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ビューティフル・ワールド 第十七話 青天

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やおよろずから出発して数十分後、やっとこさ遥とスネイルは、レイチェルの町が待ち構える門の前へと到着した。
元気良く両腕を上げて着いた―! とはしゃぐスネイルと、何故だか疲れて老けこんでいる遥。

レイチェルはいつも通り活気に溢れており、町人や旅行者、商人達でごった返している。太陽の熱気が人々を煽っている様に、揺らめく。
門番からリヒタ―の交通許可を貰い、遥とスネイルはレイチェルに足を踏み入れる。スネイルの横顔はまるで初めての経験に心躍り目を輝かせる少女の様だ。
その後ろで小さく溜息を吐きながらスネイルに付いていく遥。それにしても案内人を差し置いて先に行く迷い人というのも変な光景だ。

「遥ちゃーん!」
「は~い……今行きまーす」

年も考えずに元気一杯に、無邪気に腕をぶんぶんと振りながらスネイルが、ゆっくりと歩いてくる遥を呼び掛ける。
今のスネイルには、やおよろずでルガ―やリヒトに話しかけている時の本心を探らせない、ミステリアスな女性の面影は全く無い。

初めて都会に遊びに来た、ド田舎の中学生みたいなキラキラした目で呼んでくるスネイルを見、遥は誠に失礼ながら不気味に感じる。
あのストイックさを感じさせる、やおよろずにいる時が素なのか、それとも年甲斐も無くはしゃいでいる今の姿が素なのか。
遥にはスネイルという人間がどんな人間なのかがいまいち理解できない。とは言えあの様子を見るに、心から楽しんでいる様だからそういう疑問を浮かべるのは野暮であろう。

レイチェルの中央に位置する、人々の憩いの場所である小さな噴水広場まで歩いていくと、くるりとスネイルが遥に踵を返した。
そして遥に明らかに何かを企んでいる、怪しげでニンマリとした満面の笑顔で言い放った。

「それじゃあ名残惜しいけど、一旦お別れ。んで……」

と、スネイルは腕時計を一瞥し、言葉を紡いだ。

「この場所で夕方五時に合流しましょ。それじゃ、お互い良い休日を」

そう遥に言い残して、スネイルはダンスを躍るかの如く、軽やかで華麗なステップを踏みながら雑踏の中へと消えていった。
呆気に取られてポカンとしている遥は、ハッと置いてかれた事に気付いてスネイルを探そうとするが、最早スネイルの姿は影も形も無い。
全く、自由というか訳の分からない人だ……と遥は疲れと呆れ混じりの溜息を一つ。まぁ、スネイルをここまで連れてきた時点で仕事は済んだという事にしよう。

さて、と手元で握っているリヒタ―に目を向け、遥はリヒタ―に聞いた。

「リヒタ―、どこか行きたい所ってある?」
<マスターが行きたい所があれば、私はどこへでも>





                            ビューティフル・ワールド


                        the gun with the knight and the rabbit



やおよろずから出発して数十分後、やっとこさ遥とスネイルは、レイチェルの町が待ち構える門の前へと到着した。
元気良く両腕を上げて着いた―! とはしゃぐスネイルと、何故だか疲れて老けこんでいる遥。

レイチェルはいつも通り活気に溢れており、町人や旅行者、商人達でごった返している。太陽の熱気が人々を煽っている様に、揺らめく。
門番からリヒタ―の交通許可を貰い、遥とスネイルはレイチェルに足を踏み入れる。スネイルの横顔はまるで初めての経験に心躍り目を輝かせる少女の様だ。
その後ろで小さく溜息を吐きながらスネイルに付いていく遥。それにしても案内人を差し置いて先に行く迷い人というのも変な光景だ。

「遥ちゃーん!」
「は~い……今行きまーす」

年も考えずに元気一杯に、無邪気に腕をぶんぶんと振りながらスネイルが、ゆっくりと歩いてくる遥を呼び掛ける。
今のスネイルには、やおよろずでルガ―やリヒトに話しかけている時の本心を探らせない、ミステリアスな女性の面影は全く無い。

初めて都会に遊びに来た、ド田舎の中学生みたいなキラキラした目で呼んでくるスネイルを見、遥は誠に失礼ながら不気味に感じる。
あのストイックさを感じさせる、やおよろずにいる時が素なのか、それとも年甲斐も無くはしゃいでいる今の姿が素なのか。
遥にはスネイルという人間がどんな人間なのかがいまいち理解できない。とは言えあの様子を見るに、心から楽しんでいる様だからそういう疑問を浮かべるのは野暮であろう。

レイチェルの中央に位置する、人々の憩いの場所である小さな噴水広場まで歩いていくと、くるりとスネイルが遥に踵を返した。
そして遥に明らかに何かを企んでいる、怪しげでニンマリとした満面の笑顔で言い放った。

