アットウィキロゴ

創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

「第八話 Festival!」(前)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 『Robochemist!』


 第八話「Festival!(前)」



 第二地球暦164年 8月18日“入植記念日” 晴れ
 HRK学園


 いつの国、いつの時代でも、何かしらの出来事を記念する日はあるものである。仮に無くても、お祝い事の一つ二つは確実にあるのが人の世であり、大抵大騒ぎか厳粛かの二択と決まっている。
 ネオ・アースにも記念日があり、その中でもHRK学園がお祭り騒ぎになるのは入植記念日なのであった。
 入植記念日でもあり、学園創立記念日である今日は、他の場所でも類を見ない大騒ぎが起こる。入植記念日は単なる祝日だが、学園創立記念日が重なれば当然お祭りになるのだ。
 そして今日は、二日連続続くお祭りの初日。
 合宿を終え、来るべき夏の大会に向けて準備を重ねていたアルメリアらも、今日は勉学も部活も忘れてはしゃごうと決めていた。
 学園でも出し物をやろうと計画する者もいたが、基本的にクラスごとにやらねばならぬという訳でもないので、行動力と時間や体力のある者らが動くのが常で、アルメリアらはメタルナイツで忙しく参加はしていなかった。委員長を除き。

 「うむむむむむ……………むむむむむ」

 とある女子レンタル服屋の店内で、ずらりずらり並んだ服の列を行ったり来たりして悩み続ける女の子一人。アルメリアであった。
 なぜ彼女がこんな場所にいるのかといえば、趣味でもなんでもなく、学園創立記念日には『仮装をする』という奇妙な習慣があるからなのである。
 一説によると創立者の取り巻きでそのような趣味の人間がいたとか、ハロウィンと混ざっただとかといわれているが定かではない。
 幸いなことに本日は湿気も夏にしては少なく、海から吹きつける風により気温が和らいでいる。絶好の仮装日和。天は晴れ、夕凪がくると同時に花火の打ち上げが始まるらしい。
 更に今年は前代未聞の『宇宙花火』なるものが学園の研究部門で実施されるという。電離圏でのリチウム放射による発光ではなく、花火を大気圏に突入させるものらしい。
 それは横に置いておくとして、問題は何を着るかなのである。
 仮装と言っても少々意味合いが変化しており、地球でいうところの『コスプレ』も仮装の内に入り、吸血鬼の格好をするのとアニメのキャラクターを模倣するのはほぼ同意義に扱われている。
 そんな背景もあるせいなのか、貸し服屋の服の列にはテレビアニメでみたことのある服もあったり、漫画のキャラの服があったりした。
 同年代の、時には教師位の年齢と思われる人達が談笑しながら服を選んで試着室に消えていく中、アルメリアは難しい顔でメイド服をとってみた。
 エプロンドレス式。無駄にリボンがくっついて、履いて下さいと言わんばかりにニーズソックスがついていた。服に付属しているのはカチューシャで、ここにも白のリボンがあった。
 きわめつけに、スカートの丈が極端に短くて、腿が丸見えになるのではかろうかという懸念を持つほどだった。
 母親のメリッサがスカートを好まなかったせいかアルメリアもスカートを履いた経験があんまりなくて、身動きしやすいズボンが好きだったこともあり、到底許容できる洋服ではない。
 服を列に戻すと、むの字を量産しながら吟味していく。
 友達と一緒に選べば意見の一つも聞けただろうが、恥ずかしいから一人で選ぼうなんて考えてしまったのが悪かったのかもしれない。
 次に手にとったのは、タキシードだった。却下。列に戻す。
 その次は、ダイブスーツに似た服だった。白に、緑っぽい線が無数に走っていて、つやつやした別の素材が腕と肩、腿の付近にある。何かのアニメ作品のだろうか。とりあえず戻した。
 次。フード付きローブで、足にひっかかりそうなほどに長く、黒タイツがセット。紙がくっ付いていたので読んでみると、『三つ編みがデフォです。杖あります』とあった。頷いて、戻した。
 そして今度は目を瞑って列を辿って行って、適当な一着を引っ張り出してみた。今度は制服で、赤っぽいスカーフとスカートがついていた。
 表を見て、裏を見て、自分の体に合わせて着たときどんな風になるのかを確認してみる。

