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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

「少女機甲録・イナバが大陸奥地に送られるようです・2

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「なんとか…撒いたかな…?」

共生植物の大木の太い幹の裏にM1A1を潜ませながら、ティアーナは様子を窺った。
ワームは、基本的に声を発しない。 声帯に相当する器官を持たないからだ。
その代わり、フェロモンを放出して仲間同士のコミニュケーションを取るといわれている。
人類はその点に着目し、ワームのコミュニケーション能力を阻害あるいは撹乱する方法として、
同様のフェロモンを放出することを考え出した。
研究・解析によってワームが放出しているフェロモンの物質を突き止め、任意にそれを放出する事が出来れば
偽の情報をワームたちのネットワークに流して混乱させたり、ワームの行動をある程度操ったり誘導したりできるはずだ。
しかし、その解析は難航している。
数種類のフェロモンがワームの死骸や、生態研究から発見されたものの、どのフェロモンがどんな意味を持つのかまで
完全に知るにはサンプルが足りなすぎ、またワームのコミュニケーション方法自体、人類とは異質で複雑過ぎたからだ。
今のところは、一部の攻撃誘引用フェロモンと危険を知らせる忌避フェロモンの発見で停滞している。

なので、フェロモンによる撹乱はもっと単純な段階にまで方向転換を余儀なくされた。
強烈な臭気を放つ物質を放出する事によって、ワームの嗅覚を麻痺し何の臭いもフェロモンも嗅ぎ取れなくしてしまうのである。
それまで煙幕は光学的な視覚を持たないワームには無効とされて来たが、臭気物質の燃える煙幕はワームに対して効果を上げた。
ワームのコミュニケーションを阻害するだけでなく、周囲の臭いを全て強烈な別の臭いで上書きしてしまうことで
撤退時にワームを一種の「盲目」状態にし、追撃の足を緩めさせる事が出来る
また、煙幕弾が燃焼する事による熱の発生はワームのもう一つの視覚である熱探知も欺瞞する事が出来る。
ティアーナもその例に漏れず、M1A1の肩に装備された煙幕発炎筒を発射することで、タイプF・カルキノスの追撃を振り切ったのである。

とは言え、まだ安心は出来ない。
ステルス状態だったとはいえ、タイプFの存在に全く気付かなかったのはセンサーの不調が原因だ。
ティアーナは着地時の衝撃でいくつか破損を起こしたセンサー類のチェックをしなければならなかった。

「…振動センサー、よし。 風向きセンサー…ダメか。 これじゃ遠距離目標への狙撃はほぼできないじゃない。
まあ、今現在装備を持って無いからどうでもいいんだけど、風向がわかんないんじゃ装備コンテナがどこに流されてったのか
計算して着地ポイントを予測する事も無理だわ。
あー、夜間デジタルビジョンも映像がチラついちゃってるし、これは夜になったら熱センサーだけに頼る事になりそうね」

もっとも、夜になる前にバッテリー切れで機士が動かなくなる公算のほうが大きいのだが。
その時は、完全に月明かりと星明りだけが頼りだ。

「とりあえず、振動センサーが生きてるのは幸いだし、周囲にまだタコの仲間が居たら不味いから、
ソナーでちゃっちゃと周囲索敵しておきますか」

そう呟くと、ティアーナは音声入力でM1A1の脚部の姿勢制御用アンカーを展開させると、振動センサーの感度を
最大に設定して備え付けられている探信用炸薬を起爆させた。
炸薬の衝撃が地面に突き立てられたアンカーの先端から地中へと振動・音波となって伝達し、地面を走ってゆく。
本来アンカーは大口径砲砲撃時に機体を地面に固定・安定させるためのものだが、こういう用途にも併用できる装備だ。
そして、地面に伝わった振動波が物体にぶつかって返って来る音を聴いて、どのくらいの距離にどんな大きさ・形の物が
存在するのかの判別は、海の中で使うソナーとほぼ同様である。
もちろん、振動センサーは相手側の発する音を捉えて、位置や数を知ることも可能だが、この場合わかるのは
「歩行・移動している何らかの物体の大きさとその数」が関の山である。
さて、10秒ぐらいして、自動解析ソフトがHMD上に結果を表示する。

