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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.7B

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匿名ユーザー

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 次の日は、朝から雨だった。
 暗い空より汚れた街を、荒野を、全てを、洗い流すようにしとしとと降り続ける。

「…………」

 ふと、窓の外を眺めた。
 靄の向こうにはいつもと変わらぬ街並みが広がっている。
 スチームヒルに雨が降る事はあまり無いとは言え、これぐらいでどうとなるわけでもない。ただ街で暮らす人達の出勤が少々億劫になるぐらいだろう。

「ふぁーあ……」

 ひとつ全力で欠伸。
 時計を見ればまだ5時過ぎ。俺が目覚ましよりも早く起きるなんて我ながら非常に珍しい事と言わざるを得ない。
 ベルに言えば「明日は槍でも降るんじゃない?」 ……なんて言われかねないな。

「……?」

 なんて考えている内に、足元にベルとウェル、枕元のすぐ隣にアリスがいるのに気が付いた。2人は毛布をかけられ倒れ伏すように眠り、アリスは壁にもたれ腰を降ろした状態で瞳を閉じていた。

 ここで下手に動いて起こすのも悪い。
 なのでこのまま二度寝してしまおうかとも考えたが、どうにも目が冴えてしまって眠れる気がしない。普段からこうならいいんだけどなぁ……

「――――」

 一旦上げた半身をベッドに沿わせ、窓の外を見つめる。

(……雨は見ている分にはいいものだなぁ。)

 何気なくそんな事を思った。
 ぽつぽつとトタン製の屋根を不規則なテンポで叩く雨音が、普段遠く聞こえる街の喧騒を打ち消し不思議な静寂を生み、それは何処か心地よく、そして何処か寂しくて。

「……………………」

 こうしていると昨日の事が夢の中の事だった様に思えてくる。
 街を襲ったバケモノ共、そして白銀の巨人。全部が全部妄想の産物だったのじゃないかなんて思えてくる――が

(……違う。)

 ああ、違う。
 あれは夢なんかじゃない。実際にこの街で起きた出来事。

「…………」

 少なくとも俺にとっては、これが夢なら何が現実かと言ってやりたい程度にはリアリティがある。残念ながら、不本意ながら、腹立たしいぐらいに。
 何故アレが夢じゃないのか。何故アレが現実なのか。

 わけも分からないまま、何処から湧き出たのかも分からない激しい感情と共に怪異を叩き潰した白銀の巨人「イグザゼン・ソートギガンティック」。そして垣間見た光景。
 思い出すだけでも身震いする。触れてはいけない何かに触れてしまったような背徳感。そして今俺に何が起きて、どうなってしまったのかと、困惑し、混乱し、恐怖し、だが言いようのない高揚感のようなものまで感じて。

「――――ッッ!!」

 様々な感情をない交ぜにしたワケの分からないそれ。
 毛布を思わずきつく巻きつけ、震える身体を押さえ込もうとした。
 だがそれも無意味。溢れ出る何かは俺の思考を染め、染め、染め、そして――


「――それが、“イグザゼン”だ。」


 何処から聞こえたかあの子の昂揚の無い声。

「無事か?」

 いつの間にかベッドのすぐ脇に佇み、こちらを静かに見下ろすアリス。

「あ、ああ……」
「起きるのにはまだ早い。休んでおいた方がいいだろう。」
「…………」

彼女の声の後、さっきまでの妙な感覚は潮の引くようにスッと飛んで消えてしまっていた。それを感じたのかあの子もさっきのように壁にもたれ瞳を閉じる。

「……………………」

 あれは一体何だったのだろう?
 寝転がりつつも眠れず、妙に冴えた頭でしばし考える――が、それもじきに止めた。
 やはり寝起きは寝起き。寝転んでいれば眠くなるのも道理であり、まどろみの中、夢の世界へと再び旅立とうとするのもまた道理。
 深く考えるのは起きてからでも遅くは無い。そう考えて夢の中へと再び旅立とうとした


 そんな時だった。




――――劫



 不意を突き、至近距離で爆弾が炸裂したかのように耳を劈き、これでもかと大気を震わす強烈にして猛烈にして激烈な爆音。
 柱は軋み、壁に亀裂が走り、下手すると家自体が崩れてしまうのではないかと思えるほどのそれは、現と夢見ていた者を叩き起こすには十分過ぎる代物だった。