 「うん、これならいいかも」

 学生が学生の仮装をするのは仮装と言わないような気もするが、何せ人生初の仮装なのだし、許されるであろうと。
 年頃の女の子にしては自己主張や背伸びをしたがらないアルメリアにはこのぐらいが適切なのだ。着飾った時はさぞ美しいのかもしれないが、赤の他人に評価されたことがない以上、想像するしかあるまい。
 彼女が服を持ち、さぁ試着室に入ろうとしたところで、誰かと鉢合わせになりぶつかってしまった。咄嗟に身を引いたが、間に合わずおでことおでこをぶつけてしまい、痛くて手で押さえ、数歩下がった。
 面を上げて見ると見慣れないいでたちの人物が一人立っており、頭を下げていた。

 「すまない、注意が散漫になっていたようだ」
 「いえこちらこそ!」

 相手につられて、ポニーテールがぴょこんと跳ねる程深く頭を下げて、服を胸に抱き寄せてからしっかりと前を見据える。
 浅葱色の、ハカマという服に、名前は知らないが和風の着物の上着を羽織って、腰には日本刀と、短い日本刀――脇差――を佩いていた。
 歳は二十程であろうか、端正な顔立ちと浅黒い肌を持ち、黒に近い髪を無造作に切り揃え、少なく見積もってもアルメリアより身長が高かった。
 腰帯びにゆらりと手を宛がい佇む姿は、妙に様になっていた。
 もはや着る人間も僅かとなった和風な服をいとも簡単に着こなしている目の前の人物を見ていると、制服姿を選択してしまった自分が逆に恥ずかしくすらある。
 目の前に立った袴姿は前髪をやわらに流すと、アルメリアの背格好を図るように目を使った。

 「制服、か。確かそれは何かの作品の制服だったはずだ」
 「そうなんですか?」
 「知らないのを着るのはお勧めできないな、もっと違うのにした方が盛り上がれる」
 「はぁ……でも、恥ずかしいですし」
 「恥ずかしがったら負け。それに、みんながみんな私のようにいつもと違う格好をするのに、制服姿では目立たないと思うんだ」
 「うむむむ……」

 腕を組み、なにはともあれ助言通りに制服を列に戻すと、品定めを再開する。袴姿の人物は急いでないらしく、横に並んで服を手にとったりしている。
 思い切って服の列に手刀を差し込み一着とって引き抜けば、地味なメイド服があった。
 白黒二色、全体的に飾りが少なくロングドレスで可愛さよりも実用性を求めているように感じられた。付属の札を見ると、ヴィクトリアンメイドと記されており、すぐ下にはブーツとカチューシャまであった。
 そこで、はたと思う。この店は妙に品ぞろえがいいだけではなく、服の質が異常に高い。
 品定めを始めたアルメリアを尻目に、袴姿は悠然と服を見ては列に戻すを繰り返している。

 「そろそろ決めたか?」
 「ハイ、この服にします」

 メイド服を見えるように両手で吊り、相手に見せると、頷きが返ってきた。

 「古風なメイド服……いいセンスだ。試着室は向こうだ。私は行くべき場所があるので、そろそろお金を払ってこないといけない」
 「つきあって頂いてありがとうございます」
 「礼には及ばない、では」

 袴姿の人物は、店の入り口兼出口へと歩いていき棚で見えなくなった。

 「……そういえばあの人の名前聞いてなかったけど、もう居ない………よね、うん」

 さぁ服を着てみようと試着室の方へ足を向けて、そこでようやく相手の名前を聞いてなかったことに気がついて、店の入り口のほうを向いて首を伸ばしたが、女子学生数人が入ってくるのしか見えなかった。
 服を持ったまま追いかけるのはできないし、せっかく入ったのに服を着ないで出るのもあれなので、諦めることにして、メイド服と付属品の袋を手にとって試着室に入って行った。

