俺が生まれた時、そこに光は無かった。真っ暗闇。一際の光も入らない、どうしようもない、暗闇だった。
何処で生まれたかなんて知らないし、誰からも教えてもらえない。
それ以前には俺には、父親と呼べる人間も、母親と呼べる人間も存在しなかった。生まれた時から俺は、一人だった。
それ以前には俺には、父親と呼べる人間も、母親と呼べる人間も存在しなかった。生まれた時から俺は、一人だった。
自我に目覚めた事に握ったのは鉛筆でも無きゃ玩具でも無い。ライフル。下品に黒光りして、人を殺す事で真価を発揮する、武器の中の武器だ。
胡散臭いターバンを巻いた大人達が命令する。異教徒を殺せ。殺せば殺す程、お前達は神に召され、明るき未来へと導かれるであろう。
俺は――――いや、俺と同じガキ共は、その大人達に殴られ、罵倒され、尊厳を奪われながらライフルを持ち人を殺した。殺して、殺して、殺しまくった。
胡散臭いターバンを巻いた大人達が命令する。異教徒を殺せ。殺せば殺す程、お前達は神に召され、明るき未来へと導かれるであろう。
俺は――――いや、俺と同じガキ共は、その大人達に殴られ、罵倒され、尊厳を奪われながらライフルを持ち人を殺した。殺して、殺して、殺しまくった。
奴らは俺達を宗教で洗脳してる気なんだろうが、それは全く違う。
宗教なんざ関係無い。俺達は怖かった。大人達に使えないと判断され殺される奴を見る度に、俺達は引き金を引く。
殺されたくない、生きたい。生きたいから、殺す。善も悪もモラルも関係無い。何も知らない俺達は、そうする事でしか生きられなかった。
宗教なんざ関係無い。俺達は怖かった。大人達に使えないと判断され殺される奴を見る度に、俺達は引き金を引く。
殺されたくない、生きたい。生きたいから、殺す。善も悪もモラルも関係無い。何も知らない俺達は、そうする事でしか生きられなかった。
物心が付いてくる――――10歳ちょっとの頃か。俺と一部のガキに、新しい命令が下った。
斬り込み隊長として、ロボットを操り他の奴らの壁となりながら本拠地を破壊しつつ、人を殺せ。要するに人殺しだ、馬鹿馬鹿しい。
俺にはそのロボット――――オートマタの原動力となる、マナという物を上手く扱える才があった。故に俺は常に前線に回された。
前線に回された所でやる事は変わらない。オートマタにマナを送りつつ、後方で指示を待つ奴らに突撃するよう命令するだけ。
俺はその間、何も考えない。ただマナを送るだけの事を考える。
前線に回された所でやる事は変わらない。オートマタにマナを送りつつ、後方で指示を待つ奴らに突撃するよう命令するだけ。
俺はその間、何も考えない。ただマナを送るだけの事を考える。
オートマタの目前で悲鳴や女や子供の泣き叫ぶ声を聞くと、頭がおかしくなるから。いや……もうとっくに頭はおかしくなってるがな。
そうそう、俺には生まれが分からない、つまり過去が無い。同時に、名前も無い。
だから俺は大人達にこう呼ばれた。28番と。俺と同じ様に他のガキ共も、同じ様にそれぞれ番号を振り分けられていた。
兵士であり消耗品である俺達に、名前なんて必要無い様だ。
俺と同じ様にあいつらも皆、最初から親がいなかったり、親に見捨てられたり、親が殺されたり。全員俺と同じく、過去を無くしている。
大人達は俺達に、戦う事を忘れない様にライフルを抱いて寝かせた。冷たく無機質で多くの人間の血で汚れたライフルは、俺にとって唯一、信じられる物だった。
兵士であり消耗品である俺達に、名前なんて必要無い様だ。
俺と同じ様にあいつらも皆、最初から親がいなかったり、親に見捨てられたり、親が殺されたり。全員俺と同じく、過去を無くしている。
大人達は俺達に、戦う事を忘れない様にライフルを抱いて寝かせた。冷たく無機質で多くの人間の血で汚れたライフルは、俺にとって唯一、信じられる物だった。
後々に分かった事だが、俺達を拉致し兵士に仕立て上げた連中は、宗派の過激派の末端だったらしい。要するに最初から宗教なんざ関係無い。
人殺しを育てる為に集められた奴らって事だ。何かあれば真っ先に切り捨てられる。俺も奴らも、その程度の価値しか無いって事だ。
手口は至ってシンプル。俺の様に幼少時から身寄りを無くし、人生が真っ暗闇な子供を誘拐して、折檻と洗脳で兵士を作り上げる。
