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第八話「希望は月にあり」前編(下)

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ケントが家を出た頃、ユニオンの北西部にある旧スウェーデンのゴトランド基地ではビスマルク隊が駐留していた。
 基地の中は閑散としており、慌しく動く整備員や通路をせわしなく動いている清掃員、肘掛椅子にどっ
しりと座っている司令官といった光景が全く見られなかった。
 元々このゴトランド基地は施設のみ作られた無人基地であり、駐留する部隊以外勤務している者はいないのだ。
土地の歴史上からこの基地に誰かを置いておくと言うのはクーデターの意志があるように見られてしまうのだ
が、今回は特別に強化演習の名目として使用許可を貰ったのだ。最も、ほとんど隊員達は海へと遊びに行って
しまいくんれんどころではないのだが……。
 そんな寂しい基地内の廊下に一人の女性が椅子に座りながら外を眺めていた。女性はファルだった。
 顔には覇気ややる気といった物が全く見られず、ただ虚ろな瞳をせわしなく動かしている。
 季節は夏と秋の境目に突入しており、暑さの厳しさは時折吹く風により柔らかくなっており、湿った風が
吹けば雨が降るだろう。その証拠に緑の色をしていた木々の中に赤い色が若干混じり始めている。
「パパ……」
 思わず居もしない父親を呼んでしまう。
 バイラムが核を投げた後、彼女は今より酷い放心状態になった。
 昼は呆けており、夜になるとバイラムと父の顔が浮んでくる。
 子供の頃に聞いた核戦争の話、それが起った時、人類は終わる。
 当時は軽い気持ちで聞いていたが徐々に現実味が帯びてきた。身近に感じることでファルの中でなんとも言
えない焦燥感が湧き出して来る。
 だが今までの戦歴から少々自分に対して自信がもてなくなっていた。
 バイラムに対して負け続けているという事実、ビスマルクを使いこなせていないかもしれないという事実。
 この二つがファルの心を締め付けている。
 ふと我に返ると彼女は髪の毛をくしゃくしゃと掻き、気を取り直したかのようにすっくと立った。
 ここにいても仕方ないと思ったのかおもむろに通路を歩く。
「あの……」
 突然、後ろから声をかけられた。ファルが振りむくとそこには一人の女性が立っている。
 女性は白のブラウスを着ており、下は黒のタイトスカートと革靴を履いていた。
 長くて綺麗な髪と整った顔立ち、そして、どことなく不思議な魅力を醸し出しており、絶対に軍人には見え
なかった。 
「すみませんが十七番格納庫はどこでしょうか?」
「十七番?」
 女性の言葉にファルは腕を組む。
「えっと、ここから真っ直ぐ行って、突き当りを左に行って、ええっと――」
 途中まで言い掛けるとなにやら言葉を濁し始めた。どうやら頭の中でこんがらがっているらしい。
「あの……」
 黙ってしまったファルに思わず声をかける。
「ええ、めんどくさい! あたしについてきなさい!」
 ファルはそう言うと足早に廊下を歩き始めた。
「はぁ……」
 女性は突然の事に呆然としながら彼女の後を追った。
 そして十数分の時間をかけて二人は、廊下を右へ左へ進み、階段を上り下りをし、倉庫の扉を開け、外の滑
走路を突っ切り、窓から入り、途中Uターンをし、エレベーターに乗り込みながら目的の格納庫を目指す。
「あの、本当にこれでよろしいのですか?」
 途中女性が不安そうな顔でファルに声をかける。
「大丈夫、大丈夫。あたしに任せないさいって」
 ファルは笑顔を見せて答えるが女性の顔から不安要素は抜けなかった。
 再び気を取り直し、歩みを進める二人。そんなとき、女性が窓の外を眺めると一機のPMが外に出ていた。
 シーダーグリーンのPM、グライドアは黒のマシンガンをもっていたが動く様子はなく、ただその場に立っ
ているだけだった。
「アジャム……」
 女性はグライドアを見つめながらファルに聞こえないように、そっと呟いた。