 少しして、女子レンタル服屋にいた例の人物が女であると気が付き、愕然としたとか。


 ◆ ◆ ◆ ◆



 今年は涼しいからいいよねと思いつつ、去年の記念日は記録的な猛暑であったことを頭に、もしも暑かったら仮装する気にもならなかったろうななんて考えを展開させる。
 街の片隅にある喫茶店でガムシロップをこれでもかとブチ込んだアイスコーヒーにストロー差し込みちゅーちゅー飲む少女が一人。
 頭を傾けて目を上げ、窓の外が活気づいて、様々な姿格好をした人が通り過ぎるのを観察する。
 お祭り自体が始まる時間はまだ早いが、商店や酒場では既にお祭り騒ぎだった。
 あちこちの飾りつけにはとうの昔に光が灯り、喫茶店の窓にもそれは同じことが言えて、室内灯より明るい赤や青が点滅しながら顔を照らしてくれる。
 からんころーん。
 お客の入店を告げるカウベルの音を聞き取り、店の入口をみれば時間ぴったりに到着した親友二人がいた。椅子の後ろ二本脚に体重をかけるように傾けると、手をぶんぶん振った。

 「おーいこっちこっちー!」

 周囲の客が釣られて同じ方向を見たので、入ってきた二人は恥ずかしくなり店員に席を友人にとってもらっていたと伝えると早足で歩いて行き、窓際席に座った。
 二人は店員がやってきたのでアイスコーヒーを二つ注文した。
 まず、委員長がぐっと身を乗り出す様にしてシュレーに注意を入れんとした。ただしひそひそ声でどなり声を再現するという、迫力に欠けるものだった。

 「店で叫ぶとは何事ですか!」
 「イインチョーお堅いね~今日はお祭りなんだからこれくらいいーじゃんいーじゃん」
 「……確かに」

 委員長は一瞬考え、今日がお祭りだしこれくらいは許容されるかもしれないと思い直し口を閉ざし、ひとまずは引き下がった。が、やっぱり言い足りないようだった。

 「まぁまぁ、せっかくの日に……ね?」
 「そうですが、………分かりました。けど迷惑はかけないように」

 アルメリアが片手をさりげなく間に差し込み仲裁することで委員長は頷いて席に座り直す。
 店員がアイスコーヒーを持ってきたので話が途切れたが、すぐに再開する。三人とも祭りの活気に当てられたように気分が弾んでいたが、委員長だけは疲労の色も見られた。
 髪の毛や身だしなみはしっかり整えられているのに、例えば一点を見つめたままぼーっとしていたり、肩を揉んだりしているのである。アイスコーヒーを啜っても機械的に飲むばかり。
 さて、ここで服装について語ろう。
 まずアルメリアであるが、先の古風なメイド服をきっちり着こなし、地味であるというのに見惚れる美しさを放っていた。アクセントの眼鏡、そして付属のカチューシャが色どりを添える。
 続いてのシュレーは、髪の毛を解いてコスプレをしていた。頭にぴょんと乗ったのと、尾てい骨辺りにあるは、狐の耳と尾。関節を除く大部分はボディーアーマーに包まれ、胸から腹は柔らかそうな素材で包まれていてヘソが浮いて見える。
 最後に委員長であるが、髪型こそ変わっていないのだが、服装が軍服だった。都市戦および海上での戦闘を想定した水色と黒色混じりの迷彩服。ブーツに帽子。腰のベルトには形だけの銃。彼女の性格上明らかに似合わないのに、似合っていた。
 特撮系の作品から飛び出したような金髪少女、大昔の屋敷から出張してきたようなポニーテール眼鏡少女、海賊の類を始末しに出動してきたような緑髪少女。
 三人揃って普通の格好ではないのだが、この日であれば周囲に溶け込むことも容易。
 なにしろ店をざっと見回しただけでも、ナース、吸血鬼、コック、暑さで死にそうな騎士甲冑、魔法少女、全身タイツ、派手な髪色に見たこともない制服を着た一団がいるのだから。
 いわば異常濃度が濃過ぎて彼女ら三人はごく当たり前になっているわけである。
 錯覚に違いあるまいが、シュレーの頭に乗った狐耳がピコピコと動いた。もし錯覚で無いとすれば、針金で操作しているに違いないが、肝心の両手は机の上にあった。

