彼らが“それ”を認識するほんの少し前。
既にその姿を見止めた者達がいた。
既にその姿を見止めた者達がいた。
「なんだありゃあ……」
車両の側面に開いた窓より覗き見て、ポカンと口を開いたままそう言うのは、この列車の車掌。
飛ばされないよう空いた片手で押さえていた車掌帽は彼の脱力が災いし、トンネル内の漆黒へと舞い上がり消えていった。
飛ばされないよう空いた片手で押さえていた車掌帽は彼の脱力が災いし、トンネル内の漆黒へと舞い上がり消えていった。
彼の視線の先にあったのは光。眩いばかりのヘッドライトの白い光だ。
それ自体は彼の仕事柄、別に珍しい物でもない。暗いトンネル内を照らし出すライトはギガラインにとっては必要不可欠なもの。ただ――それが存在する場所が問題だった。
それ自体は彼の仕事柄、別に珍しい物でもない。暗いトンネル内を照らし出すライトはギガラインにとっては必要不可欠なもの。ただ――それが存在する場所が問題だった。
一般的なギガラインは複線――上り下り合わせて計2本のレールが敷いてある――の形式を取っている。
それはスチームヒルからアクアリングでの区間でも同じ……ここで少し考えると分かるが、それぞれがすれ違う事はあっても“同じ向きに2両の列車が並走する”事など、通常では起こり得ないのだ。
それにそのヘッドライトの主は、搭乗員も乗客も“誰も気付かない内に隣にいた。”これが指し示すのは“それ”が明らかに異常な存在だという事。彼らが混乱するのも無理は無い。
それはスチームヒルからアクアリングでの区間でも同じ……ここで少し考えると分かるが、それぞれがすれ違う事はあっても“同じ向きに2両の列車が並走する”事など、通常では起こり得ないのだ。
それにそのヘッドライトの主は、搭乗員も乗客も“誰も気付かない内に隣にいた。”これが指し示すのは“それ”が明らかに異常な存在だという事。彼らが混乱するのも無理は無い。
「おい、何なんだあれは!なんでこっちに向かって走って来てるんだ!」
「分かりませんよ!駅の方にも連絡を入れているのですが通じなくて……!」
「分かりませんよ!駅の方にも連絡を入れているのですが通じなくて……!」
脇にいる運転士の言葉を耳にしつつ、忌々しげに舌打ちし、なおも後方の“それ”に目を配る。
(……“迷走列車”など、50年以上前の話だぞ?何故今になって?)
話は聞いた事はあれど、彼自身が経験した事がないモノ。
時の彼方へ、忘却の彼方へ放逐されたモノ。
それが今、自らの目の前にいる。
時の彼方へ、忘却の彼方へ放逐されたモノ。
それが今、自らの目の前にいる。
「……念の為だ。砲手にアレの準備をさせておいてくれ。どうも嫌な予感がする。」
「了解です。」
「了解です。」
それに対し彼は、警戒心と敵意を持って接した。
職務への忠誠心が人の持ち得る好奇心に打ち勝ったとも言える。
職務への忠誠心が人の持ち得る好奇心に打ち勝ったとも言える。
「杞憂だといいのだが……」
彼のそんな言葉を他所に、更に加速する“それ”。
左右のヘッドライトのみを爛々と輝かせ、その部位以外はおぼろげで輪郭らしい輪郭の見えないそれは、“怪異”と呼ぶに相応しい存在だった。
左右のヘッドライトのみを爛々と輝かせ、その部位以外はおぼろげで輪郭らしい輪郭の見えないそれは、“怪異”と呼ぶに相応しい存在だった。
車窓の外を横切る影。
それが初め何なのか誰も分からなかった。
そもそもトンネル内自体が真っ暗であり、溶け込むように存在する“それ”の存在にすぐに気付けという方が無理な話。
それが初め何なのか誰も分からなかった。
そもそもトンネル内自体が真っ暗であり、溶け込むように存在する“それ”の存在にすぐに気付けという方が無理な話。
そして、“それ”の存在に初めにはっきりと気付いたのはアリスだった。
完膚無きまでにボコボコにされたならず者達を縄で縛り上げ、ほっと一息ついていた――そんな時。
完膚無きまでにボコボコにされたならず者達を縄で縛り上げ、ほっと一息ついていた――そんな時。