「よ、ようやく着いたわね」
 ファルは少し疲れたそぶりを見せつつも気丈に振舞う。
 ファルたちの目の前に大きな扉が威風堂々と言った雰囲気で立っている。緑の色をした扉はPM用の格納庫
である為、軽く二十メートルは超えていた。NO17の書かれた白い文字はここが十七番格納庫である事を示
しており、ここが目的の場所である事を教えていくれた。
「ありがとうございます」
 女性は頭を下げると格納庫の大きな扉の近くにある人間用の扉を開けようとノブに手をかける。
 しかし、扉は開くことなかった。
「どうして……?」
 女性が不安そうな顔を見せるとファルは少し考え込んだ。
 もしかしたら……。
 ファルは人間用の扉ではなくPM用の扉の方へと駆けていく。そして開閉パネルを見ると呆れた顔をした。
「やっぱり……」
 開閉パネルは緑のランプが点いていた。この格納庫の扉は片方の扉が開いているともう片方の扉は閉まると
いうシステムになっていた。何故、このような構造かというと機体の奪取を防ぐ為である。
 ファルはパネルのボタンを手早く押すと軽い金属音と共に人間用の扉が開いた。
「まったく、誰が開けたんだか」
 文句を言いながら後ろで手を組む。女性の方はというと鍵が開いたと同時に中へと入った。
 ファルも後から格納庫へ入ると、そこにはマールと一人の男性、アジャムがいた。
 マールとアジャムとは楽しそうに談笑しているが女性の方は不安そうな顔で二人を見つめている。
「どこへ行ったんだよ」
 アジャムがそういうと彼女は毅然とした態度で言い返す。
「何所かにいっていろと言ったのはあなたじゃないですか。それに私をこんな所に連れてくる理由は?」
「あれ? いってなかったか?」
 とぼけた顔をするアジャムに対し彼女は綺麗な顔を少しゆがめる。
「何も聞いてません。あの時、貴方は突然やってきたと思ったら突然、私を乗せてここへ連れてきました」
「ああ、そうだったな、いやぁ、悪い悪い」
 軽い調子で悪びれると彼女はため息を付いた。そして今度は打って変わってかなり冷静な口調になる。
「状況の説明、してくれますね?」
「ああ、いいぜ」
 彼女の瞳に見据えられると軽かった笑みは消え、真面目な表情になる。
「単刀直入に言うぜ。お前の住んでたところな、放射能でやられた」
「なっ……」
 突然の事に言葉を失う。そんな彼女を見ながら話を続ける。
「あの時、俺は雇用主から撤退命令を受けて命からがら逃げられた。しかしあのバイラムとかいうバケモンの
せいであの辺りは焦土化。おまけに住んでた人間も放射能であらかたやられたって聞くぜ」
「そ、そんな……」
 アジャムの言葉に思わず膝を付いてしまう彼女。
 バイラムが投げた”核”は3強が保有していた軍事力を大きく削っただけではなく、その土地に住んでいた
ものにも多大なダメージを与えた。特に衝撃波などの直接被害よりも食糧難の為、汚染された水、及び野菜な
どを食べた為に起こる二次被害の方が酷かった。
「あの時運良く近くにお前がいたからな。ほとんど咄嗟だった。だがお前と俺の身体はもう……」
「放射能に犯されていると言うことですね」
 そう、あの時アジャムはコックピットを空け、彼女を救った。だがそのせいでアジャムも彼女と同じように
被爆してしまったのだ。
「ああ」
 アジャムの言葉が無情に格納庫の中に響く。人体に降りかかった放射能は今の時代でもかなり難しかった。
「……とりあえずお礼を言わせてください。ありがとう、アジャム」
 彼女の言葉ににんまりといやらしい笑みを浮かべる。
「なら、別のもんで頼むわ、言葉だけじゃこの仕事はやっていけないもんでね」
「では、これをあなたにさし上げましょう」
 軽い調子のアジャムに対し彼女は真剣なな面持ちでポケットから銀の鍵を取り出すとアジャムに手渡した。
「こりゃあ……」
「恐らく必要になると思います」
「なら遠慮なく貰っておくぜ」
 アジャムは銀の鍵を自身のポケットに放り込むとマールに向き直った。
「お話は済みましたか?」
 マールはにこやかな笑みを浮かべる。一方のファルは暇で仕方なかったのか手を後ろ組んでいた。
「ああ、終わった」
「ところでそちらの方のお名前は?」
 マールが女性のほうをむくと彼女も自己紹介を始めた。
 そういえばあたしもこの人の名前、知らなかった。
 ファルも彼女の方へ視線を向ける。
「カミーラ、カミーラ・ペレカフです」
 女性は、カミーラは微笑みながら自分の名前を名乗った。
 その微笑にはほんの少し切なさが混じっていることにマールは気がついた。
「所でさ、マールと何の話をしたの?」
 ファルはマールと先ほどの話をしていた事を聞いてみる。
「あっ、そうだった。ファルちゃん、このアジャムさんと一対一の模擬戦をやってみない?」
「模擬戦!?」
 突然の事にファルは素っ頓狂な声をあげた。