 「チーズ!」

 カシャッ。
 シュレーの両手が机の上から消えるや、いつの間にかカメラを手にとり二人の姿をレンズに捉えシャッターを切っていた。
 ぱっと光が咲き、チュイィィンとカメラ特有の音の残滓を残した。
 フィルムには、軍服姿とメイド服姿の少女が二人並んで焼き付いたことだろう。
 無許可撮影された二人は憤慨するかと思いきや、諦めと、どこかまんざらでもない様子だった。慣れ、周辺の活気、ここまで土台があれば許可に傾くのも道理。

 「あっ、もうーっ」

 委員長はもう諦めたらしかった。アルメリアだけは片手を上げたが、止めて、アイスコーヒーを啜るのを再開しただけだった。
 シュレーはニコニコ笑ったままカメラを机の端に置くと、同じくアイスコーヒーをごくごくストローで飲み始めた。あっという間に半分無くなり、空にしてしまえば、透明な氷が幾つか残るだけ。
 それにしても、とシュレーは率直な疑問を抱いた。
 アルメリアはいい。きっと店員か誰かにメイド服を勧められたに違いないから。
 委員長が何故軍服を着ているのかが疑問だった。仮装、コスプレとして余り見ないが、好んでする人間もいる。シュレーの記憶では委員長にそのような趣味はなかったはず。
 そのことについて尋ねてみれば、委員長はお気に入りの葉っぱを模したリボンを指で摘まんで答えてくれた。それはもう、にこやかに。

 「洋服を借りようとお店に入ったら、店員さんがにこにこ笑いながらこの服と模造銃を貸してくれました。写真もいいかって言われたので、ハイもちろんですと」
 「委員長さん……それ写真が目的で勧められ……いや、やっぱいいです」
 「仕方ないよーだって委員長可愛いじゃん」
 「あー、そういえば試着室で服脱いだじゃないですか。盗撮とかされてたりして」

 などと物騒なことをアルメリアが言うと、シュレーが手をぱたぱた振った。

 「だから私調べてみたんだけどね、その類は無かったなぁ」

 カメラが趣味のシュレーだけに小型カメラの効率的な探し方位はとっくに勉強済みだった。彼女も疑問を持ったのか試着室を探していたが発見できなかったらしい。
 ところが首を捻り続ける女が一人、そこにいた。

 「とう……さつ……?」

 委員長だった。なまじ凛々しい軍服を着ているだけに、首を傾げる動作があまりに似合わなかった。
 まさか、ここで首を傾げられるとは夢にも思わなかった二人は暫しの沈黙の後、質問を投げかけてみることにした。
 委員長という人間は常識人なのであるが、その常識がふわふわしている点がある。特にふわつきが著しいのがお年頃なら胸高鳴らせるようなお話、それからあんな話やこんな話なのであった(内容は御察し下さい)。

 「うーんイインチョーもしかして盗撮って分からないの?」
 「盗撮というのは分かります。けど、そんなことをして何が楽しいのか分かりません」
 「あちゃちゃーこりゃ重症だよアルルー」
 「誰がアルルですか! ……それはとにかく、委員長は頭がいいのか悪いのかホントに分かりませんね」

 駄目だね、と言いたげで困った表情で首を振るシュレーに、妙な名前の略し方をされてつい突っ込みをいれる。アルルでは完全に別の人物になってしまうではないか、と。
 ともあれ、委員長の成績がトップクラスなのは揺らぎ無い事実であるわけで、頭がいいのと情報量は全く関係がないのかとアルメリアは思った。
 いや、逆に『知ってるのか委員長』と尋ねると『むう、あれが伝説の~』と解説してくれる委員長も頼れていいのかもしれないが、どうにもブキミというかなんというか。

 「……これは、ひょっとして知ってはいけないことだったりしません?」

 様子を察したのか、何か聞いてはいけない知ってはいけないことだったのかと委員長が口を開き、尋ねてきた。
 その若葉色の瞳はとても純粋で、幼き子供のようでもあった。
 アルメリアはアイスコーヒーで唇を濡らすと、眼鏡のフレームの両端を親指と中指で挟むようにして位置をあげて、人差し指をぴんと立てた。