「それじゃあ名残惜しいけど、一旦お別れ。んで……」

と、スネイルは腕時計を一瞥し、言葉を紡いだ。

「この場所で夕方五時に合流しましょ。それじゃ、お互い良い休日を」

そう遥に言い残して、スネイルはダンスを躍るかの如く、軽やかで華麗なステップを踏みながら雑踏の中へと消えていった。
呆気に取られてポカンとしている遥は、ハッと置いてかれた事に気付いてスネイルを探そうとするが、最早スネイルの姿は影も形も無い。
全く、自由というか訳の分からない人だ……と遥は疲れと呆れ混じりの溜息を一つ。まぁ、スネイルをここまで連れてきた時点で仕事は済んだという事にしよう。

さて、と手元で握っているリヒタ―に目を向け、遥はリヒタ―に聞いた。

「リヒタ―、どこか行きたい所ってある?」
<マスターが行きたい所があれば、私はどこへでも>





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                        the gun with the knight and the rabbit



ガレージ内。鉄の油臭く粘りつく様な匂いと、浮かびあがっては消えていく、灰と黒の煙が充満する中で、踊る火花。
切断されマチェットに運び込まれたヴィルティックのパーツを修復する、作業着を着ている三人。

顔と頭をすっぱりと隠す、特注の鉄製ヘルメットを被って上部に昇り、繋ぎ目同士を接合しているのはリタ。
その下、装甲を切り剥がし、駆動系を司る電子部分がショートしていないかを確かめつつ、コードが切れている部分等を修復しているのはライディース(以下ライ)
普段は暇さえあれば、冗談と漫才を限りなく繰り広げている二人も、仕事中には至極真剣である。それに喋りながら作業するよりも集中していた方が、効率が上がる。

と、リタがヘルメットを脱いでちょこちょこと移動すると、覗きこむ様に下部で作業している青年に声を掛けた。

「そっちに不備はありませんか、タカ坊さん」

焦げ付いた装甲を引き剥がして、綺麗に接合できるように、丁寧に周りの縁を削って滑らかにしている青年が、リタの呼び掛けに顔を上げる。

意外と言っては失礼ではあるが、リタとライの予想に反して、隆昭は普通に、ヴィルティックの修復に携わっている。

流石にリタとライほどに何でも出来る訳ではないが、装甲同士の繋ぎ目を引き剥がしたり、破損している部分が無いかを注意深く調べたりと、基本的な事は十分行える。
隆昭自身によると、あるきっかけで(恐らくオルトロックとの死闘で死に掛けた際だろう)、ヴィルティックの内部機構について朧げながらも分かる、らしい。
それに二人ほど複雑な事は出来ないが、微々たる事でも良いから自分の手で、ヴィルテイックの修復に関わりたい。

そう、強く主張する隆昭に、二人はなら手伝ってもらおうと承諾した。そして今、微々たると隆昭自身は言ったものの、中々役に立ってくれている。

「特に大丈夫です。今削ってる所に、新しい装甲板をくっ付ければ良いんですね」
「それでオッケーです。接合は私がやるんで、その調子で頑張ってください」
「分かりました」


仕事を始めて一時間弱、少し休憩という事で、三人は一旦各々の持ち場から離れ、適当な日陰に腰を下ろす。
外から風が入ってきて通気性はあるのだが、何分太陽が照り付けており、三人共作業着の下は汗で塗れている。

「それにしても、ちょっと意外だったよ」

持ってきたドリンクを一口飲み、ライが隆昭にそう話しかけた。ライに顔を向ける隆昭。

「失礼だけど、ぶっちゃけ機材を運ぶくらいしか出来ないと思ってたんだ。中々良い仕事ぶりだから驚いた。器用なんだね、君」
「いえ、器用というより昔から何と言うか……」

まさかライから褒められ(ライ自身は褒めた気はないが)るとは思わず、若干照れ臭そうに俯きながら、隆昭は言い返す。

「あんまり苦手な事はないというか、大体の事は人並みに出来るんです。ただ、運動は少し苦手ですけど」
「ふぅん。って事は料理も人並みに出来るってことなんだね。確かに普通に旨かったよ」
「普通……あ、いえ、ありがとうございます」

微妙に普通というワードに何か引っかかりを感じながら、隆昭は素直に嬉しく感じる。

「そういや、タカ坊さんってあっちの世界でどんな生活してたんですか?」

相当喉が渇いたのか、一気にドリンクを飲み干したリタが口元を拭いながら、隆昭に質問する。
一気飲みしたリタに少しばかり驚嘆しつつ、隆昭はそうですね……と言葉に迷っているのか少しばかり沈黙すると、顔を上げる。