「な、何!?」
「地震!?」

 慌てて飛び起きるベルとウェル。
 その動きの何テンポも前に2人を庇う様に前に立つアリス。ウトウトとしていた俺も、しどろもどろになりつつ何事かと周囲を見渡す。

「皆動くな!そのまま――!」

 困惑する俺達を右手で遮り制止し、珍しく声を張り上げるアリス。

「目標の顕現座標を確認。遮蔽物の強度確認……」
「……?」

 間違い無くただ事ではないその反応。ただ俺達が一体どうしたかと尋ねる前に

「悪いな。」
「!?」

 彼女の姿は鋭い音や土煙と共に、俺達の前から消え去った。


 迂闊だった。

「…………」

 「彼ら」が私の居場所を知らないという保障は何処にも無かったのだ。
 ただ泳がされていたという可能性を省みず、何故あんな腑抜けた戯言を言ってここに居座り続けたのか。自身の低能さ加減にこれ以上無く腹が立つ。

 床を踏み抜き突き破り、着地した場所は作業場周辺。
 工具や機械の群れが立ち並ぶ周囲は早朝の静寂に包まれ、一見普段通り――――だが

「――それで隠れているつもりか?」

 イグザダガー、顕現化(マテリアライズ)。
 力も入れず振り抜かれた1本の短刀は、14,5m離れた一見何も無い地点の虚空に突き刺さり亀裂を入れる。

『――――――』

 そこにいたのは「彼ら」の駒“繋脳兵(ニューロソルジャー)”。
 右の手甲によって短刀を受け止め、同時に迷彩を解き実体化するその異様。

 だが、奴はそれと同時に後方へ飛び退く。
 別に臆したわけではあるまい。彼らは純然たる機械。目的の為ならば自身の身の安全など省みる事は無い。ならばその行動にも意味がある筈。

「……付いて来い、と言う事か。」

 向かう方向に一抹の不安を覚えつつ、その姿を追った先には案の定と言うべきか、バールの部屋があった。
 周囲には工具類や書籍が散乱し、更には見違うはずのない

「―――――」

 極めて不自然にして非日常的な

「ネモ……!」
「――久しいな、アリス。」

 脅威がいた。


 男。
 黒い男。
 深い黒色のコートを身に纏い、その黒と同じ色をした髪を短く纏めた長身でありながらがっしりとした体格の男。

「彼は預かっていく。」

 ネモ。
「彼ら」に属する者――エージェント。

「アリス……」

 バールは奴の後方にて二体の繋脳兵にて左右から拘束されていた。

「……どういう事だ?お前は私を捕らえるのが目的では無かったのか?」
「今はお前を捕らえよとの命は受けていない。その代わりがこれだ。」
「理由は?」
「命じられたまで。それ以上の理由は無い。」
「だろうな。」

 ネモはただ淡々と事務的にそう言う。

「――しかし解せんな。やろうと思えば私以外の誰にも気付かれずに、痕跡1つ残す事無く浚う事ぐらい容易に出来ただろう?一体何が目的だ。」
「言ったはずだ。私はただ命じられた指令を果たしたまで。故に問うても答えは無い。」
「…………」

 彼の言う通りだろう。この問いも無駄なものに違いない。ただ――

「確かにそうなのかも知れんな。だが、今の私は――――」

 瞬く間に閃光と共に顕現した、右の甲より伸びる銀の切っ先をネモに突きつけ

「――――――妙に腹が立っている。」

 真っ直ぐに見つめ、そう答えた。


 そこで待っとけと言われて、分かりましたと待ってられないのが俺達。
 自分の家で今何が起きているのか知りたいのは当たり前だが、そもそもあの子を放って置けないというのもある。

「兄ちゃんの部屋の真下って作業場だったよね?」
「ああ。だけど飛び降りた後すぐいなくなったみたいだし……何処行ったんだか。」
「アリスちゃんの事も勿論心配だけどバールも気になるわね……いくら寝てたといってもあれで起きないはずは無いし、とりあえず見にいきましょ――――きゃ!?」

 3人で作業場へ向かう階段を下りる最中に襲う再度の揺れ。
 皆して左右の壁に捕まりなんとか耐えるが――

「い、今のは……?」
「――ッ!」
「兄ちゃん!?」

 今の揺れ――間違いない。さっきの物と同じ類の揺れだ。
 事象震……アリスがそう呼んでいたこの世ならざる異様な揺れ。


――――eXar-Xen might access


 それが切っ掛けとなったのか。
 瞬時に超越的な機構をもって情報が脳内を伝達し、統合し、結合し、出力され、知覚される。

――……お前が他人の為に剣を執るのか?