「――――?」
窓の外を見て、小首を傾げるアリス。
釣られて見たディーも、そこに何かがある事は分かった。
釣られて見たディーも、そこに何かがある事は分かった。
「……何か、いるな。」
「ああ……闇に紛れて、もっと冥いモノがいる。ただ――」
「ただ?」
「ああ……闇に紛れて、もっと冥いモノがいる。ただ――」
「ただ?」
言葉に詰まるアリス。
そして己の感じた違和感を払拭し切れず困惑したまま口を開く。
そして己の感じた違和感を払拭し切れず困惑したまま口を開く。
「このセカイの物質としてはあまりにも“朧げ”なのだ。大きさや質量自体はかなりのものな筈なのに――そして励起獣というわけでもない。」
「なら、こいつは一体何なんだ?」
「それは――」
「なら、こいつは一体何なんだ?」
「それは――」
彼女の言葉を遮るかのように不意を付く振動。
同時に左右にぐらりと揺さぶられる車内。慌てて近くの手すりに捕まり倒れずに済んだディーと、流石と言うか何というか、そのままの姿勢で佇むアリス。
他の皆は尻餅を突いたりディーのようにテーブルや椅子など近くの物に捕まり何とか耐えていた。
同時に左右にぐらりと揺さぶられる車内。慌てて近くの手すりに捕まり倒れずに済んだディーと、流石と言うか何というか、そのままの姿勢で佇むアリス。
他の皆は尻餅を突いたりディーのようにテーブルや椅子など近くの物に捕まり何とか耐えていた。
「わっ――とっと。この揺れは……?」
「――どうやら、考えすぎていたようだな。」
「?」
「来るぞっ!!」
「――どうやら、考えすぎていたようだな。」
「?」
「来るぞっ!!」
アリスの声と共に先頭に対して右側――“何か”がいる側の窓ガラスが一斉に砕けた。
吹き込む風にて大きく靡くカーテン。そして車内へと飛び込んでくる複数の黒い影。見覚えのあるその姿にディーは思わずその名を叫んだ。
吹き込む風にて大きく靡くカーテン。そして車内へと飛び込んでくる複数の黒い影。見覚えのあるその姿にディーは思わずその名を叫んだ。
「励起獣!?」
「間違いないな。こんな所でさえ現れるとは……よくよく私が欲しいと見える。」
「間違いないな。こんな所でさえ現れるとは……よくよく私が欲しいと見える。」
飛び込んできた当初、黒い影は形らしい形を取っていない不定形――所謂ゲル状の形を取っていた。
しかしそれは瞬く間にそれらしい形を取っていき、4つ足の獣のような姿へと形を整えていく。
しかしそれは瞬く間にそれらしい形を取っていき、4つ足の獣のような姿へと形を整えていく。
「な、なんだこいつら……!」
「バリードじゃない!?」
「バケモンだ!逃げろぉ!!」
「バリードじゃない!?」
「バケモンだ!逃げろぉ!!」
悪漢達への勝利に酔いしれていた彼らは一変、突如現れた怪異に対し慄き、出入り口に近い場所にいた乗客らしい者達は我先にと他の者達を押しのけつつ逃げていく――ただ
「うう、そのガラス高いんだぞ!弁償しろー!」
「ほらそこの嬢ちゃんと坊やもこっちに!」
「ならず者でもこんな図々しく乗り込んでくる奴なんてそうはいないよ……!」
「ほらそこの嬢ちゃんと坊やもこっちに!」
「ならず者でもこんな図々しく乗り込んでくる奴なんてそうはいないよ……!」
従業員達は近くの長テーブルを倒して即席のバリケードへと変え、何処から取り出したのかショットガンやらライフルやらでそれぞれが身を固め怪異の様子を伺っている。
「反応はぇえな……しっかし、そんなモンあるなら荒くれ相手に使えばよかったのに。」
「形状からしてそれぞれが対物用だ。人間相手に向けるものでもあるまい。」
「形状からしてそれぞれが対物用だ。人間相手に向けるものでもあるまい。」
従業員達のバリケードと、5匹の怪異に挟まれた(他にも簀巻きにされた悪党達もいるがが……)アリスとディー。獣のような形をしたそれらは、燃え立つ黒の身体に計12の淀んだ赤の瞳を輝かせ、じりじりと迫ってきていた。