この現実をモラリストが見たら何て非人道的なんだと喚くんだろうが現実だろ、これが。
人殺しを育てる為に集められた奴らって事だ。何かあれば真っ先に切り捨てられる。俺も奴らも、その程度の価値しか無いって事だ。
手口は至ってシンプル。俺の様に幼少時から身寄りを無くし、人生が真っ暗闇な子供を誘拐して、折檻と洗脳で兵士を作り上げる。
この現実をモラリストが見たら何て非人道的なんだと喚くんだろうが現実だろ、これが。
強い奴が弱い奴を食らう。弱肉強食だ。そして俺はその弱い部類になっちまった、それだけだ。
前線に出されたオートマタは、大概処分される。消耗品が消耗品を扱う。最低なジョークだな。
だが、あの頃の俺にはそれ以外に生きる術を知らなかった。とにかく、マナを充填して、ロボット――――オートマタを酷使し、砂に塗れたパンをかじって寝る。
ボロボロになっても修理される事無く、スクラップにされ業火の中に燃やされるオートマタを見る度、俺は思った。
だが、あの頃の俺にはそれ以外に生きる術を知らなかった。とにかく、マナを充填して、ロボット――――オートマタを酷使し、砂に塗れたパンをかじって寝る。
ボロボロになっても修理される事無く、スクラップにされ業火の中に燃やされるオートマタを見る度、俺は思った。
この世界は狂気で成り立ってる。そして、俺はその狂気の中でも狂わされてる側、だってな。
だから俺は思う。何時か必ず、狂わせる側に、弱肉強食の中での強であり、狂の部類になってやる、と。
だが、当時の俺にはそんな事を考えていても実際何をするべきかが思いつく程頭が回らなかった。だから変わらない。1年経っても、3年経って、5年経っても。
俺はオートマタを使い、またライフルを使い、前に立ち、先導して人を殺し回った。変わった事と言えば、ガキ共を束ねる隊長格となっていた事だけだ。
殺して帰って食って寝る。殺して帰って食って寝る。その狂ったサイクルを何千回と繰り返していく内に、俺は次第にギリギリ保っていた思考が停止していく様になっていた。
俺はオートマタを使い、またライフルを使い、前に立ち、先導して人を殺し回った。変わった事と言えば、ガキ共を束ねる隊長格となっていた事だけだ。
殺して帰って食って寝る。殺して帰って食って寝る。その狂ったサイクルを何千回と繰り返していく内に、俺は次第にギリギリ保っていた思考が停止していく様になっていた。
そんな日、ある命令が下った。
敵対する穏健派の本拠地が見つかった。巨大な本拠地だから、俺含めた兵士全員を出兵させろ、と。
今までちょくちょく、規模の大きなアジトを潰した事はあったが、全員で出るのは初めてだ。
兵士であるガキ共、40人を連れて俺はそのアジトへと向かった。オートマタを使いたかったが、全て修理中という事で貸して貰えなかった。くそったれ。
今までちょくちょく、規模の大きなアジトを潰した事はあったが、全員で出るのは初めてだ。
兵士であるガキ共、40人を連れて俺はそのアジトへと向かった。オートマタを使いたかったが、全て修理中という事で貸して貰えなかった。くそったれ。
やけにジメっとしていて小雨が降る嫌な気候の中、俺達は武器を隠す為の布を深く被り、アジトへと忍び寄る。
石で出来た段差を昇っていくと、穏健派の奴らが潜んでいる大型テントが複数見えた。俺は呼吸を整えながら、布を取りライフルを構える。
石で出来た段差を昇っていくと、穏健派の奴らが潜んでいる大型テントが複数見えた。俺は呼吸を整えながら、布を取りライフルを構える。
何も考えるな。ただ無心に、人を殺せ。何か考えればそれだけで動きが鈍る。
まだ動くなと後方に合図を送りながら、カタツムリの様にゆっくりと動き、最後の一段を昇る。
よし、今だ。一気に俺は立ち上がり後方へと、散らばりつつ各個目標を殺す様に命令し、目の前のテントに向かってライフルを向けながら突っ込んだ。
まだ動くなと後方に合図を送りながら、カタツムリの様にゆっくりと動き、最後の一段を昇る。
よし、今だ。一気に俺は立ち上がり後方へと、散らばりつつ各個目標を殺す様に命令し、目の前のテントに向かってライフルを向けながら突っ込んだ。
引き金を引こうとした、途端、一瞬、俺の思考が鈍った。
そこに俺を待っていたのは、穏健派のボスでも幹部でもなく、ボロ切れみたいな服を着せられて、じっと身を寄せ合っている、二人の女だった。