 基地にいるファルたちから時を遡り、一週間ほど前のアジア統連の東に位置する日本州。
 その日本州の西部に位置する福岡市にあるとある高校の図書館では、祐一とメアリーがともにテスト勉強を
していた。図書館には祐一とメアリー以外誰もおらず、無数の本だけが二人を見つめていた。
「ユウイチ、辞書!」
「はいはい」
 そう言ってメアリーに英語で書かれた分厚い英和辞書を渡す。
「THANK YOU」
 辞書を手に取るとものすごい勢いでページをめくっていく。そしてお目当てのページに目をやりながら教科書
を睨みつけている。メアリーにとって国語のテストはは外国語のテストも同意だ。言葉が分からなければ答えよ
うがない、意味が分からなければ問いが分からない。まさに苦労の連続である。
 メアリーが必死に勉強をしているのに対し、祐一の方は特に焦った様子もなく、自身が借りてきた小説をのん
びりと読んでいた。
「ユウイチは勉強しなくていいの?」
 嫉妬と怒りが混じった瞳で見つめてくるが祐一のほうはかなり穏やかな顔で答えた。
「うーん、ここまで来ると僕は何にもすることがないな。目的のない勉学は一種の徒労だって父さんが言ってたし」
 ユウイチの答えにメアリーはますます不機嫌そうな顔をした。
「悪い点を取って補習してもいいの?」
「別に構わないよ。そんなことをして身につけても、結局忘れてしまって意味がなくなるからね」
 優しく笑う祐一、しかしメアリーの瞳にはかなり腹黒く映っていた。