「――反応は5。目の前にいるモノ以外はどうやらいないようだ。」
「ただ、外にも良く分からん奴がいるんだろ?」
「ああ。励起獣かどうかは定かでは無いが、このようなモノをけし掛けてきたのだ。私達の敵である事には間違いない。」
「ただ、外にも良く分からん奴がいるんだろ?」
「ああ。励起獣かどうかは定かでは無いが、このようなモノをけし掛けてきたのだ。私達の敵である事には間違いない。」
ウウゥゥゥゥゥゥゥゥ……――
腹の底から低く響く唸り声。
膨れ上がるプレッシャー。いつ飛び掛られてもおかしくない距離まで5匹の獣が更に迫る。
膨れ上がるプレッシャー。いつ飛び掛られてもおかしくない距離まで5匹の獣が更に迫る。
「なら、みんなまとめてぶっ飛ばしてやるだけだ……アリス!」
「了解だ。」
「了解だ。」
そう言い瞳を閉じるアリス。
――――eXar-Xen might access
同時に俺の内で膨れ上がるこの世ならざる異様な力。
その名は“イグザゼン”。一体どういうものなのかも分からないこの力。
ただ、今は俺に味方してくれている。ならば使えるだけ使ってやるだけ。
その名は“イグザゼン”。一体どういうものなのかも分からないこの力。
ただ、今は俺に味方してくれている。ならば使えるだけ使ってやるだけ。
「イグザゼン、ソートアーマーッ!!」
――――皆を救う、その時までは。
「!?うぉぉ!!」
「な、何何!?」
「な、何何!?」
ディー達を中心として金色に湧き上がり、渦を巻く空間。変革するセカイの理。湧き上がる膨大な“解”の力。
その内にてアリスは光と姿を変え、ディーを中心に機械仕掛けの白銀の甲冑を構築し、顕現させていく。
その内にてアリスは光と姿を変え、ディーを中心に機械仕掛けの白銀の甲冑を構築し、顕現させていく。
――ぐるるぁぁぁぁぁぁぁ!!!
溢れんばかりの“力”に惹かれ、どす黒い牙を露に辛抱たまらず飛び掛る怪異の1匹。
今、彼らにとって最高の馳走が目の前にあるのだ。立ち止まる道理などひとつとしてありはしないが――
今、彼らにとって最高の馳走が目の前にあるのだ。立ち止まる道理などひとつとしてありはしないが――
「相手ぐらいは見るんだな。」
“嵐”の内より突き出る長剣。
それに串刺しにされた怪異は、形象を崩壊させつつ黒い霧となり霧散していく。
それに串刺しにされた怪異は、形象を崩壊させつつ黒い霧となり霧散していく。
――がぁぁぁぁぁぁ!!
ただ、それで止まる怪異達ではない。
仲間がやられた事などお構い無しに次々と、その銀の装甲に漆黒の爪を牙を突き立て、喰らおうと、貪ろうと、飢えた野獣そのままに、欲望を露に飛び掛る。
仲間がやられた事などお構い無しに次々と、その銀の装甲に漆黒の爪を牙を突き立て、喰らおうと、貪ろうと、飢えた野獣そのままに、欲望を露に飛び掛る。
「せい!」
“嵐”より躍り出たイグザゼンはそのままの勢いで横薙ぎに剣を振るう。
交差一閃。銀色の切っ先は正面から迫る怪異2匹をまとめて上下泣き別れとする。その隙を突き背後から右の肩口目掛けて爪を振るうモノと正面から喰らい付こうとするモノ。
交差一閃。銀色の切っ先は正面から迫る怪異2匹をまとめて上下泣き別れとする。その隙を突き背後から右の肩口目掛けて爪を振るうモノと正面から喰らい付こうとするモノ。
「フッ!」
猛烈な速度で繰り出された裏拳は怪異の頭部どころか全身を一撃で文字通り粉砕し、正面から来たモノに対しては
鼻先に向け鉄拳をぶち込み頭を叩き潰し、制御を失ったほかの部位は瞬く間に消失していった。
鼻先に向け鉄拳をぶち込み頭を叩き潰し、制御を失ったほかの部位は瞬く間に消失していった。
「ふぃー……」
<……所詮は脅威度D-。肩慣らしにもならんな。>
<……所詮は脅威度D-。肩慣らしにもならんな。>
瞬く間に5匹の怪異を殲滅したソートアーマー/ディー、そしてアリス。
(前よりも身体が軽い気がするな……“これ”に慣れたのか?)