一瞬で目鼻立ちから俺と同じ年である事を見抜くが――――同時に何だコイツ? と俺の思考は一時的に麻痺した。
一瞬で目鼻立ちから俺と同じ年である事を見抜くが――――同時に何だコイツ? と俺の思考は一時的に麻痺した。
女は二人とも、特徴的な容姿だった。二人とも地面に着く位に長い白髪に、整った目鼻立ち、それに――――琥珀色の、瞳。
その内の一人、大人びた雰囲気の女が、抱いている今にも泣き出しそうな方を庇う様に動くと、俺を睨みつけた。
涙目ながら、絶対に俺から目を逸らさず、俺を睨みながら、女は言った。
その内の一人、大人びた雰囲気の女が、抱いている今にも泣き出しそうな方を庇う様に動くと、俺を睨みつけた。
涙目ながら、絶対に俺から目を逸らさず、俺を睨みながら、女は言った。
「私はどうなっても構わない。貴方が私に何をしようと全て受け止めるわ」
「だけどレインには……この子にだけは手を出さないで。この子には私と違って、未来があるから」
いつもならだ。
いつもなら俺は殺す対象が何を言おうが、問答無用で有無を言わさずに引き金を引いていた。数秒も経たずにそいつは見るも無残な死体になっていた。
だけど、何故だ? 何故俺はコイツらに引き金を引けない? 琥珀色の瞳に見つめられていると、俺の体は金縛りにあっている様に固まってしまう。
いつもなら俺は殺す対象が何を言おうが、問答無用で有無を言わさずに引き金を引いていた。数秒も経たずにそいつは見るも無残な死体になっていた。
だけど、何故だ? 何故俺はコイツらに引き金を引けない? 琥珀色の瞳に見つめられていると、俺の体は金縛りにあっている様に固まってしまう。
「……お前らの」
俺は必死に頭を振り、この金縛りを解く。
「お前らの生死を決めるのは……俺じゃない」
そうだ、俺にはコイツらをどうこうする権利は無い。俺にあるのはコイツらを殺す権利だけだ。だから早く――――おい?
どうした? 引き金を引けよ。この目の前にいる人間を殺せ、簡単だろ?
頭の中で何度も、そういう声が反響しては引き金を引けない俺を責め立てる。殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!
さもなきゃ奴らに、大人共に嬲り殺されるんだぞ。早くしろ、早く早く早く早く早く! 何してんだよ! 死にてえのか!
頭の中で何度も、そういう声が反響しては引き金を引けない俺を責め立てる。殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!
さもなきゃ奴らに、大人共に嬲り殺されるんだぞ。早くしろ、早く早く早く早く早く! 何してんだよ! 死にてえのか!
「隊長!」
その時、俺の思考を打ち切る様な大声が耳元に響いた。振り返ると確か――――3番と呼ばれるガキが、俺に何故か必死な形相で叫んでいた。
「何だ?」
「俺達は嵌められました! 奴」
「俺達は嵌められました! 奴」
次の瞬間、その3番の頭部が弾け飛んだ。脳味噌やらの部分がスプレーみたいに散らばった血と一緒に地面にぶちまけられる。
辺りを血の海にして痙攣している3番の頭部を、拳銃を持った趣味の悪いワイシャツを着た男が、アリを潰す様に踏み付けると心臓の部分に一発。
確認するまでも無く3番は死んだ。頭がクリアになっていくと、周囲でガキ共の怒号や悲鳴、それに被る様にマシンガンの乱射音が聞こえてくる。
辺りを血の海にして痙攣している3番の頭部を、拳銃を持った趣味の悪いワイシャツを着た男が、アリを潰す様に踏み付けると心臓の部分に一発。
確認するまでも無く3番は死んだ。頭がクリアになっていくと、周囲でガキ共の怒号や悲鳴、それに被る様にマシンガンの乱射音が聞こえてくる。
3番を殺した男がこちらを向き、拳銃を構えた。迎撃しようとしたがもう遅い。
鋭く貫かれる痛みと共にライフルを落とした。ボトボトとライフルに、どす黒い血が流れ落ちる。これじゃもう、撃てない。
それでも……と、銃を握ろうとした途端、視界が歪むと共に脳が揺さぶられた。思考が数秒くらい遅れてから、追いつき、理解する。蹴られたんだ。頭を。
鋭く貫かれる痛みと共にライフルを落とした。ボトボトとライフルに、どす黒い血が流れ落ちる。これじゃもう、撃てない。
それでも……と、銃を握ろうとした途端、視界が歪むと共に脳が揺さぶられた。思考が数秒くらい遅れてから、追いつき、理解する。蹴られたんだ。頭を。
男に蹴られたまま、俺は仰向けになって転がった。頭にダメージを負ったせいか、立ち上がれない。
男が近づいてきて、俺の頭を踏みつけ、見下しながら、俺に言う。
男が近づいてきて、俺の頭を踏みつけ、見下しながら、俺に言う。
「お前らのボスはな、お前らを売ったよ」
何……? こいつ……何を、言って……。
「お前ら末端が知らない間に、お前らのボスがウチの宗派のボスと取引したんだよ。穏健派に寝返るってな。平穏に暮らしたいんだと。
で、その誓いとして金積んで、二度と争わないという誓いを立てる代わりとして、末端であるお前らを全員処分する為にここに呼んだって訳だ。ここには俺らと」
で、その誓いとして金積んで、二度と争わないという誓いを立てる代わりとして、末端であるお前らを全員処分する為にここに呼んだって訳だ。ここには俺らと」
男はそう言いながら、あの二人の女が居るテントへと顔を向け、ニヤつきながらまた俺を見下し、言う。
「俺達が偶然殺しちまった商人のガキしかいねえよ。ま、あのガキも碌な目には会わねえだろうがな」
俺達……いや……俺達は……何の為に……。
生きる意味も、意義も見出すことさえも許されず、使われるだけ使われて、使い捨て、されて……。
最後の最後まで……狂気に狂わされたままで……死ぬの、か?
生きる意味も、意義も見出すことさえも許されず、使われるだけ使われて、使い捨て、されて……。
最後の最後まで……狂気に狂わされたままで……死ぬの、か?
「お前に恨みは無いが生まれが悪かったな。まぁ、諦めて死ねよ」
銃口が、俺の顔を覗いている。
普段は他人に何も考えずに向けている銃口が、これほど真っ暗で何も見えないとは思わなかった。
暗い、暗い、穴。そこから出てくる無慈悲な弾丸で、俺は散々人を殺して来たのになんだ、これは。
怖い。死ぬのが怖い。視界が滲んできて、体が異常に寒くなり震えてくる。雨が降ってるからじゃない。心の底から俺は震えている。
殺さないで下さいと声に出そうとしても、頬が腫れてきた上に歯を数本無くした。まともに喋れない。
怖い。死ぬのが怖い。視界が滲んできて、体が異常に寒くなり震えてくる。雨が降ってるからじゃない。心の底から俺は震えている。
殺さないで下さいと声に出そうとしても、頬が腫れてきた上に歯を数本無くした。まともに喋れない。
いやだ。このまま、自分の生まれた理由も分からずに死ぬなんて、俺は……いやだ!
雨が目に入っていたいのに目を閉じられない。このまま殺されるなんて、いや……だ。
銃口しか見えない。助けて、誰か、助けてよ、誰か……。誰か、助けて……ください……。
死にたく……ない……。死にたく、ないよ……。
「例の子供はどこだ?」
誰かの声が聞こえた。女の声でもワイシャツの声でも無い、老人の……声?
老いているがその実、凛としていて芯が通った、老人の声だ。老人で……男、か?
そんな奴……居たか? もしくはコイツらのボスか? 直ぐに殺されないと分かると、徐々に、俺の意識が戻ってくる。
そんな奴……居たか? もしくはコイツらのボスか? 直ぐに殺されないと分かると、徐々に、俺の意識が戻ってくる。
男が俺の頭から足を退けた。だが、動けない。動けないが、聴覚と半分だけだが、視覚が生きてる。
内容までは聞き取れないが、男は老人と何か話している様だ。老人がうむ、と頷いた事だけが、はっきりと聞こえる。
内容までは聞き取れないが、男は老人と何か話している様だ。老人がうむ、と頷いた事だけが、はっきりと聞こえる。
くっ……駄目だ、頭の中が靄が掛かったきた……。
あの老人が何者なのは見当もつかない、が……少なくとも少しだけ……あの老人のお陰で生き延びられてるみたいだ。
痛みを押しながら体を仰向けからうつ伏せにする為に体を回す。体の感覚が冷え切っていて、死んでる。
あの老人が何者なのは見当もつかない、が……少なくとも少しだけ……あの老人のお陰で生き延びられてるみたいだ。
痛みを押しながら体を仰向けからうつ伏せにする為に体を回す。体の感覚が冷え切っていて、死んでる。
ギリギリ死んでない片目は、不思議な事にハッキリと見えた。テントに入った老人が……あ?
