創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

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影を、掴んで    後編 (前/後)

運命とは得てして残酷な物だ。それがどんな物であれ、予期する事は出来ず、只受け入れる事しか出来ない。
当事者以外には常にドラマティックな物事として羨ましがられたり、面白がられたりするが、それは違う。
当事者にとって、運命は暴力的とも言える突発的なタイミングで降りかかって来る。抵抗する事も出来ず、抗う事すら許されない。

喉元がやけに涼しい。直に空気を感じているようだ。触ってみると、掌が赤く粘着質な液体でべったりと濡れていた。

次に来るのは、体の力が抜けるほどの脳味噌を抉る激痛。数秒くらいすると冷静に、あぁ、これは血なんだなと認識する。握っている拳銃とヘルメットを放り投げる。
まともに立てずに、俺は壁に寄り掛かってその場にズルズルとしゃがんだ。視界が薄暗くなってくる。この出血量では、手で押さえる程度じゃ到底無理だ。
早く止血……する気が起きない。何もかも馬鹿馬鹿しくなってしまった。俺は俺自身を嘲笑う。

目前では、俺の喉を撃った事に自分自身驚いているのか、フォレイリが呆然と、俺の事を見つめていた。
が、数秒程経つとフォレイリは掌に握っている拳銃を脱力した様に落とすと、驚愕や後悔、様々な感情が混在した表情で俺の元に駆け寄ってきた。

「セ……セレウェイ!」

おいおい……ノートパソコンを落としちゃ駄目だろ? 命よりも大事なもんが入ってる……んだろうに。
フォレイリの背後の壁に目を向けると、一発の弾痕が刻まれているのが見えた。なるほど……俺か。俺が、外したんだな。
あくまで威嚇のつもりで、俺はフォレイリの背後に狙いを定めて引き金を引いた。流石にもう一発撃てば素直に投降するだろうと。

甘かった。俺は最後の最後まで、お前に勝てなかったよ。覚悟とか色んな面で、俺は永遠にお前に後れを取った。一生この溝は埋まらない。

流石幹部だ。お見事。自嘲して笑おうとすると、喉から血が噴き出る。

「よく、撃ったな。すげえよ、お前」
「違う! 本当に当たるとは思わなかったんだ。あくまで……威嚇のつもりだった」

考えてみるとコイツは撃つ瞬間、目を瞑っていたのを思い出す。覚悟はあるにしても、あくまで戦いの面に関しては素人だった訳か。
しかし当たった。当たってしまったんだ。俺も威嚇のつもりだった。肩擦れ擦れを狙ってな。
運命の女神様は俺には微笑まなかった。いつもそうだ。お前ばかり、あの人は微笑む。俺には一回も、微笑んじゃくれなかった。

「止血するぞ、少し我慢しろ」

と言って近くを転がっている救急箱から包帯を取り出し、フォレイリは俺の喉元に巻こうとする。俺は、それを手で払って拒否する。

「無駄な……事をするな。俺はもう……助からん」
「諦めるな! まだ、間に合う、間に合わせて……みせる」

俺の喉元に乱雑に切った包帯を巻くフォレイリ。その目には一切の曇りは無い。本気で俺の生死を案じている。
どこまで馬鹿なんだ、コイツは。俺とお前は敵同士でかつ、さっきまで殺し合おうとしてたんだぞ? 其れなのになんで……お前は……。
どこまで俺を馬鹿にすれば良い。お前は何処まで……俺に屈辱を味あわせるんだ。

「畜生、止まらねえ……」

もう無理だって言ってんのに……。既に止血しても駄目な事くらい、分かってるだろうに。実際視界の上半分は暗くなっている。
もうすぐ死ぬってのに、俺の心はいやに落ちついていた。いや、待て。俺は視界が暗闇に落ちる前に、コイツに絶対に思い出させ、贖罪させなければならい。
あの4年前の出来事を。コイツをそれをさせるまで、俺は、まだ……。

あらん限りの力を込めて俺はフォレイリの襟首を掴んで手繰り寄せる。顔を近距離まで近づけ、俺は叫ぶ。

「4年前……」

「4年前を……思い出せ……」


―――――――――――――――――――――――――――――2312年。


「思い……出せ!」


                            影を、掴んで    後編 (前/後)


――――――――――――――――――――2307年。

昨日から僕は学校の授業をそっちのけで、ある事を考えていた。それは運命的とも言える出会いを迎えた謎の少女、インについてだ。
インの事が頭から離れない。今もヴェントさんの町工場で、何時襲ってくるかもしれえない追手に怯えているのだろうか。
そう思うと、早く彼女をこのコロニーから脱出させないといけない。しかしだ……どうしても方法が浮かばない。考えてみよう。

軌道エレベーターはまず無理だ。登場する前に身分を明かす必要がある。税関を通り抜ける方法なんて思いつかない。
僕達には架空の人間の戸籍だとか偽造する技術もなきゃ財力もある訳がない。なら地球に向かう輸送艦に忍び込ませて……。
馬鹿だな、そんな事が出来てるなら軌道エレベーターの方がずっと楽じゃないか。軍人でもなんでもない僕達が、そんな事出来る筈がない。
そういやどこまでインをかくまう事が出来るんだろう。実はもう超人機関の追手が町に入り込んでるんじゃないか?

あぁもう詰んでるみたいなもんじゃないか……! 僕は本気で頭を抱えた。

「授業に集中しろー」

と後ろから呆れ声と共にノートで軽く頭を叩かれる。振り向くと拓馬がため息を吐いて僕を見ていた。そうか、もう休み時間になってたんだな。
って、こっちはそれどころじゃないんだよ! 一人の少女の人生を変えられるかもしれない時なんだ!
拓馬も一緒に考えてくれよ! と言おうとした瞬間、先手を取られた。

「もっぱらインの事を考えてたんだろうが、只でさえ勉強が出来てないのにそんな事ばっか考えててどうする? 真面目に留年するぞ」
「だって……インの事が心配じゃないなんだよ! 後1週間しかないのに!」
「あのなぁ……」

空いている机の上に腰かけ、拓馬は苦笑しながら僕に言う。こういう時の拓馬は何時もより年上に見える。

「そうやって同じ事ばっかり考えた所で、同じ所をグルグル回るだけの、負のスパイラルを繰り返すだけだぞ。今やるべき事に集中しろっての」
「だけど……」
「だけどもけれども無い。まぁ、ひょっこり思い浮かぶかも知れんから今は授業に集中しろ。良いな」

拓馬の言う事は一理、いや、百理あると思う。確かに僕は何回、同じ事を考えてはグダグダと悩んでいるのかと思う。
しかしそうは言っても他の事が全く手に付かないのだ。こんな事は始めてだ。僕はここまで勉強以外の事で熱心になった事は無い。
例えそれが力不足だろうと、無謀だろうと、僕は彼女の力になりたいんだ。

「そういやお前、もう一週間切ったけど考えてんのか?」
「考えてるって?」

僕の言葉に拓馬は尚更呆れたように大きくワザとらしいため息を吐いた。僕何か変な事言ったかな……?
拓馬はメガネをくいっと上げて腕を組み、僕に言う。

「俺達が修理したティエレンを、ヴェントさんの伝手で軍に紹介して貰うってずっと前から言ってるだろ」
「あぁ~それ……ごめん、全然考えてなかったや……」

ホントに考えてなかった。インに夢中になっていた様だ。ティエレンの事も忘れてたなんて。
……そういやティエレンって軍に持ってくんだよな。で、輸送艦なりを使って、地球に配備されると。
ん、待てよ。って事はこのコロニーから離れる可能性もあるんだよな。待てよ……イケるかも知れない。
僕は湧き出てくる興奮を押えながら、拓馬に納得してもらえるかをドギマギしながら聞いた。

「あのさ、拓馬。考えてみたら、俺達が納めたティエレンって戦地に配備されるんだよな」
「まぁそうだな」
「って事はさ、インをその間に紛れこませて」

「無理無理。ていうか超人機関って軍と繋がってると思うんだが。お前インを自分から手渡す様なもんじゃねーか」
「ですよ……ね」

丁度チャイムが鳴った。拓馬は呆れるあまりか僕に何も言わず、黙って自席へと戻った。
僕も仕方なく目の前の授業に集中する事にする。早く学校終わらないかな。今すぐに工場に行きたい。
それで話したいんだ。インと。

―――――――――――――――――――――2312年。

「あの日お前は……俺に言ったよな……。超人機関は……」

視界が消えない様に精神を保つ。息を吐いて吸って。痛みの中で気を失わない様に。
駄目だ、力が抜ける。俺の手はするりとフォレイリの襟元から落ちた。包帯から汗みたいに滲んだ血が流れる。

「軍と……繋がって……たって……」

「……全部、お前の……掌、だったのか?」

俺がそう言った途端、フォレイリの瞳孔が大きく見開いた。この反応は……否定、か。
分かってるよ。俺自身、如何に馬鹿な事をほざいているのかが。だが、そうでも言わんと……やりきれんよ。

「やっぱ……りな」
「違う! 俺は……」

「所詮お前も……」
「違うんだ、セレウェイ。俺にはああする事しか……」

「無かったんだ……」


――――――――――――――――――――2307年。

「こんにちはー!」

元気よく挨拶すると、ヴェントさんと工員さん達が僕達の方に手を上げた。けど僕の目は直ぐに、壁際で佇む彼女の方に向く。
ヴェントさんから貰ったブカブカのジャケットを羽織ってはにかんでいる、イン。僕達に気付いて、小さく手を上げる。
誰かに電話を掛けていたヴェントさんが気づいて、僕達の方へと歩いてきた。

「良く来たな。悪いんだが、お前らに手伝って貰う程の仕事がなくてな。その代わりと言っちゃあ何だが」

ヴェントさんは僅かに振り向いて親指を立てると、壁際に居るインへと親指を差しながら、言った。

「ちょっとインと付き合ってくれるか。お茶汲みとか雑務諸々やらしてるけど、暇でしょうがないだろうし」

ヴェントさんの空気の読みっぷりに感激せざるおえない。僕達は二つ返事で、というか僕がフォレイリの意思に関係なく返事した。
フォレイリに小突かれる僕を見て、優しく微笑するイン。こんな女の子が超人機関だとか訳分からない事に巻き込まれてるなんて、僕には思えない。
言葉は悪いけどドッキリか何かではないかとさえ思う。だってそうじゃないか。

僕の目の前で小さく笑っている彼女は、普通の女の子に他ならないから。

初めて会った時の帽子を深く被り、インと僕達は近場の町へと出る事にした。

護衛する様に僕達はインの前を歩き、それっぽい奴らが居ないかを確かめる。
と言っても特徴とかが分からないからどんな奴らかは想像もつかないけど、黒いスーツを着ててサングラス……的な奴が居ないかどうか。
不安に反してそんな外見の奴は全然いない。とは言え拓馬によるとそういう奴らは一般人に化けてるかもしれないから、油断はできないけど。

インはヴェントさんから貰ったお金で、本屋さんに行ってみたいと書いた。断る理由は何一つ無い。

本屋さんで本を読むインは、凄く嬉しそうだった。如何わしいゴシップ本から児童書まで、ありとあらゆる本を隔てなく読み漁る。
その度に、僕達に向かって無邪気な笑顔で見せる。また、絵本を読んで何かが琴線に触れたのか、うっすら涙ぐんだりと感情的な所も見せてくれた。
30分くらいで凄い量の本を読んでる気がするけど、インが嬉しいならそれで構わない。

それから数日間、僕達はヴェントさんの特に仕事は無いというナイスな気遣いの元、インを連れて町だとか廃墟だとか色々な場所に遊びに行った。
僕達にとっては普段の日常で見飽きてる光景でも、インにとっては何もかもが新鮮で斬新らしく、子供みたいにキラキラした、好奇心旺盛な表情を浮かべて楽しむ。
拓馬は分からないけど、僕にとってそんなインの様子を見るのは心がときめいた。それと同時に思う。

この子を護ってあげたい。いや、悪い奴らから救ってあげたい。心の底から、そう思っている。
インは感動した事があると一々ノートに書いて、嬉しそうに僕達に見せる。

<ファーストフードってこんなに美味しかったんですね。感動しました>

<屋上から見る夕日はとても美しくて、私はこれほど綺麗な光景を見れる事に幸せを感じます>

<今まで資料でしか見た事が無かった動物達が、これほど可愛らしいとは思わなかったです>

<蒼い空の下、体を動かす事に歓びを感じます>

<貴方達と居れて、心から幸福だと、実感しています>

日が過ぎる度に、僕の中でインに対する感情は寄り強く、強固になっていった。彼女が微笑む度に。彼女が、ノートに僕達へのメッセージを書く度に。
だけど僕と違って拓馬は時折、インに対して懐疑的……? 複雑な面持ちで、インを見る様になっていった。
ある日の事だ、帰る間際、拓馬は僕の後ろで立ち止まった。僕が振りかえると、拓馬は僕に言った。

「……セレウェイ、あのさ」

「何?」

「……何時までこうしているつもりだ、セレウェイ。もう、三日も無いんだぞ」

一瞬拓馬の行っている事の意味が分からず、僕は目をパチクリさせた。三日……あぁ、そうだった。
件のティエレンの日まで、今日入れて後三日だったな。拓馬は僕が何か言おうとするのを遮り、言葉を続ける。

「本当は分かってるんだろ? インを救う事なんて出来ないって。もう充分……彼女には夢を見せただろう」
「夢?」
「彼女を待っているのは……絶望だけだ。せめてそれに至る前に、俺達は充分、彼女に幸福を与えたんだ。もう良いだろう、セレウェイ」

「……嫌だ」

その時、僕の口から自然にその言葉が出た。僕は何も考えず、拓馬に言葉を返す。

「嫌なんだよ、そういうの。僕は諦めないよ、拓馬」

「僕は必ず、彼女を絶望から救ってみせる。何をしたって、構わない」

拓馬は僕の言葉に、何も言わない。僕達はそのまま無言で、帰路を歩き、互いの家に着いた。

「じゃあな、拓馬」
「……あぁ、じゃあな」

思えばこれが拓馬の僕に対する、最後の忠告だったのかもしれない。いや、警告だったのかな。

ティエレンの日から二日前、僕達はゲームセンターに行こうと言う事になった。
レースゲームだろかシューティングゲームだとかを、手取り足取り教えながら、インと遊ぶ。
上手く操縦が出来ずに何周も遅れているけど、一生懸命なインとか、狙いを付けられずに気付いたら死んでいるインとか、その全てが僕には魅力的に感じる。
少し良い所を見せようかなと、僕はUFOキャッチャーに挑んでみた。だが何度挑戦しても上手く行かず、貯金箱みたいに金が吸い込まれていく。

「たく、貸してみろよ、セレウェイ」

「ほれ、イン」

拓馬は僕が何度挑戦しても取れなかったぬいぐるみを一発でゲットした。ゲットしやがった。
拓馬からぬいぐるみを受け取ったインは、嬉しいのか拓馬に照れ隠しする様に頬を染めて微笑む。畜生……畜生……! 凄く悔しいです……!
その後適当に店内をブラついて、目に付いたので格闘ゲームを選んでみた。一応操作方法としては簡単な格ゲーな様だ。

「操作方法は大丈夫か? イン」

拓馬にそう聞かれて、インは軽く頷いた。僕が相手になるが、勿論全力を出すつもりはない。
あくまでインが勝てる様に軽く優しく、相手になるつもりだ。さて、手合わせ願おうか、イン。


あ、あれ? 数十秒も経ってないぞ? モニターには僕が選んでキャラが既に延びており英語で貴方の負けという文字。
台の向こうを見ると、モニターを凝視しているイン。その顔は今までの儚げで切なげな表情では無く、まるでロボットみたいに冷たくゾッとする表情だった。
感じてしまう。感じたくなくとも、インが普通の子ではない事に。

「何やってんだよセレウェイ。ほれ、俺と代われ」

インの顔を見ておらずにモニターだけを見てた拓馬が、笑いながら僕に交代する様に言う。
僕は頷いて席を交代し、気のせいだと思いつつ、モニターに目を向ける。気のせいである事を願う。

「俺はセレウェイみたいに甘くないぞ」

と言って自信満々にキャラを動かし始める拓馬。……え? 何だ? インの操作しているキャラが初めてとは思えない鮮烈なコンボを、拓馬のキャラに浴びせる。
拓馬はインの攻撃に手も足も身動きも出来ないまま、ものの数秒でインに倒されてしまった。
拓馬はポカンとして驚いていたけど、偶然だと思って明るい声でインに言った。

「ちょっとばかし油断したぜ。それじゃあ次は本気で行かせて貰おうかな」

もう一度コインを入れて、拓馬はインと戦う。大人げないというか意外と拓馬って負けず嫌いなんだなと思いつつ……。
結果は同じ。インは余裕で拓馬を負かす。珍しく拓馬は感情を露にして、インに何度も何度も勝負を挑む。が。
全く勝てない。そもそも動き方が根本的に違うのだ。拓馬が反応する前から、インは先手を打っている。

「おいおいおい……嘘だろ?」

拓馬が素で驚嘆しており、席を立ってインを覗いた。そして拓馬も僕と同じく、緩んでいた表情が強張る。
モニターを見ているインの、モニターを凝視して微動だにしない姿に。インは僕達の方を全く見ずに、視線をモニターの一点に集中させている。
しばらくインの様子を見、拓馬は少し僕に顔を向けると、声を潜めて言った。

「こういう事……なのかもな」
「こういう……事?」

「インが超人機関とやらでされてる事ってさ……こういう」

「いい加減席代われよ、お前ら」

野太く下品なダミ声がしてその声の方を振り向くと、チャラけた恰好でガムを噛んでいる大柄な男が、僕達を見下ろしていた。その後ろで笑う、同じ様な服装の3人。
インの方を見るとこいつらの仲間あろう2人の男が、インをニヤニヤしながら眺めている。何を考えてるかなんて分かりたくもない。
こいつら言う事は分からなくもないというか、普通に退けば良い話だ。

退いてどうにかなる……かな? どう見てもカツアゲとかされそうな雰囲気がする。何せこっちは3人でかつ1人は女の子。
あっちは6人でかつ、腕っ節と言うか喧嘩というか、暴力を好みそうな連中だ。どう考えたって勝ち目は無いし、もし手を出して警察沙汰にでもなったらとんでもない。
目の前の男は何も言わないでガムをくちゃくちゃしながら見下ろし続けている。と、拓馬が僕の腕を軽く突いた。僕は小さく頷く。

「……すみませんでした。行こう、セレウェイ」
「うん。イン、行こう」

僕がインを呼んだ瞬間、インの近くに居る2人組の内の1人がインの肩を無遠慮にも掴んだ。
やっぱりそうか……! そう気づいた時には、僕達は囲まれていた。上手い具合に逃げられない様に。
周りのお客さん達は目を背けて見て見ぬ振りだ。けどしょうがない。誰だって自分から厄介事には関わりたくないだろう。
とはいえ、インだけでも逃がしたい。ゲームセンターに誘ったのは僕達だ。インには何の責任もない筈だ。

「セレウェイ、インを連れて逃げろ。ここは俺が引き受ける」

ひそひそ声で、拓馬がそう言った。きっと確信は無いけど、拓馬ならこの6人相手に一歩も引かないと思う。
けど、駄目だ。もし警察にでもバレたら、拓馬が昔から抱いている技術者という夢を、拓馬自身が壊してしまう事になる。

「どうした? 早くしろ」
「そんな事は駄目だ。もし学校にバレでもしたら、お前……」
「馬鹿! もしインが乱暴されたらどうすんだ!」

「お前、インの事が好きなんだろ? だったら護ってやれよ。男だろ?」

そう言って笑う、拓馬。……いつもそうだ。なんでコイツって何時もこんなに……カッコいいんだろう。というかバレてたのか……。
僕が何時も追いつけない、出来ない事を拓馬は平気で超えていける、実行出来る。僕は正直に言えば嫉妬していた。同時に。
憧れていた。明確な夢も目標もあって、それでいて実力も合って未来を見据えられる、拓馬の事が。

「何こそこそ話してんだよ。オラ、こっち来いよ!」

拓馬の腕を掴もうと男が手を伸ばす。拓馬が僕に目配りした。僕は大きく頷いてインを連れていこうとした、瞬間。


人間の声とは思えない悲痛でけたたましい叫び声が店内に響いた。僕達と不良の動きが驚きのあまり、一寸止まる。
振り向くと、インに突っかかっていた2人組の内の、インの肩を掴んでいた男の腕が……あり得ない方向に折れ曲がっていた。
もう一人の男は目の前の光景に怯えているのか膝をがくがくさせながら、尻餅をついていた。


帽子が外れて、インの顔を露になる。

僕を見るインの目から、一筋の涙が流れた。


そこに居るインは、さっきまでのロボットみたいに感情を感じれない表情ではなく、今までの弱弱しく儚い、一人の、女の子でしか無かった。
他のお客さん達が、事態を把握できずにザワザワと近寄ってきて――――――――――――途端、連鎖的に悲鳴が起こる。
止まっていた時間が動き出した。僕は間髪入れずに呆然と立っているインに近づいて手を握り、拓馬に叫んだ。

「逃げるぞ、拓馬!」

僕の叫びに拓馬がハッとすると、一緒に走りだす。そして僕達は一目散に、ゲームセンターから逃げ出した。
何処に逃げるかなんて考えてない。ただ、遠く、遠く、僕達は逃げる。何から? 何からだろう、警察かあの男達か。それすらも分からず。
只、逃げたかった。握っているインの手は冷たくて幽霊みたいけど、インは人間だ。紛れもなく、人間なんだ。

「セレウェイ」

どこまで来たんだろう。何だか知らない所まで来ちゃったみたいだ。冷静になると思う。あのゲームセンターにはもう二度と行けないな。

「おい、セレウェイ」

インの手を離す。インと目が合う。インは泣きだしそうな目で、僕を見ている。

「セレウェイ!」
「ご、ごめん!」

拓馬の声に我に帰った。……インを引っ張ったまま、無我夢中で僕達は走ってきたみたいだ。
周囲を見ると、寂れている遊具や今にも壊れそうなボロいベンチが、砂利や雑草の上に乱雑に配置されている。ここは……小さな公園みたいだ。
三つの街路灯が侘びしく、月明かりの如く僕と拓馬、インを照らしている。荒いでいる呼吸を整え、拓馬がずれているメガネを掛け直すと、僕を真正面から見据えて、言った。

「……もう無理だ、セレウェイ」

僕は何も言わず、拓馬の言葉を聞く。メガネの奥から拓馬の目は、見えない。こうなった拓馬は、本気で怒っている。

「自分の目で見ただろ。このインって女が、どれだけヤバいのかをさ」

インが拓馬の言葉に落ち込む様に深く俯いた。コントラストのせいか、インの顔に暗い影が落ちて、顔が見えない。
拓馬の言葉に、僕は言い返せない。言い返せないのは僕が拓馬を恐れているとか反論が見つからないとかじゃない。実際にこの目で、見てしまったからだ。
とても腕が細く、普通の女の子よりも力が無さそうなインが、自分よりもずっと大きい男の腕を折った所を。目の前で見た事を否定できるほど、僕は馬鹿じゃない。
拓馬は僕の目を見据えたまま、言葉を続ける。その一字一句が、僕には重いジャブに思える。

「どれだけ俺が今最低な事を言ってるかは分かるよ。自覚してる。けどな、セレウェイ」

「明らかに普通じゃないだろ。経緯にしろ、今の出来事にしろ、インは俺達の住んでいる世界とは全く違う世界に住んでるんだよ」
「だけど」
「だけどじゃない。俺達には無理なんだよ。インを如何こうするってのは」

「イン、悪いが俺達はもう、お前には関わりたくない。俺達はただの一般市民なんだ。厄介な秘密を抱えてるお前とは……超えられない、壁があるんだよ」

「……嫌だ」

「セレウェイ?」


「僕は、嫌だ。僕はインを救いたい。それが……僕の夢、なんだ」

紛れも無く、それが僕の本音であり、初めて僕が抱いた、何がしたいかという意思証明だった。

分かってる。理性でも本能でも、インに関わる事がどれだけ危険なのかを。それでも、僕はインを手放したくは無かった。
インを手放せれば、僕は一生自分自身を変える事が出来ない気がした。インの存在は、僕を必ず変えてくれると信じて疑わない。
インに目を向けると、驚いている様な戸惑っている様な、何とも言えない表情を浮かべて、僕の事を見ている。

「……本気で怒るぞ、セレウェイ」

拓馬が先日インを問い詰めた時と同じ様に、低いトーンで僕にそう言った。メガネの奥から感じる視線が、僕を鋭く突き刺す。
けれど僕は拓馬から、目を逸らす事はしない。真っ向から拓馬を見据える。ここで退いたり諦めたら、僕はこれから先、永遠に負け続けると思う。

誰に? 僕自身にだ。

「お前の人生を破滅させるかも知れんぞ。これは忠告でも無きゃ警告でも無い。俺は本気で言ってるんだぞ、セレウェイ」
「僕の人生は僕自身が決める。……誰にも邪魔はさせない。例え、親でも」

途端、拓馬の手が僕の胸倉を掴んで抵抗する間もなく引きずり込まれる。信じられないくらい強い力で拓馬は僕の胸倉を両手で掴むと、声を荒げる。
メガネの奥の目が見え、今まで見た事がないほど、拓馬の目は怒っていた。

「乱暴に言えばお前自身がどうなろうと構わん。お前が傷つこうと何だろうとお前の人生だ、勝手にしろ。
 だがな、お前の親は、お前の友人はどうする? もしその人達に危害が及んだらお前はどうする気だ?」 

服ごと喉を絞め上げられて、息が苦しくなる。凄まじい眼光を向けながら、拓馬が僕を一喝した。

「お前の言う夢は夢じゃねえ! 只の妄想だ! お前の一時の妄想で、周囲の人間を危険に曝すんじゃねえよ、馬鹿野郎が!」

妄……想? その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中が真っ赤に染まってマグマみたいに沸騰した。
そして―――――――僕の右手は、拓馬の頬目掛けてぶん殴っていた。拓馬の眼鏡が砂利の上に転がった。

「妄想……だって?」

「僕の……僕の夢を、妄想なんて言うな! インは……インは僕を何の夢も目標も無い、空っぽな日々から目覚めさせてくれるかもしれないんだ!
 初めて僕は心の底からから何かをしたいって思った、それがインなんだよ! だから僕は……」

「拓馬、何と言われようが僕はインを救う事を否定させない! させてやるもんか!」

「いい加減にしろよ手前!」

起き上がると同時に、拓馬が僕の鼻に向かって真っ直ぐに拳を当てた。鈍い痛みと一緒に鼻の筋が切れる音がして、鼻血が凄い勢いで噴き出る。
だけど僕は怯む事無く、起き上がった拓馬の左頬の頬を殴る。怯んだ所を体とか顔をとかを殴り続けて、頭に頭突きをぶつけて倒す。
そのまま馬乗りになって、僕はひたすら、拓馬の顔を殴ろうとする。が、拓馬は振り下ろそうとした僕の手を掴むと、右側に押し倒した。
マウントポジションを取られ、拓馬は僕の顔を左右で殴りつけると、再び首を絞め上げながら、言った。

「前から気付いてはいたよ。お前が何時もフラフラしてて、何がしたいかを迷ってるのかをさ。俺をどんな目で見てるかもぼんやりと分かってた」

「だがな、お前の夢ってこんな事なのか!? 得体も知れない不気味な女を一時的な恋愛感情でかくまって、しかも脱出させるなんて抜かしてよ!
 創作物の主人公にでもなるつもりかよ! いい加減にしろよ! これは現実なんだよ!」

「違う! 僕は……」

「僕は、ただ……インを救いたい、ただ、それだけなんだ! インに幸せになって欲しい、一人の女の子として生きて欲しい、ただそれだけなんだよ!」

拓馬の僕の首を絞める手が緩む。分からないでも無いんだろう。だけど目は未だに、怒ったままだ。
けれど僕も、拓馬も、互いに引く気にはならない、なれない。拓馬が言いたい事は何も間違っていない。分かっている。
分かっているけど理解はしたくない。嫌だ。もし拓馬の言う通りにインを手放せば僕は夢を手放す事になる。絶対に嫌だ。

僕も拓馬も睨み合う。僕は多分、これ以上僕の事を否定されたら……殺してしまうかもしれない、拓馬を

その時、バタンと音を立てて何かが倒れた。僕と拓馬は急激に醒めてきて、その音がした方を向いた。
イン……? インがその場に倒れたまま、動く様子がない。イン……? おい、イン。
拓馬が僕から手を離して、インに駆けよる。僕も慌てるあまりに足をもたつかせながらも、インの元へと駆けてしゃがんだ。

「おい、イン。……イン!」
「落ち付け、セレウェイ。気を失ってるだけだ」

そう言って僕を宥める拓馬の目は既に怒っておらず、冷静に戻っていた。けど、気軽に話す気にはなれない。
僕は拓馬に何も言わず、インを背中に担ぎ、町工場へ戻る為に歩き出す。インに目覚める様子は無い。多分朝までこの調子だろう。
僕も拓馬もその過程で一言も、言葉を交わさなかった。


「……絡まれたか?」

こんな夜に誰に電話してたんだろう……と若干不思議に思いながらも、ヴェントさんが僕達を見、そう聞いた。
顔を腫らしてそこら中に生傷を付けた僕達を怪訝な表情で見ている。まぁ、当り前だよね。
ヴェントさんは僕の背中で眠っているインを見ると、さらに表情を曇らせた。そして少し疑る様な声で聞いてきた。

「インは……どうした?」
「その……絡まれた時に色々ありまして。怪我はしていませんから、大丈夫です」

拓馬がそう答えるけど、ヴェントさんの目は疑っている様に感じる。嘘を付いていないかと詰問する様に、厳しく、冷徹に。
けれど何はともあれヴェントさんは話が分かる人だ。数十秒程僕達を見つめると、やがて一息吐いて事務所の方を親指を向けた。

「インをソファーに寝かせといてくれ。んで……」

「何があったかはお前らの問題だ。聞かねえ事にする。だけどな、もしやましい事だとかあるなら絶対に隠すなよ。
 もし後からバレてみろ。今までの比じゃないくらい、俺はお前らを怒るぞ。分かったな」

「……有難う、ございます」

インをソファーに寝かし町工場を後にし、僕達は家路を帰る事にした。その間、言葉は何も交わさない。
拓馬とここまで気まずく、尚且つピリピリするのはのは初めてだった。もし大喧嘩しても、大抵帰る時には仲直りしてるから。
互いの家に着いたとき、拓馬が家に入ろうとした僕に、声を掛けた。僕は拓馬の方を振り向かずに、耳だけを向ける。

「お前はインをここから連れ出せれば救えるって言ったよな。
 じゃあ聞くが、連れ出した後はどうする? 駆け込み寺にでも保護して貰うか? それとも警察の力でも借りるのか?」

「……どちらにしろインはもう救われないぜ。どう……足掻いてもな。
 ……セレウェイ、お前が本気でインを救いたいなら、よく考えろ。お前が何をすべきかをな」

僕は拓馬に返事する事無く、黙って家の中に戻った。真っ暗闇の玄関が、今は何故か心地が良い。
目を閉じると、インの姿が瞼の裏に浮かぶ。何時も見るあの姿も、ゲームセンターで見たあの姿も、全部イン、その物だ。
僕はインの存在を絶対に否定しない。そして諦めない。絶対に諦めてなるものか。

救ってやる、イン。君の苦しみは全部、僕が救ってやる。

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