自らの掌を握ったり開いたりして眺めつつ、そんな事を考える。
(アリスは“これの力は俺次第”と言った。なら、少しは成長しているって事なのか……?)
そして、そんな姿を見て唖然とする者達もいた。
「な、なんだありゃ……」
「あの2人何処行った……?」
「ロボット……?」
「仲間割れ……なのか?」
「あの2人何処行った……?」
「ロボット……?」
「仲間割れ……なのか?」
口々に呟く彼らから向けられるのは感謝よりも懐疑、疑問、そして恐怖。
「…………」
ガラスの破片に写る今の自身の姿――青く鋭い眼光を湛える白銀の甲冑――そして彼らの視線。
(……そりゃ、そうだよな。俺だってそうするかもしれないし文句は言えない、が……アリスはずっとこんな視線を浴びていたのか……)
怪異となって同じ怪異を狩る。
一般の人からすればどちらも同じ怪異だ。変わりなどありはしない。
そして、あんな視線を浴びてそれでも闘い続けたであろう彼女の気持ちは察するに余りある――
そして、あんな視線を浴びてそれでも闘い続けたであろう彼女の気持ちは察するに余りある――
<――ッ!ボサッとするな!上から来るぞ!!>
そんな悶々とした彼の思考を打ち砕いたのはアリスの怒声。
だが遅い。動きが遅い。全てが遅い。気付いた時にはディー/ソートアーマーは天井を豪快に貫き現れたペンチ状の“何か”によりがっちりとホールドされ、トンネル内の暗黒へと引き摺り込まれていたのであった。
だが遅い。動きが遅い。全てが遅い。気付いた時にはディー/ソートアーマーは天井を豪快に貫き現れたペンチ状の“何か”によりがっちりとホールドされ、トンネル内の暗黒へと引き摺り込まれていたのであった。
何処までも広がる闇。
その内を無秩序に振り回される俺/ソートアーマー。
トンネルの内壁に何度か押し付けられ、火花を散らしそれを削り取る。それでもはっきりとしたダメージを受けたのは向こうだけというのはソートアーマーの頑強さ故だろう。
その内を無秩序に振り回される俺/ソートアーマー。
トンネルの内壁に何度か押し付けられ、火花を散らしそれを削り取る。それでもはっきりとしたダメージを受けたのは向こうだけというのはソートアーマーの頑強さ故だろう。
「離せ、つってんだろうが!!」
ただいつまでもそうやられているわけでは無い。力任せに胴体を挟み込んだそれを引き千切る。
四散する“それ”の部品。それに塗れつつ俺はギガラインの天井へと着地した。
四散する“それ”の部品。それに塗れつつ俺はギガラインの天井へと着地した。
「――ッ!!」
そこを狙い間髪入れず襲い来る数本のロボットアームらしきもの。
的確に俺を狙って突き刺さんとするそれを着地した中腰の状態のまま慌てて横に転がり、後ろへ飛び退き、なんとか回避する。
先程まで俺がいた場所――奴が攻撃を仕掛けた列車の屋根――には容赦無く抉られた痛々しい傷跡が残されていた。
的確に俺を狙って突き刺さんとするそれを着地した中腰の状態のまま慌てて横に転がり、後ろへ飛び退き、なんとか回避する。
先程まで俺がいた場所――奴が攻撃を仕掛けた列車の屋根――には容赦無く抉られた痛々しい傷跡が残されていた。
「くそっ!なんだってんだこいつは!」
<このセカイの住人達が“バリード”と呼ぶ存在らしいな。>
「バリードは生き物なら何でも襲う!こいつみたく誰かを執拗に攻撃してくるなんて事は無いぞ?」
<人の話は最後まで聞け。……ただ、これは少々特別な存在のようだ。>
「特別?」
<簡潔に言うと、これは恐らく“過去のバリードの記憶”を励起獣が呼び覚ましているのだ。このような性質、イリーガルコードとしてはやれん事も無いが、実際に目にするの初めてだな。>
「過去の、バリード……」
<このセカイの住人達が“バリード”と呼ぶ存在らしいな。>
「バリードは生き物なら何でも襲う!こいつみたく誰かを執拗に攻撃してくるなんて事は無いぞ?」