「……普通、ですね。特に変わり映えの無い、ホントに普通の生活というか」
「あー、やっぱり。そんな事だろうと思いました」
「……じゃあ、何で聞いたんですか?」

「何でと言われましても」
「ねぇ、聞きたかっただけだよね」

隆昭にその疑問に、リタとライが顔を向き合わせてアイコンタクトを行う。そんな二人に、眉毛をぴくぴくと動かす隆昭。

「それじゃあ僕からも一つ質問。ヴィルティックに乗ってる時ってどんな感じなのかな? ヒーロー的な感覚?」


ライの質問に、隆昭は再び考えこみ、沈黙する。思えば、そんな事今まで考えた事も無かった。

まだヴィルティックに乗って一カ月も経っていないが、ハッキリ言えば乗りたくない、という感情の方が正直、本当に正直に言うと強い。
あんな、動くだけでも何かしら周りに被害が出る物を自在に操り敵を倒せなんて、客観的に見て正気とは思えない。それに。
覚悟を決めたと言っても、まだ自分が未来を救う存在になるだなんて、全く実感が沸かない、いや、分からない。
いきなり巨大ロボットを託されて、何もかも失って、それでかつ、何も分かっちゃいないのに未来を救えなんて、俺に一体どうして欲しいんだと


「タカ坊さん?」


リタの言葉に隆昭は瞬時に我に帰った。気付けば思考の迷路に入り込み、抜け出せなくなっていた様だ。
心配そうに自分を見つめるリタとライに、隆昭はすみません、と短く謝罪して、正直に答える。

「……ごめんなさい、ちょっと考えが纏まらなくて」
「大丈夫かい? 相当考えてた様だけど。それで、どんな気分なんだい? ヴィルティックに乗るのは」


「正直に本音を言うと……あまり、良い気はしないです。周りに被害を出さない様に操縦しなきゃいけないし……あと」
「あと、何?」

修復中のパーツを一瞬見上げ、ライに顔を戻すと、隆昭は話す。

「これだけ大きな物を動かすと、それだけで凄く責任が生まれるというか、その責任が激しく重荷になるというか……」

「重荷、ですか。ふむ、何か私の感じてたイメージと大分違うんですね」

そう言ってリタは勢い良く立ち上がると、握りこぶしを作って力説を奮う様に力強い口調で、言い放つ。

「私のイメージですよ? 私のイメージだとタカ坊さん、というかヴィルテイックはですね。
 空をビューンと飛んでいって、片っ端から大きな剣で悪い奴らをズバッ! と斬り捨てる、そんなでっかくて強くて速い。正義の味方みたいな感じなんですよ」
「正義の味方……ですか? はぁ……」
「正義の味方です。……タカ坊さん、ちょっと良いですか?」

そう言ってリタはしゃがむと、隆昭の目をじっと見る。丸く大きな目にじぃーと見つめられ、隆昭は妙にドキドキする。
隆昭の目を微動だにせず見つめながら、リタはおちゃらけていない、真面目な声で話し始める。

「何と言うかタカ坊さん、さっき変な事考えてませんでしたか? 凄く暗い事」
「い、いえ、考えて無いですよ」
「ううん、それは嘘です。顔が偉く思い詰めてましたもん。駄目ですよ、そんな顔してちゃ」

「タカ坊さんが何を考えてるかは分かりませんが、もう少し気楽に、肩の力を抜いていいと思います。難しい事考え過ぎてるみたいですから」
「ヴィルティックの、事ですか?」
「はい。もっと自分のやった事に、自信を持ってはどうですか? 悪い奴をやっつけたんだって」
「けど自分はそれ以上に……」
「だからそうやってすぐ自分を下卑しちゃ駄目ですよ。正義の味方で皆のヒーロー! そんな感じで良いじゃないですか」

リタのその言葉に、隆昭は言葉が出てこないのか、押し黙る。そんな隆昭にリタは頬を膨らまして――――。

「隆昭さん!」

瞬間、リタが隆昭の両頬を、小さい手でぐにっと、左右に引っ張った。顔が伸びて隆昭の顔がだらしなく間抜け面になっていく。
しかしそんな隆昭の顔は妙な事に、笑っているかの様だ。実際口の端々が引っ張られているだけなので決して笑っている訳ではないのだが。

「りたひゃん、いひゃいでふ」

隆昭の制止を聞かず、リタは引っ張り続けながら、隆昭に言う。

「心の底から笑ってみて下さい。隆昭さんって笑っている様で、どんな時でも険しい顔してますよ」
「僕もリタちゃんに同意だよ。君、無意識かもしれないけどいつも眉間にしわが寄ってるんだよ。何を考えてるかは聞かないけど、ちょっと気になるね、そういうの」

ライとリタの言葉に、隆昭は自らを思い返してみる。思い返せばあの日――――メルフィーに未来を守ると誓った日から俺は心の底から、笑った記憶はない。
そりゃあ、周りの空気を呼んで笑ってみたり、スネイルさんに突っ込んだりした時は笑った事もあった。けど、それはあくまで皆が笑ってるから、笑ってみただけで。
日常が壊される前は、草川やその仲間達とどんな下らない事だろうと、心から笑っていた。楽しんでいた、けど、今の俺は……。

忘れて、しまった。笑うという、本来ならば当り前の感情を、俺は。
リタの両手が、隆昭の両頬から離れる。怒っているのか、それとも嘆いているのかリタは切なげな表情を浮かべたまま、言う。

