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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.3D

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匿名ユーザー

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――connection. part

「――――――」

 影が見えた。
 真っ白な背景に染みのような影。

 カタチが定かになるに連れ、それが人の影だと分かった。
 両手を広げ、大の字になった影。

 更に鮮明になってくるとその奥に大柄な何かが見えた。
 辛うじてヒトの形をしているが、それは人ではない。はっきりと見えていなくてもそれだけは分かる。

――励起獣

 「生」と「セカイ」をただひたすらに求めるこの世ならざる亡者。
 地獄より響くような怨嗟の声をあげ、満たされぬ欲求を満たす為餓鬼の如くただ本能の赴くまま食らって、食らって、食らい続けるのみが行動原理にして存在意義。
 だがその欲求はいくら食らったところで決して満たされる事はない。

「――――――」

 だが食う事で満たされる事は無くとも、別な方法で飢えを満たす事は出来るそうだ。

 それは超越的存在――ロストフェノメオンを自身の依り代とする事。
 私――イグザゼンや、あの紅い怪異のようなセカイ外の存在でありながら確固たる自己を持つ存在は、
セカイ内にて自己を保つ事が出来ない励起獣が依り代に使う事で確固たる自己を手に入れることが出来る。

「――――――」

 ……まぁ「出来る」というだけである。
 私にあの餓鬼共に差し出す身体は無いし、何よりまだやるべき事がある。

 そして何より奴らは「歪み」の筆頭。
故に狩る。それが私の存在意義のひとつ――「歪み」を正す事に繋がるから。

「―――ッ!?」

 だが攻撃態勢に入ろうとして、自身の置かれている状況に初めて気が付いた。
 損傷率80%――武装など使えた物ではないし、そもそもソートアーマーが顕現出来ているだけでも奇跡的と言っていい。

そしてもうひとつ、気付いた事がある。
自身の目の前にいる黒い影。励起獣の物ではない、見覚えのある影。

(誰だ……?)

 意識は比較的しっかりしているものの、センサーに異常が生じたのか画像が飛び飛びで表示され、まともに見れたものじゃない。

 だがそんな状態でも分かる事はある。
 ひとつは、その影が私の10mほど前に立っている事。
 そしてもうひとつは――


――――私を、守ろうとしている事。


――ナンダテメェハァ!アイツノヨウニブットバサレテェノカ!!

 邪魔をされて腹を立てたか、声を荒げる怪物。
 どろどろとした液体で身を固め、その表面を燃え盛る炎で覆う。

「こいつには貸しがあるんだ!お前なんかにやれねぇよ!!」
――吠エタナ小僧!!テメェモ食ワレテェノカァ!!
「!」

 奴は拳を振り上げ吼えながら、足を引き摺りゆっくりと迫る。
 俺は言う事は言うものの、じりじりと気圧され、後ずさりする。

 あんな丸太のような拳をまともに受ければ一溜まりも無い。
 だからといって俺みたいなのが殴りかかったところで奴は毛ほども思わないだろう。
 ならなんとかして連れて逃げるしかない。幸い奴の動きは鈍い。これなら追いつかれる事も無いと思う。

「――――」

 正直、怖いという感情もあるがそれ以上に心細い。
 何故かというとああいう怪物と相対したのは初めてじゃない。
だがそういう時は決まってバール渾身の作であるテツワンオーに身を守られて、ある種の余裕――これさえあればなんとかなる――そういう不思議な確信のようなものがあったからだ。
だけど――

「――――」

 今俺を守ってくれるモノは何も無い。
 むしろ俺が守る番だ。俺がテツワンオーの装甲で、俺がテツワンオーの足で、俺がテツワンオーの腕……生憎そんな強力な物じゃないがやれるだけはやってみる。
 それもせずに逃げちゃったら、この場は助かったとしても多分一生後悔するだろう。

「――ッ!」

 それだけは死んでもいやだ。
 だからなんとか2人一緒に逃げないと――

――テメェ逃ゲヨウトシテルナァ?
「――――!」
――アンダケ大口叩イトイテソレハネェヨナァ!