 「なんと説明するやら。着替えを盗撮して、見るんです」
 「それで?」

 曖昧にぼかしたとはいってもそろそろ理解できてしかるべき。
 などとアルメリアは考えていたのだが、興味深いと言わんばかりに頷き続きを促してくる。今までの事例と照らし合わせるのなら、多分分かっているのだろうけど、理解はしていない、なんとも中途半端な境界に立ちつくしているに違いなかった。
 例えるならば、お昼時に家族でドラマを見ているときに、お熱いベッドシーンに突入したと仮定しよう。どうか。気まずい。
 アルメリアは困窮し、彼女に説明せんと頭を回転させて口をパクパクしたが、結局、あやふやな言い方では伝わらないことに気が付き肩を落とすとシュレーの方に視線を送った。
 からん、委員長がストローでアイスコーヒーを掻き混ぜ、涼しい音が鳴った。

 「え、見て、えー……あとシュレーお願いしますっ」

 シュレーはとうの昔に飲み終わってしまったコップの中身を想像するように目を落とし、映画か何かではよくある、肩の辺りで両手をひらりと振るあの動きをやった。

 「そこで私にふるとかアルルゥきっちくー♪」
 「だって、説明するとボロでちゃうんですもん」

 流石の委員長も、二人が必死にはぐらかそうとしているのが分かってきたのか、アイスコーヒーで唇を湿らすと、体を引いて椅子に深く腰掛けた。
 座っていると、体に染みついた疲労も徐々に取れてくる。砂糖の入ったアイスコーヒーが手助けをしてくれたこともあるだろう。
 軍服を着たことは無かったが、通気性も考慮されている他非常に動きやすく作られていることも相成って、着心地は悪くなかった。
 委員長が店の壁にかけられた時計を見上げると、二人もそっちの方を向いた。ただぺちゃくちゃ喋っていただけなのに随分と時間が経っていた。時の流れも忘れてー、というやつだろうか。
 その後は盗撮から各々の趣味の話へと流れが変わった。
 シュレーが自分が父親の撮ってくる写真を見てカメラが好きになったと言えば、アルメリアが海に潜るのが好きといい、委員長は本を読むのが好きで書くのも好きと言った。
 話はとりとめも無く変動していき、趣味の話題から犬猫談義、そして最終的には記念日の話題に戻って来た。そこで時間が来たので三人は解散することにした。
 共に動くことも出来たのだが、アルメリアはとある人物の捜索、シュレーは他の友人と遊ぶ、委員長は出し物の手伝いがあった。
 三人は、気が向いたら会って遊ぼうということを決めて、方々に去っていった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 夕方。
 海からの涼しい風が訪れるものの、まだ凪が戸を叩くには少々早い刻。
 夏のもわっとした大気が島を覆い尽くし、昼間の直射に熱せられた地面から放射熱が収まっていなかったが、創立記念祭というイベントで拍車のかかった
 人ごみに目を凝らし、ドッと笑いが起きようものならそちらのほうに注意を払い、ロングスカートの裾を踏み転倒しないように布地を手で持ち上げてとことこ早足で歩く。
 歩みを進める度に彼女を特徴付ける要素の一つ、ポニーテールが文字通り馬の尾のように左右に振れる。
 さて、メイド服を着たポニーテールに眼鏡の少女、アルメリアがお祭り騒ぎになっている学園中をうろついているのにはもちろん理由がある。
 友人と遊びたい気持ちはやまやまだったし、羽目を外して浮かれたかったが、そうもいかなかったのだ。
 シュレーと委員長と喫茶店で別れた彼女は、とある人物から依頼されてこれまたとある人物を探していた。
 依頼者は父親と母親。捜索対象は、ジャックとニコラスの馬鹿二匹。
 解説しておくと、ジャックはアルメリアの兄であり、ニコラスは父親の兄貴にあたる。
 常に放浪を続けていたニコラスにジャックがほいほいついて行って行方不明。休暇を利用したなどと言っていたが、春から夏までうろつける辺り、連続有給休暇でも申請したのだろうか。いずれにせよ、放浪をしていることは確かなのだ。
 思い起こせばジャックがニコラスについていったきっかけは、幼少の頃にあったのかもしれなかった。
 ふらりと放浪の旅に出発し、ふらりと帰ってくる風来坊、ニコラス=シーゼンコード。
 ニコラスは帰ってきては行く先々での話をジャックにしていたし、また一緒に遊んでいた。ジャックもそれを心待ちにしている節があったのが記憶に残っている。
 つまるところ、アウトローというか、自由を仕事にする(ニコラス談)彼に憧れていたからついて行ったのだろう。
 父親と母親の情報によると現在HRK学園がある島にニコラスとジャックによく似た人物が目撃されたそうであり、探してほしいということなのである。
 もちろん、無視して自分のことを優先にしても母親ならともかく父親は目くじらを立てるようなことはしないことは分かり切っている。なぜ探すかと言えば、単純に会いたいからなだけだったりする。
 ……別に、周囲の人間がいちゃいちゃしてたりするのに耐えられない訳じゃない。じゃない。……じゃない。

