「こんなナリで1人出稼ぎねぇ……嬢ちゃん、苦労してんだな。」
「あ、いや、そういうわけでは……」
「隠さんでもいいよ、隠さんで。だからほら、これはお礼代わりの俺らの奢りだ。食べて力付けなよ!」
「…………」
「あ、いや、そういうわけでは……」
「隠さんでもいいよ、隠さんで。だからほら、これはお礼代わりの俺らの奢りだ。食べて力付けなよ!」
「…………」
私は何も特別な事をした覚えは無い。
ただ己に対する害意を払ったのみ。なのに何故こんな事に――?
ただ己に対する害意を払ったのみ。なのに何故こんな事に――?
(これは……)
目の前に広がるのは山盛りの食料。
人1人が1日で消費するカロリーの実に3倍と言った所か。食べると言う行為自体に意味が無く、故にあまり慣れていない私で無くとも、全て消費すればむしろ不具合が起こるのは間違いない。
だが、彼らは間違いなく善意で私に対してこのような振る舞いをしてくれている。ならば全て消費せねば失礼に値するのではないか?しかし――
人1人が1日で消費するカロリーの実に3倍と言った所か。食べると言う行為自体に意味が無く、故にあまり慣れていない私で無くとも、全て消費すればむしろ不具合が起こるのは間違いない。
だが、彼らは間違いなく善意で私に対してこのような振る舞いをしてくれている。ならば全て消費せねば失礼に値するのではないか?しかし――
「…………」
「どうした嬢ちゃん、考えこんじまって……食べないのか?」
「ねーちゃんが食べねぇんなら俺がもらっちゃうぜ~!」
「おいコラ!お前にやったんじゃねぇ!」
「どうした嬢ちゃん、考えこんじまって……食べないのか?」
「ねーちゃんが食べねぇんなら俺がもらっちゃうぜ~!」
「おいコラ!お前にやったんじゃねぇ!」
10台そこそこかの少年が皿の1つを取り上げ、食堂の外へと持ち去っていく。
それを父親らしい大柄な男が追いかけていく。私が別にいいという前に2人の姿は視界から消えてしまった。
その後も周囲は私の事など放っておいて酷く賑やか。よほど彼らが憎かったのか、それともただ単に騒ぎたいだけなのか……ともかく、食堂は即席のパーティー会場へと変貌していた。
それを父親らしい大柄な男が追いかけていく。私が別にいいという前に2人の姿は視界から消えてしまった。
その後も周囲は私の事など放っておいて酷く賑やか。よほど彼らが憎かったのか、それともただ単に騒ぎたいだけなのか……ともかく、食堂は即席のパーティー会場へと変貌していた。
「……やれやれ、気を悪くせんでおくれよ?」
「ああ、構わない。」
「ああ、構わない。」
周囲を見回す私に気遣うような口調で話しかけてきた老婆。
歳はバールよりも一回りほど上だろうか、簡素な服装に真っ白な髪、皺だらけの風貌だが至極穏やかで親しみやすい雰囲気を持つ。
歳はバールよりも一回りほど上だろうか、簡素な服装に真っ白な髪、皺だらけの風貌だが至極穏やかで親しみやすい雰囲気を持つ。
「アタシを含むここに住み込みで働く者達にとって、あやつらは憎っくき仇のようなもんなのでな。それが言い方は悪いがお前さんみたいな小娘に軽く捻られたという事が若いもんにとってはこの上なく嬉しいのだろうよ。」
「住み込み……彼らは乗客では無いのか?」
「乗客もいるが、まぁ住み込みの方が多いね。ここで暮らして荷物の積み下ろしや乗客の世話なんかを生業にしているんだ。これが南に行けば南に、西に行けば西に……ちょっとした旅人のような気分かな。」
「ふむ。」
「大体はそこらのジャンクヤードから志願して乗り込んでいるんだが、アタシのようにここで生まれて、一生をこうやって暮らしてきたもんもいる。もうかれこれ90年くらいか――ここで働くのも中々楽しいもんだよ?」
「…………」
「住み込み……彼らは乗客では無いのか?」
「乗客もいるが、まぁ住み込みの方が多いね。ここで暮らして荷物の積み下ろしや乗客の世話なんかを生業にしているんだ。これが南に行けば南に、西に行けば西に……ちょっとした旅人のような気分かな。」
「ふむ。」
「大体はそこらのジャンクヤードから志願して乗り込んでいるんだが、アタシのようにここで生まれて、一生をこうやって暮らしてきたもんもいる。もうかれこれ90年くらいか――ここで働くのも中々楽しいもんだよ?」
「…………」
彼女の人生は満ち足りたものだったのだろう。
それは彼女の姿を見ていればよく分かる。
それは彼女の姿を見ていればよく分かる。
――――それと比べて私はどうか?
ただただ己に与えられた使命を果たす為にセカイを行き交い、彼らから逃れ、獣を殺し、そうやってきた私は何を得ただろう?
「お前さんさえ良ければここで働き口を見つけてあげてもいいけど――」
「……気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。」
「そうかい。まぁその腕っ節があれば仕事には困らんだろうて。カッカッカッ!」
「……気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。」
「そうかい。まぁその腕っ節があれば仕事には困らんだろうて。カッカッカッ!」
今まで、己の存在意義について疑問に思った事は無かった――否、思えなかった。
そうすれば崩れてしまうから。何もかもが崩れてしまうから。
だからそうやって己が弱い想いを思考の外へと締め出していた。だが――――
そうすれば崩れてしまうから。何もかもが崩れてしまうから。
だからそうやって己が弱い想いを思考の外へと締め出していた。だが――――
(……何故今こんな事を考えている?)