 一瞬怪物の大きさが縮んだ気がした。その直後――

――逃ガシハシネェ。ソコデノタウチマワットケェ!
「――あ、が!?」

 突如背後から足を襲う鋭い痛み。
 見れば地面から飛び出た真っ黒な刃がズボン越しに両足の太ももに深々と突き刺さり、切り口から鮮血が湧き出ている。
 突如背後から足を襲う鋭い痛み。
 見れば地面から飛び出た真っ黒な刃がズボン越しに両足の太ももに深々と突き刺さり、切り口から鮮血が湧き出ている。

「――あ、あ……」
――テメェモ後デ食ッテヤル。ソノ目ノ前デコイツヲ頂イテカラナァ!

 頭が真っ白になる。立ってられず尻餅をつく俺を他所に怪物の動きが早まり、まっすぐあのロボットのところへ向かっていく。

――コレデ、俺ノ乾キモ癒サレル。飢エモ、何モカモガ……

 何が「俺が守る番」だ。
 この程度で立つ事もできず、守る事もできない。挙句の果てには俺自身もやられるなんて。

「く、そ……!」

 腕の力だけで這っていくがとてもじゃないが間に合わない。
 更に多量の出血で感覚が鈍る。更に――

「っ!」

 まだロボットが墜落した周辺の地面は冷め切っていない。
 服を焦がし、身を焦がして生じた焦げ臭い匂いが鼻に付く。
 そして痛み。焼け付いた地面を這うごとにそれはどんどん増していく。

――ハ、ハハハハハハハ……!

 勝ち誇ったような、心の底から生理的嫌悪を根付かせてくれる不快な歓喜の声。
 ますますもってこの貧弱な身体が憎くなる。

――コレデ、コレデ……!!

 遂にロボット目前まで迫った怪物。
 頭らしき部分が膨れ上がり、グロテスクな口のような器官が露出する。
 どうやらあれで取り込むつもりらしい。

――イタダキマァ……
<ソノキチャナイ顔ヲ吹ッ飛バシテヤルゼェ!!>

 万事休すか。
 そう思ったときだった。前触れ無く風船のように弾ける怪物の頭。
 事態が飲み込めない俺だったがすぐに何が起こったのか分かった。

<サッキハイイパンチダッタゼエ!ダケドナァ!ソイツハディーチャンノ命ノ恩人ダ!テメェニクレテヤル道理ハネェ!!代ワリニアリッタケノ鉛弾ヲクレテヤラァ!!>

 肘のコンテナからロボットアームと入れ替わりに展開され、右腕に直接装着された特製のアサルトライフルから硝煙を漂わせ、啖呵を切るミッチー。そして更に撃ちまくる。

――ウゴゴゴゴゴッ!?

 全身を余す事無く蜂の巣にされ仰け反り続ける怪物。
 遠くで何事かと集まり覗いていたギャラリーのほうまで押しのけられ、見物人達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

<チィッ!効イテネェナァ!>

 ミッチーの言うとおり、確かに仰け反りはするものの、それでも奴はこちらへ向かってこようとしている。
じきに弾薬が切れればまたこちらに向かって襲い掛かってくるだろう。

「よっと。」
「!?」
 そんな事を考えていると突然引っ張り上げられた俺の身体。
 高温の地面から離れ、痛みが和らぐ。

「まったく、痛そうだねぇ。それ。」
「リョウ……か。」

 いつの間にか脇にまで来て肩を貸してくれたリョウ。
 その顔には苦笑が浮かぶ。

「さっさと手当てしたほうがよさそう……でもアレ――励起獣は僕ら全員を一人残らず亡き者にするつもりだろうね。」
「レイキジュウ?」

 聞き慣れない名。
 リョウは俺ではなく奴を見据えながら言葉を続ける。

「そう。さっき思い出したんだけど、ロンが研究していたと言う「セカイ外の存在」……その筆頭があんな怪物だったのさ。
 彼が行方不明になる前に研究しているモノについてはいくつか教えてもらったこともあったけど、正直眉唾物でね。今まで気にも留めてなかったんだけど、ああも目の前で暴れてくれちゃ信じる信じない以前の問題だな。」