 「ふぅー……。見つからないなぁ」

 アルメリアは、メイド服の下で滲んできた汗を感じ取っていた。あまり暑くなくても駆け回れば熱くなり発汗するのは当然だった。
 足を止めて周囲を見遣る。とある校舎に直立する小高い建物の屋上にある休憩スペース。自販機があり、ベンチもある。
 お祭りの日なのに人探し。
 よくよく考えてみれば、一つの街と同じ規模を持つ学園内をあても無くうろついてたった二人の男性を探しあてられるわけも無かったのだ。時間を無駄に使ってしまったと後悔する。
 腕時計で時間を確認してみるともうじき花火の時間であることが分かった。
 まぁ、いい。祭りは今日一日ではなくて明日もあるし、なんて。
 走り回っていたせいでなんとなく喉の渇きを覚えたアルメリアは、携帯電話の電子マネーでイチゴ飲料を購入するとベンチに座って飲み始めた。
 イチゴ果実が数%しか含まれていないのにイチゴの商品名な点には首を傾げてしまうものの、缶を傾ける度、口当たりが良く冷たい液が咥内を浸し仄かな甘味が満足感を与えてくれた。
 缶を持ったまま、ベンチに腰掛けたまま、ふぅと溜息を吐いて空を見上げると群青と朱色の混じり合う曖昧すぎる境界、もしくは領域が横たわっていた。
 絵になる。
 イチゴジュースを一口。溜息を吐いて伸びをすればポキポキと。

 「やーめた!」

 アルメリアはそう天に向かって高らかと宣言すると、腰に手を当てて、缶の中身を一気に飲み干そうと呷ったが、予想より量が多くて気道に入りかけてむせた。

 「けほっ、けほっ…………でっ、出鼻を挫かれるなんてっ」

 誰も見てないとつい地団太を踏みたくなるが、踏みとどまり、起立。口を拭って缶を完全に飲みほしてからゴミ箱に投じる。からん。
 メイド服のスカートを翻し、眼鏡をついと持ち上げたアルメリアは、友人と連絡を取ろうと携帯電話を開いたついでに待ち受け画面を意味も無く犬の画像に変えてみた。

 「よーし、行こうっ!?」

 両足を踏みならして階段のある方に歩み出す。
 まずは建物を下りないと始まらない。ドアノブに手をかけて、捻ろうとした。その刹那、胸奥に響くドーンという威勢のいい炸裂音が天空から降り注いだ。
 空はいつの間にか暗くなっていた。
 空の高いところで破裂しているのに、地上にまで大気を叩く力強い鳴り。光が先に届き、遅れて音が耳に届く。
 結った髪の毛を翻す様に振り向くとスカートも波打ち従った。
 パッ、パパッ。
 閃光が産声をあげる。暗調のキャンパスに金色の火と、赤っぽい光球が四方八方に駆けた。
 花火は途切れることなく、否、断続的に打ち上げられては光と消え、白煙の痕を残すだけ。満天の星空が顔を覗かせる直下、人工の星達が生まれては消えていく。
 アルメリアは呼吸も忘れて花火に魅入った。
 花火の残骸ともいうべき煙が風で流れていくも間にあわない分があり、そこに光が飛び込み曖昧なイルミネーションを作る。
 夏が脈動していた。空で拍動していた。空気がこれからくる寒い季節の為に胎動していた。少女はここから移動したくないと心から思うまでに魅入っていた。
 どれだけ観賞をした頃だろうか、突如学園に耳障りな放送が鳴り響いた。