「…ふーん、3kmぐらい先にワームの大隊規模ね。 さっきのカルキノスたちは…うげ、600~400m範囲内に点在か。
鉢合わせしない様に注意して進まないとヤバいわね。 …2km先に5m×6m×8m大の長方形人工物体?
もしかすると、これって装備コンテナかも? ラッキー? キスしてあげるわジーザス!!」

落下地点不明で行方不明と思っていた装備コンテナらしき物が案外早く、しかも比較的近くにあることが判明したので
ティアーナは思わず嬉しそうな声で叫んだ。
これで、コンテナが破損しておらず、中身が無事ならば言う事は無い。
振動センサーの探査により、周囲のだいたいの地形・地図情報も把握できた。
可能な限り効率的・短時間に敵を回避しながら目標まで到達するルートをコンピュータに算出させると、ティアーナは
M1A1のアクセルペダルを踏み込んで早速移動を開始した。

トイレを我慢できる時間まで、余裕が無かったからである。





「はあ、どうにかこうにか、オムツで用を足す最悪の状態だけは回避できたわ」

一時間後、コンテナを発見するなり備え付けられてある簡易居住モジュール・キャンプシェルターに駆け込んだティアーナは
簡易トイレで用を済ませ、大分すっきりした様子で出てきた。
発見時の装備コンテナは、やはりタゲスの攻撃を受けたのか半分ほどが損壊しており、ひしゃげていたが
被害を受けたのは武装を積んだ部分だけで、キャンプシェルターの部分はほぼ無事であった上に、武装倉庫部分も
中身は殆ど損傷してない状態で柔らかい地面の上に着地を果たしている、というかなり幸運な状況だった。
ただ、難を言えば完全な平坦地ではなくすこし傾斜がついた状態で「斜めって」着地したため、床が傾いており
内部は少し歩きにくい事ぐらいだ。

「さーて、バッテリーは予備に交換した上、外付け増加バッテリーもこの際だから、普段の倍は付けなきゃいけないわね。
センサーは交換部品がないからしょうがないとして…今のコンディションで使える武装は…

右腕にM242 25ミリ機関砲、左腕のMk-20超電磁パイルは電池消耗が大きいから、Mk-14ブラストトーチに換装。
背部兵装ターレットには、右はM260 75ミリ低反動砲で左は…Mk19 100ミリ自動擲弾銃かなあ?
AGM-114L 180ミリ誘導弾もいいんだけど、今回は相手が多数になるだろうし、単位時間当たりのバラ撒ける量を優先が妥当だわね。
あれ?M290 UICW(統合知性戦闘武器)もあるんだ? どうしようかな、これ…」

コンテナ内部でオートメーション整備装置の操作パネルに向かい、機士の装備をセッティングしはじめたティアーナは、
ふとディスプレイに表示される装備目録の中に見慣れない新装備があるのに気付いて迷った顔をした。
UICWとは、機士用の武装のなかでは先進的な次世代主力装備として開発が進められている、新機軸の兵器だ。
その特徴は、知性弾頭を使用した40ミリ機関砲を中心に、砲自身に独自のサブFCSとセンサーを備え
機士側のFCSやセンサーとの連動による高精密な射撃や、小型のミサイル化された40ミリ砲弾の活用など、
従来の兵器類よりも一歩進んだコンセプトにある。
ただし、現在ユニオン軍では中東戦線においてのβテスト中の装備であり、信頼性などの面で不安は残る。
要するに、まだ未完成な装備なのだ。