「あっちの世界で何があったかは、辛いと思うんで聞かないです。けど、あんまり暗い顔してたら、悪いけど次はホントに怒ります」

「自分に自信を持って下さい、タカ坊さん。ヴィルティックに乗って戦う事は凄い事なんですよ。それはタカ坊さんにしか、出来ない事なんです、多分」

――――隆昭は二人の顔を交互に見て、少しだけ俯くと、顔を上げて、答える。

「……分かりました。俺、もう少し笑ってみます。すぐには……難しいけど」

そう言って隆昭は出来るだけ自然に、今度は心の底から笑顔を作ってみる。いつもの周囲に合わせた、軽い笑い方ではなく。
ぎこちなくて不自然で堅苦しいが、隆昭の今の笑顔は、ちゃんと目が笑っている。その目は笑っているのに、今にも泣き出しそうだ。

思いだす。こんな感覚、何時頃だっただろう。

凄く久しぶりな、懐かしくて温かい、包み込んでくれる様なぽかぽかした感覚。
そうだ、この感覚は――――家族と、一緒にいる時だ。こんな風に、父や母、姉に怒られたり、一緒に笑ったりする。
あの時完全に失った物が、少しづつ、けど確かに蘇ってくる。そう思った時――――地面に汗の様な染みが一つ、二つ、落ちてくる。否、汗ではない。

「た、隆昭?」

ライのかなり引き気味の声に再び我に返った隆昭は、腕でごしごしと目元を拭った。作業服がしっとりと濡れている。どうやら泣いてしまった様だ。
何で泣いたのか、感情が昂ったからか、それとも感情が不安定なのか隆昭自身にも分からないが、リタの言葉を聞いた途端に泣いてしまった。
恥ずかしさから隆昭はすみませんすみませんと連呼し、目元を拭いながら謝る。そんな隆昭にリタは一息吐くと、頭に手を触れた。

「ま、周りくどく言いましたが、私が言いたいのはもう少し私達と打ち解けて欲しいなって事です。
 無理に合わせようとしなくても、タカ坊さんはタカ坊さんのままで」

そう言いながら隆昭の頭を撫で撫でしつつ、優しく微笑むリタの表情は、いつもよりずっと大人びて見え、お姉さんの風格を感じる。

あ、そうだそうだ。とリタは何か思いついたのか立ち上がって振り返ると、ライの所まで駆けていきひょいっと、上からメガネを取った。
そして隆昭の方まで戻って来ると、ライの眼鏡を隆昭に掛ける。両腕を組んで隆昭とライを見比べながら、難しそうな顔をし、真面目な口調で、言う。

「どっちがライさんでどっちがタカ坊さんでしたっけ?」

リタのボケに、隆昭とライは顔を見合せると、突っ込む。

「おいおい」

どこまで澄みきって成層圏まで伸びていく、快晴の真っ青な青空。空を見上げながらメルフィーは両手を組んで腕を伸ばして、背筋も伸ばした。
傍らの洗濯籠の中には、居候である隆昭達三人の分まで含めたやおよろずの面々の洗濯物が、山の様にどっさりと入っている。尋常な量では無い。
しかしメルフィーにそれは全く苦では無かった。むしろ、こんな青空のもとで洗濯物を干すなんて何年ぶりだろうかと懐かしい気分に浸っている。

洗濯物を干す前は、ルガ―と共にやおよろずをくまなく掃除していた。拭き掃除から履き掃除までくまなく寸分無く。

だが、ルガ―の常にパーフェクトでプロフェッショナルな仕事ぶりのお陰で、目立った汚れは愚か埃も塵一つさえ見つからなかった。
廊下や階段を水捌けしたり、家の周りを箒で掃いたりとやっている事は正に掃除としか言いようが無い、地味な作業である。
地味ではあるが久しく、パイロットして、戦士として生きざる負えなかったメルフィーにとっては、その掃除という作業その物が偉く懐かしく、新鮮に思える。

そしてメルフィー自身思う。自分が如何にあるべき日常に回帰したいのかを。ただ掃除しているだけなのに、何回か目頭が熱くなってしまった。
戦いの日々は、そこにあるのが当り前である日常、その物を根こそぎ奪い、焦土にしてしまった。だからこそ、こういうなんて事無い事が、とても、愛しい。
そしてもう一つ、朝のリヒトとやおよろずの皆の語らいを見て、メルフィーは戦いの中で忘れていた事を、思い出す。

皆が一人の為に、勇気付けたり対策を考えたり、叱咤する。こんな光景――――そう、家族。家族という、思い出。
やおよろずの皆の家族の様な絆の強さ――――いや、実際家族みたいな物だろうから、この表現は可笑しいか。メルフィーはくすりと笑う。

それにしても家族という、久方忘れていた事を思い出すなんて……。ふっと、メルフィーの洗濯物を干す手が、止まる。



あの戦争が始まった日、実質、家族――――お父さんもお母さんも、屋敷の皆とも離れ離れになってしまった。一人になってしまった。
師匠であるマチコ先生が、任務で私から居なくなってしまった後、私はレジスタンスのパイロットとして、ずっと一人で戦ってきた。
戦うのは自分自身。自分を叱咤するのも、自分を護るのも自分だけだった。