 話す内にいつの間にかリョウの顔から笑みが消えていた。
 励起獣……あんな化け物がこの街で暴れたらとんでもない事になる。少なくともあれは人を食うんだ。今ここでどうにかしないと。

「ロンからアレの弱点みたいなモノを聞いた事はないのか?」
「うーん……あれがこの世界で存在し続ける為には依り代みたいなものが必要不可欠らしい。それさえ壊せば存在する事すら出来ず、消え去るなんて事を聞いた事があるけどその依り代が何処にあるかまでは……」

 あれだけ蜂の巣にされても原形を留めてるんだ。
 表面上には無いんだろう。奴にとっては大事な物だろうし、内側にあるのだろうか?

「………………」

 だとすると本当にどうしようもない。
 何か手は無いのか、何か――


――eXar-Xen


「ッ!?」

 声が、聞こえた。どこから?
 その疑問は疑問となる前に回答を叩きつけられた。

「ディー君!それ!」
「ああ、ノートが……」

 腰周りにつけたポーチから漏れ出る光。
 開けてみれば案の定、例のノートから紅い光が溢れている。それもさっきの比じゃない。あの子が現れた時と大差ないほどの凄まじい光だ。

「さっきよりも輝いてるね……」
「何かを……呼んでいる?」

 確証は無い。が、確かにそう感じる。
 同時に感じるノートの内に内包された凄まじい力。これは一体……

「――リョウ、あいつにもっと近寄ってくれ。」
「分かった。」

一歩また一歩、ゆっくりとゆっくりと半壊したロボットへ向かう俺達。
そんな中、あのロボットの瞳に薄っすらと光が戻った。

「――――!!」

 闇の内。薄っすらとした影の手の先に光が見える。
 紅い光。だがあの怪異のようなモノじゃない。もっと暖かい光……

「これ、は……」

 手を伸ばす。
 届かぬ光。
 いつか見た光。
 闇の中の光。
 遠き光――――だがそれは今、確かに近くにある。


「これ、は……」
「!」

 ズタボロのあのロボットがほとんどフレームのみとなった手を伸ばす。
 瞳の青は戻ったものの酷く薄く、今にも消えそうだ。

「……この、ノートか?」

 返事は無い。
 だがそれは間違いない。俺には分かる。ノートを通じて何かが伝わってきているからだ。
 分からない。分からない。だが、今しないといけない事だけは分かる。

「リョウ、出来るだけ遠くに逃げてくれ。近くにいたらどうなるか分からん。」
「……分かった。」

 意図は読めないといった表情をしていたが、肩から俺を離し、離れていくリョウ。

「今何が起きているのかはさっぱりだが、やらなきゃいけない事だけは良く分かる……ロボット、いや「イグザゼン」。お前のなんだろ?これ?」

 後ろのページが破け、周囲を紅く染める物自体は真っ白なノートをイグザゼンに差し向ける。
 イグザゼンもそれに応じ、ゆっくりと手を伸ばす。

「ああ、そうだ……私の、私達の掛け替えの無いモノだ……」

 イグザゼンの震える手がノートの先に触れる。
 その時ノートの破れた場所に白い光が集まり、完全な形へと再生した。

「……お前も喜んでるのか?」
 光はこれ以上無く瞬き、表面を稲妻のように走り、あの子が来たときのような「揺れ」が周囲を襲う。
 今なら分かる。これは「セカイの揺れ」。この世ならざるモノの産声だ。