「…何考えてこれを装備の中に入れたのか判んないけど、まあ、ある物は使わせてもらう事にするわ」

が、結局ティアーナは25ミリ機関砲を取りやめてUICWを右腕に装備する事にした。
新型装備の性能や威力に心引かれたのもあるが、M1A1本体のセンサーが半分故障しているのでUICWに装着されている
センサーを補助に使うというメリットを見出したのが大きい。
40ミリ砲が思いのほか使えなかったり、不具合が生じたりしてもセンサー類は使いものになるはずだ。
そして、よく見ればコンテナの中には他にも幾つかの試作装備が積み込まれていた。

「うっわー…M287 120ミリ短砲身電磁誘導砲じゃん…レールガンとか本気で作るペンタゴンには引くわ、マジで…。
こんなの子供の中二病妄想兵器でしょうに…。 よく実用化までこぎつけたものだこと。
150ミリ誘導弾CKEM? 高速ミサイル弾頭って、開発中止になったんじゃなかった?
もしかしたら、偽装予算使って開発続けてたのね…。 なにこの『自走知性機雷』って。
設置すると設定された目標に向かって自分で走って突っ込んで爆発します、ってそれはこの任務で何に使うの? 馬鹿なの?」

ティアーナが国防総省と祖国に対する愛国心と忠誠心にたっぷりと疑念と猜疑心を補充させられた頃、
M1A1の装備の換装と弾薬・バッテリーの補充も完了した。
装備を取り付け終わった自動作業アームが機体から離れ、コンテナの内壁に格納される。
それと同時に、コンテナ内部に機士を固定していたクレーン拘束装置も解除される。
開放された搭乗ハッチの内部からモニターや機器の青緑の光が主人であるティアーナを招いていた。

「それじゃあ、装備も整った所で、調査任務の開始といきましょうか。 いくわよ、ラビット1」

機士は荒地を走破する性能に優れている。
元々、塹壕を突破するための強靭な脚力を買われて戦争の主力兵器となったのだから当然だが、現在の4mサイズの
機士ともなるとその歩行速度は時速50kmぐらいは簡単に突破する。
特に、第3世代機士であるM1A1ともなれば、不整地であっても時速70km台のトップスピードを維持したまま
爆走することなど、割と容易なことである。

「2時方向、タイプC、数12。 2秒間隔でバースト射撃、弾種徹甲、ファイア!」

M1A1が右腕を伸ばし、UIWSを発砲する。
放たれた40ミリ砲弾は正確にタイプCの胴体を打ちぬき、突進してくる暇も無いまま打ち倒してゆく。
その横を、ティアーナの駆るM1A1はわき目も振らず走り抜けてゆく。

「シースファイアシースファイア。 タイプC制圧、クリア。 熱源センサーに感、1時方向、タイプD、数8。
タイプB、数21。 75ミリ砲、行進間射撃で6秒間フルオート、弾種対りゅう、ファイア!」

射撃体勢に入る直前のタイプDを、護衛のタイプBごと榴弾の爆炎と破片の雨に包んで微塵に切り刻んでゆく。
脚部や胴体をズタズタにさせられたワームたちは、彼らの領土に侵入した鋼鉄の体を持つ怨敵に一矢報いることの無いまま倒れ伏した。
そして、黄色い地面を蹴り上げてM1A1はワームたちの残骸の隣を高速ですり抜けてゆく。

「おっれたっちゃ無敵の海兵たーい♪ ぶーきは火力と機動力~♪ おれたっちゃ最強、海兵たーい♪
邪魔するXXX(放送倫理規定抵触)はぶーちのーめす~♪ 俺によし! お前によし! うんよし!」

前方の共生植物の茂みの中から現われた一個小隊規模のタイプAを、歌いながらグレネードランチャーで始末し
ティアーナはさらに機士のアクセルペダルを踏み込んだ。
同時に操縦グリップを捻りこんでその場で180度ターン、超振地旋回、後方から追撃してきたタイプC・D混成の分隊を
40ミリ機関砲と75ミリ砲のの一斉射撃で撃破、ナパーム弾頭の炎の中に包み込む。