……あの、二人の女? 何であいつらが……老人に……?
俺は歯を食いしばってそいつらへと這っていこうとするが、体が全く動かない。遅かれ早かれ……死ぬのか、俺は。
こんな所で、消耗品として死んで溜まるか。俺は……俺は、狂気を……いや……狂気を……。
俺は歯を食いしばってそいつらへと這っていこうとするが、体が全く動かない。遅かれ早かれ……死ぬのか、俺は。
こんな所で、消耗品として死んで溜まるか。俺は……俺は、狂気を……いや……狂気を……。
プチン、と俺の視界はそこで途切れた。
だがまだ、聴覚は完全には死んでない。遠く、誰かが俺を呼んでいる様だ。して、こう言ってる。
だがまだ、聴覚は完全には死んでない。遠く、誰かが俺を呼んでいる様だ。して、こう言ってる。
「助けてあげて」と。
どうせ無駄だから、このまま死なせてくれ。
……どうして、俺を呼ぶ。女。俺は……俺をお前を……。
……どうして、俺を呼ぶ。女。俺は……俺をお前を……。
「おはよう、目、覚めた?」
~……誰かの声。俺は……死、死んでない?
あの時完全に……俺はあの時死んだ筈だ。これは何だ? 死後の世界か?
何も考えないまま、俺は上半身を、起き上がる? 何だ、何処だ、ここは?
あの時完全に……俺はあの時死んだ筈だ。これは何だ? 死後の世界か?
何も考えないまま、俺は上半身を、起き上がる? 何だ、何処だ、ここは?
四方を白い壁に囲まれていて、横にはずらっと白い……ベッドが並んでおり、俺も同じベッドで寝かされている。
鼻を刺激する嫌な匂い。これは……薬品か。ここは病院なのか? にしてはやけに殺風景過ぎる。ベッドだけなんて。
何もかもが訳が分からない。ふと自分の体を見ると、胸元に掛けて包帯が巻かれている事に気づく。
鼻を刺激する嫌な匂い。これは……薬品か。ここは病院なのか? にしてはやけに殺風景過ぎる。ベッドだけなんて。
何もかもが訳が分からない。ふと自分の体を見ると、胸元に掛けて包帯が巻かれている事に気づく。
くそ、訳分からん。動こうとすると一寸、悲鳴を上げたくなるほどの痛みが襲ってきた。歯軋りして、拳を強く握るとその痛みを和らぐ、気がする。
「無理に動いちゃ駄目。まだ傷は治ってないんだから」
傍らでベッドに腰掛けている女が、俺を気遣う様に肩に手を触れる。俺はそれを突っぱねる。
この……と思って、軽く驚く。この女……俺が殺そうとしたあの二人の内の、大人びた方だ。
この……と思って、軽く驚く。この女……俺が殺そうとしたあの二人の内の、大人びた方だ。
「ホントに死んじゃうかと思ってハラハラしたよ……。良かった、生きてて」
「……お前は?」
「……お前は?」
俺は初めて真正面から、この女の顔を見る。
あまり女を知らないものの、世辞ではなく綺麗な女だと思った。と、俺が何より気になったのは、その女の琥珀色の目だった。
何故俺は、この目に魅入られるんだろう。不思議な位、俺はこの女の目に見つめられると、自分が酷く矮小な人間に思えてきて嫌になる。
あまり女を知らないものの、世辞ではなく綺麗な女だと思った。と、俺が何より気になったのは、その女の琥珀色の目だった。
何故俺は、この目に魅入られるんだろう。不思議な位、俺はこの女の目に見つめられると、自分が酷く矮小な人間に思えてきて嫌になる。
「お姉ちゃん……怖いよ、その人」
と、その女の隣で俺から隠れる様に……同じく白髪で琥珀色の目の女がベッドの上に上がると、チラチラと俺を覗いている。
確かこの俺から隠れている女は……レイン、と呼ばれていたな。さしずめ、この女の妹かなんかだろう。
確かこの俺から隠れている女は……レイン、と呼ばれていたな。さしずめ、この女の妹かなんかだろう。
「こら、レイン。そういう事言っちゃ失礼でしょ」
「でも……」
「でも……」
レイン(下の名前が分からん)を女はそう言って嗜めると、俺の方を向いて、話し始める。
「こんな所で自己紹介も変だけど……。私、リシェル・クレサンジュ。見ての通り、女の子」
リシェル……クレサンジュ。思わず女が名乗ったその名を復唱していた。
リシェル、というこの女は何故、俺を助けたのだろう。リシェルは何がおかしいのか、口元に微笑みを作っている。
……何故だか無性に腹が立ってきた俺は、リシェルに乱暴に言い放つ。
リシェル、というこの女は何故、俺を助けたのだろう。リシェルは何がおかしいのか、口元に微笑みを作っている。
……何故だか無性に腹が立ってきた俺は、リシェルに乱暴に言い放つ。
「どうして俺を助けた?」
本音、だった。別に情を掛けて貰おうとは微塵と思わない。俺はあの時、確実に死んでいる筈だった。