「で、言わなきゃいけない事も「聞こえる」。たった一言なんだな。お前は苦しそうだし、俺が言ってやる。」
「………………」

 これ以上無く息を吸い込み、腹の底から声を出そうと力を振り絞る。
 「揺れ」も最高潮に達し、周囲の「セカイ」の構造が脆くも崩れる。

――そして、俺は叫んだ。


「イグザゼンッ!ソートアーマーッッ!!」


 限界を超えたセカイが弾け、唸りを上げて巨大な竜巻を生む。
 それは周囲の物体を悉く巻き上げ、そして噛み砕いていく。

「ディー君!」

 リョウの呼ぶ声も虚しく、吹き荒む轟風轟音に飲まれて消える。

<オイオイ、ナンダヨコリャア……>

 弾切れを起こしどうしようかと考えていたミッチーも、なんとか足止めが無くなり改めてイグザゼンを食らおうと動き出していた励起獣も、誰もかもが呆気に取られていた。

「………………」

 その中心部。
 セカイの内にありながら、セカイ外の法則に支配された領域において、これ以上無く強大な力が産声を上げた。

 イグザゼンのボディと白き書は銀色に輝く粒子群へと形を変え、ディーの周囲を取り巻く。
 ディーもディーで瞬時に燃え盛る白い光へと姿を変えた。
 その光に纏わり付き、ソートアーマーだった白い粒子はまた違った形へと「変形」していく。
 力強い銀の足。幾重にも装甲が張り巡らされた銀の腕。複雑怪奇かつ繊細な文様を施された銀の胴。そして、左右に一本ずつ伸びる突き出たブレード状の物体が印象的な銀の頭部。
 そして蒼い炎が瞳に宿り、それは自身に仇なす何人をも逃さない鋭き蒼い瞳と姿を変える。

――やがて、嵐は消える。

 その中心にて浮遊するのは銀の光。
 この世ならざる力を秘めて、この世ならざる脅威を打ち砕く、銀に輝く超越的存在。

「――――――」

 それは直径30mほど綺麗さっぱりごっそり抉られ、何も無くなった地面にゆっくりと降り立った。
 艶やかな、だがしかし力強く男性的なフォルム。それは見る者を圧倒する神像の如き神々しさと、修羅の如き荒々しさを兼ね備える。

「――ディー君、なのか……?」
 呆気に取られつつも第一声を放ったのはリョウ。
 竜巻に巻き込まれたのはロボットも合わせて2人いた。なのに、現れたのは一体の銀の異形。
 故にリョウにはそれがディーなのかどうかは分からない。
そこにいるのはロボットか、ディーか、はたまた別の誰かか……困惑しつつもその異形に語りかけた。

「……俺、は…………?」

 それより聞こえたのはディーの声。
だが中で篭っており、本人の声を直接聞くのとは印象は少々異なる。

「そうか、ディー君なのか……それにしてもこれは一体?」

 目の前で知り合いが墜落した謎のロボットとそっくりの姿に変身したのだ。
 困惑しない方がおかしい。だがディーは頭を掻きつつ、夢で見た事を思い出すようにゆっくり語る。