「あー、つかれたぁ!」
 メアリーは椅子の上で足をバタつかせる。祐一はメアリーのノートを斜め読みすると彼女の方へと顔を向けた。
「お疲れ様、これなら良い点取れるんじゃないか」
 ノートを閉じて渡すと鞄の中に閉まった。
「……もう帰る」
 ふら付いた足取りで立ち上がるとヨロヨロと腰を曲げたまま図書館を出て行った。
 祐一はポケットから鍵を取り出すと図書館の戸に鍵をかけると外を歩いているメアリーを追いかけた。
 辺りはすでに暗くなっており人通りもまばらだ。街を照らす街頭には蜘蛛の巣が張っており年季を感じさせている。
 他国では暴動が起こっているのに対し、日本ではそういったものは何一つ見られない。
 いや、見られないというより諦めかけているのかもしれない。この事態に対して。
「ユウイチィ、なんか奢ってよぉ」
「だめ、この間アイスを奢ったばかりじゃないか」
 だるそうな声でねだるメアリーを優しくたしなめる。
「勉強のし過ぎで頭が空っぽになっちゃった。だから急速な栄養補給を要求します」
 今度は毅然とした態度でねだるが当の祐一は苦笑いを浮かべたまま、冷たい言葉をぶつけた。
「その提案は却下します」
「ぶぅ! ユウイチのケチンボ!」
 メアリーは膨れっ面をしながら道端にある缶を思いっきり蹴り上げた。蹴った缶は綺麗な放物線を描き見事
に備え付けのゴミ箱へと入った。
 そんな彼女と見つめながら祐一とメアリーは帰り道を歩いていく。その日は珍しく空の星がぽつんと輝いていた。
「あっ」
 帰り道の途中、一台の黒い乗用車が踏み切りの上で立ち往生していた。ナンバープレートを目にやると普通
の車とは違った数字が書かれていた。恐らく外交官ナンバーの車だろう。
 祐一たちは車の方へ近付いていく。運転席を見ると一人の男性が必死にアクセルを踏んでいた。右片方のタイ
ヤは路面から外れており大きな溝に挟まっていた。これでは必死にアクセルを踏んだとしても前には進まないだろう。
「大丈夫ですか?」
 祐一が声をかけると運転手はこちらを向く。運転手はメガネをかけており青のスーツと白の手袋をしていた。
「あっ、すみません。今、発進しますから」
 運転手は申し訳なさそうに祐一を、そして後ろに乗っている人物に頭を下げた。
「後輪が脱線しています、すぐに動かすのは無理ですよ」
 祐一の言葉に運転手は蒼ざめる。すぐさま運転席の扉を開き、後ろのタイヤの様子を見る。
「ああ、なんと言うことだ!」
 運転手は愕然とした顔で叫んだ。
 一体どうしたんだ?
 そう思い、声をかけようとすると突然の警報音が響いた。どうやらもうすぐ列車が来るらしい。
「あっ、あっ」
 まごついている運転手を尻目に祐一はメアリーに向かって叫んだ。
「メアリー、遮断機の近くにあるスイッチを押してきて」
「OK!」
「運転手さん、このままだと危険ですから車を動かしましょう」
「は、はい!」
 祐一と運転手は車の後ろに回ると力の限り押し始めた。しかし動く様子は見えない。
 良く見るとタイヤがちょっとしたくぼみに挟まれ、横から締め上げている。外すにはとても強い力が必要だろう。
 なにか工具があれば……。
「そうだ、ジャッキはありますか?」
「あっ、はい!」
 祐一の問いに運転手は慌てて後ろのトランクを開ける。タイヤ交換用の小さなジャッキがそこにあった。
 これを使えば……。
 ジャッキを車体の下にあるわずかな隙間に入れ、レバーをゆっくりと回し始めた。ジャッキの上昇と共に挟
まっていたタイヤも元の路面へと復帰していく。
 タイヤが完全に外れた事を確認すると思い切り車を押す。すると車は何かを擦る音と共に無事、公道へ復帰した。
「やった!」
「よかった」
 運転手はすぐさま運転席へと走っていく。運転席のドアを開けると後ろの席にいる人物に頭を下げた。
「申し訳ありません、すぐに車を――」
「いや、その前に手伝ってくれた彼にお礼を言いたい」
 車の後部座席から一人の男性が出てくる。男性はハワードだった。
 ハワードが出てくると二人は嫌な顔をし始めた。
 車に乗ってるなら手伝ってくれてもいいのに……。
 何、あの悪人顔。すっごく悪どいことしてそう。絶対マフィアだよね?
 そんな二人の気持ちを知らず、自己紹介を始める。 
「あっ、自己紹介がまだだったね。私はハワード、国連大使をしている」
「国連大使……?」
 この人が? 国連の?
 祐一は目の前の男性をマジマジと見る。
「運転手がこのような事故を引き起こしてね。君たちが来なかったら恐らく電車に引かれていただろう」
 ハワードは襟を正す。一方の運転手は申し訳なさそうな顔をして俯いていた。
「全く、酷い運転手だ。いくらいそげと言ったからといってこのような――」
「待ってください! いくらなんでも酷いじゃないですか!」
 ハワードの言葉に思わず食って掛かっる祐一。いつもの祐一とは違い、明らかに敵意をむき出しにしている。
「確かに運転手さんがこのような事態を起こしたのは仕方ないでしょう、でも急がせたのはあなたでしょう!」
 祐一の言葉にハワードは少し不機嫌になった。確かに自分は運転手を急がせた。それは他ならぬ事実である。
 しかし、明らかに目の前にいる少年の言葉からは敵意を感じる。まるで親の仇を見るかのように。
 一体何故だ?
 ハワードが祐一にその事を聞こうとするが――。
「いいんですよ! ささ、マッケンバウアー様。早くしないと」
 空気を読んだ運転手が焦ったような声をかける。
「失礼します」
 その空気に水を差されたのか、祐一は不機嫌な顔を崩さず頭を下げると足早にその場を去っていった。
「あっ、待ってよ。ユウイチ!」
 メアリーはちらりとハワードの方を見た後、祐一の後を追いかけていく。

