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『プロトファスマ&アノフェレス開発秘話』

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ParaBellum

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 『プロトファスマ&アノフェレス開発秘話』




 「やぁやぁお久しぶりではないですか教授。お元気であれば光栄、そうでなければ修理にやってまいりました」
 「生憎だが、必要ないよ」
 「でしょうね、貴方のは一般のとは違いますからのう」
 「そうだな、とりあえず帰れ。テスター突っ込まれたことを忘れちゃあいないのだぞ」
 「まだお茶を頂いておりませんゆえ」
 「水道水でも飲んでろ」
 「で、ミネラルウォーターはどこです?」

 センジュは頭を痛めていた。

 「技術の進歩は凄まじいですな。何しろ星を開拓した次は宇宙を開拓せんと突き進もうとするのですから、我々科学屋としては胸高鳴る時代とは思いませんか。私は是が非でも人類の発展を後押ししたいのですよ」
 「ああそうかい」
 「教授はいつも冷たくおられますなぁ。いやはやクール冷静取り乱さない。この三本の柱が合わさって起立している。クールは落ちついていること、冷静も落ちついていること、取り乱さないも落ちついていること、そして落ちついていることは落ちついていること………おや、全部一緒ではありませんかアッハッハ」
 「へぇそうかい」
 「そうそう、わたくし、つい最近に競技化されたロボット対ロボットの戦いに興味を持ち始めた次第でありまして、趣味と実益を兼ねると言いますか、設計を嗜んでいるわけなのですね。学生時代の経験と勉学がこのたび実を結びまして、こまけぇことをすっ飛ばすとロボットの戦い“メタルナイツ”の外殻機を設計してみたので、いっそセンジュ教授にチームを率いて欲しいなぁ~、センジュさんならきっとやってくれるに違いなきと思いましてね、いかがでしょうか? 嫌ならOKと首を縦に振って頂けると私、尻尾も振りますわ」
 「だが、私は断る」
 「そこをなんとかなりませんか、これって無駄知識になりませんか?」
 「ならん」

 自分の研究室に押しかけて来たその女の口が滑車が如くからから廻る様を、腕を組み、高級な豆を使っているはずなのに美味しくないコーヒーを啜り、眺める。
 センジュ=キサラギ教授は一見幼い子供のようにおもえるが、その実年齢40を越える女性であり、教職、学問に関わって暫くになる。
 教え子の中には勉学を投げ出してやっぱ働く方がいいという者や、独立したものも数多くいた。眼の前で口を動かして文字列を並べたてる女性もその中の一人であった。
 彼女の名前はマキナ。
 機械工学を専攻し、とある研究機関で才能を開花させてAIに関する論文で一躍有名となった。現行のAIでは最もヒトに近いと名高い『TYPE-T』を開発したのも彼女である。
 更に多芸なことにAIを搭載するロボットの設計開発も独自に行っていて、パワードスーツも作っているらしい。また、現在はとあるアンドロイド社に勤めているとか。
 センジュは目を細め、いかにしてこの教え子を追い出せばいいのかを考えた。マキナの口上を聞いて分かるだろうが、変わり物でお喋りなため並大抵なことでは追い払えない。
 椅子に深く腰掛け脚を組む。

 「マキナ、私はごちゃごちゃしているのが嫌いでね。さっと纏めてもらおうか」
 「単刀直入に言いますとですね、メタルナイツのチームを組んでみないかといいたいのです」
 「なんだって?」
 「最近この競技に興味が出てきた次第でありましてね、じつはちょっと設計やってみました」
 「押し付けるつもりか」
 「そげぇなことはせんですーうえさまー」
 「なぜ訛るんだ」

 新作のインスタントラーメン作ってみた並みに軽い口調でマキナはそういうと、おもむろにポケットからメモリーカードを取り出して人差し指と中指に挟み傾けるように手渡そうとしてくる。
 正直な話、メモリーカードを受け取って追い払いたい気持ちもあったが、競技に多少なりとも関心があったので受け取っておく。
 センジュはメモリーカードをデスクトップ型のパソコンに差し込み、設計図を空間投影式のモニターに呼び出す。
 〝Anopheles〟というファイルと、〝Protophasma〟が並んで展開。読み込みを示す数字が表示されると共に設計図が浮かび上がり、数字の消失と同時に内容が明らかとなる。
 全高5m。二本脚の機体と、六本脚の機体。緑黒の暗き画面に、青色線で二機が描かれている。半m刻みの横線や、大きさその他を示す数字や記号が綺麗に並べられ、マキナの性格とはまるで正反対だが、ことこう言うことに関して彼女は細かいのだ。
 センジュは設計図を冷めた目でざっと見、一点で紫色の人工虹彩を静止した。
 肩をわなわなと揺らして指を指し、すぐ隣で中腰で画面を覗きこんでいるマキナのほうを振り返る。
 センジュが指さした場所は設計図そのものではなく、外殻機のすぐ隣にいる人物だった。

 「一つ、いいか?」
 「一つと言わず億程の質問と疑問を大募集中でございます。宛先はこちらに」
 「なぜ私が居るんだ! しかも服を脱がせるなど!」

 まさか自分の全裸画像をお目にかかるとは思ってもみなかったセンジュは顔を羞恥で染め、マキナの肩を両手でがっちりホールド、脳味噌ミックス攻撃を仕掛けた。
 マキナのウヘヘヘヘヘという気味の悪い笑い声が、揺さぶっているので前後に触れながら室内に響く。

 「わたく~しのぉー! ぎじゅつうおん! 使えば~全裸教授を妄~想でぇー! 描くなんてぇん! 容易いことですからーぁああん~~! 元イラスト部は伊達じゃねぇー!」
 「このっ! このっ! しかもこれ手描きだな! そうなんだな! どこで習得した! ええコラ、吐いてしまえ!」
 「ウッヘヘヘヘヘヘヘだから自前の技術力だってばウヒョヒョヒョ」
 「とっとと消せ! 消さんか!」

 ―――……なんてことがあり。
 センジュのミネラルウォーターの備蓄をまんまとせしめたマキナは、椅子に座って設計図について語る。

 「なにもワタシだって意味も無く設計したわけがあるわけないじゃないですかー。ええつまりこれは次世代型の作業用機技術のプロトタイプの意味合いを含ませたもので。それには教授も一口どころか大口で噛んでるわけですよ?」
 「どういうことだ?」
 「せっかく技術実証の為の試作機を作るのなら、試合で活躍させたデータを元にしてみる方が、楽しいしより利になる……そうは思いませんぜ? 外殻機ってぶっちゃけ計画の機体そのもの。データ収集にはこれほど有用なことはないと思いますん」
 「なるほど。アレを積むペルセウスは外殻機とそう大差ないな」
 「その通り。ということで、コレ書類ですね、ええ、そりゃあもうサインするだけで申請が通るようにきっちりしておきましたとも」
 「気持ちが悪いほど手際がいい。全く、何がどうしたらお前と言うやつは」
 「有能なのですよ、わたくしはね。それに最初に言ったはずですよう、宇宙への道を――――とね。そうそう、我が一族は代々船乗りなわけはご存じでございましょ? 貢献せよとは家訓でもありますわけでねぇこりゃまた笑えてきます」

 マキナは快活に笑うと、おもむろに設計図を操作した。
 すると、消えていたセンジュの裸体が再登場するやセクシーポーズを取ったのだった。なぜか胸が200%増量の巨乳だった。

 「このアホンダラアアアアアアアア!!」
 「フハハハハハ! 我がCG技術は世界一ィィイイイイィィ!!」

 少々。

 「私がこれを設計した経緯をお話しましょうね」
 「おい、話すこと前提か」
 「といいつつ聞いてしまうんだから、可愛くて惚れてしまいますやめてよねもー惚れてまうやろーこの野郎」
 「………」
 「メタルナイツ競技において重要なことを考えてみたところ重大なる事実を発見いたしましたの。その為に無料公開されている動画を見ましたわけ。すると強いチームはとにかく、役割を担わせた方が強いということに気がついた次第なのよう、そんでもってワタクシめは―――アノフェレス、蚊と―――プロトファスマ―――なんだっけ―――という軽量近接機と重量射撃機を設計したわけなんですよねん。一番キツかったのは蚊であるのは承知でしょう? 低装甲高出力設計を突き詰めてカーボン素材を多用してみたりネェー」
 「しかし、これでラジエーターやクーラーを積めないではないか」
 「そこは、もう、全裸になればいいと思うよ」
 「酷いやつだ」
 「ちなみにワタスィーの健康法は全裸健康法です」
 「知らん」
 「アノフェちゃんの方は姿勢制御プログラムの情報収集、プロトちゃんの方はマニュピレーターの自動制御プログラムの情報収集を勝手に行うようにしておきますた。試合をすればするほど研究に繋がるというね。ペルセウスには必要でしょう? その情報はいちおーわたしがわにも送られ、より実用的なアンドロイド設計に役立てて一石二鳥……クックック」
 「賢い奴め。だがその顔は完全に悪役だな」
 「でしょうなぁ……なにせ将来のユメは世界征服でした故に。今でもその夢を忘れたことはないですけど、めんどうなんで」
 「………私はお前の頭の中を見てみたいよ」
 「脳味噌しかねぇです」
 「そうかい」

 というのが二機誕生までのあらましだが、チームの三人は微塵も知らないのであった。


          【終】


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