 『お知らせします。宇宙工学研究グループによる宇宙花火の時刻まで残り三分を切りました。繰り返します。宇宙工学研究グループによる――』

 アルメリアは我に返ったのか、ハッと面を上げるのではなく面を下げた。
 花火は一時間に渡って続くわけで、いつまでも見ているわけにはいかないのに、早くも二十分は空を凝視し続けていたらしいと自覚した。一つのことに集中すると周囲が見えなくなるタイプでもないのに、余程花火が美しかったようだ。
 三分後では建物を出ている最中に始まってしまうかもしれない。情報によると、宇宙花火はお金がかかり過ぎるので一回限りしか上演されない。

 「……まぁいっか」

 ベンチにとことこ歩いて行くと、スカートを足に密着するように掬いあげてから座って深呼吸してみた。胸がどきどきしていた。手を胸に宛がって心音を感じ取る。
 花火を夢のようにぼーっと見つめる。
 アルメリアの眼鏡に色とりどりの花が映り込み、しかして一瞬で消える。
 眠気がこみ上げてきて、手でかくしながらあくびを漏らす。

 「ふぁぁ~~」

 眠くなってきたのだ。
 花火は美しかったし、いつまでも見つめていても疲れは感じないし飽きも来なかったけど、それ以上に、綺麗で、輝かしくて、炸裂音が子守唄に聞こえてきたのだ。
 眼鏡を退けて目を擦って涙をおとしてからまたかけ直す。景色がぼんやり歪んでいた。まばたきをして直す。
 大きい青の花が咲いたのをきっかけに、夜空に静寂が戻った。
 いよいよらしい。
 建物の屋上に設置されたスピーカーが僅かなノイズを生じた一秒後、女性の静かなアナウンスが流れた。
 両手を胸に、空を仰ぐ。

 『お時間がやってまいりました。宇宙花火です。夜空を横切る流れ星をご覧ください』

 島中が息を潜めた。
 突如、あまりに無遠慮に空の端でそれが目覚めた。大気圏外から大気圏内の曖昧な境界に投げ込まれた宇宙花火、総数七発が流れ星になった。
 最初はゆっくり、加速度的に七条の光が夜空を引き裂き天空を横切った。終端で命を散らしてそれぞれが青や赤の星になって―――……静かになった。
 アルメリアは知らずのうちに拍手をしていた。
 そよ風の中で息を止めて。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 潮風が、甘い。
 学園の端でも花火を観賞していた人間一人と、猫一匹がいた。
 正確には人間一人と猫一匹とその他大勢の猫達なのだが。
 黒衣に身を包み、危険な鋭利を孕みし大きな鎌を肩に担いだ女性が波止場に座って空を見ていた。夜ということもあり船の出入りは少なく、汽笛一つ聞こえてこない。
 黒きローブから覗く髪の毛は漆黒で左右垂らしの三つ編み。ぱちりと大きく張りのある瞳はプレアデス星団を燭にしたような蒼だった。
 傍らに寄りそう黒猫とやや距離を置いて十匹前後の野良猫が体を丸めて寝ている。
 俗に言う死神の格好をした女性、クーは花火を今の今まで見ていたが、突然打ち上げが止まった事を不思議に思っていた。座ったままが辛くなってきたのか寝転ぶと、相棒の黒猫、クロの骨の浮いた背中に顔を寄せて鼻をすんすん鳴らした。
 それから鎌を向こうに押しやると、クロを抱くように体を丸めて、服や髪が汚れるのも構わず星空を見た。
 波止場ということはつまり海のそばのコンクリートの地面に寝転がっていることになるが、彼女と猫達は気にするでもなかった。それが誰も居なくて、夜ならなおさらだった。
 クーとて一応は世間の常識や必要な知識を身につけて成長した女性だが、昔のように自由気ままに寝転びたい時だってあった。汗ばむ体が気になったが、シャワーでも浴びれば解決することである。
 年老いた相棒の毛を手でもしゃもしゃしながら、天頂で誇らしげに輝く星を見つめた。
 その時、ハッと息を呑んだ。