「お前らみたいな虫だかタコだかの底辺下等生物が、装備と補給の整ったフルコンディションの海兵隊さまに
正面から挑もうと、背中から切り込もうと、まともな手段で勝てると思ったら大間違いよ。
ガンホー・ガンホー・ガンホー。 この10km四方にいるのは100匹? 200匹?
その十倍くらいは用意しないと、このエクストリーム美少女ティアーナ様とM1A1を圧倒できるとは思わない事ね」

口を三日月の形に割り、凶悪な笑みでティアーナは笑った。
パラシュート降下中で30ミリ機関砲以外ろくな武装が無い時や、センサーの破損に加えて機関砲も無い着地直後とは違い、
現在のM1A1は装備と補給、そしてUICWのセンサー補助によって完全に本来の性能を取り戻した状態だ。
センサー範囲内に捕捉される数km圏内の敵は、範囲内に入ったその時点で全ての動き・位置がまるわかりだ。
そして、M1A1に装備された火器の大半はその敵を2km以内に入った瞬間、射程に収め、撃破することが出来る。
弾薬は装備に装填されているものの他、脚部や肩部の装甲にも予備が取り付けられ、バッテリーは全力で走らせ続けても1日半は動き続けられる。
やろうと思えば時間の許す限り、この周辺地帯に生息するワーム全てを殺戮して回る事も可能だ。

だが、妙な事にワームは大陸撤退戦や欧州戦線、中東戦線のように物量に物を言わせて超大規模集団でティアーナに向かって
押し寄せてくるような事は無く、小規模な部隊が散発的に襲ってくる程度でその抵抗もさして撃破困難なものではなかった。

「歩兵型のスキュラにヒュドラ…騎兵のパイアに砲兵オルトロス、どいつも基本的なタイプしか居やしない。
小集団ごとのバラバラな行動でまるで統制はとれてないし、指揮型…タイプE・テュポーンは存在しないのかしらね?
まあ、あのデカブツは倒すのが面倒だから、出てこなくていいけど」

ワームのNATOコードにはギリシア神話の怪物の名前が付けられている。
いずれも自身も怪物である女神、エキドナの産んだ子らやその夫の名を冠せられたワームたちは、
その能力・性質も元の怪物に比せられている。
たとえば、突進攻撃を特意とするタイプCの「パイア」という名は、猪の怪物だ。
そして指揮個体、タイプEは他のワームに比べてかなり巨大な体を持ち、大集団の中心にいる事から
エキドナの産んだ彼らの父親であり、ゼウスを始めとするオリンポスの主神たちでさえ畏れた巨大な最強の怪物「テュポーン」の名が選ばれた。
ただし、このタイプEが本当にワームたちの指揮統制を行っているのかは定かではない。
大規模なワームの群には必ず存在し、これを最低限の単位としてワームは活動している事から、タイプEが指揮個体であると
推測されているに過ぎない。

が、そのタイプEが居る様子が無い。
広域レーダーにも振動センサーにも、それらしい反応は無い。
加えて、この周辺にいるワームの個体数や密度そのものが少ない感じがする、とティアーナは思った。

「…まあ、だいたい理由はわかるけどね。 多分、この先で確かめられるでしょうよ」

呟きながら、ティアーナは新たに現われたタイプCの小隊に機関砲弾を浴びせ、タイプBの針弾をM1A1の厚い装甲表面で弾き返した。
小出し小出しに現われるワームたちをその都度撃破し、少しも走る速度を緩めることなく進撃するM1A1の前に、
急に視界が開けて広大な荒れ果てた平野が出現する。
それまでの共生植物の不気味な森林がそこで途切れ、燃やし尽くされ炭化した植物とワームの死骸が折り重なるようにして
無数に、地平の向こうまで続くかと思われるほどに続いている、寂寥たる光景。
ここが、今回の任務における探索目標地域であった。