エースパイロットという役割を担わされていた私を、皆頼りにして、信頼して、期待を寄せていた。
だから私は――――その皆に応えて、皆を護る為に必死になった。
皆自分自身を守るのに必死で、だから私は誰かに叱咤される事も、誰かに勇気付けられたりも出来なかった。私を励ませるのは私だけだった。
誰にも頼れず、誰にも弱音を吐けない。次第に押しつぶされ、そのまま私は戦いの中で死ぬのかな、なんて何度も思ったりした。

そんな日―――――離れていたお父さんからヴィルティックを譲り受け、隆昭……さんへと渡す為に過去へと飛ぶ事になった。

隆昭さん……隆昭は、私が戦いの中で吐き出せずに心の中で募らしていった、悲しみや苦しみや、恐怖も全て、受け止めてくれた。
地味で、頼りなくて、へたれていて、肝心な時にはパッとしない、だけどそれでも、未来を、そして自分を守ると誓ってくれた隆昭に私は救われた。
それと同時に、私は現代で再び出会えたマチコ先生と――――隆昭を、新しい家族として、心の拠り所にする事に決めた。

リヒトさんにとってやおよろずが、心許せる、安らげる場所であるなら。
私にとってそれは、マチコさんと隆昭になる。あの二人が私にとって心から信頼できて、分かり合える人達。

でも――――隆昭に取って、私とマチコさんは、どう映っているのだろうか。
そう思うと、私は心の奥底から沸いてくるもやもやで、少し頭が痛くなる。本当に隆昭はどう思っているんだろう。
あの世界で一度日常を失った故に、もう覚悟が決まってる私と違い、隆昭自身はヴィルテイックに乗れる以外は、まだ普通のどこにでもいる男の子に過ぎない。
そんな彼に、さっきの光景はある種残酷だ。もし彼が――――もし彼がまた、ネガティブな事を考えて自分を追い込んだりしたら、私は……彼をどう、慰めれば良いんだろう。



「メルフィーちゃん、手、止まってるよ」

後ろから声を掛けられて思わず振り向く。そこには筋肉に似合わぬ可愛らしいエプロンを着たルガ―が、温和な笑みを浮かべて佇んでいた。
どうやら考え事をしていて、動作が止まっていた様だ。メルフィーは素早い動作で籠の中にある洗濯物を干しながら謝る。

「すみません、ルガ―さん。ちょっと考え事しちゃってて……」
「いや良いよ良いよ、ただちゃんと、手も動かしてほしいなってね」

そう言って笑うルガ―は、正にやおよろずの父親であり大黒柱である。

「それにしても良く晴れてるね。これなら今日中に全部乾くかな」

そう言って、ルガ―は晴天の空を見上げた。確かに濁りの一点も無い。健やかで綺麗な青色が広がっている。
メルフィーはそうですね、と同意して頷きながら、ルガ―に続く様に空を見上げた。

「隆昭君」

ルガ―のその一言に、メルフィーがキョトンとする。もしや、考えが読まれていたのだろうか。

「の事、考えてたのかな。違ってたらごめんね」
「……ちょっとだけ、考えてました」

図星である。

「彼、もう少し打ち解けてくれないかなって思う。人見知りするタイプでは無さそうだけど」
「そう……ですね」
「メルフィーちゃんの方から促せないかな。もう少し僕達と距離を縮めて欲しいんだ、彼には」

そう言ってルガ―はメルフィーの目を見る。優しい、優しい目であるが、なんか断りづらい何かを感じる。
メルフィーは少し考える素振りを見せると、ルガ―に清楚でお淑やかな笑顔で返す。

「分かりました。私の方で、努力してみます」
「うん、頼んだよ。あ、そうそうそれと」

そう言いながらルガ―はエプロンを外すと、言葉を続けた。

「その洗濯物が全部干し終わったら、昼ご飯の時間まで休憩してて良いよ。僕はちょっとリヒトと用事があるから、何かあったら呼びに来てね」
「分かりました」
「それじゃあ、これついでに」

ルガ―はエプロンをメルフィーに手渡すと、何か道具でも持っていくのか、家の中へと戻っていく。
エプロンを洗濯籠に掛けて、洗濯物を干しながらメルフィーは休み時間に何をするかを考える。が、特に思い浮かばない。
ちょうど隆昭の方も休憩なら、ちょっとばかし喋りたいのだが。



「このリンゴ、幾らですか?」

黒ぶち眼鏡が印象に残る、どこかの学校の制服を規律正しくピシッと着こなした少女が、露店で一つ、リンゴを買う。
少女はリンゴを皮ごとしゃくしゃくと食べながら、雑踏の中を清流の様にするり、するりと流れてゆく。歩きながら少女は、レイチェルの外観へと目を移す。
個人的なイメージだが、南イタリアの街並みが近いかな、と思う。微妙に利便性に欠けるが、それを補うほどに魅力的なモダンなレンガ調の道路や家々。
こういう街並みは記憶に残るから写真にでも撮っておきたいが、生憎カメラは持ち合わせていない。至極残念だ。