「なんだろう……ピカー!となってドワー!となってグギャー!となったと思ったらガキャーン!となって……って!?」

 そこでやっと気が付いた。
 今自分がどんな姿をしているのか。
 リョウがどんな表情をしているのか。
 周りがどんな状況になっているのか。

「な、何だこれ!?頭、取れない。身体のこれも取れない……どうなってるんだよこれ!」

 首元を引っ張ったり手を引っ張ったりして半ば混乱するディーだが勿論取れない。

<騒ぐな。>

 どうやっても何にもならず首を捻り、考え込む彼の耳に何やら澄んだ声が聞こえた。
 耳元で響くような、だが声の元は近くにいないような、不思議な感覚。

「誰だ!何処にいる!」
<ここだ。>

 続く声と共に視界の端に青い菱形の枠付きで表示される< Fenomeon operator system Alice No.28>の文字。

<今はお前と一体化しているという事だ。この「イグザの書」を通じて。>
「イグザの書?」
<話は後だ。来るぞ!>

 見るとあの怪物――励起獣がかなり遠くの方で腕を振り上げているのが見える。
 あんなのじゃあ攻撃すら……とディーは思ったが、身体は何故か独りでに脇へ逸れ、回避動作をとる。
 瞬間、物凄い勢いで伸び頭を掠める励起獣の腕。回避していなければ直撃だっただろう。

<ボサッとするな。吹き飛ばされたいのか!>
「ッ!すまん……」
<まったく……端くれとは言え奴は励起獣。それも集合体だ。依り代はこのセカイのものであるが、
 物理法則をある程度無視して攻撃してくる事を肝に銘じておけ。私も出来る限りサポートするが、肝心の機体制御はお前の手にかかっている。>

――チッ、避ケヤガッタカ……折角ノゴ馳走ガ台無シニナッタガ、コウナッタラ意地ダ。絶対ニ食ラッテヤルゥッ!

 吠えるように叫ぶ励起獣。
 同時にプレッシャーがピリピリと伝わってくるが、今のこの姿ならまったく動じる事も無い。テツワンオーを介してバリードと対するような……いや、もっと凄い余裕があった。

「リョウ。」
「何だ?」
「ミッチーを連れて出来るだけ遠くへ逃げろ。巻き添え食らっても知らねぇぞ。」
「……分かった。」
<何カ知ラネェガディーチャン頑張レヨ~!>

ミッチーを引き連れて足早に引いていくリョウ。こんな姿でも変わらず応援してくれるミッチーにはサムズアップしておいた。

「ああ、こんな奴。三分でぶちのめしてやる!」
<オー!頑張レ~!>

 これでいい。こちらの攻撃で巻き添えなんて目覚めの悪い事だけは御免だ。

「さて、何が出来るか……」
<武装は今のところ一切無いな。ダメージによる不具合を防ぐ為に一度システムを初期化したのが影響したか、もしくは……だが「輪転炉」を取り戻した今の力ならば奴程度、何も無くとも問題あるまい。>
「……そうかい。ぶちのめせばいいってんなら話は早ぇ!!」

 変な搦め手を用いるより殴りあう方が性にあってる。
 それでいけるのなら楽な話だ。

「いけぇ!!」

 走れ、と身体が命令する前に音速を突破。衝撃波がただでさえガタガタの周囲の建物をより一層傷つけていく。

「……っと、気張りすぎたか?」
<問題無い。馴らしついでだ、やりたいようにやれ。>

勢い余って頭上を飛び越えそうになったところを、励起獣から生じた真っ黒な水柱が幾重にも襲う。
 だが今度は余裕を持って回避。まるで自分の身体のように軽やかに動く。

――舐メヤガッテコイツゥ!!

 奴の目前で着地。直後に振り下ろされた奴の豪腕。
 だが紙一重に右に逸れて回避。一流の格闘家も真っ青な、自分でも有り得ない動きに困惑するがそれも一瞬。
「せいっ!」

 唸る右ストレート。
 渾身の力を込めた猛烈な一撃を下腹部に受け、弾ける液状の身体。だがそれで終わらない。

「とりゃ!」

 突き抜ける左アッパー。
 地を抉るほどの深いところからの一撃は軽く奴の巨体を浮かす。

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁ!!」
――ガガガガガガガガガガガガァ!?

 浮いた相手に息つく暇無く叩き込まれるラッシュラッシュラッシュ。
 励起獣は反撃する事はおろか落ちる事すら許されず、ただなすがままに猛烈な拳撃を浴び続ける。

「つぁあ!!」
――ガァァァァァァァァッッ!?

