男が遠くへ走り去ったのを見届けると、女は弓矢を納めた。
 女は未だ呆然とした様子の少女の側に駆け寄る。

―今すぐ大事に至るような怪我はないようだ。それだけ確認すると―
「ケアル!」
 アグリアスは少女に問い掛けた。
「何故貴公は、あのような行動を取った?」


「状況は予想していた以上に深刻なようですね。
 こんな環境下に置かれて、皆さん酷く混乱しているみたいです。
 愛と救いの手が差し伸べられるのを今か今かと待ち望んでいる筈なのに、
 私の声が届かなかった。これこそ混乱の証拠!間違いありません。
 あの人もきっと混乱して頭が変になってたんです。だってあの人、プリニーさんには見えなかったですもの。
 今すぐにでもあの人に―いえ皆さんに、神の愛を思い出させてあげます!」

―どうやらこの天使フロンと名乗る少女は、この事態を理解できていないらしい。
 情報交換とは名ばかりの、少女の一方的な話を聞きながら、アグリアスはそう感じていた。
―放っておけば、いつ騙されて殺されるやもわからぬ少女を、このまま一人にはしておけん。私が守らねば。
 そんな使命感を覚えながら、
 アグリアスは少女の身体にケアルで治療しきれなかった怪我が残っている事を思い出した。
 大した怪我は残っていないが、それでも手当てしておいた方がいいだろう。
 支給されたバッグの中に、治療に使えるような物がないか、
 バッグから取り出した道具を一つずつ地面の上に置いて確認していく。
 アグリアスはこの島に飛ばされてからすぐに、少女の声が聞こえる場所を目指して移動していた。
 武器は確認していたが、それ以外の支給品は未確認だったのだ。


 フロンが話を終え、周囲に注意を戻すと、そこでは女がバッグの中をあさっていた。
 女のバッグから取り出され、地面に置かれた支給品。
 その中の一つ、紫色をした石が、少女の目に留まる。
「なんてきれいな宝石でしょう…」
 フロンはそれを手に取り眺め、石の中をのぞきこむ。
 少女が手を触れた瞬間、ちか、と、石が輝いたような気がした。
「まあ、素晴らしいですわ!宝石の中に、ここじゃない場所が見えます!
 この神々しい色合いの宝石も、神様が私達に授けて下さった救いのアイテムなのですね!
 アグリアスさん!これはなんて名前のアイテムなんでしょう!?」

 やや興奮気味の様子で、石を様々な角度に傾けながら覗き込んでいる少女に、
 アグリアスはバッグを探る手を止め、石の説明文らしいメモを読みながら応じる。
「ああ、メモによるとその石は、ダークレギオンの…」


 突然、辺り一帯が夜のような闇に包まれる。
 同時に、鳥類が群れを成して移動しているような、ばさばさという羽音が聞こえた。

「何事だ!?」
 魔物の群れかもしれない、と、弓矢を構えてアグリアスは頭上を見上げる。
 しかしそこには雲一つない青空が広がるだけであった。鳥も一羽として飛んでいない。
 視線を戻すと、嘘の様に闇は消え、羽音も聞こえなくなっている。
 あれはなんだったのだろうかと疑問に思いながらも、少女に目を向けると―

 少女が変質していた。
 様子や雰囲気だけではない。外見まで変化しているのである。
 先程見上げた空のように青く澄み切った瞳は、血のような赤に染まり、
 天使が持つに相応しい鳥のような白い翼は、蝙蝠のそれのような黒い翼に変わっていた。

 アグリアスもフロンも知らなかったが、これは召喚術の暴発と呼ばれる現象であった。
 誓約済みのサモナイト石は、素質だけあれば誰が持っても召喚の扉を開く。
 特別な知識も呪文も必要としない。
 故に持ち主が意図しない所で召喚する可能性もある、危険な代物であった。
 そして偶然にも、魔力が高く霊界に似た世界に縁のあるフロンには、
 霊界の召喚術―それも高位の素質があった。
 召喚術は本来、誓約の力で召喚獣を使役するものなのだが、
 うっかり扉を開いてしまったフロンにそんな事は知るよしもなく。
 ちなみにフロンが呼び出したのは霊界サプレスの大型悪魔である。
 喩えるならそれは、リードも付けていなければ躾けもされていない、
 やんちゃで暴れん坊な大型犬を散歩に連れ出すようなもので。
 そんな犬が見つけたエサに興味を示さぬ筈がなく。


 突然の変化に困惑するアグリアスの腕を、フロンの小さな手が捕まえた。
 信じられないような怪力でつかまれ、なかなか腕を振り解けない。
「…さっきから、喉が渇いて仕方がないんです…
 貴女の血…私にくれませんか?」


【F-4/森/一日目・朝】
【フロン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:憑依状態 攻撃力up 後頭部から軽い出血 顔面、腹部、胸部に打撲
[装備]:ダークレギオンのサモナイト石@サモンナイト3
[道具]: なし
[思考]1:血を吸いたい
   2:魔力も吸いたい
[備考]:自分にボディジャック(憑依・攻撃力上昇)を使ってしまった状態。
     憑依は時間経過かお祓いで解除できる。

【アグリアス@ファイナルファンタジータクティクス】
[状態]:健康 MPを消耗
[装備]:クレシェンテ@タクティクスオウガ
[道具]:なし
[思考]1:現状の把握と対処
   2:ラムザたちと合流したい
   3:襲われやむを得ない場合は、自衛による殺人もありうる

[備考]:エクスカリバー@紋章の謎、マイク型ハンディカラオケ(スピーカー付き)
     二人分の道具は二人の足元に置かれています。

042 誤解絡む情報交換 投下順 044 公開密談
028 死を恐れぬ者 時系列順 021 危険はいつも、すぐそばに
007 Vice(不道徳者) フロン 051 女の戦い
007 Vice(不道徳者) アグリアス 051 女の戦い
最終更新:2009年04月17日 09:39