一見、新しいキャラクターが登場したかのようだがそれは違う。何を隠そう。
この少女の正体は過去、隆昭が住んでいた現代で、マチコ・スネイルが隆昭を観察する為に変装した仮の姿、木原町子である。まぁぶっちゃければマチコ・スネイルである。
何故隠す必要が無いのに木原町子に変装しているのかと問われれば、その理由は二つある。

一つは、大分若づくりしている木原町子の方が、スネイルである時よりも割かし無茶が出来るし融通も利くという結構黒い理由。
もう一つは、単にスネイルが若作りをしたいだけである。スネイルかて、偶には嵌めを外したい時もある。何時も外している気がするが、気のせいであろう。
リンゴを綺麗に食べ終わり、ゴミ箱にポトン、と捨てたスネイル、もとい町子はどこに行こうかなと考えていた、その時。

耳元に誰かが泣いている声が飛びこんできて、町子は自然にその鳴き声の主を探した。見つける。

町子の数メートル先に、何か悔しい事でもあったのか、泣きじゃくっている男の子と、しゃがんで男の子を宥めている、恐らく母親の姿が見えた。
何で泣いているんだろうと不思議に思いながら空を見上げるとなるほど、男の子が手放したのであろう、赤い風船が空へと昇っていく。
男の子には悪いがもう大人でも手に届く様な高さではないだろう。しかしそういう悔しさを噛みしめながら皆大人になって行くのだよ、坊や。

男の子に心の中でそう諭しながら、町子は適当に本屋にでも行ってみるかと歩き始めた、またまたその時。
町子の横を駆け抜ける、ポニーテールの様な長髪を風に揺らした謎の人。町子は思わず振り返った。
その人は疾走し、男の子の目前で地面を左足で蹴り上げて、一気に空に向かって飛び上がった。しかし今更風船が取れ……取れ、た?

信じられないほど高く、およそ4m程飛び上がると、その人は易々と、男の子が手放した風船の紐を掴んだ。
そして風船を掴んだまま音も出さず、静かに地面に着地する。足元に注意を凝らすと、淡い光の様な物が集まっている様に見えるが気のせいだろうか。
しゃがんで風船を男の子の手に握らせ、その人は颯爽と踵を返す。母親は何度も感謝の礼をするが、その人は構わないと言った感じでひらひらと手を振った。

……やだ、何このイケメン。周りから驚かれ拍手されても、照れる事も胸を張る事も無く堂々と去っていくその人に、町子は俄然興味が沸いた。
この町子という格好であれば警戒心を抱く人もそういないだろうし、ちょっとばかし無茶してみようか。
町子は早速、男の子を救った謎のヒーローとやらを追ってみる事にした。

後ろから見ると、白いワイシャツに黒いズボンという至ってシンプルな服装でかつ、線が細い事から女性かな? と推測する。
すらりとしていて無駄な肉が無い、スレンダーな体型に、形良く纏め上げられた、ギリギリポニーテールと言えなくも無い、風に靡く髪。女性だ。間違いない。
それにしてもズボン越しから見ても細い脚だ。どう見ても、あんな4mも跳びあがれる様な、人間離れした筋力があるとは思えない。
そう言えば……この世界にはマナと呼ばれる、特殊なエネルギーがある事を思い出す。
もしかしたらそのマナとやらを使ったのかもしれない。謎のヒーローは。正確にはヒロインだが。

しばらく追跡していると、謎のヒーローが、屋台に入って行く。チャンスだと思い、町子も中に入る。
その屋台は鉄板の上で料理を作る、その名も鉄板料理専門店な様だ。こんな暑い中で鉄板焼きとは中々オツな人だなと思う。狭い店内で、謎のヒーローが席に座る。

「焼きそば大盛りで頼む。盛れるだけ盛ってくれ」

凛とした良く通る声で謎のヒーロー、は失礼だから謎の女性は、店主にそう注文した。
その横顔は声と同じく凛としており、鋭くも理知と聡明を感じさせる目鼻立ちに、改めて町子は何このイケメンと思う。
の割に、結構膨らんだ胸元から見て女性なのだが、その立ち振舞いや容姿は一見男性と間違えそうなほどに、男前である。

町子は迷う事無くその女性の近くによると、少し世間知らずな女の子という設定で、女性に話しかけた。

「あ、あの!」

女性がスネイルに呼び掛けられて振り返る。爪楊枝を歯に咥えている姿も誠に、男前である。

「さっき偶然、貴方を見かけたんですけど 風船を男の子に掴んで返す姿、すっごくカッコ良かったです!」
「あぁ、見られてたのか。取るに足らぬ事だ。少年が困っていたから助けた、ただそれだけだよ」

かなり注目されてましたが。もしかしてこの女性、ちょっと天然入っているのだろうか。
若干そんな不安を感じながらも、町子は言葉を続ける。もう少し演技せねば。

「それであの……出来れば、隣で食べていいですか?」

スネイルのその質問に女性は爪楊枝を上向きにしながら、あっさり答える。

「別に構わんよ」
「ホントですか! ありがとうございます!」

町子はその返答にさぞ待ってましたとばかりに顔を綻ばせながら、隣席に座る。

「所で君、名前は?」
「あ、ごめんなさい、申し遅れました。私は木原町子と言います。ここら辺の学校に通ってる学生です」
「木原町子……まぁ確かにその恰好を見るに学生だろうが、今日は平日だぞ。学校はどうした」

「休校日です!」
「そうか」

納得してしまった。やっぱり天然だこの人。

「なら私も自己紹介せねばな。私はマシェリ―、マシェリ―・ステイサム。この町には遊びに来た、とでも言っておこう」
「マシェリ―さんですか……素敵な名前です」
「そうか? 名前を褒められるなんて初めてだよ」

「マスター、この少女に何か飲み物を」




暇だ。成す術なく暇だ。休みだからか、それとも暇だからか、やけに時間の流れが遅く感じる。

休日ではあるが、遥は特に何をするでも無く、ブラブラと町をほっつき歩いている。
特に生活用品でこれが欲しい! と思うほど、不足している物はないし、別に着飾る予定も無い為、洋服店にも雑貨屋にも行く理由はない。
かと言ってお腹も空いていないし、ホントにスネイルと夕方合流するまで、やる事も無い。
どこかリヒタ―と訓練できるような場所でもあれば良いが、この町にそんな場所は無いだろう。

<マスター、どこに行くのか決まりましたか?>
「うーん……浮かばないや。リヒタ―は行きたい所って浮かばない?」
<私はマスターをお守りする事が使命なので、マスターの行動に従います>

真面目に返答されてしまった。まぁ、リヒタ―のこういうまっすぐな忠誠心に、遥はとても安心するのだが。
どうせ行く所も無いし、また本屋さんで適当に時間を潰していようか。そう思いながら、遥は本屋に向けて歩き出した。

その時。リヒターが僅かに震え、遥は立ち止まった。

<マス……マスター>

リヒタ―の声が、少しばかり重い。さっきからどうも、リヒタ―の調子がおかしい。

「何? リヒタ―」
<いえ……その……>
「……さっきから何か言いたそうだけど、ちゃんと言いたい事言ってよ。私達の間に、隠し事は無しだよ」
<……そうですね、申し訳無いです。……あの、マスター。先程から私は>

「一条さん?」


誰かが遥に声を掛けてきた。遥はその声がした方へと振り向く。
そこには昨日会ったばかりの、不思議な雰囲気を纏わせるあの少女――――リシェル・クレサンジュが立っており、遥を見つめていた。
あの本を沢山詰め込んだバックを肩に担ぎ――――まるで、ギターケースを彷彿とさせる、しかしギターケースより幾分大きなバックを背負っている。

「あ、リシェルさん。昨日ぶりです」
「うん、昨日ぶり。今日も……買い物?」
「いえ、ちょっとした野暮用で」

リシェルはそう、とあの淡々とした、しかしどことなく嬉しそうな口調で答える。相変わらず目は、どこか眠たそうだが。
それにしても、リシェルの小柄な体に似つかない、背後の大きなバックが遥は気になる。ギターにしては大きいし、それ以外というと……。
率直に、リシェルに聞いてみようかと思った時、リシェルが肩に担いだバックを地面に置くと、背後のバックをくるりと前に回した。
そしてバックのファスナーを少しづつ開けて、遥に言う。

「ちょっと待ってね」

そう言いながらリシェルはバックの中から、その中身とやらをのそのそと取り出し始めた。

バックから出てきた、リシェルの身の丈ほどにある長く大きな杖。これだけでも遥は驚いているが。
続けて、その杖に嵌めこまれている、激しく自己主張する紅く大きな球体を指して、リシェルは言った。

「この子ね」



「神威って、言うの」



洗濯物を全て干し終わり、メルフィーは一仕事終えた。もう一度背筋を伸ばすと、何だか小さな達成感を覚える。
洗濯籠を片づけ、メルフィーは気分転換の為に近くの草原へと足を運んだ。風に吹かれて寄せては返す緑色の草原は、まるで小波の様だ。
適当な所で足を止めて、メルフィーは腰を下ろした。そして体を預ける様に、仰向けに寝転がる。

鼻をくすぐる、爽やかな草の香りに、メルフィーは気持ち良さそうに目を閉じた。

眠たい。心地の良いまどろみの中で、メルフィーは眠りに落ちる。

「隣、良いかな」

と、隆昭の声がしてパッと開けた。隣を見ると、隆昭が立っていた。
どんな作業をしていたのかは分からないが、隆昭の髪の毛や作業服は煤のせいか、焦げ茶色に汚れている
そんな隆昭の姿に、メルフィーは言う。