「見るからにタコの死骸ばっかりね。 後は、砲弾のクレーターと、高熱に晒された痕跡。
こんだけの大殺戮をやってのけるのに、海兵隊なら何個大隊必要かしらね…?」

M1A1のメインカメラ越しに写る映像を見て、ティアーナは呆れたような口調で呟いた。
この画像は、当然ながら記録している。 帰還後に解析にかけるためだ。
だが、専門家の解析を待つまでも無く、そこにある破壊と死を振りまいた何者かの痕跡は、それが如何なる存在であれ
「兵器」を用いてワームと激しい戦闘を繰り広げたのであろう事は、ティアーナにも見ただけではっきりと判った。
少なくとも、人類に近い何者か。
無数の弾痕が刻まれて蜂の巣に…一部はそれを通り越してひき肉になっているワームの死屍累々。
表面から内部の肉まで黒焦げになり、突進姿勢で立ったまま炭になっているワーム・タイプCの群。
だがそれらが、ワームの同士討ちや、人知も付かない未知の兵器で殺されたのでないと言う事は、死体の一つ一つの特徴からも明らかだった。

ティアーナは、カメラを拡大して地面に無数に穿たれた砲撃のクレーター痕を撮影した。

「クレーターの大きさ、規模からして、ユニオン軍、社会主義連邦軍、NATO軍のいずれの榴弾砲・迫撃砲・ロケット砲等とも
口径・形式は該当せず。 しかしながら、クレーターそのものの大きさから、威力は現在の各国軍の主力装備と同程度。
クレーターの穿たれた範囲から、発射量だけはキチガイじみた火力だけどね。
一個砲兵連隊規模は確実にある…」

次に、ティアーナはカメラを手近なワーム・タイプCの死骸に向けて、M1A1のマニュピレーターをその胴体正面に空いた
無数の弾痕の一つに突っ込ませて、ひしゃげた機関銃あるいは機関砲の弾頭を摘出する。

「弾頭から推測される砲弾口径はやはり、近似はするもののライフリング等で完全一致するものは無し。
というかライフリングの痕跡が無いんだけど、SBG(スムースボアガン、滑腔砲)? 機関砲に?
…別規格の装備を使用している武装勢力という事になるわね。
でも、そんな組織が、ユニオンにも社会主義連邦にも存在を知られておらず、こんな大陸奥地まで
戦力を投入するほどの能力を有しているって言うの? 不可能に近いわね。
海兵隊だって、爆撃機に爆弾の代わりに機士を積み込んで、空挺降下させたって一度に一個大隊が関の山。
それも、荷物の半分は弾薬や補給物資になるし、そこまでの規模の部隊を撤退・回収なんて無理ね。
ただ送り込むだけなら可能でしょうけど」

大陸奥地のワームの勢力圏内に勢力を送って破壊活動を行うだけなら、今の人類側各国軍にも可能だ。
だが、そんな神風特攻をやっても大した意味は無い。 戦力を使い潰しにするだけで無駄である。
それに帰ってこれるからこそ兵士の士気も上がるという物だ。
にも拘らず、帰還手段を持たないのに人類の勢力圏から遠く送り込まれて孤立したまま、戦闘を継続できる存在が、
この場所に存在したと言う事である。

「まあ、脱走兵とか反乱兵を集めた懲罰大隊だった可能性もあるけどね。
使い捨てにして構わない戦力だったら、投入するかもしれないけど、無意味な作戦を実行する軍は無いわ。
焦土爆撃は継続して行うからこそ意味がある。 ただ部隊を送り込んで、補給が尽きる所まで戦わせた所で…」

呟きながら、ティアーナは別のワームの死骸に近づいて、その胴体に穿たれた大きな傷跡をM1A1の両手マニュピレーターで
引き裂くようにして解体する。

「…体皮表面の弾痕、まるでHEATかプラズマジェットで焼かれたみたいに溶けてる上に、内部はまるで、
皮の下に潜り込んだ爆弾で内側から焼かれたみたいに真っ黒焦げで、肉も内臓もぐっちゃぐちゃ。
外側はわりと綺麗な形を残しているにも関わらず…か。 焼夷徹甲弾に類似する兵器でも使ったのかしらね?
でもあれは、APFSDSの方が手間がかからず効果的だって言うんで、不採用になったわけだし…