何故だ、何故俺をお前は助けた? これ以上生きたって……俺にはもう、何も無いのに。
何故だ、何故俺をお前は助けた? これ以上生きたって……俺にはもう、何も無いのに。
「俺は……お前達を殺そうとしたんだぞ? 如何して殺そうとした人間を助けた?」
率直だった。しかし、そうとしか聞けなかった。
俺はあの時確かに、コイツらに銃を向け、撃とうとした。殺そうとした。
それなのに……。それなのに何で、俺を助けたのか。リシェルは何も答えない。
俺はあの時確かに、コイツらに銃を向け、撃とうとした。殺そうとした。
それなのに……。それなのに何で、俺を助けたのか。リシェルは何も答えない。
「どうしてだ……答えろ」
レインがリシェルの服の裾をギュッと、強く掴んだ。リシェルを睨みつけている俺の事が怖いのだろう。
だが、俺はどうしてもリシェルから聞きだしたかった。あの時、俺は間違いなく死んでても、いや、死んでいた方が良かった。
どうして……なぁ、答えろよ。おい……。
だが、俺はどうしてもリシェルから聞きだしたかった。あの時、俺は間違いなく死んでても、いや、死んでいた方が良かった。
どうして……なぁ、答えろよ。おい……。
「何黙ってんだよ……答えろよ!」
反射的に怒号が、俺の口から飛び出る。レインがビクッとして、震えながら耳を塞ぎ、リシェルに抱きついた。
俺が叫んでも誰も来ず、部屋には俺とリシェルとレインしかいない。気持ちの悪い沈黙が、流れる。
リシェルは俺の怒号など意にも介さない様に、レインの頭を怖くない、怖くないと撫でながら、俺の微笑んで、答える。
俺が叫んでも誰も来ず、部屋には俺とリシェルとレインしかいない。気持ちの悪い沈黙が、流れる。
リシェルは俺の怒号など意にも介さない様に、レインの頭を怖くない、怖くないと撫でながら、俺の微笑んで、答える。
「何故と言われても困るよ。けど、そんなに答えが欲しいなら教えてあげる」
「目の前で死にそうな人がいるから、死んでほしくなかった。ただ、それだけだよ」
「……それだけか? 本当にそれだけで、俺を助けたのか?」
「それだけだよ。……ホントにそれだけだよ?」
「……それだけか? 本当にそれだけで、俺を助けたのか?」
「それだけだよ。……ホントにそれだけだよ?」
そう言ってリシェルは微笑む。本当にそれだけの理由だと、表している様に。
理解できない。自分を殺そうとした男を、どうして助けたんだ。分からない、本当に、分からない。
どうして笑ってられる。今すぐにでもその助けた男に殺されてもおかしくないのに。何だ、この女は。
理解できない。自分を殺そうとした男を、どうして助けたんだ。分からない、本当に、分からない。
どうして笑ってられる。今すぐにでもその助けた男に殺されてもおかしくないのに。何だ、この女は。
「君の質問に答えてあげたから、私の事も聞いてくれる?」
そう言ってリシェルは、レインを膝元に寝かせると、髪を撫でながら、話し始める。
レインはと言えば、俺の方を一切見ずに、じっと目を閉じている。
レインはと言えば、俺の方を一切見ずに、じっと目を閉じている。
「私とレイン……ううん、私の家族はね、壺だとかカーペットだろかそういう物を売ってる、なんて言うんだろう……骨董屋さんを営んでたのね。
けど……思い出したくないんだけど……お店の近くで、テロがあって……お父さんとお母さんが、私達を助ける為に」
「死んだのか?」
けど……思い出したくないんだけど……お店の近くで、テロがあって……お父さんとお母さんが、私達を助ける為に」
「死んだのか?」
俺がそう言うと、リシェルの頬が引き攣る。別に悪気があった訳じゃ無く……いや、悪気だな。俺は思った事を言ってしまっただけだが。
「……うん、死んじゃったの。私達の目の前で、お父さんもお母さんも、お店も全部無くなっちゃった。
それから私達はその場から逃げようとしたけど、その……」
それから私達はその場から逃げようとしたけど、その……」
「その?」
「……その、テロを起こした人の、仲間の人達に連れてかれちゃったのね。多分、私達をテロの目撃者って事で殺したかったんじゃないかな。
私もレインも、殺される事を覚悟してたけど、あの人達は私達を殺さなかった。殺さないけど……逃がしてくれる訳でも無かった」
私もレインも、殺される事を覚悟してたけど、あの人達は私達を殺さなかった。殺さないけど……逃がしてくれる訳でも無かった」
俺は口を挟めず、リシェルの話を聞くしか無かった。
「それから……それから……よく、覚えてないや。けど、レインに手を出さない代わりに……その、ね?
その代わりに……色々、変な事をされた。でも、良いの。レインが……無事なら……って」
その代わりに……色々、変な事をされた。でも、良いの。レインが……無事なら……って」
リシェルが俺が寝ているシーツを握った。その握っている手は若干、震えてる様に見えた。
何をされたのかは聞かなくても想像できるし、聞く気もない。ただ――――ただ、思う。
このリシェルとレインという二人の女は境遇は違えど、俺と同じく全てを無くした様だ。だが、俺と。
何をされたのかは聞かなくても想像できるし、聞く気もない。ただ――――ただ、思う。
このリシェルとレインという二人の女は境遇は違えど、俺と同じく全てを無くした様だ。だが、俺と。
俺とコイツらとでは、決定的な違いがある。
例え悲劇であろうと、コイツらには振り返る事が出来る過去がある。幸福であったと思える過去が。
だが、俺はどうだ。俺には、俺には何も無い。俺には母親の記憶も、父親の記憶も、何より何処で生まれたかの記憶もない。
だが、俺はどうだ。俺には、俺には何も無い。俺には母親の記憶も、父親の記憶も、何より何処で生まれたかの記憶もない。
俺にはこいつらが憎い。何の確固たる物も無い――――消耗品としてしか生きられない俺にとって、確固たる物がある――――過去があるコイツらが羨ましくて仕方が無い。
だが……俺はその憎くて堪らないコイツらに、命を救われてしまった。自らが望んでいないとはいえ、コイツらに命を救われてしまったという事実だけは確かだ。
なら……なら、俺は如何する。助けられたという事実が、俺を弱者にする。コイツらがいなければ、俺は今頃死んでいた。
ならば俺は……。
なら……なら、俺は如何する。助けられたという事実が、俺を弱者にする。コイツらがいなければ、俺は今頃死んでいた。
ならば俺は……。
……くそっ。良いだろう、ならばお前らの命、次は俺が救ってやる。それでこの借りは返す。
その借りを返したら、徹底的に利用してやる。俺が強者に――――いや、狂者になる為に。
その借りを返したら、徹底的に利用してやる。俺が強者に――――いや、狂者になる為に。
「でねでね、何時までこんな生活続くのかなって思ってたら……レファロ・グレイってスーツを着たおじさんが来たの。
そのレファロさんが私達を必要だって言ってくれて……それでその……」
そのレファロさんが私達を必要だって言ってくれて……それでその……」
「その日、取引の日が来た、のか」
俺がそう聞くと、リシェルはこくん、と頷いた。
「それで……私達を引き渡す日に」
「俺……いや、俺達が、お前達が監禁されていたアジトを奇襲した」
「俺……いや、俺達が、お前達が監禁されていたアジトを奇襲した」
リシェルは俺の言葉にキョトンとしていると、あ、あぁ、そうだねと他人事みたいな、惚けた声を出した。
この女、本当に何なんだ? 今こうして境遇を語っている時と、俺がなぜ生かしたと問いた時の雰囲気がまるで違う。
底が知れない奇妙な女だ。だが……。これだけは、聞いておこう。
この女、本当に何なんだ? 今こうして境遇を語っている時と、俺がなぜ生かしたと問いた時の雰囲気がまるで違う。
底が知れない奇妙な女だ。だが……。これだけは、聞いておこう。
「一つ聞く、リシェル・クレサンジュ」
「……もし、俺がお前を殺すと言ったらどうする」
すると、リシェルの表情が次第に、冷たくなっていく。冷たくという表現が適切かは分からないが、琥珀色の目から次第に、光が消えていく。
そしてリシェルは、言った。ただ、口元だけは微笑んだまま。
「レインに危険が及ばないなら、私はどうなっても構わない。けどね」
「もしレインに何かあったら、私はどんな人でも殺すよ。私と同じ年の子でも、下の子でも」
「起きたのか」
気付けば誰かが部屋に入ってきた。白い……スーツ? らしき服装を着た、目つきの鋭い老人だ。
かなり年を取っている様だが、その目や表情からは野心とか野望みたいなのを感じる。実年齢よりずっと若い、そんな何かを。