 「…………あっ」

 空に流れ星が七つ出現、瞬きする間に七つは燃え尽き、最後にぱっと明るく散った。
 宇宙花火というには地味だな、なんて思った。
 クーはクロを抱くと、他の猫を引き連れ、死神のいでたちにて、盛り上がる街に歩いて行った。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 センジュ=キサラギは、こんな日にも仕事に追われていた。
 論文を書き続けて早数時間。一向に終わる気配の無い仕事は憎き敵でもあり、ある意味では味方でもあったが、やっぱり記念日、祭りの日には少しぐらいは微笑んでくれてもいいと思ったが、現実は非情だった。
 服装は、浴衣。菖蒲の花を白で縁取りして目立つようにした模様が特徴の、大人っぽい暗調の生地。帯を真白というシンプルなものにして、紫の髪を後頭部で結い上げ簪で纏めてある。
 が、大人っぽい服を着ても体が子供なために子供にしか見えなかったが、それはセンジュが狙ってやっていることだったりもする。いわゆるギャップを作ったのだが、研究室から出られない以上、無駄に終わりそうだった。
 部下のアオバにはもう見せたが、出来る事なら他の人にも披露したい気持ちもあった。
 センジュは髪型が崩れないように頭をかけば窓に寄って、外を見てみた。
 その時、まさに奇跡的に七つの光条が駆け抜けて鮮やかな花火を暗闇に開花させたところだった。
 ほう、などと溜息を吐くと腕を組んでみた。

 「うむ、成功だ」

 研究者としての言葉になってしまったのは御愛嬌。



 ◆ ◆ ◆ ◆




 そのころシュレー=エイプリルは、友だちというかコスプレ集団とやいのやいのの戦いをおっぱじめていた。
 どうして鬼ごっこと、戦いごっこ、それから着込んでいる服の原作に関する再現寸劇が始まったかはさっぱり覚えていないが、汗だくでも楽しかった。
 狐耳をぴょんぴょん揺らしつつ、目の前の敵(敵に扮した友人)に蹴りをブチ込んだ(フリ)をしたところでアナウンスが入って、皆が一斉に動きを止めた。
 遊びに夢中になっていたせいで花火はおろかほかのイベントにすら参加せず、屋台でご飯も食べてないという有様だった。
 シュレーは額の汗を拭うと、さっきまで格闘していた(フリ)戦友にニヤリと笑みを浮かべて拳をこつんとぶつけ合って、地面にぺたんと座りこんだ。
 すると周囲の友人らも地面に座り込んで、しばしの休憩をとる。皆がみんな好きな衣装を着ており、お酒を呑んだようなテンションで撮影会やらをやっているところもあったせいで、汗ボーボーだった。
 簡易的な野外ライブが開かれる広いステージで駆け回っていただけに、シュレーの足は痙攣していた。いくらなんでもはしゃぎ過ぎたらしい。
 呼吸を整えつつ、上空に注視する。

 『お時間がやってまいりました。宇宙花火です。夜空を横切る流れ星をご覧ください』

 アナウンスがするや、島が静まり返った。それは野外ステージで盛り上がっていたシュレー達も例外では無かった。
 ―――……七つの流れ星が瞬いた。

 「わぁっ!」

 シュレーの頭上で、七つの閃光が競うように優雅にしかし微かに湾曲した線を描き、最後に花火と言うには余りに心許ない光粉となり散った。
 それは一瞬の出来事だったが、皆がどっと沸く威力を有していた。

 「きれー……」

 シュレーが安直な感想を漏らし、敵役をかってでた友人も綺麗だと呟いた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 委員長は、正直花火どころでは無かった。
 クラスの出し物の手伝いに追われ、花火を見ることも出来なかったのだった。否、窓にちらりと映る影を視界の端に捉えることはあったかもしれぬが、それを人は観賞とは呼ばぬ。
 やっと一息つけたのは、宇宙花火が始まる直前だった。
 クラスの喧騒を避けて廊下に出た委員長は、宇宙花火を見ようとこぞって窓に張り付く同級生や同学年らの隙間からそれをみた。
 輝き死に消える七つの光が、彼女の若葉色の瞳に映り込んだ。窓と、人の隙間からみたとはいっても確かに見えた。
 軍服をこの上なくきっちり着こなしたまま、溜息を吐く。

 「綺麗ですね……とっても」

 自分で言った言葉になにか恥ずかしさを感じた委員長は、いい訳として言葉を続けた。

 「陳腐な言葉ですけども」




   【終】

 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー