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ビューティフル・ワールド 第十四話 漆黒 下

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irisjoker

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「重い……すげえ重い……つうか明らかにメモに書かれたのより多いだろこれ……」
「隆昭さん、何か言いました?」
「何でも無い」

メルフィーにそう返すものの、隆昭は何も間違っていない。
明らかにメモに書かれたリストよりも多く、遥は買い物している。遥自身は人数が多いから買える物は、特に食材等はストックを作る為に多く買っておいた方が良いとは言った。
それには賛同できるが、今自分が担いでる買い物の量は、隆昭の顔は愚か頭部丸ごと隠すほど高く積み上がっており、明らかに量がおかしい。
しかし居候である身分な上、居候先の住人である遥には逆らえまい。どうにか視界は横目で見れば確認できるし。

しかし隆昭は両腕と頭部が隠れるほどの買い物を持たされていても、不愉快な気分にはならない。若干というかかなり疲れてはいるが。

昼食を取った後、遥とメルフィー、そして隆昭はリシェルと共に本来の外出目的である買い物へと繰り出した。
一人だけ男という事でなし崩し的に荷物担当となった隆昭ではあるが、特に損した気分にはならない。

何故かと言えば、買い物に興じて豊かな表情を見せるメルフィーの姿を久々に見れたからだ、
見た事の無い食材や物体に驚いたり、感心したり、また笑顔を見せる、そんな風にメルフィーは素の、女の子らしい姿を見せてくれる。
こんなメルフィーを見たのはあっちの世界で短いながらも、同じ学校に通い、そして――――同級生として触れ合っていた、あの期間以来だ。

嬉しいと感じると同時に、隆昭は思う。何時か必ず、メルフィーがこんな表情を浮かべていられる未来を掴みたいと。
それがどれだけ波乱と困難に満ちていても、必ず――――。

「じゃあ、そろそろ時間だから……」

愉しく過ごした時間は早く、そしてすぐに過ぎていく。気付けば陽はすっかり落ち込んでいて、空には多くの星が瞬いている、

「短い時間だったけど、とっても楽しかった。有難う、一条さん、ストレインさん、それに……」

「えっと……」
「鈴木君」
「ごめんなさい、鈴木君」

別に傷つきはしない。今日初対面だったし名前が覚えられなくても仕方がないだろう。傷ついてはいない。

「私達も楽しかったです。お店でハミングは少しだけ、恥ずかしかったけど……」
「でも私は楽しかったですよ、遥さん。何かこう……恥ずかしいけど、心地良い、みたいな」
「じゃあもしまた会ったら、また歌おうよ」

「それはちょっと」

偶然か否か、遥とメルフィーの声が合わさる。キョトンとしたリシェルだが、くすくすと笑う。遥とメルフィーも自然に、笑いだす。

「あ、そうだ」

と、リシェルが肩に担いだバックへと手を差し伸ばし、何かを取り出した。

「手、出して。一条さん」

疑問符を浮かべながらも、遥はリシェルに手を差し伸ばす。
照れ臭そうに頬笑みを浮かべながら、リシェルが何かを遥へと手渡した。それはリシェルが遥に初めて会った時に熱弁を奮って本の内容を説明していたあの本。
『美しき世界』だった。本屋で買った為のか、表紙が男の子と女の子が書かれたイラストでは無く、シックなデザインの文庫本だが。

「受け取って……くれる? 今日の、記念に」

遥は受け取ってはみたものの、どうにも悪い気がしてリシェルにそっと返しながら言う。

「そんな悪いよ。リシェルさんにとって本って大切な物でしょ? だから……」
「ううん。ボロボロだけど同じ本持ってるし、それに……」

リシェルは一度言葉を切ると、遥の目を真っ直ぐに見つめ、言う。

「また、何時逢えるか分からないから……ね」

リシェルの言いたい事は分かる。分かるが、どうしても遥は迷う。
今までの生き方から遥はタダより高いモノは無いという理念を抱えている故、リシェルの気持ちは痛いほど分かるが体が如何しても拒否する。
と、横からメルフィーが、遥に声を掛ける。

