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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.9

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澄み切った青空。刺す様に照り付ける日差し。そのあまりの眩しさに思わず手を翳す。
 視線の遠く向こうには陽炎に揺らめき水面を煌かせる円形をした湖と、そこへと続くなだらかな坂道。
 両脇に並ぶは木造建物の群れ。整然と並ぶそれらはスチームヒルでは考えられない光景。
 更に目に付いたのは点々と規則的に植えられた街路樹。それは坂の下――湖のすぐ近くまで続く。

「ここが、アクアリング……」

 ギガライン到着による人ごみを避けつつ駅から出て、初めて目に飛び込んできたのはそんな風景だった。 
 風光明美な観光地とは聞いていたが、これは凄い……ただ、ゴミゴミしているのが当たり前である俺からするとあまりに清潔すぎて却って落ち着かない気がしないでもない。

「――――」

 そんな事を考えている俺の隣で、腕組みをしつつ神妙な表情でそんな風景を眺めるアリス。それを見て

「何かあったのか?」

 なんて聞いてみると首を振って答えてくれた。

「いや……何でもない。」

 いかにも何かありますよと言う風な雰囲気を放つ返し方。
 ただしつこく聞くのも少し躊躇われる。どうしようかと考えていたところ

<オーイ、ディーチャン、アリスチャ~ン!!>

 背後から迫る、聞き慣れた甲高い電子声。
 見れば列車より下ろされたリョウのキャリアーがこちらへと向かってきていた。

「じゃあ早速行こうか。道案内は任せてくれ。」
「分かった。」

 俺達を乗せたキャリアーはゆっくりと動き出した。
 あの画像が見せた場所に何が待つのか。期待と不安、そしてそれ以外の形容し難い何かが綯い交ぜになるものの――

(他に何も無いし、ここまで来たんだ。行くっきゃ……ないか。)

 そう、自分に言い聞かせた。






キャリアーに揺られて1時間ほど。
アクアリング内を郊外で環状に繋ぐ道路を通り、丁度駅の反対側――住宅も少なく、別荘地も程近い場所へと俺達は辿り着いた。
 初めは道幅も広く、向こうから来るキャリアーも多かったのだが、時期にそれも少なくなり、更に道幅もこのキャリアーが通れるぎりぎりのものに。
 気付けば周囲には木々が鬱蒼と生い茂り、道もガタガタ。ほとんど獣道みたいな様相へと変貌していた。

「こんなところに人が……?」
「彼は人嫌いでね。一年のほとんどをこういった森の中なんかで過ごしていたのさ。」
「へぇ……」

 思わず口に出てしまった言葉にリョウがそう返す。
 まぁ確かにここならまず他人と会う事もないだろう。食料やら何やらはどうしているのかとか気にならないわけではないが、俺が考えた所で意味も無さそうだ。

 その直後、今まで俺の隣で黙り込んでいた彼女が急に口を開いた。
 ただ神妙な表情は変わっていない。

「どういう手順で屋敷の中を探索するのだ?お前にはあの映像がロン・クーロンという男の屋敷だった場所を指し示した事に何か心当たりがあるようだが。」
「そうだね……探索し始めてから言うつもりだったがまぁいいか。まずは彼の書斎を目指そう。僕の予想が正しければそれでいいはず。あとは僕が説明するより実際に見た方が早いと思うよ。」
「そうか。」

 聞くだけ聞くと再び黙り込む。
 窓の外を見て、言いようのない何かを警戒するように。

「……!」

 やがて、急に前方の視界が開ける。
 薄暗い森の中より飛び出した先に見えたものは、背の低い草木が生い茂るだだっ広い広場の跡らしき場所。その先に見えるのはツタの絡まった茶色いレンガで出来た壁と、中央に佇む赤錆びた大きな門。

「これが……」

 周囲を完全に木々に覆われ、それ自身も朽ちつつあり、既に森に飲み込まれようとしている大きな廃屋。それは

「そう。これが我が親愛なるロン・クーロンの屋敷だ。」

 薄気味悪いながらも、どこか寂しげだった。


 赤錆びた門を尻目に通用口らしい場所から塀を潜り、正面玄関の扉を引いて開ける。

「よっ……と。」

ギィ……という錆び付いた音と共に扉はゆっくりと開く。内側より流れる空気は不思議と埃臭さやかび臭さは無く、ほんの少しだけひんやりと冷たい。

「…………」

 正面玄関から伸びる一筋の光以外、真っ昼間だというのに一切光源が無く薄暗い屋敷の内部。リュックに入れていたライトを付けてみるがそれでも尚暗い。

「しゃーないか……」

 ただ贅沢も言ってられないのでそれを頼りに進もうとするが

「ミッチー、ライト。」
<ガッテンダー!!>

 リョウのそう言う声に従い、ミッチーの右腕のアタッチメントが二の腕のコンテナと連結、換装。周囲を眩いばかりに照らす強力なライトへと姿を変えた。

「こんな事もあろうかと持ってきていた業務用の大光度ライトだ。これなら十分見渡せるだろう?」
<感謝シロヨ~>
「ああ、ありがと。ミッチーもな。」
<HAッHAー!!>