<人の話は最後まで聞け。……ただ、これは少々特別な存在のようだ。>
「特別?」
<簡潔に言うと、これは恐らく“過去のバリードの記憶”を励起獣が呼び覚ましているのだ。このような性質、イリーガルコードとしてはやれん事も無いが、実際に目にするの初めてだな。>
「過去の、バリード……」
俺の胴を打ち貫かんと迫るロボットアームを紙一重で躱し、お返しに間接部らしい部分に長剣を打ち込む。
圧力の逃げ道を得た機械油はそこから猛烈に噴出し、アーム自体も程なく機能を停止した。その上に俺は佇み、アリスにその言葉の意味を尋ねる。
圧力の逃げ道を得た機械油はそこから猛烈に噴出し、アーム自体も程なく機能を停止した。その上に俺は佇み、アリスにその言葉の意味を尋ねる。
「どういう事だそりゃ?」
<文字通りの意味だ。もう少し早く分かればよかったのだが、こうやって向き合いやっとはっきりした。
今、私達が戦っている“それ”は今のモノでは無い……遠い過去にここに存在したものなのだろう。ならばこの存在感の薄さも説明が付く。>
<文字通りの意味だ。もう少し早く分かればよかったのだが、こうやって向き合いやっとはっきりした。
今、私達が戦っている“それ”は今のモノでは無い……遠い過去にここに存在したものなのだろう。ならばこの存在感の薄さも説明が付く。>
そう。これだけ激しく戦っていてもアームも、その根元の本体も、あまりにも存在感が無い。
頑強な金属を切り裂いているというのにまるで手ごたえも無く、破壊されたパーツは本体から脱落すると共にその姿を消す。それも励起獣のように霧散するわけでもなくそのままの意味で忽然と姿を消すのだ。
まるで“ここにあるのにここに無い”……一見荒唐無稽とも言えるアリスの説明だが、実際に相対してみるとどうにも納得出来てしまう。
頑強な金属を切り裂いているというのにまるで手ごたえも無く、破壊されたパーツは本体から脱落すると共にその姿を消す。それも励起獣のように霧散するわけでもなくそのままの意味で忽然と姿を消すのだ。
まるで“ここにあるのにここに無い”……一見荒唐無稽とも言えるアリスの説明だが、実際に相対してみるとどうにも納得出来てしまう。
<何故あの獣どもがこのような事をしているのかは知らんが……性質自体はバリード、というよりも励起獣寄りだ。故にやる事も同じ。これがこのセカイに存在する為の“楔”を破壊する事。ただそれだけだ。>
「簡単に言ってくれるなぁ……」
「簡単に言ってくれるなぁ……」
2本アームを潰したところで、奴からはニョキニョキと無数のアームが伸びる。
いくら存在感がない影のような姿をしていると言っても、その殺傷能力は本物だ。気を抜けるわけが無い。
いくら存在感がない影のような姿をしていると言っても、その殺傷能力は本物だ。気を抜けるわけが無い。
<しかしそれしか方法は無い。“楔”の反応は私が見る。お前は突っ込め!>
「仕方ねぇな……わーたっよ!」
「仕方ねぇな……わーたっよ!」
3本まとめて突っ込んできたアームを横っ飛びで躱し、黒い車両へと飛び移る。
更に左右より強襲するアーム群を躱し、躱し、回避が難しい場合は装甲の薄い場所を切り裂き、鉄拳を叩き込み、更に走る。
更に左右より強襲するアーム群を躱し、躱し、回避が難しい場合は装甲の薄い場所を切り裂き、鉄拳を叩き込み、更に走る。
「何処だ!何処にある!?」
<反応確認。視界に出すぞ。>
<反応確認。視界に出すぞ。>
赤い光点として視界に現れたのは一見して他の場所と違いの分からない車体の下。
ただ幸運な事にそれは俺のすぐ近くにあった。
ただ幸運な事にそれは俺のすぐ近くにあった。
「そこかぁぁぁぁぁっ!!」
横薙ぎに振るわれたアームを飛び越え回避し、一撃で貫くべく剣を向け突貫する。
阻むモノは何も無い。勝利を確信した俺――だが、そんな時だった。
阻むモノは何も無い。勝利を確信した俺――だが、そんな時だった。
キリキリキリキリキリキリキリキリ――!!