 そしてトドメの右ストレート。
 超高速で建物の壁に叩きつけられた奴は既に人型を留めておらず、ぐちゃぐちゃの良く分からないモノと成り果て、ビクンビクンと脈打つのみだった。

「うっしっ!なんかスッキリした!」
<……初めて扱うにしては上出来だな。だが、まだまだロストフェノメオンの力を出し切ってるとは言い難い。見ろ。>
「?」

 言われるままに奴の方を見るとどろどろのぐちゃぐちゃだった奴がゆっくりと人型へと再生している。

「ちっ、まだ死んでないのか?」
<ああ。奴らは自身の依り代とするモノを破壊するか、連絡経路を断たない限りいくらでも再生することが出来る。
 まぁロストフェノメオン以外を依り代とするモノは自然消滅という手もあるが、ここで奴を野放しにするのはあまりにも危険だ。>
「……じゃあどうすればいい?」

話している内にも奴は元へと戻っていく。
急がないといけない。だが、声の主は酷く落ち着き払って一言言った。

<「イグザゼン」の力を使え。>
「イグザゼンの?」
<そうだ。「破壊」のロストフェノメオン「イグザゼン」……この力を扱えれば奴の依り代程度、どうとでもなる。>

 「破壊」のロストフェノメオン……「破壊」という位なんだ。壊す事は得意なんだろう。だがどうやってその力を引き出す?

<……お前の疑問も最もだな。私が力を貸す。お前はそれを制御しろ。>
「え!ちょ、心の準備が……」
<もう遅い。>



――eXar-Xen might access



「ッ!!」

 瞬間、世界が揺らぎ、そして歪んだ。
 体内から吹き出る凄まじいエネルギーが体全体を覆う。
それは金色の力。金色の影。そして、大いなる者の幻影。

<星界式輪転炉出力40%――これをどう使うかはお前次第だ。やれるようにやってみろ。>
「くぅぅぅっ!!」

 たった40%でこの力?
 ふざけてるとしか思えない。身体と魂を引き剥がすような莫大なエネルギーが身体全体から溢れ出て、いつ暴発するか分かったものじゃない。これを制御しろとか無茶を言う。

――ガッガッ……ガァァァァァ!!

 修復途中だというのにチャンスと踏んだか。奴の全身から無数の黒い触角が伸び俺に襲い掛かる。だが――

――アッ……ガッ?

 全てが全て溢れ出る光に触れるとその形を保てず、消失していく。

「こいつを――俺が使うのか……」

 イグザゼンの「破壊」の力のほんの一端。
 見れば光を浴びる周囲の地面もゆっくりと朽ちていっている。
これはやばい。制御出来なきゃ見境無く「破壊」するのか……

「やるしか……ないか!」

 さっきもいったが搦め手は嫌いだ。
 やるとしたらぶちのめすのみ。それだけをイメージし、金色の力を纏めていく。

「―――――――」

 拳の一点に収束するエネルギー。
 周囲を金色に染め、猛烈なセカイの揺れを生む。
 奴はそれを恐れてか、ずるずると身体を引き摺り逃げようとするもののもはや遅い。


「どぉりゃああああああああああああああああああああっっっ!!!」


 全力を込め、一気に突っ込む。奴も悪あがきにかいくつかの触角を打ちつけてくるが、全てが全て金の光の前に消失していく。
 そしてその力――「破壊」の力を奴の土手っ腹に真っ向からぶち込んだ。傷口より吹き出る金の奔流。
 その形は所謂抜き手。がむしゃらに叩き込んだからまったく意識していなかったものの、その一撃は致命打となり――

――アァァァァァァァァァァァァッッ!!