うげ、こっちの死体はもっと酷い。 どうやったらこんなんなるわけ?
茹でダコってレベルじゃないわね。 高出力マイクロ波兵器でも、こんな風にはならないわよ
半分溶けちゃってるじゃない…」

ワームの死体の調査をしながら撮影とサンプルを続けるティアーナは、次々と見つかる凄惨な死に様のワーム達を
発見するたび吐きそうな思いを独り言に乗せた。
全身のうろこ状の皮膚が泡立ち、まるで肉体が沸騰したかの様な死骸を見つけたときは流石に、自身も幾千匹のワームを
ひき肉に変えてきた歴戦の勇士であるティアーナ自身、あまりのグロさに気分が悪くなった。
どうやってそこまでワームの肉体を破壊したのかわからないくらいの暴力的なエネルギーが、ワームを襲い
おそらくは一瞬の内にその命を奪ったのだ。
苦しい、痛いと思う間さえなかったに違いない。 ワームに感情があるならば、だが。


「…前言撤回。 各国軍と同程度の威力? 近似した装備? そんなわきゃないわ。
たかが、ワームを殺すためだけにここまで破壊力のある兵器を行使する必要が無い。
あきらかにオーバーキル、使用した兵器のコストに見合ってないわ。
こんな事しなくなって、ワームは殺せる。 皮膚表面を溶断するほどの熱を発生させ、内側から完全に焼き殺すなんて…。
これじゃまるで、よほど分厚い装甲を持った目標を破壊するための兵器…

対地下防護シェルター破壊用の地中貫通爆弾でもなければ、使わないテクノロジーよ」

だんだん胃の辺りにムカムカしたものがこみ上げてくるのを感じながら、さらにティアーナは調査を進めた。
広大な範囲を埋め尽くすワームの死骸と戦闘の痕跡は、とても一日かかっても調査しきれるものでは無い様に思える。
だが、そこから発見される諸々の事実は、信じがたいような結果をティアーナにもたらしていた。

「一体、どんな武装組織がこれだけの事を、何の目的でやったっていうの?
新型兵器の実験? 何のために? ワームと戦うには威力過剰。 人間同士の戦争に使うには、残虐すぎる。
こんなもの…機士に使ったら中の人間がもう想像するのも酷い事になるわ。
ハーグ陸戦条約で確実に使用禁止兵器に指定されるわね。 BC兵器と同一の扱いよ。

いったいどうやったら、どんな発想があったら、どんな必要性があったら、これ程の大量殺戮兵器を
開発し、製造し、使用する事ができるのか…
いいえ、その前に、どれだけ進んだテクノロジーがあり、どれだけのリソースが存在したら…」

理由のつかない、気分の悪さを通り越してもはや怒りさえ覚えるようになった不快感を堪えながら、
ワームの死骸を掻き分けるティアーナは、あるひとつのタイプDの死骸に、それが突き刺さっているのを偶然発見した。
それは、ミサイルの弾体のようにも見えた。
が、ミサイルよりは丸みを帯びた細い形をしており、やや大きい姿勢安定翼を持っていた。
タイプDの生体ロケット射出口に頭を突っ込む形でほぼ原型を留めているそれを、ティアーナはM1A1のマニュピレーターで
ゆっくりと、慎重に引き抜くと、カメラに近づける。

「…不発弾? まあ、なんにせよサンプルとして回収しておくか。
それにしても、変な形ね? ミサイルっていうか、トンボの模型みたい」


その後も幾つかのサンプルを回収し、日暮れが近づくと共にティアーナは一日目の調査を打ち切り
装備コンテナの着陸位置へといったん戻る事にした。


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