 “イグザゼン”を介し、脳裏に響く何者かの声。
 聞いた事も無い低い男の声。誰の声かは分からないが、少なくとも温情は一切感じられない背筋の凍るような冷たい、機械的な声。

――奇妙だろう?私も自分でそう思う。だが、この家の者に私は世話になった。それをこのような仇で返すとなれば、それ相応の償いはしなければなるまい。

 続いて聞こえるアリスの声。
 仇?一体何を言って……

――この男、バール・リングダムはお前の使命に一切関係は無いというのにな。
――意味は無くてもやらねばならん。そう私は判断した。

 バール?何でバールの名前が出てくる?バールにこいつは一体何をした!?

「……ディー?どうしたの?ディー!」
「心、ここにあらずって感じだね……」

 皆の声が遠く聞こえる。が、返事をしている余裕は無い。
 ただ、やる事は決まった。

「……行かないと!」
「え?」
「兄ちゃん!?」

 2人を置いてとにかく急ぐ。
 走り、駆け、飛び、瞬く間に階段、作業場、廊下を突き抜け、バールの部屋にまで駆けつける。

「バールッ!!」

 息を荒げ、声を上げ、辿り着いたそこには――

「そのまま動かずにいろと言ったはずなのにな……」

 少々呆れたような声を上げるアリスと

「君か。」

 彼女に銀の剣を突きつけられた、先ほどの声の主らしい黒い男。
 そして昨日も見た銀の卵のような形をした頭を持つ良く分からない人型のモノに捕まったバールの姿があった。

「おい、バール!」
「ディー……か……」
「一体何がどうなって……いや、そんな事はどうでもいい!てめぇ!バールを離せ!!」

 そのままの勢いで黒い男に向かって喰らい付く。
 だが当の奴はさして気にもしないように

「断る。彼を連れて帰る事が我が主よりの使命。返して欲しければ力づくで奪ってみるのだな。」
「何!?」

 そんな事を言ってくれる。

「それが無理なら彼は連れて行く。どうだ?今のお前にはそうする私を止める事が出来る“力”があるのだろう?使わざる力など力なものか。行使してこそ始めて意味がある……違うか?」

 “力”。
 俺の内でそれに該当するモノはただ1つ。他に何があるものか。
 それは聞こえるはずの無いものを聞かせ、見えるはずの無いものを見せ、砕けぬはずのものを砕いてみせるある種理不尽極まる力。

「何が目的かは知らねぇが……俺を釣る為にバールにこんな事をしたのなら、てめーをぎったんぎったんにぶっ潰すまで!」

その名は


「イグザゼン、ソートアーマーッッ!!!」


 湧き上がる想いのままに全身全霊を持って吼える。
 それに呼応し瞬時に律動するこの世ならざる方式。そして解。
 それは俺が意味を理解する前に形を成して、その身を包む白銀の甲冑へと姿を変えた。

「御する者のソートアーマー、か……出来うる限り今のお前達の力を測れというのも私の任務。」

「――故に見定めさせてもらうぞ。シュバイゼン、ソートアーマー。」


 男はソートアーマーの顕現の完了を見定めつつ、高揚の無い声でそれだけ呟いた。
 同時に黒く沸き立ち、周囲の家財道具や書類などを一切合財巻き込みつつ渦を巻き、変革してゆく空間、世界、全て。
それは超常の力をもってこの世の理を悉く塗り替え、この世ならざる方式へと「変形」させていった。

「これって――!?」

 妙に既視感を感じる光景。
 思い返してみれば、イグザゼンのソートアーマーを行った時とそっくりなのだ。このような奇妙奇天烈極まるモノが2つもある事自体驚きだが、アリスは別段驚いた様子も無く

『“ソートアーマー”。イリーガルコードの攻質変性第1段階であり、もっとも基本的な攻撃形態――今貴方が纏っているモノと同質の存在だ。』

 耳元でそう呟いた。
 やがて奴を覆っていた黒い渦は収まり、その中心にはさっきの奴よりももっともっと黒い人影が佇んでいた。

 悪魔的とも言える攻撃的な装飾を施された夜の闇より尚冥い、全身をくまなく覆う艶の無い闇色の装甲。
いかつい胴体に反し不釣合いなほどに細長い奇妙な四肢を持ち、爛々と紅く燃える両瞼はこちらを真っ直ぐ睨み付ける。
その姿はまさしく異形。夢に出てきそうな怪異だが、頭に血の昇った俺はそんなもの微塵も臆する事は無く

「先手必勝!その細腕、圧し折ってやらぁッ!!」

 猛り、吼えながら、全力を持って突貫した。

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