 金の光は絶叫する奴の全身を一気に駆け巡り、元より崩れていた形は更に崩れ――――そして一挙に、爆ぜた。

「…………………」

 もはや瓦礫の山となった探検屋前。店自体にはさほど被害が出なかったのは不幸中の幸いか。
 そしてその瓦礫の呆然と立ち尽くす俺――イグザゼン。

<どうした?ここにいると保安が五月蝿いぞ?>
「あ。」

 声の主に言われて初めて気が付いた。
 遠く聞こえるサイレンの音。ここで呆っと突っ立ってたらやっぱり色々不味いだろう。

「……とりあえず、この姿なんとかしてくれないか?」
<心得た。イグザゼン、ソートリターン。>

 宣言と共に光に包まれるイグザゼン。
 そして幾ばくかして現れたのは2人の人の姿――って!

「!」
「………………」

 すっごい見覚えのあるその姿……銀を下地にした不思議な艶を放つその髪を見誤る事なんて無いだろう。
 その雰囲気からか近寄りづらく、2日ほど同じ屋根の下にいて碌々会話も出来なかった……

「君、もしかして……」
「ああ、まだ名乗っていなかったか――アリス。私の名だ。」
「いや、それもそうだけどそうじゃなくて……ああ、もう!」
「……言いたい事は色々あるだろう。だが、その前に」

 言いたい事が言えなくてあたふたする俺を他所にアリスは俺達のほうへ向かってくるリョウとミッチーを一瞥してから

「少し、疲れた……な……――」

 不意に力尽きるようにバタンと倒れた。
 そりゃもう綺麗に、それも真正面から。

「お、おい!しっかりし……ろ……――」

 で、そんな事言う俺もぶっ倒れた。
 何やらリョウの声が聞こえるがもうそれも遠い。
 どうも自分が思っている以上に疲れていたらしい。
 まぁもはやそんな事もどうでもいい。それでは、お休みー……


「……やれやれ、二人仲良く路上で爆睡とはいい根性してるよ。ミッチー、運ぶの手伝ってくれ。」
<ガッテンダー!若サ!若サッテナーンダ!振リ向カナイッ!コトーサァ~♪……>


 色々と騒がしい事はあったものの、そうやってスチームヒルの昼下がりは過ぎていく。
 そして場所は変わってその上空300m。そこで見物としゃれ込んでいた紅い異形――ビュトスはさぞ楽しそうに笑っていた。

「あっははは!や~!いい物見れた!ホント来て正解だったね!イグザゼンが待ちに待ったイグザの書を取り戻した!これが楽しく無くて何が楽しい!あっはは!」

 腹を抱えて笑うビュトス。
 そこには嗤いも哂いも無く、ただ単純に笑いのみが浮かんでいる。

「ヌースの言う事にもいい事があるのねぇ!見直したわ!あっはは!」
「……酷い言い様ですねぇ。お嬢様。」

 その背後に浮かぶもう一人の異形。
 ピチッとしたスーツを見事に着こなし、短く揃えた薄い紺の混じった髪を風になびかせる。

「あら?いたの?いつから?」
「お嬢様がイグザゼンと戦闘を開始する直前ぐらいでしょうか。」
「ふ~ん……アレーティア様の言いつけかしら?」
「ええ。それもありますが、私としても厄介事は避けたいですしね。」

 はははっと笑いつつ内心何も無くてホッとするヌース。ビュトスはただふーんと言うだけで前髪をいらって遊んでいる。

「では、アレーティア様も心配してらっしゃるでしょうし帰ってお茶にしましょう。」
「ええ。いい収穫もあったし、十分楽しめたわねぇ……心残りと言えば今の彼らとお手合わせしたいというのはあるけど……」
「今はまず無理でしょう。ですが、時が来ればいずれ――」
「ま、そーね。焦る事は無いわ。でも、いずれきっちり遊んでもらうわよ?イグザゼン。あっははははははは……――」

 笑いのみが取り残され、風に乗って掻き消える。
 その後には、彼らがいた証拠などそこには何一つ残っていなかった……

                                                                                    Act.3_end

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