえた吠え猛る獣の声ならざる声。
 間違いなく、励起獣のそれだ……だが、単体のものではない。輪唱の如く無数に響き、呻き渡る声――どういう事だ?

「え、何?まさか、またあの化け物?」
「そういう事だ……お前達は早く逃げろ。奴らは私のようなモノを最も優先的に狙う。近くにいれば巻き込まれるだけだ。」

 逃げられるのか?という疑問も浮かんだが、私の近くにいるよりかはそちらのほうが幾分かましだろう……なんて、その時は考えたが

「あららら……」
「ふむ、ある意味絶景かな?」
「同感……って、なんか全部こっち向かって来てる気がするんだけど。」
<モテル男ハ辛イネェ?――ット、言ッテル場合ジャネェカ?来イヨ化ケ物!群レテナイデカカッテコイ!!>

未だ目の覚めない店主をディーがおぶり、急いで外へと駆け出してみると店前の通りに次々と落下してくる怪異の群れ。
 鼻の曲がりそうな異臭を放ちつつ、車道でも、歩道でも、建物の上でも、キャリアーの上でも、無差別に着地していく。

 たちまち大混乱に陥る大通り。
 歩道にいる人々は勿論キャリアーに乗っていた人々もそれらを捨てて逃げていく――が、奴らはそれらには目にもくれず、私に向かいまっすぐ進んでくる。

――オオオオオオオオォォォォォォォォォォォ

 以前私とディーが退けたモノと同種らしいが言葉は介せないらしく、ただ唸り声とも叫び声とも付かない異様な「音」を立てながらにじり寄って来るヒトガタの群れ。
 その内のキャリアーの上に陣取ったモノの一部が無人のそれに溶け込むように姿を重ね――

「ッ!」

 奴らに同化し操られ、無人のキャリアーが猛烈な勢いでこちらへ突っ込んできた。私一人なら回避も容易なものの、今の私の背後には5人もの護るべき者がいる。故に回避は不可能。よって

「くぅぅぅ……!」

 真正面からそれらとぶつかる事と相成った。
 この状態でのベクトル干渉ではこの質量の物体相手では勢いを殺し受け止めるのが精一杯。両手を翳し、前方より迫る5台のキャリアーを「受け止める」。

「早く、行け……っ!」
「わ、分かった。無理すんなよ!」
「何も出来ないのが悔しいけど……気を付けてね!」
<俺モ一緒ニ「やめておけ。足を引っ張るだけだ。」
「……善処する。ミッチー、お前の気持ちもそれだけ受け取っておくよ。」

 駆けていくディー達。これでいい。
 奴らが彼らを追う様子も無い。殺到するのがこちらだけなら私一人でもなんとかなる。

「そう、お前達の相手はこの私だ……それ以外の何者でもない。」

 彼らの姿を見送った後、正面を見直りベクトル干渉で車体の制動を少しだけずらす。
 ずれたベクトル同士がぶつかり合い、側面衝突を繰り返し動きを止めるキャリアー。だがそれらは内部より細長いケーブルの類を延ばしつつなおもこちらに迫る。

「イグザゼン、ソートアーマー。」

 それらを一瞥し、宣言。
 セカイの方式が揺れ、私の姿を白銀の異形へと変えていく。

「――往くぞ。」

 更に手の甲より伸びる銀の剣を構え、身構える。
 敵は無数。対するこちらは1人。だが、負ける気はまるでしなかった。
 ――――少なくともここまでは。


「さぁて、好きなだけ暴れなさいよ獣達。強壮なる「在り得ざる「解」」の贄となる為にねぇ!あはは!あはははっ!!」

 遠く、ヒルズコンビナートから突き出た鉄塔に頂点に佇み、その様を眺めながら嗤う紅い怪異。
 更なる悪意の、怪異の、脅威の予感を漂わせて。

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