突如車体を突き破り、時計の発条を巻くような甲高い奇声と共に刃先を文字通り鷲掴みにした“何か”。
「何……!?」
無数のガラクタを組み合わせた細長く貧弱そうな見た目からは想像も付かないような、常識離れしたその膂力。
シュバイゼンの時のようなタネ有りのものじゃない。実際にこれに捕まれ、離されないのだ。
シュバイゼンの時のようなタネ有りのものじゃない。実際にこれに捕まれ、離されないのだ。
キリキリキリキリキリキリキリキリ――――!!!
かと思えば強引に拘束を解かれ、投げ飛ばされる俺。
受身を取りつつ着地すれば、そこはギガライン側の列車の上だった。
受身を取りつつ着地すれば、そこはギガライン側の列車の上だった。
「こいつは一体……」
<どうやら、“本体”のお目見えらしいぞ。>
<どうやら、“本体”のお目見えらしいぞ。>
剣を掴んだ右腕のみ見えていたそれは、水辺から這い出るかのように左手を伸ばし、更に身体を這い出させ、その全容を露わにした。
キリキリキリキリ…………
まるで骨組みだけが動いているような細長い――180cmほどか――身体。
頭には何故か車掌帽を目深に被り、その奥より延々と発条を巻き上げるような不気味な音を立てている。
頭には何故か車掌帽を目深に被り、その奥より延々と発条を巻き上げるような不気味な音を立てている。
<――該当データ無し。少なくともあれその物は励起獣やオーバードフェノメオンでは無さそうだ。>
「じゃあ、幽霊かそこら辺か?あの見た目なら納得できるが。」
<あれは確かに物質的に存在している。怪奇現象の類ではない。そして、“楔”の反応も奴の体内より感知している。>
「……つまり、アレを倒せばいいって事か?」
<そういう事だな。>
「じゃあ、幽霊かそこら辺か?あの見た目なら納得できるが。」
<あれは確かに物質的に存在している。怪奇現象の類ではない。そして、“楔”の反応も奴の体内より感知している。>
「……つまり、アレを倒せばいいって事か?」
<そういう事だな。>
キリキリキリキリキリ――!
遠い過去より迷い出た列車型のバリード、そして甲高い奇声を発する車掌気取りの良く分からないガイコツ。
こんな奴等を野放しにしておけるわけもなく、そして何より――
こんな奴等を野放しにしておけるわけもなく、そして何より――
(こんな所で、躓いてる場合じゃねぇからな……!)
そうだ。まだやる事が沢山あるのだ。
こいつのエサになってやるつもりなど全くと言ってない。
こいつのエサになってやるつもりなど全くと言ってない。
「…………」
銀の切っ先を怪異に向ける。
対して奴は車体の上より伸びた全アームをこちらへと向ける。
対して奴は車体の上より伸びた全アームをこちらへと向ける。
――僅かに刻まれる静寂。そして次の瞬間、それらは激突した。
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