「差し出がましいのを先に謝りますが……。受け取ってください、遥さん。一期一会っていう言葉もありますし……」

「それにリシェルさんが言う様に、また何時会えるか、分かりませんから」

隆昭にはそう言うメルフィーの横顔が、ホテルでの街を見つめていた横顔が重なる、気がしていた
メルフィーの言葉の意味はメルフィー自身にしか分からない。だが、隆昭は何となく、メルフィーの言わんとしてる事が分かる、気がする。

「俺も受け取って欲しいです、遥さん」

声だけだが、隆昭がメルフィーに続いて声を掛ける。

「今日会えた事を忘れない様に、って意味でも。……な、メルフィー」
「ん?」
「いや……いや、何でも無い」


「……うん、分かった」

力強い手でしっかりと、リシェルから『美しき世界』を遥は受け取った。

「有難う、リシェルさん。私、今日の事忘れないよ」

「私も忘れない。一条さん」



「それじゃあ、また」

「また――――何処かで」

水面の様に静かに、鉄の様に冷たい、空気。

ライオネルに放たれた銃弾を、ノイルは意図も簡単に掴んで見せる。それも只の掴み方ではない。
親指と人差し指で、卵を掴むが如く優しく、弾丸を掴む。まるでノイルの周辺でだけ、時間が止まっているかの様だ。
指先にマナらしき淡い光を宿らせながらノイルは弾丸を――――砂へと還す。否、弾丸が砂の様にノイルの指先から融けていく。

深い溜息を吐き、ノイルは真正面からライオネルを見据える。サングラスの奥の瞳は、見えない。

「これが貴方の冗談ですか。少しばかり、品性を疑いますよ」
「お前が品性を語るか。面白い冗談だな」

笑う、ライオネル。無言のまま、ノイルは歩き出す。と、歩き出す前に立ち止まり、ライオネルへとボソリ、言う。

「それでは期待していますよ。ジャック・トラインさん。あぁ、そうそう」


「彼女にも、宜しくお伝えください」



<ロン毛とポニテ野郎もムカつくけど、あの細目も何なの? 得体が知れなくて超気持ち悪いんだけど>

木々と木々の間をまるで忍者の様に飛び跳ねながら、三機がノイルの防衛任務兼、フラガラッハの元へと向かう。
マナを使いながら重量を全く感じさせずに軽快に移動しつつ、シュヴァルツはノイルへの不満をぶちまける。

<フラガラッハも訳分かんないよ。あんないけすかない奴らと如何して一緒に仕事しなきゃなんないのよ!>

<知らねえっつうの。そんなに理由知りたきゃフラガラッハに直接聞け。てかお前あの演技は何だ? 露骨過ぎてギャグにもなんねえ>
<ギャグじゃないし本気だし!>
<尚更問題じゃねえか!>

<二人とも不毛な会話はやめようよ。というかフラガラッハが教えてくれた筈だよ? レギアスって言う新型兵器を奪取する為って>
<レイヴン?>
<馬鹿、ロギアスだろ?>

<……二人ともわざとやってるよね? 詳しい事は分からないけど、ノイルに取ってレファロって爺さんが邪魔らしくてさ>

<それでそのレファロと縁があるって言う、ライオネルに始末させる為に手を組んでるとか>
<……良く分からないんだけど、それで私達がライオネルとノイルと手を組む理由は?>
<めんどくさいからフラガラッハに聞きなよ>


上を飛ぶ三機の下で、音も無く疾走する、漆を思わせるぬめりとした黒光りの高級車。その後部座席に座る、ノイル。
ノイルは手に持っている携帯端末のモニターを見ており、そのモニターには様々なデータが映しだされている。
と、電話を知らせる電話機のマークが表示される。ボタンを押し、ノイルは応答する。

「もしもし」

<私だ、ノイル・エスクード。ライオネル・オルバ―との取引は終わったのか?>

「先程成立いたしました。ライオネルですが計画に対して興味を示した故、こちらの思い通りに出来るかと」

<ほう……それで、奴にどれほどの利用価値がある?>

「事件から数年経った今でも、レファロ・グレイへの憎悪を未だに滾らせております。
 おまけに神威の状態もほぼ完璧な為、レファロ・グレイ、並びにその部下である研究員や私兵、オートマタの始末はライオネル、そして神威で事足りるかと」
<捨て駒としては、これ以上無いほど優秀な人材という訳だな>
「はい。捨て駒にするには多少惜しいですが所詮危険な存在、生かしておく理由もありません」

<レギアスが手に入るのであれば神威など取るに足らぬ。もう一度計画を聞かせてみろ>

「了解です、フラガラッハ様」

「まずはアンサラ―の皆様が研究所を襲撃し、その混乱に乗じ、ライオネルと神威が研究所へと招き、レファロ・グレイと部下を始末致します。
 計画に支障を来す存在をライオネルが全て排除した所で、私が自らの手でライオネルを始末し、神威ごと研究所を爆破します」

「レギアスを低リスクで奪取すると共に、過去の負の遺産を一挙に抹消する。完璧な計画であります」

<レギアスを手に入れられるのなら、お前が何をしようが構わん。だが……アンサラ―の一員としてお前を信頼しているぞ、ノイル・エスクード>

「有りがたきお言葉、痛み入ります。フラガラッハ様」

<所で……レファロ・グレイの目を逸らす為にお前が発案したカモフラージュはどうなっている?>

「それなら既に。私の同期であるマシェリ―・ステイサムなる女に担わせております。
 レファロの元にはライオネル・オルバ―が神威を奪い我が社から脱走した被験者という事で、フェイクシナリオが届いているかと」

<計画が発動するまで奴に気付かれ無ければ何だろうと構わん。それでそのフェイクシナリオだが、ライオネルの討伐は何者に依頼したのだ?>




「やおよろず、と名乗っている何でも屋……言うなれば自営業を営んでいる集団です。
 そこに所属するリヒト・エンフィールドという傭兵崩れの男に依頼した様ですが……まぁ、そこそこ名を知られている様ですが三流ですよ。
 今頃ライオネルに殺されたか、半身不随にでもなっているのではないかと」




<……今、何と言った?>

「すみません、聞き取りずらかったですか? やおよろずに所属する、リヒト・エンフィールドという男です。名前を覚えておく必要も無い、只の傭兵崩れですよ」


<馬鹿な……。何故彼奴等が関わっている? これでは……これでは遅かれ早かれ、計画に支障が出る>


「フラガラッハ様? 如何なされましたか?」


<……ノイル・エスクード。お前に今から命令を下す>

「新たな任務ですか? 何なりと」

<計画を発動させるまでに、やおよろずの本拠地を襲撃し、奴らの戦力を分断させろ。データは所有しているな?
 その中でも特に、彼奴等が所持しているヴァイス・ヘ―シェン・玉藻・ヴァルパイン、そしてリヒタ―・ペネトレイターの三機のオートマタを捕獲しろ>

<彼奴等からオートマタを奪えば戦力の殆どを削ったも同然となる。多少荒事を起こしても問題無い。
 必ずやおよろずから今挙げた三機のオートマタを捕獲するのだ。それとマシェリ―・ステイサムにも伝えておけ>

<リヒト・エンフィールドの動向を絶対に見逃すなと。……それと、アンサラ―を戦力として連れていっても構わん。可能な限りな>

<命令は以上だ。質問は?>

正直に言えば、全く腑に落ちない。
何故フラガラッハがやおろろずの名を聞いた途端、こんな突拍子もない任務を下して来たのか。
フラガラッハの声は何時も通り至極冷静沈着だが何故か、焦りが滲んでいる様な感じがする様な……気のせい、だろうか。

「いえ、ありません。準備が整い次第、やおよろずの本拠地へと攻撃を仕掛けます」

<通信は以上だ。期待しているぞ、ノイル・エスクード>


携帯端末が再び、モニター画面に戻る。ノイルはシートに体を沈め、煙草の箱を取り出して底を叩き、煙草を一本口で引き出す。
火を点けると渋みと苦み、そして甘みが脳内に達し、何とも言えぬ充足感に満ちる。存分に味わい、ノイルは煙草を叩き落とし、乱暴にすり潰す。
一息吐いてサングラスを取り、目を瞑りながら、呟く。



「ジャック・トラインにレファロ・グレイ、そしてリシェル・クレサンジュとレイン・クレサンジュか……」




「悲劇は喜劇とは、よく言ったものだな……最高に、笑える」









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                                  漆黒


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