「シャワー、浴びてきたらどうです?」
「良いよ。ちょっと休んだらすぐ仕事だし。気分転換にここに来たんだよ」

そう言って、隆昭は隣に座った。心なしか、隆昭の表情が柔らかくなっている、様に感じる。

「大仕事だったんですか?」
「まぁ、ちょっと」
「お疲れ様です」
「うん、疲れた」

メルフィーの様に隆昭も、大の字になって寝転がった。
真っ青で曇り空一つ無い、清々しい青空を、隆昭とメルフィーは同じ場所で、同じ様に見上げている。

「メルフィーは」
「はい?」
「メルフィーの方はどうだ? 苦労とかしてないか」

「私はそれほど……むしろ楽しいですよ」
「そっか……なら、良いんだけどさ」

一旦会話が止まり、二人は空を見上げる。時間が止まったみたいに、穏やかな空気が流れる。
と、隆昭がポツリと、メルフィーに話しかけた。

「あのさ」

隆昭の言葉に反応したメルフィーが、隆昭に顔を向けた。

「メルフィーにとって……やおよろずの人達ってどう見える?」

――――やはり、か。メルフィーは予想してたものの、本当に隆昭が家族の事について聞いてくるとは思わなかった。
しかしここは――――変に意識せず、思った事をそのまま答えよう。

「私にとってですか? そうですね……皆家族みたいに、絆が強いと思いました」
「奇遇だな」

「俺も同じ事、考えてた」

隆昭のその台詞に、メルフィーはキョトンとした。てっきりまた、悩んでいる様な事を言うかと思ったが。
逆だ。隆昭の音色は明るい。続けて隆昭は、言葉を紡ぐ。

「やおよろずの人達って、俺から見ると凄く、強いと思う。繋がりが固いというか、家族、そのモノだなって、俺思うんだ」

この人は……何故だかわからない、分からないが、メルフィーは今の隆昭に、不思議な安心感を覚える。

「だから俺、あの人達をもっと信じてみる。今以上に、あの人達の力になりたいと思う。それが俺にとっての」


「私達も――――そう、見えるんでしょうか」
「え?」

メルフィーに言葉を遮られ、隆昭はポカンとする。メルフィーは微笑みながらも、しっかりと隆昭に、伝える。

「ごめんなさい、いきなり変な事言って。その……私と隆昭さん、それとマチコさんはやおよろずの人達から見て、仲良く見えてるのかなって」
「そうだなぁ。……多分、見えてるんじゃないかな。自信は持てないけど」
「私は見えててほしいです。だって」



「だって、私にとっての家族は、貴方とマチコさんですから」



その時のメルフィーの目はただ一点、隆昭だけを見据えている。
その青く澄んだ眼に、隆昭は少なからずドキドキする。まぁ、女の子から見つめられてドキッとするのは男として自然な事だが。
隆昭は一瞬沸いた不埒な思いを頭を振って取り消すと、勢い良く立ち上がった。

「俺に」

「俺にとっても、メルフィーとスネイルさんは家族だ。だから俺は」

一度、言葉が詰まる。しかし隆昭はしっかりと、言い放つ。

「だから俺は、君とスネイルさんを護る。いや……俺は、君が好きな人達も、好きな世界もひっくるめて全部護るよ。絶対に」

「なら、私は」

メルフィーも起き上がると、隆昭を見つめたまま、言う。

「なら私は貴方を護ります。貴方の為に私自身が出来る事を、精一杯」


「だからこれからも一緒に」


ほぼ同時に、全く同じ完璧なタイミングで、隆昭とメルフィーの言葉が重なる。
隆昭とメルフィーは驚きながらも、気恥ずかしくなったのか、照れ笑いした。隆昭は立ち上がり、メルフィーに手を差し伸ばして、言う。

「これからも一緒に、生きてくれ、メルフィー。俺達の世界が、平和になるまで」

「その日が来るまで――――ずっと、一緒にいます。隆昭さん」

メルフィーが隆昭の手を、優しく握った。


一瞬、リシェルの言った言葉が頭に入って来なかった。
あの時、リシェルは確かに言った。カムイと。聞き間違いというか、見間違いじゃないかと思う。
しかし目の前には確かにリシェルが居て、そのリシェルはギターケースから、その神威という……オートマタを、取り出している。

「ちょっと気難しいけど、悪い子じゃないの。神威」

<神威だ。宜しく>

カムイが不愛想に、抑揚の無い声でそう言った。
取りあえず声を聞く限り危険な感じはしない。しないが……何故か、リヒタ―が何も言わない。
まさか、シロちゃんを奪ったのが目の前の神威なら……いや、でもまさか。同姓同名じゃないのか。

普段は気丈で何事にも動じない遥が、本当に珍しく混乱している。あくまで顔色には出さないが。
遥の様子に構わず、リシェルは、遥に聞いた。




「それで一条さん」



「貴方のそのオートマタの名前、良ければ教えてくれないかな?」












                            第  17  話



                               青天



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