 数日後、今日は休みだというのに祐一は早く起きた。別にまだ寝ていても良い時間なのだが今日に限って何
故か早く起きてしまった。窓から暖かな日差しが差し込んでくる。
「ふぅ……」
 祐一は軽くため息を付くとむくりと起き上がりベットから立ち上がる。
「うぅん……」
 身体をほぐすため軽いストレッチを行う。腕を、腰を動かすと骨がなる。
 流石にちょっと怠けすぎたかな……。
 祐一は壁に貼ってあるメモを見る。ランニング十五キロ、スクワット二百回、腕立て五十回、腹筋八十回、
懸垂百回――。
 父親が生きていた頃は早朝トレーニングに良く付き合わされた。宇宙という環境では真っ先に衰えるのは筋
力なのだ。だから常にトレーニングを意識し、貧弱にならないようにしなくてはいけない。そう祐一は教わった。
 実際、宇宙から帰ってきた一明は衰えた筋力を元に戻すために、かなり激しいトレーニングを積んでいた。
 怠け癖が無い事に子供の頃はに感心していたが、付き合わされるようになってからその評価は反転してしま
った。最も反抗期を過ぎると元の評価に治まったが。
 そして付き合った影響か、運動神経がかなり良くなり、たびたび運動部の助っ人として借り出されるようになった。
 本人は嫌がっているがまんざらでもない様子だ。
 祐一の部屋の壁に貼ってあるメモはその名残であり、一明と祐一を繋ぐ唯一の代物でもあった。
 今はもう父の遺品はほとんど整理してしまい、メモ以外に残っているのはビデオと写真ぐらいなものである。
 祐一はカーテンを開き、日光を部屋の中に呼び込んだ。
 窓の外ではランニングをしている人や犬の散歩をしている人、外の掃除をする人など実に様々だ。
「さてと……」
 朝食の準備をしようとキッチンへと足を向ける。
「あれ……」
 新聞受けに何かが入っている。今日は新聞が休みだったはずだ。
 不思議に思いながら新聞受けを開けると分厚い書類と小型ビデオディスク、そして一通の手紙が入っていた。
「誰からだろう?」
 祐一は手紙の差出人を見る。差出人はハワードだった。
「あの人!?」
 祐一は手紙の封を切る。中には一枚の手紙が入っていた。

 拝啓、森宮祐一殿。
 この手紙を読んでいるという事は君がとても感情的な人物で無い事を示していることを表している。
 一応、途中で破いて捨ててしまう場合も想定したのだが先日会った君を見る限りそんな事はしないだろうと
確信している。確信を裏付ける証拠として、君は私に理路毅然とした言葉をぶつけてきたことと私が国連の人
間であることに嫌悪を示したことをあげよう。
 理屈をぶつけてくる人間は大半がひねくれもか社会主義者、または相手をやり込めるのが好きなサディスト
ぐらいだろう。しかし見た感じ、君はそんな風には見えない。
 では別の事を考えてみた。国連に恨みを持つ者である。そう、我々に何らかの不利益を賜った物。
 そう解釈した私は誠に勝手ながら君の身辺を調べさせてもらった。
 そして案の定、君は国連から不利益をもたらされた人間の一人であることがわかった。
 君の家族の事、無論、いいたくない、聞きたくないことは十も承知だ。忘れたい過去を掘り返されるのは誰
だって辛いのだから。
 だが私は君が真実を知りたい人間だと思い、この書類とビデオディスクを君に送ることにした。
 この二つは君が捜し求めてやまない物、外宇宙調査隊のレポートと交信データである。
 国家機密、いや、世界の秘密とも言える物をポンと一般人に与えてしまうことで色々な人間に非難を浴びる
ことになるだろう。だが、我々はそろそろ隠すという事は辞めるべきなのではないだろうか?
 それだけではない、このデータは何故国連で厳重に封印されているのか私には分からない。
 だがここから何か、真実が顔を出す事を祈ろうと思う。

 P.S 
 長々と書いてしまったが一番良いたい言葉を忘れる所だった。
 あの時、君が来てくれなかったら私は飛行機に乗り遅れ、あの運転手は解雇されていただろう。
 この言葉を君に伝えたい、ありがとうと。
                             ハワード・マッケンバウアー


 手紙を読み終えた祐一は分厚い書類とビデオディスクを手に取る。緊張と不安で手が湿り気を帯び、膝が軽
く震えていた。これが父親の、外宇宙調査隊の資料だというのだ。
 祐一は緊張した面持ちで書類とビデオディスクをテーブルに置く。
 これが父さんの……。
 今の今まで謎に包まれていた調査隊の記録。コピーとはいえそれが今、祐一の手元にあるのだ。
 祐一は緊張した面持ちで書類に手を伸ばした。
 確認の為にまず船長の名前を調べる。目次のページから順に名前を探していく。
「ジョンソン・マクミトフ……ジョンソン・マクミトフ……あった」
 ジョンソン・マクミトフの名前を確認すると今度は自分の父親である森宮一明の名前を探し始めた。
 指でレポート製作者の名前をなぞりながら目的の名前を求める。
「モーガン……モルド……あった、森宮一明」
 父のレポートを見つけると落ち着き始めた心が再びざわめき始めた。目の前には真実がある、しかしそれを
知るのが怖い。真実のジレンマに陥りそうになる。
 でも、僕は知りたい、母さんの為にも。
 祐一は軽く深呼吸をすると父、一明の書いたレポートを読み始めた。