老人は俺達の方へと歩いていき、ベッドの近くで足を止めると、リシェルへと声を掛けた。
かなり年を取っている様だが、その目や表情からは野心とか野望みたいなのを感じる。実年齢よりずっと若い、そんな何かを。
老人は俺達の方へと歩いていき、ベッドの近くで足を止めると、リシェルへと声を掛けた。
「被験者はお前達を除いて全員集合した。それでその男の体調はどうだ?」
老人がそう聞くと、リシェルが俺の方を向いた。
どうやらリシェルは俺自身にこの老人……いや、レファロ、か? 記憶を呼び起こしていくと、この声は確かにあの老人だ。
記憶力に自信がある訳ではないが、俺はその記憶が確かな物だと確信している。
どうやらリシェルは俺自身にこの老人……いや、レファロ、か? 記憶を呼び起こしていくと、この声は確かにあの老人だ。
記憶力に自信がある訳ではないが、俺はその記憶が確かな物だと確信している。
「どうした?」
「……取りあえず動ける」
そう答えるとレファロは俺の顔も見ずに踵を返すと背中を向けたまま、言った。
「リシェル・クレサンジュ、レイン・クレサンジュ。第一回目の訓練を行う。早く着替えて集合しろ」
と、レファロが首だけを俺に向けて、言う。
「お前、名は?」
名前? 俺にはそんな物はない。ましてや記憶もない。だが……数字だけは、ある。
「2……」
「28……番」
『ノイル・エスクード』
その名を呼ばれて、ノイルはゆっくりと閉じていた目を開いた。
どうやら、少しばかり、眠ってしまっていた様だ。ついでに、思い出したくも無い、「過去」を、思い出してしまった。
目の前ではライトアップされた、狼を象った彫刻が、ノイルを見下ろしている。常にいる他の4体の動物の彫刻は居ない。
どうやら、少しばかり、眠ってしまっていた様だ。ついでに、思い出したくも無い、「過去」を、思い出してしまった。
目の前ではライトアップされた、狼を象った彫刻が、ノイルを見下ろしている。常にいる他の4体の動物の彫刻は居ない。
『どうやら疲労が溜まっている様だな。やはりレファロ・グレイの監視はは苦労するのか』
「申し訳ありません、ウルフォン様。気が緩んでおりました」
ノイルはそう言って、目の前の狼の彫刻――――の先にいるであろう人物へと、深く頭を下げた。
『アンサラ―とライオネル・オルバ―の取引は成功した様だな』
「はい。どちらも円満とはいきませんが、大方交渉が成立しております。ウルフォン様の予定通りに、事は進んでおります」
『多少の誤差は構わん。今のまま計画が軌道に乗れば何の問題もあるまい』
「して、4人の処分は何時、行いますか」
ノイルがそう聞くと、ウルフォンは数分程沈黙し、再び話し始める。
『アンサラ―……否、生贄共が奴の基地に乗り込んだ時点で構わん。まぁ、象なら近々心臓発作で逝く、予定だ』
「分かりました。では、このまま計画を続行するという事で宜しいですね?」
『期待しているぞ、ノイル・エスクード。レギアス、否、全ての軍事力を手に入れるのは』
「分かりました。では、このまま計画を続行するという事で宜しいですね?」
『期待しているぞ、ノイル・エスクード。レギアス、否、全ての軍事力を手に入れるのは』
『私だ』
ノイルは深く一礼し、その場を後にする。
レファロ・グレイを欺き、アンサラ―を欺き、ライオネルを欺き、この男の本当の目的は何なのか、未だに分からない。
スーツの胸元に入っていた煙草を取り出し、火を付ける。
ビューティフル・ワールド
the gun with the knight and the rabbit
一服し、ノイルは――――呟く。
「さて――――」
18・5話 暗闇
煙草を口元から離し、マナを使い一瞬で蒸発させ、ノイルは再び、呟く。
「どいつが最初に狂わされるかな」
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