分からない。分からない。
自分が何を想い、何を考えているのか分からない。
私は個人である以前にイグザゼンという存在の制御装置。
己に、人に仇なす脅威を退けるのも創造主により刻まれたある種の本能。思考としては自分で考えているように感じるが、自意識とは到底呼べまい。
自分が何を想い、何を考えているのか分からない。
私は個人である以前にイグザゼンという存在の制御装置。
己に、人に仇なす脅威を退けるのも創造主により刻まれたある種の本能。思考としては自分で考えているように感じるが、自意識とは到底呼べまい。
それは理解していた。それらは理解していた。
故に当の昔に己はそういう物だとして納得し、考える事をやめていた。
なのに何故今更己が存在意義などに疑問を持つ?何故こうやって思考している?
故に当の昔に己はそういう物だとして納得し、考える事をやめていた。
なのに何故今更己が存在意義などに疑問を持つ?何故こうやって思考している?
(――――ッッ!!)
頭の中で火花が散る。
浮かび上がるのは彼ら――リングダム家の者達。
そして何より
浮かび上がるのは彼ら――リングダム家の者達。
そして何より
ディー・リングダム
彼の姿だった。
彼は私の“御する者”。
この世ならざる力――“イリーガルコード”。その最も力ある姿“ロストフェノメオン”であるイグザゼンの心であり、
“式”を行使し、“解”を生む事の出来る存在。故に特別なのは当たり前。だが――そうではない。それだけではない。
この世ならざる力――“イリーガルコード”。その最も力ある姿“ロストフェノメオン”であるイグザゼンの心であり、
“式”を行使し、“解”を生む事の出来る存在。故に特別なのは当たり前。だが――そうではない。それだけではない。
――恩を売る為なんかじゃねぇ!謝らせる為でもねぇ!泣かせる為では断じてねぇ!!
昨日の彼の言葉が頭に浮かぶ。
彼は私に何をした?私は彼に何をした?
私には分からない。私のこの思考が分からない。
ただ、この胸の内に湧き上がる言いようのない衝動は――不可思議な感情は――――
彼は私に何をした?私は彼に何をした?
私には分からない。私のこの思考が分からない。
ただ、この胸の内に湧き上がる言いようのない衝動は――不可思議な感情は――――
「ここかぁ!俺のかわいい弟分を可愛がってくれたクソガキがいるってのはー!!!」
「――ッ」
「――ッ」
思考中断。戦闘モードに移行。
状況確認。敵性動体5。脅威度E+。最低ライン。それぞれに対人武装の所持を確認。
よって要排除対象と認定。
状況確認。敵性動体5。脅威度E+。最低ライン。それぞれに対人武装の所持を確認。
よって要排除対象と認定。
「――行動開始。」
奴らが乗り込んできたのは、俺が野次馬に囲まれ身動きが取れずどうしようかと考えていた、そんな時だった。
アリスがなんであんな事になっているのか、それはともかく……突然のいかにもなドラムマガジン付きのマシンガンやら拳銃やらを持った荒くれどもの乱入に周囲は一時騒然となったが――
アリスがなんであんな事になっているのか、それはともかく……突然のいかにもなドラムマガジン付きのマシンガンやら拳銃やらを持った荒くれどもの乱入に周囲は一時騒然となったが――
「出てきやが――ぐぼぁ!?!?」
その筆頭らしい男が言葉を言い終わる前に、その鳩尾に情け容赦ない一撃が打ち込まれた。
その拳の主は言わずもがな、あの子。さっきまで向こうのテーブルの前に座っていたはずなのにいつの間に……
その拳の主は言わずもがな、あの子。さっきまで向こうのテーブルの前に座っていたはずなのにいつの間に……
もかく目を見開き、口をだらしなく開けたまま泡を吹き、身体をくの字に折り曲げつつ前屈みに倒れ伏すスキンヘッドの男を他所に、
彼女は未だ何が起きたのか状況が飲み込めていない周囲の取り巻きの男達を見渡す。
「――で、私に何の用だ?」
その瞳は機械的とも思えるほどに冷淡で、揺ぎ無く、必要とあらば殺す事にも躊躇しない……ある種の“凄み”があった。
「な、何だよこいつ……いつの間にここに……?」
「本物のバケモンかよ……!」
「何処のどいつだ!銃があればいけるなんて言ったの!!」
「お前じゃねぇか!」
「本物のバケモンかよ……!」
「何処のどいつだ!銃があればいけるなんて言ったの!!」
「お前じゃねぇか!」
もはや狩る側ではない――というか初めからそっち側ではなかった――男達は手に持った物の事も忘れてたじろぎ、後ずさる……が、どうやら重要な事を忘れている、もしくは見落としているようだった。
「…………あ、あれ?」
「なんで皆さんお集まりで……?」
「これは、ヤバイ……かな?」
「なんで皆さんお集まりで……?」
「これは、ヤバイ……かな?」
向けられるのは無数の侮蔑の視線。
自分達が完全なアウェー戦にしゃれ込んでいた事を。
自分達が完全なアウェー戦にしゃれ込んでいた事を。
「アリス……」
「……ディー、か。」
「派手にやるなぁ……」
「必要があったからそうしたまで。」
「だからって、あのハゲの言い分ぐらい聞いてあげても……」
「必要ない。」
「そっか……」
「……ディー、か。」
「派手にやるなぁ……」
「必要があったからそうしたまで。」
「だからって、あのハゲの言い分ぐらい聞いてあげても……」
「必要ない。」
「そっか……」
ただ――俺達も、奴ら並みに大事な事を見落としていた。
窓の外の下りの路線。そこにこちらを猛追する“何か”が迫っていた事を。