 屋敷に入ったところのエントランス。奥には大きな柱時計が聳えていた。
 奥行き深くだだっ広く、そして耳鳴りがする程度には無音。外があれほど荒れ果てているというのに内部はそれほど荒れた様子は見られず、まるでいつ頃からか時が止まってしまったような印象すら受ける。

「さっき言った彼の書斎は2階にある。ついておいで。」

 言われるがままに彼の後を追い、左右対称に作られた緩やかなカーブを描く階段を昇る。

「彼が居なくなる前はバールと共にここによく訪れる機会があってね。その頃からこの辺りはこんな感じだったよ。」

 先頭を行くリョウは懐かしそうにそう呟く。
 確かに人1人が暮らすにはこの屋敷はあまりにも広すぎる。放りっぱなしになる場所が多くなるのも分かるというもの。

 2階も変わらずだだっ広く、それぞれの部屋に続く廊下と1階を見渡せる吹き抜けとなっていた。

「彼の書斎はこの一番奥の扉の向こう。何も無いとは思うけど、足元には気をつけておいてくれ。」

 進む。
 ゆっくりと。
 歩く。

 無音の室内に俺達の足音だけが響く。
 閉ざされた扉の向こうには不思議と興味は沸かなかった。ただ目指すのはロン・クーロンの書斎のみ。ただ――

「…………」

 思えば、この屋敷の前に来た頃――いや、アクアリングに到着した時ぐらいから俺は、妙な焦燥感に駆られていた。アリスが感じていたのもこれなんだろう。
 ただただ異様な力に引っ張られ、なされるがままに連れて行かれているような――


嫌な感じがした。


「……?どうしたんだい?」

 このままあいつに付いて行っていいのか。
 それすらも分からない。

「――――」

 気付けば、俺の脇にあった扉が開いていた。
 子供物のベッド。机。本棚。外より光の差し込む窓と白いカーテン。

「――――」

 そして窓際。そこには1つのキャンパスとそれを立てた台があった。

「これは……」

駆け寄る。何も描かれる事の無かった白いキャンパス。
木製の椅子と、クレパスが脇に置かれている。

「……僕は、彼と親友だった。だけどそれでも立ち入ってはいけない所もあった。親しき仲にも何とやら――ってね。」

 背後よりリョウの声。
 いつもより幾分か力無く聞こえる。

「彼には、子供がいた。僕達と知り合うずっと前……でも、1度だけ聞いた話によるとその子供も、
奥さんも流行り病で亡くしてしまったらしい。それからも彼はここをその子が生きていた証として生前のままずっと保存していたのだそうだ。」

 彼の言葉は確かに本当なのだろう。
 彼は胡散臭くも口が堅く、嘘が嫌いだ。そう言うのなら間違いない。だが――

「……リョウ。」

 アリスが口を開いた。
 困惑しているのか、溜飲が下りてないのか……静かに、自分の口にする言葉の意味を理解しつつ話すように、一語一語を紡いでいく。

「その子供の名は――」

 息を呑み、言葉に迷う。
 アリスらしくない動作。ただ、話す事を止める事は無く


「“アリス”では無かったか?」


 全てを、吐き終えた。


「……どういう事だい?」
<ホント!ドーユーコトダー!アリスチャ~ン!>

 2人がそう聞くのも無理は無い。
 俺だって同じ気持ちだ。

「私は、“ここ”を識っている。“記憶”としてではないが……だが、確かに“知識”として識っているのだ。」

 部屋を見渡し、アリスはそう言う。
 何かを必死に思い出すように。

「私は“ロン・クーロン”という男を知らない。だが、この部屋の情景は識っているのだ。理解出来なくてもいい。狂人呼ばわりしてくれてもいい。事実は事実だ。覆しようが無い。」

 リョウもそうだが、アリスが嘘を……それもこんなつく必要がまるでない嘘を言うはずがない。確かに彼女は“識っている”のだろう。

「……なるほど。だが僕はロンの子の名を知らない。それに彼の子供が死んだのは僕が彼と出会うずっと前……何十年も前の話だ。君がその子供だったとしたら辻褄が合わないだろう?」
「そうだな。しかし私はここを識っている……それが理解出来ない事は変わらない。」

 表情には出さないが、明らかに動揺したアリスの声。
 それに対し首を傾げ考えるリョウだったが

「……ひょっとすれば、今回ここに来た“理由”を使えば何かが分かるかもしれない。ついてきたまえ。」

 そう言い、足早に書斎へ向かい歩を進めた。


「ここが、ロンの書斎だ。」

 2階の突き当たり。
 部屋一面に無数の本の群れが並ぶロンの書斎。
 その中央には使い込まれた大きな机が鎮座する。

「……って、別に極々普通の書斎じゃねぇか。」
<ンダンダ。リョーチャンノ本屋ノ方ガ沢山本アルシネー>
「…………」

 そういう俺達に対し両手の手の平で「待った」とするリョウ。

「まぁまぁ、慌てない。ここからが凄いのさ。よっ……と。確かここら辺に……」

 机の裏側へと手を回して摩り何かを探すリョウ。やがて

「ああ、あったあった。それじゃ、ポチッとな。」

 部屋全体を揺らす不意な振動。
 やがてそれは大きくなり……

「これは……!」
「この部屋全体が地下数キロまで続く直通エレベーターなのさ。驚いただろう?」

 ニヤッと笑いちょっと自慢げなリョウ。
 お前が作ったんじゃ無かろうに……

<スゲー!スゲー!リョーチャンスゲーナー!!>
「そうだろそうだろ?どうせなら屋敷ごと沈むぐらいやってほしいが、これでも浪漫を煽るというものだ!」

 なんだか楽しそうな2人。
 浪漫、ねぇ……それよりも

「つまりあれか?この下に何かがあると?」
「そういう事だ。5分もすれば到着するからしばらく待っておきたまえ。」

 地の底へと突き進む書斎型エレベーター。
 やがて、部屋全体を揺らしていた揺れが収まり、扉が独りでに開く。

「着いた様だね。行こう。」

 リョウを先頭に進む。
 扉から出た先は先程とはまるで異なる様相を呈していた。

「……どっかの秘密基地か?ここは。」

 壁も天井も真っ白く、顔が映りこみそうなほど磨かれた一本道。生活臭などまるで無い。

「まぁ言い得て妙だね。この先にあるものに、皆きっとびっくりすると思うよ。」

 そのまま延々歩いていく。距離にして1キロぐらいか。
 その突き当たりで廊下は直角に折れ曲がっており、鉛色の頑丈そうな扉にて仕切られていた。

「この先だ。少し待っていてくれ。」

 隣にあるコンソールを弄るリョウ。
 やがてロックが外れそれに続き扉がゆっくりと開いていき、内部の電灯が独りでに点灯していく。そこにあったものは

「……柱?」
<デケーナ……>

 そう、柱。
 円形をした部屋の中央をぶち抜く巨大な純白の柱。
 その下は円錐形にすぼまって周囲の機器に繋がれており、周りには無数のディスプレイやらキーボードが置かれ、何かを記した資料も大量に散らばっており足の踏み場も無い。

「……分からんな。何なのだ。これは?」

 アリスも俺の横で困惑していた。
 俺達の姿を見てまぁ無理もないか、とリョウ。

「これは“Xi(ズィー)カラム”。かつてロン・クーロンが“世界の内にいながら、セカイの外を見る”為に使っていた“覗き窓”さ。」
「Xi、カラム……」
「これほどの物を個人でどうやって作り上げたのかは僕も知らないが……ともかく、これはセカイの内と外を自在に覗く事が出来る装置。上手く使えば皆の居場所を知る事も出来るかもしれないね。」
「どんな所でも観測出来るのか?」
「勿論。望めば星の海の向こう側から、人の身体の中までね。時間の壁も関係ない。この屋敷の過去に起きた出来事だって思いのままだ。」
「…………」
「ただ適切な使用には使用者の想像力が必要不可欠。強く念じれば念じるほど像ははっきりと浮かび上がる事になる。家族ならば想像しやすいだろう。」
「なるほど……」

 目の前に聳える柱を見上げる。
 これが皆の居場所を教えてくれるのか。そう考えると居ても立ってもいられなくなってくる。

(待ってろよ……ベル、ウェル、バール……みんな、助けてやるからな……)

 装置の起動準備に入っているリョウを尻目に柱に手を置き、そう心の内にて呟く。
 これの出所なんてどうでもいい。皆を取り戻せるのなら――――

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