 一明のレポートはとてもユニークな物だった。
 正直な話、これをレポートと言うには酷い物である。なぜなら書いてある事を客観的に記録することがレ
ポートの意義である。しかし、一明の書いたレポートは主観的であり、たびたび話が脱線することがあり、
酷い時にはジョークや関係ない話で一つのページが埋め尽くされていた。
「酷いなぁ……」
 思わず苦笑してしまう。心の中ではとても嬉しく、これが父の書いたものであるを理解した。
 そして一通り読み終えると
「父さん……」
 祐一は思わず呟いた。これが最後の父の姿だと思うと感慨深いものがある。
「あれ?」
 父の様子がおかしいことに気が付く。何か焦っている、いや、何かを隠そうとしている。
 手元にある資料をもう一度読み始める。一句一字見逃さず、ゆっくりと。

 2504年。十月二十一日。
 本日は火星宙域における重力検査実験だ。我々人類はすでに火星を超えてその外、すなわち木星へと進もう
というのだがその前にしなくてはいけないことがある。それは火星探査だ。

「火星探査!?」
 そんな予定は入ってなかったはずだ。祐一は家族に伝えられたADAMの情報を必死に思い出す。
 ADAMの目的は火星以降の調査だったはず。確かに火星研究班に物資の投下をするかもしれないけど……。
 いや、待てよ。レポートには火星”探査”って書いてあった。探査っていう事は調べるってこと? 何を?
 火星には研究班が居るから調査の必要は無いはずだ。
 祐一の頭の中におかしな疑問が浮んでくる。
 一つの疑問はは疑惑となりその疑惑が不信感を呼び覚ます。
 祐一はレポートをテーブルの上に置くと宙を見上げ、軽くため息を付くと一言、呟いた。
「一体どういうことなんだ?」

 祐一がそんな事を呟いていた、同じ時刻。
 アメリカ大陸のフロリダ州のスペースポート。ここには無数の月面行きのスペースシャトルバスが無数に存
在していた。今日もまた一機、また一機と月へと飛んでいく。
 中は普通の空港と変わらず、荷物検査、ボディチェック、そして発着ポートなどが存在していた。
「じゃあ、行って来るよ」
 ケントは見送りに来たシルバーナイツの面々に言葉をかける。手にはいつもの鞄と白い紙袋を持っていた。
「行ってらっしゃいませ、ベルガン主任!」
「お気をつけて!」
 堅苦しい挨拶のアルとレイに対し、ボルスは黙ったまま顔をしかめている。
 ケントはそんな親友の肩に手を置くと明るい口調で言った。
「ボルス、お土産は何が良い?」
「……なら、バイラムの弱点を頼む」
 こんな事をいえる立場ではないとボルスは思っているのだろう。
 二度の戦いでナイツを壊され、ボルスは希望を見失っている。でも、僕は胸を張って言おう。君は僕が知る
限りの中で最高のパイロットだ。負けたのは手段や運がなかっただけさ。だから気にしなくて良い。
 その言葉を言いたかったが、ケントはあえて黙っていた。例えその言葉を言ったとしてもボルスは救われな
いと思ったからだ。この親友にかける言葉はただ一つ。
「分かったよ、とびっきりのお土産を持って必ず帰ってくる」
 ケントはそう言うと踵を返し、月面行きのシャトルへ乗り込む。
 窓際の座席に座ると外の景色を眺める。
 ボルス、約束するよ。僕は必ずバイラムの弱点を持って帰ってくる。そしてまた一緒に酒を飲み交わそう。
 自動扉が閉まると発進体勢に移った。後方のブースターに火が灯るとゆっくり前に進んでいく。
 そして、シャトルは大空高く飛んでいった。
 ボルスたちは空港の屋上で敬礼をしながら、ケントのシャトルを見送った。

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